2021/02/24 筆頭独立社外取締役に関する補充原則、「例えば」の削除でエクスプレイン続出も(会員限定)

コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の再改訂を議論している金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、フォローアップ会議)が昨年12月18日に公表した意見書(5)「コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び 企業の中核人材の多様性の確保」(以下、意見書(5))では、以下のとおり「筆頭独立社外取締役」について検討を深めていく方向性が明確に打ち出されている(3ページ参照)。

(本文)
筆頭独立社外取締役の設置2や独立社外取締役の取締役会議長への選任を含めた、独立社外取締役の機能向上
中略
等の論点について、今後、コーポレートガバナンス・コード改訂に向け、検討を更に深めていく。
(脚注)
2  筆頭独立社外取締役については、諸外国の事例にも鑑みれば、独立社外者間の議論・認識共有の主導、独立社外者と経営者の意思疎通の仲介、独立社外者と投資家の建設的対話の窓口・橋渡し等の機能・役割などを担うことが考えられる。

グローバルなコーポレートガバナンスのベスト・プラクティスと目されている英国CGコードでは、取締役会議長は非業務執行の独立社外取締役であるべきとされている一方、日本企業の大部分では経営トップが兼任している。東証のコーポレートガバナンス白書(2019)によると、東証1部上場会社の75.5%は社長が取締役会議長を務めている(73ページの図表65参照)。このような実態からすると、取締役会議長の“社外化”は時期尚早と言わざるを得ないだろう。そこでフォローアップ会議では、段階的に執行と監督を分離するための施策として、筆頭独立社外取締役の設置が検討されているものと考えられる。

コーポレートガバナンス・コードの補充原則4-8②では筆頭独立社外取締役について、『独立社外取締役は、例えば、互選により 「筆頭独立社外取締役」を決定すること などにより、経営陣との連絡・調整や監査役または監査役会との連携に係る体制整備を図るべきである』と規定しており、東証によると同原則のコンプライ率は92.1%となっている(改訂コーポレートガバナンス・コードへの対応状況及び取締役会並びに指名委員会・報酬委員会の活動状況に係る開示の状況(2019年7月12日時点)5ページ参照)。もっとも、同補充原則の「例えば」という文言が示すように、ここでは経営陣や監査役との連携等を強化するための一つの手段として筆頭独立社外取締役の設置を例示しているに過ぎず、同補充原則をコンプライした企業のうち相当数は筆頭独立社外取締役を置いていないものと思われる。

筆頭独立社外取締役の個人名とともに、補充原則4-8②が求める役割を担っていることを開示している事例として、大東建託が挙げられる。同社はコーポレートガバナンスの専門家として著名な山口利昭弁護士が筆頭独立社外取締役として「経営陣や監査役、監査役会との連携・調整」にあたっているとしている。

<大東建託の開示>
独立社外取締役3名の互選により、独立社外取締役の山口利昭氏を筆頭独立社外取締役に選定しています。 同氏が、筆頭独立社外取締役として、経営陣や監査役、監査役会との連携・調整にあたる体制を整備しています。

大和ハウス工業は個人名までは記載していないものの、筆頭独立社外取締役を置いていることを明示し、補充原則4-8②の要請に対応していることを開示している。

<大和ハウス工業の開示>
社外取締役は、互選により「筆頭独立社外取締役」を決定し、経営幹部との連絡・調整や監査役・監査役会との連携に係る体制整備を図る。

一方、積水化学工業は補充原則4-8②をコンプライしているものの、筆頭独立社外取締役は設置しておらず、取締役会事務局を管掌する取締役が、独立社外取締役と経営陣や監査役との連携の調整役を担っているとしている。

<積水化学工業の開示>
取締役会事務局を管掌する取締役が行う毎月の議題説明や、指名・報酬等諮問委員会の場などを活用した経営陣との情報交換、社外監査役を含む監査役会や会計監査人との定期的な情報交換などの機会を設けており、独立社外取締役と経営陣や監査役との連携を実現しています。

また、キリンホールディングスでは取締役に調整役を担わせず、取締役会事務局と見られる秘書部門が「連絡、調整」を行っている旨を記載するにとどまっている。

<キリンホールディングスの開示>
独立社外取締役を含む社外取締役と社内取締役及び執行役員との連絡、調整は、当社秘書部門が行う。

前回のCGコード改訂(2018年)では、任意の指名・報酬委員会の設置を求める補充原則4-10①において「例えば」という文言が削除されたことで、任意の指名報酬委員会を設置していない企業による同補充原則のエクスプレインが急増した。同様に今回のCGコード改訂でも、補充原則4-8②から「例えば」が削除された場合、上記の積水化学工業やキリンホールディングスのような対応であれば、エクスプレインは避けられないことになるだろう。ちなみに、東京エレクトロンは筆頭独立社外取締役がいないことをもって補充原則4-8②をエクスプレインしている。

