日本シェアホルダーサービス株式会社
研究開発/コンサルティング部
チーフコンサルタント
藤島 裕三 様
1.改正の概要
2021年3月1日に施行される改正会社法施行規則では、社外取締役に関する開示の充実を求めています。具体的には、株主総会参考書類には社外取締役に「期待される役割の概要」、事業報告には「期待される役割に関して行った職務の概要」を記載しなければならないこととされました。
<改正会社法施行規則>
社外取締役に関し、株主総会参考書類への記載が求められる事項
(取締役の選任に関する議案)
第74条 取締役が取締役(監査等委員である取締役を除く。)の選任に関する議案を提出する場合には、株主総会参考書類には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
中略
4 第一項に規定する場合において、候補者が社外取締役候補者であるときは、株主総会参考書類には、次に掲げる事項を記載しなければならない
中略
三 当該候補者が社外取締役に選任された場合に果たすことが期待される役割の概要
|
社外取締役に関し、事業報告への記載が求められる事項
(社外役員等に関する特則)
第124条 会社役員のうち社外役員である者が存する場合には、株式会社の会社役員に関する事項には、第121条に規定する事項のほか、次に掲げる事項を含むものとする。
中略
四 各社外役員の当該事業年度における主な活動状況(次に掲げる事項を含む。)
中略
ホ 当該社外役員が社外取締役であるときは、当該社外役員が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要 |
このうち株主総会参考書類への記載が求められることとなった「当該候補者が社外取締役に選任された場合に果たすことが期待される役割の概要」については、現行法上も株主総会参考書類に「当該候補者を社外取締役候補者とした理由」「経営に関与したことがない候補者であっても社外取締役としての職務を適切に遂行することができるものと当該株式会社が判断した理由」を記載することが求められているため、パブリックコメントでは「内容が重複するのではないか」との意見が寄せられていました。これに対して法務省は、「社外取締役による監督の実効性を担保するため、現行の会社法施行規則の規定による記載に加え、株式会社が社外取締役候補者に対して、どのような視点からの取締役の職務の執行の監督を期待しているかなど、株式会社が当該社外取締役候補者にどのような役割を期待しているかをより具体的に記載することを要求するものであり、このことは、文言上も明らかである。したがって、(改正施行規則の)原案は相当であると考える。」と回答しています(「会社法の改正に伴う法務省関係政令及び会社法施行規則等の改正に関する意見募集の結果について」11ページ③参照)。
また、事業報告への記載が求められることなった「当該社外役員が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要」について、「『当該社外役員が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要』(会社法施行規則第124条第4号ホ)は、実務上、会社法施行規則第124条第4号イからニまでに掲げる事項(*)の記載に尽きるため、これらの規律に加え、同号ホに掲げる事項の記載を求める必要はない。」との意見が寄せられました。
*会社法施行規則第124条第4号イ〜ニ
イ 取締役会(当該社外役員が次に掲げる者である場合にあっては、次に定めるものを含む。ロにおいて同じ。)への出席の状況
(1) 監査役会設置会社の社外監査役 監査役会
(2) 監査等委員会設置会社の監査等委員 監査等委員会
(3) 指名委員会等設置会社の監査委員 監査委員会
ロ 取締役会における発言の状況
ハ 当該社外役員の意見により当該株式会社の事業の方針又は事業その他の事項に係る決定が変更されたときは、その内容(重要でないものを除く。)
ニ 当該事業年度中に当該株式会社において法令又は定款に違反する事実その他不当な業務の執行(当該社外役員が社外監査役である場合にあっては、不正な業務の執行)が行われた事実(重要でないものを除く。)があるときは、各社外役員が当該事実の発生の予防のために行った行為及び当該事実の発生後の対応として行った行為の概要 |
