2020/12/16 欧米企業では1億円近い例も 役割により異なるべき社外取締役の報酬(会員限定)

日本企業の多くでは取締役議長を経営トップ(CEO、社長など)が務める中、現在コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の見直しを進めている金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」では、監督と執行の分離を求める観点から「筆頭独立社外取締役」の果たす役割に期待が集まっている(2020年11月24日のニュース『フォローアップ会議で「筆頭社外取締役」の役割に期待する意見』参照)。筆頭独立社外取締役を投資家との対話の窓口にするとの意見には否定的な声も聞かれるものの(2020年12月9日のニュース『「取締役会」「多様性」に関する改訂CGコードの“原案”の中身は?』参照)、今回のCGコード改訂議論の中で筆頭独立社外取締役がテーマの一つとなっていることは間違いない。また、指名・報酬委員会の議長を社外取締役が務めるべきとする意見も多い(2020年11月4日のニュース「野村AM 取締役会のモニタリングボード化を期待」参照)。

このように各社外取締役の役割が変わってきた場合に問題となるのが「報酬」だ。同じ社外取締役でも、例えば指名・報酬委員会に入っている、あるいは委員会の委員長や取締役会議長を務めているといった役割の違いにより、拘束時間はもちろん、負荷もだいぶ異なる。特に取締役会議長となれば、責任も負担も大きい。このため、欧米企業では取締役会議長に1億円近い固定報酬を支払っているケースが珍しくない。また、こうした役割の違いによるだけでなく、平時に比べ負荷がかかる局面では追加報酬を支払うということもあり得るだろう。例えば通常は年に3〜4回開催される報酬委員会が、報酬改革について議論するため6〜7回開催されるような場合だ。

日本企業の現状を見ると、同じような企業規模の母集団の平均値などにより一律に社外取締役の報酬額を決めているところが多い。データをベースに報酬額を決めることで客観性を担保しようと意図は見えるものの、今後は各社外取締役の役割等に着目して報酬額に差をつけるということも検討課題となろう。

また、社外取締役の役割や負荷の変化とは関係なく、業務執行役員の役員報酬が上がった場合には社外取締役の報酬も連動して上げているという企業も目に付く。ある機関投資家は、インセンティブ報酬が馴染まない社外取締役の報酬が業務執行役員の報酬と足並みを揃えて上がることについて「不健全」と指摘する。ただ、この指摘からは、「そもそも社外取締役の報酬は誰が決めるのか」という素朴な疑問も生じる。過半数を社外取締役が占め、委員長も社外取締役が務める報酬委員会を理想とすると、そこで社外取締役自身の報酬を決めるとなれば“お手盛り”との批判を受けかねない。すなわち、社外取締役の報酬の妥当性を判断するのは「株主」ということになる。

欧米ではこの考え方が浸透しているからこそ、どこの国でも企業に対し社外取締役の報酬の個別開示を求めている。現状、日本企業の社外取締役の報酬は(1人1億円以上とならない限り)総額でしか開示されていないが(金融庁 2019年11月29日『「役員の報酬等」の開示例』参照)、社外取締役の報酬額が役割によって異なるようになるにつれ、どのような役割・ポジションに対しいくら払っているのかを個別に開示するよう求める声も高まることになろう。

2020/12/15 コロナ禍におけるレピュテーションリスク

コロナ禍による経営悪化を受け、雇用調助成金など国の支援制度を使って雇用の維持に努めている企業もあろう。コロナ以降、従業員と企業の関係はESG投資家から「S(社会)」の分野における重要テーマの一つとして注目を集めており(2020年8月7日のニュース「コロナ禍・コロナ後のESG投資で注目される領域」参照)、その観点からは、従業員の雇用維持は歓迎されるべき取り組みと言える。しかし、・・・

ESG投資 : ESGとは、「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。ESG投資とは文字通り「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資することをいう。

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2020/12/15 コロナ禍におけるレピュテーションリスク(会員限定)

コロナ禍による経営悪化を受け、雇用調助成金など国の支援制度を使って雇用の維持に努めている企業もあろう。コロナ以降、従業員と企業の関係はESG投資家から「S(社会)」の分野における重要テーマの一つとして注目を集めており(2020年8月7日のニュース「コロナ禍・コロナ後のESG投資で注目される領域」参照)、その観点からは、従業員の雇用維持は歓迎されるべき取り組みと言える。しかし、海外では、この取り組みにより企業がレピュテーションリスクに晒されるケースが生じている。

ESG投資 : ESGとは、「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。ESG投資とは文字通り「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資することをいう。

欧米におけるコロナ禍は日本よりもはるかに深刻であり、いまだ感染拡大が続いている。最近になってイングランドやロンドンで再びロックダウン(都市封鎖)を実施した英国もその一つだが、英国内では、国の支援を受けて雇用を維持する企業の一部が世間の批判を受けている。「コロナウイルス雇用維持制度」と呼ばれる英国の雇用維持制度は、コロナの影響で一時的に休業扱いとなった従業員の給与の 8 割(月額約35万円が上限)を国が給付するもので、11 月時点での累計給付申請額は約 6 兆円(430 億ポンド)、利用者数は 960 万人にも達している。

批判の対象となった企業には大きく分けて2つのタイプがある。1つはいわゆる大富豪が経営トップとなっている企業、もしくはこれまで巨額の利益を上げていた企業だ。リチャード・ブランソン率いるヴァージン・アトランティック航空や、元サッカー選手のベッカムの妻でかつて一世を風靡した英国のアイドルグループ「スパイス・ガールズ」の元メンバーであるヴィクトリア・ベッカムが手掛ける高級アパレルブランドVictoria Beckham、さらには、毎年巨額の利益を得るイングランド・プレミアリーグのリバプール FC やトッテナム・ホットスパー FC などを含む複数のサッカーチームがコロナウイルス雇用維持制度を利用したところ、「大富豪が税金を使って自分の資産を守ろうとしている」「倫理的に問題がある」などの批判が巻き起こり、Victoria Beckhamやリバプール FC、トッテナム・ホットスパー FCは同制度の利用を撤回している。

もう1つは、雇用維持制度を利用しながら配当を支払った、あるいは支払うことを決定した企業だ。その中には、FTSE100を構成する建設資材大手 CRH や認証サービス大手のIntertek 、 FTSE250 を構成する物流大手のWincanton、電気・ガス関連サービス大手の Telecom Plusなどが含まれる。これらの企業は、税金で配当を支払うことについて、「コーポレート・ガバナンスに問題がある」との厳しい指摘を受けることとなった。こうした中、8万社を超える企業が同制度による助成金を国に返納している。

FTSE100 : ロンドン証券取引所に上場する時価総額上位100銘柄で構成される株価指数である「FTSE100」のほか、FTSE100に次ぎ時価総額が大きい250銘柄で構成される「FTSE250」、FTSE100とFTSE250の両指数の銘柄で構成される「FTSE350」、小型株で構成される「FTSE SmallCap Index」、FTSE350とFTSE SmallCapの両指数の銘柄で構成される「FTSE All Shares」、ロンドン証券取引所の新興市場(AIM)の銘柄で構成される「FTSE AIM」がある。

EYが英国の大手機関投資家30社のスチュワードシップ活動報告書等を調査したところ、スチュワードシップ活動における優先分野のトップは「環境(気候変動、サステナビリティ)」でスコア2.4(5点満点。以下同)、これにガバナンス(役員報酬、取締役会構成、独立性など)の2.07、社会的インパクト(社会的貢献、サプライチェーンなど)の1.64が続き、「信頼とレピュテーション(自社のレピュテーションに対する認識、自社のレピュテーションの管理)」は1.08と、8つの調査対象項目中、最下位だった(EYによる調査レポート「Turning the tide to greater corporate accountability」8ページ参照)。この調査結果を受け同レポートでは、機関投資家に対し、企業とのエンゲージメントで、レピュテーション評価・管理ツールの利用について対話することなどを推奨している。

