2020/11/19 女性、外国人、中途採用者の管理職への登用状況等を数字で公表要求へ(会員限定)

(2020年10月)20日から再開した金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、フォローアップ会議)では、東証の市場改革(新市場の開始は2022年4月~)を踏まえたコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の改訂が検討されているが(2020年9月14日のニュース『東証の調査結果から想定される「より高い水準」のガバナンス規制』参照)、改訂後のCGコードでは、プライム市場上場企業に対し、取締役会の「3分の1以上」の独立社外取締役の選任を求める方針を固めたことが当フォーラムの取材により判明した。これは、東証が2020年8月14日時点におけるコーポレートガバナンス報告書を調査したところ、独立社外取締役を「3分の1以上」選任(以下、3分の1基準)している東証一部上場会社は58.7%と、6割に迫っている状況を踏まえたもの(「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」4ページ参照)。ここでいう独立社外取締役とは、「独立役員」として東証に届けを出している社外取締役を指す。

独立役員 : 一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役または社外監査役。東証は企業に対し、独立役員を独立役員届出書により届け出ることを求めている。

また、もう一つ改訂CGコードに盛り込むことが固まったのが、「女性」「外国人」「中途採用者」の管理職への登用等の目標・状況を、自主的かつ測定可能な形で策定し、公表することを求めるということだ。現状、上場企業における女性役員の比率は6.2%にとどまっており(2020年11月18日に開催されたフォローアップ会議の資料「取締役会の機能発揮と多様性の確保」14ページ参照)、また、従業員数が多い企業ほど、従業員数に占める中途採用者の比率が低い(同資料の16ページ参照)。しかし、企業が“コロナ後”の課題を認識し、変化を先取りした迅速な意思決定を行うためには、社内の多様性の確保が必要であることから、本改訂が実施されることになった。

この2つの改訂事項のうち、よりインパクトが大きいのは後者だろう。上述のとおり、東証一部上場企業の6割近くが「3分の1基準」を満たす中、同基準がプライム市場上場企業に課されることは既定路線となっていた。一方、「女性」「外国人」「中途採用者」の管理職への登用等の目標・状況を“数字で”公表することは企業にとってハードルが高い。そして、本改訂は、プライム市場上場企業のみならず、スタンダード市場上場にも適用されることになる(東証の新市場区分については、2019年12月20日のニュース「東証市場改革、“背伸び”を選択した企業に課される負荷」参照)。スタンダード市場に移行することとなる東証二部上場企業やJASDAQスタンダード市場上場も対応が迫られるということだ。“数字”の公表が求められるということで、社内のダイバーシティを意識した採用・人事戦略が求められることになろう。

今般のCGコードの改訂議論では、11月18日のフォローアップ会議でテーマとなった「取締役会の機能発揮」のほか、「資本コストを意識した経営」「監査の信頼性の確保」「グループガバナンスのあり方」「株主総会」「コロナ後の企業の変革に向けた諸課題」など、検討項目は多岐にわたっており、上記2つ以外にも新たな改訂事項が出てくることになろう。改訂事項が判明次第、続報したい。

2020/11/18 カプコンのランサムウェア被害対応から学ぶ自社がとるべき行動

新型コロナウイルスが第三波とも言える広がりを見せる中、システムの世界では企業を狙ったランサムウェア()が猛威を振るっている。

 システムへのアクセス等を制限する不正プログラムで、システムの利用者に制限解除のための身代金を要求することを目的とする。感染ルートとしては、メールの添付ファイルを不用意にクリックしてしまったケースや、改ざんされたサイトに誤ってアクセスし、意図せずしてプログラムをダウンロードしてしまったケースなどがある。

ランサムウェア感染により企業価値(株価の時価総額)を1割下げたのがカプコンだ。カプコンは2020年11月4日に「不正アクセスによるシステム障害発生に関するお知らせ」を公表し、第三者から同社のサーバへの不正アクセスが行われ、「2020年11月2日未明より、当社グループシステムの一部でメールシステムやファイルサーバーなどにアクセスしづらい障害が発生」していることをリリースした。その後、同社がランサムウェア被害に遭い、サーバー上のデータがロックされ、ロック解除のための身代金を要求されている旨の報道が相次いだものの、同社からは「ランサムウェアによる攻撃があったこと」や「身代金の要求があったこと」についての追加リリースは一切なく、報道を頼りに株価はズルズルと下落。カプコンがようやく2つ目のリリースを出したのが2020年11月16日のことであった。新型コロナウイルスのワクチン開発成功のニュースで日経平均株価が23,695.23円(11月4日の終値)から 25,906円(11月16日の終値)と1割近く切り上がる中、対照的にカプコンの株価は5,550円から5,150円と一割近く値を下げることとなった。・・・

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2020/11/18 カプコンのランサムウェア被害対応から学ぶ自社がとるべき行動(会員限定)

新型コロナウイルスが第三波とも言える広がりを見せる中、システムの世界では企業を狙ったランサムウェア()が猛威を振るっている。

 システムへのアクセス等を制限する不正プログラムで、システムの利用者に制限解除のための身代金を要求することを目的とする。感染ルートとしては、メールの添付ファイルを不用意にクリックしてしまったケースや、改ざんされたサイトに誤ってアクセスし、意図せずしてプログラムをダウンロードしてしまったケースなどがある。

