2020/10/12 社外取締役に株式報酬を支給する企業も 監査役は?

2020年10月8日のニュース「高役員報酬企業の変動報酬比率は?CG改革を経た役員報酬の“今”」では、TOPIX100採用企業の「業務執行役員」の1人当たり報酬額、報酬構成(基本:賞与:株式)、変動報酬比率などについてお伝えしたが、今回は「非業務執行役員()」の報酬についての調査結果をお伝えする。

 本稿における「非業務執行役員」とは、社外役員(社外取締役、社外監査役)および監査役とする。社内取締役にも非業務執行者は存在するが、有価証券報告書上は判別が困難であるため除外する。

TOPIX100採用企業が直近年度の有価証券報告書で開示した役員報酬の支給対象となった「社外役員」は785人で、単純平均による1人当たり報酬金額は1千7百万円となっている。なお、1社平均の人数は単純平均で8人弱となる()。

 社外取締役と社外監査役を合計した人数であること、期中の退任者と新任者が共に含まれている点、留意いただきたい。

非業務執行役員に対する報酬構成(基本報酬、賞与、株式報酬、退職慰労金)別に金額を開示している企業数をまとめたのが下表である。・・・

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2020/10/12 社外取締役に株式報酬を支給する企業も 監査役は?(会員限定)

2020年10月8日のニュース「高役員報酬企業の変動報酬比率は?CG改革を経た役員報酬の“今”」では、TOPIX100採用企業の「業務執行役員」の1人当たり報酬額、報酬構成(基本:賞与:株式)、変動報酬比率などについてお伝えしたが、今回は「非業務執行役員()」の報酬についての調査結果をお伝えする。

 本稿における「非業務執行役員」とは、社外役員(社外取締役、社外監査役)および監査役とする。社内取締役にも非業務執行者は存在するが、有価証券報告書上は判別が困難であるため除外する。

TOPIX100採用企業が直近年度の有価証券報告書で開示した役員報酬の支給対象となった「社外役員」は785人で、単純平均による1人当たり報酬金額は1千7百万円となっている。なお、1社平均の人数は単純平均で8人弱となる()。

 社外取締役と社外監査役を合計した人数であること、期中の退任者と新任者が共に含まれている点、留意いただきたい。

非業務執行役員に対する報酬構成(基本報酬、賞与、株式報酬、退職慰労金)別に金額を開示している企業数をまとめたのが下表である。ほとんどの企業は基本報酬だけ支給しており、インセンティブ報酬は支給していない。

機関設計等 基本報酬 賞与 株式報酬 退職慰労金
指名委員会等設置会社(21社) 21社 - 4社 2社
監査等委員会設置会社(12社) 12社 - 1社 -
監査役会設置会社(67社) 67社 1社 2社 -
TOPIX100採用企業全体 100社 2社 7社 2社

非業務執行役員に賞与を支給したのは東京ガスのみだった。同社は社内取締役の賞与を「期間業績結果を評価し、役位に応じて支給額を決定」としたうえで、社外取締役の賞与については「社内取締役と同様」としている。なお、金額は6百万円で、報酬全体の15%を占めている。

非業務執行役員に株式報酬を支給したのは以下の7社で、そのうち4社を指名委員会等設置会社が占める。報酬全体に占める割合は約1~4割とバラつきが大きい。

企業名 機関設計 金額 報酬全体に占める割合
ソニー 指名委員会等設置会社 37百万円 12%
HOYA 指名委員会等設置会社 36百万円 40%
みずほフィナンシャルグループ 指名委員会等設置会社 11百万円 9%
オリックス 指名委員会等設置会社 14百万円 13%
武田薬品工業 監査等委員会設置会社 216百万円 44%
東京エレクトロン 監査役会設置会社 27百万円 24%
東京海上ホールディングス 監査役会設置会社 10百万円 10%

今回の調査結果からも明らかなように、非業務執行役員に対するインセンティブ報酬は一般的ではないと言える。その中でも一部、“究極のインセンティブ報酬”である株式報酬を支給する企業が見られるのは、経営の意思決定をする取締役会の一員である「社外取締役」は企業価値(時価総額)にも結果責任を持つべき、という考え方によるものだろう。会社法上、取締役会において「経営の基本方針」を定めることが求められている指名委員会等設置会社においては特に馴染みやすいものと思われる。上表のとおり、株式報酬を支給した企業の過半数を指名委員会等設置会社が占めたのもうなずけるところだ。

TOPIX100採用企業の監査役会設置会社のうち、社内監査役がゼロの2社を除いた65社(株主総会前の時点)が直近年度の有価証券報告書で開示した役員報酬の支給対象となった社内監査役は162人で、単純平均による1人当たり報酬金額は2千7百万円となっている。社内監査役にインセンティブ報酬を付与している企業は、(賞与・株式報酬ともに)ゼロだった(社外監査役もゼロ)。

経営の意思決定に責任を持つ取締役(社外取締役を含む)と異なり、職責が業務執行の監査にとどまる監査役(社外監査役を含む)については、企業価値に対する結果責任を負うことなく監査の役割を果たすことが期待されていると言えよう。

2020/10/11 2020年10月30日(金)〆切!【ウイリス・タワーズワトソン】ESGと役員報酬および人的資本ガバナンスに関する簡易ウェブ調査のご案内

経営者の指名・報酬などの分野で世界的な権威を持つコンサルティング会社ウイリス・タワーズワトソンが
ESGと役員報酬および人的資本ガバナンスに関する調査を実施します。

