2021/06/15 監査役会設置会社・監査等委員会設置会社における指名・報酬委員会の法的位置付け(会員限定)

(2021年)6月11日に確定・施行された改訂コーポレートガバナンス・コードでは、監査役会設置会社または監査等委員会設置会社に任意の指名委員会・報酬委員会の設置を求める補充原則4-10①が見直され、「任意の」「諮問」という文言が削除される一方、「独立した指名委員会・報酬諮問委員会」が強調される形となっている。

<補充原則4-10①> ※赤字が改訂部分
上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名(後継者計画を含む)・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の指名委員会・報酬委員会など、独立した指名委員会・報酬諮問委員会を設置することにより、指名や・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり、ジェンダー等の多様性やスキルの観点を含め、これらの委員会の独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである。
特に、プライム市場上場会社は、各委員会の構成員の過半数を独立社外取締役とすることを基本とし、その委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等を開示すべきである。

「任意の」「諮問」という文言が削除されたことで、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社の指名委員会・報酬委員会が、あたかも会社法に規定される指名委員会等設置会社の指名委員会・報酬委員会と同等の位置付けとなったようにも見えるところだ。これはパブリックコメントで、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社の指名委員会・報酬委員会にも『法定の、指名委員会等設置会社における「指名委員会」「報酬委員会」と同様の機能を有する必要』があるのかどうかを確認する意見(下記の赤字部分参照)が寄せられたことからもうかがえる。

〇東証「市場区分の再編に係る第三次制度改正事項に寄せられたパブリック・コメントの結果について」170より抜粋
パブリックコメントで寄せられた意見 東証の回答
改訂前の本コードにあった「任意の指名委員会・報酬委員会」について、改訂案では「任意」の文言が削除されたが、これは、法定の、指名委員会等設置会社における「指名委員会」「報酬委員会」と同様の機能を有する必要があるという趣旨ではなく、これまでどおり、過半数を独立社外取締役とするといった要件の他は任意に機関設計可能であると考えて良いか。 ※指名委員会・報酬委員会の権限・役割等をどのように設定するかについては、各上場会社の適切な判断に委ねられているものと考えます。
※フォローアップ会議ではこれらの委員会について、いかなる権限・役割を有しているかが外部からは分かりづらいという意見が複数寄せられたことから、補充原則 4-10①において、プライム市場上場会社に対し、指名委員会・報酬委員会の委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等の開示を求めています。
※なお、指名委員会・報酬委員会の独立性に関する考え方・権限・役割等については、取締役等の指名(後継者計画を含む)・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任の強化を求めるコードの趣旨に沿って、各社において適切かつ実質的な検討が行われることが期待されます。

これに対する東証の回答は「各上場会社の判断に委ねる」旨のあっさりしたものとなっており、赤字部分に明確に回答しているとは言い難いが、補充原則4-10①の改訂後も、少なくとも監査役会設置会社や監査等委員会設置会社の指名委員会・報酬委員会が指名委員会等設置会社における指名委員会・報酬諮問委員会と全く同じ機能を持つことはできないので注意したい。

「任意の」「諮問」という文言が削除されたとはいえ、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社の指名委員会・報酬委員会が「任意の委員会」であることには変わりはない。指名委員会等設置会社における指名委員会は株主総会に提出する取締役の選任及び解任に関する議案の内容の決定(会社法404条1項)、報酬委員会は執行役等の個人別の報酬等の内容の決定(同3項)をすることができるが、これは指名委員会等設置会社における指名委員会・報酬委員会が法定の委員会だからであり、文理解釈上、任意の委員会にこれらの決定を委任することはできない。改訂補充原則4-10①では、指名委員会・報酬委員会の「権限・役割」を開示することを求めているが、その検討にあたっては指名委員会等設置会社における指名委員会・報酬委員会の権限・役割を“参考”にするとしても、「決定」権限までは付与できないという点は念頭に置いておく必要がある。

ただし、各取締役の報酬については、「取締役の個人別の報酬の内容の決定の方針」は取締役会が決議し(会社法361条7項。これは取締役会の決議事項であり、任意の委員会では決められない)、この方針に基づいて社長や任意の報酬委員会が具体的な報酬額を決定するということは実務上許容されていると考えられる(法務省「会社法の改正に伴う法務省関係政令及び会社法施行規則等の改正に関する意見募集の結果について」参照)。

