2021/08/06 ISSがポリシー改定に向け調査開始、役員報酬におけるESG指標の設定やバーチャルオンリー総会がテーマに

議決権行使助言会社最大手のISSは(2021年)7月28日、議決権行使助言基準(ポリシー)の改定を検討するにあたって機関投資家をはじめとする市場関係者を対象に毎年実施している調査「Annual Benchmark Policy Survey」を開始した。回答の〆切は8月20日となっており、ISSは本調査の結果を踏まえてポリシーの改定案の策定を進め、秋に実施するパブリックコメントを経て年内には改定案を確定する予定。

また、ISSは今回、本調査に加え、気候変動リスクに・・・

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2021/08/06 ISSがポリシー改定に向け調査開始、役員報酬におけるESG指標の設定やバーチャルオンリー総会がテーマに(会員限定)

議決権行使助言会社最大手のISSは(2021年)7月28日、議決権行使助言基準(ポリシー)の改定を検討するにあたって機関投資家をはじめとする市場関係者を対象に毎年実施している調査「Annual Benchmark Policy Survey」を開始した。回答の〆切は8月20日となっており、ISSは本調査の結果を踏まえてポリシーの改定案の策定を進め、秋に実施するパブリックコメントを経て年内には改定案を確定する予定。

また、ISSは今回、本調査に加え、気候変動リスクに関する「Climate Survey」も同時に実施している。本稿ではまず「Annual Benchmark Policy Survey」をとり上げ、グローバルなコーポレートガバナンス議論における資本市場の注目ポイントをお伝えする

Annual Benchmark Policy Surveyは大きく2つのセクション、「Global Questions」と「Region & Market Specific Questions」から構成されている。後者はローカル・ポリシーに関連するものだが、今回、日本向けポリシーは対象とされなかった。昨年の調査では取締役会の独立性および政策保有株式の水準が取り上げられ、その結果として、前者については、2019年末から指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社について導入されている「取締役の3分の1以上を社外取締役とする」ことが監査役設置会社にも求められ、後者については、「政策保有株式の保有額が純資産の20%以上の場合」を“過度な保有”とされたところ(いずれも2022年版のポリシーから適用。2020年10月20日のニュース「ISSポリシー改定、“1/3基準”全面適用確実、政策保有は更なる厳格化も」参照)。今回、日本向けポリシーが本調査の対象外となったのは、日本独自の論点については、ひとまず昨年で議論が尽くされたということなのだろう。

Region & Market Specific : 地域および市場固有の

すべての国・地域を対象とするGlobal Questionsにおいては、①役員報酬におけるESG指標、②人種平等性に対する第三者監査、③バーチャルオンリー株主総会、の3テーマが設定されている。以下、それぞれについて解説する。

バーチャルオンリー株主総会 : リアル株主総会を開催せず、全出席者が遠隔地からインターネット等で参加する株主総会。日本の会社法では、株主総会を招集するには、開催する「場所」を定めることを求めていることから(会社法298条1項1号)、実現は困難とされていたが、2021年6月19日より施行された改正産業競争力強化法において上場会社に限り会社法の特例として「場所の定めのない株主総会」の開催が可能となった。

① 役員報酬におけるESG指標
ISSは、欧州・北米・アジア太平洋における上場企業の30%近くが、役員報酬に環境(E)や社会(S)に関連したインセンティブ指標を設定していることを紹介する一方、役員報酬にESG指標を設定することには「賛否両論」があるとしたうえで、その有効性について以下の選択肢を提示している。

□ESG指標は効果的でなく、従来の財務指標のみを用いるべき
□具体的かつ測定可能であれば、ESG指標の設定は有効である
□財務的に測定できないESG指標でも、前向きな効果をもたらす
□その他(具体的に)

上述の「賛否両論」についてISSは、賛成意見として「企業がESG課題を真剣に受け止める(take ESG issues more seriously)」こと、反対意見として「明確に定義されていない活動(poorly-defined outcomes)によって役員報酬が決まる」ことを例示している。機関投資家等の間では、企業による積極的なESGへの取り組みを後押しする声がある一方、役員報酬にESG指標を設定すべきかどうかの議論のポイントは「測定可能性(measurable)」に集約されることになりそうだ。

