2020/11/26 コロナ禍で浮上した新たなESGのテーマ

化石燃料、プラスチックゴミ、ファストファッション、情報漏洩、さらにはアルコール飲料に至るまで、これまで多くのモノや事象がESG投資を標榜する機関投資家によって(特にEおよびSの観点から)問題視され、時にはダインベスト(投資の取りやめ)の対象となってきたが(2018年11月2日のニュース「情報漏洩企業も対象に “気候変動以外”の投資撤退要因」、2019年3月14日のニュース『「ストロー」の次のターゲット』、2019年6月7日のニュース『「飲酒」もNG? 広がるダインベストメントの対象』ほか、これらのニュースで引用されているニュース参照)、新たな“物質”をESGのテーマに加えようという動きがある。・・・

ESG投資 : ESGとは、「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。ESG投資とは文字通り「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資すること

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2020/11/26 コロナ禍で浮上した新たなESGのテーマ(会員限定)

化石燃料、プラスチックゴミ、ファストファッション、情報漏洩、さらにはアルコール飲料に至るまで、これまで多くのモノや事象がESG投資を標榜する機関投資家によって(特にEおよびSの観点から)問題視され、時にはダインベスト(投資の取りやめ)の対象となってきたが(2018年11月2日のニュース「情報漏洩企業も対象に “気候変動以外”の投資撤退要因」、2019年3月14日のニュース『「ストロー」の次のターゲット』、2019年6月7日のニュース『「飲酒」もNG? 広がるダインベストメントの対象』ほか、これらのニュースで引用されているニュース参照)、新たな“物質”をESGのテーマに加えようという動きがある。医療現場における感染症の治療などに広く使用されてきた「抗生物質」だ。

ESG投資 : ESGとは、「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。ESG投資とは文字通り「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資すること

抗生物質は人類を病原菌から守り、健康・生命の維持に多大な貢献をもたらす一方、人間や動物への過剰投与が原因で、抗生物質への耐性を持った「耐性菌」を生み出し、院内感染などの原因ともなってきたが、いまだ世界各国で猛威を振るい続けている新型コロナウイルス感染症との合併症に抗生物質が投与された結果、新たな耐性菌が生まれることが医療関係者などの間で懸念されている。コロナ禍はワクチンの開発によりいずれ収束する可能性があるが、抗生物質の大量使用が続く限り、現在世界で約70万人とされる耐性菌による年間死亡者数は、2050年には1,000万人を突破し、これによる経済損失は100兆ドルに達するおそれがあるとの調査結果もある。

こうした中、日本の三井住友トラスト・グループのほか、アムンディ、リーガル&ジェネラル、アビバ・インベスターズ、ノーザン・トラスト・アセット・マネジメントなど大手機関投資家が、薬剤耐性の拡大を防ぐべく、議決権行使および株主提案等を通じて抗生物質の使用削減を企業に訴えかけることを表明した。また、これらの機関投資家は、2020年1月に開催されたダボス会議で、薬剤耐性菌による感染症の世界的な脅威に取り組むことを目的として国連PRIや英国政府などによって立ち上げられた「IAAR(Investor Action on Antimicrobial Resistance=薬剤耐性に関する投資家行動団体)」の“投資パートナー”となり、IAARの取り組みを支持するとの意向も示している。

薬剤耐性 : 抗生物質等の抗菌薬が効きにくくなる、または効かなくなること。
ダボス会議 : 1971年に発足した非営利財団「世界経済フォーラム」(本部:スイス・ジュネーブ)が毎年1月に開催する年次総会のこと。スイスの有名な保養地であるダボスで開催されることから「ダボス会議」との名前が付いた。ダボス会議には、日本の首相を含む各国を代表する政治家や実業家が一堂に会し、世界経済や環境問題など幅広いテーマについて議論するだけに、同会議における決定・公表事項は世界に強い影響力を持つ。
国連PRI : 国連PRIとは「United Nations Principles for Responsible Investment=国連責任投資原則」の略で、機関投資家に対し、投資判断プロセスにESGを反映することや、投資対象企業にESGに関する情報開示を求めることなどを提唱するプラットフォームである。国連PRIに署名した機関投資家は、国連に投資の状況を報告する義務が生じるため、ESGを重視した投資を実践せざるを得ない。

IAARの投資パートナーになると、薬剤耐性の拡大防止に向け投資の意思決定や投資先企業との対話を行うとともに、薬剤耐性の脅威に対処するための目標や成果を「少なくとも一つ」設定することが求められる。例えば投資パートナーに名を連ねるアビバ・インベスターズは、マクドナルドや英大手スーパーマーケットのテスコなどに対し、食品の生産・加工・販売のプロセスから抗生物質の使用を完全に排除するように働きかけてきた。

上記のとおり、三井住友トラスト・グループもIAARの投資パートナーとなっており、今後他の国内機関投資家の間でも「抗生物質」の使用削減がESG投資の新たなテーマとなっていけば、製薬業界をはじめ、食品メーカー、外食産業、スーパーマーケットなど幅広い業界・企業に影響が及ぶ可能性がある。逆に、抗生物質の使用削減につながる予防医療を手掛ける企業がESG投資の対象となることも考えられよう。

ESG投資の隆盛とともに、自社が扱う資材や商品等にESG投資の観点から問題視され得るものがないか、リスク(例:ダインベスト)マネジメントの観点から検証する時代が到来しつつあると言えそうだ。

2020/11/25 キャッシュ使わないベンチャー企業買収が容易になる可能性

日本企業にとって事業ポートフォリオの見直しは喫緊の課題となっており、それを後押しすべく、政府は事業再編に関する法令の整備に乗り出している。このうち、事業ポートフォリオ見直しの手法として有望視されているのが、・・・

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2020/11/25 キャッシュ使わないベンチャー企業買収が容易になる可能性(会員限定)

日本企業にとって事業ポートフォリオの見直しは喫緊の課題となっており、それを後押しすべく、政府は事業再編に関する法令の整備に乗り出している。このうち、事業ポートフォリオ見直しの手法として有望視されているのが、自社株を対価としたM&A(以下、自社株対価M&A)だ。

自社株対価M&A : 自社の株式を対価とするM&Aであり、買収資金が不要(被買収会社の株主に対し、キャッシュを支払う代わりに自社株を交付する)というメリットがある。

自社株対価M&A(通常、上場会社をターゲットにしたM&Aは「自社株対価TOB」と呼ばれる)とは、文字通り自社の株式を対価とするM&Aであり、買収資金が不要(被買収会社の株主に対し、キャッシュを支払う代わりに自社株を交付する)というメリットがある。自社株対価M&Aに関する法令の整備は経済産業省が旗振り役となって推進してきたが(2020年6月5日のニュース「事業再編研究会が近く指針公表、コロナ禍受け“キャッシュ”意識」の「(3)自社株対価M&A」参照)、ついに“悲願”がかなうことになりそうだ。

自社株対価M&Aは現行法令上も実施可能だが(2017年9月22日のニュース「自社株対価TOBが各段に実施しやすく」、2019年9月11日のニュース「自社株活用したM&Aを後押しも 株式交付が会社法上の制度となる意義」参照)、自社株対価M&Aを実行するうえでネックとなる会社法上の規制(有利発行規制現物出資規制など)と税負担(被買収会社の株主に生じる(被買収会社株式の譲渡に伴う)譲渡益課税)という問題をクリアするためには、産業競争力強化法に基づく「特別事業再編計画」を作成し、当該計画について所管の主務大臣の認定を受け、「認定特別事業再編事業者」となる必要がある(特別事業再編計画の認定要件はこちら)。しかし、この認定を受けることは企業にとってかなりの手間となるため、現状、産業競争力強化法を活用して自社株対価TOBを行った企業は極めて少数にとどまっている。

有利発行規制 : 有利発行とは、例えば1株当たりの時価が千円のところ5百円で新株を発行するというように、新株や新株予約権の引受人にとって“有利な”価格(無償や時価未満)で新株を発行すること。有利発行が行われると、既存株主の持分は希薄化するため、会社法では株主総会の特別決議(2/3以上の賛成)を求めている(会社法199条2項、3項、200条2項、201条1項、309条2項5号)。
現物出資規制 : 株式交付の対価として現物出資される財産が適正に評価されるよう、裁判所が選任した検査役により現物出資財産の価値の調査を求めるもの(会社法207条)。仮に現物出資財産の値付けが適正に行われていなければ、現物出資した者あるいは現物出資を受け株式を交付した会社の株主が損害を被ることになる。
産業競争力強化法 : 日本経済の3つの歪みとされる「過剰規制」「過小投資」「過当競争」を是正するため、収益力の飛躍的な向上に向けた事業再編などの企業の取り組みを後押しする法律。

このうち会社法上の問題については、2021年3月1日に施行されることが決まった改正会社法で「株式交付」制度が創設されることにより間もなく解消する(2019年9月11日のニュース「自社株活用したM&Aを後押しも 株式交付が会社法上の制度となる意義」参照)が、税負担の問題は残ったままとなっている。そこで政府は、上記産業競争力強化法に基づく「特別事業再編計画」の認定を受けなくても譲渡益課税を行わないこととするべく、「租税特別措置法」を改正する方向。改正租税特別措置法では、上記「特別事業再編計画」の認定要件とは全く異なる“簡易”な要件が設定されるものとみられる。これにより自社株対価M&Aの使い勝手は各段に良くなることになりそうだ。また、この措置を“恒久化”することも現在議論されている。租税特別措置の多くは適用期限が設けられた時限措置となっているだけに、恒久化が実現すれば画期的と言えよう。

株式交付 : 株式交付とは、分かり易く言えば「自社の株式を対価に、“100%子会社でない子会社”を創る手法」と表現することができる。自社株を対価として子会社を創るというと「株式交換」が思い浮かぶところだが、株式交換とはあくまで「100%子会社」を創るための手法であるのに対し、株式交付は100%子会社とすることまでは考えていない場合(例えば議決権の3分の2を取得したい場合)にも使えるという点で、株式交換とは異なる。
租税特別措置法 : 政策的に実施される様々な減税措置を規定した法律。通常、適用期限を定めた「時限措置」として実施される(適用期限が近付くと、延長するかどうかが議論されることになる)。研究開発費のうち一定割合を法人税額から控除する研究開発税制や、中小企業に対する法人税率の軽減措置などがある。政策的に実施される減税措置ということで、「政策減税」とも呼ばれる。

もう一つ注目されるのは、自社株対価M&Aは非上場企業を対象に実施することも可能という点だ。以前、政府内では「自社株対価TOB」という呼称が使われていたが、これは上場企業をターゲットにしたM&Aを念頭に置いていたからだと思われる。しかし、自社株対価M&Aは2021年3月1日から施行される改正会社法で創設される株式交付制度をベースとするため、買収のターゲットが上場企業が未上場企業かは問われない。近年のCVC(Corporate Venture Capital=コーポレート・ベンチャーキャピタル)ブームが示すように、上場企業の間で有望なベンチャー企業に対する買収意欲は強い。自社株対価M&Aの使い勝手が大幅に改善すれば、上場企業が自社株を使って有望なベンチャー企業を買収するケースが出てくる可能性もあろう。

CVC : 投資を本業としない事業会社が自己資金をベンチャー企業に投資すること(又はその組織)。CVCは社内の投資部門や子会社が運営するか、外部のVC(Venture Capital=ベンチャーキャピタル)に運営を委託することが多い。CVCもVCもベンチャー企業に投資を行うという点では同じだが、VCが投資先の将来的な上場によるキャピタルゲインを得ることを目的としているのに対し、CVCは自社とシナジーのあるベンチャー企業に投資し、協業等により本業の成長や拡大を目的としている点、大きく異なる。

2020/11/24 フォローアップ会議で「筆頭社外取締役」の役割に期待する意見

(2020年)11月18日に開催された「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、フォローアップ会議)では、コロナ後の企業の変革に向けたコーポレートガバナンスの課題の一つとして、「取締役会の機能発揮と多様性の確保」について議論されたが(2020年11月19日のニュース「女性、外国人、中途採用者の管理職への登用状況等を数字で公表要求へ」参照)、その中で複数の委員から言及があったのが、「筆頭独立社外取締役」(英:senior independent director、米:lead independent director)の必要性もしくは有用性だ。日本企業の多くでは取締役議長を経営トップ(CEO、社長など)が務めており、監督と執行の分離を求める観点から問題が少なくないとして、筆頭独立社外取締役にこの問題を補完する役割が期待されている(下記の委員のコメント参照)。・・・

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2020/11/24 フォローアップ会議で「筆頭社外取締役」の役割に期待する意見(会員限定)

(2020年)11月18日に開催された「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、フォローアップ会議)では、コロナ後の企業の変革に向けたコーポレートガバナンスの課題の一つとして、「取締役会の機能発揮と多様性の確保」について議論されたが(2020年11月19日のニュース「女性、外国人、中途採用者の管理職への登用状況等を数字で公表要求へ」参照)、その中で複数の委員から言及があったのが、「筆頭独立社外取締役」(英:senior independent director、米:lead independent director)の必要性もしくは有用性だ。日本企業の多くでは取締役議長を経営トップ(CEO、社長など)が務めており、監督と執行の分離を求める観点から問題が少なくないとして、筆頭独立社外取締役にこの問題を補完する役割が期待されている(下記の委員のコメント参照)。

多くの日本企業で議長とCEOが一緒なのは問題であり、リード・ダイレクターの果たす役割は大きい(投資家)
議長とCEOが同じ場合でも、リード・ダイレクターがエグゼクティブ・セッションを率いるなどして補うことができる(経営者)

エグゼクティブ・セッション : 社外取締役だけで構成される委員会のこと。元々、エグゼクティブ・セッションは、エンロン事件後の米国で、ニューヨーク証券取引所の上場基準によって義務付けられた(303A.03 Executive Sessions)。米国企業のように取締役会は大部分が社外取締役で構成されていたとしても、取締役会議長をCEOが兼任している場合、CEOによる取締役会の支配、社外取締役の“飼い犬(lapdog)”化につながり、深刻な企業不祥事が発生する一因になり得るということを示したエンロン事件への反省が、エグゼクティブ・セッション義務付けの背景にある。

現行のコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)では、筆頭独立社外取締役について以下の補充原則4-8②で触れている。もっとも、同原則の「例えば」「など」という文言が示すように、「筆頭独立社外取締役を決定すること」はあくまで経営陣との連絡・調整や監査役(会)との連携に係る体制整備の“一例”にとどまっている。このため、企業の解釈によっては、非業務執行の社内取締役や常勤監査役など、独立社外取締役以外の者がこの役割を担うことで同原則を「コンプライ」としていることが想定される。

【補充原則4-8②】
独立社外取締役は、例えば、互選により「筆頭独立社外取締役」を決定するなどにより、経営陣との連絡・調整や監査役または監査役会との連携に係る体制準備を図るべきである。

一方、経産省のコーポレートガバナンス・システム(CGS)研究会の「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGS ガイドライン)」(76ページ参照)では一歩踏み込んで、「筆頭独立社外取締役」の選定が望ましいとする。CGS ガイドラインでは「コーポレートガバナンスにおける社外取締役の役割が高まるにつれ、社外取締役が経営陣や株主等との対話を行う必要性が増す」としたうえで、筆頭独立社外取締役に「様々な対話の中心としての役割」が期待されている。例えば、機関投資家との対話の窓口となることが考えられよう。

社外取締役が経営陣との対話や株主等のステークホルダーとの対話を円滑に行うために、筆頭独立社外取締役を選定することを検討すべきである。

英国のCGコードにおいては、取締役会の責務を示している第2章の各則において、独立した非業務執行取締役の中から”senior independent director”(※以下、 SID)を選ぶべきとしている。SIDの役割としては、①取締役会議長を支援する、②取締役と株主を仲介する、③非常勤取締役の会合を主催する、の3つが挙げられている。なお、③の会合は取締役会議長の業績評価を目的としている。

2 DIVISION OF RESPONSIBILITIES
Provisions
12.The board should appoint one of the independent non-executive directors to be the senior independent director to provide a sounding board for the chair and serve as an intermediary for the other directors and shareholders. Led by the senior independent director, the non-executive directors should meet without the chair present at least annually to appraise the chair’s performance, and on other occasions as necessary.

米国ニューヨーク証券取引所(NYSE)の上場基準は筆頭独立社外取締役の機能について規定していないが、NYSEが2015年に公表した上場会社に求めるガバナンスのガイドでは、” lead independent director”を選任することについて、「独立取締役と経営陣、株主、利害関係者との対話に有用であると」し、推奨している。もっとも、有用性に関するリサーチ結果は”modest(控えめな)”ものにとどまるという。

Board Attribute:Lead independent director
Explanation:The board has designated an independent director as the “lead” person to represent the independent directors in conversation with management, shareholders, and other stakeholders
Findings from Research:Modest evidence that this improves performance.

以上のように、英米では、株主との対話を含む広範な役割を筆頭独立社外取締役に持たせている。東証が2019年11月に公表した「改訂コーポレートガバナンス・コードへの対応状況及び取締役会並びに指名委員会・報酬委員会の活動状況に係る開示の状況」によると、東証1部上場企業による補充原則4-8②のコンプライ率は92.1%(2019年7月12日時点)となっているが、上述のように必ずしも筆頭独立社外取締役を選任しているとは限らないうえ、仮に選任していたとしても期待される役割を備えているケースは少ないものと思われる。この点は現在フォローアップ会議で議論されているCGコードの再改訂で、より強く求められる可能性もある。各社においては、筆頭独立社外取締役の選任および運用のプラクティスを検討しておくべきだろう。

2020/11/20 在庫管理ルール無視した中国子会社で“寝耳に水”の巨額陳腐化在庫

東証一部上場会社の中国子会社で、在庫管理についての社内ルールである「先入先出法」(後述)を守っていなかったことから古い在庫が積み重なり、突如巨額の在庫損失が顕在化するという事件が起きた。・・・

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2020/11/20 在庫管理ルール無視した中国子会社で“寝耳に水”の巨額陳腐化在庫(会員限定)

東証一部上場会社の中国子会社で、在庫管理についての社内ルールである「先入先出法」(後述)を守っていなかったことから古い在庫が積み重なり、突如巨額の在庫損失が顕在化するという事件が起きた。中国子会社の在庫問題が発覚したのは、東証一部に上場する理研ビタミン。同社は、理化学研究所の研究成果を工業化するために設立された理研栄養食品株式会社のビタミン部門関係者が分離独立して創設した70年を超える歴史を持つ名門企業である。

在庫管理における「先入先出法」とは、先に入庫した在庫を先に出庫するという出庫ルール()であり、在庫の陳腐化リスクを回避できるため、古くから原則的な在庫管理方法と位置付けられている。

 棚卸資産の会計方針にも「先入先出法」があるが、本稿では在庫管理方法としての「先入先出法」を指すこととする。なお、会計方針としての「先入先出法」は、先に仕入れたものから順次売り上げられ、期末棚卸資産は後に仕入れたものから構成されるとみなして期末棚卸資産の価額を算定する方法である。

理研ビタミンの中国子会社である青島福生食品の倉庫でも先入先出法により在庫を出庫するという社内ルールが設けられており、当該ルールは工場内にも掲示されていた。それにもかかわらず、各倉庫担当者は当該ルールを遵守しておらず、製造および販売担当者の指示に従って出庫していた。その理由は、理研ビタミンが公表した「特別調査委員会の第二次調査報告書」によると、次の3点にあるとされている。

品質維持 冷凍魚の原材料は、長期間保管すると風味が変化することから、品質が変化しているおそれのある古い原材料の使用を抑えるようになった。
取引先からの要請 上記の品質の問題があることため、顧客からなるべく新しい原材料を使用して製造するよう要請があった。
従業員の給与アップ 青島福生食品では2015年に社内ルールが変更され、従業員の賃金を「加工量と歩留まり率」に応じて計算するようになった。新しく良質な原材料を加工して製造した方が歩留まり率は良くなり、賃金も増えることから、製造担当者には新しい原材料を使用するインセンティブが生じていた。

古い在庫が残っていたとしても、親会社が帳簿上そのことを把握していれば、その原因を分析して古い在庫を残さないように経営指導をすることができたが、青島福生食品では、ロット別原材料一覧表の在庫のうち古いものから順に消込みを行っていた。つまり、実際には新しい在庫を優先して使っているにもかかわらず、帳簿上は古い順に消し込んでおり、その結果、ロット別原材料一覧表上は古い在庫は存在しないことになっていた。

仮に棚卸の手続きが適切に行われていれば、ロット別原材料一覧表に記載されている在庫が実際には存在しないことが判明したはずだが、①在庫は冷凍倉庫内にあるため、長時間のカウントが困難、②在庫の量が膨大、③在庫には入庫日等が分かるような統一的なシールが貼付けられていたわけでもなく、在庫の場所も担当者の記憶に基づいて管理しているだけであったことから、適切な棚卸が行われようもなく、棚卸に立ち会った親会社の担当者も陳腐化した古い在庫に気付くことはなかった。

棚卸 : 在庫の数量を実際に数えて確定する経理手続きのことで、製造業や小売業では多くの従業員を動員する一大イベントとなっている。

青島福生食品の在庫の陳腐化が発覚した契機となったのは、中国行政当局による立入り検査であった。2020年7月15日に行われた膠州市の市場監督管理局による倉庫内の検査で賞味期限が切れた古い在庫の処分を指導された青島福生食品は、8月中に陳腐化した在庫を飼料として廉価販売するに至った。しかし、在庫の廉価販売という事実は理研ビタミンにリアルタイムには報告されておらず、理研ビタミンは2020年9月30日に青島福生食品から受領した 2020年8月度月次決算報告で約26億円の営業損失が計上されているのを見て初めて在庫管理に問題があったことを知ることとなる。タイミングが悪いことに、2020年9月30日は理研ビタミンが青島福生食品における別の事案(エビの加工販売取引の実在性の疑惑)についての特別調査委員会の調査報告を受け関東財務局に2020年3月期の有価証券報告書および過年度の有価証券報告書等の訂正報告書を提出した日であり(青島福生食品におけるエビの加工販売取引の実在性に係る一連の騒動については【失敗学第77回】理研ビタミンの事例を参照)、理研ビタミンは「青島福生食品において棚卸資産の評価に関する不適切な会計処理の疑義が判明した」として10月7日に改めて特別調査委員会に調査(第二次調査)を委嘱した。特別調査委員会の調査報告(2020年9月23日)の公表直後に、別の事案で再度特別調査委員会の調査が開始するというのは極めて異例だ。

青島福生食品が「エビの加工販売取引の実在性の疑惑」についての特別調査委員会の調査(第一次調査)に非協力的であったことは【失敗学第77回】理研ビタミンの事例でもお伝えしたとおり。第一次調査で青島福生食品は、会社のPCに共産党委員会に関する個人情報が入っていることを理由にデジタルフォレンジック(コンピュータ・フォレンジック)調査自体を拒否していた。今回の第二次調査ではデジタルフォレンジック調査に応じたものの、調査前にPCを一斉に交換し、必要な情報のみを移し替えた“クリーン”なPCをデジタルフォレンジック調査に提供していた。

青島福生食品のように、独立心が強い子会社は、本ケースのように有事の際にデジタルフォレンジック調査を拒否したり骨抜きにしたりすることにより、意図的に真相究明を遠のかせるという行動に出ることも予想される。人的関係が希薄となりがちな海外子会社であればなおさらであろう。海外子会社を抱える親会社にあっては、いつか起こり得る有事を想定し、子会社との人的関係を強化しつつ、子会社ガバナンスや内部統制の強化を図っていくべきと言えよう。

2020/11/19 女性、外国人、中途採用者の管理職への登用状況等を数字で公表要求へ

(2020年10月)20日から再開した金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、フォローアップ会議)では、東証の市場改革(新市場の開始は2022年4月~)を踏まえたコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の改訂が検討されているが(2020年9月14日のニュース『東証の調査結果から想定される「より高い水準」のガバナンス規制』参照)・・・

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