2020/08/06 社外取締役にもサクセッション・プラン(会員限定)

経済産業省のコーポレート・ガバナンス・システム研究会は7月31日、「社外取締役の在り方に関する実務指針(社外取締役ガイドライン)」(以下、指針)を公表している。この指針は、ガバナンス改革を、例えば“社外取締役の数合わせ”といった「形式」を整える段階から、「実質」的に機能させる段階へと深化させるためには、その中核として社外取締役が本来の役割を発揮することが重要との問題意識に基づき取りまとめたもの。具体的には、社外取締役を対象としたアンケートおよびインタビューを実施し、ベストプラクティスを示している。

まず指針は以下の「社外取締役の5つの心得」を示している。これらは既にコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)が取締役会や独立社外取締役の重要な責務として挙げている事項について、改めて社外取締役の積極的な関与を求めているものと言える。したがって、「5つの心得」の内容そのものには特段の目新しさはない。

社外取締役の5つの心得 CGコードのうち関係する部分
《心得 1》
社外取締役の最も重要な役割は、経営の監督である。その中核は、経営を担う経営陣(特に社長・CEO)に対する評価と、それに基づく指名・再任や報酬の決定を行うことであり、必要な場合には、社長・CEOの交代を主導することも含まれる。
原則4-3 取締役会の役割・責務(3)
取締役会は、独立した客観的な立場から、経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行うことを主要な役割・ 責務の一つと捉え、適切に会社の業績等の評価を行い、その評価を経営陣幹部の人事に適切に反映すべきである。
《心得 2》
社外取締役は、社内のしがらみにとらわれない立場で、中長期的で幅広い多様な視点から、市場や産業構造の変化を踏まえた会社の将来を見据え、会社の持続的成長に向けた経営戦略を考えることを心掛けるべきである。
原則4-1 取締役会の役割・責務(2)
取締役会は、会社の目指すところ(経営理念等)を確立し、戦略的な方向付けを行うことを主要な役割・責務の一つと捉え、具体的な経営戦略や経営計画等について建設的な議論を行うべきである。
《心得 3》
社外取締役は、業務執行から独立した立場から、経営陣(特に社長・CEO)に対して遠慮せずに発言・行動することを心掛けるべきである。
原則4-7 独立社外取締役の役割・責務
(iv)経営陣・支配株主から独立した立場で、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させること
《心得 4》
社外取締役は、社長・CEOを含む経営陣と、適度な緊張感・距離感を保ちつつ、コミュニケーションを図り、信頼関係を築くことを心掛けるべきである。
原則4-13  情報入手と支援体制
取締役・監査役は、その役割・責務を実効的に果たすために、能動的に情報を入手すべきであり、必要に応じ、会社に対して追加の情報提供を求めるべきである。
《心得 5》
会社と経営陣・支配株主等との利益相反を監督することは、社外取締役の重要な責務である。
原則4-3  取締役会の役割・責務(3)
更に、取締役会は、経営陣・支配株主等の関連当事者と会社との間に生じ得る利益相反を適切に管理すべきである。

さらに指針は「5つの心得」を受けて、7項目(大項目)にわたる「社外取締役として具体的な行動の在り方」を説いている。具体的には下表のとおりだが、これらの項目の多くも、やはりCGコードなどで既に「望ましい」とされているものと言える(補充原則4-1③のサクセッション・プラン、補充原則4-8①のエグゼクティブ・セッション、補充原則4-12①の審議を活性化する取り組みなど)。

