2020/12/23 表のスキル・マトリックスと裏のスキル・マトリックス(会員限定)

既報のとおり、来春に実施されるコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の改訂により、上場企業にいわゆる「スキル・マトリックス」をはじめ経営環境や事業特性等に応じた適切な形で社内外の取締役の有するスキル等の組み合わせの開示が求められる方向となった(2020年12月18日のニュース「改訂CGコードの一部内容が確定 時価総額大きければ過半数の社外取締役も」を参照)。スキル・マトリックス未開示の上場企業は、どのような開示をすれば「経営環境や事業特性等に応じた適切な形」となるのか検討する必要があるが、その際に認識しておきたいのは、2020年6月19日のニュース「“お家騒動”で双方が異なるスキル・マトリックスを示す事態に」で紹介した天馬の事例のように、スキル・マトリックスは取り上げる項目(切り口)次第でいかようにも見え方が変わる代物であるということだ。例えば以下のようなケースが考えられる。

(1)会社が作成したスキル・マトリックスで採用されている切り口(項目)は経営戦略を踏まえて選定されたものであり、当該スキル・マトリックス上は、会社提案の各取締役のスキルがバランス良く配置されている。一方、会社提案の取締役の選任を否決するために株主が作成したスキル・マトリックスでは異なる切り口が採用されており、これによると会社提案の各取締役のスキルには大きな偏りがあるように見える(これに対し、株主提案の各取締役のスキルはバランス良く配置されている)。
(2)会社が作成したスキル・マトリックスの切り口は、会社提案の取締役候補の選任の適切さを株主にアピールするために偏向したもの(=切り口と経営戦略が一致していない)となっている。このため、投資家から経営戦略との整合性について質問を受けたり、株主提案でより適切な人選を求められたりすることとなった。

(1)のケースでは会社が作成したスキル・マトリックスの切り口が経営戦略と一致する適切なものである以上、堂々と株主と対峙すればよい。一方、(2)のケースではそもそも切り口が現状肯定を目的とした偏ったものであることから、投資家等に正面から反論された場合、会社提案の取締役候補の選任が危うくなる可能性がある。

とはいえ、実際のところ、経営戦略に沿った切り口のスキル・マトリックスを綺麗に埋めるよう取締役を選任できている企業はそれほど多くないはずだ。そこで、現状ではやや無理のある切り口のスキル・マトリックスを作成せざるを得ない企業にとって参考になる投資家の意見を紹介しよう。

※2020年11月18日に開催された第21回「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」の議事録より該当部分を抜粋
私も多くの社外取締役の方と面談をしていますけれども、まだまだ、例えばコーポレートガバナンス・コードができる前に経営をされていた方なんかは、その当時の自分の経営スタイルで社外取締役として座っていらっしゃる、アドバイスされるということがあって、株主からするとちょっと違うなという部分があります。そういう意味では、まず、委員会の実効性評価というのをしていただきたい。特に指名委員会の実効性評価をしていただきたいんですけれども、その視点として、まず、企業の長期戦略等々、スキル・マトリックスという言葉がいろんな方から出ましたけれども、マトリックスの項目というのが大事で、項目とこの戦略の方向性は合っているのかということです。ある会社では、開示用のスキル・マトリックスと、裏というんですかね、指名委員会で使っているスキル・マトリックスが違うということがありました。ここでは、開示用は今の現状肯定型、現状を説明するもの。ただし、実際に指名委員会で使っているのは本来どうあるべきかというスキル・マトリックスになっています。ですから、これを全ての会社でやってもらわないといけないんだと思います。ただ、本来あるものと今とのギャップが大きい場合に、本来あるスキル・マトリックスで穴だらけのものは見せられないと思うので、指名委員会はそういったものをちゃんと活用しているのかどうかということを実効性評価で開示していただくというようなことが必要かなと考えます。(三瓶メンバーの発言)

このように「開示用のスキル・マトリックス」と「指名委員会で使うスキル・マトリックス」という表(現実)と裏(理想)の2つのスキル・マトリックスを作り、指名委員会では両スキル・マトリックスを比べて自社の取締役会に欠けているスキルを認識した上で、これを埋める人選に取り組むことにより、将来的には表と裏のスキル・マトリックスが一致することとなる。「開示用のスキル・マトリックス」の作成・開示だけでスキル・マトリックス関連の改訂コーポレートガバナンス・コード対応が済むと考えるのは早計と言えよう。