ご回答いただいた方には、後日グローバルの調査結果をまとめたレポートをお送りします。

奮ってご参加いただけますと幸いです。

※〆切は「2020年10月30日(金)」となります。

詳細はこちら

2020/10/09 ESG情報開示の共通化、既存のフレームワークを活かす流れ

既報のとおり、今年(2020)1月にはダボス会議の場で、同会議の母体である世界経済フォーラムの諮問機関である国際ビジネス評議会によりとりまとめられたESG情報に関する新たな開示フレームワークの草案が公表されたが(2020年1月27日のニュース「ESG情報の開示フレームワーク、統一へ」参照)、この国際ビジネス評議会の動きを含め、ESG情報の開示フレームワークを統一しようという動きが加速している。

ダボス会議 : 1971年に発足した非営利財団「世界経済フォーラム」(本部:スイス・ジュネーブ)が毎年1月に開催する年次総会のこと。スイスの有名な保養地であるダボスで開催されることから「ダボス会議」との名前が付いた。ダボス会議には、日本の首相を含む各国を代表する政治家や実業家が一堂に会し、世界経済や環境問題など幅広いテーマについて議論するだけに、同会議における決定・公表事項は世界に強い影響力を持つ。
国際ビジネス評議会 : 世界的企業のCEO約120名で構成されており、国際社会におけるビジネス上の課題解決策を提案する機能を持つ。
ESG : ESGとは、「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。

近年深刻さを増している気候変動にコロナ禍が追い打ちをかけ、サスティナブル(持続可能)な社会の実現への関心は投資家の間でも一層高まっている。これに伴い、上場企業に対しESG 情報の開示を求める投資家のプレッシャーは益々強まることが予想される。ただ、企業はもちろん投資家にとっても悩ましいのが、ESG情報の開示にあたっての統一的なフレームワーク(枠組み)がいまだに存在しないということだ。現状、ESG情報の開示には複数のフレームワークが“乱立”しており、このことは、開示書類を作成する側の企業のみならず、各企業の比較可能性という観点から投資家にも混乱をもたらしている。

現時点におけるESG情報開示のフレームワークとして世界で最も多く利用されているのが、・・・

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2020/10/09 ESG情報開示の共通化、既存のフレームワークを活かす流れ(会員限定)

既報のとおり、今年(2020)1月にはダボス会議の場で、同会議の母体である世界経済フォーラムの諮問機関である国際ビジネス評議会によりとりまとめられたESG情報に関する新たな開示フレームワークの草案が公表されたが(2020年1月27日のニュース「ESG情報の開示フレームワーク、統一へ」参照)、この国際ビジネス評議会の動きを含め、ESG情報の開示フレームワークを統一しようという動きが加速している。

ダボス会議 : 1971年に発足した非営利財団「世界経済フォーラム」(本部:スイス・ジュネーブ)が毎年1月に開催する年次総会のこと。スイスの有名な保養地であるダボスで開催されることから「ダボス会議」との名前が付いた。ダボス会議には、日本の首相を含む各国を代表する政治家や実業家が一堂に会し、世界経済や環境問題など幅広いテーマについて議論するだけに、同会議における決定・公表事項は世界に強い影響力を持つ。
国際ビジネス評議会 : 世界的企業のCEO約120名で構成されており、国際社会におけるビジネス上の課題解決策を提案する機能を持つ。
ESG : ESGとは、「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。

近年深刻さを増している気候変動にコロナ禍が追い打ちをかけ、サスティナブル(持続可能)な社会の実現への関心は投資家の間でも一層高まっている。これに伴い、上場企業に対しESG 情報の開示を求める投資家のプレッシャーは益々強まることが予想される。ただ、企業はもちろん投資家にとっても悩ましいのが、ESG情報の開示にあたっての統一的なフレームワーク(枠組み)がいまだに存在しないということだ。現状、ESG情報の開示には複数のフレームワークが“乱立”しており、このことは、開示書類を作成する側の企業のみならず、各企業の比較可能性という観点から投資家にも混乱をもたらしている。

現時点におけるESG情報開示のフレームワークとして世界で最も多く利用されているのが、オランダに本部を置くグローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)が提供する「GRIスタンダード」だ。GRIスタンダードは全業種共通のフレームワークであり、幅広いステークホルダーに向けて、経済、環境、社会へのインパクトが大きいESG情報の開示基準を示す。開示項目は、CO₂排出量、エネルギー消費、雇用、従業員の処遇、腐敗防止、税金など多岐に及ぶ。

グローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI) : Global Reporting Initiativeの略称で、1997年、米国の非営利組織などが中心となり、サステナビリティ報告書への理解促進と、その作成を支援することを目的に設立された(現在の本拠はオランダ)。GRIは2000年に「GRIガイドライン」を公表し何度か改定を重ねたが、サステナビリティ報告書の普及が進んだ状況を踏まえ、2016年にガイドラインから格上げして「GRIスタンダード」を公表した。GRIスタンダードは、その序文では「GRIスタンダードが推進するサステナビリティ報告とは、報告組織が経済、環境、社会に与えるインパクト、すなわち持続可能な発展という目標へのプラス、マイナス両方の寄与について、公に報告を行うことをいう」と述べており、ESG課題等の組織への影響だけでなく、組織が社会や環境等に与える影響についての報告も重視している。