<東京エレクトロンの開示>
当社は、情報共有のため、とくに重要な事項については、独立社外取締役及び監査役と当社執行部との間で事前に意見交換をおこなう場を設けるなど、独立社外者に対する十分な情報提供及び意見交換に努めております。なお、当社は筆頭独立社外取締役を設けておりませんが、独立社外取締役と経営陣との連絡・調整や監査役会との連携に問題はないと考えております。

また、大東建託や大和ハウス工業のように筆頭独立社外取締役を設置していても、今回改訂されるCGコードを問題なくコンプライするためにはなお注意を要する。意見書(5)は、筆頭独立社外取締役の機能・役割として「独立社外者と投資家の建設的対話の窓口・橋渡し」も挙げているが(上記の(脚注2)参照)、両社の開示を見る限り、両社の筆頭独立社外取締役はこの機能・役割に対応していない。改訂後の補充原則4-8②をコンプライするためには、自社における筆頭社外取締役の役割を再確認もしくは再設定したうえで、改訂後の同補充原則の趣旨に沿った対応が求められるだろう。

2021/02/22 【特集】〜株主からステークホルダー全体へ〜
世界中で台頭するコーポレートガバナンスの新たな考え方

野村総合研究所
上級研究員
三井千絵

 

はじめに

現在、金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」では、東証の市場改革により創設されるプライム市場上場企業向けにコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の改訂議論を進めており、既に昨年末には「取締役会の機能発揮」や「多様性の確保」に関する改訂の概要が明らかにされている。これらのテーマは従来から何年も議論されてきたが、今回は独立取締役の構成割合の引上げや多様性の確保に向けた数値目標およびその達成状況の開示などが求められる方向となっている(「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」意見書(5)参照)。

アジア諸国に比べ日本におけるCGコードの導入は遅く、金融庁等は主に英国のCGコードを手本に、日本企業のコーポレートガバナンスをグローバル基準に近づけるための取り組みを進めて来た。しかし昨今、その英国のほか、EU、さらには米国でも、一見これまでの議論を逆行させるような新たな考え方が出てきている。端的に言えば、それは「株主以外のステークホルダーのことも考えるべき」というものだ。

本稿では、この新たな考え方について、英国を中心とした海外の動向を紹介しながら、日本におけるコーポレートガバナンスのあり方を考えてみたい。

世界各国で「ステークホルダーの考慮」が論点化

これまで、コーポレートガバナンスに関する議論とは株主の利益を考えることであった。これに対し「株主以外のステークホルダーのことも考えるべき」という考え方は、英国では2018年のCGコード改定()で、米国では企業によって構成されるNPO「ビジネス・ラウンドテーブル」が2018年に公表した声明文で示され、また、2020年、2021年のダボス会議でも「ステークホルダー資本主義」として採り上げられている。さらにEUでも、「Sustainable Corporate Governance」という新たな取り組みが始まっており、その中では、「(株主以外の)ステークホルダーの考慮」もテーマの一つとして議論されている。

ダボス会議 : 1971年に発足した非営利財団「世界経済フォーラム」(本部:スイス・ジュネーブ)が毎年1月に開催する年次総会のこと。スイスの有名な保養地であるダボスで開催されることから「ダボス会議」との名前が付いた。ダボス会議には、日本の首相を含む各国を代表する政治家や実業家が一堂に会し、世界経済や環境問題など幅広いテーマについて議論するだけに、同会議における決定・公表事項は世界に強い影響力を持つ。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

 日本のCGコードについては、金融庁や東証では「改訂」という表現が使用されているが、英国CGコードについては、2018年は新たな議論に基づく内容の見直しが行われたたため、筆者はあえて「改定」という表現を使用している。

このように、世界各国でコーポレートガバナンスの新しい論点が出てきたということは、企業価値に対する考え方の変化の中で、「コーポレートガバナンスとは何を求めるものなのか」が改めて見直され始めているとも言える。

経営者に実際の行動を促す「開示」の力

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2021/02/22 【特集】〜株主からステークホルダー全体へ〜
世界中で台頭するコーポレートガバナンスの新たな考え方(3・会員限定)

S 172 statement=事業戦略のコアコンピタンス

事業には顧客がいて、サプライヤーがいて、それを実行する従業員がいる。そう考えると、S 172 statementは決して特別なことではなく、むしろ「事業戦略のコアコンピタンス」そのものであり、単にそれを説明することを求めているものとも言える。そして、それに経営者がどのように責任を負っているのか、また、それをどのように実現しようとしているのかが説明されれば、S 172 statementはまさしく投資家が企業を理解する上で価値のある情報となる。