これに対し法務省は、「仮に、当該社外役員が果たすことが期待される役割に関して行った職務が会社法施行規則第124条第4号イからニまでに掲げる事項と重複する場合であっても、事業報告において、社外役員が果たすことが期待される役割との関連性を示した上で、当該社外役員が行った職務の概要をより具体的に記載させることにより、当該社外取締役が期待される役割をどの程度果たしたかについて事後的に検証することを可能とし、社外取締役による監督の実効性を担保する必要がある」旨回答し、(改正施行規則の)原案は相当との考えを示しています(同46ページ②参照)。
上記法務省の回答にもあるように、社外取締役に関する開示の充実において重視されている点の一つが、「事後的な検証可能性」を高めるということです。パブリックコメントへの回答の中でも、「事後的な検証を行うことが可能となるように」という記述が3か所見られます(10ページ中段、46ページ下段、47ページ下段)。
2.社外取締役に期待される役割
また、上記で紹介したパブリックコメントに対する法務省の回答からは、「社外取締役に期待される役割」として、「取締役の職務の執行の監督」に関する内容が求められていることが分かります。現行法が株主総会参考書類への記載を求めている「当該候補者を社外取締役候補者とした理由」として、上場会社各社では、候補者の経歴や専門分野を理由に「社外取締役として適任である」と説明している事例が多く見受けられます。これに対し、今回の改正により記載が求められることとなった「社外取締役に期待される役割」では、特に社外取締役としての「監督機能」を果たすうえでどのような貢献を期待しているかが問われているということです。
社外取締役に「期待される役割」を具体的にイメージするため、コーポレートガバナンス・コードの記述を参照してみましょう。原則4-7は「独立社外取締役の役割・責務」について規定していますが、このうち(ⅱ)経営陣幹部の選解任などを通じた経営の監督、(ⅲ)利益相反の監督、が今回から求められている「取締役の職務の執行の監督」に合致していると考えられます。一方、(ⅰ)経営方針などに対する助言、(ⅳ)ステークホルダーの意見反映は「取締役の職務の執行の監督」には当たりませんので、現行法が株主総会参考書類への記載を求めている「当該候補者を社外取締役候補者とした理由」に含まれるべきものでしょう。
【原則4-7.独立社外取締役の役割・責務】
上場会社は、独立社外取締役には、特に以下の役割・責務を果たすことが期待されることに留意しつつ、その有効な活用を図るべきである。
(ⅰ)経営の方針や経営改善について、自らの知見に基づき、会社の持続的な成長を促し中長期的な企業価値の向上を図る、との観点からの助言を行うこと
(ⅱ)経営陣幹部の選解任その他の取締役会の重要な意思決定を通じ、経営の監督を行うこと
(ⅲ)会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反を監督すること
(ⅳ)経営陣・支配株主から独立した立場で、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させること |
したがって、「期待される役割」の記載内容を検討する際には、既に自社で整理済みである(はずの)原則4-7への対応方針を参照することが有効かつ必要だと言えるでしょう。同原則は非開示原則であるため、コーポレートガバナンス報告書に対応方針を記載していないケースが一般的ですが、同原則を「コンプライ」している会社においては、少なくとも社内では検討が尽くされているはずです。もし検討が不十分であったとすれば、これを機に議論を深める必要があるでしょう。
原則4-7の対応方針を任意で開示している上場会社(下表参照)もありますので、自社の対応方針が適切かどうか確認するうえで参考にしてください。(ⅱ)経営陣幹部の選解任などを通じた経営の監督については、指名・報酬委員会を通じた取締役会や経営トップに対する諮問のプロセス、(ⅲ)利益相反の監督については、会社が支配株主や経営陣と取引する場合における承認のプロセスが、「期待される役割」の記載内容を検討するうえでもポイントになると考えられます。
| |
選解任などを通じた経営の監督 |
利益相反の監督 |