2021/06/14 東証、「実施しない理由の説明が不十分or虚偽なら公表措置の対象」明記

2021年6月11日のニュース「速報 改訂CGコードおよび対話ガイドラインが確定、対話ガイドラインに重要な変更」でお伝えしたとおり、東証は6月11日、改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の確定版を公表し、同日付で施行した。パブリックコメントが実施されていたCGコード改訂案からの修正は2か所にとどまった。1つは・・・

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2021/06/14 東証、「実施しない理由の説明が不十分or虚偽なら公表措置の対象」明記(会員限定)

2021年6月11日のニュース「速報 改訂CGコードおよび対話ガイドラインが確定、対話ガイドラインに重要な変更」でお伝えしたとおり、東証は6月11日、改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の確定版を公表し、同日付で施行した。パブリックコメントが実施されていたCGコード改訂案からの修正は2か所にとどまった。1つは下記の原則5-2であり、もう1つは補充原則4-3④で「、」が削除されただけの軽微なもの。原則5-2の修正(赤字部分)もパブリックコメントで寄せられた意見を反映したものではなく、他原則(補充原則3-1③、補充原則4-2②)と用語を統一したに過ぎない。実質的には何も修正はなかったと言ってよい。

【原則5-2.経営戦略や経営計画の策定・公表】
経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人的資本への投資人材投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである。

同日に改訂版が公表された投資家と企業の対話ガイドラインでは、下記の2か所について修正が行われた。1-3はパブリックコメント(後述)で「経済安全保障についての経験や見識は近時急速に重要性を増して」いることなどの指摘を受けたもの(上記で引用のニュース参照)。2-1は上記原則5-2と平仄を合わせた修正となっている。

1-3.ESGやSDGsに対する社会的要請・関心の高まりやデジタルトランスフォーメーションの進展、サイバーセキュリティ対応の必要性、サプライチェーン全体での公正・適正な取引や国際的な経済安全保障を巡る環境変化への対応の必要性等の事業を取り巻く環境の変化が、経営戦略・経営計画等において適切に反映されているか。また、例えば、取締役会の下または経営陣の側に、サステナビリティに関する委員会を設置するなど、サステナビリティに関する取組みを全社的に検討・推進するための枠組みを整備しているか。
2-1.保有する資源を有効活用し、中長期的に資本コストに見合うリターンを上げる観点から、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けた設備投資・研究開発投資・人件費も含めた人的資本への投資人材投資等が、戦略的・計画的に行われているか。

5月7日に締め切られたパブリックコメントには637の意見が寄せられた。項目ごとの意見数は下表の通り。最も多くの意見が寄せられたのは「取締役会の機能発揮等」で175、次いで「サステナビリティを巡る課題への取組み」の121となっている。

項目 ページ 意見数
1 本コード改訂全般 1 54
2 取締役会の機能発揮等 26 175
3 企業の中核人材における多様性の確保 95 43
4 サステナビリティを巡る課題への取組み 115 121
5 グループガバナンスの在り方 187 51
6 監査に対する信頼性の確保/内部統制・リスク管理 205 57
7 株主総会関係 234 54
8 その他 249 82

ほとんどの意見に対して東証は「貴重なご意見として承ります」などとし、CGコード改訂案を修正する必要はない旨回答をしている。その理由として、下記のように、CGコードが原則主義であること、フォローアップ会議の提言が参考になること、対話ガイドラインで対応していることなどが挙げられている。

●本コードは「プリンシプルベース・アプローチ」を採用しておりますところ、具体的な開示の内容は、各社において、各社の事業を取り巻く環境等を踏まえ判断いただくことになります。
●本コードへご対応いただくに当たっては、改訂の背景にも言及したフォローアップ会議の提言もご参照いただくことが効果的となります。
●対話ガイドラインの趣旨を踏まえ、各企業においては、株主との対話等を通じて検討が進められることが期待されます。