2020/12/22 IFRS財団による「サステナビリティ報告基準」開発が日本企業に与える影響

日本企業は、会社法・金融商品取引法の要請により株主・投資家向けに「財務報告」開示を行っているが、近年はこれとは別に「非財務報告(≒サステナビリティ報告)」を行う企業が増加している。非財務報告とは、株主や投資家など資本市場関係者のみならず、これら以外のステイクホルダー(取引先・顧客・地域社会・NGOなど)の要請に応えるもの。大手企業は、投資家・資本市場向けには統合報告書を、それ以外のステイクホルダー向けにはサステナビリティ報告書を作成することが多いが、サステナビリティ報告基準が乱立している状況を踏まえ(2020年10月9日のニュース「ESG情報開示の共通化、既存のフレームワークを活かす流れ」参照)・・・

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2020/12/22 IFRS財団による「サステナビリティ報告基準」開発が日本企業に与える影響(会員限定)

日本企業は、会社法・金融商品取引法の要請により株主・投資家向けに「財務報告」開示を行っているが、近年はこれとは別に「非財務報告(≒サステナビリティ報告)」を行う企業が増加している。非財務報告とは、株主や投資家など資本市場関係者のみならず、これら以外のステイクホルダー(取引先・顧客・地域社会・NGOなど)の要請に応えるもの。大手企業は、投資家・資本市場向けには統合報告書を、それ以外のステイクホルダー向けにはサステナビリティ報告書を作成することが多いが、サステナビリティ報告基準が乱立している状況を踏まえ(2020年10月9日のニュース「ESG情報開示の共通化、既存のフレームワークを活かす流れ」参照)、IFRS(国際財務報告基準)の母体であるIFRS財団が、従来の財務報告基準に加え、“サステナビリティ報告基準”の開発に乗り出している。日本でもIFRSを採用する企業が増加しているように(東証の調査によると、2020年12月現在のIFRS適用済・適用決定会社数は229社 ※2019年11月時点では216社)、IFRS財団の影響力は大きいだけに、この動きが日本企業にどのような影響を与えるのか、気になるところだ。

IFRS財団は(2020年)9月30日に市中協議文書「サステナビリティ報告」(以下、協議ペーパー)を公表し、12月31日を締切りとして意見募集を行っている。協議ペーパーでは、国際会計基準(IFRS)の開発を担ってきたIFRS財団の下に、新たなサステナビリティ基準審議会(Sustainability Standards Board; SSB)を設置して、他の基準設定主体(米国SASBTCFDなど)と協力してサステナビリティ報告基準を開発する方向性が示されている。また、サステナビリティ報告基準開発の目的について、「SSBの目的は、最初は気候関連リスクに焦点を当てたサステナビリティ報告基準の国際的なセットを開発し、維持管理することにある」(24項)としている。気候変動は非財務要素の中でも最も投資家の関心が高く、緊急性の高いテーマであるとともに、既に多くの基準が開発されており、国際的に統一した基準を作るという観点から最優先で取り組むべきテーマであるとIFRS財団は考えたようだ。グリーンニューディールを掲げる欧州の意向も強く反映されているものと思われる。

SASB : Sustainability Accounting Standards Board(サステナビリティ会計基準審議会)の略称で、2011年に米国サンフランシスコを拠点に設立された非営利団体。企業の情報開示の質向上に寄与し、中長期視点の投資家の意思決定に貢献することを目的に、将来的な財務インパクトが高いと想定されるESG要素に関する開示基準を設定している。2018年11月、11セクター77業種について情報開示に関するスタンダードを作成し、公表した。
TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。この開示フレームワークは制度開示書類、つまり日本においては有価証券報告書への適用を想定しているが、日本においては現状、金融庁が気候変動リスクについて「開示義務化の予定はない」と明言しており、有価証券報告書だけでなく、統合報告書など投資家向け任意開示書類をも含む開示媒体への“自主的な”記載が推奨されている。
グリーンニューディール : 1930年台の世界恐慌からアメリカ経済を救ったルーズベルト大統領の経済政策(ニューディール政策)と気候変動対策を掛け合わせた造語で、自然エネルギーや地球温暖化対策に公共投資することで、新たな雇用や経済成長を生み出すことを目的としている。

