金融庁のスチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(以下、フォローアップ会議)は本日(2020年)12月18日、「コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び企業の中核人材の多様性の確保(スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議 意見書(5))」(以下、適宜「確定版」または「本意見書」という)を公表した。当フォーラムで報じていたとおり、12月8日に開催された第22回フォローアップ会議には本意見書の“原案”が提出されており、確定版もおおむねその内容を引き継いだものとなっている(2020年12月9日のニュース『「取締役会」「多様性」に関する改訂CGコードの“原案”の中身は?』、2020年12月17日のニュース『「取締役会」「多様性」に関する改訂CGコードの原案が確定へ』参照)。
以下では、原案からの変更点を確認しつつ、確定版の内容がコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の改訂にどのように反映されるのか、項目ごとに検討してみよう。
【はじめに】
本意見書の冒頭では、コロナ後の新たな成長のためには「迅速・果断な意思決定」を通じて企業の変革ビジョンを実行すること、そのためには「取締役会の機能発揮」や「資本コストを意識した経営」などガバナンス改革を進めることが急務であるとの意識付けがなされている。
この「はじめに」の大部分は原案のままとなっているが、確定版の末尾には、本意見書は「コンプライ・オア・エクスプレインの枠組み」の下での提言であることが追記された点、注目される。これは少なくとも本意見書のテーマである「取締役会の機能発揮」と「多様性の確保」というについては、上場規則などハード・ローによる義務付けは行われず、あくまでCGコードというソフト・ローに基づく企業の自発的な取り組みが尊重されることになる。
※赤字が原案(2020/12/8意見書案)からの変更点(以下同)
| 2020/12/8意見書案 |
2020/12/18意見書 |
| 本意見書は、これらの論点について、次期コーポレートガバナンス・コードの改訂に盛り込むべく、提言を行うものである。 |
本意見書は、これらの論点について、次期コーポレートガバナンス・コードの改訂に向け、コンプライ・オア・エクスプレインの枠組みの下、より高度なガバナンスの発揮を目指して提言を行うものである。 |
一方で、本意見書のテーマとなっていない株主総会関連の事項、例えば株主総会参考資料の英文開示や議決権行使プラットフォームの活用については、今後の議論によっては上場規則等で義務付けされる可能性が現時点では否定できない(2020年12月14日のニュース「英文開示を上場規則で義務付けるべきとの意見も」参照)。
【取締役会の機能発揮と企業の中核人材の多様性の確保についての考え方】
冒頭部分では、取締役会が重要な意思決定を行うための前提条件として、必要なスキルを「取締役会全体」で確保することが挙げられている。原案では、このスキルを「事業戦略に照らして必要な」と形容していたが、確定版ではこれに「中期的な経営の方向性」という文言が追加された。企業経営がショートターミズムに陥るべきでないことを、取締役会の構成を検討する際にも意識付ける趣旨と言えよう。
ショートターミズム : 目先のリターンばかりを求める「短期志向」のこと。
| 2020/12/8意見書案 |
2020/12/18意見書 |
| 取締役会において事業戦略に照らして必要なスキルが全体として確保されることは、取締役会がその役割・責務を実効的に果たすための前提条件と考えられる。 |
取締役会において中長期的な経営の方向性や事業戦略に照らして必要なスキルが全体として確保されることは、取締役会がその役割・責務を実効的に果たすための前提条件と考えられる。 |
今回のCGコード改訂における目玉である「独立社外取締役の3分の1以上の選任」については、予想どおり原案から変更はなかった(2020年11月19日のニュース「女性、外国人、中途採用者の管理職への登用状況等を数字で公表要求へ」参照)。これにより、CGコード原則4-8が改訂されることが確定的となった。
また、「それぞれの経営環境や事業特性等を勘案して必要と考える企業」は過半数の選任を検討するよう促している点も原案のままだが、確定版では、「それぞれの経営環境や事業特性等を勘案して必要と考える企業」における「経営環境や事業特性等」の部分に下記の注釈が加えられた。今回のCGコード改訂が東証の市場区分見直しと連動していることを踏まえると、「規模(時価総額等)」を示したのは、少なくともプライム市場における時価総額上位企業には過半数の選任を求めるメッセージとの見方もできそうだ。
| 1 業種・規模(時価総額等)・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等が考えられる。
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原案において「公表するべき」とされていたスキル・マトリックスについては、「スキル等の組み合わせ」を示す“一例”へと位置付けが変更された。取締役会が備えるべきスキル等は「事業戦略に照らして」決まってくるものであり、各社各様であるため、それを説明する手法についても自由度を高めたということだろう。例えば、株主総会参考書類の取締役選任議案における「選任の理由」において、それぞれに期待するスキルを説明することなどが考えられよう。「スキル」関連の部分は、CGコード補充原則4-11①の改訂につながるものとみられる。
