2020/10/19 パッシブ機関投資家が「親子上場」に関する対話を求めるレター送付(会員限定)

「親子上場」に対する風当たりが強まっている。

2019年6月に経済産業省が公表した「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)」では、親会社には「上場子会社を維持することの合理的理由の説明や上場子会社のガバナンス体制の実効性確保」が求められ、上場子会社には「親会社から独立した意思決定を担保する実効的なガバナンス体制の構築」が求められている。また、日本証券取引所でも支配株主及び実質的な支配力を持つ株主を有する上場会社における少数株主保護の在り方が検討され、今年9月にはその中間整理が公表されている。

※親子上場に関する問題は下記のコンテンツ参照
2019年5月7日のニュース「グループ・ガバナンス実務指針案、上場子会社の扱いに“特段の配慮”
2019年6月18日のニュース「子会社上場を維持するかどうかの判断基準
2019年6月25日のニュース「上場子会社の役員人事
2019年7月30日 【役員会 Good&Bad発言集】上場子会社の独立社外取締役の選任議案
2019年8月21日のニュース「上場子会社を持つ親会社のジレンマ
2019年10月15日のニュース「ISS、上場子会社に社外取締役比率「3分の1」基準導入へ
2019年10月25日のニュース「上場子会社のガバナンス確保に向けた方針の開示始まる
【WEBセミナー】グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針への企業の対応
2019年12月6日のニュース「東証、上場子会社のガバナンス強化の姿勢鮮明
2020年2月25日のニュース「CG報告書の記載要領改訂、“利益相反関係”踏まえた悩ましい記載求める

こうした中、信託銀行などパッシブ運用を行う運用機関が集団的エンゲージメント()を行うためのプラットフォーム「一般社団法人機関投資家協働対話フォーラム(IICEF)」も10月8日に新たなエンゲージメント・アジェンダ『「親子上場に関わるコーポレート・ガバナンス問題」 いわゆる親子上場に関わるコーポレート・ガバナンス上の論点についての協働対話のお願い』を公表し、複数の上場企業に協働対話を依頼するレターを送付している。

パッシブ運用 : 東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法のこと。パッシブとは「消極的な」という意味である。パッシブ運用に対し、銘柄を選別し、魅力のある銘柄を購入する一方で、見劣りする銘柄を売却するなどして利益を得ようとする投資手法がアクティブ運用である。
一般社団法人機関投資家協働対話フォーラム(IICEF) : 投資先企業との対話強化のために企業年金連合会と大手金融機関の連携により設立(2017年10月)された団体

 機関投資家協働対話フォーラムでは、「集団的エンゲージメント」ではなく「協働エンゲージメント(企業との協働対話)」という言葉を用いている。

機関投資家協働対話フォーラム(以下、協働対話フォーラム)に参加する機関投資家は基本的に親会社・子会社株式の双方を継続して保有しているが、「親会社株主」としての立場からは、グループ全体の長期的な経営や価値向上を考える上で親子上場の維持が本当に最適な選択肢なのかについて強い関心を持ち、「子会社の株主」としては、少数株主の利益が利益相反取引などにより不公正な形で損なわれる可能性を懸念している。こうした中で企業に送付された今回のレターは、これらの問題意識や懸念を親会社・子会社双方の経営陣が認識するとともに、懸念の軽減に向けたガバナンス上の措置を検討し、情報開示や投資家への説明を充実させることを求めるものと言える。

協働対話フォーラムは、2019年6月にも協働ヒアリング・アジェンダ「親子上場会社のガバナンスについての論点整理」を公表し、協働ヒアリングを行ったが、今回はそこから一歩進み、協働ヒアリングを経てとりまとめられた共通見解も公表している。