現在のところ日本企業に対してこのような批判は聞かれないが、配当を支払うかどうかの経営判断においては、国の支援制度の利用の有無のほか、コロナ以降、ESG投資においてステークホルダーとしての「従業員」の存在感が高まる中、従業員の雇用や給与・賞与の支払い状況も考慮に入れる必要がありそうだ。

2020/12/14 英文開示を上場規則で義務付けるべきとの意見も

2020年12月9日のニュース『「取締役会」「多様性」に関する改訂CGコードの“原案”の中身は?』でお伝えしたとおり、(2020年)12月8日に開催された金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、フォローアップ会議)では、事実上、「取締役会の構成」と「社内のダイバーシティ」に関する改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の“原案”となる「コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び企業の中核人材の多様性の確保(案)」が会議資料として提出されたが、同日のフォローアップ会議ではこれに加え、・・・

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2020/12/14 英文開示を上場規則で義務付けるべきとの意見も(会員限定)

2020年12月9日のニュース『「取締役会」「多様性」に関する改訂CGコードの“原案”の中身は?』でお伝えしたとおり、(2020年)12月8日に開催された金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、フォローアップ会議)では、事実上、「取締役会の構成」と「社内のダイバーシティ」に関する改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の“原案”となる「コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び企業の中核人材の多様性の確保(案)」が会議資料として提出されたが、同日のフォローアップ会議ではこれに加え、「株主総会に関する課題」についても議論された。事務局資料では「コロナ禍を踏まえ、株主総会の意思決定に向けたプロセス全体の更なる充実を図る観点」から、以下の課題がテーマに掲げられた。

①議決権電子行使プラットフォームの活用
バーチャル株主総会の活用
③招集通知の早期発送・早期開示
④株主総会日程見直しの必要性
⑤英文開示

以下、それぞれのテーマについて、事務局による問題提起とフォローアップ会議のメンバーから出された意見をレポートする。

①議決権電子行使プラットフォームの活用
議決権電子行使プラットフォームとは、東証と米国Broadridge社の合弁会社であるICJ(インベスター・コミュニケーションズ・ジャパン)社が2004年から提供を開始した機関投資家向け電子投票システムである。議決権行使に際して郵便物の受発送を伴わないため、外国人をはじめ機関投資家にとっては時間削減などメリットが大きい。しかし、我が国では現状、上場会社の利用は約30%にとどまっている。

メンバーからは「積極的に活用すべきとの意見が相次いだ。例えば企業経営者のメンバーは「行使状況がリアルタイムで把握できる点、企業側にもメリットがある」と導入を支持している。また、複数のメンバーからは、「プライム市場上場会社については義務付けすべき」との提言もなされた。ただ、プラットフォームの提供は現在、東証の傘下企業であるICJが独占している状況であり、仮に改訂CGコードで事実上の義務付けをすれば、競争法上の問題が指摘さる可能性もあろう。

②バーチャル株主総会の活用
コロナ感染防止の観点から注目度が高まったバーチャル株主総会だが、もともと、遠隔地にいるといった物理的な制限のある株主も参加できるようにするなど、株主の権利を保護することを目的にコロナ前から議論されてきた経緯がある。事務局資料では本年の「ハイブリッド型」バーチャル株主総会が122社で開催されたこと、一方で北米では1,500社に迫る開催事例のほとんどがバーチャル「オンリー」株主総会であることが紹介されている。

「ハイブリッド型」バーチャル株主総会 : リアル株主総会を開催し、一部の出席者が遠隔地からインターネット等で参加する株主総会。リアル株主総会の様子をライブ配信したうえで、オンラインでも議決権の行使を認める「出席型」と、リアル株主総会の様子をライブ配信するだけで、オンラインでの議決権の行使は認めない「参加型」がある。
バーチャル「オンリー」株主総会 : リアル株主総会を開催せず、全出席者が遠隔地からインターネット等で参加する株主総会。日本の会社法では、株主総会を招集するには、開催する「場所」を定めることを求めていることから(会社法298条1項1号)、実現は困難とされている。

メンバーからは「積極的に進めるべき」「出席方法の選択肢が広がる」などバーチャル株主総会の有用性を支持する声が上がる一方、「出席型バーチャル株主総会の場合、本人確認や動議対応で問題が生じ得る」「海外でもバーチャルオンリー株主総会が必ずしもベストとは捉えられていない」など、慎重な対応を求める意見も少なくない。最終的には、参加型バーチャル株主総会を筆頭に、複数の開催方法の中から企業がベストな手法を選択すべきということを示すにとどまる可能性もあろう。

出席型 : リアル株主総会の様子をライブ配信したうえで、オンラインでも議決権の行使を認めるハイブリッド出席型バーチャル株主総会。
動議 : 株主総会において「株主側」から審議・採決の提案を行うこと。
参加型 : リアル株主総会の様子をライブ配信するだけで、オンラインでの議決権の行使は認めないハイブリッド参加型バーチャル株主総会。

③招集通知の早期発送・早期開示
事務局からは、株主総会開催日から3週間前以上前に招集通知を発送した上場会社の割合が、本年はコロナ禍の影響もあって低下したことが報告される一方、議決権行使の充実を図るうえで早期発送・早期開示に対する投資家の期待は大きく、特に早期開示は電子的な対応による取り組みの余地が大きいことも指摘されている(事務局資料7〜8ページ参照)。

日本企業の株主総会開催日が6月に集中していることもあり、機関投資家からは、余裕をもって議決権行使について判断するために招集通知を早期に入手したいとの要望がかねてから聞かれる。ただし3週間を上回る早期化については、企業経営者のメンバーから「現状でも土日返上でギリギリ、これ以上は限界」と理解を求める声が上がった。なお、複数の委員が有価証券報告書の総会前開示を主張したが、さすがに総会開催日3週間前の提出は難しいことから、改訂CGコードで強く要求されることは考えにくいだろう。

④株主総会日程見直しの必要性
上述したとおり日本企業の株主総会は6月に集中していることから、3月決算企業の株主総会開催日(開催月)を変更する必要性が問題提起された。事務局からは「A案:議決権行使と配当の基準日を後ろ倒しして株主総会を7月に開催する」「B案:決算日を前倒しすることで株主総会開催日を早期化する」の2案が提示されている(事務局資料9ページ参照)。A・B両案とも、有価証券報告書の総会前開示を同時に実現することが可能としている。

海外投資家のメンバーからは、「株主総会の過剰な集中(clustering)を防ぎ、英文資料を準備する時間を確保するため、7月開催を検討すべき」と要望があった。一方、国内投資家のメンバーからは、「7月は熱中症リスクや夏季休暇の都合などあり、現実的にはB案、決算日の前倒しをスタンダードとすべき」との意見が出された。いずれにしても改訂CGコードでA案かB案かを決められる問題ではないと考えられることから、各企業で検討すべき旨が強調されるにとどまる可能性があろう。

⑤英文開示
グローバル資本を引き入れるための施策として、英文開示は必須の取り組みと言える。事務局資料によると、招集通知(および参考書類)と決算短信については、東証一部の40%以上が英訳を実施している。一方で事業報告(および計算書類)とコーポレートガバナンス報告書はいずれも14%にとどまっており、さらに有価証券報告書に至っては3%に過ぎない(事務局資料11ページ参照)。

12月8日のフォローアップ会議においても、やはり英文開示は“当然のこと”として強く求める意見が目立った。海外投資家に詳しいメンバーからは、「プライム市場は国際的な競争力を持つことが目的なので、その上場会社には英文開示を上場規則で義務付けるべき」と、CGコード(ソフト・ロー)ではなくルール(ハード・ロー)による規律付けが望ましいとの意見が出されている。この意見には説得力があるだけに、プライム市場を選択する予定の企業は、「英文開示」という新たな負担を念頭に置いておくべきだろう。