英国はグローバルに見ても、新型コロナウイルスの感染状況が深刻だ。度重なるロックダウンの中、企業による年次報告書(アニュアルレポート)の提出期限を延長し、今年から開始予定だった年次財務報告の電子提出も延期となった。S 172 statementの開示はそのような中でスタートした。Tips of hintsの公表時、FRCのダイレクターは「S172の開示は企業のステークホルダーの重要性に光を当てており、取締役会には、特にCOVID-19により企業が現在直面している課題の中でこそ、ステークホルダーについてますます議論して欲しいと思っている。」と述べている。

企業の長期的な価値創造を実現するのは従業員

英国におけるこうした議論は、英国のCGコードを目指し、株主を第一に考えてコーポレートガバナンスに関する議論を進めてきた日本の関係者の一部を当惑させた。EUでも英国と同じような議論が行われている。EUの中にはもともと従業員代表が経営参画する仕組みを導入している国もあるが、2020年末から2021年2月にかけて上述の「Sustainable Corporate Governance」という新たなガバナンスの取り組みについてのコンサルテーションが行われており、その冒頭では「従業員や顧客などステークホルダーの利益を考慮するべきだと思うか?」という問いが投げかけられている。

しかし、ふと気付けば、このほかにも様々な点で、英国におけるコーポレートガバナンスに関する議論は日本で一般に考えられてきたことと異なっている部分がみられる。

日本では企業の「稼ぐ力」の向上という目標を実現するための手段の一つとしてCGコードの導入議論が始まったため、「長期経営」が重要であると言いながら、ROEの向上のみが重要と受け止められかねない論調もあったが、ROEという指標は長期経営との関連性がなく、こればかりに注目すると、当年度の利益を調整したり、自社株買いによって短期にROEを高く見せようというインセンティブになる危険がある。株式報酬が、株価に踊らされず冷静に経営リスクを見極めなければならない社外取締役には適さないとされる点は日本でも英国でも変わらないが、英国では、経営者の報酬が株価や当年度の利益にのみ結びつくインセンティブも見直されている。短期に利益をあげ、経営者は高い報酬を得て、株主も配当で一時的に満足しても、その利益を“作る”ために設備投資や必要な人件費を削り、サプライヤーの持続可能性も考慮せずに仕入価格を安く買い叩いていたら、結果的に長期の企業価値を下げることになり、長期投資家にとってはマイナスとなる恐れがある。

結局、長期の企業価値向上においては、実は従業員という資源をいかに活用できるかが最も重要なのかもしれない。なぜなら、従業員のインセンティブが企業価値の向上と結びついた時ほど強いものはないからだ。人材の流動化が進んでいると言っても、簡単に転職できる人材はやはり労働者全体ではごく一部であり、多くの従業員にとって所属企業の長期の成功に人生がかかっている。この点からすると、投資家と従業員は“同じ船”に乗っている。企業価値向上の恩恵を受ける者同士が力を出し合って目的を実現させていくのであれば、長期投資家と従業員がそれぞれが別の立場から、経営者が長期の企業価値向上のために十分な責務を果たしているかを監視し、また、そのためにより良い経営の実現を要求することが一番理にかなっているように思う。そう考えると、従業員をはじめとするステークホルダーの考慮を求める2018年の英国CGコード改訂は、非常に的を射た、株主の利益のためになる施策だったと言えるかもしれない。

しかし、その英国でも未だこうした考え方に冷ややかな投資家も多いと、ある年金基金のガバナンス担当者は感じているという。コーポレートガバナンスの一環としての従業員の重要性に関する議論はまだ始まったばかりであり、この考え方はどの国でもまだ広くは共有されていない。

コロナ禍に象徴されるように、社会・経済環境が移り変わる状況の中で、コーポレートガバナンスの議論も刻々と変化し、常に新しい課題が現れる。日本のCGコードも間もなく改訂されるが、改訂議論において、可能であればグローバルで議論されている新しい論点をとり入れ、また、企業に求められるものは何なのか、経営者にはどのような責任が求められるのか、そして、それらを実現するためにはどのようなガバナンスが必要なのかといった本質的な部分を、いま一度見直してみるべきではないだろうか。

3年に一度の改訂が意味あるものとなることを願う。

2021/02/22 【特集】〜株主からステークホルダー全体へ〜
世界中で台頭するコーポレートガバナンスの新たな考え方(2・会員限定)