社外取締役として
具体的な行動の在り方
取り組みのポイント
1 就任時の留意事項 ・自らの考える社外取締役の役割と、会社が期待する役割をすり合わせ、自身のミッションを認識する
2 取締役会の実効性を高めるための働きかけ ・取締役会の役割や機能に応じた開催頻度や審議時間、アジェンダセッティングを引き出す
・議案を絞り込み、中長期的な経営戦略や事業ポートフォリオの見直しについて議論する
・非公式な議論の場を持つ、事前説明を求める、任意委員会を設けるなど、議論の活性化を図る
3 指名・報酬への関与の在り方 ・適切な後継者計画の策定・運用のため、プロセスの客観性・透明性を確保する
・CEO解任プロセスを主体的・主導的に進める
・役員報酬と中長期目標の整合性を確認する
4 取締役会、指名委員会・報酬委員会の実効性評価 ・インタビューの実施、経営陣へのフィードバックなど、社外取締役が主体的に関与する
・社外取締役自身(一人ひとり)の評価を実施して、社外取締役のサクセッション・プランを考える
5 取締役会以外の場でのコミュニケーション ・社外役員のみの議論、取締役会以外の非公式な議論、経営陣とのコミュニケーションの場を設ける
6 投資家との対話やIR等への関与 ・投資家との窓口として、対話内容を取締役会の議論に反映し、投資家に説明責任を自ら果たす
7 情報収集、研修・研鑽 ・社内外に情報ネットワークを作っておく
・幅広い社会課題につき能動的に情報収集する

ただし、一部には、多くの企業にとって従来の認識を大きく超える提言も含まれている。例えば「4 取締役会、指名委員会・報酬委員会の実効性評価」で、社外取締役の一人ひとりについて個人評価を実施してサクセッション・プランの策定につなげることとしている点や、「5 取締役会以外の場でのコミュニケーション」で、社外取締役をエンゲージメントの窓口として取締役会と投資家のつなぎ役にすることとしている点などは、現状の日本企業における実務からは相当にかけ離れたものと言えよう。

もっとも、前者については「海外では、社外取締役同士がお互いを評価し合う ピアレビューという仕組みがある」との指摘が、後者については「(社外取締役との)対話の申し入れは外国人投資家からが多い」という実態が、参考資料である「社外取締役の声」の中で紹介されている(43ページ50ページ参照)。企業や社外取締役としては、少なくとも中期的な課題としては認識しておくべきだろう。

ピアレビュー : 立場や職種が同じ(または近い)者同士(peer=同僚)の間で行われる業務や成果物の評価・検証。

2020/08/05 リスクマネジメントとしての株主総会開催地の削除

一説には、感染症流行の一因は気候変動にあると言われている。気候変動が加速する中、今後新たな感染症が発生する可能性は否定できない。また、気候変動は豪雨による水害を毎年のように引き起こしており、さらに近い将来には大地震の発生も予想される。会社経営上、リスクマネジメントは最も重要な課題になったと言える。

今般のコロナ禍が浮き彫りにしたリスクの一つは、「会場型」の株主総会の開催であろう。新型コロナウイルス感染防止のため、多くの企業が来場自粛を呼び掛けたり、株主総会のインターネット配信などに取り組んだりしたが、不測の事態に備え実施しておきたいのが、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は
ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2020/08/05 リスクマネジメントとしての株主総会開催地の削除(会員限定)

一説には、感染症流行の一因は気候変動にあると言われている。気候変動が加速する中、今後新たな感染症が発生する可能性は否定できない。また、気候変動は豪雨による水害を毎年のように引き起こしており、さらに近い将来には大地震の発生も予想される。会社経営上、リスクマネジメントは最も重要な課題になったと言える。

今般のコロナ禍が浮き彫りにしたリスクの一つは、「会場型」の株主総会の開催であろう。新型コロナウイルス感染防止のため、多くの企業が来場自粛を呼び掛けたり、株主総会のインターネット配信などに取り組んだりしたが、不測の事態に備え実施しておきたいのが、株主総会開催地の規定を削除する定款変更だ。

旧商法では株主総会開催地が制限されていたため(本店所在地またはその隣接地での開催)、定款で確認的に総会開催地の定めを置くのが一般的だった。また、株主総会を本店所在地またはその隣接地以外の場所で開催するには、定款で「別段の定め」が必要であったことから、「株主総会を本店所在地またはその隣接地以外で開催できる」旨を定めている会社も見受けられた。

