2021/09/21 サステナビリティ委員会は設立すべきか(会員限定)

2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)には、サステナビリティに関する新たな内容が多く盛り込まれた。その代表的なものが補充原則2-3①であり、取締役会がサステナビリティを巡る課題に対して「積極的・能動的に取り組むよう検討を深める」ことを求めている。

補充原則2-3①
取締役会は、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、取引先との公正・適正な取引、自然災害等への危機管理など、サステナビリティを巡る課題への対応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、中長期的な企業価値の向上の観点から、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討を深めるべきである。

この補充原則2-3①に対応して新設された「投資家と企業の対話ガイドライン」(以下、対話GL)の1-3では、後段で「サステナビリティ委員会」の設置に言及している。周知のとおり、対話GLはCGコードの「実効的なコンプライ・オア・エクスプレイン」を促すものであり、その趣旨に鑑みると、サステナビリティ委員会を設置することが、補充原則2-3①をはじめとするサステナビリティ関連の原則(原則2-3補充原則3-1③補充原則4-2②)をコンプライするための早道のように考える企業が少なくない。

1-3. ESGやSDGsに対する社会的要請・関心の高まりやデジタルトランスフォーメーションの進展、サイバーセキュリティ対応の必要性、サプライチェーン全体での公正・適正な取引や国際的な経済安全保障を巡る環境変化への対応の必要性等の事業を取り巻く環境の変化が、経営戦略・経営計画等において適切に反映されているか。また、例えば、取締役会の下または経営陣の側に、サステナビリティに関する委員会を設置するなど、サステナビリティに関する取組みを全社的に検討・推進するための枠組みを整備しているか。

しかし、サステナビリティ委員会をサステナビリティ関連の各原則をコンプライするための“魔法の杖”のように捉え、安易に設置に走ることは必ずしも正しい選択とは言えない。補充原則2-3①がサステナビリティを巡る課題を「リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題」と位置付けていることを踏まえても、サステナビリティを巡る課題は原則4-1が取締役会の役割・責務として挙げている「戦略的な方向付け」を構成する重要な要素と考えるべきだろう。すなわち、サステナビリティ課題はまさに取締役会が自ら審議するべきテーマであって、これを委員会に委ねることには異論もある。

下記のフォローアップ会議の資料のとおり、そもそもサステナビリティ委員会は「海外では設置がある程度当たり前になりつつ」あるとの触れ込みで議論の俎上に載せられたという経緯がある。ただし、同じ資料には英国FTSE150構成企業における委員会の数と種類が報告されており、それによると、「コーポレート/社会責任/サステナビリティ」委員会を設置している企業は2割程度にとどまっている。「海外では当たり前」という言い方はミスリードにつながりかねない。

FTSE150 : ロンドン証券取引所に上場する銘柄のうち時価総額上位150銘柄による時価総額加重平均型の株価指数。

●2021年2月15日・第24回事務局参考資料(ESG要素を含む中長期的な持続可能性(サステナビリティ)について)10ページ「サステナビリティに関連して、フォローアップ会議で提出された意見」より抜粋」
多様な人材で意味のある議論が展開されるように、器としてのサステナビリティ委員会といったものをきちんと置くということも、この段階で検討すべき。海外では設置がある程度当たり前になりつつあり、ヨーロッパ型のような監督機関側に置くということにこだわる必要はないが、執行側にもサステナビリティ委員会というものをきちんと置いて、多様な人材で議論する。そのためのサステナビリティ委員会の話もきちんと今回議論の俎上に上げて、明記すべき。

●同9ページ「英:FTSE 150における取締役会中の委員会の数及び種類」より抜粋
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さらに、フォローアップ会議においては、取締役会にサステナビリティ委員会を設置することに対して慎重な意見も少なからず出ていた点、留意する必要がある。

2021年2月15日開催・フォローアップ会議(第24回)議事録より抜粋
サステナビリティ委員会の答申を受ける場合に、その内容というのは社会の共通課題の解決に向かって何らかの取組みをしようということだと思いますので、そうするとその中にはグローバル、例えばイニシアチブに賛同表明をするとか、ガイドラインに沿った取組みをするとかいうことになると思います。これ自体、問題ではないのですけれども、そこに潜むリスクがあります。それは皆、横並びになってしまう。または、ハーディング現象、群れるということですね。群がる。その結果、レッドオーシャンになる。そうするとキャピタルアロケーションの回収が不可能になるということです。(三瓶メンバー)
ある東証一部上場企業が取締役会の傘下、つまり、監督サイドにサステナビリティ委員会を設置することを見送りました。サステナビリティ委員会の設置に反対した独立社外取締役は、サステナビリティは極めて重要である。したがって、数人だけの限られたメンバーで議論することが果たして正しいのか、なぜ取締役全員で議論しないのか。さらには、法定の3委員会以外に任意の委員会を設置することで、取締役会の機能が弱くなる可能性もある。このように反対理由を述べておられました。私個人としては、至極真っ当な議論だと思いました。(佃メンバー)