② 人種平等性の第三者監査
ISSは、2020年に米国ミネソタ州で発生した黒人男性が白人警官に首を押さえつけられ死亡した事件を受け広がった人種差別に抗議する「Black Lives Matter(BLMと略される)」運動の拡大を契機に、多様性と人種平等の問題に企業が取り組むことを多くの株主が期待していると指摘、人種平等性に対する「第三者監査」を求める株主提案について以下の選択肢を提示している。

Black Lives Matter : 「黒人の命も大切だ」「黒人の命を粗末にするな」などと訳されることが多い。

□ほとんどの企業において、人種平等性に対する第三者監査は有用である
□企業で問題が起きているか、あるいは適切な取り組みが行われているか次第である
□人種平等性に対する第三者監査が有用な企業はほとんど存在しない

このテーマが取り上げられた背景には、今年5月に開催された株主総会で、人種平等性に対する第三者監査を求める株主提案が40%近い賛成率を集めたJPモルガン・チェースの事例があるものと見られる。ISSは「人種民族および多様性の問題はグローバルで大きく異なる(vary considerably globally)」と認めており、この種の株主提案は専らBLM運動が活発な北米企業が対象と考えて差し支えないだろう。もっとも、企業活動がボーダーレス化する中、グローバルに活動する日本企業においては決して他人事ではないかもしれない。

③ バーチャルオンリー株主総会
物理的な出席者を伴わないバーチャルオンリー総会についてISSは、株主の出席を促進する意義を認めつつも、株主の権利行使が妨げられるリスクに対する懸念を示したうえで、バーチャルオンリー総会において問題のあるプラクティスを指摘するよう投資家に求めている。具体的には以下の選択肢を提示している(複数選択可)。

□総会開催中にリアルタイムで質問ができない
□上記に加え、事前質問を送信することもできない
□参加者は総会の様子を視聴することしかできない
□株主は総会で議決権行使(または変更)ができない
□事前に登録が必要、または登録に手間がかかる
□株主提案者が総会で提案内容を説明できない
□総会の開催中にリアルタイムで動議ができない
□質疑応答ができない、質問に対する回答がない
□企業側が質問を選別する、難しい質問を避ける

動議 : (日本の会社法を前提とすると)株主総会において「株主側」から審議・採決の提案が行われること。動議には「実質的動議」と「手続的動議」の2種類がある。実質的動議とは、株主が株主総会において、株主総会の目的事項である「議題」に対して「議案」を提出することであり、手続的動議とは、議題に対してではなく、「株主総会の運営」や「議事進行」に関する株主からの提案を指す。

また、本調査では、バーチャルオンリー総会に関するこれらの懸念を表明するため、「取締役会議長または責任ある取締役全員(all responsible directors)に反対票を投じること」あるいは「反対行使ではなく懸念を伝達する(communicating concerns)こと」のいずれが妥当かについても意見を求めている。ISSは日本の今年6月の株主総会シーズンで、バーチャルオンリー総会を可能とする複数の定款変更議案に対して反対助言を行っていたことは既報のとおり(2021年6月1日のニュース「ISS、バーチャルオンリー株主総会開催に向けた定款変更議案に反対推奨」参照)。今後バーチャルオンリー総会を開催する際に上記の懸念が大きいとISSが判断した場合、役員選任議案に影響が生じる可能性もありそうだ。

2021/08/05 2021年3月期の有報で判明 「ROIC」の開示は道半ば(会員限定)

世界各国の企業のROEが低下している。経営者報酬コンサルティング等の世界的権威であるウイリス・タワーズワトソンの最新の調査によると、先進各国の主要企業のROEの中央値はすべての国で低下しており、特にフランス、ドイツで多く下落している。これはコロナ禍の影響によるもの。欧米企業のROEかつて10%台半ば〜20%ということが珍しくなかっただけに、コロナ禍のインパクトの大きさが分かる。

ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)

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こうした中で日本企業のROEが伊藤レポートの求める「8%」にほぼ達しているのは、(2018年6月)のコーポレートガバナンス・コードの改訂により、原則5-2が「自社の資本コストを的確に把握」することや「資本効率等に関する目標を提示」を求めていることが影響している可能性もある。

【原則5-2.経営戦略や経営計画の策定・公表】
経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人的資本への投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである。