周知のとおりIFRSが株主や投資家など資本市場関係者向けの財務報告基準であるのに対し、サステナビリティ報告基準には報告対象について「シングル・マテリアリティ」と「ダブル・マテリアリティ」という2つの考え方がある。シングル・マテリアリティとは、企業が環境や社会から「受ける」影響に着目して基準開発を行うことである。ダブル・マテリアリティとは、これに加えて、企業が環境や社会に「与える」影響も含めて基準開発を行うことをいう。シングル・マテリアリティは主に株主・投資家など資本市場関係者に向けた情報提供、ダブル・マテリアリティは資本市場関係者に「市民社会」等も加えたマルチ・ステイクホルダー向けの情報提供と言える。協議ペーパーでは、「SSBがダブル・マテリアリティ・アプローチを開始することは、作業の複雑性を大きく増大させることになり、基準の採用に影響を与えたり遅延させたりする可能性がある。(中略)SSBは、最初は投資者及び他の市場参加者にとって最も目的適合性のあるサステナビリティ情報に注力することになるであろう」(50項)としている。IFRSを策定している国際会計基準審議会(IASB)が投資家など資本市場関係者向けの基準開発を行っていることを踏まえ、SSBでもまずは同様の方向性(シングル・マテリアリティ)を追求する方向だ。

また協議ペーパーでは、サステナビリティ報告の保証について、「国際的に一貫したサステナビリティ報告の実務を達成するためには、企業が報告するサステナビリティ情報は、最終的には外部の保証の対象となる必要がある」(52項)としている。サステナビリティ報告の監査手法は国際的にも確立しておらず、SSBが基準開発を行う前から監査について言及するのは違和感がある。しかし、将来的に、SSBが基準開発に成功しグローバルスタンダードとなれば、IFRS財団が各国に監査を含めた保証を求めることも十分に考えられるだろう。

上述のとおり、協議ペーパーへの意見募集はこの年末で締め切られる。その後IFRS財団は寄せられた意見を分析して次のステップに進むことになるが、SSBを立ち上げることはほぼ既定路線だろう。SSBの立ち上げが確定すれば、IFRS財団は、財務報告基準に加えサステナビリティ報告基準を開発できるようにするために、定款を変更する作業に入る。その後、SSBのメンバーや資金の拠出について各国に依頼をすることになろう。これらを踏まえると、実際にSSBが稼働するまでには相当程度(2年程度)の時間を要することが予想される。既に日本も、金融庁や財務会計基準機構(FASF)が主導してSSBの基準開発を支持する声明を出しているが、実際にSSBの基準開発に食い込むためには、人的・資金的貢献も含めた前向きな姿勢で臨むことが必要になろう。

では、日本企業はどのような影響を受けるだろうか。SSBが基準開発を行うまでおよそ2年、さらに基準が完成するまではさらに多くの年限を要することを踏まえると、しばらくの間は直接的な影響はないと考えられる。しかし、SSBがIFRSのように国際的に統一されたサステナビリティ報告基準の開発に成功すれば、日本の開示制度に影響が及ぶ可能性は否定できないだろう。一方、企業側からは、「サステナビリティ報告基準を財務報告基準のように制度化すれば企業の柔軟な開示が阻害される」として、制度化に否定的な声も聞かれる。サステナビリティ報告は、財務報告のように画一的な基準に基づかないからこそ、各社の強みを自由に記述できるからだ。いずれにせよ、「ESG投資」という言葉に象徴されるように、投資家の関心がサステナビリティ報告(≒非財務報告基準)に移ってきているのは間違いないだけに、上場企業各社は、SSBによるサステナビリティについての“国際基準”策定の動向をウォッチしながらも、当面は投資家に訴求できるサステナビリティ報告(例えば、非財務情報を経営戦略・財務情報と結び付けた開示)を独自に追求し続ける必要があろう。

ESG投資 : ESGとは、「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。ESG投資とは文字通り「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資することをいう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020/12/21 東証、株主総会資料の3週間前ウェブ開示を上場企業の努力義務に