上記意見を要約すれば、「企業価値向上に結び付かないリスクがあるサステナビリティに関する取り組みをサステナビリティ委員会が主導することで、取締役会が期待される機能を果たせなくなりかねない」ということだろう。補充原則4-2②ではサステナビリティの「基本的な方針」を策定することを取締役会の責務としている。これは、原則4-1が取締役会の役割・責務として挙げている「戦略的な方向付け」としてサステナビリティを重視している証左と言える。

もちろん、自社のサステナビリティに関する課題が高度な専門性を要するものだったり、また複数の課題に取り組まなければならなかったりする場合、より専門的な議論をするための場としてサステナビリティ委員会は有用だろう。ただし、そこでは決してCSR的な観点ではなく、コーポレートファイナンスを軸とした企業価値向上に資する議論が行われなければならない。自社の取締役会がサステナビリティ委員会を設置しなければならない理由は何か、慎重に検討したうえで設置の要否を判断する必要がある。

CSR : 「Corporate Social Responsibility」の略で、「企業の社会的責任」と訳される。企業を「社会の構成員」として位置付けることで、企業は取引先・消費者・株主・従業員・地域社会などのステークホルダーに対し責任ある行動を行い、社会的課題に応え、ステークホルダーとの間で信頼関係を築いていくべきという考え方。

既に取締役会の下にサステナビリティ委員会を設置している企業も存在している。サステナビリティ委員会の設置を検討している企業は、下表に挙げた各社におけるサステナビリティ委員会の設置目的や審議状況、メンバー構成などを参考にされたい。

企業名 ポイント
リクルートホールディングス 重点テーマに基づく「現在の取り組み進捗」や「中長期的に行う活動内容、及びゴール、計画」に対し、社外有識者から経営層・マネジメント層がアドバイスを受ける。
丸井グループ グループ全体を通じたサステナビリティ戦略および取り組みを検討、取締役会に報告、提言を行う。執行役員から選任したメンバーおよび取締役会が適切と認めたメンバーで構成。

2021/09/17 海外展開していない企業にも迫られるIFRS適用

最近、日本を代表する企業2社がIFRS(国際会計基準)の採用に踏み切った。トヨタ自動車とソニーグループだ。両社とも従来の米国会計基準に替えてIFRSの任意適用を開始している(トヨタ自動車は2021年3月期第1四半期から、ソニーグループは2022年3月期第1四半期から)。東証上場会社のうちIFRS適用済会社は社数こそ226社にとどまっているが、IFRS適用決定会社10社、IFRS適用予定会社7社を加えた時価総額の合計は327兆円と、東証上場会社の44.0%に達している(東京証券取引所が2021年9月8日に公表した『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析について≪2021年3月期決算会社まで≫』の7ページ参照)。

時価総額の大きい日本企業がIFRSを任意適用しているのは、米国・中国を除くと、世界レベルではIFRSこそが共通の会計の“モノサシ”となっているからに他ならない。その状況を可視化したのが下の図だ(金融庁の「会計基準を巡る変遷と最近の状況」(2020年11月6日公表版)の9ページより抜粋)。
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IFRSを任意適用した上場会社が、その理由として「国内外のグループ会社を同じモノサシで管理できるだけでなく、世界中のライバル会社との比較も容易になる」「海外投資家の利便性も向上し、グローバルな資金調達の機会が広がることが期待できる」ことを挙げているが、上図のオレンジ色(全てまたは大部分の主要企業に対してIFRSを強制適用している法域)の部分の広さを見ると、その意味するところが直感的に理解できるだろう。

では、海外子会社や海外売上がない“ドメスティック”な日本企業ではIFRSを任意適用する必要はないかというと、プライム市場への移行を予定している上場会社であればそうとも言い切れない。IFRSを任意適用している東証一部上場会社はほぼ例外なくプライム市場に移行するものと思われる一方、スタンダード市場へ移行することを選択する東証一部上場会社のほとんどは引き続き日本基準を採用することが予想される。この結果、IFRSの存在感は現在の東証一部市場よりプライム市場の方が確実に高まることになる。「IFRSを任意適用していること」はプライム市場に上場するための要件ではないが、プライム市場内でIFRSを任意適用している上場会社(とりわけ比較対象にされやすいライバル会社)が増えるほど、これまで以上にIFRSを任意適用することについて、投資家からのプレッシャーが強まる可能性がある。

冒頭で紹介した東証の『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析について≪2021年3月期決算会社まで≫』によると、IFRS適用予定会社の手前のステージと言える「IFRS適用に関する検討を実施している会社」は167社あり、そのすべてがIFRSを適用することになれば、東証市場全体に占めるIFRS適用済会社の時価総額ベースの比率はおよそ66%と3分の2に達することになる(7ページ参照)。