資本コスト : 資本コストとは「資金提供者(債権者+株主)に対するリターン」を指す(なお、株主に対するリターンには、配当のほかキャピタルゲインも含まれる)。資金提供者に対するリターンが適切にできなければ、債権者は会社に資金の返還を求め、株主は株式を売却(=株価が下落する)せざるを得ない。したがって、会社にとって資本コストは「資金提供者に対するリターンの目標値」と言える。
資本効率 : 株主や銀行から調達した資金をどれだけ効率的に使って稼げているかを示す概念

有価証券報告書の【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】では「経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」(以下、KPI)の記載が求められているが、上場企業各社のKPIを見ると、ROE、ROAといった資本効率に関する指標も見られるが、売上高、営業利益、経常利益、当期利益といった損益計算書に関係する指標がより目に付く。しかし、上場企業の多くが「自社の資本コスト」を把握し、「資本効率等に関する目標」を提示することを求める上記コーポレートガバナンス・コード原則5-2をコンプライしている中(東証が公表している最も新しいデータ(2019年11月29日公表)によれば、東証一部・二部上場企業のコンプライ率は81.1%)、「資本効率を意識した経営」を実践していると宣言しつつ、損益計算書に関するKPIしか開示していないというのは明らかに矛盾している。こうした企業にとって、資本効率に関するKPIの開示は喫緊の課題となろう。そもそも、コーポレートガバナンス・コードで「資本コスト」を的確に把握することが求められた背景には、投資家が自身の投資した資金が効率的に利用され利益に貢献しているかどうかに関心が高いという事情があるのは言うまでもない。仮に売上高や利益が出ていても資本効率が悪ければ、より資本効率の高い分野に投資すべきというのが投資家の発想であり、投資家が政策保有株式を売却する圧力をかけるのは「資本効率が悪い」と考えているからに他ならない。このように資本コストを意識した経営は今や当然の前提となっており、株主資本コストが反映されていない損益計算書に関するKPIのみを開示している企業は投資家から「時代遅れ」と見られてもやむを得ないところだ。

ROA : Return On Assets =総資産利益率(利益/総資産)。実務上、ROAの利益には「営業利益」もしくは「事業利益」を使うことが多い。これは、総資産に対応する利益は、営業利益あるいは事業利益であるという考え方による。

上述のとおり、資本効率を表すKPIとしてROEやROAを開示している企業は少なくないが、資金提供者に対するリターンの目標値である資本コストに対する実績を表すKPIとして最も適切なのはROIC(投下資本利益率=Return On Invested Capital)だろう。ROEやROAがダメということではないが、資本コストが「負債コスト」と「株主資本コスト」の合算であることを踏まえると、ROICが最も親和性が高いということだ。これは下記の算式を見れば一目瞭然と言える。

<資本コストの算定式>
資本コスト=(1-実効税率)×(負債コスト×有利子負債)/(有利子負債+株主資本)+(株主資本コスト×株主資本)/(有利子負債+株主資本)

実効税率 : 法人税、住民税、事業税といった会社の利益に課税される税の総合的な負担率のこと。

※ここでいう「資本コスト」はWACC(加重平均資本コスト(Weighted Average Cost of Capital)と呼ばれ、負債コスト(金利)と株主資本コスト(配当+キャピタルゲイン)を加重平均して算定される。
※上記の算式で負債コスト側に(1-法人税実効税率)を乗じているのは、金利は法人税の計算上損金に算入され税負担を減らすため。言い換えれば、税負担の低減効果を反映したうえで負債コストを算出するためである。

損金 : 法人税計算の基礎となる法人所得を減らす性質の支出等のこと。損金は企業会計上の費用とおおむね一致するが、役員賞与や固定資産の減損損失など「損金には該当しない費用」もある。

そして、ROICは下記の算式により算定されることになる。

<ROICの算定式>
ROIC=税引後営業利益(=営業利益×(1-実効税率))/(有利子負債+株主資本)

ROICの分母は資本コスト(WACC)と同様、分母が「有利子負債+株主資本」となっている。つまりROICは、「負債コスト」と「株主資本コスト」の合算である資本コストに対するリターンを示しているということだ。「ROIC>資本コスト」となっていれば、企業は資本提供者の期待値を上回るリターンを生み出していることになる。