改正会社法の施行(2020年3月1日)を前に、会社法施行規則等の改正(2020年12月4日のニュース「改正会社法施行規則が公布、パブコメで反対の多かった改正案の行方は?」参照)のみならず、会計基準の改正(2020年9月25日のニュース『改正会社法で導入された株式報酬、「事前交付」と「事後交付」の違い』参照)や開示ルールの改正(2020年11月13日のニュース「会社法改正に伴う有報開示の変更点」参照)が立て続けに行われているが、証券取引所のルールにも会社法改正の影響が及んでいるので注意が必要だ。・・・

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2020/12/21 東証、株主総会資料の3週間前ウェブ開示を上場企業の努力義務に(会員限定)

改正会社法の施行(2020年3月1日)を前に、会社法施行規則等の改正(2020年12月4日のニュース「改正会社法施行規則が公布、パブコメで反対の多かった改正案の行方は?」参照)のみならず、会計基準の改正(2020年9月25日のニュース『改正会社法で導入された株式報酬、「事前交付」と「事後交付」の違い』参照)や開示ルールの改正(2020年11月13日のニュース「会社法改正に伴う有報開示の変更点」参照)が立て続けに行われているが、証券取引所のルールにも会社法改正の影響が及んでいるので注意が必要だ。

東京証券取引所が2020年12月17日に公表した「令和元年会社法改正に伴う上場制度の整備について」(パブリックコメントの募集は2021年1月18日まで)によると、主として次の2点についてルール改正が行われる方向となっている。

項目 会社法の改正内容 東証ルールの改正案 補足
(1)社外取締役の確保 上場会社のうち 大会社に社外取締役の設置を義務付け(改正会社法327条の2)

大会社 : 負債200億円以上または資本金5億円以上の株式会社

(現行ルール)
上場会社は独立役員(社外取締役または社外監査役)を1名以上確保しなければならない。
(改正案)
上場会社は、社外取締役を1名以上確保しなければならない。
会社法上の大会社に該当しない上場会社にも社外取締役の設置が義務付けられる。
(2)株主総会資料の早期(3週間前)ウェブ開示を努力義務化 「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱」の 附帯決議:株主総会資料の電子提供制度に関する規律については、これまでの議論及び株主総会の招集の手続に係る現状等に照らし、現時点における対応として、本要綱案に定めるもの()のほか、金融商品取引所の規則において、上場会社は、株主による議案の十分な検討期間を確保するために電子提供措置を株主総会の日の3週間前よりも早期に開始するよう努める旨の規律を設ける必要がある。

附帯決議 : 衆議院や参議院等の委員会が法律案等を可決する際や各種審議会が答申を決議する際に、その法律等の運用や、将来の立法によるその法律の改善についての希望などを表明するもの。法的な拘束力はないが、政府等にはこれを尊重することが求められる。

(現行ルール)
招集通知等をその発送後速やかに電磁的方法により提供するよう努めるものとする。
(改正案)
上場会社は、招集通知、株主総会参考書類、計算書類・連結計算書類及び事業報告等を、株主総会の日の3週間前よりも早期に、電磁的方法により提供するよう努めるものとする。
会社法改正前の「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱」の段階で、今回の東証のルール改正は既定路線となっていた。
 株主総会資料の電子提供制度の創設を指す(当該制度の内容は2019年1月16日のニュース「会社法制(企業統治等関係)部会、会社法見直し要綱案を確定」を参照)。改正会社法の通常の施行日(2021年3月1日)とは異なり、2022年度の施行が予定されている。

上表のうち(1)社外取締役の確保は、東証上場企業のうち98.9%で社外取締役を選任している(東証が2020年9月7日に公表した「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」の6ページを参照)ことから推測すると、ほとんどの企業はクリア済みだろう。

一方、(2)株主総会資料の早期(3週間前)ウェブ開示の努力義務化については、2020年3月期において招集通知の早期(定時株主総会の3週間以上前)ウェブ開示を達成した東証上場企業は約7割(東証が公表した「2020年3月期の定時株主総会の動向」の3ページを参照。なお、コロナ禍前の2019年でも69.1%)であることを踏まえると、「ハードルが高い」と感じる上場企業は相当数にのぼるとみられる。

