2021/11/04 内部通報制度を機能させるための「範囲外共有」防止策(会員限定)

2021年10月25日のニュース「内部公益通報指針の解説が公表、既存制度は早目にアップデートを」でお伝えしたとおり、来年(2022年)6月1日からの改正公益通報者保護法の施行までに、企業は自社の内部通報制度を同法が求めるレベルの内容にアップデートする必要があるが、アップデート後の内部通報制度で従来以上に求められるのが「通報者を守る」ということだ。

通報者を守るためには、公益通報対応業務を行う「従事者」でない者に公益通報の内容が漏れること(これを「範囲外共有」という)を防ぐ必要がある。従事者自身が情報漏洩を行えば(正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らせば)刑事罰(改正公益通報者保護法12条の守秘義務違反として同法21条に基づき30万円以下の罰金)を科されるため、これが一定の抑止力として働くが、改正公益通報者保護法上、従事者以外の者による通報者の特定につながる情報の範囲外共有には罰則があるわけではない。自分が公益通報したことが「範囲外共有」、すなわち従事者以外の者に知られる懸念があるとなれば、誰しも公益通報を行うことを躊躇するため、内部通報制度そのものが機能しなくなりかねない。その意味で、範囲外共有の防止こそが、内部通報制度を支える重要な“柱”と言えるだろう。

従事者 : 内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者(改正公益通報者保護法11条1項)

ただ、ここで問題となるのが、そもそも「範囲外共有」における「範囲」とは何を指すのかという点だ。この点は、改正公益通報者保護法はもちろん、企業にとって改正法対応の拠り所となる「指針」や、指針を実務に展開するための解説(以下、指針の解説)にも定義がなく、さらには指針のベースとなった「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会 報告書」にも「必要最小限の範囲」という記載があるのみとなっている。通報案件の公益通報対応業務従事者が「範囲内」であることは明らかだが、例えば「公益通報対応業務を担う部署の同僚など、公益通報者保護法の従事者ではあるものの当該案件にはかかわっていない者」「調査協力者」「報告を受ける取締役会、監査役会のメンバー、陪席者」「懲戒委員会のメンバー」が「範囲内」となるかどうかは、各社の判断に委ねられることになる。

また、指針の解説には「範囲を明確に確認する」とあることから、案件ごとに範囲を確定し、公益通報者には「当該範囲内で情報が共有されること」を承諾してもらう必要がある。「公益通報者を特定させる事項(通報者の氏名、所属、性別など)」と「通報の内容(例えば法令違反の事実の指摘)」では共有できる程度も変わってくるはず(すなわち、「公益通報者を特定させる事項」はより限定的にすべき)であり、それぞれについて範囲を検討しなければならない。

上記のとおり、改正公益通報者保護法上、従事者以外の者による範囲外共有には罰則がないため、範囲外共有の防止策も各社で十分に実施する必要がある。指針の解説には、「懲戒処分」を含め、範囲外共有の具体的な防止策が例示されているのでされているので参考にしたいところだ(指針の解説の15ページ参照)。

範囲外共有を防ぐための措置
指針 事業者の労働者及び役員等が範囲外共有を行うことを防ぐための措置をとり、範囲外共有が行われた場合には、適切な救済・回復の措置をとる。
指針の解説 ・通報事案に係る記録・資料を閲覧・共有することが可能な者を必要最小限に限定し、その範囲を明確に確認する
・通報事案に係る記録・資料は施錠管理する
・内部公益通報受付窓口を経由した内部公益通報の受付方法としては、電話、FAX、電子メール、ウェブサイト等、様々な手段が考えられるが、内部公益通報を受け付ける際には、専用の電話番号や専用メールアドレスを設ける、勤務時間外に個室や事業所外で面談する
・公益通報に関する記録の保管方法やアクセス権限等を規程において明確にする
・公益通報者を特定させる事項の秘匿性に関する社内教育を実施する
・公益通報に係る情報を電磁的に管理している場合には、公益通報者を特定させる事項を保持するため、例えば、以下のような情報セキュリティ上の対策等を講ずる。
└当該情報を閲覧することが可能な者を必要最小限に限定する
└操作・閲覧履歴を記録する
・内部公益通報受付窓口の担当者以外の者(いわゆる上司等)も内部公益通報を受けることがある。これら内部公益通報受付窓口の担当者以外の者については、従事者として指定されていないことも想定されるが、その場合であっても、事業者において整備・対応が求められる範囲外共有等を防止する体制の対象とはなるものであり、当該体制も含めて全体として範囲外共有を防止していくことが必要である。
懲戒処分その他適切な措置
指針 範囲外共有や通報者の探索が行われた場合に、当該行為を行った労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる。
指針の解説 懲戒処分その他適切な措置を行う際には、範囲外共有が行われた事実の有無については慎重に確認し、範囲外共有を実際に行っていない者に対して誤って懲戒処分その他の措置を行うことのないよう留意する必要がある。

