2020/02/07 新型コロナウイルス、「感染の疑いがある者」への対応(会員限定)

世界中を恐怖に陥れている新型コロナウイルス感染症が「指定感染症」に認定された。厚生労働省の発表によれば、国内では(2019年2月7日現在)25人の感染者が確認されている。企業としても早急に対応を検討し、実行するべき時期に来ていると言えるだろう。

まず身近なところでは、従業員全員に向けて、インフルエンザ等の一般的な感染症予防対策と同様に「手洗い・うがい・咳エチケット(マスクの配布、着用推奨など)の徹底」を呼び掛けておきたい。この呼び掛けの最大の目的は言うまでもなく職場で感染症が蔓延しないようにすることにあるが、会社が従業員の健康を気遣っていることをアピールする効果も決して小さくない。会社が従業員を大切に思う姿勢は、会社へのロイヤリティーを高めることにつながる。

仮に、潜伏期間と言われる「14日以内」に中国・湖北省に滞在していた従業員や湖北省滞在者と濃厚に接触した従業員については、保健所に連絡したうえで新型コロナウイルスに対応できる医療機関を受診させるべきだ。その結果、万が一感染していることが確認されたら、感染症法により都道府県知事から就業制限を受けることになる。都道府県知事からの就業制限ともなると、もはや会社の責任が及ばない不可抗力の出来事であることから、就労しなかった日については、「ノーワーク・ノーペイの原則」により、従業員との間で特約(就業規則を含む労働契約における定め)がない限り、無給で差し支えない。

対応が難しいのは、「感染の疑いがある」従業員(例えば、家族が湖北省滞在者と濃厚接触していた従業員など)への対応だ。こうした従業員については、本人が「休みたい」と言っている場合には欠勤としてもよいし、有給休暇を取らせることとしてもよい。一方、本人が就労を希望しているのに会社がそれを拒否した場合には、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」ということになり、原則として通常の賃金、たとえ特約(就業規則を含む労働契約における定め)があったとしても通常の6割以上の休業手当を支払わなければならない。とはいえ、他の従業員に感染が広がるリスクを考えれば、このような従業員は賃金を支払ってでも出勤させない方が得策だろう。また、実際に感染・発症している従業員が無理して出勤しようとすることを防ぐためにも、賃金や休業手当の支払いを惜しむべきではない。

もし在宅勤務が可能な業態であれば、それが本人と会社の双方が最も納得できる解決策と言えそうだ。在宅勤務の導入を検討中の企業では、在宅勤務を試験的に実施してみる良いきっかけとなるかもしれない。

2020/02/07 勉強会「エーザイの招集通知作成プロセスとコーポレートガバナンス」 開催のお知らせ

※上場会社役員ガバナンスフォーラムの会員は参加費が割引になります!

日本コーポレートガバナンス研究所(JCGR)の勉強会 第2回「エーザイの招集通知作成プロセスとコーポレートガバナンス」が開催されます。
※第1回はこちら

講師:松岡 陽一 氏 エーザイ株式会社 総務・環境安全部株式G統轄部長
開催日時:2020年3月6日(金)、16:00〜17:30(講演40分、フリーディスカッシ
ョン50分)

上場会社役員ガバナンスフォーラムの会員は参加費が割引(5千円→3千円)に
なります。
定員30名となっておりますので、参加ご希望の方はお早目にお申し込みください。

詳細はこちら

お申し込みは、お名前、会社名等、上場会社役員ガバナンスフォーラムの会員である旨(参加費の割引のため)を記載の上、日本コーポレートガバナンス研究所 藤島様 fujishima@jcgr.org にメールをお送りください。

どうぞよろしくお願い致します。

2020/02/07 <上場会社役員ガバナンスフォーラム会員 特別参加枠>日本コーポレートガバナンス研究所(JCGR)特別セミナー「第17回 JCGR コーポレートガバナンス調査 報告会」