経営者に実際の行動を促す「開示」の力

英国で2018年に実施されたCGコードの改定では、「企業の取締役は、従業員や顧客、サプライヤーの利益や環境を考慮すること」が求められることとなった。もっとも、英国においてこれは新しい概念ではなく、英国会社法のセクション172(以下、S172)には以前からこのことが規定されている。S172は2006年の会社法改正で導入されたもので、経営者の責任として、従業員や顧客、サプライヤーといったステークホルダーや環境などを考慮することを求めている。しかし、S172には「具体的にどのように実施すべきか」までは示されていなかったため、導入から10年以上経っても、いわば“経営者の心得”以上にはならなかった。

これに実効性を持たせたのは、2018年におけるCGコード改定で求められることとなった「開示」だ。改定に向けた議論において「S172が経営者の責任においてきちんと履行されることが重要ではないか」ということになり、「経営者がステークホルダーについてどのような考慮を行ったか」を年次報告書に開示するよう求められることになった。開示が求められるとなれば、経営者としても何らかの取り組みをせざるを得なくなる。具体的には、従業員や顧客、サプライヤーの声を聞き、それを経営者はどう経営上の意思決定に反映させたかを開示することが求められている。

役員報酬の高騰への不満が議論のきっかけに

英国におけるこのような取り組みのきっかけは2016年に遡る。ブレグジットの決定を経て誕生したメイ政権は、当時の政治的混乱から分裂しそうになった英国を一つにまとめるため、コーポレートガバナンス改革を重要政策の一つに掲げた。その中の一つに、役員報酬の高騰に対する社会的な不満があった。投資家からも、「経営者は投資家の声を聞かず、複雑な報酬決定方針によって、業績が悪くても、投資家としては納得できないような高額な報酬を手にしている」といった不満の声が聞かれた。

こうした中、2016年11月にBEIS(Department for Business, Energy and Industrial Strategy:ビジネス・エネルギー・産業戦略省)が公表した調査レポート「グリーン・ペーパー」では、英国のコーポレートガバナンス改革に必要なこととして、従業員と役員の報酬の比率(ペイレシオ)の開示や報酬委員会の強化などのほか、経営者に「従業員の声を聞き、顧客やサプライヤーなど(株主以外の)ステークホルダーのことも考慮し、環境に配慮した経営をさせる」ことを挙げた。また、それを実践するための取り組みの一つとして、「従業員の代表をボードメンバーに加える」ことも提言されている。

これを受け、FRC(Financial Reporting Council:英国における企業の情報開示のレギュレーター)による英国CGコードの改定議論が始まり、前述のS172を有効化するための開示がコンサルテーションを経て改定CGコードに盛り込まれ、2020年の年次報告書から開示が始まった。

コンサルテーション : 政府等が新たに法令改正や規制等の措置を講じようとする際に、利害関係者や国民等の意見を聞く手続のこと。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

なお、従業員の代表をボードメンバーに、という提案に対しては反対意見もあり、最終的には他の選択肢もあわせて導入された。社外取締役の一人が従業員の声を聞くことに責任を持つ方式、ステークホルダー・パネルを設置するといった方式だ。

ステークホルダーの考慮はビジネスモデルや事業戦略との一貫性を

ステークホルダーの考慮を求めるS172への取り組みの開示(以下、S172 Statement)が始まったことを受け、FRCは昨年(2020年)10月14日、「Tips of Help」と題した開示のガイドを公表している。

Tips of helpでは開示上の注意点として、冒頭で「“ボックス・チェッキング”にならないように」と釘を刺し、「経営者が何に取り組むのかを具体的に説明するよう」求めている。具体的には、まず自社のステークホルダーを特定した上で、ステークホルダーとの効果的なエンゲージメントの方法を示し、エンゲージメントが自社にどのようなフィードバックをもたらしたかを記載すべき内容として挙げている。そして、その際にはKPIを用いて説明することや、それらが自社のビジネスモデルや戦略にどのようにリンクしているか、また、これまでの取り組みのみならず、今後の計画についても説明することを求めている。要するに、自社の事業や戦略上重要なステークホルダーときちんとエンゲージメントを行い、その結果を説明する必要があるということだ。したがって、年次報告書の報告内容と一貫性を保つことも求められている。

FRCはTips of helpをまとめるにあたり、投資家の意見も聞いている。S 172 Statementが投資家にとって有益な情報となるには、そのステークホルダーを考慮することが「企業価値向上」のドライバーとなっており、かつ、企業のリスクを評価する上で適切な情報である必要がある。さらに、何のためにステークホルダーを考慮し、それにより何を達成しようとしているか、また、これらをどのような責任体制の下で行っているのかも説明が必要だろう。