しかし、会社法の制定により上記制限はなくなった。そこで、会社法改正に伴う定款変更の際に、株主総会開催地に関する定款規定も削除した会社が相当数あったが、一部の会社は引き続き当該規定を置いている。当該規定が定款にあると、株主総会開催地について制約を受けてしまうことになる。自社の定款を確認し、まだ当該規定があった場合には、基本的には削除すべきだ。

今年6月の株主総会シーズンでは、株主総会開催地の規定を削除等する定款変更を行った会社が4社確認された。4社のうち、スパークスグループ、兼松エレクトロニクス、ヘリオステクノホールディングは定款に定める総会開催地の規定を削除している。このように、当該規定を単純に削除するだけの対応でも足りるが、削除以外の方法も考えられなくはない。

その一例が日清食品ホールディングスだ。同社は、「大阪府において開催する」との総会開催地の規定は残したうえ、「大阪府において開催することが困難と認められるときは、他の地域を開催地とすることができる」旨の但し書きを追加している。

会社法制定時に、あえて意図的に総会開催地の定めを存続させた会社の中には、例えば会社発祥の地への思いなど、総会開催地の定めを置くことに重要な意味が込められていることもある。そのような場合には、同社のような対応も参考になろう。

なお、各社の定款変更議案は、剰余金の配当等の取締役会授権(2020年7月28日のニュース『剰余金配当の授権のための定款変更で「批判を受けにくい」説明の仕方』参照)などとは異なり機関投資家が反対票を投じる理由が乏しいため、4社とも90%を超える高い賛成率で可決・承認されている。

2020/08/04 JASDAQ新規上場会社はCGコードがフル適用に(会員限定)

コロナ禍で公表が延期されていた東証の新市場の詳細が明らかになった。市場再編は、まず「既存市場を前提にした制度改正」(第一次制度改正)を行い、2022年4月の新市場区分への移行に向け、「新市場区分の上場基準の詳細」や「既上場会社の移行プロセスの詳細」を定める第二次制度改正を行うという“2段階”の改正ステップを踏むこととされた。7月29日には第一次制度改正に係る改正案が示されている。東証は2020年9月11日までパブリックコメントを募集し、同年11月1日から施行する予定。

第一次制度改正案は「新規上場等に係る形式基準の緩和」「上場廃止基準の緩和」「新興市場の規制強化」を3本柱としている。上述のとおり「既存市場を前提にした」制度改正とは言っても、改正事項の多くが新市場でも引き続き適用されることを見据えたものとなっている。

まず、「形式基準の緩和」の内容は下表のとおり(東証が2020年7月29日に公表した「【参考】資本市場を通じた資金供給機能向上のための上場制度の見直しについて(市場区分の再編に係る第一次制度改正事項)(サマリー)」の2ページより引用)。
51786

ポイントは、東証二部とJASDAQスタンダードの両市場の「新規上場基準」が揃えられるということだ。これはJASDAQスタンダード市場の既上場会社の大部分、およびプライム市場(仮称。以下同)に移行しなかった本則市場(東証一部・二部)上場会社が、市場再編により同じ「スタンダード市場(仮称。以下同)」に入ることになるため。また、批判が多かった「マザーズ経由で市場第一部に市場変更する場合の緩和要件(時価総額40億円で市場変更可能)」は撤廃され、マザーズ経由で東証一部に市場を変更する場合でも、東証一部への新規上場と同一の基準(時価総額250億円が必要)が適用されることになった。なお、2013年の東証・大証の市場統合以来、JASDAQグロースへの新規上場が1社もないことを踏まえ、JASDAQグロース市場への新規上場は停止される。