ランサムウェア感染により企業価値(株価の時価総額)を1割下げたのがカプコンだ。カプコンは2020年11月4日に「不正アクセスによるシステム障害発生に関するお知らせ」を公表し、第三者から同社のサーバへの不正アクセスが行われ、「2020年11月2日未明より、当社グループシステムの一部でメールシステムやファイルサーバーなどにアクセスしづらい障害が発生」していることをリリースした。その後、同社がランサムウェア被害に遭い、サーバー上のデータがロックされ、ロック解除のための身代金を要求されている旨の報道が相次いだものの、同社からは「ランサムウェアによる攻撃があったこと」や「身代金の要求があったこと」についての追加リリースは一切なく、報道を頼りに株価はズルズルと下落。カプコンがようやく2つ目のリリースを出したのが2020年11月16日のことであった。新型コロナウイルスのワクチン開発成功のニュースで日経平均株価が23,695.23円(11月4日の終値)から 25,906円(11月16日の終値)と1割近く切り上がる中、対照的にカプコンの株価は5,550円から5,150円と一割近く値を下げることとなった。

同社が「当社を標的にして巧妙にサーバ保存情報の暗号化やアクセスログの抹消を伴うもので、不正アクセスの調査、解析等に時間を要しました。本日のご報告になりましたことをお詫び申しあげます。」とお詫びしているとおり、カプコンのリリースは明らかに後手に回っており、マスコミの報道が先行して企業側のリリースが後追いでそれを認めるという最悪の流れになってしまった。途中で経過報告があれば、投資家の不信感を拭えたかもしれないという点、悔やまれるところだ。こういった緊急トラブル時には目の前の対策に翻弄され、開示がおろそかになりがちなので注意したい。

ただ、その一方で11月16日のリリース(二つ目のリリース)には、今後自社で同様の事件が発生した場合にとるべき「事後対応策」として参考になる情報が詰まっている。セキュリティ担当取締役に限らず、他の経営陣・監査役も是非目を通し、同様の事案が自社で起きた場合の対応策を練っておきたい。

カプコンの対応策 詳細
攻撃を受け障害が生じた際の初動のリリース(一つ目のリリース 2020年11月2日にリリース。
リリース内容は下記のとおり。
・社内ネットワークの稼働を部分的に見合わせたこと
・現時点では顧客情報等の漏洩は確認されていないこと
・本障害は当社ゲームをプレイするためのインターネット接続や、当社ホームページ等へのアクセスに悪影響をおよぼすものではないこと
身代金を要求されたことから大阪府警に通報 通報日はリリースからは明らかではない。
不正アクセスによる情報流出に関するお知らせとお詫びのリリース(二つ目のリリース 2020年11月16日にリリース。
リリース内容は下記のとおり。
・第三者からのオーダーメイド型ランサムウェアによる不正アクセス攻撃を受けたこと
・個人情報流出の発生を確認したこと。
・流出した可能性のある個人情報・企業情報の内容と数(流出した可能性のある情報の総数は、一部ログの喪失などから特定できないため、現時点で判明している最大数を開示)
・現時点ではコンテンツ開発や事業遂行において支障はないこと
・クレジットカード情報の流出はないこと。
・個人情報および企業情報の流出が確認された方々への対応策(連絡を開始)
・個人情報の流出の可能性がある方々への対応策(フリーダイヤルの番号を記載、心当たりのない郵送物が届く可能性や不審な連絡が入る可能性について注意を喚起)
・発覚と対応の経緯の説明
・本件による連結業績(2021年3月期)への影響を説明(現時点では軽微と判断)
・謝罪
欧州 GDPR 監督官庁(ICO)、個人情報保護委員会(日本)にシステム障害の発生の報告

欧州 GDPR 監督官庁(ICO) : EU域内の個人データ保護の監督機関

欧州 GDPRの詳細についてはジェトロの「EU一般データ保護規則(GDPR)」に関わる実務ハンドブック(入門編)を参照
対策ソフトを投入し、疑わしい通信を遮断しつつ、サーバの再構築を実施 復旧したサーバを基に各部署が保存していた情報の確認作業を実施中
本件障害のシステム面における検証につき、外部のセキュリティ会社へ検証を委託 検証結果については、別途公表する予定
大手ソフトウェア企業、大手セキュリティ専門ベンダー、サイバーセキュリティに造詣の深い外部弁護士に状況を報告し、指導・アドバイスを得る体制

イギリスのセキュリティ企業ソフォスが実施したアンケートの調査結果によると、ランサムウェア攻撃を受けデータが暗号化された被害者のうち、身代金を支払った被害者は26%にのぼっている。身代金を支払う被害者が意外と多いことには驚きを禁じ得ず、また、それだけ身代金を支払う被害者が多いのであれば今後もこの手口が減ることはないであろう。身代金の支払いは、「ダウンタイムの長期化による被害の拡大を回避する」という点を最重視した決断であろうが、そもそも身代金を支払ったところでデータを復旧できるかどうかは不確実であり、流出した個人情報はデータの性質上絶対に取り返すことはできない。また、ランサムウェア攻撃の影響を取り除くための平均コスト (ダウンタイム、人件費、デバイス費用、ネットワーク費用、逸失利益、身代金などを含む) は、身代金を支払わない場合には 732,520 米ドルであるのに対し、身代金を支払った場合には 1,448,458 米ドルへと倍増していることも見逃せない(上記のソフォスの調査結果を参照)。身代金自体が高額であるとともに、身代金を支払っても完全復旧できないケースがあることも理由と考えられる。何より、身代金の支払いは犯罪者への資金提供と同義であり、上場企業が身代金を支払ったことが公になれば、社会的に非難されることは確実である。結論として、身代金支払いは、キャッシュフローの観点からもレピュテーションの観点からも企業価値を下げる行為に他ならないことは理解しておきたい。また、ランサムウェアにより個人情報の抜き取りがあった場合は、当該事実(情報を特定できない場合は最大数)を速やかに公表すべきであることは間違いない。カプコンのように犯罪者側から小出しに公表されるリスクがあるからだ。以上を踏まえると、万が一ランサムウェアの被害にあった場合には、警察への届け出と被害の公表および身代金支払いの拒絶が必須となる。