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2021/02/19 取締役への辞任勧告事例から浮かび上がる2つの論点

JASDAQ上場会社で、監査等委員である取締役が会社の機密情報を漏洩したとして、取締役会から取締役辞任勧告を受ける騒ぎとなっている。・・・

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2021/02/19 取締役への辞任勧告事例から浮かび上がる2つの論点(会員限定)

JASDAQ上場会社で、監査等委員である取締役が会社の機密情報を漏洩したとして、取締役会から取締役辞任勧告を受ける騒ぎとなっている。

この騒動の舞台となっているのは、東京大学医科学研究所発のバイオベンチャーのテラ(JASDAQ)。2020年12月14日に開催された同社取締役会の審議内容(第三者割当増資)がインターネット上で公開されたことが発端となった。

同社取締役会は、機密情報が漏洩したのは監査等委員である取締役のF氏(厚生労働省出身の医師で、2019年11月には「にしたんクリニック」の院長に就任したものの、現在の関与状況は同クリニックのウェブサイトからは不明)が、「同氏が代表取締役を務めていた CENEGENICS JAPAN 株式会社(以下「セネ社」といいます。)を割当先とする当社の第三者割当増資にかかる審議内容を、セネ社及びその関係者に聴かせる目的で、当社取締役会に電話会議の方法で出席し、その審議内容を外部に漏洩した結果、当該関係者がこれを録音し、インターネット上に公表した」と認定し、「F氏の行為が当社取締役としての善管注意義務及び忠実義務並びに当社社内規程に違反するものであること、今後もF氏が当社の取締役として関与することにより当社に不利益を与えるおそれがあることから、本日開催の取締役会において、F氏を除く全取締役の一致により、同氏に対する辞任勧告を決議」したとしている(鍵括弧内は同社のリリースより引用。氏名のみ伏字とした)。

リリース内容の真偽や是非が明らかになるまでにはもう少し時間を要するものと思われるが、本事例から浮かび上がる2つの論点について整理しておきたい。

1つ目は、コロナ禍をきっかけに取締役会のリモート開催が一般化する中、「取締役会を録音・録画したデータがインターネット上に公表される」というリスクが高まったという点だ。以前から取締役会の「録音」はありえたが、「録画」のハードルは高かった。しかし、取締役会のリモート開催で「録画」のハードルが一気に下がることとなった。とりわけ取締役会が紛糾するようなケースでは、「録画したデータが公表される」リスクが高まる。取締役会規程を見直し、「録音、録画の禁止」の定めを置くなど対応が必要となろう。

2つ目は、取締役辞任勧告決議の意義だ。取締役会は取締役の選任機関ではないため、取締役会が取締役を解任することもできない。取締役を解任できるのは株主総会だけである(会社法339条1項)。そこで、取締役を解任するには、株主総会を開催して取締役解任議案を可決することが必要になるが、それにはいくつかハードルがある。まず、臨時株主総会を開催するには手間と費用がかかる。基準日の設定や公告が必要になるほか、株主総会の会場も確保しなければならず、招集通知も発送しなければならない。臨時株主総会の開催にはこのような「株主総会開催コスト」だけでなく、解任された取締役が会社に対し、解任によって生じた損害(解任された取締役が残りの任期中に得られたはずの役員報酬相当額)について損害賠償請求をしてくる可能性もあり(会社法339条2項)、会社はその解任には正当な理由があったとして反論しなければならないが、それにも手間と費用(弁護士費用などの「訴訟コスト」)がかかる。

基準日 : その日において株主名簿に名前が載っていれば、株主総会での議決権行使や配当を受ける権利を享受できる日のこと。

会社法339条
1項 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。
2項 前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる

こうしたコストを考慮すると、できれば不祥事を起こした取締役本人から辞意を表明(すなわち辞任)して欲しいというのが会社側の本音だろう。ただ、本人に辞める意思がないことも十分あり得る。このような場合、翻意を促すために行うのが、取締役会での取締役辞任勧告決議である。

なお、取締役会による取締役辞任勧告は、その正当性を確保するため、「本人を除く全員一致による決議(監査役による反対意見もなし)」によるべきである。一部の取締役が辞任勧告に反対している場合や監査役が難色を示している中で辞任勧告決議を強行すれば、勧告の正当性が失われると言わざるを得ない。