| ブリヂストン |
独立社外取締役のみによって構成される指名委員会の審議も踏まえて、取締役会で経営陣の選解任を決定することとしています。 |
当社と取締役、経営陣との利益相反取引については、取締役会規程に基づき取締役会決議事項としており、取締役会メンバーである独立社外取締役も監督しています。また、当社には支配株主はおりませんが、当社株式を議決権ベースで5%以上保有する株主との間で取引を実施する場合は、取締役会規程にしたがって取締役会の承認を取得することとしています。更に、当該取引については、年に1回その実績の有無及び内容について取締役会に報告しています。 |
| 松井証券 |
社外取締役は、会社の経営戦略等の方向性や詳細な事業計画の策定といった経営の監視、社内取締役の業務執行の監督を行っています。また、取締役の選解任の立案、代表取締役及び役付取締役の選定及び解職の立案、取締役の基本報酬決定、取締役のインセンティブ報酬付与の立案等の重要な事項の判断について、指名報酬委員会の委員として関与しております。 |
社外取締役は、創業家一族が大株主として存在する状況を認識し、会社と経営陣や特定の利害関係者との間の利益相反について監督しています。 |
3.期待される役割に関して行った職務
上述のとおり、「社外取締役に期待される役割」とは、経営陣幹部の選解任など重要な意思決定や利益相反に対する監督プロセスにおいて貢献することと整理できます。また、コーポレートガバナンス・コードの原則4-6(経営の監督と執行)は「上場会社は、取締役会による独立かつ客観的な経営の監督の実効性を確保すべく、業務の執行には携わらない、業務の執行と一定の距離を置く取締役の活用について検討すべきである」としており、社外取締役はこの「取締役会による独立かつ客観的な経営の監督の実効性を確保」するプロセスにおいて、「独立かつ客観的な」監督機能を発揮することが期待されていると言えるでしょう。
したがって、「期待される役割に関して行った職務」を説明するためには、取締役会や指名・報酬委員会などにおいて、社外取締役がどのように役割を果たしたかが問われることになります。例えば、各会議体への出席の頻度(回数や割合)、職務や立場(取締役会議長、指名・報酬委員会など各委員会における独立した委員や委員長、筆頭独立社外取締役など)、監督の視点(独立性、経験、専門性など)といった事項の中から記載するものを選択、あるいは組み合わせて説明することが考えられます。
現行法上、事業報告には社外取締役の「取締役会への出席の状況」「取締役会における発言の状況」を記載することが求められていますが(上記の会社法施行規則第124条第4号イ、ロ)、前者においては、取締役会のみならず指名・報酬の委員会への出席状況も記載するべきです。後者については、各社の事業報告を見ると、「各人がその経験と見識に基づき、適宜発言を行っています」といった包括的・抽象的な記載が目に付きますが、少なくとも「期待される役割」、すなわち「監督機能」に紐づけて記載することが望ましいでしょう。
任意の取り組みとして、株主総会参考資料において社外取締役の再任候補者の過去1年間の活動状況を開示している事例も散見されます。これらの事例は、「期待される役割に関して行った職務」の記載内容を検討する際のモデルとなり得るでしょう。以下、トヨタ自動車の再任社外取締役候補者の活動状況(同社の場合、「最近の状況」と題して開示)に関する開示例を紹介しますので参考にしてください。
| 菅原 郁郎 |
菅原郁郎氏は、社外取締役として、会社から独立した立場で業務執行を監督しています。具体的には、公務員時に培われた政策立案や組織運営の経験や知見を活かし、世界各国・地域の政治情勢を重視することや、お客様の二―ズを踏まえて判断することなど、リスク管理や国際情勢の観点を中心に的確な指摘を行いました。
また、任意の委員会である役員人事案策定会議および報酬案策定会議の委員として、より客観的な報酬制度の必要性など様々な観点から積極的に発言し、適切な審議案づくりに貢献しています。
|
| Sir Philip Craven |
Sir Philip Cravenは、社外取締役として、会社から独立した立場で業務執行を監督しています。
具体的には、国際的な組織を率いた経験や知見を活かし、提携先との信頼関係を築くことや、 世界各国・地域で現場が主体的に仕事をすることなど、人材育成の観点を中心に的確な指摘を行いました。