2020/12/11 ISSがアクティビストの社長解任要求に「賛成推奨」した理由

既報のとおり東京ドームは香港のファンドOasis Investments II Master Fund Ltd.(以下、オアシス)から社長および社外取締役2名の合計3名(以下、社長等)解任請求を受けたものの、当のオアシスが三井不動産による東京ドーム株式の公開買付け(TOB)に応じることになり(三井不動産の2020年12月8日付リリースはこちら)、社長等が解任される懸念は後退した。もっとも、オアシスは本日(2020年12月11日)時点で株主提案を取り下げたわけではないうえ(社長等解任請求の詳細は2020年10月28日のニュース「アクティビストの業務改善提案への対応が遅れ社長の解任請求へ」を参照)、オアシスの社長等解任要求に対して議決権行使助言会社大手のISSが賛成推奨することを表明している()という点、注目される。ISSがなぜアクティビストによる社長等の解任要求に賛成推奨したのか、今後アクティビストから同様の請求を受ける可能性がある企業にとっては気になるところだろう。そこで・・・

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2020/12/11 ISSがアクティビストの社長解任要求に「賛成推奨」した理由(会員限定)

既報のとおり東京ドームは香港のファンドOasis Investments II Master Fund Ltd.(以下、オアシス)から社長および社外取締役2名の合計3名(以下、社長等)解任請求を受けたものの、当のオアシスが三井不動産による東京ドーム株式の公開買付け(TOB)に応じることになり(三井不動産の2020年12月8日付リリースはこちら)、社長等が解任される懸念は後退した。もっとも、オアシスは本日(2020年12月11日)時点で株主提案を取り下げたわけではないうえ(社長等解任請求の詳細は2020年10月28日のニュース「アクティビストの業務改善提案への対応が遅れ社長の解任請求へ」を参照)、オアシスの社長等解任要求に対して議決権行使助言会社大手のISSが賛成推奨することを表明している()という点、注目される。ISSがなぜアクティビストによる社長等の解任要求に賛成推奨したのか、今後アクティビストから同様の請求を受ける可能性がある企業にとっては気になるところだろう。そこで本稿では、ISSが賛成推奨に回った理由を、東京ドームの反論(同社の2020年12月3日のリリースより)と対比しながらレポートする。

 グラスルイスもオアシス提案に賛成推奨を行った模様。

ISSがオアシスの株主提案に賛成推奨した理由と、それに対する東京ドームの反論を対比したのが下表である。

ISSがオアシスの株主提案に賛成推奨した理由 東京ドームの反論
過去 5 年間の東京ドームのTSRおよび業績が同業他社と比較して大幅に低迷している。 当社は総合エンターテインメント事業である東京ドームシティ事業を中核として、流通事業、不動産事業、熱海事業および競輪事業を営んでおり、当社と類似する事業を行っている上場会社は存在しない。
したがって、ISS レポートにおいて「同業他社」として比較対象となっている上場会社と単純な比較を行うことは適切でない。
オアシスが提案する戦略が東京ドームの戦略よりも優れていることを証明しなければならないような支配権を巡る委任状争奪の場面ではない。
※本理由については下記で解説する。
株主提案者による当社の経営改善策の提案内容は、東京ドームシティのほぼ全域が都市計画法に基づき東京都より都市計画公園区域に指定される等の規制を受けていることへの理解不足があるうえ、昨今のコロナ禍による環境変化を考慮していないものとなっており、実効性に欠けていることは明らかである。
それにもかからず、ISSは当社が現在策定中の長期・中期・短期の時間軸を見据えた次期中期経営計画における現実的かつ実効性がある戦略との比較衡量を行ってない。したがって、ISSが合理的な根拠をもって十分な検討を行ったうえで、本株主提案議案に対して賛成推奨しているのか疑問を抱かざるを得ない。
ISS社の独立性基準に照らすと、東京ドームの社外取締役である森氏および秋山氏の独立性に問題があるため、同社取締役会は独立性が欠けている。
また、同社の社外取締役4名の経歴等を鑑みると、同社のコアビジネスに関する経験、業界における経験が欠けている。
東京ドームの代表取締役社長である長岡氏が取締役を解任されても経営陣のほとんどは残留し、長岡氏もCEO職まで解任されることを必ずしも意味しないゆえに、取締役の立場以外で取締役会の審議に参加することが可能である。
さらには、代表取締役1名および社外取締役2名を解任することで、取締役7名中2名が独立社外取締役となり取締役会の独立社外取締役比率が 20%から 28.5%に上昇するという安易かつ形式的な理由により本株主提案議案に対して賛成推奨することは、現行の取締役会の一体性や継続性を全く考慮に入れない、無責任な行為であると言わざるを得ない。
そもそも、ISSは、2020年4月の当社第110回定時株主総会において、当該3名の取締役の選任議案に対し賛成推奨しているが、その後、特段の不祥事等が起こったり、ISS レポートで指摘されている過去5年間の当社の業績や当社取締役会の独立性及び業界における経験等の事情の変更がないにもかかわらず、本株主提案議案に対して賛成推奨、即ち、当該3名の取締役について任期の途中での解任を推奨している。その議決権行使推奨方針が一貫性を欠くことは明白であり、本臨時株主総会における当社の株主の皆様の議決権行使を誤導するもので、議決権行使助言会社も対象とするスチュワードシップ・コードに照らしても、本株主提案議案に関する ISS 社の議決権行使推奨のあり方には問題があるものと考えている。

過去5年間の当社の業績 : ISSのポリシーでは、資本生産性が低く(過去5 期平均の自己資本利益率[ROE]が5%を下回り)かつ改善傾向(過去5 期の平均ROE が5%未満でも、直近の会計年度のROE が5%以上ある場合)にない場合、経営トップ(社長、会長)である取締役の選任議案に反対を推奨するとするとしている。

(中略)

また、森氏及び秋山氏は社外取締役が過半数を占めるガバナンス委員会の委員として、「代表取締役社長と取締役会議長の分離」や「インセンティブを効かせた報酬制度の導入」等を実現させ、現在においても「報酬制度の更なる改善」や「取締役任期」等の課題に取り組んでおり、多様なステークホルダーの利益に対する配慮が必要な当社のコーポレート・ガバナンス強化に向けて不断の努力を重ねている。
以上のとおり、提案株主による長岡氏、森氏および秋山氏の3名の取締役の解任を要求する株主提案並びに本株主提案議案に対して賛成推奨するISSレポートは、当社の企業価値向上において重要な役割を担う3名の取締役の上記貢献や取り組みを看過したものであり、当社のガバナンス強化や各戦略・施策の推進力を大きく低下させ、当社の企業価値を著しく毀損する結果を招くものと強く危惧する。

ISSの2つ目の賛成推奨理由である「オアシスが提案する戦略が東京ドームの戦略よりも優れていることを証明しなければならないような支配権を巡る委任状争奪の場面ではない」については説明が必要になろう。今回のオアシスの提案は東京ドームの支配権を得ようとするものではなく、あくまで「3名の取締役の解任」を求めるものに過ぎないことから、ISSとしては「戦略の優劣の証明が必要な場面ではない」と判断したというわけだ。

これは逆に言えば、アクティビストの提案が「支配権を得ようとする提案」でなければ、それに先立つ業務改善提案についてISSは精緻な検証を省略する可能性があることを意味する(なお、オアシス側の提案はコロナ禍の前の提案という点を割り引いても十分傾聴に値する提案であったことは2020年10月28日のニュース「アクティビストの業務改善提案への対応が遅れ社長の解任請求へ」を参照)。

東京ドームは、2020 年6月上旬から、「不動産開発、街づくり共創、コンテンツ補完等の観点から、同社と一定の事業シナジーが見込まれること」が期待できる公開買付者以外の複数の事業戦略パートナー候補先企業に対し、資本業務提携を打診しており、2020年8月上旬には、公開買付者である三井不動産を含む複数の事業戦略パートナー候補先企業に対して、正式な事業戦略パートナーの選定手続の概要および初期的な提案書提出の依頼を通知し、2020年8月下旬に三井不動産から本TOBに関する初期的な提案書を受領するとともに、その他の事業戦略パートナー候補先企業の一部からも初期的な提案書を受領したとしている。そして、2020年8月下旬から 2020年11月上旬までに、三井不動産を含む複数の事業戦略パートナー候補先企業からのデューデリジェンス(詳細調査)を受け入れていた。このように、東京ドームが10月16日付でオアシスから社長等3名の取締役解任を請求する臨時株主総会の招集請求書の送付を受けるまでに、TOBに向けた準備が着々と進められており、結果として、オアシスが求めている臨時株主総会の開催に向け、三井不動産がホワイトナイトとして登場する段取りが整ったと言える。

