株主総会議案への賛否を検討するうえでの参考資料とするため、投資家の間ではかねてから有価証券報告書(有報)の総会前提出を求める声があるが、・・・
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株主総会議案への賛否を検討するうえでの参考資料とするため、投資家の間ではかねてから有価証券報告書(有報)の総会前提出を求める声があるが、東証が(2021年)9月21日に公表した「株主の議決権行使に係る環境整備に関する2021年6月総会の状況及び今後の動向について」によると、大部分の上場会社においては、有報の総会前提出は未だ検討すらされていない実態が明らかになっている。
東証が公表した上記資料(6ページ参照)によると、調査対象となった2021年3月期決算会社2,304社のうち、有報の総会前提出について「実施」と回答したのは27社にとどまっており、全体の1.2%に過ぎなかった。他に「実施予定を見送り」との回答が0.5%、「来年度以降の実施を検討」との回答が4.4%あったものの、今回調査対象となった会社の大部分に相当する88.0%が「検討していない」と回答している(残り5.9%は未回答)。
総会前提出の実施に向けた課題としては、「タイトなスケジュールに対応するための体制強化や業務の効率化」が挙げられている。一方、比較的早期に開示した会社からは「投資家からのポジティブな反応や対話が深まった等のメリットはあまり感じられず、投資家にとっての必要性・要望度合いがよくわからない」との声が聞かれた。費用対効果の観点から「検討するに値しない」というのが会社側の本音と言えそうだ。
また、有報の総会前提出を実施した27社の提出日の内訳を示したグラフを見ると、「1営業日前」が11社に上るのをはじめ、22社は5営業日前以内となっている。この時期には機関投資家の議決権行使は実務上ほぼ終了しており、有報を早期提出したメリットも期待しようがない。残り5社は17・11・9・8・6営業日前の提出となっているが、2週間前に相当する10営業日前には提出しなければ議決権行使に資する情報提供とはなり得ないだろう。その実現のためには相当に高い水準の「タイトなスケジュールに対応するための体制強化や業務の効率化」が必要になる。
当フォーラムの調査によると、総会前に有報を提出した3月期決算会社は、6月1日から10日までの間で3社あった。17営業日前に提出したHOYA、11営業日前に提出した滋賀銀行が「投資家からのポジティブな反応や対話が深まった等のメリット」が感じられたかどうかが、総会前提出普及のカギを握ると言えそうだ。
| 社名 | 有報提出日 | 総会開催日 | 総会開催日までの日数 (営業日ベース) |
| HOYA | 6月4日 | 6月29日 | 17営業日前 |
| 日本取引所グループ | 6月9日 | 6月16日 | 5営業日前 |
| 滋賀銀行 | 6月10日 | 6月25日 | 11営業日前 |
CEO、COO、CFOをはじめ、「最高××責任者」を意味するCxOの肩書を導入している日本企業は多い。CHRO(Chief Human Resource Officer:最高人事責任者 ※CHOとの表記も見受けられる)、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)、CTO(Chief Technical Officer:最高技術責任者)、CMO(Chief Marketing Officer:最高マーケティング責任者)などの肩書もかなり定着しつつある。
こうした中、海外の有名企業では、・・・
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CEO、COO、CFOをはじめ、「最高××責任者」を意味するCxOの肩書を導入している日本企業は多い。CHRO(Chief Human Resource Officer:最高人事責任者 ※CHOとの表記も見受けられる)、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)、CTO(Chief Technical Officer:最高技術責任者)、CMO(Chief Marketing Officer:最高マーケティング責任者)などの肩書もかなり定着しつつある。
こうした中、海外の有名企業では、自社のサステナビリティへの取り組みを包括的に統括するCSO(Chief Sustainability Officer)というポジションを設置するケースが増えている。地球温暖化に起因する自然災害の増加を見れば明らかなように、もはや自社の利益だけを追求していては持続的な成長が見込めない時代となったことや、2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)への対応、ESG投資の拡大などが背景にある。
SDGs : 「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、「エスディージーズ」と読む。「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる世界共通の目標であり、17の目標と169のターゲットからなる。2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択され、2016年から2030年までの15年間での達成を目指している。
ESG投資 : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資すること。
グローバル企業では、世界最大のスーパーマーケット・チェーンであるウォルマート(米)、世界最大の家具量販店のIKEA(蘭)、世界最大級の保険会社 アリアンツ・グループ(独)などがCSOを設置している(カッコ内は本社所在地)。特に動きが早かったのがIKEAとウォルマートで、それそれ2011年、2013年にCSO職を新設している(アリアンツ・グループは2019年)。
CSOには、環境問題をはじめとする様々な社会課題に関する専門知識や、他の経営陣や各部門を説得してサステナビリティに関する課題を認識させるための高度なコミュニケーション能力も求められる。また、サステナビリティの実現には時として「改革」という痛みも伴う。場合によってはビジネス・モデルを再構築し、それに伴いバリュー・チェーンも見直すことにより、多くのステークホルダーを巻き込むことになる。その中心に立ってリーダーシップをとる人材には忍耐力も求められるだろう。
バリュー・チェーン : 購買した原材料に対し、技術開発、生産、販売、人材育成といった一つひとつの企業活動が価値を付加し、最終的に顧客に対する価値を生み出すまでの一連の流れ
このように考えると、今後日本企業がCSOのポジションを作ろうとした場合に問題となるのが、上記のようなスペックを持った人材の確保だ。IKEAは脱炭素化を推進する国際NGOのCEOを、ウォルマートは戦略系コンサルティング会社のマッキンゼーで長く活躍していた人物を初代CSOとして外部から採用している。
その結果、IKEAは全ての照明器具をLEDに変更、店舗では自給の再生可能エネルギーを使用し、労働環境・人権保護の取組を進め、さらには綿製品の生産者にも殺虫剤使用を抑制する栽培方法を指導するなど、サステナビリティを意識した企業としてのイメージを確立させた。ウォルマートは、HSBCグループ(英)と連携し、食品・消費財業界のサステナビリティ向上ネットワーク「サステナビリティ・コンソーシアム(TSC:The Sustainability Consortium)」を発足させ、環境サステナビリティを向上させたサプライヤーに対してはHSBCが好条件のファイナンスを提供する仕組みを構築した。TSCにはテスコ(英)、カルフール(仏)のほか、日本からもイオンが参画し、国境を超えた食品ロス削減に貢献している。
一方、アリアンツ・グループは社内のグローバル損害保険部門のヘッドをCSOに抜擢した。この人物はCSO就任前、サステナビリティに関連する経験は特段持っていないようだが、自社の事業と投資ポートフォリオにおける実質ゼロ・エミッションを2050年までに達成することや、2025年までに従業員1人あたりのCO2排出量を70%削減することに取り組むなど、CSOとしての職責を十分に果たしている。
ゼロ・エミッション : 本来は「廃棄物の排出がないこと」を意味するが、1994年に国連大学によって提唱された概念では、「廃棄物として捨てられているものを有効活用することによって廃棄物の発生量を減らし、燃やしたり埋め立てたりすることをゼロに近づけること」を言う。
現状、CSO職にはCSRやESGについて専門的な経験を積んできた人材が最も適しているとは言えるが、アリアンツの例のように、必ずしもそれらの経験が必須というわけではない。また、今後の社会状況の変化によってCSOに求められる役割も変化していくことが予想される。まずはCSO職を新設し、「サステナビリティ」を経営の柱と位置付けているというメッセージを社内外に発信することも検討に値しよう。
CSR : 「Corporate Social Responsibility」の略で、「企業の社会的責任」と訳される。企業を「社会の構成員」として位置付けることで、企業は取引先・消費者・株主・従業員・地域社会などのステークホルダーに対し責任ある行動を行い、社会的課題に応え、ステークホルダーとの間で信頼関係を築いていくべきという考え方。
【WEBセミナー公開開始日】2021年10月23日
DXが日本企業にとって重要な経営課題となる一方で、そもそもDXの定義自体も正確には理解されていないのが現状です。本セミナーではデジタル産業の創出に向けた研究会の報告書『DXレポート2.1』をとりまとめた経済産業省 商務情報政策局 情報産業課 企画官の小川宏高様をお招きし、DXの定義と政府の政策の全体像、日本企業におけるDXへの取り組みの現状、日本企業が「デジタル敗戦」「デジタル小作」にならないための方策、DX時代における価値創出のための思考パターン、デジタル産業の構造と企業類型などについて解説していただきます。
【講師】経済産業省
商務情報政策局 情報産業課
ソフトウェア・情報サービス戦略室
企画官 小川 宏高 様
東京大学工学部卒業(数理工学)、東京大学大学院修士修了(情報工学)、東京工業大学・博士(理学)。
東京工業大学助手を経て、国立研究開発法人 産業技術総合研究所に18年9ヶ月所属。
その間、人工知能研究センター 総括研究主幹、産総研・東工大 実社会ビッグデータ活用オープンイノベーションラボラトリ ラボ長、人工知能研究センター 人工知能クラウド研究チーム長などを歴任(役職は新しい順)。デジタルアーキテクチャ研究センター 総括研究主幹を経て現職。
| セミナー資料 | デジタル変革の本質.pdf (セミナー資料の再配布は禁止となっております。また、セミナー資料は2021年11月22日までダウンロード可能となっております。2021年11月23日以降はダウンロードできなくなるのでご注意ください) |
【WEBセミナー収録日】2021年10月11日
DXが日本企業にとって重要な経営課題となる一方で、そもそもDXの定義自体も正確には理解されていないのが現状です。本セミナーではデジタル産業の創出に向けた研究会の報告書『DXレポート2.1』をとりまとめた経済産業省 商務情報政策局 情報産業課 企画官の小川宏高様をお招きし、DXの定義と政府の政策の全体像、日本企業におけるDXへの取り組みの現状、日本企業が「デジタル敗戦」「デジタル小作」にならないための方策、DX時代における価値創出のための思考パターン、デジタル産業の構造と企業類型などについて解説していただきます。
【講師】経済産業省
商務情報政策局 情報産業課
ソフトウェア・情報サービス戦略室
企画官 小川 宏高 様
東京工業大学助手を経て、国立研究開発法人 産業技術総合研究所に18年9ヶ月所属。
その間、人工知能研究センター 総括研究主幹、産総研・東工大 実社会ビッグデータ活用オープンイノベーションラボラトリ ラボ長、人工知能研究センター 人工知能クラウド研究チーム長などを歴任(役職は新しい順)。デジタルアーキテクチャ研究センター 総括研究主幹を経て現職
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国内系の代表的なアクティビストであるストラテジックキャピタルが、同社が投資している上場会社が保有する政策保有株式の発行会社宛に、投資先の上場会社による政策保有株式の売却を妨げないことを要請するレターを送付した模様だ(2021年10月14日付の同社のリリース「『政策保有株式の発行会社としての方針』に関する意見」参照)。
意見の送付先は延べ132社で、トヨタ自動車や日本電信電話、三菱UFJフィナンシャル・グループなど、わが国を代表する大企業が名を連ねている。これら132社はストラテジックキャピタルの投資先ではなく、「同社の投資先」が政策保有目的で株式を保有している会社である。通常、アクティビストは投資先に経営改善などを要求するレターを出すものだが、今回のレターは投資先が経営改善(政策保有株式の売却)を進められるよう、「投資先でない」企業群に要求を突き付けたものと言える。
ストラテジックキャピタルの投資先は・・・
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国内系の代表的なアクティビストであるストラテジックキャピタルが、同社が投資している上場会社が保有する政策保有株式の発行会社宛に、投資先の上場会社による政策保有株式の売却を妨げないことを要請するレターを送付した模様だ(2021年10月14日付の同社のリリース「『政策保有株式の発行会社としての方針』に関する意見」参照)。
意見の送付先は延べ132社で、トヨタ自動車や日本電信電話、三菱UFJフィナンシャル・グループなど、わが国を代表する大企業が名を連ねている。これら132社はストラテジックキャピタルの投資先ではなく、「同社の投資先」が政策保有目的で株式を保有している会社である。通常、アクティビストは投資先に経営改善などを要求するレターを出すものだが、今回のレターは投資先が経営改善(政策保有株式の売却)を進められるよう、「投資先でない」企業群に要求を突き付けたものと言える。
ストラテジックキャピタルの投資先は淺沼組、世紀東急工業、有沢製作所、文化シヤッター、極東開発工業、タチエス、極東貿易、ワキタ、日本証券金融の9社となっているが、そのうち6社に対しては2021年に株主提案を実施しており、さらにワキタ、淺沼組、有沢製作所、文化シヤッター、極東貿易の5社については、政策保有株式を「速やかに売却する」旨の定款変更議案を株主提案している(以下は淺沼組の例)。
| 第6号議案 政策保有株式の売却に係る定款変更の件 現行の定款に以下の章及び条文を新設する。 第7章 政策保有株式の売却 第34条(政策保有株式の売却) 当会社が、本条を追加する定款変更の効力発生日現在、貸借対照表に計上している政策保有株式は、第87期中に速やかに売却するものとする。 |
5社のうち文化シヤッターへの株主提案については、会社法の定める株主提案権の行使期限である「株主総会開催予定日の8週間前まで」に株主提案権を行使する書面が到着しなかったことから、行使要件を充足していないとして不受理となった。受理された4社への株主提案は、ワキタが1桁の賛成率にとどまったものの、残り3社は会社法で再提案が認められる10分の1以上の賛成票を獲得した模様だ(10分の1未満の場合、3年間は再提案できない)。
| 社名 | 議案 | 賛否 |
| ワキタ | 第7号議案 | 賛成8.7% |
| 淺沼組 | 第6号議案 | 賛成21.2% |
| 有沢製作所 | 第6号議案 | 賛成16.4% |
| 文化シヤッター | (不受理) | - |
| 極東貿易 | 第6号議案 | 賛成28.7% |
ストラテジックキャピタルは、10分の1超の賛成率を獲得した3社および不受理となった文化シヤッターに対し、来年以降も引き続き政策保有株式の売却を迫る株主提案を実施するものとみられる。その際に政策保有株式の発行会社が同株式の売却を妨げることがないよう、また、投資先が同株式を売却しないことの言い訳に発行会社を使わないよう、あらかじめ発行会社側に釘を刺しておこう、あわよくば言質を取っておこうというのが、今回延べ132社に対して送付したレターの目的だと推測される。
ここでポイントとなるのが、ストラテジックキャピタルがリリースで引用しているコーポレートガバナンス・コードの補充原則1-4①である。同原則は、自社株式を政策保有株式として保有している会社による売却意向を妨げないよう求めている。すなわち、ストラテジックキャピタルは、今後株主提案などを通じて投資先企業に政策保有株式の売却を強く迫っていくので、同原則にコンプライしているのならば売却を妨げないで欲しいというメッセージを送っているわけだ。
| 補充原則1-4① 上場会社は、自社の株式を政策保有株式として保有している会社(政策保有株主)からその株式の売却等の意向が示された場合には、取引の縮減を示唆することなどにより、売却等を妨げるべきではない。 |
2019年7月時点の東証の調査によると、東証一部上場会社における補充原則1-4①のコンプライ率は99.5%と極めて高いものとなっている。もっとも、同原則はコーポレート・ガバナンス報告書でコンプライの内容等の開示が求められておらず、また、他社に自社株式の売却を促す情報開示なども存在しないことから、十分な議論を経ることなくコンプライとしているケースは少なくないものと思われる。しかし、同原則のコンプライを表明している以上、アクティビストから「売却を妨げないよう」迫られた際に応じない理由を見つけるのは困難だろう。補充原則1-4①をコンプライするのかどうか、各社はいま一度再確認する必要がある。
2021年8月5日のニュース『2021年3月期の有報で判明 「ROIC」の開示は道半ば』で述べた通り、資本コストを意識した経営において、資本コストと比較する上で最も適したKPIはROICと言える。しかしながら、各社の有価証券報告書を見ると、【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】において開示されているKPIは、損益計算書(P/L)の売上高、利益といったフローに関するものが多い。我が国の上場会社の経営陣の多くは未だにP/L至上主義であり、売上、利益の規模増大に目が行っているようだ。
資本コスト : 資本コストとは「資金提供者(債権者+株主)に対するリターン」を指す(なお、株主に対するリターンには、配当のほかキャピタルゲインも含まれる)。資金提供者に対するリターンが適切にできなければ、債権者は会社に資金の返還を求め、株主は株式を売却(=株価が下落する)せざるを得ない。したがって、会社にとって資本コストは「資金提供者に対するリターンの目標値」と言える。
一方、投資家は、ROE、ROIC、ROAといった資本効率に関するKPIに注目している。資本効率とは、要するに「投下した資本からどれだけ効率よくリターンが得られたか」ということである。
ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)
ROA : Return On Assets =総資産利益率(利益/総資産)。実務上、ROAの利益には「営業利益」もしくは「事業利益」を使うことが多い。これは、総資産に対応する利益は、営業利益あるいは事業利益であるという考え方による。
損益計算書のフローに関する指標(売上高、営業利益)および資本(投資)効率に関する指標であるROICに基づき、A社とB社ではどちらが優れた会社と言えるのか、考えてみよう。・・・
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2021年8月5日のニュース『2021年3月期の有報で判明 「ROIC」の開示は道半ば』で述べた通り、資本コストを意識した経営において、資本コストと比較する上で最も適したKPIはROICと言える。しかしながら、各社の有価証券報告書を見ると、【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】において開示されているKPIは、損益計算書(P/L)の売上高、利益といったフローに関するものが多い。我が国の上場会社の経営陣の多くは未だにP/L至上主義であり、売上、利益の規模増大に目が行っているようだ。
資本コスト : 資本コストとは「資金提供者(債権者+株主)に対するリターン」を指す(なお、株主に対するリターンには、配当のほかキャピタルゲインも含まれる)。資金提供者に対するリターンが適切にできなければ、債権者は会社に資金の返還を求め、株主は株式を売却(=株価が下落する)せざるを得ない。したがって、会社にとって資本コストは「資金提供者に対するリターンの目標値」と言える。
一方、投資家は、ROE、ROIC、ROAといった資本効率に関するKPIに注目している。資本効率とは、要するに「投下した資本からどれだけ効率よくリターンが得られたか」ということである。
ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)
ROA : Return On Assets =総資産利益率(利益/総資産)。実務上、ROAの利益には「営業利益」もしくは「事業利益」を使うことが多い。これは、総資産に対応する利益は、営業利益あるいは事業利益であるという考え方による。
損益計算書のフローに関する指標(売上高、営業利益)および資本(投資)効率に関する指標であるROICに基づき、A社とB社ではどちらが優れた会社と言えるのか、考えてみよう。
| KPI | A社 | B社 |
| 売上高 | 1,000 | 1,000 |
| 営業利益 | 200 | 200 |
| 投下資本(事業資産) | 2,000 | 5,000 |
A社とB社は売上高、営業利益がともに同額であるため、損益計算書だけ見ていると、両社は同等と評価されることになる。ところが、資本効率という視点で見ると評価は変わってくる。A社の投下した資本が2,000であるのに対し、B社の投下した資本は5,000であり、B社の投資額はA社の倍以上となっている。つまり、資本効率という点から見るとA社の方が優れた会社ということになる。ROICを簡便的に計算すると下表のとおり。
※実効税率は30%とする。
実効税率 : 法人税、住民税、事業税といった会社の利益に課税される税の総合的な負担率のこと。
こうした評価の相違は事業単位でも生じ得る。各事業のKPIを営業利益率としている会社を考えてみよう。例えば営業利益率10%を目標としている会社においてA事業の売上高が1,500、営業利益が100の場合、A事業の営業利益率は下表のとおりとなる。
このA事業を資本効率の観点から見てみると、例えばA事業への投下資本が400、投資家の要求利回りである資本コストが10%と仮定すれば、ROICは下表のとおりとなる。
以上を踏まえると、A事業に対する評価は、社長と投資家では以下のとおり異なるものとなる。
すなわち、損益計算書の指標を重視するか、あるいは資本効率を重視するかによって、A事業を継続するか否かの意思決定も変わり得るということだ。
ただし、ROICが常に正しい結論を導き出すとは限らない点、注意したい。ROICの弱点として、例えば立ち上げ時には利益がわずかしか出ていない新規事業が中長期的には多くの利益を獲得できるとしても、事業の立ち上げ当初は資本効率が悪いためROICに基づくと低評価となり、投資が抑制されてしまう恐れがあるということが挙げられる。新規事業の立ち上げ時は、損益計算書の指標である売上高の増加率など収益力を重視する方が理にかなっている。
この点、コーポレートガバナンス・コード原則5-2でも、上場会社に「収益力・資本効率等に関する目標」を提示することを求めている。
| 【原則5-2.経営戦略や経営計画の策定・公表】 経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人的資本への投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである。 |
経営陣は、事業継続の是非をどちらか一方の指標(目標)のみで判断するのではなく、評価する事業のステージを踏まえ、収益力を表す損益計算書の指標と、資本効率を表す指標であるROICの両方をバランスよく見るよう心掛けたいところだ。