いくら罰則のない「努力義務」とはいえ、東証の有価証券上場規程に組み込まれることで事実上“法定のスケジュール”と同様に機能し始めることが予想される。また、機関投資家も本ルールを根拠に、対話等を通じて早期ウェブ開示遵守への圧力を強めるだろう。上場企業の経営陣は来年に向け、東証の新ルールに則った開示スケジュールを自社で実現することが可能なのか、また可能にするための方策について、実務部隊(開示担当者)を交え検討する必要があろう。

2020/12/18 改訂CGコードの一部内容が確定 時価総額大きければ過半数の社外取締役も

金融庁のスチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(以下、フォローアップ会議)は本日(2020年)12月18日、「コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び企業の中核人材の多様性の確保(スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議 意見書(5))」(以下、適宜「確定版」または「本意見書」という)を公表した。当フォーラムで報じていたとおり、12月8日に開催された第22回フォローアップ会議には本意見書の“原案”が提出されており、確定版もおおむねその内容を引き継いだものとなっている(2020年12月9日のニュース『「取締役会」「多様性」に関する改訂CGコードの“原案”の中身は?』、2020年12月17日のニュース『「取締役会」「多様性」に関する改訂CGコードの原案が確定へ』参照)。

以下では、原案からの変更点を確認しつつ、確定版の内容がコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の改訂にどのように反映されるのか、項目ごとに検討してみよう。・・・

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2020/12/18 改訂CGコードの一部内容が確定 時価総額大きければ過半数の社外取締役も(会員限定)

金融庁のスチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(以下、フォローアップ会議)は本日(2020年)12月18日、「コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び企業の中核人材の多様性の確保(スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議 意見書(5))」(以下、適宜「確定版」または「本意見書」という)を公表した。当フォーラムで報じていたとおり、12月8日に開催された第22回フォローアップ会議には本意見書の“原案”が提出されており、確定版もおおむねその内容を引き継いだものとなっている(2020年12月9日のニュース『「取締役会」「多様性」に関する改訂CGコードの“原案”の中身は?』、2020年12月17日のニュース『「取締役会」「多様性」に関する改訂CGコードの原案が確定へ』参照)。

以下では、原案からの変更点を確認しつつ、確定版の内容がコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の改訂にどのように反映されるのか、項目ごとに検討してみよう。

【はじめに】
本意見書の冒頭では、コロナ後の新たな成長のためには「迅速・果断な意思決定」を通じて企業の変革ビジョンを実行すること、そのためには「取締役会の機能発揮」や「資本コストを意識した経営」などガバナンス改革を進めることが急務であるとの意識付けがなされている。

この「はじめに」の大部分は原案のままとなっているが、確定版の末尾には、本意見書は「コンプライ・オア・エクスプレインの枠組み」の下での提言であることが追記された点、注目される。これは少なくとも本意見書のテーマである「取締役会の機能発揮」と「多様性の確保」というについては、上場規則などハード・ローによる義務付けは行われず、あくまでCGコードというソフト・ローに基づく企業の自発的な取り組みが尊重されることになる。

※赤字が原案(2020/12/8意見書案)からの変更点(以下同)
2020/12/8意見書案 2020/12/18意見書
本意見書は、これらの論点について、次期コーポレートガバナンス・コードの改訂に盛り込むべく、提言を行うものである。 本意見書は、これらの論点について、次期コーポレートガバナンス・コードの改訂に向け、コンプライ・オア・エクスプレインの枠組みの下、より高度なガバナンスの発揮を目指して提言を行うものである。

一方で、本意見書のテーマとなっていない株主総会関連の事項、例えば株主総会参考資料の英文開示や議決権行使プラットフォームの活用については、今後の議論によっては上場規則等で義務付けされる可能性が現時点では否定できない(2020年12月14日のニュース「英文開示を上場規則で義務付けるべきとの意見も」参照)。

【取締役会の機能発揮と企業の中核人材の多様性の確保についての考え方】
冒頭部分では、取締役会が重要な意思決定を行うための前提条件として、必要なスキルを「取締役会全体」で確保することが挙げられている。原案では、このスキルを「事業戦略に照らして必要な」と形容していたが、確定版ではこれに「中期的な経営の方向性」という文言が追加された。企業経営がショートターミズムに陥るべきでないことを、取締役会の構成を検討する際にも意識付ける趣旨と言えよう。