ホワイトナイト : 敵対的買収を仕掛けられた際に、当該買収者に対抗して、友好的な買収を提案してくれる会社等のこと。白馬の騎士(ホワイトナイト)に例えてこう呼ばれる。通常は、敵対的買収者よりも高い価格で株式を買い取るか、第三者割当増資を引き受けることになる。

オアシスは2021年1月に三井不動産による東京ドームへのTOBが成立した後は、東京ドーム株式の売却資金を次の投資先に振り向けることになる。オアシスに限らず、アクティビストに株式を持たれている企業では、アクティビストが(支配権を左右するような提案(例えば取締役全員の交代を迫る提案など)ではなく)一部取締役のみの解任を請求する株主提案を行い、ISSやグラスルイスといった議決権行使助言会社が東京ドームのケースと同じロジックで当該提案に対して賛成推奨をするといったシナリオが現実化する可能性が高い。経営陣としては、東京ドームが三井不動産によるTOBを進めたように、アクティビストへの対抗策を検討しておく必要があろう。

2020/12/10 “コロナ赤字企業”に救済策 与党が令和3年度税制改正大綱公表

コロナ禍で業績悪化に陥る企業が続出する中、政府は赤字を出した企業の救済策を講じる。(2020年)12月10日、令和3年度税制改正大綱(原文はこちら)が与党から公表されたが、その目玉措置の1つが、・・・

税制改正大綱 : 税制改正は毎年1回行われるのが通常だが、翌年度の税制改正の内容を大まかにとりまとめたものが税制改正大綱であり、毎年12月中旬頃に政府(与党)が公表する。

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2020/12/10 “コロナ赤字企業”に救済策 与党が令和3年度税制改正大綱公表(会員限定)

コロナ禍で業績悪化に陥る企業が続出する中、政府は赤字を出した企業の救済策を講じる。(2020年)12月10日、令和3年度税制改正大綱(原文はこちら)が与党から公表されたが、その目玉措置の1つが、法人税の計算上、コロナ禍により生じた赤字(≒欠損金)を将来生じる黒字(≒所得)と相殺することを認める措置の大幅緩和だ。

税制改正大綱 : 税制改正は毎年1回行われるのが通常だが、翌年度の税制改正の内容を大まかにとりまとめたものが税制改正大綱であり、毎年12月中旬頃に政府(与党)が公表する。

法人税法には、ある事業年度において生じた欠損金を10年間にわたって繰り越し、所得と相殺できるという「欠損金の繰越控除制度」が設けられている。例えば、X事業年度において、同制度適用前の所得が100、過去の事業年度から繰り越されて来た欠損金の累計額も100ある場合、X事業年度の所得は0(=100-100)となり、法人税負担は生じない。

ただし、資本金1億円超の法人が繰り越せるのは、発生した欠損金の50%に制限されている(詳細は財務省のウェブサイト参照)。こうしたなか令和3年度税制改正では、コロナ禍で企業の欠損金の増加が予想されることを踏まえ、「2年間」にわたって生じた欠損金を、翌期以降、最長で「5年間」、最大で「100%」繰越控除できる特例措置を設ける。

ここでいう2年間とは、「令和2年4月1日から令和3年4月1日までの期間内の日を含む事業年度」を原則とする。したがって、例えば3月決算企業であれば、「令和2年度」および「令和3年度」の欠損金が対象となる(この欠損金は「特例対象欠損金額」と呼ばれる)。

ただし、この特例措置の適用を受けるためには、産業競争力強化法に基づく「 事業適応計画(仮称)」の認定を受けることを条件とする。また、この特例による「特例対象欠損金額」の繰越控除限度額は、特例対象欠損金額のうち「事業適応計画に従って行った投資の額に達するまでの金額」が上限となる。つまり、この特例によりできるだけ多くの欠損金を繰越控除しようとすれば、その分、投資も行わなければならないということだ。この点からは、特例措置による税負担の減少が企業の「内部留保」の増加につながってはならないという政府の思惑が透けて見える。2020年12月8日のニュース「政府、売上減少でも積極的なR&D投資促す」でお伝えしたとおり、政府は同じく令和3年度税制改正で、売上が減少してもR&D投資の促進を促す仕組みにより研究開発税制を緩和したが、“投資あっての税制優遇”というスタンスは一貫していると言えよう。

産業競争力強化法 : 日本経済の3つの歪みとされる「過剰規制」「過小投資」「過当競争」を是正するため、収益力の飛躍的な向上に向けた事業再編などの企業の取り組みを後押しする法律。
R&D : 「Research and Development」の略称で、「研究開発」と訳されるのが一般的。自社の競争力を高めるための技術調査や技術開発、事業領域に関する研究といった活動を指す。
研究開発税制 : 複数の計算方法があるが、例えば、試験研究費の増減に応じて6~14%。増加率が高いほど控除率が高くなる)をその事業年度の法人税額から控除する。

本特例措置は、コロナ禍により赤字が生じた企業は是非検討すべき制度と言える。ただし、上述のとおり、本特例の適用を受けるためには「事業適応計画」の認定を受けることが条件となる。現時点で判明している「ROAの5%向上」のほか、「事業適応計画」における詳細な適用要件については、今後明らかになり次第続報する。

ROA : Return On Assets =総資産利益率(利益/総資産)。実務上、ROAの利益には「営業利益」もしくは「事業利益」を使うことが多い。これは、総資産に対応する利益は、営業利益あるいは事業利益であるという考え方による。

2020/12/10 【2020年11月の課題】役員報酬開示の改善(会員限定)

1.有価証券報告書における役員報酬開示

周知のとおり、日本企業の経営者報酬を大きく変えるきっかけとなったのが、コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)です。CGコードでは、「健全な起業家精神」を発揮するうえで、経営者に対する報酬は重要な“手段”と位置付けられています。具体的には、CGコード【原則4-2.取締役会の役割・責務(2)】は「・・・経営陣の報酬については、中長期的な会社の業績や潜在的リスクを反映させ、健全な企業家精神の発揮に資するようなインセンティブ付けを行うべきである。」とし、また、補充原則4-2①は「取締役会は、経営陣の報酬が持続的な成長に向けた健全なインセンティブとして機能するよう、客観性・透明性ある手続に従い、報酬制度を設計し、具体的な報酬額を決定すべきである。その際、中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである。」としています。

【CGコードへの対応前後における日本企業の経営者報酬の変化】
  CGコード対応前 CGコード対応後
視点 短期 中長期
報酬のタイプ別構成割合 固定報酬中心 業績連動報酬の割合増加
交付財産 現金中心 株式報酬の増加

また、CGコードは、日本企業における経営者報酬のあり方を変えるとともに、その開示の充実を求めています。具体的には、CGコード【原則3-1.情報開示の充実】は「取締役会が経営陣幹部・取締役の報酬を決定するに当たっての方針と手続」の開示を要請しています。

開示の充実の要請は、ソフト・ロー(コンプライorエクスプイン)であるCGコードから、ハード・ロー(強制適用)である開示府令へと広がり、2019年3月期からは有価証券報告書において役員報酬に関する開示が強化され、さらに、2020年度には会社法の改正に伴うさらなる開示の強化が予定されています(詳細は2020年11月13日のニュース「会社法改正に伴う有報開示の変更点」参照)。

有価証券報告書の【コーポレート・ガバナンスの状況等】(4)【役員報酬】において開示が求められる内容は、大きく分けて(1)報酬プログラム、(2)報酬実績、(3)報酬ガバナンス、の3つとなっています。

(1)報酬プログラム
(注)2020年11月6日、金融庁は報酬プログラムの開示において「取締役の個人別の報酬等に係る決定方針又は報酬委員会による報酬の決定の方法を定めている場合には、その内容を記載する」ことを求める開示府令の改正案を公表している。
主な開示内容 開示の趣旨等
以下のような報酬の決定・支給の方法やこれらに関する考え方を具体的に分かりやすく記載する。
□固定報酬、短期の業績連動報酬(賞与)、中長期の業績連動報酬(ストックオプション等)それぞれの算定方法
□固定報酬と短期・中長期の業績連動報酬の支給割合
□役職ごとの支給額についての考え方
□役員報酬の算定方法にKPI等の指標が関連付けられている場合には、その指標と指標の選定理由、業績連動報酬への反映方法
□報酬総額等を決議した株主総会の年月日及び決議内容等
報酬プログラムとは「業績連動に関する情報や役職ごと方針等」を意味しており、役員報酬と経営戦略や中⻑期的な企業価値向上との結び付きを検証できるような情報を開示する必要がある。

役員報酬体系が企業価値の向上に向けた経営陣の適切なインセンティブとして十分機能しているか否かは、企業の中長期的な成長への期待を判断する要素の1つとして、投資判断や対話において重視されています。したがって、固定報酬と業績連動報酬の支給割合や、業績連動報酬の額を決定する際のKPIといった報酬プログラムの内容は具体的に開示される必要があります。

以下、実在の事例に基づき、報酬プログラムの開示について改善すべき点を検討します(事例の下線は筆者が加筆)。

<事例A>
d.役員の報酬等の額の決定に関する方針

取締役並びに監査役に対する報酬額の決定は株主総会の決議によるそれぞれの報酬限度額の範囲内で、取締役については取締役会の決議、監査役については監査役会の決議に基づき決定しております。
なお、役員区分ごとの報酬等の額に関する考え方及び算定方法の決定に関する事項は、次のとおりです。

(取締役)

取締役の報酬等につきましては、各取締役の職責や役位に応じて支給する固定報酬と、会社業績や各取締役の経営への貢献度に応じて支給する業績連動報酬で構成されております。

業績連動報酬に関しましては、定量評価の基準として期初予算として定めた営業利益、経常利益及び親会社株主に帰属する当期純利益の達成状況により評価しております。一方、定性評価の基準となる各取締役の経営への貢献度については、期首に各取締役が設定した重点施策に対し、その達成状況を様々な観点から総合的に判断しております。なお、社外取締役につきましては、役員報酬の支払いはございません。

改善すべきと考えられる点
①業績連動報酬は「現金支給の短期賞与」と考えられるが、具体的な名称がどこにも書かれておらず、報酬の内容が不明。業績連動報酬には様々な種類があることを踏まえると、報酬の名称・内容は具体的に記載すべき。
②業績連動報酬の金額がどのように算出されるのかを示す計算式が記載されていない。
③業績連動報酬の定量評価について「営業利益、経常利益及び親会社株主に帰属する当期純利益の達成状況により評価し」とあるが、具体的な達成基準が説明されておらず、指標の選定理由の記載もない。
④定性評価の基準があるようだが、具体的な指標を記載するか、指標がない場合には定性的評価を行う項目を記載するべき。
⑤固定報酬と短期・中長期の業績連動報酬の支給割合の記載がない。

近年、日本企業では譲渡制限付株式報酬の導入が進んでいますが、以下のように、単に「譲渡制限付株式」報酬を採用しているとの記載にとどまる事例が多く見受けられます。

譲渡制限付株式報酬 : 一定期間の譲渡制限が付された株式報酬で、企業が株式を無償取得することとなる事由(没収事由:例えば所定の期間勤務を継続しないなど)が定められているものを指す。「リストリクテッド・ストック」という呼び方も定着している。

<事例B>
①役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針に係る事項
(a) 取締役(社外取締役および監査等委員を除く)の報酬
(省略)
(譲渡制限付株式)

・株価上昇および企業価値向上への貢献意欲を高めるための「長期インセンティブ報酬」として設定
・支給総額は60百万円を超えない金額とする

改善すべきと考えられる点
・譲渡制限付株式がどのような基準に基づいて交付されるのかが不明。
事前交付型か、事後交付型か、勤務条件業績条件が付されているのかが不明なため、譲渡制限付株式報酬の内容が全く分からない。

事前交付型 : 取締役等の報酬対象勤務期間の開始後、速やかに取締役等に株式の発行(or自己株式の交付)を行い(この時が会社法上の「割当日」に該当)、取締役等と会社の契約において、当該株式に譲渡制限を付しておき、権利確定条件(例えば「3年間勤務する」「3年後に株価を倍増させる」など)が達成された場合に譲渡制限が解除され(すなわち、取締役等は当該株式を売却して換金できる)、権利確定条件が達成されない場合には企業が無償で株式を取得(没収)する仕組み。
事後交付型 : 取締役等と会社の契約において、株式の発行等について権利確定条件が付されており、権利確定条件が達成された場合に株式の発行等が行われる仕組み。
勤務条件 : 取締役等の一定期間の勤務や職務執行に基づく条件をいう。「業績条件」などととともに、「権利確定条件」と言われる。
業績条件 : 一定の業績(株価を含む)の達成又は不達成に基づく条件をいう。

報酬プログラムの開示では、採用した業績連動報酬に関する情報の充実が「分かりやすさ」の大前提となります。例えば、具体的な報酬制度の名称のほか、「基本報酬or業績連動報酬・インセンティブ報酬」、「現金報酬or株式報酬」、「短期視点の報酬or中長期視点の報酬」、「交付のタイミング(事前or事後)」、「勤務条件や業績条件があるか」、「オプション型orフルバリュー型」などは記載しておきたいところです。特に、後述の「(2)報酬実績情報」でも触れているとおり、金融庁は2020年11月6日、報酬実績の開示において「当該業績連動報酬の全部又は一部が非金銭報酬等であるときは、その内容を記載する」ことを求める開示府令の改正案を公表していることから、株式報酬等についてはその詳細を記載する必要があります。

<報酬の種類>
(注1)業績連動報酬もインセンティブ報酬の一部であるが、ここでは特に、利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標等を基礎として算定される報酬を指すこととする。
(注2)会社法の改正により行使価格を0円とすることが認められたため、0円ストック・オプションの活用が増えると予想される。詳細は2020年9月25日のニュース『改正会社法で導入された株式報酬、「事前交付」と「事後交付」の違い』参照。
  長期
or
短期
交付財産
(現金or株式or
新株予約権)
交付の
タイ
ミング
主な報酬の具体例
基本報酬 短期 現金 事後 固定報酬
業績連動報酬
(注1)、
インセンティブ報酬
短期 現金 事後 年次賞与
長期 事後 パフォーマンス・キャッシュ
ファントム・ストック
SAR
持分
(株式
報酬)
新株予約権 株式報酬型 事前 1円ストック・オプション (注2)
株価連動型 事前 ストック・オプション(有償 or無償)
自社株式 事前 譲渡制限付株式(RS:リストリクテッド・ストック)
事後 株式交付信託
譲渡制限付株式ユニット(RSU:リストリクテッド・ストック・ユニット)