では、ROICを公表している上場企業はどれくらいあるのだろうか。当フォーラムの調査によると、2021年3月期の有価証券報告書の【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】に、「ROIC」「投下資本利益率」というキーワードが含まれていた企業は約100社だった。3月決算の上場企業数を考えれば100社という数は多いとは言えないだろう。資金提供者に対するリターンの実績示すKPIとして最も適切なROICを公表する企業の増加が望まれるところだ。

【ROIC(投下資本利益率)の開示例】
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2021/08/04 適時開示の慣習が変わる可能性

東証は2021年5月18日に『「市場機能強化に向けた検討ワーキンググループ」の設置について』と題するリリースを公表している。ワーキンググループは証券会社、機関投資家、信託銀行、データベンダー、システムベンダーにより構成され、金融庁や日本証券業協会、投資信託協会、地方の各証券取引所もオブザーバーに入っている。リリースによると、このワーキンググループは「市場を巡る環境変化や多様化する投資者のニーズに対応する観点から、中期的な現物市場の機能強化に向けた検討を行う」ために設置され、具体的には下記の項目が検討テーマに挙げられている。

(1)レジリエンス向上:再立ち上げ時間の短縮、障害時のデータ連携効率化
(2)売買制度・機能:気配制度、リスク管理機能
(3)立会時間の延伸:再発防止協議会での議論や海外市場との比較を踏まえ、午後立会終了時刻(午後3時)の後ろ倒しについて、その意義、効果、影響等
(4)大型連休対応:2019年の10連休時の議論やデリバティブの祝日取引導入を踏まえ、大型連休における取引機会の確保について、その意義、効果、影響等

レジリエンス : 回復力

ワーキンググループ設置の背景には、昨年(2020年)10月に東証で発生したシステム障害がある。そのため、システム障害が起きた場合の“回復力”の向上がワーキンググループの最大のテーマとなっている。こうした中で浮上しているのが、「午後立会終了時刻(午後3時)の後ろ倒し」だ。

周知のとおり、東証の取引時間は午前9時〜11時30分、午後12時30分〜15時と合計「5時間」だが、これは世界の主要市場の中で最も短い部類に入る。ロンドンは8時〜16時30分の「8.5時間」、オランダは9時〜17時30分の「8.5時間」、シンガポールは9時〜12時、13時〜17時の「7時間」、ニューヨークは9時30分〜16時の「6.5時間」、韓国は9時〜15時30分の「6.5時間」、香港は9時30分〜12時、13時〜16時の「5.5時間」となっている。「午後立会終了時刻(午後3時)の後ろ倒し」がテーマとなっているのは、「市場が閉まる時間がもう少し遅ければ、システム障害を市場が開いている間に回復させることができたのでは」との意見を受けたものである。

仮に「後ろ倒し」が実現した場合、上場会社への影響として想定されるのが、・・・

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2021/08/04 適時開示の慣習が変わる可能性(会員限定)

東証は2021年5月18日に『「市場機能強化に向けた検討ワーキンググループ」の設置について』と題するリリースを公表している。ワーキンググループは証券会社、機関投資家、信託銀行、データベンダー、システムベンダーにより構成され、金融庁や日本証券業協会、投資信託協会、地方の各証券取引所もオブザーバーに入っている。リリースによると、このワーキンググループは「市場を巡る環境変化や多様化する投資者のニーズに対応する観点から、中期的な現物市場の機能強化に向けた検討を行う」ために設置され、具体的には下記の項目が検討テーマに挙げられている。

(1)レジリエンス向上:再立ち上げ時間の短縮、障害時のデータ連携効率化
(2)売買制度・機能:気配制度、リスク管理機能
(3)立会時間の延伸:再発防止協議会での議論や海外市場との比較を踏まえ、午後立会終了時刻(午後3時)の後ろ倒しについて、その意義、効果、影響等
(4)大型連休対応:2019年の10連休時の議論やデリバティブの祝日取引導入を踏まえ、大型連休における取引機会の確保について、その意義、効果、影響等