プリンシプルベース・アプローチ : 大まかな原理・原則だけを定め、細かな運用は現場の判断に任せるという規制方法のこと。プリンシプルベース(原則主義)の反意語は「ルールベース(細則主義)」である。

一方で、いくつかの改訂原則については、上場会社がコンプライ/エクスプレインいずれの対応をとるかを検討する際に有用な考え方が示されている。以下、重要性が高いと思われるものを紹介する。

コメント(要旨) 考え方(下線は当フォーラム)
スキル・マトリックスは例示であり、各社が考える範囲で「スキル等の組み合わせ」を開示すればコンプライとなるか(4-11①) より分かりやすい開示が考えられる場合には、スキル・マトリックス以外の方法による開示を行うことも想定される
プライム市場上場会社の指名・報酬委員会は構成員の過半数が独立社外取締役であることを「基本とし」としていることから、過半数に近い人数・比率であればコンプライとなるか(4-10①) 当該「基本とする」は、委員会の構成員について、必ずしも独立社外取締役を過半数とすることのみとするのではなく、委員長を独立社外取締役とすることにより独立性を担保するということもあり得るということである
女性・外国人・中途採用者の登用について「測定可能な目標」を示す際は、数値目標でなくてもよいか(2-4①) 特定の数値を用いた目標のほか、例えば以下は「測定可能な目標」に含まれる
程度やレンジ(範囲)を用いる
●現状の数値を示した上で「現状を維持」「現状より増加させる」と示す
取締役会が自らサステナビリティの基本的な方針を策定(決議)せず、取締役会が取締役に権限を委任して方針を策定する場合であってもコンプライとなるか(4-2②) コンプライするには、自社のサステナビリティを巡る取組みについての基本的な方針を、取締役会において「策定」することが求められる
二段落目の経営資源の配分や事業ポートフォリオ戦略は、「誰が」実効的に監督を行うべきであるのかが不透明である(4-2②) 二段落目については、取締役会が実効的に監督を行うことが求められる
「独立社外取締役を含む独立性を有する者で構成された特別委員会」については、構成員の半数以上が独立性を有する者であれば足りるか(4-8③) 特別委員会については、全員が支配株主から独立性を有する者であることが必要となる
直接報告を行う仕組みを構築すること「等」であることから、「直接報告を行う仕組み」がなくてもコンプライとなるか(4-13③) 内部監査部門と取締役・監査役の連携を確保するための方法の1つとして「内部監査部門がこれらに対しても適切に直接報告を行う仕組み等」を示している

東証は今回示したパブリックコメントへの回答の中で、コーポレート・ガバナンス報告書の記載内容に不備がある場合には上場会社に対して内容を確認すること、また、実施しない理由(エクスプレイン)の説明が不十分あるいは虚偽の内容が含まれる場合には企業行動規範(有価証券上場規程436条の3)違反として公表措置等の措置の対象となる可能性があることを示している(番号22の3つめの※参照)。最近5年間、有価証券上場規程第436条の3違反による公表措置の適用事例はないが、上場会社が改訂CGコードに対応するにあたっては一定の留意が必要だろう。

2021/06/11 速報 改訂CGコードおよび対話ガイドラインが確定、対話ガイドラインに重要な変更

本日(2021年6月11日)15時30分、改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、改訂CGコード)および投資家と企業の対話ガイドライン(以下、対話ガイドライン)の“確定版”が公表された(東証のリリースはこちら)。同時に公表された改訂CGコードに対して寄せられたパブリックコメントへの回答は300ページ近くにも及ぶ長いものとなっている。

当フォーラムが報じていたとおり(2021年6月8日のニュース「上場子会社における「特別委員会」の設置の仕方と構成、審議事項」参照)、改訂案からの変更点は改訂CGコードでは字句修正のみの2か所(実質的な変更なし)、一方、対話ガイドラインには2か所修正が入り、そのうちの1か所では、・・・

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2021/06/11 速報 改訂CGコードおよび対話ガイドラインが確定、対話ガイドラインに重要な変更(会員限定)