協働対話フォーラムが企業に認識を求める問題意識や懸念は主として以下の4つがある。

・ 上場子会社等の少数株主に何らかの不利益が生じている恐れはないか。また、そのことが親会社・子会社等双方または一方の株式市場における評価に悪影響を及ぼしている可能性はないか。
・ 親会社・子会社等それぞれの経営や価値向上にとって、親子上場という現状がもたらすメリットは本当に十分に大きいのか。従来大きな問題が生じなかったとしても、何らかの「有事」の際には利益相反リスクが顕在化するのではないか。
・ 子会社等の上場により子会社等に少数株主が生じることが、グループとしての最適な経営戦略の障害になることがあるのではないか。
・ 一部に、「親子上場は公知の事実でありネガティブに感じる投資家は投資を回避すればよい」という議論があるが、この議論は例えばパッシブ投資家等には当てはまらない。

また、今回のレターにおける具体的な質問事項は以下のとおりとなっている。

【親会社向けの質問事項】
1. 親子上場という現状がグループ全体の基本的な方向感と整合的なものであるか、グループ全体の経営戦略において最適な状態となっているか。例えば完全子会社化や外部への売却を選択せずに、上場子会社等として維持するのはなぜか。
2. 上場子会社等における支配株主と少数株主の利益相反が生じる恐れについてどう考えているか、上場子会社等の少数株主の利益まで視野に入れたグループ・ガバナンスの理念や仕組みを明確にしているか。投資家の懸念を軽減するために具体的にどのような選択肢が有効と考えてくるか。
3. 上記のような論点について、実際に取締役会等の場でどのような議論がなされているか。特に独立社外取締役は、当該問題や取締役会での議論についてどのように捉えているか。
【上場子会社等向けの質問事項】
1. 支配株主と少数株主の利益相反が生じる恐れについてどう考えているか。投資家の懸念を軽減するために具体的にどのような選択肢が有効か。
2. 経済産業省の「グループガイドライン」で示されているような、取締役会における独立社外取締役の比率を高める対応、利益相反リスク対応のための独立社外取締役中心の委員会設置、経営陣の指名や報酬についての適切な機関設計といった選択肢について、どのように考えるか。
3. 親子上場という現状がグループ全体の基本的な方向感と整合的なものであるか、グループ全体の経営戦略において最適な状態となっているか。
4. 上記のような論点について、実際に取締役会等の場でどのような議論がなされているか、特に独立社外取締役は、この問題と取締役会での議論について、どのように捉えているか。

親子上場の解消が唯一の解ではないにしても、上場子会社を維持するためのコストが高まりつつある中で、現実に親子上場を解消する動きは活発化している。特に最近公表されたNTTによるNTTドコモの完全子会社化のインパクトは大きく、これが親子上場解消の動きを加速させるとの見方もある。基本的には、「親子上場の解消が最適解」というのが資本市場におけるコンセンサスになりつつあると言えよう。

なお、協働対話フォーラムのレターの送付先は「複数」とされているのみで、具体的な数や送付先企業名は公表されてはいない。協働対話フォーラムの人的リリースなどを踏まえれば、これまでと同様にかなり少ない数と推測されるが、レターが届いていない親会社、上場子会社はホッと胸をなでおろすのではなく、今後の機関投資家とのエンゲージメントにおいて上記のような質問を受けた場合、自社であればどのように回答するのか、今のうちから想定問答を作成しておきたいところだ。

2020/10/18 2020年11月5日(木)、日本コーポレートガバナンス研究会(JCGR)がウェビナー「いちよし証券の経営戦略とコーポレートガバナンス改革」を開催します。

日本コーポレートガバナンス研究会(JCGR)が2020年11月5日(木)、下記のウェビナー(無料)を開催します。

テーマ:「いちよし証券の経営戦略とコーポレートガバナンス改革」
講師:山﨑 昇一 氏(いちよし証券株式会社 財務・経営部門管掌 管理本部管掌 執行役)

JCGR様のご厚意により、上場会社役員ガバナンスフォーラムの会員の皆様もご参加いただくことができます。

詳細はこちら

2020/10/16 日本企業の株式報酬の課題(会員限定)

近年、株式報酬を支給する上場会社が急増しているが、TOPIX100採用企業の約8割が業務執行役員()株式報酬(ストックオプション、株式給付信託譲渡制限付株式など)を導入していることが当フォーラムの調査により判明した(社外役員への株式報酬については、2020年10月12日のニュース「社外取締役に株式報酬を支給する企業も 監査役は?」参照)。