レジリエンス : 回復力

ワーキンググループ設置の背景には、昨年(2020年)10月に東証で発生したシステム障害がある。そのため、システム障害が起きた場合の“回復力”の向上がワーキンググループの最大のテーマとなっている。こうした中で浮上しているのが、「午後立会終了時刻(午後3時)の後ろ倒し」だ。

周知のとおり、東証の取引時間は午前9時〜11時30分、午後12時30分〜15時と合計「5時間」だが、これは世界の主要市場の中で最も短い部類に入る。ロンドンは8時〜16時30分の「8.5時間」、オランダは9時〜17時30分の「8.5時間」、シンガポールは9時〜12時、13時〜17時の「7時間」、ニューヨークは9時30分〜16時の「6.5時間」、韓国は9時〜15時30分の「6.5時間」、香港は9時30分〜12時、13時〜16時の「5.5時間」となっている。「午後立会終了時刻(午後3時)の後ろ倒し」がテーマとなっているのは、「市場が閉まる時間がもう少し遅ければ、システム障害を市場が開いている間に回復させることができたのでは」との意見を受けたものである。

仮に「後ろ倒し」が実現した場合、上場会社への影響として想定されるのが、「適時開示」のタイミングの変化だ。現状、特に株価に影響を与える適時開示は市場が閉まる15時以降に行われる傾向が強い。これは、適時開示した情報を周知する時間をできるだけ長く確保するためである。例えば東証の市場が開く午前9時に適時開示した場合、たまたま東証のTDnet(適時開示情報閲覧サービス)や会社のホームページを見た投資家だけが開場時間中に当該情報を知ることになり、適時開示の内容が株価に適正に反映されないということにもなりかねない。そこで15時以降に適時開示すれば、翌日の朝刊にも間に合うなど、市場が閉まっている間に、より多くの投資家に対し情報を流布することができる。市場が閉まる時間が後ろ倒しされれば、それに合わせて適時開示の時間も後ろ倒しされることになるだろう。

また、上記のとおりワーキンググループでは「大型連休における取引機会の確保」も検討テーマとなっている。そのきっかけとなったのが、2019年のゴールデンウィークだ。2019年のゴールデンウィークは、新天皇の即位・改元に伴う臨時の祝日の追加により、土日を含め4月27日から5月6日まで10連休となった。このような大型連休中に市場が閉まっていることについて、「海外で日本の株式市場にも影響を与える大きな出来事が起きても日本の市場では取引ができないというのは投資家にとってリスクではないか」といった批判の声がある。こうした中、ワーキンググループでは、平日における取引と異なる制度、例えばシステムによる取引制度を導入することなどが検討されている。仮に大型連休中でも取引ができるようになれば、やはり上場会社の適時開示のあり方に影響を与えることになるだろう。例えば大型連休中に株価に影響を与えうる重要な情報をメディアが先行して不正確な形で報じるといった事態が発生した場合、取引が可能である以上は、たとえ大型連休中であっても会社は適時開示をせざるを得なくなることが考えられる。

上場会社の開示担当者は、市場が閉まる時間が後ろ倒しされれば残業を強いられ、大型連休でも株式が取引できるようになれば、休日返上で適時開示を行わなければならなくなるかもしれない。また、適時開示をするかどうかの判断は開示担当者ではできないため、経営陣も場合によっては休日返上で適時開示するかどうかの意思決定をしたうえで、開示担当者に指示を出す必要があろう。ワーキンググループは全7回の会合を設定しており、今年10月15日には議論の「取りまとめ」が予定されている。「株価に影響を与える適時開示は15時になってから」という未だに日本に残る慣習が変わるのか、議論の行方が注目される。

2021/08/03 社外取締役増員がもたらすコンプラ違反

独立社外取締役の選任を求めるコーポレートガバナンス・コード【原則4-8.独立社外取締役の有効な活用】を受け、昨今の多くの上場会社が社外取締役の増員に動いてきたが、増員により思わぬコンプライアンス違反を招くこともありうるので注意が必要だ。東証一部に上場している・・・

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2021/08/03 社外取締役増員がもたらすコンプラ違反(会員限定)