本日(2021年6月11日)15時30分、改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、改訂CGコード)および投資家と企業の対話ガイドライン(以下、対話ガイドライン)の“確定版”が公表された(東証のリリースはこちら)。同時に公表された改訂CGコードに対して寄せられたパブリックコメントへの回答は300ページ近くにも及ぶ長いものとなっている。

当フォーラムが報じていたとおり(2021年6月8日のニュース「上場子会社における「特別委員会」の設置の仕方と構成、審議事項」参照)、改訂案からの変更点は改訂CGコードでは字句修正のみの2か所(実質的な変更なし)、一方、対話ガイドラインには2か所修正が入り、そのうちの1か所では、サステナビリティに関する新設の「1-3」において重要な追記が行われている(他の1か所は字句修正のみ)。具体的には下記の赤字部分だ。

1-3. ESGやSDGsに対する社会的要請・関心の高まりやデジタルトランスフォーメーションの進展、サイバーセキュリティ対応の必要性、サプライチェーン全体での公正・適正な取引や国際的な経済安全保障を巡る環境変化への対応の必要性等の事業を取り巻く環境の変化が、経営戦略・経営計画等において適切に反映されているか。また、例えば、取締役会の下または経営陣の側に、サステナビリティに関する委員会を設置するなど、サステナビリティに関する取組みを全社的に検討・推進するための枠組みを整備しているか。

確定版・対話ガイドラインにおける「国際的な経済安全保障を巡る環境変化への対応」との文言の追記は、昨年12月16日に自民党が公表した『提言 「経済安全保障戦略」の策定に向けて』を受けたものであることが当フォーラムの取材により確認されている。

「国際的な経済安全保障を巡る環境変化への対応」では、日本企業からの技術流出の防止などが念頭に置かれている。これまでも日本企業から海外の競合他社への技術や営業秘密の流出が問題となってきたが(2015年7月24日のニュース「訴訟増加も!営業秘密の不正使用、立証責任が転換」参照)、企業側からは「経済安全保障とサステナビリティは関係ないのではないか」との声も聞かれるが、一方で、技術流出が企業の持続性(サステナビリティ)に重大な影響を与えるとの見方もできる。改訂CGコード本体にこそ盛り込まれなかったとはいえ、「経済安全保障」が「コーポレートガバナンス」に絡んできたインパクトは小さくない。最近の中国情勢なども踏まえ、技術流出等に対する日本政府の危機感を示していると言えよう。

「国際的な経済安全保障を巡る環境変化への対応」の一つとして考えられるのは「人材採用」だ。技術流出等は人為的に行われることが多かっただけに、「国際的な経済安全保障を巡る環境変化への対応」においては、今後、重要技術に携わる従業員の採用を慎重に行うといった対応が求められる可能性があろう。このほか、仕入や売上の中国依存を減らすことを経営戦略・経営計画に反映していくことも課題となりそうだ。

2021/06/10 アクティビストに株式買い増しをしないよう求める総会議案の行方

アクティビストら「物言う株主」にはコーポレートガバナンス改革や資本効率の改善を後押しする一面があることは認めつつも、「アクティビストに自社の株式を持たれるのだけは勘弁して欲しい」というのが多くの上場会社の経営陣の本音であろう。自社の事業や業界への理解が不十分なまま短期的な利益回収を最優先しがちなアクティビストと、中長期の企業価値の向上を追求する経営陣とではそもそも考え方、価値観、スピード感が異なるため、両者の間ではどうしても軋轢が生じやすいからだ。とはいえ、上場会社である以上は誰でもその株式を証券取引所で売買できるため、外為法による規制に抵触する場合を除けば、アクティビストに株式の取得を禁止するすべはない。

外為法による規制 : 外国投資家が上場会社(指定業種に限る)の株式を1%以上取得する場合には原則として事前届出を求め、政府による審査の対象とする制度。指定業種には、武器、航空機、原子力、宇宙関連、軍事転用可能な汎用品の製造業、サイバーセキュリティ関連、電気・ガス、熱供給、通信事業、放送事業、水道、鉄道、旅客運送、生物学的製剤製造業、警備業、農林水産、石油、皮革関連、航空運輸、海運といった業種が該当する。

もっとも、上場会社がアクティビストに対し自社の株式を取得しないよう「要請」することは可能である。例えば、アクティビストが上場会社の株式を取得した後、両者が対話を行う中で企業価値向上に向けた考え方の違いが鮮明になったような場合だ。

このような交渉は水面下で行われるのが通常だが、株主総会という公の場において、「議案」の提出という形で明確に意思表示したのが・・・

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2021/06/10 アクティビストに株式買い増しをしないよう求める総会議案の行方(会員限定)

アクティビストら「物言う株主」にはコーポレートガバナンス改革や資本効率の改善を後押しする一面があることは認めつつも、「アクティビストに自社の株式を持たれるのだけは勘弁して欲しい」というのが多くの上場会社の経営陣の本音であろう。自社の事業や業界への理解が不十分なまま短期的な利益回収を最優先しがちなアクティビストと、中長期の企業価値の向上を追求する経営陣とではそもそも考え方、価値観、スピード感が異なるため、両者の間ではどうしても軋轢が生じやすいからだ。とはいえ、上場会社である以上は誰でもその株式を証券取引所で売買できるため、外為法による規制に抵触する場合を除けば、アクティビストに株式の取得を禁止するすべはない。

外為法による規制 : 外国投資家が上場会社(指定業種に限る)の株式を1%以上取得する場合には原則として事前届出を求め、政府による審査の対象とする制度。指定業種には、武器、航空機、原子力、宇宙関連、軍事転用可能な汎用品の製造業、サイバーセキュリティ関連、電気・ガス、熱供給、通信事業、放送事業、水道、鉄道、旅客運送、生物学的製剤製造業、警備業、農林水産、石油、皮革関連、航空運輸、海運といった業種が該当する。

もっとも、上場会社がアクティビストに対し自社の株式を取得しないよう「要請」することは可能である。例えば、アクティビストが上場会社の株式を取得した後、両者が対話を行う中で企業価値向上に向けた考え方の違いが鮮明になったような場合だ。

このような交渉は水面下で行われるのが通常だが、株主総会という公の場において、「議案」の提出という形で明確に意思表示したのが西松建設である。村上世彰氏グループ(株式会社シティインデックスイレブンス、株式会社エスグラントコーポレーション、株式会社南青山不動産、村上世彰氏および野村絢氏)から発行済株式の4分の1近くの株式を買い付けられた(2021年5月31日に提出された大量保有報告書に係る変更報告書によれば、村上世彰氏を除く4名の西松建設株式の保有割合は合計で23.87%)同社は、2021年6月29日に開催予定の定時株主総会に次の議案を提出した(同社の定時株主総会の招集通知参照)。

大量保有報告書に係る変更報告書 : 市場の透明性・公正性を高め、投資者保護を図ることを目的として、金融商品取引法上、株券等の大量保有者に対し提出が義務付けられている書類が大量保有報告書である。具体的には、①保有割合が5%超となった場合、②その後、保有割合が1%以上増減するなど重要な変更があった場合、それぞれ提出事由が生じた日から5営業日以内に「大量保有報告書」または「変更報告書」の提出が求められる。②の場合に提出するのが「変更報告書」である。

西松建設の2021年6月定時株主総会における第6号議案の内容
特定株主グループによる株式買増しの中止等要請に関する株主意思確認の件
当社(西松建設)取締役会が2021年5月20日付けで、特定株主グループ(村上世彰氏グループのこと)によるこれ以上の株式買増しに反対し、特定株主グループに対して、(a)当社に対する株券等保有割合または株券等所有割合の合計が25%を超える株式買増しを行わないこと(仮に既に当該合計が25%を超えている場合には、2021年5月21日以降株式買増しを行わないこと)、および、(b)仮にこれに反して株式買増しを行った場合には、当該株式買増しに係る当社株式等について、市場における売却(ToSTNeT-1の方法によるものを除く)または当社が別途合理的に指定する方法により速やかに処分することを要請(以下、本要請)したことにつき、株主の皆様のご承認及びご賛同をお願いする。なお、本議案の承認方法は、特定株主グループ及び当社の取締役等を除く出席株主の議決権の過半数の賛同によるものとする。

ToSTNeT-1 : ToSTNeTはTokyo Stock Exchange Trading NeTwork Systemの略で、東京証券取引所の立会外取引(オークション時間外の取引)のこと。オークション方式で売買すると価格形成に影響を与えかねない大口取引などの売買に用いられる。直近値から上下7%以内の価格で相手方を指定して行う「単一銘柄取引」や構成銘柄の立会市場の直近値で算出する基準代金の上下5%以内の価格で相手方を指定して行う「バスケット取引」で利用するToSTNeT-1、終値取引を行うToSTNeT-2、自己株式立会外買付を行うToSTNeT-3がある。

本議案のポイントは2つある。

まず1つ目のポイントとして、本議案の決議は「本要請を行ったことについて株主の意思を確認する」という「宣言的決議」であり、村上世彰氏グループに直接何かを求めるのではないという点が挙げられる。したがって、仮に本議案が承認されたとしても、その効果は本要請についての株主の意思が明確になるだけであり、その結果、間接的に村上世彰氏グループに本要請の遵守を促すに過ぎない。つまり、たとえ本議案が承認されたとしても、村上世彰氏グループが本要請に反して株式を買い増すことは可能ということだ。

2つ目のポイントは、本議案に対し村上世彰氏グループおよび西松建設の取締役等は議決権を持たないということ(上記の議案の内容の赤字)である。つまり、本議案に村上世彰氏グループが反対票を投じることはできない。村上世彰氏グループから議決権を取り上げたことについて西松建設は、村上世彰氏グループと一般株主グループは本議案に関して利益相反が生じていることおよび会社法831条1項3号()の趣旨に基づくものであると説明している。

 株主総会の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって著しく不当な決議がされたときは、株主総会決議の取消しの訴えができるという規定。

西松建設がこのような議案を提出するに至ったのは、このまま村上世彰氏グループが同社の株式を買い増していくと、株主総会における特別決議事項につき実質的な拒否権を有する保有割合(総議決権の1/3以上)に到達することとなるからだ。こうした状況の中、同社の独立社外取締役によって構成されている企業価値向上委員会および同社の取締役会は、仮にそうなった場合、下表の4つの理由から「一般株主とは大きく異なる利害」(ひいては自らの利益を極大化するための独自の要求施策)を有する村上世彰氏グループが、同社の中長期的な企業価値を向上させ、一般株主の利益に資するような施策に対して反対をすることでその実現を妨げる懸念があると判断した。

特別決議 : 議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、その出席株主の議決権の3分の2以上の多数による決議。例えば定款変更、事業譲渡、株式の募集、取締役会の途中解任などにはこの特別決議が必要である。

本要請をした理由 西松建設の判断
理由①
過度な自社株買付けの要求
当社(以下、西松建設を指す)が2021年5月11日に公表した「中期経営計画2023」において、連結配当性向を継続的に70%以上とすることに加え、3年間で200億円以上の自社株買いを実施する株主還元を打ち出したにもかかわらず、村上世彰氏グループは、それでは不足であるとして、当社の所有する不動産の売却等を原資として、最大で2000億円規模もの大規模な自社株公開買い付け(自社株TOB)を実施することを提案してきた。しかし、当社としては、村上世彰氏グループの要求に従い過度に自社株買いを行った場合、財務状況が悪化し、事業継続不可能な状態に陥ると考えられ、当社の企業価値を大きく毀損すると考えている。
理由②
村上世彰氏グループは短期的な利益回収に主眼を置いている
村上世彰氏グループは、当社に対する持株割合を、当社が自社株TOBによる自社株買いを行った場合に一段と有利な税効果を享受することが可能となる(みなし配当益金不算入の割合が50%から100%になる)点を理由として、当社の発行済株式等の3分の1超にまで高めたいと明言していることから、当社の持続的な成長や中長期的な企業価値の向上および一般株主の皆様の利益よりも、村上世彰氏グループが享受できる税務メリットを含めた短期的な利益(投資回収)に主眼を置いていることは明らかである。
理由③
村上世彰氏グループが企図する建設業界再編は西松建設にとってシナジーがない
村上世彰氏グループは、当社の他、並行して大豊建設、東亜建設工業、東洋建設、東急建設の株式も取得しており、建設業界における業界再編を企図しているとの報道もある。実際に、村上世彰氏グループは、当社に対して、大豊建設との間で、経営統合を含むM&Aを行うよう、繰り返し提案してきている。しかし、当社としては、村上世彰氏グループが株式を有する他の上場建設会社との経営統合案について、シナジーを見込みにくく、当社の企業価値向上に資するものではないと考えている。
理由④
村上世彰氏グループは建設事業について十分な知見を有する人材を擁していない
村上世彰氏グループは、当社の主力事業である建設事業について十分な知見を有する人材を擁していないだけでなく、現時点において、当社の経営への具体的な関与方針について何ら公表ないし説明しておらず、上記の自らのエグジットに直結する施策(自社株TOBおよび大豊建設との経営統合)を除き、当社の現経営陣との協議においても何ら十分な説明を行っていない。それにもかかわらず、村上世彰氏グループが株式買増しを続行し、当社の株主総会における特別決議事項につき実質的な拒否権を有するに至るような状況は、当社の一般株主にとって強い強圧性を有するものと考える。また、上記のとおり、建設事業につき十分な知見を有する人材を擁していない村上世彰氏グループが株式買増しを続行し、当社の株主総会における特別決議事項につき実質的な拒否権を有するに至った場合には、自らの利益を優先し、当社の中長期的な企業価値や一般株主の皆様の利益を蔑ろにするような要求等がなされることにより、建設事業を主力事業とする当社の経営方針や事業運営に重大な悪影響が及び、当社の持続的な成長またはその中長期的な企業価値および株主共同の利益の向上を阻害する可能性が生じかねないと考える。

ところが、ここから事態は大きく動く。2021年6月2日、西松建設が自ら提案した第6号議案を取り下げることを公表したのだ。これは、村上世彰氏グループが本要請の趣旨および内容について理解し、2021年5月21日以降、西松建設による2022年3月期第2四半期決算発表がなされるまでの間、村上世彰氏グループの保有割合が25%超となる買付け、株式取得を行わないことなどを内容とする合意に至ったため(同社は2021年5月27日付けで、村上世彰氏グループから「誓約書」も受領している)。

6月2日に第6号議案を取り下げることを公表したにもかかわらず、西松建設の株主総会招集通知(2021年6月9日の日付)には第6号議案が記載されているのは、単に招集通知の印刷の修正が間に合わなかったことが原因である。議決権行使書用紙の差し替えも間に合わず、議決権行使書用紙には第6号議案について賛否を示す欄が設けられてはいるものの、同社は、仮に株主が第6号議案について議決権を行使したとしても株主総会では集計しないとしている。

西松建設が第6号議案を取り下げることと引き換えに、同社は村上世彰氏グループに本要請を受諾させることに成功した一方、村上世彰氏グループも他の一般株主から「買い増しを望まない」という意思表明を突き付けられることを一旦は回避できたことになる。しかし、村上世彰氏グループが株式を買い増ししない旨を約束しているのは「2022年3月期第2四半期決算発表」までに過ぎない。また、村上世彰氏グループが現在保有している株式全部の売却を約束してくれたわけでもない。西松建設に限らず、同グループから株式を持たれている建設会社は、2022年3月期第2四半期決算の発表までにさらなる企業価値向上施策を打ち出す必要がありそうだ。

2021/06/09 TCFDを補完するTNFDがついに発足、“自然環境開示”への流れ加速

今週中にも確定すると見込まれる改訂コーポレートガバナンス・コードでは、プライム市場上場企業に対し、気候変動が自社の事業活動などに与える影響をTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)のフレームワーク等に基づき開示を求める補充原則3-1③が新設され、企業は対応に頭を悩ませているが(2021年4月7日のニュース「英文開示、気候変動開示はどこまでやればよい?」、2021年4月15日のニュース『改訂CGコード解説(4) 「中長期的な持続可能性」に関する補充原則』参照)、TCFDと類似した性格を持つTNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures=自然関連財務情報開示タスクフォース)が(2021年)6月4日、ついに発足した。

TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。

TNFDとは、・・・

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2021/06/09 TCFDを補完するTNFDがついに発足、“自然環境開示”への流れ加速(会員限定)

今週中にも確定すると見込まれる改訂コーポレートガバナンス・コードでは、プライム市場上場企業に対し、気候変動が自社の事業活動などに与える影響をTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)のフレームワーク等に基づき開示を求める補充原則3-1③が新設され、企業は対応に頭を悩ませているが(2021年4月7日のニュース「英文開示、気候変動開示はどこまでやればよい?」、2021年4月15日のニュース『改訂CGコード解説(4) 「中長期的な持続可能性」に関する補充原則』参照)、TCFDと類似した性格を持つTNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures=自然関連財務情報開示タスクフォース)が(2021年)6月4日、ついに発足した。

TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。

TNFDとは、企業等による経済活動に伴う自然や生物多様性への影響を評価・報告する「自然関連財務情報開示」のフレームワーク(枠組み)を検討する国際的な組織であり、TNFDによれば、TCFDとは“補完関係”にある。TCFDは「気候変動」に関するリスクと機会を、①ガバナンス、②戦略、③リスク管理、④指標と目標、の4つの観点から開示することを推奨しているが、TNFDは、「大気・土壌・水等の自然」と「生物多様性」に関するリスクと機会を、TCFDと同じ①〜④の観点から開示を求めることが検討されている。つまり、TCFD とTNFDの開示フレームワークはテーマ(前者が「気候変動」、後者が「自然と生物多様性」)が異なるだけで、開示の切り口は同じということだ。TNFDが自らTCFDと補完関係にあるという理由はここにある。

では、既に気候変動リスクに関する開示フレームワークのグローバルスタンダードになりつつあるTCFD同様、TNFDもグローバルスタンダードの地位を築けるだろうか。TCFDが主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やOECD(経済協力開発機構)などで構成される金融安定理事会(FSB)が設置した組織であるのに対し、TNFDは国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP-FI)、国連開発計画(UNDP)、世界自然保護基金(WWF)、英国の環境NGOであるGlobal Canopyの4つの団体が連携して立ち上げられた。国連の機関が2つ入っていることからすれば、“権威”は十分だろう。

また、今回の立ち上げではこれら4つの団体が前面に出たが、TNFDの構想自体は2020年7月に発表されており、その後2020年9月から、この構想に賛同する金融機関、企業、政府系機関、NGOなど合計74の組織とともにワーキンググループを結成し、今回の発足に向け準備を進めてきた。こうした経緯もあり、TNFDに対しては欧州系を中心とする多くの機関投資家などが賛同の意向を示している。その中には、TNFDの発足メンバーの一つである世界自然保護基金とともに2019年、G7に対し「機関投資家は、投資戦略策定において、気候変動だけでなく、自然環境までを考慮することが必要である」との提言を行ったフランスの大手生命保険会社のアクサも含まれる。

TNFDが発足前からこれだけの支持を受けているのには理由がある。「ダボス会議」で知られる世界経済フォーラムが昨年発表したレポートによれば、世界の経済価値創出額44兆ドルのうち半分以上は自然に依存しており、人類はこれまでの経済活動を通じて、野生の哺乳類の83%、植物の50%を絶滅させてきたという。このデータは、自然や生物多様性の保護が、気候変動を食い止めることに匹敵する重要性を持つことを示している。

「TCFDの開示フレームワーク」と言う場合、TCFDが2017年6月に公表した最終提言のことを指すが、発足したばかりのTNFDにはまだそれに相当するものはない。こうした中、TNFDは2022年までにフレームワークの草案を作成し、各地域やセクターにおけるテストや各国規制当局との協議等を経た上で、2023年9月以降を目途にフレームワークの開発を完了させ、広く普及させていくという。自社の活動が自然や生物多様性に与える影響が気候変動と並ぶ経営上のテーマとして大きくクローズアップされ、TNFDが企業に対しTCFDと同等のインパクトを持つようになる可能性は十分にありそうだ。

2021/06/08 上場子会社における「特別委員会」の設置の仕方と構成、審議事項

改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の確定版が今週後半に公表される見込みだ(金曜日が有力)。当フォーラムの取材によると、改訂案からの変更点は・・・

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