また、ランサムウェアへの感染リスクを完全に回避することは困難である以上、ランサムウェアへの事前対策としてサイバー保険への加入も検討しておきたいところだ(サイバー保険については2020年3月9日のニュース「ランサムウェア被害はサイバーリスク保険でどこまで補償される?」を参照)。

2020/11/17 開示規制強化により変化を余儀なくされる個別報酬の決定権限

周知のとおり、役員報酬の決定プロセスの透明化を図る観点から、業績連動報酬や任意の報酬委員会が各役員の報酬額を決定する仕組みを導入する上場企業は近年着実に増えている。その分、従来は一般的だった“社長一任方式”、具体的には、株主総会で決議した報酬枠の範囲内で取締役会が「代表取締役等特定の者」に各役員の個別の報酬額の決定を一任する企業は減少している。その背景には、昨年(2019年1月31日)に実施された「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、開示府令)の改正により、上場企業には2019年3月期以降の有価証券報告書から、役員報酬の金額および決定方針について「決定権限を有する者の氏名または名称」の開示が求められるようになったことも少なからず影響している。

とはいえ、未だに事実上は社長一任方式をとっている企業は少なくない。日本シェアホルダーサービス(JSS)がTOPIX100を構成する3月決算の監査役会設置会社(57社)をサンプルに、上記役員報酬に関する改正開示府令への対応状況について調査したところ、報酬決定権限者は「社長・CEO」が28%、「会長・その他代表取締役」が17%となっており、日本のトップ100企業でさえ、現在でもその45%が特定の者に報酬決定権限を与えているということになる(JSSの役員報酬決定権限者についての調査結果は【特集】改正開示府令の有報記載分析(役員報酬、政策保有株式)(2)を参照)。

TOPIX100 : 東京証券取引所が東証一部上場銘柄の中でも時価総額および流動性の高い大型株100銘柄を選定し、算定・公表している株価指数。構成銘柄は、その時々の市場実勢をより適切に反映させるため、原則として年に1回(10月)見直しが行われている(上場廃止等があれば臨時に見直しが行われている)。

社長一任方式をとる企業にとって今後留意しなければならないのが、会社法改正に伴う事業報告および有価証券報告書における開示内容の改正だ。

まず、2020年9月30日に法務省がパブコメを締め切った会社法施行規則改正案によると、新たな事業報告では下記のような開示が求められる方向となっている。

会社法施行規則121条6号の3
株式会社が当該事業年度の末日において取締役会設置会社(指名委員会等設置会社を除く。)である場合において、取締役会から委任を受けた取締役その他の第三者が当該事業年度に係る取締役(監査等委員である取締役を除く。)の個人別の報酬等の内容の全部又は一部を決定したときは、その旨及び次に掲げる事項
イ 当該委任を受けた者の氏名並びに当該内容を決定した日における当該株式会社における地位及び担当
ロ イの者に委任された権限の内容
ハ イの者にロの権限を委任した理由
ニ イの者によりロの権限が適切に行使されるようにするための措置を講じた場合にあっては、その内容

現時点(2020年11月17日)でパブコメを反映した最終的な会社法施行規則は公表されていないが、会社法施行規則改正案を前提として、金融庁は2020年11月6日に開示府令の改正案を公表している(下線部が改正案で新規に追加された箇所。2020年11月13日のニュース「会社法改正に伴う有報開示の変更点」にも関連情報)。

有価証券報告書の【役員の報酬等】
提出会社の役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針の決定権限を有する者の氏名又は名称、その権限の内容及び裁量の範囲を記載すること。また、株式会社が当該事業年度の末日において取締役会設置会社(指名委員会等設置会社を除く。)である場合において、取締役会から委任を受けた取締役その他の第三者が当該事業年度に係る取締役(監査等委員である取締役を除く。)の個人別の報酬等の内容の全部又は一部を決定したときは、その旨、委任を受けた者の氏名並びに当該内容を決定した日における当該株式会社における地位並びに担当、委任された権限の内容、委任の理由及び当該権限が適切に行使されるようにするための措置を講じた場合における当該措置の内容を記載すること。提出会社の役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針の決定に関与する委員会(提出会社が任意に設置する委員会その他これに類するものをいう。以下cにおいて「委員会等」という。)が存在する場合には、その手続の概要を記載すること。また、最近事業年度の提出会社の役員の報酬等の額の決定過程における、提出会社の取締役会(指名委員会等設置会社にあっては報酬委員会)及び委員会等の活動内容を記載すること。