株式給付信託 : 当初から現物株式が付与されるわけではなく、はじめに役位別・個人別に一定のユニット(単位)やポイントが付与され、業績/株価条件がなければ一定の待機期間の後に、ユニットやポイント数に応じた株式が交付される。業績/株価条件がある場合は、その達成度に応じてユニット/ポイント数が上下し(例:0~200%)、そのユニットやポイント数に応じた株式が本人に交付される。
譲渡制限付株式 : 一定期間の譲渡制限が付された株式報酬で、企業が株式を無償取得することとなる事由(没収事由:例えば所定の期間勤務を継続しない、目標の業績に未達など)が定められているものを指す。リストリクテッド・ストック(restricted stock)という呼称も定着している。

 本稿における「業務執行役員」とは、社内取締役と執行役に該当する者とする。実際には代表権の伴わない取締役会長など社内取締役でも非業務執行者は存在するが、有価証券上は判別が困難であるため、「社内取締役=業務執行取締役」として取り扱う。

機関設計別に見ると、下表のとおり、指名委員会等設置会社はほぼ例外なく株式報酬を支給している。なお、三菱ケミカルホールディングス(指名委員会等設置会社)は株式給付信託を導入しているが、役員報酬の種類別の金額開示は「基本報酬」と現金賞与を含む「業績報酬」のみとされており、株式報酬の金額が開示されていないため、下表の社数には含めていない。

株式報酬を支給したTOPIX100採用企業の機関設計別の株式報酬採用率
機関設計等 株式報酬を支給した社数 株式報酬採用率
指名委員会等設置会社(21社) 20社 95%
監査等委員会設置会社(12社) 9社 75%
監査役会設置会社(67社) 49社 73%
TOPIX100採用企業全体 78社 78%

株式報酬の支給対象となった業務執行役員の人数(会社によっては役員報酬の種類別に人数を開示していないため、役員報酬の支給対象人数を抽出)と株式報酬総額から「1人当たりの株式報酬」の金額を算出したところ、TOPIX100採用企業で株式報酬を支給した78社では1千7百万円であった。

機関設計別に見ると、監査等委員会設置会社が2千7百万円と突出しているが、これは1人当たり3億円弱を支給している武田薬品工業の影響が大きく、同社を除いた8社の平均額は1千3百万円と、他の機関設計に近い金額になっている。このこのからは、機関設計の違いにより「1人当たりの株式報酬」額には大きな差は見られないことが分かる。

株式報酬を支給したTOPIX100採用企業(78社)の機関設計別内訳
機関設計等 支給対象人数 1人当たりの株式報酬額
指名委員会等設置会社(20社) 387人 15百万円
監査等委員会設置会社(9社) 96人 27百万円
監査役会設置会社(49社) 582人 16百万円
合計(78社) 1,065人 17百万円

さらに、1人当たりの株式報酬額について、金額別の分布状況を示したのが下表である。

株式報酬を支給したTOPIX100採用企業(78社)の1人当たりの株式報酬額
金額 社数
1億円以上 4社
50百万円以上/1億円未満 6社
20百万円以上/50百万円未満 18社
10百万円以上/20百万円未満 17社
10百万円未満 33社

1憶円を超えたのは、武田薬品工業(2億8千1百万円)、リクルートホールディングス(1億7千1百万円)、ソニー(1億6千7百万円)、ソフトバンク(1億6千2百万円) の4社となっている。

一方、株式報酬採用企業78社の半数近い35社は、1人当たり2千万円未満のレンジに集中している。2020年10月8日のニュース「高役員報酬企業の変動報酬比率は?CG改革を経た役員報酬の“今”」でお伝えした通り、報酬全体に占める株式報酬の割合は平均で2割程度にとどまっており、役員報酬のインセンティブ性ひいては金額水準を抑制する一因となっている。株式を活用した長期インセンティブ報酬のさらなる充実が、グローバルに評価される役員報酬制度を確立するためには必要だと言えよう。

2020/10/15 会計基準新設で株式報酬の“現物出資スキーム”の行方は?