また、任意の委員会である役員人事案策定会議および報酬案策定会議の委員として、ダイバーシティの重要性など様々な観点から積極的に発言し、適切な審議案づくりに貢献しています。
|
| 工藤 禎子 |
工藤禎子氏は、社外取締役として、会社から独立した立場で業務執行を監督しています。
具体的には、銀行で培われた成長分野への投資判断や知見を活かし、他社との提携において投資の妥当性を検証することや、世界各国・地域におけるリスクを考慮することなど、財務やリスク管理の観点を中心に的確な指摘を行いました。
また、任意の委員会である役員人事案策定会議および報酬案策定会議の委員として、背景・理由の確認を通じた妥当性検証など様々な観点から積極的に発言し、適切な審議案づくりに貢献しています。
|
4.「ミニマムの開示」と「望ましい開示」
これまでの議論をまとめるとして、今回の改正に対応した「ミニマムの開示」と「望ましい開示」について検討してみましょう。まず「ミニマムの開示」としては下記のようなものが考えられます。
<株主総会参考資料:社外取締役に選任された場合に果たすことが期待される役割>
各社外取締役候補者について、「独立かつ客観的な立場から、経営陣幹部の選解任などを通じた経営の監督および利益相反の監督機能向上に資すること」といった記載を現状の開示に追加。
<事業報告:社外取締役が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要>
現行法上開示が求められている取締役会への出席状況および締役会における発言の状況に、指名・報酬委員会への出席状況および発言状況を追加。また、いずれにおける発言状況にも、「独立かつ客観的な立場から監督機能を向上させる」という目的を強調。
もっとも、上記のような記載は、読み手である投資家にとっては物足りないものと言えるでしょう。投資家は各上場会社の経営環境や事業戦略に応じ、個々の社外取締役がどのような資質を持ち、どのように監督機能の向上に貢献しているかを知りたいからです。そのような記載がされていないからという理由で社外取締役の選任議案に反対票を投じられることは考えにくいもの、エンゲージメントの際にテーマとなる可能性は十分あります。
そこで以下では、投資家の目線に合致する「望ましい開示」について考えてみましょう。開示の内容は各社の状況に応じて異なってしかるべきですが、開示内容を検討する際のヒントとして活用してみてください。
① 社内取締役も含めた個々の取締役に「期待される役割」を記載する
現行法の下でも、「候補者とした理由」を、社外取締役に限定せず全ての取締役候補者について任意で記載している事例は多く見受けられます。今回の改正において同様に、全ての取締役について「期待される役割」を1人ひとりの経歴や資質に基づいて個別に記載するべきでしょう。その際、社内取締役についても、業務執行者としての説明に終始することなく、取締役会メンバーとして取締役会の監督機能にどう貢献するかを意識して記載することが望ましいと考えられます。
② 各取締役に「期待される役割」をスキル・マトリックスで整理して示す
取締役会が「チーム」として企業価値の向上や経営課題の解決に対応するため、各取締役にどのような役割が期待されるのかを表現するには、各取締役の資質を一覧で示すスキル・マトリックスを用いることが有効です。スキル・マトリックスの横軸に並べられたスキルや能力のうち各取締役に該当するものを各取締役に「期待される役割」の説明に用いることで、取締役会全体のスキル・セットが個々の取締役に対して「期待される役割」に落とし込まれ、全体最適な取締役会が実現していることが説明できるでしょう。
③ 「行った職務」の適切性を取締役会の実効性評価で確認する
事業報告に「期待される役割に関して行った職務」を記載する際、単に「実施しました」だけではなく、「有効に実施した」あるいは「適切に役割を果たした」など“質”が伴っていることを説明できると、なおよいでしょう。また、質が伴っていると判断した理由として、毎年実施する取締役会の実効性評価において、各取締役を選任時の「期待される役割」に沿って評価した結果、「行った職務」が適切であったことを確認した旨を添えることなども考えられます。