上場会社における取締役・監査役の辞任勧告事例は多くはないものの、いくつか見受けられる。例えば下表の事例がある(事例のすべてではない)。

辞任勧告の時期 会社名 辞任勧告の対象 辞任勧告の理由
2019年10月 ユー・エム・シー・エレクトロニクス(東証一部) 取締役 中国連結子会社を発端とする不適切な会計処理問題において、中国連結子会社の董事長であったK氏が中国における不適切な会計処理の一部を指示し、また自身が指示していない不適切な会計処理の多くについても認識または認容していたということが、同問題の調査にあたってきた外部調査委員会の調査報告書で認定されたため。また、出席監査役から辞任勧告をすべきであるとの一致した意見が出されたため。
2017年5月 テイツー(JASDAQ) 取締役 特定の取引業者に対して業務の範疇を超えた情報提供を行うとともに、当該取引業者から饗応を受ける等不適切な行為があり、社内規程に違反したため。
2011年7月 ゲオ(当時。現ゲオホールディングス。東証一部) 取締役 取締役O氏が、「内部者管理取引規程」に違反して自社株式を売却し、売却後も情報管理責任者への報告を行っていなかったため。
2008年12月 寺島薬局(東証一部のグローウェルホールディングス(現:ウエルシアホールディングス)の孫会社) 常勤監査役 取締役の職務執行に関する透明性、合理性についての業務監査が十分でなく、監査役としての適格性を欠いていたため。

社内取締役の場合、取締役という地位ではなく、社内の役職に着目し、その職を解く処分を実施することで辞意を促すという方法もある。例えばSHIFT(東証一部、当時マザーズ)では、証券取引等監視委員会を受けた取締役CFO兼経営管理本部長に対して「取締役」の辞任を勧告するのではなく、「CFO兼経営管理本部長」の職を解任する決議をしたうえで、本人による取締役辞任の申し出を受理している。

なお、不正を犯した取締役本人が辞任を渋っている場合に、本人から辞意を引き出すための交渉材料として「会社が当該取締役に損害賠償を行わないこと」を約束するのは、損害回復の安易な放棄であり、企業価値を損ねる行為であったと事後的に評価される可能性がある“悪手”なので、実行すべきではない。取締役会による辞任勧告決議を行う構えを交渉カードにして、「人(取締役会)に言われる前に自分から辞めた」という流れに持っていくのが望ましいと言えよう。

2021/02/18 世界トップ10のスーパーが標的に 「S」に関する株主提案

新型コロナウイルス感染症の世界的な流行や気候変動に起因した自然災害が投資収益に与える影響が投資家の間で強く意識されるようになった。これに伴い、ESGのうち、これまではG(ガバナンス)の影に隠れ“脇役”と位置付けられてきたE(環境)とS(社会)に対する投資家の関心が高まっていることはこれまでもお伝えしてきたところだが(2020年8月7日のニュース「コロナ禍・コロナ後のESG投資で注目される領域」参照)、Sの観点から企業の責任を問う驚きの株主提案が、・・・

ESG : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立している。

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2021/02/18 世界トップ10のスーパーが標的に 「S」に関する株主提案(会員限定)

新型コロナウイルス感染症の世界的な流行や気候変動に起因した自然災害が投資収益に与える影響が投資家の間で強く意識されるようになった。これに伴い、ESGのうち、これまではG(ガバナンス)の影に隠れ“脇役”と位置付けられてきたE(環境)とS(社会)に対する投資家の関心が高まっていることはこれまでもお伝えしてきたところだが(2020年8月7日のニュース「コロナ禍・コロナ後のESG投資で注目される領域」参照)、Sの観点から企業の責任を問う驚きの株主提案が、売上高で英国内トップ、世界でもトップ10に入る大手スーパーマーケットのテスコに対して行われた。

ESG : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立している。

株主提案の内容は、糖分や脂肪分が高い「不健康な食品」の販売を減らすよう求めるもの。その背景には、英国内で深刻化する肥満問題(特に子供の肥満)がある。具体的には、(1)食品、飲料(酒類以外)の年間販売量に「健康的な商品」が占める割合を開示するとともに、2030年までに達成を目指す当該割合の目標値(現在の割合よりも大幅に高いもの)を公表すること、(2)目標の達成に向けた進捗状況を毎年公表すること、を要求している。ここでいう「健康的な食品、飲料」とは、英国保健省が定める「脂肪分・塩分・糖分の高い食品、飲料」の定義に当てはまらないものを指す。「健康問題」に関連した株主提案は、少なくとも英国内では今回が初となる。

株主提案は、SBIホールディングスやサイバーエージェントの大株主としても登場する英国の運用機関 ジェイ・オー・ハンブロ・キャピタル・マネジメント(JO Hambro Capital Management)やオランダの大手運用機関 ロベコ(Robeco)など7つの機関投資家と101人の個人投資家により共同で行われたが、背後でこの株主提案を主導したのが、英国の非政府組織(NGO)であるシェアアクション(ShareAction)だ。シェアアクションは大手石油会社に気候変動への対応を求めるエンゲージメントや共同株主提案を行ってきたことでも知られ、昨年のテスコの株主総会では、大手年金基金と共同で、今回の株主提案と同じ内容の質問を提出していた。しかし、テスコ側に特段改善が見られなかったことから、今回株主提案に踏み切った。