既報のとおり、2021年3月1日に施行される改正会社法により、上場会社は取締役と執行役(以下、取締役等)への報酬として株式を「無償」で交付することが可能とされた(改正会社法202条の2)。これにより、これまで行われていた「取締役等が会社への役務提供により得る“報酬債権”を会社に現物出資し、これと引き換えに株式の交付を受ける」(以下、現物出資スキーム)という面倒な手法は上場会社が自社の取締役等に株式報酬を支払う場合には不要となる(2020年9月25日のニュース『改正会社法で導入された株式報酬、「事前交付」と「事後交付」の違い』参照)。

上記会社法の改正を受け、企業会計基準委員会(ASBJ)は(2020年)9月に実務対応報告公開草案第60号「
取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」(以下、株式無償交付に関する会計基準)を公表し、株式を無償交付する場合の会計処理を明らかにしている。

これまで株式報酬の支給に活用されてきた現物出資スキームでは・・・

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2020/10/15 会計基準新設で株式報酬の“現物出資スキーム”の行方は? (会員限定)

既報のとおり、2021年3月1日に施行される改正会社法により、上場会社は取締役と執行役(以下、取締役等)への報酬として株式を「無償」で交付することが可能とされた(改正会社法202条の2)。これにより、これまで行われていた「取締役等が会社への役務提供による得る“報酬債権”を会社に現物出資し、これと引き換えに株式の交付を受ける」(以下、現物出資スキーム)という面倒な手法は上場会社が自社の取締役等に株式報酬を支払う場合には不要となる(2020年9月25日のニュース『改正会社法で導入された株式報酬、「事前交付」と「事後交付」の違い』参照)。

上記会社法の改正を受け、企業会計基準委員会(ASBJ)は(2020年)9月に実務対応報告公開草案第60号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」(以下、株式無償交付に関する会計基準)を公表し、株式を無償交付する場合の会計処理を明らかにしている。

これまで株式報酬の支給に活用されてきた現物出資スキームでは下記のような会計処理が行われていた。会社が取締役等に報酬債権を付与し、取締役等が当該報酬債権を会社に現物出資を行い、当該現物出資と引換えに役員等に譲渡制限付株式を交付するケースを想定すると、報酬債権の額を将来「株式報酬」として発生する費用(株式報酬費用)として資産計上(将来発生する費用を予め計上しているため資産(前払費用)に該当することになる)するとともに、現物出資された報酬債権の額を「資本金(および資本準備金)」(以下、資本金等)として計上するというもの。

資本準備金 : 増資などの資本取引により得た金額のうち資本金に組み入れていない金額。

<前提事項>
・役員から報酬債権3,000万円の現物出資を受け、株式を発行する。取締役に契約上の譲渡制限を付して交付する。
・株式交付から権利確定条件達成までの期間は3年間とする。
・権利確定条件は譲渡制限期間中、勤務を継続することとする。
・3年後に権利確定条件を達成し、株式の譲渡制限が解除されたとする。
<現物出資スキームの会計処理>
時系列 会計処理例(単位:万円)
借方 貸方
報酬債権付与および株式発行時 前払費用等 3,000 資本金等 3,000
役務提供に応じた費用計上(1年目) 株式報酬費用 1,000 前払費用等 1,000
役務提供に応じた費用計上(2年目) 株式報酬費用 1,000 前払費用等 1,000
役務提供に応じた費用計上(3年目) 株式報酬費用 1,000 前払費用等 1,000
権利確定条件達成 仕訳なし

一方、株式無償交付に関する会計基準では下記の会計処理を行うことになる。現物出資スキームの会計処理との大きな違いは、当初(新株発行時)は何もせず(=会計処理なし)、取締役等からの役務提供に応じて株式報酬を費用計上するという点だ。