上記のとおり、事業報告、開示府令の改正内容はほぼパラレルとなっているが、この中で気になるのは赤字で示した部分だ。

権限を委任した理由」を聞かれても、権限を委任したことについて積極的な理由を答えられる取締役はまずいないだろう。単に「就任当時からそうだった」だけであり、敢えて反対する積極的な理由がなかったというだけに過ぎないのが通常だからだ。「報酬の透明化といった時代の流れに反してまで敢えて代表取締役に報酬の個別配分額の決定権限を委任する」ことについて説得的に理由付けするのは困難であり、せいぜい「個別の役員報酬の金額というセンシティブな議案を取締役会で議論するにはなじまない」といった消極的な理由にならざるを得ない。

また、同じく赤字で記した「権限が適切に行使されるようにするための措置」も具体的にどのような措置が該当するのかが分かりづらく、回答に詰まるのは必至だろう。実際、パブリックコメントでは「(適切に行使されるようにするための措置とは)具体的にどのようなものか」といった疑問の声も寄せられている(経営法友会のコメント)。例えば下表左欄のような措置(いずれも代表取締役に報酬の個別配分額の決定権限を委任するケースを想定している)が思い浮かぶ・・・

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2020/11/17 開示規制強化により変化を余儀なくされる個別報酬の決定権限(会員限定)

周知のとおり、役員報酬の決定プロセスの透明化を図る観点から、業績連動報酬や任意の報酬委員会が各役員の報酬額を決定する仕組みを導入する上場企業は近年着実に増えている。その分、従来は一般的だった“社長一任方式”、具体的には、株主総会で決議した報酬枠の範囲内で取締役会が「代表取締役等特定の者」に各役員の個別の報酬額の決定を一任する企業は減少している。その背景には、昨年(2019年1月31日)に実施された「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、開示府令)の改正により、上場企業には2019年3月期以降の有価証券報告書から、役員報酬の金額および決定方針について「決定権限を有する者の氏名または名称」の開示が求められるようになったことも少なからず影響している。

とはいえ、未だに事実上は社長一任方式をとっている企業は少なくない。日本シェアホルダーサービス(JSS)がTOPIX100を構成する3月決算の監査役会設置会社(57社)をサンプルに、上記役員報酬に関する改正開示府令への対応状況について調査したところ、報酬決定権限者は「社長・CEO」が28%、「会長・その他代表取締役」が17%となっており、日本のトップ100企業でさえ、現在でもその45%が特定の者に報酬決定権限を与えているということになる(JSSの役員報酬決定権限者についての調査結果は【特集】改正開示府令の有報記載分析(役員報酬、政策保有株式)(2)を参照)。

TOPIX100 : 東京証券取引所が東証一部上場銘柄の中でも時価総額および流動性の高い大型株100銘柄を選定し、算定・公表している株価指数。構成銘柄は、その時々の市場実勢をより適切に反映させるため、原則として年に1回(10月)見直しが行われている(上場廃止等があれば臨時に見直しが行われている)。

社長一任方式をとる企業にとって今後留意しなければならないのが、会社法改正に伴う事業報告および有価証券報告書における開示内容の改正だ。

まず、2020年9月30日に法務省がパブコメを締め切った会社法施行規則改正案によると、新たな事業報告では下記のような開示が求められる方向となっている。

会社法施行規則121条6号の3
株式会社が当該事業年度の末日において取締役会設置会社(指名委員会等設置会社を除く。)である場合において、取締役会から委任を受けた取締役その他の第三者が当該事業年度に係る取締役(監査等委員である取締役を除く。)の個人別の報酬等の内容の全部又は一部を決定したときは、その旨及び次に掲げる事項
イ 当該委任を受けた者の氏名並びに当該内容を決定した日における当該株式会社における地位及び担当
ロ イの者に委任された権限の内容
ハ イの者にロの権限を委任した理由
ニ イの者によりロの権限が適切に行使されるようにするための措置を講じた場合にあっては、その内容

現時点(2020年11月17日)でパブコメを反映した最終的な会社法施行規則は公表されていないが、会社法施行規則改正案を前提として、金融庁は2020年11月6日に開示府令の改正案を公表している(下線部が改正案で新規に追加された箇所。2020年11月13日のニュース「会社法改正に伴う有報開示の変更点」にも関連情報)。

有価証券報告書の【役員の報酬等】
提出会社の役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針の決定権限を有する者の氏名又は名称、その権限の内容及び裁量の範囲を記載すること。また、株式会社が当該事業年度の末日において取締役会設置会社(指名委員会等設置会社を除く。)である場合において、取締役会から委任を受けた取締役その他の第三者が当該事業年度に係る取締役(監査等委員である取締役を除く。)の個人別の報酬等の内容の全部又は一部を決定したときは、その旨、委任を受けた者の氏名並びに当該内容を決定した日における当該株式会社における地位並びに担当、委任された権限の内容、委任の理由及び当該権限が適切に行使されるようにするための措置を講じた場合における当該措置の内容を記載すること。提出会社の役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針の決定に関与する委員会(提出会社が任意に設置する委員会その他これに類するものをいう。以下cにおいて「委員会等」という。)が存在する場合には、その手続の概要を記載すること。また、最近事業年度の提出会社の役員の報酬等の額の決定過程における、提出会社の取締役会(指名委員会等設置会社にあっては報酬委員会)及び委員会等の活動内容を記載すること。