通算17回を数える日本コーポレートガバナンス研究所(JCGR)のコーポレートガバナンス調査(調査対象165 社)の報告会が開催されます。
上場会社役員ガバナンスフォーラム会員の皆様には、JCGRより特別に参加枠をいただいております。

【開催日時】
2020年3月2日(月)、15:00〜17:00
(講演60 分、コーヒーブレーク10 分、Q&A セッション50 分)
【開催場所】
日本外国人特派員協会(東京都千代田区丸の内3-2-3 丸の内二重橋ビル5 階)
マルチパーパスルーム
※地下鉄直結・地下のレストランROTI 前のエレベータが便利です。
アクセスはこちら

詳細はこちら

お申し込みは、お名前、会社名等、上場会社役員ガバナンスフォーラムの会員である旨を記載の上、日本コーポレートガバナンス研究所 藤島 様 fujishima@jcgr.org にメールをお送りください。

どうぞよろしくお願い致します。

2020/02/06 多角化経営に求められる「事業ポートフォリオ開示」の充実

2020年2月4日のニュース『経産省、CGSガイドライン等と“並列”の「事業再編に関する実務指針」取りまとめへ』でお伝えしたとおり、同省は今年6月末を目途に「ノンコア事業」の切り離し促進を目的とした「事業再編に関する実務指針」を取りまとめる方針だが、ノンコア事業を抱える多角化経営に対しては(特に欧米の)投資家から批判的な意見が多い一方で、日本企業の経営者の間では意見が分かれているのが現状となっている。

欧米では「コングロマリット化することにより、経営環境の変化に対してより脆弱になる」との考え方が一般的となっており、経営者も株主からの圧力を受ける形で、「事業ポートフォリオ」を管理し、企業を巨大化させることよりも、得意分野に経営資源を集中させて効率的に経営することに注力している。日本企業の経営者からも、「事業の数が多すぎると、事業管理の能力を超えてしまう。事業の数と事業特性の分散のバランスから、最適ポイントがある。」「コングロマリット経営は、10年、20年前の経営スタイル。良いところもあると思うが、コングロマリットで平準化する経営では、資本市場からの期待に応えられない。儲かるところに徹底的に集中して、リターンを出して、株価をあげていく、というプレッシャーがある。」といった欧米に近い意見が聞かれる一方、・・・

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2020/02/06 多角化経営に求められる「事業ポートフォリオ開示」の充実(会員限定)

2020年2月4日のニュース『経産省、CGSガイドライン等と“並列”の「事業再編に関する実務指針」取りまとめへ』でお伝えしたとおり、同省は今年6月末を目途に「ノンコア事業」の切り離し促進を目的とした「事業再編に関する実務指針」を取りまとめる方針だが、ノンコア事業を抱える多角化経営に対しては(特に欧米の)投資家から批判的な意見が多い一方で、日本企業の経営者の間では意見が分かれているのが現状となっている。

欧米では「コングロマリット化することにより、経営環境の変化に対してより脆弱になる」との考え方が一般的となっており、経営者も株主からの圧力を受ける形で、「事業ポートフォリオ」を管理し、企業を巨大化させることよりも、得意分野に経営資源を集中させて効率的に経営することに注力している。日本企業の経営者からも、「事業の数が多すぎると、事業管理の能力を超えてしまう。事業の数と事業特性の分散のバランスから、最適ポイントがある。」「コングロマリット経営は、10年、20年前の経営スタイル。良いところもあると思うが、コングロマリットで平準化する経営では、資本市場からの期待に応えられない。儲かるところに徹底的に集中して、リターンを出して、株価をあげていく、というプレッシャーがある。」といった欧米に近い意見が聞かれる一方、「シナジーについては、最低限の基幹的な技術程度だが、我々の会社はそれぞれの事業部門が独立採算で、運営方法もお客さんも地域的なエクスポージャーもビジネスの段階も異なる。そういった異なったものをいろいろと入れることにより安定した経営が可能となっている。」「基準を達成できなかったからといって直ちに撤退というわけではなく、それだけではない違った判断基準が入ってくる。ゴーイングコンサーンでいくか、すぐに損切りするかどうかは、色々な要素を比較して決める。」といった多角化経営に肯定的な意見も聞かれる(経済産業省によるヒヤリング結果(現時点では未公表)より)。