上場廃止基準のうち債務超過に関する基準も変更される。現在は「債務超過の状態となった場合において、1年以内に債務超過の状態でなくならなかったとき(原則として連結貸借対照表による)」という基準となっているが、改正案では、「上場会社が事業年度の末日に債務超過の状態となった場合は、その改善に向けた計画を当該事業年度の末日から起算して3ヶ月以内に開示する」ことを求めつつ、上場会社が債務超過に関する上場廃止基準及び指定替え基準に抵触した場合であっても、「相応の市場評価を得ている場合(時価総額が1,000億円以上)」「法的整理、私的整理、地域経済活性化支援機構の再生支援により債務超過でなくなることを計画している場合」には「1年以内」という改善期間の制限を設けないこととする。

「新興市場の規制強化」もかなり踏み込んだ内容となっている。まず、2020年11月1日以降JASDAQスタンダード市場への新規上場等に係る申請を行う会社から、CGコードの全原則(基本原則・原則・補充原則)について、各原則を実施するのか、実施しない場合にはその理由を「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」において説明することが必要とされる。これは上述した東証二部とJASDAQスタンダードの両市場の新規上場基準が揃えられることを踏まえたもの。すなわち、JASDAQスタンダード市場の既上場会社の多くが、市場再編によりプライム市場に移行しなかった本則市場上場会社と同じスタンダード市場に移行することを見越して、コーポレートガバナンス・コードの適用についても本則市場と平仄を合わせる。なお、JASDAQスタンダード市場の既上場会社に対して適用されるCGコードの原則の範囲(現在は基本原則のみ)についても、2020年中に公表を予定する「市場区分の再編に係る第二次制度改正事項」において見直すとしており、原則・補充原則の全部(または一部)にまで拡張される可能性が高い。

また、上場してすぐに業績見通しを下方修正する会社が相次いだことが問題視されて来たマザーズ市場については、上の表のとおり形式基準が緩和される一方で、新市場への移行を見据えた規制強化が図られる。まず、11月1日以降にマザーズへの上場を申請する会社には「事業計画及び成長可能性に関する事項」の提出と継続開示を求めることとし、その記載内容も公表された(暫定版についてはこちらを参照)。「事業計画及び成長可能性に関する事項」は、新規上場日の開示に加えて、少なくとも1事業年度につき1回以上の頻度で、進捗状況を反映した最新の内容を継続開示することが求められる。なお、既存のマザーズ市場の上場会社は、2021年 9月~12月に予定している市場選択手続においてグロース市場(仮称)を選択した場合、その時点で「事業計画及び成長可能性に関する事項」を提出・開示するとともに、2022年4月の新市場区分への移行後も1事業年度につき1回以上の頻度で更新をしていくこととなる。

このほか、全市場の新規上場会社を対象に、新規上場申請および上場審査において提出した書類に虚偽の記載があり、本来なら上場審査基準に適合していなかったことが明らかになった場合には、1年以内に新規上場審査に準じた上場適格性の審査に適合しなければ、上場を廃止するとしている。

2020/08/03 ISS、社外取締役1/3基準の全面適用を検討

日本シェアホルダーサービス株式会社
シニアアナリスト 水嶋 創

議決権行使助言会社最大手Institutional Shareholder Services Inc.(以下、ISS)は、7月29日付でISS Benchmark Policy Surveyを開始した。このサーベイは、議決権行使助言基準の改定を検討するにあたって、機関投資家等の意見を調査する目的で行われるものである。

本サーベイにおいて、日本基準に関する設問は以下の3つとなっている。・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は
ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2020/08/03 ISS、社外取締役1/3基準の全面適用を検討(会員限定)

日本シェアホルダーサービス株式会社
シニアアナリスト 水嶋 創

議決権行使助言会社最大手Institutional Shareholder Services Inc.(以下、ISS)は、7月29日付でISS Benchmark Policy Surveyを開始した。このサーベイは、議決権行使助言基準の改定を検討するにあたって、機関投資家等の意見を調査する目的で行われるものである。

本サーベイにおいて、日本基準に関する設問は以下の3つとなっている。

① 取締役会の独立性
指名委員会等設置会社と監査等委員会設置会社に適用している社外取締役1/3基準を監査役設置会社にも適用するべきか。(賛否を問う設問)