上記のとおり、事業報告、開示府令の改正内容はほぼパラレルとなっているが、この中で気になるのは赤字で示した部分だ。

権限を委任した理由」を聞かれても、権限を委任したことについて積極的な理由を答えられる取締役はまずいないだろう。単に「就任当時からそうだった」だけであり、敢えて反対する積極的な理由がなかったというだけに過ぎないのが通常だからだ。「報酬の透明化といった時代の流れに反してまで敢えて代表取締役に報酬の個別配分額の決定権限を委任する」ことについて説得的に理由付けするのは困難であり、せいぜい「個別の役員報酬の金額というセンシティブな議案を取締役会で議論するにはなじまない」といった消極的な理由にならざるを得ない。

また、同じく赤字で記した「権限が適切に行使されるようにするための措置」も具体的にどのような措置が該当するのかが分かりづらく、回答に詰まるのは必至だろう。実際、パブリックコメントでは「(適切に行使されるようにするための措置とは)具体的にどのようなものか」といった疑問の声も寄せられている(経営法友会のコメント)。例えば下表左欄のような措置(いずれも代表取締役に報酬の個別配分額の決定権限を委任するケースを想定している)が思い浮かぶところだが、いずれも反論の余地があると言わざるを得ない。

※いずれも当フォーラムが作成
権限が適切に行使されるようにするための措置案 考えられる反論
代表取締役は、自ら起案した報酬の個別配分案について必ず社外取締役の意見を聞いてから最終決定を行う。 最終決定権限が社外取締役にない以上、必ずしも社外取締役の意見が反映されるとは限らない。
事前に一定のルールを定めておき、その範囲内で代表取締役が決める(代表取締役の裁量の幅は狭い)。 幅が狭いとはいえ、そもそも代表取締役に裁量が許されている時点で透明性に欠ける。
当該年度の取締役全員の総報酬額を決定する権限は取締役会が有する。 そもそも個別配分額の決定権限とは関係がない。

最後の「当該年度の取締役全員の総報酬額を決定する権限は取締役会が有する」という措置については若干説明が必要となる。この措置は一見もっともらしく見えるが、取締役会が「当該年度の取締役全員の総報酬額」を決定して、その範囲内で個別の報酬額の決定を特定の者に委任するという仕組みは、取締役会が特定の者に委任する権限のキャップ(上限)を定めたものに過ぎず、「(個別の報酬額の決定という)権限が適切に行使されるようにするための措置」には該当しない(配分そのものへの牽制措置にはならない)。確かにこの措置を実施すれば、「不相当に高額な取締役報酬がお手盛りで決まってしまう」という弊害への歯止めにはなるものの、そもそも株主総会で役員報酬枠の範囲を決めている以上、“二重の枠”を設けることにそれほどありがたみは感じないというのが株主の本音と言える。

また、会社法施行規則改正案に対しては「そもそも、前提として、権限が適切に行使されない事態というのがありうるのか」(経営法友会のコメント)といったコメントも寄せられている。例えば「代表取締役が自分の意に沿わない取締役の報酬を不当に低く、子飼いの取締役の報酬を不相応に高くするなど、報酬配分を自身への権力集中の道具に使用している状況」が「権限が適切に行使されない事態」の一つだとすると、そもそも特定の者に報酬を決めさせるからこのような状況を招くわけであり、いかなる措置で取り繕ったところで、最終決定権限が特定の者にあり、特定の者に裁量が認められている以上、「透明化に反する」との指摘に反論することは困難と言える。

それでは、報酬決定権限者を「取締役会」にしている企業(上述したJSSの調査結果によると監査役設置会社の50%)の方がより先進的かと言われると、そうとも言えない。なぜなら、取締役会で喧々諤々の議論をして取締役の個別報酬を決議している企業はほとんどなく、社長等の起案した報酬案を取締役会で粛々と追認しているのが大半の日本企業の実状だからだ。不祥事が生じた場合のような例外的ケースを除き、取締役会の場で報酬案に示された各取締役の報酬の多寡にいちゃもんをつけるのは社外取締役でも難しく、結果として、社長等の起案した報酬案が変更されることなく承認されることとなる。これでは「取締役会での決議」は“儀式”に過ぎず、実質的な報酬決定権限者は報酬案を起案する社長等であると言っても過言ではない。つまり、監査役会設置会社のほとんどで「実質的」には社長等特定の者が各取締役の報酬を決定しているということになる。

いずれにせよ2021年3月期以降は、上記の会社法施行規則・開示府令の改正により、開示を通じて上場企業の役員報酬の決定プロセスが今以上に露わになることは確定路線となっている。開示された役員報酬の決定プロセスを通じて投資家から「役員報酬改革への取り組みが遅れた企業」、すなわち「コーポレートガバナンスの改革に後ろ向きな企業」であるとの烙印を押されることだけは避けなければならない。そうなると、結論としては、企業の企業価値の向上など対する貢献に比例した報酬配分をすることで各取締役のモチベーションを高く維持しつつ、投資家にとっても納得感のある役員報酬を実現するためには、社外取締役が議長を務める任意の報酬委員会などの会議体に個別の報酬額も決めさせるか、業績連動報酬に移行するのが望ましいということになろう。