金融庁が2015年4月15日に公表した「IFRS適用レポート」には、上場会社が社内でIFRS導入に向けてのキックオフ・ミーティングを開始してから実際にIFRSによる有価証券報告書を開示するまでの移行期間は平均で3年8か月かかるとの調査結果が示されている(38ページ参照)。IFRSへの移行期間を売上高区分別に集計したのが下記のグラフだ。売上高規模の小さい企業ほど、移行期間が短いことが分かる。
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ただし、①移行に時間がかかる売上高1兆円以上のクラスの上場会社は既にIFRSを任意適用済みのところが多いこと、②2015年の調査から6年の歳月が経過し、監査法人側にノウハウが蓄積されてきたことを考慮すると、IFRSへの平均移行期間は2015年の調査時より短縮しているものと思われる。さらに、「IFRS適用に関する検討を実施している会社」167社は(各社で進捗状況は異なるものの)全体として見れば移行期間の半分ほどまで準備が進んでいると仮定できる。結論として、2年から3年以内には、時価総額ベースで見たIFRS適用済会社は東証市場全体の3分の2に達する可能性が高いと言えよう(プライム市場だけで見るとさらに早まるものと思われる)。

そうなると、海外子会社や海外売上がないドメスティック日本企業であっても、プライム市場へ移行する以上は、少なくとも同業他社のIFRS適用の検討状況くらいは知っておく必要が出てくる。それを確認するには、・・・

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2021/09/17 海外展開していない企業にも迫られるIFRS適用(会員限定)

最近、日本を代表する企業2社がIFRS(国際会計基準)の採用に踏み切った。トヨタ自動車とソニーグループだ。両社とも従来の米国会計基準に替えてIFRSの任意適用を開始している(トヨタ自動車は2021年3月期第1四半期から、ソニーグループは2022年3月期第1四半期から)。東証上場会社のうちIFRS適用済会社は社数こそ226社にとどまっているが、IFRS適用決定会社10社、IFRS適用予定会社7社を加えた時価総額の合計は327兆円と、東証上場会社の44.0%に達している(東京証券取引所が2021年9月8日に公表した『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析について≪2021年3月期決算会社まで≫』の7ページ参照)。

時価総額の大きい日本企業がIFRSを任意適用しているのは、米国・中国を除くと、世界レベルではIFRSこそが共通の会計の“モノサシ”となっているからに他ならない。その状況を可視化したのが下の図だ(金融庁の「会計基準を巡る変遷と最近の状況」(2020年11月6日公表版)の9ページより抜粋)。
58901a
IFRSを任意適用した上場会社が、その理由として「国内外のグループ会社を同じモノサシで管理できるだけでなく、世界中のライバル会社との比較も容易になる」「海外投資家の利便性も向上し、グローバルな資金調達の機会が広がることが期待できる」ことを挙げているが、上図のオレンジ色(全てまたは大部分の主要企業に対してIFRSを強制適用している法域)の部分の広さを見ると、その意味するところが直感的に理解できるだろう。

では、海外子会社や海外売上がない“ドメスティック”な日本企業ではIFRSを任意適用する必要はないかというと、プライム市場への移行を予定している上場会社であればそうとも言い切れない。IFRSを任意適用している東証一部上場会社はほぼ例外なくプライム市場に移行するものと思われる一方、スタンダード市場へ移行することを選択する東証一部上場会社のほとんどは引き続き日本基準を採用することが予想される。この結果、IFRSの存在感は現在の東証一部市場よりプライム市場の方が確実に高まることになる。「IFRSを任意適用していること」はプライム市場に上場するための要件ではないが、プライム市場内でIFRSを任意適用している上場会社(とりわけ比較対象にされやすいライバル会社)が増えるほど、これまで以上にIFRSを任意適用することについて、投資家からのプレッシャーが強まる可能性がある。

冒頭で紹介した東証の『「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容の分析について≪2021年3月期決算会社まで≫』によると、IFRS適用予定会社の手前のステージと言える「IFRS適用に関する検討を実施している会社」は167社あり、そのすべてがIFRSを適用することになれば、東証市場全体に占めるIFRS適用済会社の時価総額ベースの比率はおよそ66%と3分の2に達することになる(7ページ参照)。

金融庁が2015年4月15日に公表した「IFRS適用レポート」には、上場会社が社内でIFRS導入に向けてのキックオフ・ミーティングを開始してから実際にIFRSによる有価証券報告書を開示するまでの移行期間は平均で3年8か月かかるとの調査結果が示されている(38ページ参照)。IFRSへの移行期間を売上高区分別に集計したのが下記のグラフだ。売上高規模の小さい企業ほど、移行期間が短いことが分かる。
58901b
ただし、①移行に時間がかかる売上高1兆円以上のクラスの上場会社は既にIFRSを任意適用済みのところが多いこと、②2015年の調査から6年の歳月が経過し、監査法人側にノウハウが蓄積されてきたことを考慮すると、IFRSへの平均移行期間は2015年の調査時より短縮しているものと思われる。さらに、「IFRS適用に関する検討を実施している会社」167社は(各社で進捗状況は異なるものの)全体として見れば移行期間の半分ほどまで準備が進んでいると仮定できる。結論として、2年から3年以内には、時価総額ベースで見たIFRS適用済会社は東証市場全体の3分の2に達する可能性が高いと言えよう(プライム市場だけで見るとさらに早まるものと思われる)。