また、公益通報が行われた場合には、通報者を探索しようとする者が出てくることも予想される。そこで指針の解説では、通報者の探索を防ぐための措置として、範囲外共有同様、自社独自の「懲戒処分」を設けることを推奨している(指針の解説の15ページ参照)。

通報者の探索を行うことを防ぐための措置
指針 事業者の労働者及び役員等が、公益通報者を特定した上でなければ必要性の高い調査が実施できないなどのやむを得ない場合を除いて、通報者の探索を行うことを防ぐための措置をとる。
指針の解説 通報者の探索を行うことを防ぐための措置として、例えば、通報者の探索は行ってはならない行為であって懲戒処分その他の措置の対象となることを定め、その旨を教育・周知すること等が考えられる。

リスクマネジメント(コンプライアンス)委員会や取締役会といった会議体に通報内容を共有する場合は、当該会議体のメンバー全員を公益通報対応業務従事者に指定して全員に守秘義務を課すか(情報共有後、万が一メンバーの誰かが漏洩させてしまった場合には、その者は改正公益通報者保護法12条の守秘義務違反として同法21条に基づき30万円以下の罰金に処せられる可能性がある)、あるいは、公益通報者を特定させない程度の情報のみ共有にとどめるようにしなければ範囲外共有となってしまい、情報を共有(漏洩)させた従事者は同じく30万円以下の罰金に処せられる可能性がある点、留意したい。

2021/11/02 監査の品質確保に向け強まるプレッシャー、上場会社への影響は?

近年、監査法人を大手から中小に変更する上場会社が少なくない。その背景の一つには、監査報酬の値上げがある。・・・

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2021/11/02 監査の品質確保に向け強まるプレッシャー、上場会社への影響は?(会員限定)

近年、監査法人を大手から中小に変更する上場会社が少なくない。その背景の一つには、監査報酬の値上げがある。

実態としては、意図的に監査報酬を引き上げることで、会社を監査契約の解除に誘導しているケースも存在している。

監査人異動後の監査報酬の状況(令和2年6月期における異動)
出典:公認会計士・監査審査会「令和3年版 モニタリングレポート 主なポイント」6ページ
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中小監査法人による上場会社監査の増加を受け、金融庁が懸念を抱いているのが監査の「質」だ。現状、上場会社を監査する監査法人が十分な能力・体制を有していることを担保する仕組みとして「上場会社監査事務所登録制度」がある。これは日本公認会計士協会が「品質管理レビュー」を行った上で上場会社監査事務所名簿への登録を認める制度であり、2021年3月末現在で127事務所が登録している(このほか、準登録(=登録審査中)の事務所が13事務所)。ただ、この上場会社監査事務所登録制度は、東証の求めに応じて日本公認会計士協会が自主規制として運営しているものであり、法的な強制力はなく、登録のハードルもそれほど高くない。

そこで金融庁は、同制度を「公認会計士法」に組み込み、法律に基づく制度とする方向であることが当フォーラムの取材により判明した。改正法案は、来年1月から開会する通常国会に提出される見込み。近いうちに、金融庁が設置した「会計監査の在り方に関する懇談会」から改正案のベースとなる報告書が公表される模様だ。

また、改正公認会計士法では、金融庁によるモニタリング機能も強化する。現状、金融庁は公認会計士法に基づき設置されている公認会計士・監査審査会を通じ、監査法人の「業務運営の状況の検証」を行っているが、今後は「虚偽証明に係る監査手続」についても検証を行えるようにする。これは、金融庁が個別の問題事案を扱えるようになることを意味している。