監査等委員会設置会社や上場している監査役会設置会社(大会社に限る)は2020年3月1日の会社法施行後は取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針を決定しなければならず(会社法施行規則の改正案が求める「報酬等の決定方針」の内容については【WEBセミナー】役員報酬の近時の動向 を参照)、その決定に先立ち、個別の取締役報酬の決定権限に関する議論は不可欠となる。残された時間はわずかであり、経営陣はそろそろ議論を開始するべきといえよう。

大会社 : 負債200億円以上または資本金5億円以上の株式会社

2020/11/16 大和AMが議決権行使基準改定 エンゲージメントによって賛否逆転も

多くの国内機関投資家が6月の株主総会シーズンが近付いた時期に議決権行使基準(以下、基準)を改定する中、株主総会までに企業と対話する時間を十分に確保するため毎年秋に基準の改定を行っているのが野村アセットマネジメントと大和アセットマネジメントだ。機関投資家の基準公開が早いほど、上場企業は次の株主総会に向け機関投資家の議決権行使の動向を予測しやすく、株主総会に付議する議案の検討に活かすことができる。このうち野村アセットマネジメントの基準改定については2020年11月4日のニュース「野村AM 取締役会のモニタリングボード化を期待」でお伝えしたところだが、今回は大和アセットマネジメントの基準改定の内容についてお伝えする。・・・

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2020/11/16 大和AMが議決権行使基準改定 エンゲージメントによって賛否逆転も(会員限定)

多くの国内機関投資家が6月の株主総会シーズンが近付いた時期に議決権行使基準(以下、基準)を改定する中、株主総会までに企業と対話する時間を十分に確保するため毎年秋に基準の改定を行っているのが野村アセットマネジメントと大和アセットマネジメントだ。機関投資家の基準公開が早いほど、上場企業は次の株主総会に向け機関投資家の議決権行使の動向を予測しやすく、株主総会に付議する議案の検討に活かすことができる。このうち野村アセットマネジメントの基準改定については2020年11月4日のニュース「野村AM 取締役会のモニタリングボード化を期待」でお伝えしたところだが、今回は大和アセットマネジメントの基準改定の内容についてお伝えする。大和アセットマネジメントが10月30日付で改定した「議決権の行使に関する方針」の見直しのポイントは下記の3点となっている。

1.社外取締役の在任期間に関する基準の緩和
2.株主提案の議案のうち賛成する議案の追加
3.エンゲージメントの内容を踏まえた議決権行使判断

上記のうち「1」は会社提案について基準を緩和するもの、「2」は株主提案について基準を厳格するものとなっている。「3」は対話次第で議決権行使の判断が変わるとするもので、本来であれば議決権行使結果に予測可能性を与えるべき基準においては異質な内容とも言える。以下、順に解説する。

1.社外取締役の在任期間に関する基準の緩和
大和アセットマネジメントの基準では、社外取締役の選任議案には原則として賛成するとしたうえで、①不祥事などがあった場合、②独立性に問題がある場合、③出席率が75%に満たない場合、には反対するとしている。このうち②については、独立役員である旨もしくは東証の定める独立性要件を満たす旨の記載がないこと、大株主(10%以上保有)またはその親子兄弟会社での業務執行経験があり退職から5年以上が経過していないこと、そして再任議案が上程された株主総会時点で在任期間が12年以上であること、を挙げている。

独立役員 : 一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役または社外監査役。東証は企業に対し、独立役員を独立役員届出書により届け出ることを求めている。

従来の基準では、社外監査役から鞍替えして選任された社外取締役の独立性基準判定上の在任期間は、「社外監査役としての在任期間」も通算して判断してきた。この点について今回の改定では、「社外監査役の観点と社外取締役の観点は異なり求められる役割も異なる」として、「社外取締役としての在任期間」のみで判断するとしている。監査役は経営の意思決定に関与しないことから、その在任期間を利益相反取引の当事者となり得る取締役としての在任期間に含める必要はないということだろう。

また、この見直しの背景には、近年における監査等委員会設置会社の急増に伴う社外監査役から鞍替えした社外取締役の急増があるものと推測される。監査等委員会設置会社には中堅規模の上場企業が多く、機動的な入れ替えが難しいのではとの配慮があったことは想像に難くない。また、現行の基準では社外取締役の人数を「東証一部に上場している企業においては2名以上」としているが、近い将来にこれを「3分の1」に引き上げることを想定した上で、現任者の適任性を過剰に厳しく評価しない方針とした可能性もありそうだ。

2.株主提案の議案のうち賛成する議案の追加
株主提案については「企業価値の増大に寄与するものとなっているかどうか」により判断するとして、これまで以下の7つの項目に賛成するとしてきた。

①会社提案の取締役選任基準(3ページ「(1)取締役(社外取締役を除く)の選任」ただし書き以降参照)で反対となる取締役の解任
②取締役の任期短縮
③社外取締役の導入義務付け
④取締役・監査役の責任限定
⑤社外役員の出席率開示
⑥買収防衛策の廃止
⑦剰余金処分の株主提案を排除する定款規定の変更

今回の基準改定で新たに、⑧役員報酬の個別開示、⑨クローバック条項の導入、の2項目が追加された。

⑧役員報酬の個別開示を求める株主提案には、既にこれまでも多くの国内外機関投資家が賛成してきており、過去には約半数の賛成率を獲得したケースもあった(ソニー、HOYAなど)。同じく役員報酬における⑨クローバック条項は、グローバルにはリーマンショック後の高額役員報酬に対する批判を通じてその必要性が認識され、国内においても高額報酬の不正支給事件などを契機に導入を求める声が高まっている。元々グローバルなガバナンス議論においては役員報酬は最もホットなトピックスであり、今回の大和アセットマネジメントにおける役員報酬に関する株主提案の基準見直しは、我が国でも同様の傾向が強まってきていることの現れとも言えよう。