<前提事項>
・会社法スキームにより取締役の報酬(3,000万円)として新株を発行する(事前交付型)。取締役に契約上の譲渡制限を付して交付する。
・株式交付から権利確定条件達成までの期間は3年間とする。
・権利確定条件は譲渡制限期間中、勤務を継続することとする。
・3年後に権利確定条件を達成し、株式の譲渡制限が解除されたとする。
<会社法スキームの会計処理>
時系列 会計処理(単位:万円)
借方 貸方
取締役への報酬として新株を無償で発行した時 仕訳なし
役務提供に応じた費用計上(1年目) 株式報酬費用 1,000 資本金等 1,000
役務提供に応じた費用計上(2年目) 株式報酬費用 1,000 資本金等 1,000
役務提供に応じた費用計上(3年目) 株式報酬費用 1,000 資本金等 1,000
権利確定条件達成 仕訳なし

なお、事後交付型の場合は、権利確定条件の達成・不達成が明らかになるまでは「資本金等」は計上せず、代わって「株式引受権」(貸借対照表の純資産の部に資本金と区別されて新設される科目)を計上する。

上記のとおり、現物出資スキームでは、取締役等がまだ役務を提供していない段階の「報酬債権付与および新株発行時」に報酬債権全額分の資本金が計上されてしまうという“不合理”が生じている。また、そもそも報酬債権(前払費用)は貨幣性資産としての裏付けがない単なる“会計上の資産”に過ぎないにもかかわらず、これが現物出資されると資本金が増えるということ自体、会社法が求める「資本充実」の観点から問題があるとの指摘もあったところだ。さらには、仮に譲渡制限が解除される「3年後」より前に取締役等が退職した場合、取締役等に交付した株式は没収され、前払費用(資産)として計上されていた株式報酬費用は「損失」となる(もはや取締役等から役務提供はされないため)ものの、一度現物出資により増えた資本金等は減額されない。退職によりもはや取締役等から役務提供はされない(=現物出資されるはずだった報酬債権が消滅)にもかかわらず、資本金等は増えたままというのも違和感がある。

とはいえ、会社法改正により取締役等の報酬等として株式の発行を無償交付が認められた後も、会社法改正で現物出資スキームが封じられたわけではないので、現物出資スキームがこの世からなくなるわけではない。既報のとおり、株式の無償交付の対象者はあくまで「上場会社」である「自社の取締役等(取締役、執行役)」に限定されるため、例えばホールディングカンパニーの子会社の取締役等に株式報酬を支給する場合には、これまでと同様、現物出資スキームを使わざるを得ない(2020年10月5日のニュース「子会社の取締役等に株式が無償交付できないことにより生じる手間」参照)。

そこで企業にとって気になるのは、株式無償交付に関する会計基準の内容が明らかになった今、今後現物出資スキームを実行する上で、どのような会計処理をすればよいのかということだろう。結論から言えば、現物出資スキームについてはこれまでどおり、上記の<現物出資スキームの会計処理>に記載した会計処理をすることになる。株式無償交付に関する会計基準は取締役等の報酬等として株式の発行等をする場合に「金銭の払込み等を要しないこと」を前提としており、現物出資スキームのように「報酬債権の払込みを要する」取引を対象としていないからだ。

この点は、株式無償交付に関する会計基準にも「これまでの実務で行われている会計処理及び開示に影響を与えることを意図したものではない」旨が明記されている。株式無償交付に関する会計基準は、取締役等への報酬として株式を「無償」で交付する場合に焦点を絞って「新設」されたものであり、これまでの現物出資スキームによる株式報酬に関する会計処理を改めるものではないということだ。ある意味では、ASBJは経済産業省の主導で実現した現物出資スキームを“スルー”したとも言えそうだ。

2020/10/14 得意先との会食における“感染以外”の留意点

コロナ禍が収束したとは未だ言えない中、夜の街に活気が戻ってきた。金曜日夜の繁華街では満席状態の店も目に付く。一方、海外に目を向けると、米国では感染拡大が続いており、・・・

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2020/10/14 得意先との会食における“感染以外”の留意点(会員限定)

