コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の再改訂を議論している金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、フォローアップ会議)が昨年12月18日に公表した意見書(5)「コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び 企業の中核人材の多様性の確保」(以下、意見書(5))では、以下のとおり「筆頭独立社外取締役」について検討を深めていく方向性が明確に打ち出されている(3ページ参照)。
| (本文) 筆頭独立社外取締役の設置2や独立社外取締役の取締役会議長への選任を含めた、独立社外取締役の機能向上 中略 等の論点について、今後、コーポレートガバナンス・コード改訂に向け、検討を更に深めていく。 (脚注) 2 筆頭独立社外取締役については、諸外国の事例にも鑑みれば、独立社外者間の議論・認識共有の主導、独立社外者と経営者の意思疎通の仲介、独立社外者と投資家の建設的対話の窓口・橋渡し等の機能・役割などを担うことが考えられる。 |
グローバルなコーポレートガバナンスのベスト・プラクティスと目されている英国CGコードでは、取締役会議長は非業務執行の独立社外取締役であるべきとされている一方、日本企業の大部分では経営トップが兼任している。東証のコーポレートガバナンス白書(2019)によると、東証1部上場会社の75.5%は社長が取締役会議長を務めている(73ページの図表65参照)。このような実態からすると、取締役会議長の“社外化”は時期尚早と言わざるを得ないだろう。そこでフォローアップ会議では、段階的に執行と監督を分離するための施策として、筆頭独立社外取締役の設置が検討されているものと考えられる。
コーポレートガバナンス・コードの補充原則4-8②では筆頭独立社外取締役について、『独立社外取締役は、例えば、互選により 「筆頭独立社外取締役」を決定すること などにより、経営陣との連絡・調整や監査役または監査役会との連携に係る体制整備を図るべきである』と規定しており、東証によると同原則のコンプライ率は92.1%となっている(改訂コーポレートガバナンス・コードへの対応状況及び取締役会並びに指名委員会・報酬委員会の活動状況に係る開示の状況(2019年7月12日時点)5ページ参照)。もっとも、同補充原則の「例えば」という文言が示すように、ここでは経営陣や監査役との連携等を強化するための一つの手段として筆頭独立社外取締役の設置を例示しているに過ぎず、同補充原則をコンプライした企業のうち相当数は筆頭独立社外取締役を置いていないものと思われる。
筆頭独立社外取締役の個人名とともに、補充原則4-8②が求める役割を担っていることを開示している事例として、大東建託が挙げられる。同社はコーポレートガバナンスの専門家として著名な山口利昭弁護士が筆頭独立社外取締役として「経営陣や監査役、監査役会との連携・調整」にあたっているとしている。
| 独立社外取締役3名の互選により、独立社外取締役の山口利昭氏を筆頭独立社外取締役に選定しています。 同氏が、筆頭独立社外取締役として、経営陣や監査役、監査役会との連携・調整にあたる体制を整備しています。 |
大和ハウス工業は個人名までは記載していないものの、筆頭独立社外取締役を置いていることを明示し、補充原則4-8②の要請に対応していることを開示している。
| 社外取締役は、互選により「筆頭独立社外取締役」を決定し、経営幹部との連絡・調整や監査役・監査役会との連携に係る体制整備を図る。 |
一方、積水化学工業は補充原則4-8②をコンプライしているものの、筆頭独立社外取締役は設置しておらず、取締役会事務局を管掌する取締役が、独立社外取締役と経営陣や監査役との連携の調整役を担っているとしている。
| 取締役会事務局を管掌する取締役が行う毎月の議題説明や、指名・報酬等諮問委員会の場などを活用した経営陣との情報交換、社外監査役を含む監査役会や会計監査人との定期的な情報交換などの機会を設けており、独立社外取締役と経営陣や監査役との連携を実現しています。 |
また、キリンホールディングスでは取締役に調整役を担わせず、取締役会事務局と見られる秘書部門が「連絡、調整」を行っている旨を記載するにとどまっている。
| 独立社外取締役を含む社外取締役と社内取締役及び執行役員との連絡、調整は、当社秘書部門が行う。 |
前回のCGコード改訂(2018年)では、任意の指名・報酬委員会の設置を求める補充原則4-10①において「例えば」という文言が削除されたことで、任意の指名報酬委員会を設置していない企業による同補充原則のエクスプレインが急増した。同様に今回のCGコード改訂でも、補充原則4-8②から「例えば」が削除された場合、上記の積水化学工業やキリンホールディングスのような対応であれば、エクスプレインは避けられないことになるだろう。ちなみに、東京エレクトロンは筆頭独立社外取締役がいないことをもって補充原則4-8②をエクスプレインしている。
| 当社は、情報共有のため、とくに重要な事項については、独立社外取締役及び監査役と当社執行部との間で事前に意見交換をおこなう場を設けるなど、独立社外者に対する十分な情報提供及び意見交換に努めております。なお、当社は筆頭独立社外取締役を設けておりませんが、独立社外取締役と経営陣との連絡・調整や監査役会との連携に問題はないと考えております。 |
また、大東建託や大和ハウス工業のように筆頭独立社外取締役を設置していても、今回改訂されるCGコードを問題なくコンプライするためにはなお注意を要する。意見書(5)は、筆頭独立社外取締役の機能・役割として「独立社外者と投資家の建設的対話の窓口・橋渡し」も挙げているが(上記の(脚注2)参照)、両社の開示を見る限り、両社の筆頭独立社外取締役はこの機能・役割に対応していない。改訂後の補充原則4-8②をコンプライするためには、自社における筆頭社外取締役の役割を再確認もしくは再設定したうえで、改訂後の同補充原則の趣旨に沿った対応が求められるだろう。