ショートターミズム : 目先のリターンばかりを求める「短期志向」のこと。

2020/12/8意見書案 2020/12/18意見書
取締役会において事業戦略に照らして必要なスキルが全体として確保されることは、取締役会がその役割・責務を実効的に果たすための前提条件と考えられる。 取締役会において中長期的な経営の方向性や事業戦略に照らして必要なスキルが全体として確保されることは、取締役会がその役割・責務を実効的に果たすための前提条件と考えられる。

今回のCGコード改訂における目玉である「独立社外取締役の3分の1以上の選任」については、予想どおり原案から変更はなかった(2020年11月19日のニュース「女性、外国人、中途採用者の管理職への登用状況等を数字で公表要求へ」参照)。これにより、CGコード原則4-8が改訂されることが確定的となった。

また、「それぞれの経営環境や事業特性等を勘案して必要と考える企業」は過半数の選任を検討するよう促している点も原案のままだが、確定版では、「それぞれの経営環境や事業特性等を勘案して必要と考える企業」における「経営環境や事業特性等」の部分に下記の注釈が加えられた。今回のCGコード改訂が東証の市場区分見直しと連動していることを踏まえると、「規模(時価総額等)」を示したのは、少なくともプライム市場における時価総額上位企業には過半数の選任を求めるメッセージとの見方もできそうだ。

1 業種・規模(時価総額等)・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等が考えられる。

原案において「公表するべき」とされていたスキル・マトリックスについては、「スキル等の組み合わせ」を示す“一例”へと位置付けが変更された。取締役会が備えるべきスキル等は「事業戦略に照らして」決まってくるものであり、各社各様であるため、それを説明する手法についても自由度を高めたということだろう。例えば、株主総会参考書類の取締役選任議案における「選任の理由」において、それぞれに期待するスキルを説明することなどが考えられよう。「スキル」関連の部分は、CGコード補充原則4-11①の改訂につながるものとみられる。

2020/12/8意見書案 2020/12/18意見書
また、上場企業は、取締役の選任に当たり、事業戦略に照らして取締役会が備えるべきスキルを特定し、その上で、各取締役の有するスキルの組み合わせ(いわゆる「スキルマトリックス」)を公表するべきである。 また、上場企業は、取締役の選任に当たり、事業戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル等を特定し、その上で、いわゆる「スキル・マトリックス」をはじめ経営環境や事業特性等に応じた適切な形で社内外の取締役の有するスキル等の組み合わせを公表するべきである。

今後のフォローアップ会議で検討する事項として、①指名委員会、②報酬委員会、③独立社外取締役、④取締役会評価、が挙げられているが、このうち①②について、確定版では「独立性の高い」との文言が追加された。CGコード補充原則4-10①が改訂につながるものとみられる。「独立性の高い」委員会と言うには、具体的には、委員会の過半数を独立社外取締役とすることが想定されるが、これに加えて、委員長(議長)を独立社外取締役とする、委員会の構成員にCEOを含めない、ことも選択肢となろう。

2020/12/8意見書案 2020/12/18意見書
・指名委員会(法定・任意)の設置と機能向上(候補者プールの充実等の CEO選解任機能の強化、活動状況の開示の充実)
・報酬委員会(法定・任意)の設置と機能向上(企業戦略と整合的な報酬体系の構築、活動状況の開示の充実)
独立性の高い指名委員会(法定・任意)の設置と機能向上(候補者プールの充実等の CEO や取締役の選解任機能の強化、活動状況の開示の充実)
独立性の高い報酬委員会(法定・任意)の設置と機能向上(企業戦略と整合的な報酬体系の構築、活動状況の開示の充実)

筆頭独立社外取締役については、原案にあった「投資家との対話の窓口となる」との文言が削除された。これにより企業への要求が弱まったとの見方もできる一方、「筆頭独立社外取締役に限らず社外取締役は皆、投資家と対話しなければならない」という発想に基づく修正でもあるようだ。その意味では、企業にとってはむしろ負担が増す修正とも言える。また、「筆頭独立社外取締役の設置」と「独立社外取締役の取締役会議長への選任」が並列に記載されていることからは、筆頭独立社外取締役に取締役会議長職を含む広範かつ重要な役割を担うことを求めていることがうかがえる。