コロナ禍が収束したとは未だ言えない中、夜の街に活気が戻ってきた。金曜日夜の繁華街では満席状態の店も目に付く。一方、海外に目を向けると、米国では感染拡大が続いており、30以上の州で新規感染者数が増加している。このうちニューヨーク州では、クイーンズ区とブルックリン区内の一部地域で新規感染者が急増していることを踏まえ、感染拡大地域とその周辺地域を、感染拡大の深刻度が高い順に「レッド」「オレンジ」「イエロー」の3段階に分け、レッド地域では、生活に必要不可欠な業種を除く経済活動が原則禁止された。英国の状況はより深刻だ。英国ではコロナ感染による入院患者数は4週間で4倍に増加し、全国的なロックダウン(都市封鎖)を実施した3月23日と同じ水準に達している。英国では屋内外での7人以上の社交的な集まりを禁止する“6人ルール”が継続されているほか、全国の各地域を感染拡大に応じて3段階に分類し、ロンドン中心部を含む最も低い段階に該当する地域でも飲食等の接客サービスが22時以降禁止されるとともに在宅勤務が推奨され、最上位の段階の地域では、食事を提供しないパブやバー等は閉鎖される事態となっている。

日本のにおける夜の街の賑わいを見ると、今後の感染拡大も懸念されるところだが、こうした中で夜の街の活性化に大きく貢献しているのが、Go Toトラベルに続いて10月1日からスタートした「Go Toイート」キャンペーン(以下、Go Toイート)だ。Go Toイートは、プレミアム付食事券を購入するか、オンライン予約サイト経由で予約・来店した場合、来店時にプレミアム分あるいはポイント分、飲食代の割引を受けることができる仕組みとなっている(詳細は農林水産省のウェブサイト参照)。利用目的は問われないため、企業が接待交際にGo Toイートを使って経費を節約することも可能。実際、飲食店を予約する際にはオンライン予約サイトを使うことが多く、この場合、自然にGo Toイートを利用することになる。ただ、Go Toイートの利用において注意しなければならないのが、思わぬ税金の申告漏れというコンプライアンス違反だ。

法人税法上、資本金100億円超の法人は交際費を損金算入することが一切できず、資本金1億円超100億円以下の法人は、交際費の「50%」を超える部分の金額は損金算入できない。これの例外が、飲食に支出した費用を参加者の数で割って計算した金額が「5千円以下」(つまり、1人あたり5千円以下)となる場合だ。この場合、資本金の大きさにかかわらず、その全額を損金算入することができる(以上の詳細は国税庁のウェブサイト参照)。このルールは一般に“5千円基準”と呼ばれ、上場企業においても、この5千円基準の存在を踏まえ、接待交際のための飲食費の支出額を「原則1人あたり5千円以下」とするルールを設けているところが少なくない。

逆に言うと、従業員にとっては、飲食費を「1人あたり5千円以下」に抑えなければというプレッシャーが働くことになり、これが“参加人数の水増し”という不正につながりやすい。例えば3人で1万8千円の飲食費がかかったところ、会社には参加人数を「4人」と虚偽の申告をするようなパターンだ。実はこの種の不正には税務当局も目を光らせており、5千円基準の不正利用による申告漏れ件数は、税務当局が把握した全ての申告漏れの中でも常に上位にランクしている。

話をGo Toイートに戻すと、例えば、飲食店のオンライン予約サイトから定価では2人で1万2,500円、Go Toイートにより1万円に割引されているコースを予約したとしよう。割引後の金額をベースにすれば、1人あたりの飲食費は5千円以下となるため、5千円基準の適用により1万円全額が損金算入できるように見える。しかし、当フォーラムが取材したところによると、5千円基準の判定のベースとなる金額は、あくまでGo Toイートによる割引前の金額となる。すなわち、このケースでは1万2,500円であり、1人あたりの飲食費は6千円余りとなるため、5千円基準を満たさず、上記のとおり損金算入が制限されることになる。これは、プレミアム付食事券を使用した場合や、Go Toトラベルの地域共通クーポンを使用した場合も同じである。