どちらが正解かは一概には言えないが、(特に欧米の)投資家が多角化経営を否定的に評価する根拠は揃っている。まず、日本企業は企業年齢が古いほど利益率が低下するというデータがある。1978年~2015年までの日米の上場企業(金融・保険・不動産業を除く)のROA(総資本利益率:ここでの利益は営業利益を指す)を集計したデータ(早稲田大学の清水洋教授らによる)を見ると、日本企業のROAは約10年でピーク(11%程度)を迎え、その後は企業年齢の経過とともに急激に低下(50年ほどで4%を切り、その後は膠着状態となる)しているのに対し、米国企業のROAは当初から8~12%程度で推移し、100年を超えても10%を超える水準を維持している。その要因として清水教授らは、米国企業は高収益性を求める株主からの圧力に晒されていることが大胆な事業転換にもつながってきた一方、日本企業は「長期的な視点」という名のもとに、大胆な事業転換への重要な意思決定を後回しにしてきた可能性を指摘している。また、東証1部の主要企業では、事業セグメントの数が多いほどPER(株価収益率)が低くなる傾向にあることから、「不採算事業を切り離し、中核事業に経営資源を集中することが企業価値向上につながる」との指摘(SMBC日興証券チーフ株式ストラテジスト)もある。さらに、コーポレートファイナンス分野の多くの研究で、多角化企業は同じ産業で活動する専業企業に比べて市場から低く評価される傾向が繰り返し確認されている。

ROA : Return On Assets =総資産利益率(利益/総資産)。実務上、ROAの利益には「営業利益」もしくは「事業利益」を使うことが多い。これは、総資産に対応する利益は、営業利益あるいは事業利益であるという考え方による。
PER : Price Earnings Ratio=株価収益率(株価/1株当たり当期純利益)。株価が「1株当たりの当期純利益」の何倍になっているかを示す。これにより、利益から見て株価が割安か割高かを判断することができる。

こうした中、日本企業においても、1990年代末から「選択と集中(事業分野の絞り込み)」が模索されてきたものの、上記で引用した2020年2月4日のニュースでも紹介したとおり、いまだ十分とは言えない。日本企業のコングロマリット・ディスカウントを投資家が注視する中、今後は「事業ポートフォリオ」に関する開示の充実を図り、多角化経営の意義について投資家の理解を得ていく必要があろう。

「事業ポートフォリオ」に関する開示で日本企業に足りない部分として、まず「事業ポートフォリオ戦略・方針」がある。経済産業省が実施した「2019年度 コーポレートガバナンスに関するアンケート調査(速報版)」(現時点では未公表)によると、事業ポートフォリオ戦略・方針について公表している上場企業は51%(有効回答数:392社)にとどまっている。

また、事業セグメント情報の任意開示(有価証券報告書における記載事項とは別途、任意で追加情報を開示すること)を実施していない企業は65%(有効回答社数:745社)と大半を占めており、開示を行っている企業でも、開示項目は「売上総利益(粗利)」が12%と最も多く、資本効率性に関する指標であるROEは4%、ROA、ROICはともに2%にとどまっている。事業セグメントごとに資本コストを算出している企業に至ってはわずか6%(有効回答数:752社)しかなく、企業全体の資本コストをそのまま活用している企業が7割を占めている(ちなみに、企業全体の資本コストも把握していない企業も2割あった)。日本企業は、事業セグメントごとの資本効率性に関する指標を開示により積極的に取り組む必要があろう。事業部門・セグメントごとに整備している財務諸表は、損益計算書を作成している企業が90%(有効回答社数:728社)に上る一方、貸借対照表、キャッシュフロー計算書まで整備している企業はそれぞれ37%、20%にとどまっている。この状況は昨年度からほぼ変わっていない。こちらも要改善点の一つと言える。