2020/12/8意見書案 2020/12/18意見書
投資家との対話の窓口となる筆頭独立社外取締役の設置、独立社外取締役の議長選任等 ・筆頭独立社外取締役の設置や独立社外取締役の取締役会議長への選任を含めた、独立社外取締役の機能向上

また、確定版では、独立社外取締役の機能・役割について、下記のとおり注釈が追加されている。具体的には、①独立社外者間の議論・認識共有の主導、②独立社外者と経営者の意思疎通の仲介、③独立社外者と投資家の建設的対話の窓口・橋渡し、等とされた。現行のCGコード補充原則4-8②は、「例えば」と前置きしたうえで、「経営陣との連絡・調整や監査役または監査役会との連携」役として筆頭独立社外取締役に言及するにとどまっているが、改訂CGコードでは、この「例えば」という文言が削除され、さらに筆頭独立社外取締役の機能・役割として下記注釈の各事項が明記される可能性もあろう。

筆頭独立社外取締役については、諸外国の事例にも鑑みれば、独立社外者間の議論・認識共有の主導、独立社外者と経営者の意思疎通の仲介、独立社外者と投資家の建設的対話の窓口・橋渡し等の機能・役割などを担うことが考えられる。

【企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保】
取締役会および経営陣、さらには管理職に至るまで、多様性を確保するための仕組み作りや社内環境の整備が重要であることについては、原案の内容がそのまま確定版に引き継がれている。ただし、多様性の確保に責任を持つ主体として、取締役会が「取組みの促進・監督」において主導的な役割を果たすべきとの記述が確定版において追記された。

2020/12/8意見書案 2020/12/18意見書
多様な働き方やキャリア形成を受け入れた上で、社員のスキルや成果が公正に評価され、それに応じた役職・権限、報酬、機会を得る仕組みの整備が求められる。 多様な働き方やキャリア形成を受け入れた上で、社員のスキルや成果が公正に評価され、それに応じた役職・権限、報酬、機会を得る仕組みの整備が求められる。こうした多様性の確保に向けては、取締役会が、主導的にその取組みを促進し監督することが期待される。

社内における多様性の確保については、現状ではCGコード原則2-4で「社内における女性の活躍促進を含む多様性の確保」を推進すべきとされているが、今回のCGコードの改訂により、「外国人」「中途採用者」が加わる可能性が高い。

また、取締役会の責任については、CGコード補充原則2-3①がサステナビリティー(持続可能性)を巡る課題について取締役会に「積極的・能動的に取り組む」ことを求めているのと同様、新たに補充原則2-4①が創設されることも考えられよう。

2020/12/17 「取締役会」「多様性」に関する改訂CGコードの原案が確定へ

(2020年)12月8日に開催された金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、フォローアップ会議)では、事実上、「取締役会の構成」と「社内のダイバーシティ」に関する改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の“原案”と言える「コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び企業の中核人材の多様性の確保(案)」が公表されたが(2020年12月9日のニュース『「取締役会」「多様性」に関する改訂CGコードの“原案”の中身は?』参照)・・・

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2020/12/17 「取締役会」「多様性」に関する改訂CGコードの原案が確定へ(会員限定)

(2020年)12月8日に開催された金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、フォローアップ会議)では、事実上、「取締役会の構成」と「社内のダイバーシティ」に関する改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の“原案”と言える「コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び企業の中核人材の多様性の確保(案)」が公表されたが(2020年12月9日のニュース『「取締役会」「多様性」に関する改訂CGコードの“原案”の中身は?』参照)、この原案が12月18日(金)にも「意見書案」として“確定”することが当フォーラムの取材により分かった。今回のCGコードの改訂議論では、委員の発言などを踏まえると、一部の項目が“ハード・ロー”である上場規則に盛り込まれるとのではないかとの見方もあるが(例えば英文開示。2020年12月14日のニュース「英文開示を上場規則で義務付けるべきとの意見も」参照)、少なくとも意見書案に盛り込まれた事項は改訂CGコードに反映されるものとみられる。

意見書案はおおむね原案と同じ内容になる方向だが、複数個所で変更点もある模様。企業にとっては負担が増すこととなる変更もあれば、減ることとなる変更もあるようだ。企業にとってまず気になるのは、取締役会の過半数を独立社外取締役とする旨の記述だろう。具体的には原案の下記の赤字部分だ。