さらに、上場会社を監査する全ての監査法人に対し、監査法人のガバナンスやマネジメントを強化することを目的として「監査法人としてあるべき組織的運営の原則」を定めた監査法人のガバナンス・コード(以下、コード)の受け入れを求める方向だ。現在、コードは大手および準大手の監査法人しか受け入れていないが、その理由として、現行のコードの内容は中小監査法人には順守のハードルが高いということがある。そこで、コードの内容を中小監査法人でも受け入れられるものに改訂することも検討される。

これらの措置により、監査の品質に対する中小監査法人へのプレッシャーは大幅に高まることになろう。監査の品質が低いと判断されれば上場会社監査事務所から外されたり、改訂後のコードを受け入れられなければ上場会社の監査から“退場”させられたりする事態も想定される。そうなれば、こうした監査法人に依存していた上場会社は監査報告書を得ることができなくなり、上場が維持できなくなることも考えられる。自社の監査法人の監査の品質が高くないと感じている上場会社は要注意だ。

2021/11/01 デュアルレポーティングを実施していない会社が補充原則4-13③のコンプライに向け検討すべきポイント

東証の新市場区分の選択申請に伴う改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)に対応したコーポレートガバナンス報告書(以下、CG報告書)の提出期限が(2021年)12月末に迫っている。改訂原則の中で各社が頭を悩ませているものの一つが、いわゆる「デュアルレポーティング」を内部監査に求める補充原則4-13③だ(赤字下線部分が今回改訂された内容)。

4-13③  上場会社は、取締役会及び監査役会の機能発揮に向け、内部監査部門がこれらに対しても適切に直接報告を行う仕組みを構築すること等により、内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保すべきである。また、上場会社は、例えば、社外取締役・社外監査役の指示を受けて会社の情報を適確に提供できるよう社内との連絡・調整にあたる者の選任など、社外取締役や社外監査役に必要な情報を適確に提供するための工夫を行うべきである。

デュアルレポーティングの定義については、フォローアップ会議の議事録において「内部監査のレポート先は、執行のトップだけでなく、監査委員会、監査等委員会、あるいは取締役会にも向けられていること」と説明されている(2021年3月9日開催の第25回フォローアップ会議の議事録の真ん中より少し上の「佃メンバー」の発言)。

日本内部監査協会の内部監査基準(2014年改訂)は「内部監査部門長は、内部監査の結果を、最高経営者、取締役会、監査役(会)または監査委員会、および指摘事項等に関し適切な措置を講じ得るその他の者に報告しなければならない」(9ページ 8.1.1参照)と、デュアルレポーティングの実施を明確に求めている。このようにデュアルレポーティングの概念は決して目新しいものではないことから、補充原則4-13③は基本的に「コンプライして当然」と受け止められかねない。

しかし、日本内部監査協会の調査結果によると、・・・

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2021/11/01 デュアルレポーティングを実施していない会社が補充原則4-13③のコンプライに向け検討すべきポイント(会員限定)

東証の新市場区分の選択申請に伴う改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)に対応したコーポレートガバナンス報告書(以下、CG報告書)の提出期限が(2021年)12月末に迫っている。改訂原則の中で各社が頭を悩ませているものの一つが、いわゆる「デュアルレポーティング」を内部監査に求める補充原則4-13③だ(赤字下線部分が今回改訂された内容)。

4-13③  上場会社は、取締役会及び監査役会の機能発揮に向け、内部監査部門がこれらに対しても適切に直接報告を行う仕組みを構築すること等により、内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保すべきである。また、上場会社は、例えば、社外取締役・社外監査役の指示を受けて会社の情報を適確に提供できるよう社内との連絡・調整にあたる者の選任など、社外取締役や社外監査役に必要な情報を適確に提供するための工夫を行うべきである。

デュアルレポーティングの定義については、フォローアップ会議の議事録において「内部監査のレポート先は、執行のトップだけでなく、監査委員会、監査等委員会、あるいは取締役会にも向けられていること」と説明されている(2021年3月9日開催の第25回フォローアップ会議の議事録の真ん中より少し上の「佃メンバー」の発言)。

日本内部監査協会の内部監査基準(2014年改訂)は「内部監査部門長は、内部監査の結果を、最高経営者、取締役会、監査役(会)または監査委員会、および指摘事項等に関し適切な措置を講じ得るその他の者に報告しなければならない」(9ページ 8.1.1参照)と、デュアルレポーティングの実施を明確に求めている。このようにデュアルレポーティングの概念は決して目新しいものではないことから、補充原則4-13③は基本的に「コンプライして当然」と受け止められかねない。

しかし、日本内部監査協会の調査結果によると、回答があった817社のうち427社が「社長以外を宛先としていない」としている。すなわち過半数の会社においてデュアルレポーティングが確立していないということになる(フォローアップ会議資料「監査の信頼性の確保/内部統制・リスクマネジメントについて」10ページ参照)。こうした実態の中、現在多くの上場会社が、補充原則4-13③をコンプライあるいはエクスプレインするかを判断する前提として、いかにデュアルレポーティングの実務上の仕組みや取り組みを構築すべきか頭を悩ませている。

もっとも、補充原則4-13③はあくまで「内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保すべき」としており、そのための方策として「内部監査部門がこれら(取締役会及び監査役会)に対しても適切に直接報告を行う仕組みを構築すること」を例示するにとどまる。東証は改訂CGコードに対するパブリックコメントへの回答の中で、「直接報告を行う仕組み」の他にコンプライに該当し得る取り組みとして下記を挙げている。

●内部監査部門長の人事の決定プロセスに、監査役等が適切に関与し得る機会を確保すること(468に対する東証の回答の下から二番目の※)
●取締役会・監査役会が内部監査部門に助言・承認する仕組みの構築など、内部監査部門に対しても指揮命令権を確保し、これを適切に行使する仕組みを構築すること(471に対する東証の回答の一番最後の※)
●内部監査部門の人事権や内部監査に係る基本規程や監査計画についての取締役会又は監査役会の関与等について、必要に応じて検討がなされること(474に対する東証の回答の下から二番目の※)

そもそもデュアルレポーティングの趣旨は、せっかく不祥事に関する情報が内部監査によって得られても、それが経営トップだけに報告されたのでは握り潰されてしまい、企業価値の毀損につながる重大な事実がみすみす見過ごされないようにすることにある。したがって、上場会社が検討すべきポイントとして、①そもそも内部監査部門に不祥事を発見する能力があるか、②企業価値毀損につながる重大な事実の発見が社外取締役や監査役会に伝わる体制となっているか、③不祥事に関連した活動によって内部監査スタッフが不当な扱いを受けるリスクはないか、について自社の状況を確認したうえで、①〜③について課題が見つかった場合にはその課題の解消に取り組むことがコンプライに繋がると言えよう。

2021/10/31 【2021年11月の課題】各事業を評価する際のKPI

2021年11月の課題

各事業を評価する際のKPIとしてはROICを用いることが適切と言われていますが、これを実践している上場会社は必ずしも多くありません。ROICを用いることの優位性を、他のKPIと比較しながら考えてみてください。また、ROICを用いる際の留意点も併せて検討してください。

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2021/10/30 【役員会 Good&Bad発言集】内部通報制度の設計(2)(会員限定)

<解説>
公益通報者保護法に基づく指針の解説をチェックリスト化

2021年10月13日に「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」(以下、指針の解説)が公表されました。当フォーラムでは下記のニュースとしてお伝えしているところです。

2021年10月25日のニュース「内部公益通報指針の解説が公表、既存制度は早目にアップデートを
2021年9月30日【役員会 Good&Bad発言集】内部通報制度の設計(1)
2021年9月10日のニュース『取締役全員が「公益通報対応業務従事者」として刑事罰の対象となる恐れ
2020年6月23日のニュース「CGコードの遵守状況に影響も 改正公益通報者保護法改正のポイント

本稿ではこれまでのニュース等とは切り口を変えて、指針の解説を下表のとおりチェックリストとしてまとめてみました(表中「必須」とは指針の解説中の「③指針を遵守するための考え方や具体例」、「推奨」とは「④その他に推奨される考え方や具体例」にそれぞれ記載されている項目です)。社内の内部通報制度をアップデートする際に参考にしてください。

Ⅰ 従事者の定め(公益通報者保護法第11条第1項関係)
レベル 内容 解説
必須 事業者は公益通報に関連する業務や担当者をリストアップし、「内部公益通報の受付、調査、是正に必要な措置の全て又はいずれかを主体的に行う業務及び当該業務の重要部分について関与する業務を行っているかどうか」という観点から絞りをかけ、「公益通報対応業務の従事者」を特定したか。 受付係だから「公益通報対応業務の従事者」ではないと判断するのは早計です。受付係であっても、「内部公益通報の受付、調査、是正に必要な措置の全て又はいずれかを主体的に行う業務及び当該業務の重要部分について関与する業務を行っているかどうか」で判断しなければなりません。
事業者は、従事者となる者が、公益通報者対応、調査、事実認定、是正措置、再発防止、適正手続の確保、情報管理、周知啓発等に係る担当者の誠実・公正な取組と知識・スキルを有していることを確認したうえで、従事者を指定しているか。 従事者は何よりも「口の堅さ」が求められます。また「ずぼら」な者にはとても安心して任せることができません。仕事に対する「誠実さ」も重要となってきます。従事者の指定は慎重に行うべきです。
事業者は、従事者となる者の指定に当たり、公益通報の受付、調査、是正に必要な措置について、主体的に行っておらず、かつ、重要部分について関与していない者まで従事者に指定していないか。 「例えば、社内調査等におけるヒアリングの対象者、職場環境を改善する措置に職場内において参加する労働者等、製造物の品質不正事案に関する社内調査において品質の再検査を行う者等であって、公益通報の内容を伝えられたにとどまる者等は、公益通報の受付、調査、是正に必要な措置について、主体的に行っておらず、かつ、重要部分について関与していないことから、たとえ調査上の必要性に応じて公益通報者を特定させる事項を伝達されたとしても、従事者として定めるべき対象には該当しない。もっとも、そのような者も他者に通報者等の特定につながり得る情報を漏洩することは許されないので、秘密保持を誓約させ、範囲外共有禁止の措置に協力しなければならない。」(「通報の解説」6ページ 注釈8より)
事業者は従事者となる者の知識・スキルの向上のための施策を実施しているか。 公益通報者保護法についての理解は当然のこととして、例えば面接技術については、外部講習を受けたり、従事者同士でロールプレイをしたりすることで、高めていくなどの知識・スキル向上策を実施する必要があります。
事業者は従事者となる者に対して、自身が従事者の地位に就くことを認識できるようにしているか。 従事者となる者に個別に通知する方法のほか、内部規程等において部署・部署内のチーム・役職等の特定の属性で指定することが考えられる。後者の場合においても、従事者の地位に就くことを従事者となる者自身に明らかにする必要がある。
事案に応じて、従事者となる者を都度指定しているか。都度指定時には、誰がどういうプロセスを経て決定・承認して、その者を従事者に任命するのかの手続きを内部公益通報規程に明示しているか。
Ⅱ 内部公益通報対応体制の整備その他の必要な措置(公益通報者保護法第11条第2項関係)
1 部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備
(1) 内部公益通報受付窓口の設置等
レベル 内容 解説
必須 内部公益通報規程等に内部公益通報対応業務の担当部署が調査権限を有することを明記しているか。 調査権限が明記されていないと、調査対象となった者から調査の根拠を問いただされるリスクがある。
内部公益通報の「受け付け」は、形式的な窓口以外であっても、実質的に同窓口において内部公益通報を受け付けたといえる場合を含むような運用をしているか。 たとえば、公益通報対応業務に従事する担当者個人のメールアドレス宛てに内部公益通報があった場合や公益通報対応業務に従事する担当者の上司へ通報があった場合が該当する。
内部公益通報規程等に内部公益通報対応業務の責任者を明記しているか。 規程に役職名(たとえば「コンプライアンス室室長」「法務部部長」など)を明記することになるケースが多いと思われる。
内部公益通報対応業務の遂行に当たり必要となる人員・予算等の割当を行っているか。 通報内容によって、必要となる人員や予算は異なり、それを見込むのは困難であるが、実際のところあらかじめ予算を確保しておかなければ、外部の法律事務所と連携して調査を行うことが必要であるにもかかわらず、すべて社内リソースで対応しようとしてしまい、調査の進行に遅れが生じたり、初動でミスをしたりする可能性がある。
内部公益通報規程、マニュアル等を作成し、周知しているか。それらの規程類は公益通報者保護法の改正に伴いアップデートしているか。 子会社や関連会社において、企業グループ共通の窓口を自社の内部公益通報受付窓口とするためには、その旨を子会社や関連会社自身の内部規程等においてあらかじめ定めている必要がある。
推奨 内部公益通報受付窓口を複数設置しているか。 可能であれば、社内だけでなく社外の窓口も設置すべきである。窓口は広い方が情報の収集に資するからである(2021年10月25日のニュース「内部公益通報指針の解説が公表、既存制度は早目にアップデートを」を参照)。なお、人事部門や顧問弁護士を内部公益通報受付窓口にすることには慎重になるべきである(2021年9月10日のニュース『取締役全員が「公益通報対応業務従事者」として刑事罰の対象となる恐れ』。
経営上のリスクにかかる情報を把握する機会の拡充に努めるために、以下の施策を検討したか。
・子会社や関連会社における法令違反行為の早期是正・未然防止を図るため、企業グループ本社等において子会社や関連会社の労働者等及び役員並びに退職者からの通報を受け付ける企業グループ共通の窓口を設置すること
・サプライチェーン等におけるコンプライアンス経営を推進するため、関係会社・取引先を含めた内部公益通報対応体制を整備することや、関係会社・取引先における内部公益通報対応体制の整備・運用状況を定期的に確認・評価した上で、必要に応じ助言・支援をすること
・中小企業の場合には、何社かが共同して事業者の外部(例えば、法律事務所や民間の専門機関等)に内部公益通報受付窓口を委託すること
・事業者団体や同業者組合等の関係事業者共通の内部公益通報受付窓口を設けること
(2) 組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置
レベル 内容 解説
必須 組織の長その他幹部(社長・子会社社長・業務執行取締役・執行役員・部門長など)からの独立性を確保するようにしているか。 例えば以下のような措置等をとることが考えられる。
・社内部門(コンプライアンス室など)が通報を受けた場合、社外取締役や監査機関(監査役、監査等委員会、監査委員会等)にも報告内容を共有するとともに、社外取締役や監査機関からモニタリングを受けながら公益通報対応業務を行うこと
推奨 組織の長その他幹部(社長・子会社社長・業務執行取締役・執行役員・部門長など)からの独立性を確保する方法として、例えば以下のような措置等をとることを検討したか。
・企業グループ本社等において子会社や関連会社の労働者等及び役員からの通報を受け付ける企業グループ共通の窓口を設置すること
・関係会社・取引先を含めた内部公益通報対応体制を整備することや、関係会社・取引先における内部公益通報対応体制の整備・運用状況を定期的に確認・評価した上で、必要に応じ助言・支援をすること
・中小企業の場合には、何社かが共同して事業者の外部(例えば、法律事務所や民間の専門機関等)に内部公益通報窓口を委託すること
・事業者団体や同業者組合等の関係事業者共通の内部公益通報受付窓口を設けること
従事者や調査協力者が不当な圧力を受けないように、不利益な取扱いの防止に関する措置を従事者にも準用しているか。 従事者や調査協力者が調査にあたり不当な圧力を受けた結果、調査が不十分なまま終わり問題解明・責任追及に至らず、公益通報者保護法の目的である公益通報を通じた法令の遵守が達成できなくなる可能性がある。
(3) 公益通報対応業務の実施に関する措置
レベル 内容 解説
必須 匿名の内部公益通報も受け付けているか。 匿名の公益通報者との連絡をとる方法として、例えば、受け付けた際に個人が特定できないメールアドレスを利用して連絡するよう伝える、匿名での連絡を可能とする仕組み(外部窓口から事業者に公益通報者の氏名等を伝えない仕組み、チャット等の専用のシステム等)を導入する等の方法が考えられる。
内部公益通報受付窓口において受け付けた内部公益通報につき、正当な理由があれば調査を実施しないことも可能であるが、どういった場合が正当な理由がある場合に該当するのかについての例示や正当な理由の判断・承認プロセスを内部公益通報規程等に定めているか。 正当な理由として、解決済みの案件に関する情報が寄せられた場合、公益通報者と連絡がとれず事実確認が困難である場合などが考えられる。
受け付けた通報ごとに調査の進捗状況を管理しているか。 案件を放置したり、あまりに調査に時間が掛かったりすれば、通報者からの信頼を失う。また、書面により内部公益通報をした日から 20 日を経過しても、事業者から通報対象事実について調査を行う旨の通知がない場合等には、報道機関等への公益通報を行った者は、解雇その他不利益な取扱いからの保護の対象となる(公益通報者保護法第3条第3号ホ)。そこで、内部公益通報対応業務の責任者は案件頃の調査の進捗状況をモニターして、必要であれば従事者を増やす等の措置をとる必要がある。
従事者は内部公益通報者との間で調査の進捗状況についてこまめに報告を行うようにしているか。 内部公益通報者は通報後不安にかられたり、公開にさいなまれたりしているはずであり、従事者がこまめに進捗状況を報告することで、精神的に支えてあげる必要がある。
是正に必要な措置をとった後、当該措置が適切に機能しているかを確認(アフターフォロー)し、適切に機能していない場合には、改めて是正に必要な措置をとる必要があるが、そういった確認手続きや再是正のための手続きにつき、内部公益通報規程に明記しているか。 是正に必要な措置が適切に機能しているかを確認する方法として、例えば、是正措置から一定期間経過後に能動的に改善状況に関する調査を行う、特定の個人が被害を受けている事案においては問題があれば再度申し出るよう公益通報者に伝える等が考えられる。
調査の結果、法令違反等が明らかになった場合には、例えば、必要に応じ関係者の社内処分を行う等、適切に対応し、必要があれば、関係行政機関への報告や民事訴訟の提起を行う。 調査の結果、会社に損害が発生していれば、訴訟も辞さない姿勢を見せることが、公益内部通報制度に対する信頼を高め、コンプライアンス経営に資する。
推奨 書面や電子メール等、公益通報者が通報の到達を確認できない方法によって通報がなされた場合には、速やかに公益通報者に対し、通報を受領した旨を通知することが望ましい。 通報専用のメールアドレスを設けている場合、窓口担当者が通報に気がつかない可能性がある。
内部公益通報受付窓口の利用者の範囲について、公益通報者保護法第2条第1項各号に定める者のほか、通報の日から1年より前に退職した労働者等、子会社・取引先の従業員(退職した者を含む)及び役員も含めることを検討したか。 窓口の拡大については2021年10月25日のニュース「内部公益通報指針の解説が公表、既存制度は早目にアップデートを」を参照
内部公益通報受付窓口の通報対象となる事項の範囲について、法令違反のほか、内部規程違反等も含めることを検討したか。 窓口の拡大については2021年10月25日のニュース「内部公益通報指針の解説が公表、既存制度は早目にアップデートを」を参照
内部公益通報対応体制の運営を支える従事者の意欲・士気を発揚する人事考課を行う等、コンプライアンス経営の推進に対する従事者の貢献を、積極的に評価しているか。
社内リニエンシー制度を導入しているか。 法令違反等に関与した者が、自主的な通報や調査協力をする等、問題の早期発見・解決に協力した場合には、例えば、その状況に応じて、当該者に対する懲戒処分等を減免することができる仕組みのことである(社内リニエンシー制度の導入については2021年10月25日のニュース「内部公益通報指針の解説が公表、既存制度は早目にアップデートを」を参照)。
公益通報者等(公益通報者及び公益通報を端緒とする調査に協力した者)の協力が、コンプライアンス経営の推進に寄与した場合には、公益通報者等に対して、例えば、組織の長等からの感謝を伝えること等により、組織への貢献を正当に評価することが望ましい。 その際においても、公益通報者等の匿名性の確保には十分に留意することが必要である。
(4) 公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置
レベル 内容 解説
必須 事案に関係する者を公益通報対応業務に関与させると公正な公益通報対応業務の実施が阻害されることから、公益通報対応業務への関与から除外しているか。 調査前に当該案件につき従事者が利害関係を有さないことをチェックリストにより確認させるなどの独立性確保の手続きを実施するのも一案である。
推奨 「事案に関係する者」について内部公益通報規程等で定義するとともに、従事者が「事案に関係する者」かどうかを判断するための手続きを定めているか。 典型的には、法令違反行為の発覚や調査の結果により実質的に不利益を受ける者、公益通報者や被通報者(法令違反行為を行った、行っている又は行おうとしているとして公益通報された者)と一定の親族関係がある者等が考えられる。
通報の都度、内部公益通報対応業務の担当部署・担当者(従事者)が利益相反関係にないかを確認しているか。
顧問弁護士を内部公益通報受付窓口とすることについては、顧問弁護士に内部公益通報をすることをためらう者が存在し、そのことが通報対象事実の早期把握を妨げるおそれがあることに留意しているか。 顧問弁護士を内部公益通報受付窓口とする場合には、例えば、その旨を労働者等及び役員並びに退職者向けに明示する等により、内部公益通報受付窓口の利用者が通報先を選択するに当たっての判断に資する情報を提供することが望ましい。
内部公益通報業務の責任者は、内部公益通報事案の事実関係の調査等通報対応に係る業務を外部の調査機関に外部委託する場合には、事案の内容を踏まえて、中立性・公正性に疑義が生じるおそれまたは利益相反が生じるおそれがないことを確認してから委託するようにしているか。 法律事務所や民間の専門機関等の起用は中立性・公正性に疑義が生じるおそれまたは利益相反が生じるおそれがある。

以下、「2 公益通報者を保護する体制の整備」以下は、次回に続く。

さて、以上の解説をご覧いただければ、誰の発言がGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。

<正解>
GOOD発言はこちら

取締役C:「担当者個人のメールアドレス宛てに通報があった場合、そのメールアドレスが内部公益通報の正規の窓口ではないとしても、内部公益通報を受け付けるべきです。」
コメント:指針の解説によると、内部公益通報を「受け付ける」とは、内部公益通報受付窓口のものとして表示された連絡先(電話番号、メールアドレス等)に直接内部公益通報がされた場合だけではなく、例えば、公益通報対応業務に従事する担当者個人のメールアドレス宛てに内部公益通報があった場合等、実質的に同窓口において内部公益通報を受け付けたといえる場合を含むとされています。取締役Cの発言は指針の解説に沿ったGood発言です。

BAD発言はこちら

取締役A:「範囲外共有を防ぐための策として従事者を広範囲に任命してはいかがでしょうか。」
コメント:改正公益通報者保護法11条が事業者に「公益通報対応業務従事者」を定めることを求めたのは、同法12 条の規定により守秘義務を負う従事者による慎重な管理を行わせるためです。そのため、「公益通報対応業務従事者」は法の趣旨に沿って必要となる範囲で限定的に定めるべきであり、問題文のように「範囲外共有を防ぐために広範囲に従事者を任命」するのは、そういった法改正の趣旨を没却させるものと言えます。取締役Aの発言は改正公益通報者保護法11条の趣旨を損なうBad発言です。

取締役B:「自分の名前も明かせないような卑怯な匿名通報は受け付けるべきではありません。」
コメント:匿名の通報であっても、公益通報者保護法第3条第1号及び第6条第1号に定める要件を満たす通報は、内部公益通報に含まれます。つまり「匿名だから受け付けない」わけにはいかないのです。また、内部通報をリスクマネジメントと捉え、通報をリスク情報の収集と考えれば、匿名であっても受け付けることで、広くリスク情報の収集にあたることができます。さらに、匿名通報を「卑怯な行為」と考えるのは筋違いです。匿名通報は内部通報制度が信頼されていないことの証しと言えます。「調査が中立的に行われるか不安」「内部通報者を特定できる情報が絶対に漏洩しないと言えるのか」「内部通報をしたことで人事面から不利な扱いを受けるのではないか」といった疑念を持たれたりすれば、名前を明かして通報することにリスクを覚えるのは当然のことです。匿名での通報が多い会社では、内部通報制度の信頼感を高めるための方策を実施すべきと言えます。取締役Bの発言は、改正公益通報者保護法への理解に欠けたBad発言です。