独立社外取締役の選任を求めるコーポレートガバナンス・コード【原則4-8.独立社外取締役の有効な活用】を受け、昨今の多くの上場会社が社外取締役の増員に動いてきたが、増員により思わぬコンプライアンス違反を招くこともありうるので注意が必要だ。東証一部に上場している前澤工業が2021年7月29日にリリースした内容が、まさに社外取締役の増員が結果としてコンプラ違反を招いたケースに当たる。

前澤工業のコンプラ違反とは、同社が社外取締役に支払った報酬額が株主総会決議で定めた上限額を超えていたというもの。取締役の報酬額は、定款に定めていない場合、株主総会で決議する必要があり(会社法361条1項。株主総会では総額のみを決議して、取締役会に個別具体的な金額の決定を一任することができる)、同社では2012年8月30日開催の定時株主総会において、取締役の報酬額の総額を年額200百万円以内(うち、社外取締役分は年額15百万円以内)とする決議をしていた。2021年5月期(2020年6月1日から2021年5月31日まで)の株主総会で決議された報酬総額の上限は下表(括弧内は内数)のとおりだが(非金銭報酬は別枠で決議しているため、下表には記載せず)、実際に社外取締役に支給した報酬の総額は16.5百万円と、上限の15百万円を1.5百万円上回っていた。

役職 報酬の種類 報酬総額の上限 支給金額 支給人員
取締役 基本報酬 200百万円 162百万円 11人
賞与 23百万円
(うち社外取締役) 基本報酬 (15百万円) (16.5百万円) (3人)

同社が社外取締役を1名増員して3名体制にしたのは2020年8月から(それまでは社外取締役2名の状況が数年間続いていた)であり、本来であれば増員に伴い、報酬総額の上限も引き上げておくべきであったが、行っていなかった。また、社外取締役への支給は2020年8月28日開催の取締役会における社外取締役に係る報酬決議に基づくものだが、当該取締役会決議の際に株主総会で取締役会に授権された金額の枠内であるか確認されていなかった。これらのミスが重なり、結果として会社法361条1項に違反する役員報酬が支給されていた。同社では、当該決議のうち報酬限度額を超過する部分はそもそも無効であるとして、社外取締役に対して超過部分の返還請求を行うとしている。

授権 : 株式会社の最高意思決定機関である株主総会がが、他の機関(取締役会や代表取締役等)に権限を授けること。

同社でこのミスが発覚した経緯は上記のリリースからは必ずしも明らかではないが、7月下旬は5月決算の上場会社の多くが事業報告を校了する時期であることに鑑みると、事業報告での開示に備えて取締役の報酬等の額を集計していた際に報酬限度額を超過する支払いが発覚した可能性が高い。すなわち、開示に向けた準備作業の中でコンプラ違反が発覚したということになる。

上場会社で社外取締役選任の動きが本格化したのは2014年頃からであり、それ以降に株主総会で取締役報酬の上限額の増額決議をしていない会社では、取締役報酬の上限額が社外取締役の増員に十分に対応できていない(すなわち低額のままとなっている)可能性もある。社外取締役候補者の人材プールが枯渇している中で役員報酬増額の動きもあることを考慮すると、社外取締役を増員しようという上場会社は、社外取締役選任議案を株主総会に提案する際に、報酬上限額の引上げについての議案もセットで提案することを検討するべきだろう。また、取締役会で各社外取締役の具体的な報酬額を決議する際には、株主総会で取締役会に授権された金額の枠内であることの確認を怠らないようにしたい。

2021/08/02 取締役会議長を務める社外取締役報酬の相場

改訂コーポレートガバナンス・コードとともに2021年6月11日に公表された「投資家と企業の対話ガイドライン」の改訂版(以下、改訂対話ガイドライン)では、取締役会が経営に対する監督の実効性を確保するための方策として独立社外取締役を「取締役会議長」に選任することが推奨されたところだ(改訂対話ガイドライン3-8参照)。コーポレートガバナンス・コード(およびスチュワードシップ・コード)の“附属文書”と位置付けられる対話ガイドラインは、投資家の関心事や投資家から問われる可能性のある論点を指摘・整理したものであり、必ずしも実行することが求められているわけではないが、対話ガイドラインに盛り込まれた事項は次回改訂でCGコードに盛り込まれる可能性がある。社外取締役を取締役会議長に選任している企業はここ数年で徐々に増えているが、対話ガイドライン3-8の改訂を受け、今後増加のペースが上がることも予想される。

社外取締役を取締役会議長に選任するとなった場合に検討しなければならないのが、当該社外取締役への報酬だ。取締役会議長となれば、社外取締役のみを務めているケースと比べ、業務に費やす時間は各段に増え、責任も重くなる。その分、報酬額は高くなってしかるべきだろう。経営者報酬コンサルティング等の世界的権威であるウイリス・タワーズワトソンが2021年6月末までの役員報酬の開示情報を調査した・・・

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2021/08/02 取締役会議長を務める社外取締役報酬の相場(会員限定)

改訂コーポレートガバナンス・コードとともに2021年6月11日に公表された「投資家と企業の対話ガイドライン」の改訂版(以下、改訂対話ガイドライン)では、取締役会が経営に対する監督の実効性を確保するための方策として独立社外取締役を「取締役会議長」に選任することが推奨されたところだ(改訂対話ガイドライン3-8参照)。コーポレートガバナンス・コード(およびスチュワードシップ・コード)の“附属文書”と位置付けられる対話ガイドラインは、投資家の関心事や投資家から問われる可能性のある論点を指摘・整理したものであり、必ずしも実行することが求められているわけではないが、対話ガイドラインに盛り込まれた事項は次回改訂でCGコードに盛り込まれる可能性がある。社外取締役を取締役会議長に選任している企業はここ数年で徐々に増えているが、対話ガイドライン3-8の改訂を受け、今後増加のペースが上がることも予想される。

社外取締役を取締役会議長に選任するとなった場合に検討しなければならないのが、当該社外取締役への報酬だ。取締役会議長となれば、社外取締役のみを務めているケースと比べ、業務に費やす時間は各段に増え、責任も重くなる。その分、報酬額は高くなってしかるべきだろう。経営者報酬コンサルティング等の世界的権威であるウイリス・タワーズワトソンが2021年6月末までの役員報酬の開示情報を調査した「2021年 日米欧CEOおよび社外取締役報酬比較」によると、日本企業の社外取締役報酬の中央値は1,500万円となっている(日米欧社外取締役報酬比較(2021年調査結果)【参考3】 社外取締役報酬の推移(直近3年間)参照)。1,500万円という金額について「高い」と感じる企業も少なくないと思われるが、金額が高いのは調査対象が「時価総額上位100社のうち売上高等1兆円以上の企業70社」とされているため。社外取締役報酬がこれより低い上場企業が大半と推測されるが、いずれにせよ、取締役会議長を務める社外取締役に対しては、より高い報酬を支払うのがフェアと言える。

では、具体的に、取締役会議長を務める社外取締役に対してはどれくらいの報酬を支払えばよいのだろうか。この点、日本企業は社外取締役の個別報酬を開示していないことに加え、社外取締役を取締役会議長を務めている事例が(近年増加傾向にあるとはいえ)まだ多くないため、今回のウイリス・タワーズワトソンの調査結果でも日本企業だけデータが示されていないが、欧米企業では英国の8,290万円を筆頭に、フランスが5,790万円、米国が5,240万円、ドイツが4,870万円となっている(【参考4】 取締役会議⻑を務める欧米の社外取締役報酬(2020年度)参照。米国のみ、株式報酬2,940万円を含む)。上記日米欧社外取締役報酬比較(2021年調査結果)のとおり、社外取締役報酬は、フランスが日本の1,500万円より低い940万円、英国が日本並みの1,610万円、ドイツが2,170万円、米国が3,150万円となっており、取締役会議長を務める社外取締役の報酬がいかに高いかが分かる。

これまで多くの日本企業では、取締役会議長は社長が兼務するか社長退任後の会長が務めるケースが多かったが、取締役会議長を務める社外取締役に社長や会長並みの報酬を支払うというのは考えにくい。とはいえ、仮に非業務執行の会長の報酬が1億円だった場合、取締役会議長を務める社外取締役の報酬が1千万円というのが合理的でないのは明らかだ。日本では、取締役会議長を務める社外取締役の報酬の“相場”が形成されているとはまだ言えないが、社外取締役報酬が欧米企業並みの水準となりつつある中、取締役会議長を務める社外取締役の報酬も欧米企業の水準に近付いていくことは十分考えられよう。