② 政策保有による不適切な資本配分
政策保有株式の純資産に占める割合が著しく大きな企業の経営トップの再任に反対行使することは妥当と考えるか。(賛否に加え、「著しく大きい」の水準を純資産に対する割合として5%、10%、20%から選択させる設問)

③ 取締役選任
取締役選任の際に考慮すべき項目である、多様性(例えば、女性取締役選任の有無)、取締役職の過度の兼任、過度の在任期間等について緊急度の高いものはどれか。(項目ごとに高、中、低を選択させる設問)

まず注目すべきは①の設問であろう。ISSの現行基準では、指名委員会等設置会社と監査等委員会設置会社に対しては1/3の社外取締役の選任を求めている一方、監査役設置会社に対しては2名以上の社外取締役の選任を求め、これに満たない場合は経営トップ(会長・社長)の選任に反対推奨をすることとしている。本設問は、ISSが社外取締役1/3基準の「全上場企業」に対する適用を検討していることを示唆するものと言える。国内でも三菱UFJ信託銀行や三井住友トラスト・アセットマネジメントなどが既に1/3以上の社外取締役の選任を求めている中、海外機関投資家の多くが利用するISSが基準を変更すればその影響は大きなものとなろう。

②については、昨年のサーベイでもほぼ同一の設問があり、機関投資家等から多くの賛同が集まっていた。ISSは引き続き、政策保有株式の多い企業の経営トップの選任に反対推奨するとの基準導入を検討していると見られる。なお、ISSに次ぐ大手議決権行使助言会社のグラスルイスは、2021年より、政策保有株式が純資産の10%を超える場合には原則として会長等の選任に反対推奨することを既に公表している(2019年12月11日のニュース「グラスルイスが2020年版ガイドライン公表、ISSが見送った政策保有株式のポリシー導入」参照 引用:上場会社役員ガバナンスフォーラム)。

③については、①②と異なり、具体的な基準改定を念頭においた設問ではないため、‟将来の改定“に向け、機関投資家等の意向を確認する意味合いが強いと考えられるものの、特に「多様性」に関しては、すでにグラスルイスや米ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズなどが、日本企業に対して女性取締役の選任を求めており、機関投資家の関心が高い項目であると思われる(ジェンダー・ダイバーシティに関する米ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズの記事は2020年3月23日のニュース『日本企業の女性取締役増加も、「割合」ではグローバル水準に見劣り』参照 引用:上場会社役員ガバナンスフォーラム)。

本サーベイは、議決権行使助言基準の改定の前段階として位置づけられるものの、仮に機関投資家の賛同が多かったとしても、直ちに基準が改定されることを意味するものではない。また、仮に基準が改定される場合でも、特にその影響度合いが大きいと予想される場合などは、その発効までに一定の猶予期間が設定されることもある。それでも、ISSの影響力の大きさを考えれば、企業にとって本年のサーベイに①の設問が置かれた意味は小さくない。まだ本年の株主総会シーズンが終わったばかりではあるものの、来年以降の株主総会に向け、ISSの基準改定の行方を今後も注視していく必要がある。

2020/07/31 【役員会 Good&Bad発言集】資本コストを意識した経営(会員限定)

<解説>
目標ROEを定めた後の行動が重要

周知のとおり、伊藤レポートが、企業が目標とすべきROEを8%とし、ISSが過去5年の平均ROEが5%を下回る企業の経営トップ(社長、会長)である取締役の選任議案に反対する方針を打ち出して以来、目標ROEを明示する上場会社が増加しています。その背景には、本則市場上場会社は、コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の原則5-2で、資本コストを意識した経営の実践を求められていることも指摘できます。

【原則5-2.経営戦略や経営計画の策定・公表】
経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人材投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである。