パフォーマンス・キャッシュ : 中長期の評価に基づいて現金賞与を支給する中期キャッシュプラン
ファントム・ストック : 架空の株式(ファントム(架空の)ストック= Phantom Stock)を用いたインセンティブ報酬。架空の株式を付与し、一定期間経過後、その間における株価の上昇・下落を反映させた「株価×付与数」を現金で支給する。フルバリュー型(⇔値上がり益型(例:通常型ストックオプション))という点で、株式報酬型ストックオプションの代替措置と言える。資本構成や議決権に影響を与えたくないなど、資本政策上の観点から利用されることが多い。ただし、企業にとっては、ストックオプションと異なりキャッシュアウトが生じる分、負担が大きい。
SAR : ストックオプションと同様に株価に連動するものの、株式は介在しない現金によるインセンティブ報酬。付与時点からの株価の上昇分を会社が現金支給する。海外現地法人の幹部に対し、現地の証券税制の影響や事務負担を回避する観点から、通常型ストックオプションの代替措置として支給されるケースが多い。
譲渡制限付株式 : 一定期間の譲渡制限が付された株式報酬で、企業が株式を無償取得することとなる事由(没収事由:例えば所定の期間勤務を継続しないなど)が定められているものを指す。「リストリクテッド・ストック」という呼び方も定着している。
株式交付信託 : 企業が自社株式の取得資金を信託銀行に拠出し、この資金を原資に取得した自社株式を、業績目標の達成度などを反映したポイントに応じ、取締役等の在任時や退任時に付与するもの。
譲渡制限付株式ユニット : 業績/株価条件のない株式(現金)交付信託のこと。

報酬プログラムの開示のベストプラクティスは積水ハウス(2020年3月期)の事例です(※解説に必要な部分のみ抜粋)。

<事例C:積水ハウス>
<第70期以降の役員の報酬等>
取締役(社外取締役を除く。以下「業務執行取締役」という。)の報酬等
(業務執行取締役に対する報酬制度改定の概要)
 当社は、ガバナンス改革の重要テーマとして「役員報酬制度の抜本的な見直し」を掲げ、人事・報酬諮問委員会における継続的な審議を経て、業務執行取締役の報酬制度について、以下の基本方針に沿った改定を行いました。
〔報酬の基本方針〕
〔1〕「人間愛」を根本哲学とする企業理念に従い、株主・投資家、顧客、従業員をはじめとするすべてのステークホルダーに対して公正であるべく、高度な報酬ガバナンスを通じて客観性・透明性を確保し、説明責任を十分に果たすものとします。
〔2〕ESG経営のリーディングカンパニーを目指すべく、社会的意義を重視し、かつイノベーティブな成長戦略の着実な遂行についてのコミットメントを明確にし、長期的かつ持続的な企業価値向上に向けた健全なインセンティブとして機能する報酬制度とします。
〔3〕経営陣幹部の育成・評価との連携を重視し、次世代の経営人材の成長意欲を喚起し、当社グループ全体の組織活力の長期的な向上をもたらすものとします。

本改訂の概要は以下のとおりです。
・報酬構成比率について、業務執行取締役の総報酬に占める業績連動賞与(短期業績連動)の比率を縮小し、株式報酬(中長期業績連動)の比率を拡大することで、単年度の業績目標の達成のみならず、長期的かつ持続的な企業価値向上に向けた健全なインセンティブとして機能するよう役位毎の役割・責任に応じ適切な構成比を設定し、代表取締役については基準業績達成時の報酬構成比率(基本報酬:業績連動賞与:株式報酬)を概ね1:1:1としました。
・報酬水準について、外部専門機関による客観的な報酬市場調査データ(ウイリス・タワーズワトソンの「経営者報酬データベース」)を参考に、当社グループの業績規模を踏まえ、適切な水準に設定しました。
・業績連動賞与について、客観性・透明性を確保し説明責任を十分に果たせるものとするため、連結経常利益に役位毎に予め定める賞与係数を乗じて支給額を算定することとし、算定方法を明確にしました。
・株式報酬について、ROE及びESG経営指標の目標を予め定め、その達成度に応じて交付株式数を変動させる事後交付型の業績連動型株式報酬(パフォーマンス・シェア・ユニット)制度を新たに導入し、導入済みの譲渡制限付株式報酬(リストリクテッド・ストック)制度との2階建ての株式報酬制度とすることで、株主の皆様とのより一層の価値共有や、長期的かつ持続的な企業価値の向上へ向けたインセンティブを強化しました。
・株主の皆様との持続的な価値共有を図るため、株式保有ガイドラインを新たに導入し、業務執行取締役に対し、当社取締役としての在任中、役位に応じた基準金額(株式時価ベース)に相当するまで当社株式の保有強化を促すこととし、基準到達以降は継続保有を義務付けることとしました。
・過度なリスクテイクを抑制し、経営の健全性を確保することを目的として、一定の事由が生じた場合に権利確定前の株式報酬の全額又は一部を返還させる条項(いわゆるマルス・クローバック条項)を定めました。
53671a
※1 報酬構成比率は、役位ならびに会社業績及び業績評価指標の達成状況に応じて変動します。
基準業績時における代表取締役の報酬構成比率を記載しています。
※2 業績連動型株式報酬と譲渡制限付株式報酬の構成割合は、概ね1:1です(基準業績時)。
※3 業績連動型株式報酬のうち50%については、納税資金に充当することを目的として金銭で支給します。

(報酬体系及びインセンティブ報酬の仕組みの概要)
 業務執行取締役の報酬体系は、基本報酬(固定報酬)及びインセンティブ報酬(変動報酬)で構成し、インセンティブ報酬(変動報酬)は「業績連動賞与(短期)」、「業績連動型株式報酬(中期)」(新設)及び「譲渡制限付株式報酬(長期)」の3種類を組み合わせています。
53671b
53671c

GOOD POINT
(1)報酬プログラムの内容、業績連動報酬と業績連動報酬以外の報酬の支給割合の決定に関する方針内容について、図を用いてわかりやすく、かつ具体的に記載されている。
(2)報酬制度の内容が、「基本報酬or業績連動・インセンティブ報酬」、「現金報酬or株式報酬」、「短期視点の報酬or中長期視点の報酬」、「交付のタイミングは事前or事後」、「勤務条件や業績条件があるか」、「オプション型 or フルバリュー型」の視点を踏まえた記載となっている。
(3)報酬額の客観性や妥当性の検証において、外部の報酬コンサルタントを活用したり、外部調査機関のデータを用いたりして、業界・規模等の水準を考慮している旨を記載している。

オプション型 : 行使価格が決められているストック・オプションのように、値上がり益部分が利益となる株式報酬のこと。「株価上昇益還元型」とも言われる。このタイプの株式報酬は、しかし、株価が権利行使価格を大幅に下回り、回復の見通しが立たない場合、インセンティブ効果が失われてしまうというデメリットがある。このため、譲渡制限付株式報酬よりも株式の付与数を多めに設定することが多く、株価が大きく上昇した場合には、フルバリュー型よりも得られる利益が大きくなることもある。
フルバリュー型 : 株式そのものを報酬として支給する場合のように、支給対象者が株式の価値全体(=フルバリュー)の報酬を得ることができるタイプの株式報酬のこと。フルバリュー型であれば、株価低迷時においても、会社が倒産しない限り価値がゼロになることはないため、支給対象者はインセンティブを継続しやすいというメリットがある。

53671d
(株式保有ガイドライン)
 当社は、「ESG経営のリーディングカンパニー」を目指す上で、業績連動型株式報酬の一部にESG経営指標に基づく評価を反映することに加え、株主の皆様との価値共有を長期的かつ持続的に担保していくことを重要と考えています。そのため、株式保有ガイドラインを設定し、業務執行取締役に対して当社取締役としての在任中、予め定めた基準金額(株式時価ベース)に相当するまで当社株式の保有強化を促すこととし、基準到達以降は最低限、基準金額以上の継続保有を義務付けることとします。
 なお、基準金額は、代表取締役については年間基本報酬の2倍、その他の対象取締役(社外取締役を除く)については年間基本報酬と同額とします。

〔図表4〕代表取締役の株式保有状況(2020年3月末日時点)
53671e
53671f
(株式報酬返還条項)
 当社は、業務執行取締役の過度なリスクテイクを抑制し、経営の健全性を確保することを目的に、一定の事由が生じた場合に権利確定前の株式報酬の全額又は一部を返還させる条項(いわゆるマルス・クローバック条項)を設定しています。

※参考:取締役を兼務しない執行役員の報酬等
 当社の取締役を兼務しない執行役員の報酬等も、業務執行取締役の報酬制度に準ずるものとします。但し、業績連動賞与(短期業績連動)については、取締役と同様の連結経常利益等に基づく評価に加え、担当する部門の業績評価や個人業績評価の結果を反映し、個別支給額を決定します。