Go Toイートキャンペーンにより国が飲食を推奨する中、接待交際を再開している企業もあるが、申告漏れというコンプライアンス違反を起こさないよう、企業としては、従業員には同キャンペーンによる割引前の金額と、(従来どおり)実際の参加人数を申告するよう徹底しておきたい。

2020/10/13 プライム市場の上場基準を満たさない企業に迫られる市場選択の決断時期

コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の改訂に向け、金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」が今月から再開する。東証が進める市場区分の見直しへの対応が大きなテーマとなる。すなわち、プライム市場上場企業に対して課されるであろう「より高い水準」のコードが検討されることになる(2020年9月14日のニュース『東証の調査結果から想定される「より高い水準」のガバナンス規制』参照)。

この改訂CGコードの内容は、特にプライム市場の上場基準(プライム市場の上場基準はこちら)を満たしていないにもかかわらず「経過措置」の適用を受けプライム市場への上場を考えている企業にとっては気になるところだろう(経過措置の内容については2019年12月25日のニュース「CGコードの一部が強制適用の可能性、ジャスダック企業にもフル適用へ」参照)。仮に改訂CGコードの内容があまりにも厳しければ、プライム市場への移行を断念するところが出て来る可能性もある。

では、その“決断”はいつまでにする必要があるのだろうか。結論から言えば、それは・・・

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2020/10/13 プライム市場の上場基準を満たさない企業に迫られる市場選択の決断時期(会員限定)

コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の改訂に向け、金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」が今月から再開する。東証が進める市場区分の見直しへの対応が大きなテーマとなる。すなわち、プライム市場上場企業に対して課されるであろう「より高い水準」のコードが検討されることになる(2020年9月14日のニュース『東証の調査結果から想定される「より高い水準」のガバナンス規制』参照)。

この改訂CGコードの内容は、特にプライム市場の上場基準(プライム市場の上場基準はこちら)を満たしていないにもかかわらず「経過措置」の適用を受けプライム市場への上場を考えている企業にとっては気になるところだろう(経過措置の内容については2019年12月25日のニュース「CGコードの一部が強制適用の可能性、ジャスダック企業にもフル適用へ」参照)。仮に改訂CGコードの内容があまりにも厳しければ、プライム市場への移行を断念するところが出て来る可能性もある。

では、その“決断”はいつまでにする必要があるのだろうか。結論から言えば、それは改訂CGコードが確定・公表されてから最初に迎える定時株主総会(3月決算企業であれば、2021年6月の定時株主総会)の前までということになる。東証は、企業が市場を選択する「市場選択手続期間」を「2021年9月から12月まで」に設定し、上場企業各社には当該期間中に市場選択の手続を行うことを求めているため(東証「新市場区分の概要等について」の「市場選択に係る手続の概要」参照)、この期間に市場を選択すればよいようにも見えるが、上場企業の経営陣としては、その前の株主総会において、どの市場を選択するかを株主に示すのが筋と言えよう。

この点を踏まえると、CGコードの改訂スケジュールも見えて来る。経営陣がどの市場を選択する際には、改訂CGコードの内容も重要な判断材料になるからだ。

フォローアップ会議が月内に再開後、改訂CGコードのとりまとめまでには6回程度の開催が必要になるだろう。したがって、今月以降毎月開催しても年度内いっぱいはかかることになる。さらに、とりまとめ後1か月程度のパブコメを経る必要があることも考えると、改訂CGコードが確定・公表されるのはGW明けとなる可能性が高い。「経過措置」の利用によりプライム市場に上場することを考える企業は、そこから株主総会開催までにどの市場を選択するかを決断し、決断の結果や理由などを株主総会で株主に説明する必要があろう。

では、改訂CGコードが適用されるプライム市場を選んだ場合、改訂CGコードに対応したCG報告書はいつまでに提出すればよいのだろうか。さすがに例年のスケジュール(定時株主総会後速やかに)というのは企業にとって酷だろう。新市場がスタートするのは2022年4月からであるため、それまでに公表が求められることになる可能性が高そうだ。