3.エンゲージメントの内容を踏まえた議決権行使判断
大和アセットマネジメントの基準の「Ⅱ 議決権の行使の賛否判定基準」の冒頭では、同社が定める基準に基づいて議決権を行使するとしてきた。しかし、今回の改定では下記の文言が追加された。基準に従えば反対する場合でも、エンゲージメント次第では賛成に転じる可能性があることを明言する内容となっている。

ただし、経済・社会情勢の変化や当該企業の個別事情から、賛否判断基準の適用がかえって、受託者責任の遂行、あるいは投資先企業の中長期的価値や持続可能性向上に適さないと考えられる場合には、投資先企業との対話等も踏まえて、スチュワードシップ委員会において個別に審議の上、賛否を決定することがあります。

例えは取締役選任に関する同社の基準では、ROEが3期連続で同一業種内の下位33%にとどまっている場合、直近2期で上昇傾向になければ、直近3期以上の在任取締役の選任議案が反対対象になる。しかし、例えば事業構造改革などの説明によって、経営陣が信任に値すると判断されれば、賛成に転じる可能性があるということだろう。大和アセットマネジメントがこの時期の基準見直しで、このような方針を明言するということは、投資先に対してエンゲージメントを呼びかけているとも言えよう。上場企業においては積極的な対応が求められるところだ。

2020/11/13 会社法改正に伴う有報開示の変更点

周知のとおり、改正会社法が来年(2021年)3月1日から施行されるが、これに伴い、有価証券報告書(以下、有報)の開示内容も一部変更される(具体的には、金融庁が(2020年)11月6日に公表した「会社法の一部を改正する法律」及び「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の施行(1年3月以内施行及び1年6月以内施行)等に伴う金融庁関係政府令等の改正案(以下、改正案)により変更)。改正案で変更される有報の開示事項は、【経営上の重要な契約等】【コーポレート・ガバナンスの状況等】といういわゆる非財務情報(記述情報)部分および【経理の状況】の財務諸表部分。以下、改正案に基づく有報の開示内容の変更点について、会社法改正の概要に触れながら解説する。・・・

記述情報 : 有価証券報告書における「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」「事業等のリスク」、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)」を指す。2019年1月31日に公布・施行された開示府令により、2020年3月期決算企業から記載内容の充実が求められることとなった。

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2020/11/13 会社法改正に伴う有報開示の変更点(会員限定)

周知のとおり、改正会社法が来年(2021年)3月1日から施行されるが、これに伴い、有価証券報告書(以下、有報)の開示内容も一部変更される(具体的には、金融庁が(2020年)11月6日に公表した「会社法の一部を改正する法律」及び「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の施行(1年3月以内施行及び1年6月以内施行)等に伴う金融庁関係政府令等の改正案(以下、改正案)により変更)。改正案で変更される有報の開示事項は、【経営上の重要な契約等】【コーポレート・ガバナンスの状況等】といういわゆる非財務情報(記述情報)部分および【経理の状況】の財務諸表部分。以下、改正案に基づく有報の開示内容の変更点について、会社法改正の概要に触れながら解説する。

記述情報 : 有価証券報告書における「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」「事業等のリスク」、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)」を指す。2019年1月31日に公布・施行された開示府令により、2020年3月期決算企業から記載内容の充実が求められることとなった。

1.非財務情報
(1)【経営上の重要な契約等】
有価証券報告書の改正点 会社法改正の概要
会社法の改正により 株式交付 制度が導入されることを受け、株式交付を行うことが業務執行をする機関(取締役会)により決定された場合は、その概要を【経営上の重要な契約等】において記載する。

株式交付 : 株式を交付する会社(これを株式交付親会社という)が他の株式会社を子会社(これを株式交付子会社という)とするため、株式交付子会社の株主(譲渡人)から株式を譲り受け、譲渡人に対して株式交付親会社の株式を交付する組織再編の手法のこと(会社法第2条第32号の2)。株式交付とは、分かり易く言えば「自社の株式を対価に、“100%子会社でない子会社”を創る手法」とも言える。自社株を対価として子会社を創る手法というと「株式交換」が思い浮かぶところだが、株式交換とはあくまで「100%子会社」を創るための手法であるのに対し、株式交付は100%子会社とすることまでは考えていない場合(例えば議決権の3分の2を取得したい場合)にも使えるという点で、株式交換とは異なる。

現行会社法上、他の会社を買収して子会社にする方法としては株式交換制度があるが、株式交換は持株会社を設立して100%親子関係を創設することを想定した制度であり、100%子会社を前提としていない買収では使うことができない。現行会社法では、自社株を使って「100%未満」の子会社を作ろうという場合、会社法上の規制(有利発行規制現物出資規制など)を受けるうえ、被買収会社の株主(TOBに応じた株主)に株式譲渡益課税が生じるという問題もある(詳細は2019年9月11日のニュース「自社株活用したM&Aを後押しも 株式交付が会社法上の制度となる意義」参照)。そこで、円滑な企業買収を行うことができるよう株式交付制度が設けられた。なお、税金の問題も令和3年度税制改正で解消される見込みとなっている(2020年6月5日のニュース「事業再編研究会が近く指針公表、コロナ禍受け“キャッシュ”意識」の「(3)自社株対価M&A」以降参照)

