「親子上場」に対する風当たりが強まっている。
2019年6月に経済産業省が公表した「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)」では、親会社には「上場子会社を維持することの合理的理由の説明や上場子会社のガバナンス体制の実効性確保」が求められ、上場子会社には「親会社から独立した意思決定を担保する実効的なガバナンス体制の構築」が求められている。また、日本証券取引所でも支配株主及び実質的な支配力を持つ株主を有する上場会社における少数株主保護の在り方が検討され、今年9月にはその中間整理が公表されている。
※親子上場に関する問題は下記のコンテンツ参照
2019年5月7日のニュース「グループ・ガバナンス実務指針案、上場子会社の扱いに“特段の配慮”」
2019年6月18日のニュース「子会社上場を維持するかどうかの判断基準」
2019年6月25日のニュース「上場子会社の役員人事」
2019年7月30日 【役員会 Good&Bad発言集】上場子会社の独立社外取締役の選任議案
2019年8月21日のニュース「上場子会社を持つ親会社のジレンマ」
2019年10月15日のニュース「ISS、上場子会社に社外取締役比率「3分の1」基準導入へ」
2019年10月25日のニュース「上場子会社のガバナンス確保に向けた方針の開示始まる」
【WEBセミナー】グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針への企業の対応
2019年12月6日のニュース「東証、上場子会社のガバナンス強化の姿勢鮮明」
2020年2月25日のニュース「CG報告書の記載要領改訂、“利益相反関係”踏まえた悩ましい記載求める」
こうした中、信託銀行などパッシブ運用を行う運用機関が集団的エンゲージメント(*)を行うためのプラットフォーム「一般社団法人機関投資家協働対話フォーラム(IICEF)」も10月8日に新たなエンゲージメント・アジェンダ『「親子上場に関わるコーポレート・ガバナンス問題」 いわゆる親子上場に関わるコーポレート・ガバナンス上の論点についての協働対話のお願い』を公表し、複数の上場企業に協働対話を依頼するレターを送付している。
パッシブ運用 : 東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法のこと。パッシブとは「消極的な」という意味である。パッシブ運用に対し、銘柄を選別し、魅力のある銘柄を購入する一方で、見劣りする銘柄を売却するなどして利益を得ようとする投資手法がアクティブ運用である。
一般社団法人機関投資家協働対話フォーラム(IICEF) : 投資先企業との対話強化のために企業年金連合会と大手金融機関の連携により設立(2017年10月)された団体
機関投資家協働対話フォーラム(以下、協働対話フォーラム)に参加する機関投資家は基本的に親会社・子会社株式の双方を継続して保有しているが、「親会社株主」としての立場からは、グループ全体の長期的な経営や価値向上を考える上で親子上場の維持が本当に最適な選択肢なのかについて強い関心を持ち、「子会社の株主」としては、少数株主の利益が利益相反取引などにより不公正な形で損なわれる可能性を懸念している。こうした中で企業に送付された今回のレターは、これらの問題意識や懸念を親会社・子会社双方の経営陣が認識するとともに、懸念の軽減に向けたガバナンス上の措置を検討し、情報開示や投資家への説明を充実させることを求めるものと言える。
協働対話フォーラムは、2019年6月にも協働ヒアリング・アジェンダ「親子上場会社のガバナンスについての論点整理」を公表し、協働ヒアリングを行ったが、今回はそこから一歩進み、協働ヒアリングを経てとりまとめられた共通見解も公表している。
協働対話フォーラムが企業に認識を求める問題意識や懸念は主として以下の4つがある。
| ・ 上場子会社等の少数株主に何らかの不利益が生じている恐れはないか。また、そのことが親会社・子会社等双方または一方の株式市場における評価に悪影響を及ぼしている可能性はないか。 ・ 親会社・子会社等それぞれの経営や価値向上にとって、親子上場という現状がもたらすメリットは本当に十分に大きいのか。従来大きな問題が生じなかったとしても、何らかの「有事」の際には利益相反リスクが顕在化するのではないか。 ・ 子会社等の上場により子会社等に少数株主が生じることが、グループとしての最適な経営戦略の障害になることがあるのではないか。 ・ 一部に、「親子上場は公知の事実でありネガティブに感じる投資家は投資を回避すればよい」という議論があるが、この議論は例えばパッシブ投資家等には当てはまらない。 |
また、今回のレターにおける具体的な質問事項は以下のとおりとなっている。
| 1. 親子上場という現状がグループ全体の基本的な方向感と整合的なものであるか、グループ全体の経営戦略において最適な状態となっているか。例えば完全子会社化や外部への売却を選択せずに、上場子会社等として維持するのはなぜか。 2. 上場子会社等における支配株主と少数株主の利益相反が生じる恐れについてどう考えているか、上場子会社等の少数株主の利益まで視野に入れたグループ・ガバナンスの理念や仕組みを明確にしているか。投資家の懸念を軽減するために具体的にどのような選択肢が有効と考えてくるか。 3. 上記のような論点について、実際に取締役会等の場でどのような議論がなされているか。特に独立社外取締役は、当該問題や取締役会での議論についてどのように捉えているか。 |
| 1. 支配株主と少数株主の利益相反が生じる恐れについてどう考えているか。投資家の懸念を軽減するために具体的にどのような選択肢が有効か。 2. 経済産業省の「グループガイドライン」で示されているような、取締役会における独立社外取締役の比率を高める対応、利益相反リスク対応のための独立社外取締役中心の委員会設置、経営陣の指名や報酬についての適切な機関設計といった選択肢について、どのように考えるか。 3. 親子上場という現状がグループ全体の基本的な方向感と整合的なものであるか、グループ全体の経営戦略において最適な状態となっているか。 4. 上記のような論点について、実際に取締役会等の場でどのような議論がなされているか、特に独立社外取締役は、この問題と取締役会での議論について、どのように捉えているか。 |
親子上場の解消が唯一の解ではないにしても、上場子会社を維持するためのコストが高まりつつある中で、現実に親子上場を解消する動きは活発化している。特に最近公表されたNTTによるNTTドコモの完全子会社化のインパクトは大きく、これが親子上場解消の動きを加速させるとの見方もある。基本的には、「親子上場の解消が最適解」というのが資本市場におけるコンセンサスになりつつあると言えよう。
なお、協働対話フォーラムのレターの送付先は「複数」とされているのみで、具体的な数や送付先企業名は公表されてはいない。協働対話フォーラムの人的リリースなどを踏まえれば、これまでと同様にかなり少ない数と推測されるが、レターが届いていない親会社、上場子会社はホッと胸をなでおろすのではなく、今後の機関投資家とのエンゲージメントにおいて上記のような質問を受けた場合、自社であればどのように回答するのか、今のうちから想定問答を作成しておきたいところだ。