ROE : Return On Equity=株主資本利益率(利益/株主資本)

多角化経営の実態は元々外部(投資家)から見えにくいだけに、それを上回るメリットを企業側から積極的に発信していく必要がありそうだ。

2020/02/05 有報のCG状況の虚偽記載に初の課徴金、上場会社が今とるべき対策

周知のとおり、2018年6月に金融庁から公表された「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(以下、「WG報告」)により有価証券報告書(以下、有報)における記述情報(*1)の充実を図る方針が固まり、この方針を踏まえた改正開示府令が2019年1月31日に公布・施行されたところだ。改正開示府令は既に2020年3月期の有報から全面適用(*2)されているが、それに先立ち2019年3月19日には「記述情報の開示の好事例集」と「記述情報の開示に関する原則」が公表されている(「好事例集」と「開示原則」については2019年3月22日のニュース『金融庁が「好事例集」と「開示原則」公表、記述情報充実に向けた環境整う』参照)。さらに金融庁は、2019年12月20日に「記述情報の開示の好事例集」を更新するとともに、2020年2月5日から「記述情報の開示の充実に向けた研修会」を全国で開催し、記述情報の開示の充実を支援するなど上場会社の開示支援に力を入れている。

*1 有報の第一部【企業情報】の第2【事業の状況】における【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【事業等のリスク】【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】(いわゆるMD&A)、第4【提出会社の状況】の【コーポレート・ガバナンスの状況等】等の記述情報を指す。記述情報は、「企業の財務状況とその変化、事業の結果を理解するために必要な情報であり、①投資家が経営者の視点から企業を理解するための情報を提供し、②財務情報全体を分析するための文脈を提供するとともに、③企業収益やキャッシュ・フローの性質やそれらを生み出す基盤についての情報提供を通じ将来の業績の確度を判断する上で重要」(WG報告2ページ)とされている。
*2 【コーポレート・ガバナンスの状況等】の【コーポレート・ガバナンスの概要】において任意で設置する委員会の「権限」や「構成員全員の氏名」を記載することを求める改正、【株式の保有状況】において保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式についての保有方針および保有の合理性を検証する方法を記載することを求める改正など、先行して2019年3月末決算の有報から開示が求められている改正項目もある(2019年3月末決算の有報から適用される改正項目の内容や実際の開示の分析結果については、2019年2月15日のニュース「社外役員、報酬、政策保有等今3月期から必要な開示への金融庁の考え方」や2020年1月8日【特集】改正開示府令の有報記載分析(役員報酬、政策保有株式 参照)。

MD&A : 「Management Discussion & Analysis」の略で、「経営陣による財政状態および経営成績の検討と分析」と訳される。有価証券報告書では【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】欄に記載する。

金融庁が力を入れているのは「支援」だけではない。先月(2020年1月)31日には有報【コーポレート・ガバナンスの状況等】の虚偽記載で初の課徴金事例が公表されており、改正開示府令が全面適用される2020年3月期の有報の開示に先立ち“鞭”を振るう姿勢も示している。・・・

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2020/02/05 有報のCG状況の虚偽記載に初の課徴金、上場会社が今とるべき対策(会員限定)

周知のとおり、2018年6月に金融庁から公表された「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(以下、「WG報告」)により有価証券報告書(以下、有報)における記述情報(*1)の充実を図る方針が固まり、この方針を踏まえた改正開示府令が2019年1月31日に公布・施行されたところだ。改正開示府令は既に2020年3月期の有報から全面適用(*2)されているが、それに先立ち2019年3月19日には「記述情報の開示の好事例集」と「記述情報の開示に関する原則」が公表されている(「好事例集」と「開示原則」については2019年3月22日のニュース『金融庁が「好事例集」と「開示原則」公表、記述情報充実に向けた環境整う』参照)。さらに金融庁は、2019年12月20日に「記述情報の開示の好事例集」を更新するとともに、2020年2月5日から「記述情報の開示の充実に向けた研修会」を全国で開催し、記述情報の開示の充実を支援するなど上場会社の開示支援に力を入れている。