| 2020/12/8意見書案 |
2020/12/18意見書 |
| また、上場企業は、取締役の選任に当たり、事業戦略に照らして取締役会が備えるべきスキルを特定し、その上で、各取締役の有するスキルの組み合わせ(いわゆる「スキルマトリックス」)を公表するべきである。 |
また、上場企業は、取締役の選任に当たり、事業戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル等を特定し、その上で、いわゆる「スキル・マトリックス」をはじめ経営環境や事業特性等に応じた適切な形で社内外の取締役の有するスキル等の組み合わせを公表するべきである。 |
今後のフォローアップ会議で検討する事項として、①指名委員会、②報酬委員会、③独立社外取締役、④取締役会評価、が挙げられているが、このうち①②について、確定版では「独立性の高い」との文言が追加された。CGコード補充原則4-10①が改訂につながるものとみられる。「独立性の高い」委員会と言うには、具体的には、委員会の過半数を独立社外取締役とすることが想定されるが、これに加えて、委員長(議長)を独立社外取締役とする、委員会の構成員にCEOを含めない、ことも選択肢となろう。
| 2020/12/8意見書案 |
2020/12/18意見書 |
・指名委員会(法定・任意)の設置と機能向上(候補者プールの充実等の CEO選解任機能の強化、活動状況の開示の充実)
・報酬委員会(法定・任意)の設置と機能向上(企業戦略と整合的な報酬体系の構築、活動状況の開示の充実) |
・独立性の高い指名委員会(法定・任意)の設置と機能向上(候補者プールの充実等の CEO や取締役の選解任機能の強化、活動状況の開示の充実)
・独立性の高い報酬委員会(法定・任意)の設置と機能向上(企業戦略と整合的な報酬体系の構築、活動状況の開示の充実) |
筆頭独立社外取締役については、原案にあった「投資家との対話の窓口となる」との文言が削除された。これにより企業への要求が弱まったとの見方もできる一方、「筆頭独立社外取締役に限らず社外取締役は皆、投資家と対話しなければならない」という発想に基づく修正でもあるようだ。その意味では、企業にとってはむしろ負担が増す修正とも言える。また、「筆頭独立社外取締役の設置」と「独立社外取締役の取締役会議長への選任」が並列に記載されていることからは、筆頭独立社外取締役に取締役会議長職を含む広範かつ重要な役割を担うことを求めていることがうかがえる。
| 2020/12/8意見書案 |
2020/12/18意見書 |
| ・投資家との対話の窓口となる筆頭独立社外取締役の設置、独立社外取締役の議長選任等 |
・筆頭独立社外取締役の設置や独立社外取締役の取締役会議長への選任を含めた、独立社外取締役の機能向上 |
また、確定版では、独立社外取締役の機能・役割について、下記のとおり注釈が追加されている。具体的には、①独立社外者間の議論・認識共有の主導、②独立社外者と経営者の意思疎通の仲介、③独立社外者と投資家の建設的対話の窓口・橋渡し、等とされた。現行のCGコード補充原則4-8②は、「例えば」と前置きしたうえで、「経営陣との連絡・調整や監査役または監査役会との連携」役として筆頭独立社外取締役に言及するにとどまっているが、改訂CGコードでは、この「例えば」という文言が削除され、さらに筆頭独立社外取締役の機能・役割として下記注釈の各事項が明記される可能性もあろう。
| 筆頭独立社外取締役については、諸外国の事例にも鑑みれば、独立社外者間の議論・認識共有の主導、独立社外者と経営者の意思疎通の仲介、独立社外者と投資家の建設的対話の窓口・橋渡し等の機能・役割などを担うことが考えられる。
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【企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保】
取締役会および経営陣、さらには管理職に至るまで、多様性を確保するための仕組み作りや社内環境の整備が重要であることについては、原案の内容がそのまま確定版に引き継がれている。ただし、多様性の確保に責任を持つ主体として、取締役会が「取組みの促進・監督」において主導的な役割を果たすべきとの記述が確定版において追記された。
| 2020/12/8意見書案 |
2020/12/18意見書 |
| 多様な働き方やキャリア形成を受け入れた上で、社員のスキルや成果が公正に評価され、それに応じた役職・権限、報酬、機会を得る仕組みの整備が求められる。 |
多様な働き方やキャリア形成を受け入れた上で、社員のスキルや成果が公正に評価され、それに応じた役職・権限、報酬、機会を得る仕組みの整備が求められる。こうした多様性の確保に向けては、取締役会が、主導的にその取組みを促進し監督することが期待される。 |
社内における多様性の確保については、現状ではCGコード原則2-4で「社内における女性の活躍促進を含む多様性の確保」を推進すべきとされているが、今回のCGコードの改訂により、「外国人」「中途採用者」が加わる可能性が高い。
また、取締役会の責任については、CGコード補充原則2-3①がサステナビリティー(持続可能性)を巡る課題について取締役会に「積極的・能動的に取り組む」ことを求めているのと同様、新たに補充原則2-4①が創設されることも考えられよう。