有利発行規制 : 有利発行とは、例えば1株当たりの時価が千円のところ5百円で新株を発行するというように、新株や新株予約権の引受人にとって“有利な”価格(無償や時価未満)で新株を発行すること。有利発行が行われると、既存株主の持分は希薄化するため、会社法では株主総会の特別決議(2/3以上の賛成)を求めている(会社法199条2項、3項、200条2項、201条1項、309条2項5号)。
現物出資規制 : 株式交付の対価として現物出資される財産が適正に評価されるよう、裁判所が選任した検査役により現物出資財産の価値の調査を求めるもの(会社法207条)。仮に現物出資財産の値付けが適正に行われていなければ、現物出資した者あるいは現物出資を受け株式を交付した会社の株主が損害を被ることになる。

(2)【コーポレート・ガバナンスの概要】
有価証券報告書の改正点 会社法改正の概要
会社法改正により会社補償契約制度(詳細は2019年5月29日のニュース「会社補償契約のメリット」参照)と役員等賠償責任保険(D&O保険)に関する規定が創設されることを受け、役員等との間で補償契約若しくは役員等賠償責任保険契約を締結した場合には、締結した契約の内容の概要を【コーポレート・ガバナンスの概要】に記載する。

会社補償契約 :株式会社の役員等がその職務の執行に関し第三者から損害賠償責任を追及された場合に、会社が損害賠償額や争訟費用を補償することを約する会社と役員等の間の契約のこと(改正会社法430条の2)。
役員等賠償責任保険(D&O保険) : 役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずる損害を塡補する保険(改正会社法430条の3)。第三者訴訟で役員が損害賠償責任を負った場合に支払われる「普通保険約款」と、株主代表訴訟で役員が敗訴した場合に支払われる「株主代表訴訟補償特約(自動で付与される)」がある。

役員等が過度に損害賠償を恐れること防止し、積極果敢な経営へのインセンティブを付与する趣旨で創設された。会社補償契約制度や役員等賠償責任保険(D&O保険) は、役員の損害賠償責任やそれに関連する費用を会社が負担するものであることから、会社と役員との間において利益相反的な側面を持つ。
(3)【役員の報酬等】
有価証券報告書の改正点 会社法改正の概要
役員報酬について、以下の内容の記載が求められる。事業報告で記載が求められる内容が有価証券報告書にも記載されることとなる(事業報告への記載内容については2020年9月7日のニュース「速報・改正会社法政省令 来年の株主総会参考書類、事業報告に記載が必要な事項」参照)。
・取締役の個人別の報酬等に係る決定方針又は報酬委員会による報酬の決定の方法を定めている場合にはその内容。
・取締役会から委任を受けた取締役その他の第三者が当該事業年度に係る取締役の個人別の報酬等の内容の全部又は一部を決定したときは、その旨、委任を受けた者の氏名並びに当該内容を決定した日における当該株式会社における地位並びに担当、委任された権限の内容、委任の理由及び当該権限が適切に行使されるようにするための措置を講じた場合における当該措置の内容。
・役員報酬の総額の記載において、業績連動報酬に非金銭報酬等が含まれる場合には 非金銭報酬等とそれ以外の報酬とを区分する。また、非金銭報酬等の内容を記載する。

非金銭報酬等 : 募集株式又は募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭を取締役の報酬とする場合における当該募集株式又は募集新株予約権を含む(会社法施行規則案第98条の5第3号)。

現行会社法においても、役員報酬に関する事項は事業報告に記載することが求められているが、報酬等の内容がインセンティブ付与の観点から適切であるかどうかを判断するには十分でないことなどの理由から、開示が強化される。

2.財務諸表部分の改正案
既報のとおり、改正会社法では、上場会社が取締役等の報酬として株式の発行等をする場合には金銭の払込みを要しない(無償交付)ことが、新たに定められたところだ(改正会社法202条の2 詳細は2020年9月25日のニュース『改正会社法で導入された株式報酬、「事前交付」と「事後交付」の違い』参照)。現行会社法上は、金銭の払い込みなしに株式の発行が行われることは資本充実の原則に反するということで認められてこなかった。しかし、取締役の報酬として新株予約権を発行する場合には、取締役は職務執行により役務を提供することとなるため、資本充実の原則に反することはなく、また、株式を発行する場合に実質的には金銭の払込みを要しない1円ストック・オプションが付与されていたという現状に鑑み、無償交付が認められることとなった。

改正案における有報の開示では、取締役から提供される役務を費用計上し、当該費用に対応する金額を、新株の発行が行われるまでの間、貸借対照表の純資産の部に「株式引受権」として計上することとなる。企業会計基準委員会は2020年9月に実務対応報告公開草案第60号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」等を公表しているが(詳細は、「会計基準新設で株式報酬の“現物出資スキーム”の行方は?」参照)、会計基準同様、有報の開示においても「株式引受権」という科目が新設される。
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2020/11/12 M&Aの仲介手数料で5千万を超える認識の差

日本企業にとってM&Aが重要な経営戦略の一つとなっているのは言うまでもない。今後はコロナ禍で体力を奪われた企業をターゲットにしたM&Aも増加していくだろう。

M&Aを実施する場合、・・・

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