テスコがターゲットとされた理由として、消費者に対し大きな影響力を持つ国内最大のスーパーマーケット(英国内における市場シェアは27%)であるにもかかわらず、健康的な食品の販売への取り組みについて、食品系のNGOから大手スーパーマーケットの中で最低ランクの評価を受けるなど、健康問題(特に肥満対策)への対応が消極的と見られているということにある。これに対しシェアアクションは、「国内最大の食品小売業者として当然に負うべき肥満対策への責任を果たしていない」と批判している。

テスコに対する今回の株主提案は、テーマの特異性のみならず、本株主提案を単なる「S」の問題にとどめることなく「財務リスク」の問題へと展開しているという点でも注目される。英国では、子供の肥満対策として2018年に砂糖入り飲料を対象とする「砂糖税」が導入されたが、さらに英国政府は、糖分・脂肪分・塩分の高い食品のセールを禁止する方針を打ち出している。このように不健康な食品に対する規制が導入される中、株主らは、テスコが現状のまま不健康な食品の販売を続ければ、同社は大きな財務上のリスクを負うと指摘している。また、英国における肥満問題の深刻化とともに健康的な食品を求める消費者は増加しており、こうしたニーズに応えないことによる機会損失にも懸念を示している。

一方、英国2位のスーパーマーケットであるセインズベリーズは、こうした投資家やNGO側の動きを察知していたかのように、テスコが株主提案で求められた食品販売量に健康的な食品が占める割合の目標やその達成に向けた進捗状況の公表(毎年)を既に開始している。今後は投資家が日本企業に対してもEやSの観点からの評価を強化してくるのは間違いない。現状、EやSの視点で自社を分析している日本企業はそれほど多くないと思われる。視点を変えて自社を分析すれば、これまで内在していた問題が明らかになることもあろう。テスコの事例のようなエスカレーション(エンゲージメントの強化(今回はそれが株主提案という形になった))を回避するためにも、早めに問題点を特定し、先回りして“火消し”に動くセインズベリーズ型の対応が望まれるところだ。

2021/02/17 見積会計基準適用開始後の「コロナ禍に関する仮定」の開示場所と方法

コロナ禍の企業経営への影響が投資家の大きな関心事であることは言うまでもない。関心事の一つが「 会計上の見積り」だ。現行の開示ルールでは、「会計上の見積りに用いた仮定」に“重要性”がある場合、これを有価証券報告書の「コロナ禍に関する仮定」を「 追加情報」において開示することが求められるが、2020年3月期の有価証券報告書等からはこの仮定に「新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定」(以下、適宜「コロナ禍に関する仮定」という)が企業会計基準員会(以下、ASBJ)の強い要請により加わったところ。すなわち、会計上の見積りに用いたコロナ禍に関する仮定に「財務諸表に重要な影響を及ぼすリスク」がある場合には、その仮定を追加情報において開示せよ、ということだ(2020年5月14日のニュース『有報作成に影響も ASBJが「コロナ収束時期の仮定」の開示を強く要請』参照)。これを受け、上場企業の約7割が追加情報においてコロナ禍に関する仮定について何らかの開示を行った。ワクチンという明るい材料が出て来たとはいえ、足元ではコロナ禍が収束に向かっているとは言えないことから、2021年3月期決算においても将来キャッシュ・フローをはじめとする会計上の見積りが困難な企業は多いはずであり、引き続き「コロナ禍に関する仮定」を開示する企業が相次ぐことが予想される。

会計上の見積り:繰延税金資産の回収可能性の判断、減損会計における将来キャッシュ・フローの見積りなど、財務諸表を作成するにあたって必要になる様々な見積りのこと。会計基準では、会計上の見積りを「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること」と定義している。
追加情報 : 利害関係人が会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する適正な判断を行うために必要と認められる事項がある場合に求められる注記のこと(財務諸表等規則第8条の5)。

ただし、2021年3月期の有価証券報告書からは、コロナ禍に関する仮定の開示場所が変わるので注意したい。・・・

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2021/02/17 見積会計基準適用開始後の「コロナ禍に関する仮定」の開示場所と方法(会員限定)