独立社外取締役 : 独立役員(一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役または社外監査役)として、独立役員届出書により東証に届けを出している社外取締役を指す。

・・・「プライム市場(仮称)」については「我が国を代表する企業の市場」として高い水準のガバナンスが求められている。こうした観点も踏まえ、同市場の上場企業に対し、独立社外取締役の3分の1以上の選任を求めるべきである。さらに、それぞれの経営環境や事業特性等を勘案して必要と考える企業には、独立社外取締役の過半数の選任を検討するよう促すべきである。

前半の「3分の1以上」は既定路線であり(2020年11月19日のニュース「女性、外国人、中途採用者の管理職への登用状況等を数字で公表要求へ」参照)、変更されることはないだろう。「過半数」の方は、12月8日のフォローアップ会議では「機関投資家の中には、コンプライしていない場合には反対票を投じるところもある」といった慎重な意見もメンバーから出されたが、欧米企業では過半数が当たり前となっている中、「我が国を代表する企業の市場として高い水準のガバナンスが求められている」という今回のCGコード改訂の趣旨を踏まえると、このまま残る可能性がある。ただし、「過半数」を検討することが求められる企業の「事業特性等」とは具体的に何を指すのかが曖昧との声が企業から聞かれる。この点は明確化が図られることも考えられよう。

また、原案には、各取締役のスキルについて「スキルマトリックスを公表すべき」との記述があるが、最近は取締役のキャラクターを開示する企業も現れており(2020年9月28日のニュース「開示広がるか “役員のキャラ”のマトリックス」参照)、「スキル」に限定した画一的な開示を求めることは企業の創意工夫を奪うとの指摘も聞かれる。このため、スキルマトリックスに関する部分の記述はより柔軟なものに変更される可能性があろう。また、原案では、スキルマトリックスに関する記述の一環として「独立社外取締役には、他社での経営経験を有する者を含むよう求めるべき」としている。特定の属性からの選任を求めることに対しては否定的な意見も聞かれるが、フォローアップ会議のメンバーの多くが「最低1人は経営者」との考えを持っていることから、ここは原案が維持される可能性が高いだろう。そうなれば、独立社外取締役としての経営者・元経営者の“需要”が逼迫することも考えられる。

スキルマトリックス : 取締役のスキル・能力の開示手法。縦軸に各取締役の氏名、横軸にスキル・能力を分野別に並べ、各取締役がスキル・能力を有する分野に丸印をつけるといった形式をとることが多いため、「スキル・マトリックス(あるいはマトリクス)」と呼ばれる。

逆に、原案に盛り込まれた「投資家との対話の窓口となる筆頭独立社外取締役の設置」については、フォローアップ会議のメンバーの中でも異論が多い。ここは表現が弱められるか削除される可能性が高そうだ。独立社外取締役の取締役会議長への選任についても、日本企業での実例の少なさを考えると、表現は弱められる可能性がある。

女性・外国人・中途採用者による「社内のダイバーシティ」については菅政権のメインテーマであることから(2020年12月3日のニュース「見えて来たCGコード改訂の“柱”」参照)、原案から後退することは考えにくい。むしろより積極的な推進策が追加されることも考えられよう。

2020/12/16 欧米企業では1億円近い例も 役割により異なるべき社外取締役の報酬

日本企業の多くでは取締役議長を経営トップ(CEO、社長など)が務める中、現在コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の見直しを進めている金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」では、監督と執行の分離を求める観点から「筆頭独立社外取締役」の果たす役割に期待が集まっている(2020年11月24日のニュース『フォローアップ会議で「筆頭社外取締役」の役割に期待する意見』参照)。筆頭独立社外取締役を投資家との対話の窓口にするとの意見には否定的な声も聞かれるものの(2020年12月9日のニュース『「取締役会」「多様性」に関する改訂CGコードの“原案”の中身は?』参照)、今回のCGコード改訂議論の中で筆頭独立社外取締役がテーマの一つとなっていることは間違いない。また、指名・報酬委員会の議長を社外取締役が務めるべきとする意見も多い(2020年11月4日のニュース「野村AM 取締役会のモニタリングボード化を期待」参照)。

このように各社外取締役の役割が変わってきた場合に問題となるのが・・・

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