(注)業務執行取締役に対する業績連動賞与及び業績連動型株式報酬(パフォーマンス・シェア・ユニット)の一部(付与される基準株式ユニット数の80%に相当するROE連動部分)については、法人税法上の業績連動給与とすることを企図しており、その算定方法は以下のとおりです。

① 業績連動賞与
 2021年1月期の連結経常利益に、当社取締役会において予め定める取締役の役位に応じた賞与係数(※)を乗じ支給額を算定するものとし、その算定式の内容は以下のとおりです。
 なお、第5次中期経営計画の収益計画として発表した2021年1月期の経常利益は2,050億円です。
(イ)支給対象
 法人税法第34条第1項第3号に定める「業務執行役員」である当社取締役(以下、「対象取締役」)を対象とします。
(ロ)総支給額の上限
 1)5億4千万円、2)下表ⅰに役位別に定める個別賞与上限支給額に本有価証券報告書提出時における役位毎の員数を乗じて合計した額、のいずれか少ない額を上限とします。
(ハ)個別賞与支給額の算定方法
53671g
※1 百万円未満の端数が生じる場合は、十万円の位で四捨五入します。
※2 2021年1月期の親会社株主に帰属する当期純利益が1,000億円を下回る場合には支給額をゼロとします。
※3 対象取締役が、業績連動賞与の支給対象期間(2020年1月期にかかる定時株主総会の日から2021年1月期にかかる定時株主総会の日の前日までの期間)の途中で退任(当社の取締役もしくは執行役員のいずれの地位も喪失した場合)した場合、当該退任対象取締役に対する業績連動賞与は支給しません。

② 業績連動型株式報酬(付与される基準株式ユニット数の80%に相当するROE連動部分)
 当社取締役会において予め定める取締役の役位に応じた基準額に相当する基準株式ユニット数のうち、80%に相当するROE連動部分としてのユニット数(以下、「基準株式ユニット数(ROE連動部分)」)について、2021年1月期から2023年1月期までの連続する3事業年度(以下、「対象評価期間」)におけるROEの目標達成度に応じて、評価期間終了時において0%~150%の範囲内で支給ユニット数を決定の上、当該支給ユニット数の50%を当社普通株式(以下、「株式」)にて交付、残りを金銭として支給するものとし、その算定式の内容は以下のとおりです。
 なお、第5次中期経営計画の財務戦略として、株主資本コスト(6%程度と認識)を上回るROE10%以上を安定的に創出することを発表しています。
(イ)支給対象
 法人税法第34条第1項第3号に定める「業務執行役員」である当社取締役(以下、「対象取締役」)を対象とします。
(ロ)株式総交付数の上限及び金銭総支給額の上限
 当社普通株式の総交付数の上限は、1)108,000株、2)下表ⅱに役位別に定める個別上限株式数に本有価証券報告書提出時における役位毎の員数を乗じて合計した数、のいずれか少ない数を上限とします。
 金銭総支給額の上限は、1)3億5,640万円、2)下表ⅱに役位別に定める個別金銭上限支給額に本有価証券報告書提出時における役位毎の員数を乗じて合計した額、のいずれか少ない額を上限とします。
〔表ⅱ〕個別株式上限交付数及び個別金銭上限支給額
53671h
(ハ)個別株式交付数及び個別金銭支給額の算定方法
 対象評価期間の開始時に、下表(A)に役位別に定める基準株式ユニット数を付与し、その80%に相当する基準株式ユニット数(ROE連動部分)について、対象評価期間における各事業年度のROEの目標達成度に応じて、対象評価期間終了時において0%~150%の範囲内で支給ユニット数を決定し、当該支給ユニット数の50%を個別株式交付数として、残りを個別金銭支給額として算定します。
(A)役位毎の基準株式ユニット数(1ユニットあたり1株)
53671i
(B)個別株式交付数
基準株式ユニット数 × 80% × 支給割合(※1) × 50%
(C)個別金銭支給額
(基準株式ユニット数 × 80% × 支給割合(※1) - 上記(B)で算定した個別株式交付数) × 交付時株価(※2)

(※1) (※2)(省略)
社外取締役の報酬等
 当社の社外取締役の報酬等は、客観的かつ独立した立場から当社の経営を監督するという役割に鑑みて、基本報酬(固定報酬)のみとします。基本報酬の水準は、外部専門機関の報酬調査(ウイリス・タワーズワトソンの「経営者報酬データベース」)等を参考に、その職責等に応じて決定します。

監査役の報酬等
 当社の監査役の報酬等は、客観的かつ独立した立場から当社の経営を監督するという役割に鑑みて、基本報酬(固定報酬)のみとします。基本報酬の水準は、外部専門機関の報酬調査(ウイリス・タワーズワトソンの「経営者報酬データベース」)等を参考に、その職責等に応じて決定します。

GOOD POINT
(1)業績連動報酬に係る指標、当該指標を選択した理由及び当該業績連動報酬の額の決定方法が、図や算式を用いて具体的に記載されている。
(2)役員報酬の額又はその算定方法の決定に関する役職ごとの方針の内容を、図を用いて定量的に、かつ具体的に記載している。
(2)報酬実績
(注)金融庁は2020年11月6日、報酬実績の開示について開示府令の改正案を公表し、「業績連動報酬の全部又は一部が非金銭報酬等であるときは、その内容を記載する」ことを求めている。これは、2019年1月31日に公表された(開示府令の改正案に対する)パブリックコメントへの金融庁の考え方No.53の「役員区分ごとの報酬等の種類別の総額の記載を求めておりますので、当該記載と併せて、採用している株式報酬スキームの概要を記載することが考えられます。」との回答に対応したものと考えられる。
主な開示内容 開示の趣旨等
□役員区分ごとの報酬総額及び報酬の種類別総額の開示、並びに連結報酬総額1億円以上の役員の個別報酬開示
□最近事業年度の業績連動報酬に係る指標(KPI)の目標及び実績
報酬実績が当初定めた報酬プログラムに沿ったものとなっているか、また、経営陣のインセンティブとして実際に機能しているかを確認できるような情報を開示する必要がある。

上表のとおり、報酬等に業績連動報酬が含まれる場合には、業績連動報酬に係る指標の目標及び実績について記載することとされていますが、<事例A>のように業績連動報酬に係る指標の目標及び実績を記載していない会社が見受けられます。当該記載がないと、報酬実績が当初定めた報酬プログラムに沿ったものとなっているのかどうかが分かりません。

対外的に公表していない財務指標や、従業員満足度・環境対策への取組み等の非財務指標を複数組み合わせて業績連動報酬を設計している場合でも、目標が設定されている指標についてはその目標を記載すべきです。その際、投資家の理解に資するよう、目標設定の考え方や達成率等についても、併せて記載することが考えられます。また、役位別や個人別に異なるKPIを設定している場合、「目標及び実績」は役位別や個人別に記載することが考えられます。

なお、「目標」が存在しない場合には、その旨及びその理由を適切に説明する必要があるでしょう。

業績連動報酬に係る指標の目標及び実績についてのベストプラクティスが、三菱UFJフィナンシャル・グループの事例(2020年3月期)です。

<事例D:三菱UFJフィナンシャル・グループ>
4. 現中期経営計画(2018~2020年度)に係る業績連動型株式報酬制度における各指標の目標及び実績は、以下のとおりです。
53671j

5.2018年度中に支給された社長の役員賞与における2017年度評価内容、並びに2019年度中に支給された社長の役員賞与における2018年度評価内容は、以下のとおりです。なお、2019年度の評価方法は原則同様です。
53671k