コロナ禍の企業経営への影響が投資家の大きな関心事であることは言うまでもない。関心事の一つが「会計上の見積り」だ。現行の開示ルールでは、「会計上の見積りに用いた仮定」に“重要性”がある場合、有価証券報告書の「追加情報」において開示することが求められるが、2020年3月期の有価証券報告書からはこの仮定に「新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定」(以下、適宜「コロナ禍に関する仮定」という)が企業会計基準員会(以下、ASBJ)の強い要請により加わったところ。すなわち、会計上の見積りに用いたコロナ禍に関する仮定に「財務諸表に重要な影響を及ぼすリスク」がある場合には、その仮定を追加情報において開示せよ、ということだ(2020年5月14日のニュース『有報作成に影響も ASBJが「コロナ収束時期の仮定」の開示を強く要請』参照)。これを受け、上場企業の約7割が追加情報においてコロナ禍に関する仮定について何らかの開示を行った。ワクチンという明るい材料が出て来たとはいえ、足元ではコロナ禍が収束に向かっているとは言えないことから、2021年3月期決算においても将来キャッシュ・フローをはじめとする会計上の見積りが困難な企業は多いはずであり、引き続き「コロナ禍に関する仮定」を開示する企業が相次ぐことが予想される。

会計上の見積り:繰延税金資産の回収可能性の判断、減損会計における将来キャッシュ・フローの見積りなど、財務諸表を作成するにあたって必要になる様々な見積りのこと。会計基準では、会計上の見積りを「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること」と定義している。
追加情報 : 利害関係人が会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する適正な判断を行うために必要と認められる事項がある場合に求められる注記のこと(財務諸表等規則第8条の5)。

ただし、2021年3月期の有価証券報告書からは、コロナ禍に関する仮定の開示場所が変わるので注意したい。これは、2021年3月期決算から「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(以下、見積会計基準)の適用がスタートし、「重要な会計上の見積り」という開示項目が新設されたからだ(見積会計基準の詳細は2019年11月13日のニュース「重要会計基準改正解説第一弾 見積会計基準案が公表、MD&A、KAMへの影響」参照)。見積会計基準適用後は、コロナ禍に関する仮定はこれまでの「追加情報」ではなく、新設される「重要な会計上の見積り」において開示することになるのは2020年4月10日のニュース『コロナ影響下の会計上の見積りにおける「一定の仮定」と開示』でお伝えしたとおり。また、このほどASBJが公表した第451回企業会計基準委員会(2021年2月9日開催)の議事概要では「重要な会計上の見積り」においてコロナ禍に関する仮定が開示されるのであれば、「追加情報」での開示は必要がなくなることも明記された。要するに、見積会計基準ができる前は「重要な会計上の見積り」の注記ルールがなかったため、コロナ禍に関する仮定も「追加情報」で開示するしかなかったが、見積会計基準により「重要な会計上の見積り」の注記ルールができたことに伴い、今後はコロナ禍に関する仮定を含む「重要な会計上の見積りに関する事項」は「重要な会計上の見積り」の中で開示することになったというわけだ。

見積会計基準では、「重要な会計上の見積り」として識別した項目について、①当年度の財務諸表に計上した金額、および②会計上の見積りの内容の開示が求められている。このうち「会計上の見積りの内容」については、「財務諸表利用者の理解に資するその他の情報として開示される内容」として以下のものが例示されている。

(1) 当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法
(2) 当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定
(3) 翌年度の財務諸表に与える影響

コロナ禍の影響が重要であれば、コロナ禍の影響を受ける会計上の見積り項目を識別したうえで、「新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定」を上記(2)の「当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定」として開示することになる。「重要な会計上の見積り」で開示すれば、同じ内容を改めて「追加情報」で開示する必要はない。

もう一つ気になるのが、「重要性がない」と判断した場合の開示だ。当フォーラムが上場企業各社の昨年度の有価証券報告書を調査したところ、会計上の見積りを行ううえで「重要性がない」と判断した場合であっても、財務諸表の利用者にとって有用な情報であるとして、重要性がないこと自体を「追加情報」に開示する事例がみられた。「重要な会計上の見積り」でも同様の開示(重要性がないこと自体の開示)が求められるのだろうか。

答えは、NOだ。なぜなら、「重要な会計上の見積り」は「当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスク(有利となる場合及び不利となる場合の双方が含まれる。)がある項目における会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示することを目的として開示するもの」であることが見積会計基準に明記されているため。すなわち、「重要な会計上の見積り」は重要性がないことを開示する場所ではないということだ。

とはいえ、「重要性がない」と判断したこと自体の開示が、財務諸表の利用者にとって有用な情報となることもあろう。その場合は、「重要な会計上の見積り」ではなく、従来とおり「追加情報」として開示することが考えられる。

以上をまとめれば下図のとおりとなる。

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