このCGコード原則5-2は、2018年6月1日の改訂により新たに「資本コスト」の用語が追加されました。CGコード原則5-2のコンプライ率は、本則市場全体で81.1%(一部上場会社で83.6%、二部上場会社で69.9%)となっており(東京証券取引所が2019年11月に公表した「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況の集計結果(2019年7月時点)」を参照)、CGコード原則5-2をエクスプレインにとどめる本則市場場会社は少数派となっており、コンプライに向けての取組みを検討せざるを得ない状況と言えます。

CGコード原則5-2は、収益力・資本効率等に関する目標を経営計画に記載するだけでコンプライできるというものではありません。資本コストを意識しつつ経営計画をたて、その実現のための施策を検討し、実行に移し、必要に応じて経営計画を修正するというPDCAサイクルを回すことが必要になってきます。

資本コストを意識した経営は、超大企業ではもはや当然の経営手法になっていますが、企業規模が小さくなればなるほど十分に普及していないのが現状です。経済産業省が実施した「開示、IR等についてのニーズ調査及びAI等を活用した企業価値評価の動向に関する調査」によると、下図のとおり、「資本コストを意識しており、管理指標として使用している」上場会社は、時価総額が1兆円以上の上場会社では8割を超えているのに対し、時価総額が1000億円以上3000億円未満の上場会社では半数程度であり、時価総額1000億円未満の上場会社では3割に過ぎないという結果になっています(報告書の55ページより引用)。
51729a
(小:時価総額1,000億円未満、中:時価総額1,000億円以上3,000億円未満、大:時価総額3,000億円以上1兆円未満、超大:時価総額1兆円以上)

それでは、資本コストを意識した経営を実践している上場会社では、どのような数値を資本コストと紐づけているのでしょうか。上で紹介した報告書では、下表のとおりROEがダントツで多く84%となっており、次いでROIC(29%)、ROA(28%)となっています(報告書の57ページより引用。目標ROEの設定については2015年12月21日のニュース「目標ROEの考え方」、ROEの利点は「(新用語・難解用語)サステイナブル・グロース・レート」、ROEとROICの比較は「(新用語・難解用語)ROIC」を参照)。また、資本コストを活用している場面としては、投資意思決定のハードルレートが最も多く(52%)、資産の効率的な活用方法の検討(43%)や事業部門の予算策定・経営管理(40%)が続いています。一方、資本コストを既存事業等からの撤退検討要素として活用している上場会社は24%に過ぎず、多くの企業で資本コストを投資意思決定のハードルレートとしては利用するものの、事業継続(撤退意思決定)のハードルレートとしては活用できていない様子がうかがえます。

51729b

資本コストを意識した経営を実践できていない上場会社としては、まず資本コストを把握する必要があります(資本コストの把握方法については【2018年7月の課題】資本コストの把握 や2018年4月16日のニュース「改訂CGコードで把握が求められる「資本コスト」、投資家にはどう説明する?」や「【WEBセミナー】誰にでもわかる「資本コスト」の考え方」を参照)。その結果、ROEを資本コストと紐づけることとなった場合、単に目標ROEを定めるだけでは何の意味もなく、どうしたら当該目標ROEを実現できるかに知恵を絞る必要があります。そのための施策としては目標ROEを紐づけた資本コストを、投資意思決定のハードルレート、事業部門の予算策定・経営管理(2019年6月17日のニュース「事業ポートフォリオ見直しで、事業単位毎に資本コストを設定する企業も」を参照)、政策保有株式の継続保有基準(2019年7月22日のニュース「政策保有株式の定量的な保有効果の開示例」を参照)、資金調達(資本コストと資金調達の関係については【2018年12月の課題】最適な資金調達方法の決定 を参照)などに利用することで、資本コストを意識した経営行動を実現していかなければなりません。