GOOD POINT
業績連動報酬の評価指標について、評価ウェイト、目標値、実績値、達成率に伴う支給率が記載されている。
(3)報酬ガバナンス(報酬決定の枠組み)
(注)2020年11月6日に金融庁が公表した開示府令の改正案では、報酬決定の枠組みの開示において「取締役会から委任を受けた取締役その他の第三者が当該事業年度に係る取締役の個人別の報酬等の内容の全部又は一部を決定したときは、その旨、委任を受けた者の氏名並びに当該内容を決定した日における当該株式会社における地位並びに担当、委任された権限の内容、委任の理由及び当該権限が適切に行使されるようにするための措置を講じた場合における当該措置の内容を記載する」ことを求めている。
主な開示内容 開示の趣旨等
報酬決定プロセスの客観性・透明性のチェックを可能とするため、以下の事項を記載する。
□算定方法の決定権者、その権限や裁量の範囲
□報酬委員会がある場合にはその位置付け、構成メンバー
□取締役会・報酬委員会における報酬決定に関する具体的な活動内容等
報酬決定プロセスの客観性・透明性・実効性を確認できるような情報を開示する。

報酬に関する委員会等が存在する場合には、【コーポレート・ガバナンスの概要】において、構成員の氏名(当該機関の長については役職名も記載)の記載が求められます。なお、構成員の経歴や選任理由を記載することも妨げられていません。取締役会の決議によって各取締役の報酬額の決定の全部又は一部を取締役(社長等)に再一任している場合には、その旨を記載すべきであると考えられます。

また、開示府令では、役員の報酬額の決定過程における「取締役会及び委員会等の活動内容」の記載が求められていますが、各会議における毎回の議論の詳細の開示までは求められておらず、あくまで報酬額の決定の過程が分かればよいこととされています。

「報酬ガバナンス」について、以下の事例を題材に改善すべき点を検討してみましょう。

<事例E>
当事業年度におきましても、取締役会において、各取締役の報酬決定につきましては、代表取締役社長に一任することが承認されており、役員の報酬総額に関しましては、株主総会で決議された報酬限度額を超えるものではありません。

改善すべきと考えられる点
・報酬額の算定方法の決定権者である社長の権限や裁量の範囲、取締役会の報酬決定に関する具体的活動内容が不明であり、報酬決定プロセスの客観性・透明性・実効性を確認できない。

上記(注)のとおり、金融庁が2020年11月6日に公表した開示府令の改正案では、各取締役の報酬額の決定を社長等に一任した場合の報酬決定プロセスの開示が強化されているため、<事例E>のように社長に報酬の決定を一任している会社は報酬決定プロセスの開示を特に充実させる必要があると言えます。
報酬ガバナンスに関する開示のベストプラクティスはJSR(2020年3月期)の事例です。

<事例F:JSR>
1)報酬ガバナンス
ⅰ)報酬決定プロセス
 「報酬の決定に関する方針」や報酬制度、個別の報酬額等は、取締役会にて審議・決定を行います。取締役会における審議・決定に際しての独立性・客観性を確保するとともに取締役会の監督機能と説明責任を果たす能力を強化すべく、報酬諮問委員会を取締役会の諮問機関として設置しております。

ⅱ)報酬諮問委員会の役割・責務
 当社の報酬諮問委員会は、取締役会の諮問に応じて、次の対象者の報酬について審議し、取締役会に対して答申または監査役会に対して助言を行います。
-社内取締役(代表取締役および役付取締役を含む)
-社外取締役
-監査役
-執行役員
-相談役、顧問
-その他重要な使用人等
 当社の報酬諮問委員会は、取締役会の諮問に応じて、次の事項を中心に審議し、取締役会に対して答申または監査役会に対して助言を行います。
-報酬方針の策定
-報酬制度の設計
-業績目標の設定
-インセンティブ報酬の合理性
-報酬水準・ミックスの妥当性
-報酬制度に基づく各役位の報酬額の決定、等
 当社の報酬諮問委員会は、業績連動報酬における支給額の算定・評価を行うにあたり、業績目標達成度の確定後、CEOおよび社長から指名諮問委員会/報酬諮問委員会に提出される年間経営活動報告に基づいて審議を行います。かかる年間経営活動報告に基づき、各業績目標値設定時点においては予見不能であった事象により、業績数値が大きな影響を受けたか否かの協議を行い、必要に応じて達成度の定性調整を行うことを取締役会に対して答申を行うことがあります。
 当社の報酬諮問委員会は、外部の報酬コンサルタント等より提供された必要十分な情報に基づき、適切な審議を行っております。報酬諮問委員会に対する外部の報酬コンサルタントの関与・参画状況は、報酬諮問委員会に同席し、実効的な審議・合意形成の側面支援に留まり、取締役会に対する答申内容に係る妥当性の提言等は受けておりません。なお、外部の報酬コンサルタントとして、ウイリス・タワーズワトソンを起用しております。
 当社の報酬諮問委員会は、取締役会が報酬諮問委員会の答申内容と異なる決定を行う場合、その理由の整理・発信を取締役会に求めます。

GOOD POINT
①役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針の決定権限を有する者の名称、その権限の内容及び裁量の範囲が具体的に記載されている。
②報酬額の客観性や妥当性の検証において、外部の報酬コンサルタントを利用したり外部調査機関のデータを用いるなどして、業界・規模等の水準を考慮していることが記載されている。

ⅲ)報酬諮問委員会の構成・委員長の属性
 当社の報酬諮問委員会の構成は、委員3名以上で構成し、その過半数は独立社外取締役で構成することとしております。報酬諮問委員会の委員長は、独立性・客観性と説明責任を果たす能力の強化の観点から実効的な委員会運営を図るべく、取締役会の決議により、独立社外取締役である委員の中から選定することとしております。

ⅳ)当事業年度にかかる報酬額の決定過程における報酬諮問委員会の活動状況
 当事業年度にかかる報酬額の決定過程における報酬諮問委員会の構成は、以下のとおりです。
委員4名(社外3、社内1)
委員長(社外) 松田取締役
委員(社外) 菅田取締役、関取締役
委員(社内) 小柴代表取締役会長
 当事業年度にかかる報酬額の決定過程における報酬諮問委員会の審議は、2019年2月、4月(2回)、6月、11月、2020年2月、4月の7回開催し、各回に委員長・委員の全員が出席、出席率は100%となりました。尚、上記に記載しておりませんが、2019年6月18日より同委員会社外委員を宮坂学取締役が務めましたが、2019年9月5日に取締役および社外委員を退任されたため、当欄の活動状況、出席率には含めておりません。

 当事業年度にかかる報酬額の決定過程における報酬諮問委員会の審議事項は、以下のとおりであり、取締役会に対する答申または監査役会に対する助言を行いました。また、かかる答申を受けて、取締役会にて「報酬の決定に関わる方針」や報酬制度等の審議・決定を行いました。なお、一部の年次賞与支給対象の役員に対する年次賞与支給額の算定・評価に含まれる個人業績連動部分については、予め評価ごとの支給額のパターンを報酬諮問委員会にて審議し、取締役会においてはかかる部分の標準額を決定の上、CEOおよび社長による5段階評価の結果を反映して個人別の支給額を決定しました。
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GOOD POINT
①報酬諮問委員会の活動状況に関して、委員の氏名、役位、委員会の開催回数、開催日、出席率が記載されている。
②報酬諮問委員会における審議事項が、図表を用いて時系列に分かりやすく記載されている。
2.まとめ

役員報酬は投資家がコーポレート・ガバナンスを評価するうえで最も関心が高い事項です。それだけに、「具体的に」「わかりやすく」記載することが極めて重要になります。

当フォーラムが有価証券報告書の記載事例を調査した結果、特に以下4点について改善が必要と思われる会社が多いということが確認されました。

①業績連動報酬の内容、業績連動報酬の額の決定方法が具体的に記載されていない。
②業績連動報酬に係る指標の目標や実績が記載されていない。
③役員報酬の算定方法の決定権者やその権限や裁量の範囲が具体的に記載されていない。
④報酬額の決定過程における取締役会等の活動内容が具体的に記載されていない。

上場会社各社にあっては、いま一度自社の有価証券報告書を見直し、開示府令の要求に沿った開示内容となっているかを検証しておきたいところです。