また、金融安定理事会(FSB)が設置した組織であるTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures=気候関連財務情報開示タスクフォース)が2017年6月に公表した最終提言も、気候変動リスクに関する情報開示フレームワークとしてはグローバルスタンダードになりつつある。これは、気候変動への対応を、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの観点から開示することを求めている(TCFDについては、2020年1月15日のニュース「機関投資家がTCFDを重視せざるを得ない事情」参照)。

金融安定理事会(FSB) : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織。
TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures=気候関連財務情報開示タスクフォース) : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。この開示フレームワークは制度開示書類、つまり日本においては有価証券報告書への適用を想定しているが、日本においては現状、金融庁が気候変動リスクについて「開示義務化の予定はない」と明言しており、有価証券報告書だけでなく、統合報告書など投資家向け任意開示書類をも含む開示媒体への“自主的な”記載が推奨されている。

これら以外では、米国のサステナビリティ会計基準審議会(SASB)が、77の産業別に、財務的インパクトが大きいESG情報を主に投資家に向けて開示するためのフレームワーク「SASBスタンダード」を提供しているほか、気候変動など環境分野に取り組む国際NGOであるCDP(旧Carbon Disclosure Project)は、企業および都市に対し、「気候変動」「森林」「水資源の確保」の3つのテーマについて、「ガバナンス」「方針」「リスク管理」「戦略」「目標」を問う質問状を送付し、その回答を機関投資家等に公表している。CDPと開示項目が類似するのが、気候変動情報開示審議会(CDSB=Climate Disclosure Standards Board)が提供する環境、気候変動関連の情報開示の枠組みである「CDSBフレームワーク」だ。同フレームワークでは「ガバナンス」「方針」「戦略」「目標」「リスクと機会」などが開示対象となる。

サステナビリティ会計基準審議会(SASB) : Sustainability Accounting Standards Board(サステナビリティ会計基準審議会)の略称で、2011年に米国サンフランシスコを拠点に設立された非営利団体。企業の情報開示の質向上に寄与し、中長期視点の投資家の意思決定に貢献することを目的に、将来的な財務インパクトが高いと想定されるESG要素に関する開示基準を設定している。2018年11月、11セクター77業種について情報開示に関するスタンダードを作成し、公表した。

このようにESG情報開示を巡って様々なフレームワークが乱立する中、“共通のフレームワーク”の策定絵を目指す動きが官民で広がっている。国際会計基準(IFRS)の母体組織であるIFRS財団が開示基準統一に向け新たな組織を立ち上げる方針を打ち出したことは本日(2020年10月9日)付の日本経済新聞でもとり上げられたが、より動きが早いのがEUだ。

欧州委員会は、現在検討中のEUの非財務情報開示指令(従業員500名以上の企業にESG情報の開示を義務付けるEU指令)の改正案に、EU共通のESG情報の開示のフレームワークに関する規定を盛り込むことを計画しており、今年6月には、国際会計基準(IFRS)の採用について欧州委員会に勧告するなどの役割を担う「欧州財務報告諮問グループ」に対し、EU共通のフレームワーク策定に向けた技術的な事項について助言するタスクフォースの設置を依頼、同諮問グループは9月初旬にタスクフォースのメンバーを公表するなど、既に動き始めている。

欧州委員会 : 欧州連合(EU)の政策執行機関。

もっとも、EUの非財務情報開示指令は特定のフレームワークでESG情報を開示することを求めているわけではない。欧州委員会が考える「EU共通のESG情報開示フレームワーク」とは、全く新しいものを一から作るのではなく、“既存の枠組み”をスタート地点として策定されるものであり、実際、タスクフォースには「GRIやSASB等の既存の枠組の関係性を整理すること」を依頼している。タスクフォースは、2021年1月末までに最終提言を提出することを目指している。また、欧州委員会は、非財務情報開示指令の改正案を来年第1四半期中に公表する予定。数か月後にはEUにおけるESG情報開示の方向性が見えてくることになる。

一方、民間でも最近、GRIやSASBを含む5つの代表的なESG情報開示枠組の提供団体が共同声明を発表し、財務情報とESG情報の両方を含むより包括的な企業情報開示のフレームワーク策定に向けて協働する意向を明らかにしているほか、本稿の冒頭でも触れた世界経済フォーラムの諮問機関である国際ビジネス評議会は9月22日、「普遍的で、全産業に適用できるESG情報開示のフレームワーク」を公表している。同評議会は、「既存のESG情報開示フレームワークの統合を加速させるため、GRIやTCFDなどを土台として、国際的なESG情報開示の共通フレームワーク作りを促進したい」としている。国際ビジネス評議会は世界の大企業約120社のCEOで構成される組織であり、同評議会によるフレームワーク作りはビッグフォーと呼ばれる4大監査法人が支持している。実際、同評議会のフレームワークの策定作業もビッグフォーが担っており、本プロジェクトは大きな影響力を持つことが予想される。まずは来年1月に実施される会合で、メンバー企業がESG情報開示の共通枠組みの採用に向けたタイムスケジュールを決定するという。

コロナにより社会の脆弱性が露呈した今、サステイナブルな社会の実現に資金の流れるようにするためには、ESG情報開示の共通の仕組みを早急に整備する必要がある。既に多くのESG情報開示のフレームワークが存在する中、既存のフレームワークを活かしながら統合していくことが“最短ルート”となろう。世界の約450の金融機関が加盟する国際金融協会が今年6月に発表した報告書は、気候変動などサステナビリティ課題から生じるリスクや機会に金融市場が効果的に対応するためには「今後12~18ヶ月以内」に、共通の仕組み作りに向けた大きな進歩が必要であると訴えている。現状のESG開示フレームワークをベースとした共通の開示ルールが策定されるまでそれほど時間はかからないかもしれない。共通の開示ルールが策定されれば、日本企業のESG情報開示にも影響を与えることになりそうだ。

2020/10/09 【2020年9月の課題】2020年6月株主総会 議決権行使結果の個別開示を踏まえた機関投資家の動向

日本シェアホルダーサービス株式会社
コンサルタント 水嶋 創

機関投資家ごとに賛否の傾向、議決権行使の考え方を分析することが不可欠な時代に

本年6月の株主総会シーズンから3か月以上が経過し、主要国内機関投資家の議決権行使結果を閲覧できるようになりました。各社とも自社の大株主である機関投資家等が株主総会議案に対してどのような行使判断を行ったか既に確認していることと思われますが、最近は、同じ議案であっても議決権行使基準の違いから機関投資家によって賛否率が大きく異なることもあれば、議決権行使基準に抵触していても、場合によっては賛成行使に転じる機関投資家もあります。機関投資家ごとに賛否の傾向、議決権行使の考え方を分析することが不可欠な時代になったと言えるでしょう。

そこで本稿では、まず議決権行使結果の個別開示をもとに各機関投資家の主な議案に対する反対率を算出し、昨年との比較も踏まえて機関投資家ごとの傾向を分析します。加えて、本年から本格化した「賛否の理由の開示」のうち特に「賛成の理由」が付されている議案に着目して“例外行使”をあぶり出し、その背景にある理由の考察を試みることとします。

※なお、本稿の分析・検討の範囲は本年6月に開催された東証一部上場企業の株主総会に限ります。

主要機関投資家の反対率:剰余金処分議案

主要国内機関投資家の剰余金処分議案に対する反対率を算出したところ、結果は以下のとおりとなりました。
52760a

ここで確認できるのは、上記国内主要10機関投資家全てにおいて、反対率が昨年比で減少しているということです。特に、野村アセットマネジメントやアセットマネジメントOne、ブラックロック・ジャパンは、本年は全ての剰余金処分議案に賛成しています。これは新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえた柔軟な行使判断の表れと言えそうです。実際、野村アセットマネジメントは本年5月にリリースした「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大に伴う議決権行使の対応方針について」の中で、「かかる状況下では、投資先企業における事業の維持・継続が最優先されるべき事項である」とし、同社の議決権行使基準において定める「株主還元に関する基準」を当面適用しないこととする旨を明らかにしています。

主要機関投資家の反対率:社内取締役選任議案

主要国内機関投資家の取締役選任議案(社内取締役)に対する反対率は以下のとおりでした。
52760b
※子議案(1候補者1議案)ベースでカウントしたもの

ここで目につくのが、三菱UFJ信託銀行の反対率の高さです。反対率は昨年比で大きく増加(+25.1%)し、約4割の議案に対して反対行使を行っています。これは同社が、「社外取締役が取締役総数の1/3未満の場合、取締役候補者全員に対して反対する」という、いわゆる「1/3基準」を本年から本格適用した結果であると考えられます。

三菱UFJ信託に次いで反対率が高かったのが三井住友DSアセットマネジメントですが、昨年比では反対率は減少(▲5.7%)しています。本年は同社のROE基準(3年連続上場企業平均未満)に抵触する企業の取締役選任議案であっても賛成行使となったケースが相当程度確認されており、これも新型コロナウイルス感染症拡大という状況を踏まえた柔軟な行使判断の一例と位置づけられます。

主要機関投資家の反対率:社外取締役選任議案

主要国内機関投資家の取締役選任議案(社外取締役)に対する反対率は以下のとおりでした。
52760c
※子議案(1候補者1議案)ベースでカウントしたもの

まず、社内取締役選任議案同様、三菱UFJ信託銀行の反対率が大きく増加(+11.1%)していることが確認できます。前述の「1/3基準」に抵触した場合の反対行使の対象は、社外取締役を含む取締役全員であるため、社内取締役選任議案と同じ理由、つまり、「1/3基準」の本格適用開始に伴う反対増加であると考えられます。

一方、反対率が大きく減少(▲10.5%)しているのが日興アセットマネジメントです。同社はROE基準(直近期において業種内下位1/4未満)に抵触した企業については、社外取締役を含む取締役再任候補者の選任議案に反対することとしていますが、本年は新型コロナウイルス感染症拡大も踏まえて、柔軟な行使判断を行ったものとみられます。また、同社は決権行使基準における社外取締役の独立性基準について以下の改訂を行っています。一見すると基準が厳格化されたように見えますが、「独立性」の定義が明確になったことで、(独立性を有するかどうかの判断が容易となり)かえって反対率の減少に繋がった可能性もあります。

(日興アセットマネジメントの議決権行使ガイドラインにおける独立性に関する記載)
・2019年
独立性の定義は、会社と候補者との間に社外取締役として選任されること以外に関係がないことを原則とする。
・2020年
以下に該当し、独立性に欠けると判断される場合
① 会社の大株主である組織に現在勤務している
② 会社の主要取引先である組織に現在勤務している
③ コンサルティング契約や顧問契約などの重要な取引関係が現在ある
④ 親族が会社に現在勤務している
主要機関投資家の反対率:監査役選任議案

主要国内機関投資家の監査役選任議案に対する反対率は以下のとおりでした。

52760e
※子議案(1候補者1議案)ベースでカウントしたもの

監査役選任議案については、全体的に反対率が低下していることが確認できます。これは、監査役選任議案に対する反対理由の多くが「社外監査役の独立性」である中、主要機関投資家の独立性の判断基準が「独立役員届出書の有無」に収れんしつつあり、これに対する企業側の対応が進捗した結果であると考えられます。実際に、上表で取り上げた国内主要10機関投資家のうち、日興アセットマネジメントとブラックロック・ジャパン、三井住友DSアセットマネジメントの3社を除く7社が、原則として独立役員届出書を届け出ている(または届け出る予定の)候補者の独立性を認めるとしています。

「賛成の理由」からあぶりだされる「例外行使」

2020年3月の改訂によってスチュワードシップ・コードの指針5-3に「議決権の行使結果を公表する際、機関投資家が議決権行使の賛否の理由について対外的に説明することも、可視性を高めることに資する」との記載が加わりました。これにより、本年から多くの機関投資家が議決権行使結果の開示に際し、賛否に加えて「理由」の欄を設けています。

「理由」の開示を行った機関投資家の多くは基本的に「反対の理由」、すなわち「自社の議決権行使ガイドラインのどこに抵触したか」を記載しています。一方、一部の機関投資家においては、会社提案議案について「賛成の理由」を記載している例も確認されました。「賛成の理由」をわざわざ記載するのは、形式的には議決権行使基準に抵触しているにもかかわらず、“例外的に”賛成行使を行ったからであると考えられます。こうした議案の数をカウントしたのが下表です。

52760d

例えば「例外賛成」が最も多かった三井住友DSアセットマネジメントの「賛成理由」を見ると、「配当基準(総合的に判断)」との記載(400議案)や「コロナ影響を考慮」(304議案)などの記載が確認されます。同社の配当基準(総還元性向30%など)に抵触した場合でも、定性的な観点から賛成行使がなされた事例や新型コロナウイルス感染症拡大を踏まえて業績基準(ROE基準)について柔軟な判断が行われた事例が相当程度あったことが読み取れます。

三菱UFJ信託銀行では、「業績が弊社基準(低ROE)に抵触するが、改善に向けた取り組みを評価」(176議案)や「社外取締役の構成が弊社基準に抵触するが、解決に向けた具体的な取り組みを評価」(157議案)などの「賛成理由」が確認されました。本年より導入した1/3基準についても、形式的に基準に抵触しているものの企業の取組みを勘案して賛成に転じた議案が一定程度あったことが分かります。

アセットマネジメントOneにおいては、「企業戦略や地方創生を含むESGへの取組みをエンゲージメントを通じて評価」(62議案)や「エンゲージメントを通じて、中長期的な業績改善が見込まれると判断」(61議案)などの理由により、業績基準(ROE基準)について例外的に賛成となった議案が確認されました。

「賛否理由」の開示で加速度的に高まるエンゲージメントの重要性

以上のとおり、本年6月の株主総会における各機関投資家の議決権行使結果の開示の分析を通じて確認されたのは、新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえ、議決権行使ガイドラインを柔軟に運用した機関投資家の姿勢です。同様に、本年から始まった「賛否の理由」からも、機関投資家が企業の置かれた状況や取組みを評価し、形式的には議決権行使基準に抵触していても、定性的な評価も加えて実質的な判断を行った事例も確認されました。

これらから言えることは、機関投資家は単に議決権行使基準を機械的に適用するだけでなく、企業側の説明等次第では、反対を賛成に翻意させることも不可能ではないということです。議決権行使結果および賛否理由(特に賛成の理由)は、企業にとって、機関投資家との対話(エンゲージメント)の重要性がますます高まっていることを改めて認識させるものであったと言えるでしょう。

2020/10/08 高役員報酬企業の変動報酬比率は?CG改革を経た役員報酬の“今”

機関投資家が投資先のコーポレートガバナンスを評価する際に、独立社外取締役の人数・割合や政策保有株式と並ぶ関心事となっているのが役員報酬だ。近年は多くの上場企業や報酬構成(基本:賞与:株式)や報酬額など役員報酬改革に取り組んできたが、改革を経た役員報酬の“今”を、TOPIX100採用企業の業務執行役員()を対象に見てみよう。

 本稿における「業務執行役員」とは、社内取締役と執行役に該当する者とする。実際には代表権の伴わない取締役会長など社内取締役でも非業務執行者は存在するが、有価証券報告書上は判別が困難であるため、「社内取締役=業務執行取締役」として取り扱う。

TOPIX100採用企業が直近年度の有価証券報告書で開示した役員報酬の支給対象となった業務執行役員は1,065人で、単純平均による1人当たり報酬金額は8千5百万円だった。

報酬構成(基本:賞与:株式)についてまとめたのが下表だ。・・・

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2020/10/08 高役員報酬企業の変動報酬比率は?CG改革を経た役員報酬の“今”(会員限定)

機関投資家が投資先のコーポレートガバナンスを評価する際に、独立社外取締役の人数・割合や政策保有株式と並ぶ関心事となっているのが役員報酬だ。近年は多くの上場企業や報酬構成(基本:賞与:株式)や報酬額など役員報酬改革に取り組んできたが、改革を経た役員報酬の“今”を、TOPIX100採用企業の業務執行役員()を対象に見てみよう。

 本稿における「業務執行役員」とは、社内取締役と執行役に該当する者とする。実際には代表権の伴わない取締役会長など社内取締役でも非業務執行者は存在するが、有価証券報告書上は判別が困難であるため、「社内取締役=業務執行取締役」として取り扱う。

TOPIX100採用企業が直近年度の有価証券報告書で開示した役員報酬の支給対象となった業務執行役員は1,065人で、単純平均による1人当たり報酬金額は8千5百万円だった。

報酬構成(基本:賞与:株式)についてまとめたのが下表だ。TOPIX100採用企業全体で概ね5:3:2となっており、機関設計別に見ても大きくは変わらない。賞与と株式を合わせた変動報酬比率はTOPIX100採用企業全体で49%と、固定報酬と変動報酬がほぼ半々となっていることが分かる。なお、監査等委員会設置会社の変動報酬比率が57%と頭一つ抜けているが、これには報酬金額・変動報酬比率とも高い武田薬品工業が影響しており(後述)、同社を除く11社の平均は46%にとどまる。

機関設計等 基本 賞与 株式 (変動報酬比率)
指名委員会等設置会社(21社) 49% 27% 23% 50%
監査等委員会設置会社(12社) 43% 32% 26% 57%
監査役会設置会社(67社) 53% 29% 17% 47%
TOPIX100採用企業全体 51% 29% 20% 49%

下表は1人当たりの報酬額の上位5社ランキングである。武田薬品工業が6億円超と際立って高額となっているが、これはウェバーCEOの20億円を筆頭に高額報酬の外国人取締役が複数存在するため。日本人中心の業務執行体制であれば平均報酬額は多くても3億円前後だと考えられる。なお、上位5社の変動報酬比率は7・8割程度と高水準になっている。このことは、上場企業が役員報酬額を引き上げる際には変動報酬比率の拡大が伴うことが望ましいという方向性が示唆されていると言えそうだ。

企業名 機関設計 1人当たり報酬額
武田薬品工業 監査等委員会設置会社 6億7百万円
伊藤忠商事 監査役会設置会社 3億7千3百万円
トヨタ自動車 監査役会設置会社 3億6千4百万円
ソフトバンク 監査役会設置会社 3億3千9百万円
ソニー 指名委員会等設置会社 2億9千万円

下表は変動報酬比率の上位5社ランキングである。やはり武田薬品工業がトップとなっており、1人当たり報酬総額6億円に占める変動報酬は5億円に達する。もっとも、2~5位の各社も同じく約8割の変動報酬比率となっており、例えばリクルートHDと東京エレクトロンは、ともに2億5千万円前後の1人当たり報酬総額のうち約2億円を変動報酬が占めている。また、下表の各社の株式報酬比率は4~6割に達しており、長期インセンティブのみで報酬全体の半分を構成している。変動報酬比率を高める際に株式報酬を活用することは、もはや“常識”になっていると言えよう。

企業 機関設計 変動報酬比率
武田薬品工業 監査等委員会設置会社 82.3%
リクルートHD 監査役会設置会社 82.1%
東京エレクトロン 監査役会設置会社 81.8%
ソニー 指名委員会等設置会社 80.5%
ソフトバンク 監査役会設置会社 78.7%

2020/10/07 「社外取に期待される役割」の開示案に対しパブコメで賛否

改正会社法政省令に対するパブリックコメントの募集が(2020年)9月30日をもって締め切られた(2020年9月7日のニュース「速報・改正会社法政省令 来年の株主総会参考書類、事業報告に記載が必要な事項」参照)。法務省はまだパブリックコメントの結果を公表していないが、有力団体が続々と提出したコメントを自らのウェブサイトで公表している。これらのコメントの内容を比較すると、・・・

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2020/10/07 「社外取に期待される役割」の開示案に対しパブコメで賛否(会員限定)

改正会社法政省令に対するパブリックコメントの募集が(2020年)9月30日をもって締め切られた(2020年9月7日のニュース「速報・改正会社法政省令 来年の株主総会参考書類、事業報告に記載が必要な事項」参照)。法務省はまだパブリックコメントの結果を公表していないが、有力団体が続々と提出したコメントを自らのウェブサイトで公表している。これらのコメントの内容を比較すると、社外取締役を選任する際、株主総会招集通知(株主総会参考書類)に(当該社外取締役に)「期待される役割」を記載する案(下記の会社法施行規則改正案74条4項3号参照)への賛否が分かれる結果となっている。

会社法施行規則改正案74条
1項 取締役が取締役(株式会社が監査等委員会設置会社である場合にあっては、監査等委員である取締役を除く。次項第2号において同じ。)の選任に関する議案を提出する場合には、株主総会参考書類には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
~(中略)~
4項 第1項に規定する場合において、候補者が社外取締役候補者であるときは、株主総会参考書類には、次に掲げる事項(株式会社が公開会社でない場合にあっては、第4号から第8号までに掲げる事項を除く。)を記載しなければならない。
~(中略)~
3号 当該候補者が社外取締役(社外役員に限る。以下この項において同じ。)に選任された場合に果たすことが期待される役割の概要

ちなみに、1項には「監査等委員会設置会社である場合にあっては、監査等委員である取締役を除く。」とあるが、監査等委員である社外取締役は「期待される役割の概要」の記載が免除されるわけではない。会社法施行規則改正案74条の3には、監査等委員である社外取締役についても同様の規定が設けられている。

会社法施行規則改正案74条の3
取締役が監査等委員である取締役の選任に関する議案を提出する場合には、株主総会参考書類には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
~(中略)~
4項 第1項に規定する場合において、候補者が社外取締役候補者であるときは、株主総会参考書類には、次に掲げる事項(株式会社が公開会社でない場合にあっては、第4号から第8号までに掲げる事項を除く。)を記載しなければならない。
~(中略)~
3号 当該候補者が社外取締役(社外役員に限る。以下この項において同じ。)に選任された場合に果たすことが期待される役割の概要

さらに会社法施行規則改正案では、社外取締役が「期待される役割」を実際に果たしたかどうかを事業報告にも記載することを求めている(下記の会社法施行規則改正案124条1項4号ホ参照)

会社法施行規則改正案124条
会社役員のうち社外役員である者が存する場合には、株式会社の会社役員に関する事項には、第121条に規定する事項のほか、次に掲げる事項を含むものとする。
~(中略)~
4 各社外役員の当該事業年度における主な活動状況(次に掲げる事項を含む。)
~(中略)~
ホ 当該社外役員が社外取締役であるときは、当該社外役員が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要(イからニまでに掲げる事項を除く。)

これらの改正案について明確に反対意見を表明したのが日本経済団体連合会(経団連)と経営法友会だ。

団体名 反対の理由
日本経済団体連合会 (社外取締役に「期待される役割」を招集通知に記載することに関して)
社外取締役に「期待される役割」を株主総会参考書類に記載することは法制審議会会社法制部会で議論されたことはない。また、現行の同項2号において、選任理由を記載することとされているため、それに加えて「期待される役割」を記載する必要はない。加えて、社外監査役については、同種の規定が設けられておらず、平仄を欠くことにもなる。よって、この部分は削除すべきである。

(社外取締役に「期待される役割」を事業報告に記載することに関して)
社外役員が社外取締役であるときにおいて、「期待される役割に関して行った職務の概要」を記載することに関しては、法制審議会会社法制部会でも議論されておらず、唐突である。また、そもそも社外役員は原則として業務執行を行うことが想定されておらず、活動の場は取締役会や法定委員会の場がメインになると考えられるところ、それらの場における活動状況は現行の同号イ~ニで開示することとされているため、それに加えて「ホ」を記載する必要はない。よって、削除すべきである。

経営法友会 (社外取締役に「期待される役割」を招集通知に記載することに関して)
会社法施行規則 74 条4項3号等の「選任された場合に果たすことが期待される役割の概要」を株主総会参考書類の記載事項とする改正について、同項2号等の「当該候補者を社外取締役候補者とした理由」と重複すること、具体的な立法事実が明確でないこと、社外取締役への期待・役割をかえって限定し硬直化させてしまうおそれがあること、社外監査役についてはこのような事項の開示は求められておらず整合しないこと(「監査役」の職務や権限は会社法に規定されているとしても(会社法 381 条)、「社外監査役」の役割は法令上規定されていない。「社外監査役」と「社外取締役」は、いずれも役割が法定されていないという点で違いはない以上、「社外取締役」にだけ「期待される役割」の開示を義務付けるべきではない。)等から、当該改正に反対する。

(社外取締役に「期待される役割」を事業報告に記載することに関して)
会社法施行規則 124 条4号ホの「当該社外役員が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要」を事業報告の記載事項とする改正について、具体的な立法事実が明確でないこと、社外取締役としては、その全活動(経営戦略や個別事項の検討、経営陣とのコミュニケーション、取締役会における発言・議決権行使等々)を通じて、「期待される役割」(たとえば、会社経営の監督等)を果たしていくのであって、「期待される役割」に関する「職務」を個別具体的に特定するのは、困難であり、また、適切でもないこと等から、当該改正に反対する(仮に、株主総会参考書類について、「選任された場合に果たすことが期待される役割の概要」を記載事項とする改正(同規則 74 条4項3号等)をする場合であっても、事業報告について、「期待される役割に関して行った職務の概要」を記載事項とする改正はすべきではない。)。

確かに、法務省が「社外取締役に期待される役割」としてどのような記載を求めているのかは分かりづらい。こうした中、上記の団体は、仮にパブコメを経ても「社外取締役に期待される役割」に関する規定が削除されなかった場合の確認事項として下記を挙げている。

団体名 仮に削除されない場合の確認事項
日本経済団体連合会 (社外取締役に「期待される役割」を招集通知に記載することに関して)
そもそもどのような記載を求めているのかを確認したい(選任理由との違いは何か)。
「社外取締役候補者とした理由」の記載として当該社外取締役に期待される役割を記載している場合においては、「候補者とした理由と同様」といった記載も許容されることを確認したい。
社外取締役に、「取締役会に出席のうえ社外の視点も踏まえ経営の監督を行うこと」を期待している企業は多いと考えられるが、これ以上の役割を求めていない場合には、どのような記載にすれば良いのかを確認したい。
実際の株主総会参考書類での記載方法に関して、「候補者とした理由及び期待される役割」のように、1つの項目でまとめて記載する、さらに、複数いる社外取締役全員に共通して期待される役割を1つにまとめて記載する、等の表現上の工夫は、重複を避け株主に効果的に情報提供するために許容されることを確認したい。

(社外取締役に「期待される役割」を事業報告に記載することに関して)
役員選任議案に関する株主総会参考書類に記載の「期待される役割」通りの役割を果たした場合には、その旨の記載で良いことを確認したい。

経営法友会 (社外取締役に「期待される役割」を招集通知に記載することに関して)
仮に、このような改正をする場合であっても、「選任された場合に果たすことが期待される役割の概要」の記載を義務付ける対象は、公開会社に限定すべきである(事業報告における「当該社外役員が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要」の開示が公開会社に対してのみ義務付けられること(同規則124条4号ホ、119条2号)との整合性の観点からも、そのような規律にすべきである。)。さらに、「選任された場合に果たすことが期待される役割の概要」の記載としては、具体的には、たとえば、「業務執行に対する実効的な監督をしていただくこと」とか「これまでの経験・識見を踏まえ経営に対して有用な助言・アドバイスをしていただくこと」といった程度の記載でよいと考えているが、そのような理解でよいか明らかにされたい。

(社外取締役に「期待される役割」を事業報告に記載することに関して)
また、仮に、このような改正をする場合、「当該社外役員が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要」として、具体的にどのような記載が求められるのか、明らかにされたい(なお、たとえば、Aという具体的役割を期待して社外取締役を選任した会社において、その事業年度中、Aという役割は重要でなくなり、他方、会社にとって重要な別のBという具体的役割が求められ、当該社外取締役がBという役割での貢献を大きく果たした、というような場合も考えられるが、そのような場合にどのような記載が求められるかを含めて、明らかにされたい。)。

もっとも、社外取締役に「期待される役割」を株主総会参考書類や事業報告に記載することに反対する団体ばかりでない。日本監査役協会は記載内容の明確化や記載義務付けの理由を問いつつも、「社外監査役候補者」にも同様の規定を設けることを求め、日本弁護士会連合会および日本取締役協会は、一部文言の修正を求めつつも「賛成」することを明言している。

団体名 賛成の理由
日本監査役協会 ①改正案第74条第4項第3号及び第74条の3第4項第3号(以下、「本号」)の「社外取締役に選任された場合に果たすことが期待される役割の概要」は、具体的にどのような内容を想定しているのか伺いたい。
②社外取締役のみについて本号の記載を義務付ける理由についても明らかにされたい。その理由によっては、社外取締役候補者のみならず、社外監査役候補者についても同様の規律を新設すべきである。
*上記①②について、改正案第124条第1項第4号ホの事業報告の記載における「当該社外役員が社外取締役であるときは、当該社外役員が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要」についても同様。
日本弁護士連合会 基本的に賛成するが、「当該候補者が社外取締役(社外役員に限る。以下この項において同じ。)に選任された場合に、取締役として当該社外取締役に果たすことを期待する役割の概要。」と修正すべきである。
【理由】改正案は、取締役が社外取締役の選任に関する議案を提出する場合において、参考書類に、「当該候補者が社外取締役(社外役員に限る。以下この項において同じ。)に選任された場合に果たすことが期待される役割の概要」を記載すべきとするものである。この役割は、あくまでも議案を決定する取締役会が当該社外取締役に期待する役割であって、当該社外取締役はそのような期待に従わなければならないものではなく、どのような役割を果たすべきかは、当該取締役が自らの知見と判断に基づき決すべきである。この点を明確にすべく、文言の修正を提案する。この点は、第74条の3第4項第3号においても同様である。
なお、第124条第4項ホは、事業報告において、「当該社外役員が社外取締役であるときは、当該社外役員が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要(カッコ内省略)」とあるが、この場合には、「期待される役割」が必ずしも他の取締役が期待する役割には限定されず、一般的に社外取締役として期待される役割と読むことができるので、特段の修正は要しないものと考える。
日本取締役協会 ・ ここで記載される「役割」は、主として社外取締役の監督機能に着目した役割であることを明確に規定すべきである。
・ 「当該候補者が社外取締役に選任された場合に果たすことが期待される役割の概要」について、「『主な』役割」などとすべきである。
[理由]
当協会としては、当該項目を株主総会参考書類の記載事項とすることについて賛成である。もっとも、その内容は、近時のコーポレートガバナンス・コードの趣旨に照らせば、社外取締役のいわゆる助言機能よりも監督機能の観点から会社が(当該社外取締役候補者の選任理由との関係で)特に期待している役割を記載させることを主に意図したものと理解しており、その点を明確に規定すべきである。また、社外取締役に「期待される役割」は多数あることが通常であり、それを網羅的に記載することは現実的でなく、中心的な役割を記載せざるを得ないところ、当該記載を読んだ株主から、「この社外取締役候補者は、この程度の役割しか期待することができないのか」と否定的に反応されるおそれがある。そのような誤解の可能性について、会社の自発的な取組みのみに委ねるのではなく、省令の規定上も、「『主な』役割」とすることにより誤解のおそれを低減させるべきである。

法務省によって確定される会社法施行規則に、これらのコメントが最終的にどのように、またどの程度反映されるのかは、社外取締役・社外監査役だけでなく、実際に開示を行う企業側としても気になるところ。確定版が公表され次第、続報したい。