なお、経営方針・経営戦略等または経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等を設けている場合、有価証券報告書の【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】において、当該経営方針・経営戦略等または当該指標等に照らして、経営者が経営成績等をどのように分析・検討しているかを記載するなど、具体的に、かつ、分かりやすく記載することも必要になることにも留意が必要です(企業内容等の開示に関する内閣府令三号様式記載上の注意(12)で準用する第二号様式記載上の注意(32))。

さて、以上の解説をご覧いただければ、誰の発言がGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。

<正解>
GOOD発言はこちら

社外取締役C:「資本コストとしてROEが適切かどうかという議論はありますが、投資意思決定のハードルレートや事業部門の予算策定に資本コストを活用するのは、もはや当然と言えます。中期経営計画が会社の方向性を示すものである以上、資本コストを意識した経営の実現のために、中期経営計画に収益力・資本効率等に関する目標を提示することには大賛成です。」
コメント:社外取締役Cの発言は、資本コストとしてROEの適切性((新用語・難解用語)ROICを参照)に触れたうえで、資本コストを意識した経営の内容を理解した発言になっており、Goodです。

BAD発言はこちら
取締役A:
「目標ROEを達成できるかは利益次第であり、従来の中期経営計画でも利益の金額の目標を定めていた以上、あえてROEの目標を定めることに意味はないのではないでしょうか。」
コメント:利益の金額の目標を設定することはもちろん重要ですが、その実現に向け経営活動を律するための手法として資本コストを意識した経営を実践することはCGコード原則5-2でも求められており、もはや上場会社では当然に求められる経営手法となっています。取締役Aの発言は、そういった上場会社を取り巻く環境変化に対しての感度が鈍いBad発言です。
取締役B:
「目標ROEを定めさえすれば、当社がコンプライできていないコーポレートガバナンス・コードの原則5-2をクリアできるので、ぜひとも定めるべきです。」
コメント:CGコード原則5-2には、単に「目標ROEを定めること」だけが記載されているわけではありません。CGコード原則5-2では、資本コストを意識しつつ経営計画をたて、その実現のための施策を検討し、実行に移し、必要に応じて経営計画を修正するというPDCAサイクルを回すことが求められています。取締役Bの発言は、CGコードへの理解が不十分なBad発言です。

2020/07/31 【役員会 Good&Bad発言集】資本コストを意識した経営

東証一部上場企業のA社の取締役会では、今まで資本コストを意識した経営をできていなかったことから、まずは次の中期経営計画でROEの目標値を定めるかどうかついて議論が行われています。下記の3人の発言のうち、誰の発言がGood発言でしょうか?

取締役A:「目標ROEを達成できるかは利益次第であり、従来の中期経営計画でも利益の金額の目標を定めていた以上、あえてROEの目標を定めることに意味はないのではないでしょうか。」

取締役B:「目標ROEを定めさえすれば、当社がコンプライできていないコーポレートガバナンス・コードの原則5-2をクリアできるので、ぜひとも定めるべきです。」

社外取締役C:「資本コストとしてROEが適切かどうかという議論はありますが、投資意思決定のハードルレートや事業部門の予算策定に資本コストを活用するのは、もはや当然と言えます。中期経営計画が会社の方向性を示すものである以上、資本コストを意識した経営の実現のために、中期経営計画に収益力・資本効率等に関する目標を提示することには大賛成です。」

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

解説と正解はこちらをクリック
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2020/07/31 【2020年8月の課題】自社の株主総会における各議案の賛成率レビュー

2020年8月の課題

コロナ禍で定時株主総会を延期したり継続会を開催したりする企業が出るなど異例づくめとなった今年の株主総会シーズンですが、ほぼすべての2020年3月決算企業の定時株主総会が終了し、臨時報告書(議案ごとの賛成率)も出揃いました。
そこで、自社の株主総会における各議案の賛成率について、他社における同種議案の賛成率や自社の前年の賛成率との比較を踏まえて分析してみてください。
なお、分析にあたっては下表(TOPIX採用企業の本年6月総会付議議案状況と公表賛成率)も参考にしてください。

51750

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

模範解答を見る
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから