議決権行使助言会社最大手のISSは(2021年)7月28日、議決権行使助言基準(ポリシー)の改定を検討するにあたって機関投資家をはじめとする市場関係者を対象に毎年実施している調査「Annual Benchmark Policy Survey」を開始した。回答の〆切は8月20日となっており、ISSは本調査の結果を踏まえてポリシーの改定案の策定を進め、秋に実施するパブリックコメントを経て年内には改定案を確定する予定。
また、ISSは今回、本調査に加え、気候変動リスクに関する「Climate Survey」も同時に実施している。本稿ではまず「Annual Benchmark Policy Survey」をとり上げ、グローバルなコーポレートガバナンス議論における資本市場の注目ポイントをお伝えする
Annual Benchmark Policy Surveyは大きく2つのセクション、「Global Questions」と「Region & Market Specific Questions」から構成されている。後者はローカル・ポリシーに関連するものだが、今回、日本向けポリシーは対象とされなかった。昨年の調査では取締役会の独立性および政策保有株式の水準が取り上げられ、その結果として、前者については、2019年末から指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社について導入されている「取締役の3分の1以上を社外取締役とする」ことが監査役設置会社にも求められ、後者については、「政策保有株式の保有額が純資産の20%以上の場合」を“過度な保有”とされたところ(いずれも2022年版のポリシーから適用。2020年10月20日のニュース「ISSポリシー改定、“1/3基準”全面適用確実、政策保有は更なる厳格化も」参照)。今回、日本向けポリシーが本調査の対象外となったのは、日本独自の論点については、ひとまず昨年で議論が尽くされたということなのだろう。
Region & Market Specific : 地域および市場固有の
すべての国・地域を対象とするGlobal Questionsにおいては、①役員報酬におけるESG指標、②人種平等性に対する第三者監査、③バーチャルオンリー株主総会、の3テーマが設定されている。以下、それぞれについて解説する。
バーチャルオンリー株主総会 : リアル株主総会を開催せず、全出席者が遠隔地からインターネット等で参加する株主総会。日本の会社法では、株主総会を招集するには、開催する「場所」を定めることを求めていることから(会社法298条1項1号)、実現は困難とされていたが、2021年6月19日より施行された改正産業競争力強化法において上場会社に限り会社法の特例として「場所の定めのない株主総会」の開催が可能となった。
① 役員報酬におけるESG指標
ISSは、欧州・北米・アジア太平洋における上場企業の30%近くが、役員報酬に環境(E)や社会(S)に関連したインセンティブ指標を設定していることを紹介する一方、役員報酬にESG指標を設定することには「賛否両論」があるとしたうえで、その有効性について以下の選択肢を提示している。
□ESG指標は効果的でなく、従来の財務指標のみを用いるべき
□具体的かつ測定可能であれば、ESG指標の設定は有効である
□財務的に測定できないESG指標でも、前向きな効果をもたらす
□その他(具体的に)
上述の「賛否両論」についてISSは、賛成意見として「企業がESG課題を真剣に受け止める(take ESG issues more seriously)」こと、反対意見として「明確に定義されていない活動(poorly-defined outcomes)によって役員報酬が決まる」ことを例示している。機関投資家等の間では、企業による積極的なESGへの取り組みを後押しする声がある一方、役員報酬にESG指標を設定すべきかどうかの議論のポイントは「測定可能性(measurable)」に集約されることになりそうだ。
② 人種平等性の第三者監査
ISSは、2020年に米国ミネソタ州で発生した黒人男性が白人警官に首を押さえつけられ死亡した事件を受け広がった人種差別に抗議する「Black Lives Matter(BLMと略される)」運動の拡大を契機に、多様性と人種平等の問題に企業が取り組むことを多くの株主が期待していると指摘、人種平等性に対する「第三者監査」を求める株主提案について以下の選択肢を提示している。
Black Lives Matter : 「黒人の命も大切だ」「黒人の命を粗末にするな」などと訳されることが多い。
□ほとんどの企業において、人種平等性に対する第三者監査は有用である
□企業で問題が起きているか、あるいは適切な取り組みが行われているか次第である
□人種平等性に対する第三者監査が有用な企業はほとんど存在しない
このテーマが取り上げられた背景には、今年5月に開催された株主総会で、人種平等性に対する第三者監査を求める株主提案が40%近い賛成率を集めたJPモルガン・チェースの事例があるものと見られる。ISSは「人種民族および多様性の問題はグローバルで大きく異なる(vary considerably globally)」と認めており、この種の株主提案は専らBLM運動が活発な北米企業が対象と考えて差し支えないだろう。もっとも、企業活動がボーダーレス化する中、グローバルに活動する日本企業においては決して他人事ではないかもしれない。
③ バーチャルオンリー株主総会
物理的な出席者を伴わないバーチャルオンリー総会についてISSは、株主の出席を促進する意義を認めつつも、株主の権利行使が妨げられるリスクに対する懸念を示したうえで、バーチャルオンリー総会において問題のあるプラクティスを指摘するよう投資家に求めている。具体的には以下の選択肢を提示している(複数選択可)。
□総会開催中にリアルタイムで質問ができない
□上記に加え、事前質問を送信することもできない
□参加者は総会の様子を視聴することしかできない
□株主は総会で議決権行使(または変更)ができない
□事前に登録が必要、または登録に手間がかかる
□株主提案者が総会で提案内容を説明できない
□総会の開催中にリアルタイムで動議ができない
□質疑応答ができない、質問に対する回答がない
□企業側が質問を選別する、難しい質問を避ける
動議 : (日本の会社法を前提とすると)株主総会において「株主側」から審議・採決の提案が行われること。動議には「実質的動議」と「手続的動議」の2種類がある。実質的動議とは、株主が株主総会において、株主総会の目的事項である「議題」に対して「議案」を提出することであり、手続的動議とは、議題に対してではなく、「株主総会の運営」や「議事進行」に関する株主からの提案を指す。
また、本調査では、バーチャルオンリー総会に関するこれらの懸念を表明するため、「取締役会議長または責任ある取締役全員(all responsible directors)に反対票を投じること」あるいは「反対行使ではなく懸念を伝達する(communicating concerns)こと」のいずれが妥当かについても意見を求めている。ISSは日本の今年6月の株主総会シーズンで、バーチャルオンリー総会を可能とする複数の定款変更議案に対して反対助言を行っていたことは既報のとおり(2021年6月1日のニュース「ISS、バーチャルオンリー株主総会開催に向けた定款変更議案に反対推奨」参照)。今後バーチャルオンリー総会を開催する際に上記の懸念が大きいとISSが判断した場合、役員選任議案に影響が生じる可能性もありそうだ。