そうなると、海外子会社や海外売上がないドメスティック日本企業であっても、プライム市場へ移行する以上は、少なくとも同業他社のIFRS適用の検討状況くらいは知っておく必要が出てくる。それを確認するには、同業他社が中期事業計画等で検討状況を開示していない限り、①有価証券報告書の【監査の状況】の「監査報酬の内容等」で監査法人に対してIFRS関連の支出があるか、あるいは②決算短信の「会計基準の選択に関する基本的な考え方」で開示される文言をチェックするしか方法はない。①の方法は、必ずしも会社が監査を受けている監査法人にIFRS導入コンサルティングを依頼するとは限らないことから、網羅性に欠ける。そこで、実際にIFRSを任意適用しているIHIと野村総合研究所の2社を例にとり、IFRS適用の検討状況のステージの変化により決算短信の「会計基準の選択に関する基本的な考え方」で開示される文言がどのように変遷するのかを時系列で整理してみた。

<IHIのケース ※決算短信に出てくる和暦は当フォーラムにて西暦に置換>
開示の日付 開示内容
2015年5月8日 IFRSに関しては、グループ経営やガバナンス強化の観点から、当社グループへの影響等について調査を行なっております。その適用については、海外事業展開の進展状況のほか、我が国における制度適用の状況を考慮の上、対応していく方針です。
2016年5月10日 当社グループの連結財務諸表は、現在、日本基準を適用しています。
IFRSに関しては、グループ経営やガバナンス強化の観点から、当社グループへの影響等について調査を行なっております。その適用については、海外事業展開の進展状況のほか、我が国における制度適用の状況を考慮の上、対応していく方針です。
なお、今年度は、海外連結子会社の決算報告期間の統一へ向けた取組みを進めており、2017年3月期から一部の海外連結子会社の決算報告期間を順次変更していく予定です。
2017年5月9日 当社グループの連結財務諸表は、現在、日本基準を適用しています。
IFRSに関しては、グループ経営やガバナンス強化の観点から、当社グループへの影響等について調査を行なっております。その適用については、海外事業展開の進展状況のほか、我が国における制度適用の状況を考慮の上、対応していきます。
なお、海外連結子会社の決算報告期間の統一へ向けた取組みを進めており、2017年3月期から海外連結子会社の決算報告期間を順次変更しています。
2018年5月9日 当社グループは現在、日本基準で連結財務諸表を作成しておりますが、グループ経営やガバナンス強化の観点から、IFRSの適用も視野に入れ、当社グループへの影響の調査や日本基準との差異の把握等の検討を進めております。
なお、2018年3月期までに、海外連結子会社の決算報告期間について概ね統一を完了しております。
2019年5月8日 当社グループは現在、日本基準で連結財務諸表を作成しておりますが、グループ経営やガバナンス強化の観点から、IFRSの適用も視野に入れ、当社グループへの影響の調査や日本基準との差異の把握等の検討を引き続き進めております。
2020年5月19日 当社グループは現在、日本基準で連結財務諸表を作成しておりますが、グループ経営やガバナンス強化の観点から、IFRSの適用に向けて、外部の専門家の助言も受けながら準備を進めております。
2020年10月26日 2021年3月期の決算短信より国際財務報告基準(IFRS)を任意適用することの適時開示

IHIでは、2016年5月10日に開示した決算短信の「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の欄で、海外連結子会社の決算報告期間の統一が課題となっていることが初めて明かされ、その後の期でも海外連結子会社の決算報告期間の統一作業の状況に関する報告が続いた後、2020年5月にはそれまでの「IFRSの適用も視野に入れ」「検討を進めている」という表現が「IFRSの適用に向けて」「準備を進めております」へと変化し、その年の10月には、2021年3月期より国際財務報告基準(IFRS)を任意適用することを適時開示するに至っている。

もっとも、IHIのようにIFRS適用の検討状況のステージの変化を丁寧に開示している企業は少数派にとどまる。野村総合研究所では、2017年4月27日に開示した決算短信から2020年4月28日に開示した決算短信まで、継続して「当社グループは、資本市場における財務情報の国際的な比較可能性の向上を目的にIFRS(国際会計基準)を任意適用する方向で検討しています」のままであった(下表参照)。その間、IFRS適用の検討状況のステージは変化していったはずだが、開示内容からその変化を読み取ることはできない。

<野村総合研究所>
開示の日付 開示内容
2015年4月23日 当社は日本基準を適用しています。
今後のIFRS(国際会計基準)の適用については、グローバル展開・内外の情勢等を踏まえながら検討しています。
2016年4月27日 当社は日本基準を適用しています。
今後のIFRS(国際会計基準)の適用については、グローバル展開・内外の情勢等を踏まえながら検討しています。
2017年4月27日 当社グループは、資本市場における財務情報の国際的な比較可能性の向上を目的にIFRS(国際会計基準)を任意適用する方向で検討しています。
2018年4月26日 当社グループは、資本市場における財務情報の国際的な比較可能性の向上を目的にIFRS(国際会計基準)を任意適用する方向で検討しています。
2019年4月25日 当社グループは、資本市場における財務情報の国際的な比較可能性の向上を目的にIFRS(国際会計基準)を任意適用する方向で検討しています。
2020年4月28日 当社グループは、資本市場における財務情報の国際的な比較可能性の向上を目的にIFRS(国際会計基準)を任意適用する方向で検討しています。
2020年10月28日 2021年3月期の有価証券報告書より国際財務報告基準(IFRS)を任意適用することの適時開示

ただ、野村総合研究所が2017年4月27日に開示した決算短信では、それまでの「今後のIFRS(国際会計基準)の適用については、グローバル展開・内外の情勢等を踏まえながら検討しています」との表現が「資本市場における財務情報の国際的な比較可能性の向上を目的にIFRS(国際会計基準)を任意適用する方向で検討しています。」へと変わっており、その時点で明確なステージの変化があったことが読み取れる。

ライバル会社の動向は、IFRS任意適用に向け、自社の背中を押すことになる可能性もあろう。

2021/09/16 親子上場を解消するための新たな手法

利益相反取引が生じやすい親子上場に対し投資家から厳しい視線が注がれる中、親会社には「上場子会社を維持することの合理的理由の説明や上場子会社のガバナンス体制の実効性確保」が求められ、上場子会社には「親会社から独立した意思決定を担保する実効的なガバナンス体制の構築」が求められている(親子上場の問題については、2020年10月19日のニュース『パッシブ機関投資家が「親子上場」に関する対話を求めるレター送付』および同記事内で引用されているニュース参照)。今年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは、上場子会社に対し、独立社外取締役を含む独立性を有する者で構成された特別委員会の設置を求める補充原則4-8③が新設されたところだ。

利益相反取引 : 上場会社とその上場子会社の間に生じがちな利益相反の一般的な例として、親会社の要請を受け、上場子会社のサービスを親会社にだけ一般価格よりも割安の価格で提供した場合、親会社はコストダウンを図ることができる一方で、子会社の収益機会はその分損なわれ、ひいては子会社の一般株主の配当減や株価下落につながることになる。

こうした流れを受け、今後は・・・

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2021/09/16 親子上場を解消するための新たな手法(会員限定)

利益相反取引が生じやすい親子上場に対し投資家から厳しい視線が注がれる中、親会社には「上場子会社を維持することの合理的理由の説明や上場子会社のガバナンス体制の実効性確保」が求められ、上場子会社には「親会社から独立した意思決定を担保する実効的なガバナンス体制の構築」が求められている(親子上場の問題については、2020年10月19日のニュース『パッシブ機関投資家が「親子上場」に関する対話を求めるレター送付』および同記事内で引用されているニュース参照)。今年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは、上場子会社に対し、独立社外取締役を含む独立性を有する者で構成された特別委員会の設置を求める補充原則4-8③が新設されたところだ。

利益相反取引 : 上場会社とその上場子会社の間に生じがちな利益相反の一般的な例として、親会社の要請を受け、上場子会社のサービスを親会社にだけ一般価格よりも割安の価格で提供した場合、親会社はコストダウンを図ることができる一方で、子会社の収益機会はその分損なわれ、ひいては子会社の一般株主の配当減や株価下落につながることになる。

こうした流れを受け、今後は上場子会社株式の持分比率を引き下げようとする上場親会社が増えることが予想されるが、それを後押しする税制上の優遇措置が導入される可能性が出てきた。

上場親会社が上場子会社株式の持分比率を下げるには、上場親会社は保有する上場子会社の株式を売却する必要があるが、株式を売却すれば、株式の売却価格(時価)と取得価格(帳簿価格)の差額が売却益となり、それに対し法人税等が課されることになる。そこで経済産業省は、株式が「帳簿価格」で売却されたこととし(これにより売価価格と取得価格が一致し、売却益は生じないこととなる)、税金が発生しないよう、令和4年度税制改正で税法を見直すことを求めている(経済産業省 令和4年度税制改正要望「スピンオフの実施の円滑化のための税制措置の拡充」46ページ参照)。税制改正議論は毎年年末にかけて行われ、12月の中旬頃には税制改正の大筋が「(令和4年度)税制改正大綱」としてとりまとめられ、法人関係税制の場合、通常は来年4月1日から施行されることになる。

経済産業省が求めているのは、スピンオフ税制の拡充だ。スピンオフ税制とは、①会社の一部門を切り出し、別会社として設立する場合、あるいは②100%子会社を切り離して資本関係を解消する場合における税制優遇措置のこと。自社の株主は、設立された別会社や切り離された旧100%子会の株主となるが、この場合、自社は①会社の一部門、②旧100%子会社という「資産」を自社の株主に移転(譲渡)したことになる。資産を移転(譲渡)する際には課税が伴うのが原則だが、この課税を行わないこととするのがスピンオフ税制である(スピンオフ税制については2016年8月25日掲載の新用語・難解用語「コングロマリット・ディスカウント」、2016年11月17日のニュース「不振事業、不振子会社の切り離しが容易に」、経済産業省の資料『「スピンオフ」の活用に関する手引』参照)。

スピンオフ : 企業や組織の一部を分離し、別個の独立した企業や組織とすること。

スピンオフ税制は下図の2種類のスピンオフを対象にしているが、今回経済産業省が見直しを求めているのはこのうち「②完全子法人をスピンオフする場合(株式分配)」の方だ。
58886出典:経済産業省『「スピンオフ」の活用に関する手引』9ページ

上図のとおり、現行のスピンオフ税制では「100%子会社」をスピンオフするケースを対象にしており、「100%子会社でない子会社」は適用対象外となっている。しかし、冒頭で触れたとおり近年問題となっている親子上場では、上場親会社は上場子会社の株式を100%保有しているわけではないため(株主数など、証券取引所が定める上場廃止基準に抵触する)、上場親会社が上場子会社株式の持分比率を引き下げようというケースでは、現行のスピンオフ税制は活用できない。

そこで経済産業省は、100%子会社以外の子会社をスピンオフする場合や、スピンオフした後も持分が一部残るようなスピンオフもスピンオフ税制の対象にするよう求めている。これが実現すれば、上場親会社が段階的に上場子会社を切り離そうという場合にもスピンオフ税制が活用できることになる。

上場親会社にとって上場子会社を切り離す手法の選択肢が増えれば、親子上場の解消が進む可能性もある。年末に向けた税制改正議論の行方が注目されるところだ。

2021/09/15 株価連動型賞与に対する投資家の評価

株式報酬が急速に普及する中で、「株式取得資金」を中長期インセンティブとして支給してするメリット・デメリットについては2021年9月7日のニュース『「株式取得資金」を中長期インセンティブとする理由』でお伝えしたところだが、同様に「株」という文字の入った現金報酬が「株価連動型賞与」だ。

株価連動型賞与は文字通り株価に応じて支給額が変動する賞与であり、これを採用している有名企業も少なくない。例えばある企業では下記の算式により株価連動型賞与を算定している。・・・

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2021/09/15 株価連動型賞与に対する投資家の評価(会員限定)

株式報酬が急速に普及する中で、「株式取得資金」を中長期インセンティブとして支給してするメリット・デメリットについては2021年9月7日のニュース『「株式取得資金」を中長期インセンティブとする理由』でお伝えしたところだが、同様に「株」という文字の入った現金報酬が「株価連動型賞与」だ。

株価連動型賞与は文字通り株価に応じて支給額が変動する賞与であり、これを採用している有名企業も少なくない。例えばある企業では下記の算式により株価連動型賞与を算定している。

株価連動型賞与=役位別の基準額 × 係数(※)

※係数=(EPS成長率×50%)+(株価変動率×50%)
・EPS成長率=当年度末EPS/前年度末EPS
・株価変動率=(当年度末当社株価/前年度末当社株価)/(当年度末TOPIX/前年度末TOPIX)

EPS : 1株当たり利益(Earnings Per Share)のことで。「当期純利益÷発行済株式数」によって計算される。

このように同社は、「EPS成長率」と「株価変動率」の各50%を合計した“係数”を役位別の基準額に乗じることで株価連動型賞与を算出している。そして、EPS成長率と株価変動率については下記のとおり説明しており、同社の株価連動型賞与が“中期目線”に立ったものであることを強調している。

・EPS成長率 :中期経営計画の目標値として掲げた指標であり、中期経営計画の目標達成を強く動機付けるため
・株価変動率:株主価値の増減と直接的に連動する指標であり、役員報酬と株主価値との連動性を高めるため

要するに同社の株価連動賞与は「前年度」からの株価上昇を指標としているため、一見すると株主目線に立ったものであるようにも見える。しかし、結論から言えば、機関投資家等からの評価は決して高くない。

投資家(株主)は「持続的な企業価値の成長」を求めている。この観点からすると、毎期の株価の上下によって取締役役等の賞与が確定する仕組みは望ましいものとは言えない。この点は、下記のとおり議決権行使助言会社ISSの議決権行使基準では、業績条件等がなく、譲渡制限解除や権利確定の時期が「付与から3年未満」の株式報酬については否定的な見解が示されていることからもうかがえる。

ISS「2021年版日本向け議決権行使助言基準」22ページより抜粋
報酬型ストックオプション(※1)/株式報酬(※2)
下記のいずれかに該当する場合を除き、原則として賛成を推奨する。

行使条件として、一定の業績を達成すること(※3)が条件となっていない場合(ただし行使条件として、付与から3年間未満は行使が禁止されている場合、あるいは退職前の行使が禁止されている場合は、業績条件がなくとも例外的に反対を推奨しない

※1 行使価格が 1 円のストックオプションを指す。
※2 信託や譲渡制限株式などを利用する報酬を指す。
※3 たとえば、経営計画における目標が考えられる。

譲渡制限株式 : 一定期間の譲渡制限が付された株式報酬で、企業が株式を無償取得することとなる事由(没収事由:例えば所定の期間勤務を継続しないなど)が定められているものを指す。「リストリクテッド・ストック」という呼び方も定着している。

一方、株価連動型賞与をもらう側の取締役等も、マーケットの要因で短期的に上下する報酬を「自分の努力によるもの」と捉えることはまずないだろう。市況が良い時には“濡れ手に粟”であり、逆に悪い時は「頑張っても仕方ない」というマインドになりかねない。

株式報酬と違って、(例えばオーナー経営者の)持株比率には影響しないという面はあるものの、キャッシュアウトはある。上場会社の中でも規模が大きくない成長企業にとっては負担になるだろう。

結論として、 株価連動型賞与は投資家、もらう側の取締役等のいずれのためにもなっていないと評価される恐れがある点、留意したい。

2021/09/14 KAMが一つもないと判断された理由

周知のとおり、会計監査人(監査法人等)は、2021年3月期の有価証券報告書に対する監査から、会計監査上の主要な検討事項である「KAM」を監査報告書に記載することが義務付けられている。KAMとは、会計監査人が当年度の財務諸表の監査の過程で監査役等と協議した事項のうち、職業的専門家として当該監査において「特に注意を払った事項」を指す。要するに、KAMは監査役等とコミュニケーションをとった項目の中から相対的な重要性によって決定されることになる。KAMの個数についての目安は設けられていないものの、「特に注意を払った事項」がKAMとなるため、必然的に個数はある程度絞られる。

日本公認会計士協会から公表されている「監査報告書に係るQ&A」Q2-6には、「KAMがないと判断することはまれであり、少なくとも一つは存在する」との記述がある。

<「監査報告書に係るQ&A」Q2-6より抜粋>
上場企業の監査において、監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項の中に、監査報告書において報告すべき監査上の主要な検討事項がないと判断することはまれであり、少なくとも一つは存在していると考えられる。しかしながら、例えば、企業の実質的な事業活動が極めて限定される状況においては、監査人が特に注意を払った事項がないため、監査上の主要な検討事項がないと監査人が判断することはある。

当フォーラムが2021年3月末から5月末決算会社の有価証券報告書に対する監査報告書を調査したところ、KAMがないと判断された会社の状況は下表のとおりだった。・・・

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2021/09/14 KAMが一つもないと判断された理由(会員限定)

周知のとおり、会計監査人(監査法人等)は、2021年3月期の有価証券報告書に対する監査から、会計監査上の主要な検討事項である「KAM」を監査報告書に記載することが義務付けられている。KAMとは、会計監査人が当年度の財務諸表の監査の過程で監査役等と協議した事項のうち、職業的専門家として当該監査において「特に注意を払った事項」を指す。要するに、KAMは監査役等とコミュニケーションをとった項目の中から相対的な重要性によって決定されることになる。KAMの個数についての目安は設けられていないものの、「特に注意を払った事項」がKAMとなるため、必然的に個数はある程度絞られる。

日本公認会計士協会から公表されている「監査報告書に係るQ&A」Q2-6には、「KAMがないと判断することはまれであり、少なくとも一つは存在する」との記述がある。

<「監査報告書に係るQ&A」Q2-6より抜粋>
上場企業の監査において、監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項の中に、監査報告書において報告すべき監査上の主要な検討事項がないと判断することはまれであり、少なくとも一つは存在していると考えられる。しかしながら、例えば、企業の実質的な事業活動が極めて限定される状況においては、監査人が特に注意を払った事項がないため、監査上の主要な検討事項がないと監査人が判断することはある。

当フォーラムが2021年3月末から5月末決算会社の有価証券報告書に対する監査報告書を調査したところ、KAMがないと判断された会社の状況は下表のとおりだった。

連結or非連結 分類 社数 該当する会社
連結財務諸表
作成会社
個別財務諸表にKAMの記載がない会社
(連結財務諸表にはKAMの記載あり)
129 主としてホールディングカンパニー
連結財務諸表、個別財務諸表ともにKAMの記載がない会社 2 以下の会社が該当
(株)スリー・ディー・マトリックス
(株)RVH
連結財務諸表にKAMの記載がない会社
(個別財務諸表にはKAMの記載あり)
1 非公開会社
連結財務諸表非作成会社 KAMの記載がない会社 1 非公開会社

連結財務諸表にはKAMがあるが個別財務諸表にはKAMの記載がないという会社は129社存在した。これは主としてホールディングカンパニーだった。ホールディングスカンパニーの場合、個別財務諸表では「子会社株式の評価」が監査上論点になるはずだが、子会社の業績に問題がないような場合、それがKAMにならなかったと推定される。

KAMの記載が全くない会社は、連結財務諸表作成会社では2社(いずれも上場会社)、非連結会社で1社(非公開会社)存在した。このうち連結財務諸表作成会社2社のプロフィールは下表のとおり。

証券コード 社名 決算 業種 取引所 監査法人 監査報酬
7777 (株)スリー・ディー・マトリックス 4月末 精密
機器
JQグロース 太陽有限責任監査法人 25百万円
6786 (株)RVH 3月末 サービ
ス業
東証
二部
HLBMeisei有限責任監査法人 16百万円

KAMに記載されることが多い内容として「会計上の見積り」が挙げられるが、上記2社が有価証券報告書の【経理の状況】において「重要な会計上の見積り」を記載しているか、また、繰延税金資産や固定資産の計上額、一般的に重要な会計上の取引となる企業結合等の組織再編の有無を調査したところ下表のとおりの結果となった。

会計上の見積り : 繰延税金資産の回収可能性の判断、減損会計における将来キャッシュ・フローの見積りなど、財務諸表を作成するにあたって必要になる様々な見積りのこと。

<【経理の状況】における記載内容>
(注)継続企業の前提に関する注記あり。
記載項目 (株)スリー・ディー・マトリックス(注) (株)RVH
重要な会計上の見積り 連結 たな卸資産の評価
※たな卸資産の連結財務諸表計上金額は1,577,800千円
該当なし
個別 たな卸資産の評価
※たな卸資産の個別財務諸表計上金額は1,174,835千円
該当なし
繰延税金資産の計上 連結 該当なし 該当なし
個別
有形固定資産および無形固定資産の計上額 連結 過去に減損しており、帳簿価額はゼロ 当期に減損しており、帳簿価格は数百万程度
個別 過去に減損しており、帳簿価格ゼロ
企業結合等 連結 該当なし 該当なし
個別

減損 : 固定資産による将来の現金回収見込額が簿価を下回った場合に、下回った分だけ損失を計上すること。
継続企業の前提 : 企業が将来にわたって事業を継続していくという前提のこと。「ゴーイング・コンサーン」とも呼ばれる。

上表を踏まえると、2社においてKAMが選定されなかった理由は以下のように整理できる。

(注)(株)スリー・ディー・マトリックスはたな卸資産の評価を「重要な会計上の見積り」としているが、監査人は、KAMとして選定してない。たな卸資産の貸借対照表計上額は10億円以上あり一定程度の重要性があるようにも思えるが、KAMとして選定されなかった理由は不明である。
①(株)スリー・ディー・マトリックスは過去5年継続して最終赤字となっており、継続事業の前提の注記がある。
(株)RVHは継続企業の前提の注記はないものの、過去2年は最終赤字となっている。
②両社とも繰延税金資産の計上がない(つまり、繰延税金資産の回収可能性が重要な論点とならない)。
③有形固定資産および無形固定資産は減損されており、帳簿価額はゼロまたはほとんど残っていない(つまり、減損済みであるため、固定資産の減損の見積りが重要な論点とならない)。
④(株)RVHは、「重要な会計上の見積り」を行っていない。(注)
⑤両社とも企業結合等の組織再編行為がない。

このように、「まれ」とされるKAMの記載が全く存在しない上場会社は現状2社存在していた。もっとも、2021年3月末決算会社でKAMの平均個数は連結で1.3個、個別で1.2個となっており、それほど多いわけではない。KAMとして記載された項目数が最も多かったのは日産自動車の5個(連結)となっている。KAMは監査人が決定するものであるとはいえ、監査役等は「KAMがないと判断することはまれであり、少なくとも一つは存在する」ということを念頭に、会計監査人とコミュニケーションをとるべきだろう。

2021/09/13 新型コロナ検査に協力しない従業員への対処

新型コロナワクチンの2回接種率が急増している一方、職域接種などにより早期に2回の接種を終えた場合、ワクチンの効果が薄れる時期もそれだけ早く到来することになる。政府は「3回目」の接種を視野に入れているが、当面はPCR検査等により、感染者の早期発見、クラスターの防止を図っていくしかないだろう。

経団連は会員企業・団体に対して検査の実施を求めているが(経団連「職場における積極的な検査等の実施への協力のお願い(更新)」参照)、経団連の会員企業等でなくても、自社内に感染者がいた場合に感染拡大と事業への影響を最小限に抑え、ひいては地域医療を逼迫させないために、従業員に検査を受けさせることが望ましいと言える(なお、経団連は結果判明までおよそ1日を要するPCR検査(核酸検出検査)よりも15〜30分という短時間で結果が判明する「抗原検査」を勧めているが(ただし、PCR検査の方がより少ないウイルス量での判定が可能)、本稿ではこれらを区別せず、単に「検査」という。ただし過去に感染したことを調べる「抗体検査」は除く)。

ただ、日本に限らず諸外国でもワクチン接種を望まない人が一定数いるように、自社の従業員の中にも検査を受けたくないという者がいることも考えられる。ワクチンについては、副反応により事故が起きた場合に会社が責任を負い切れるのかという観点からも、強制することは避けるべきだが(2021年6月16日のニュース「従業員がワクチン接種を拒否した場合の対応」参照)、検査についてはどうだろうか。

まず、・・・

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