経済産業省のコーポレート・ガバナンス・システム研究会は7月31日、「社外取締役の在り方に関する実務指針(社外取締役ガイドライン)」(以下、指針)を公表している。この指針は、ガバナンス改革を、例えば“社外取締役の数合わせ”といった「形式」を整える段階から、「実質」的に機能させる段階へと深化させるためには、その中核として社外取締役が本来の役割を発揮することが重要との問題意識に基づき取りまとめたもの。具体的には、社外取締役を対象としたアンケートおよびインタビューを実施し、ベストプラクティスを示している。
まず指針は以下の「社外取締役の5つの心得」を示している。これらは既にコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)が取締役会や独立社外取締役の重要な責務として挙げている事項について、改めて社外取締役の積極的な関与を求めているものと言える。したがって、「5つの心得」の内容そのものには特段の目新しさはない。
| 社外取締役の5つの心得 | CGコードのうち関係する部分 |
| 《心得 1》 社外取締役の最も重要な役割は、経営の監督である。その中核は、経営を担う経営陣(特に社長・CEO)に対する評価と、それに基づく指名・再任や報酬の決定を行うことであり、必要な場合には、社長・CEOの交代を主導することも含まれる。 |
原則4-3 取締役会の役割・責務(3) 取締役会は、独立した客観的な立場から、経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行うことを主要な役割・ 責務の一つと捉え、適切に会社の業績等の評価を行い、その評価を経営陣幹部の人事に適切に反映すべきである。 |
| 《心得 2》 社外取締役は、社内のしがらみにとらわれない立場で、中長期的で幅広い多様な視点から、市場や産業構造の変化を踏まえた会社の将来を見据え、会社の持続的成長に向けた経営戦略を考えることを心掛けるべきである。 |
原則4-1 取締役会の役割・責務(2) 取締役会は、会社の目指すところ(経営理念等)を確立し、戦略的な方向付けを行うことを主要な役割・責務の一つと捉え、具体的な経営戦略や経営計画等について建設的な議論を行うべきである。 |
| 《心得 3》 社外取締役は、業務執行から独立した立場から、経営陣(特に社長・CEO)に対して遠慮せずに発言・行動することを心掛けるべきである。 |
原則4-7 独立社外取締役の役割・責務 (iv)経営陣・支配株主から独立した立場で、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させること |
| 《心得 4》 社外取締役は、社長・CEOを含む経営陣と、適度な緊張感・距離感を保ちつつ、コミュニケーションを図り、信頼関係を築くことを心掛けるべきである。 |
原則4-13 情報入手と支援体制 取締役・監査役は、その役割・責務を実効的に果たすために、能動的に情報を入手すべきであり、必要に応じ、会社に対して追加の情報提供を求めるべきである。 |
| 《心得 5》 会社と経営陣・支配株主等との利益相反を監督することは、社外取締役の重要な責務である。 |
原則4-3 取締役会の役割・責務(3) 更に、取締役会は、経営陣・支配株主等の関連当事者と会社との間に生じ得る利益相反を適切に管理すべきである。 |
さらに指針は「5つの心得」を受けて、7項目(大項目)にわたる「社外取締役として具体的な行動の在り方」を説いている。具体的には下表のとおりだが、これらの項目の多くも、やはりCGコードなどで既に「望ましい」とされているものと言える(補充原則4-1③のサクセッション・プラン、補充原則4-8①のエグゼクティブ・セッション、補充原則4-12①の審議を活性化する取り組みなど)。
| 社外取締役として 具体的な行動の在り方 |
取り組みのポイント |
| 1 就任時の留意事項 | ・自らの考える社外取締役の役割と、会社が期待する役割をすり合わせ、自身のミッションを認識する |
| 2 取締役会の実効性を高めるための働きかけ | ・取締役会の役割や機能に応じた開催頻度や審議時間、アジェンダセッティングを引き出す ・議案を絞り込み、中長期的な経営戦略や事業ポートフォリオの見直しについて議論する ・非公式な議論の場を持つ、事前説明を求める、任意委員会を設けるなど、議論の活性化を図る |
| 3 指名・報酬への関与の在り方 | ・適切な後継者計画の策定・運用のため、プロセスの客観性・透明性を確保する ・CEO解任プロセスを主体的・主導的に進める ・役員報酬と中長期目標の整合性を確認する |
| 4 取締役会、指名委員会・報酬委員会の実効性評価 | ・インタビューの実施、経営陣へのフィードバックなど、社外取締役が主体的に関与する ・社外取締役自身(一人ひとり)の評価を実施して、社外取締役のサクセッション・プランを考える |
| 5 取締役会以外の場でのコミュニケーション | ・社外役員のみの議論、取締役会以外の非公式な議論、経営陣とのコミュニケーションの場を設ける |
| 6 投資家との対話やIR等への関与 | ・投資家との窓口として、対話内容を取締役会の議論に反映し、投資家に説明責任を自ら果たす |
| 7 情報収集、研修・研鑽 | ・社内外に情報ネットワークを作っておく ・幅広い社会課題につき能動的に情報収集する |
ただし、一部には、多くの企業にとって従来の認識を大きく超える提言も含まれている。例えば「4 取締役会、指名委員会・報酬委員会の実効性評価」で、社外取締役の一人ひとりについて個人評価を実施してサクセッション・プランの策定につなげることとしている点や、「5 取締役会以外の場でのコミュニケーション」で、社外取締役をエンゲージメントの窓口として取締役会と投資家のつなぎ役にすることとしている点などは、現状の日本企業における実務からは相当にかけ離れたものと言えよう。
もっとも、前者については「海外では、社外取締役同士がお互いを評価し合う ピアレビューという仕組みがある」との指摘が、後者については「(社外取締役との)対話の申し入れは外国人投資家からが多い」という実態が、参考資料である「社外取締役の声」の中で紹介されている(43ページ、50ページ参照)。企業や社外取締役としては、少なくとも中期的な課題としては認識しておくべきだろう。
ピアレビュー : 立場や職種が同じ(または近い)者同士(peer=同僚)の間で行われる業務や成果物の評価・検証。