*1 有報の第一部【企業情報】の第2【事業の状況】における【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【事業等のリスク】【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】(いわゆるMD&A)、第4【提出会社の状況】の【コーポレート・ガバナンスの状況等】等の記述情報を指す。記述情報は、「企業の財務状況とその変化、事業の結果を理解するために必要な情報であり、①投資家が経営者の視点から企業を理解するための情報を提供し、②財務情報全体を分析するための文脈を提供するとともに、③企業収益やキャッシュ・フローの性質やそれらを生み出す基盤についての情報提供を通じ将来の業績の確度を判断する上で重要」(WG報告2ページ)とされている。
*2 【コーポレート・ガバナンスの状況等】の【コーポレート・ガバナンスの概要】において任意で設置する委員会の「権限」や「構成員全員の氏名」を記載することを求める改正、【株式の保有状況】において保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式についての保有方針および保有の合理性を検証する方法を記載することを求める改正など、先行して2019年3月末決算の有報から開示が求められている改正項目もある(2019年3月末決算の有報から適用される改正項目の内容や実際の開示の分析結果については、2019年2月15日のニュース「社外役員、報酬、政策保有等今3月期から必要な開示への金融庁の考え方」や2020年1月8日【特集】改正開示府令の有報記載分析(役員報酬、政策保有株式 参照)。

MD&A : 「Management Discussion & Analysis」の略で、「経営陣による財政状態および経営成績の検討と分析」と訳される。有価証券報告書では【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】欄に記載する。

金融庁が力を入れているのは「支援」だけではない。先月(2020年1月)31日には有報【コーポレート・ガバナンスの状況等】の虚偽記載で初の課徴金事例が公表されており、改正開示府令が全面適用される2020年3月期の有報の開示に先立ち“鞭”を振るう姿勢も示している。【コーポレート・ガバナンスの状況等】の虚偽記載で初の課徴金を課されたのが、JASDAQに上場する日本フォームサービスだ。金融庁は同社に対し、有報等の虚偽記載があったとして金融商品取引法に基づき課徴金2,400万円の納付を命じた(金融庁のリリースはこちら)。同社は納付命令の決定に先立ち行われた審判手続きにおいて、金融商品取引法違反の事実と課徴金の額を認める旨の答弁書を既に提出している。

同社の開示検査()を行った証券取引等監視委員会(以下、監視委)の検査結果によると、同社の有報には「売上原価の過少計上」「売上の前倒し計上」「固定資産の減損損失の不計上」といった粉飾決算による有報の【経理の状況】の虚偽記載に加えて、下表のとおり【コーポレート・ガバナンスの状況等】にも虚偽記載があったとしている。

 監視委の業務の一つに上場企業等の開示書類の開示検査があり、検査の結果、開示書類の重要な事項についての虚偽記載等が認められた場合には、金融庁長官等に対して課徴金納付命令を発出するよう勧告する。監視委は平成30事務年度(2018年7月~2019年6月)に38件の開示検査を行っているが、2019年10月現在で22件の検査が終了し、22件のうち10件について開示書類の重要な事項について虚偽記載等が認められたとして、金融庁長官等に対し課徴金納付命令を勧告している。
番号 記載事項 虚偽記載の内容
「②企業統治の体制」の記載 「取締役会は有価証券報告書提出日現在、3名の取締役で構成され、原則月1回開催の定例の取締役会を開催し、重要事項はすべて付議され、業績の進捗についても議論し、対策を検討しております。」と記載していたが、当社は、取締役会を年3回しか開催しておらず、また、取締役会において重要事項の大部分が付議されていなかった
「②企業統治の体制」の記載 当社の監査役は、「取締役会をはじめ、経営会議、開発会議等の重要な会議に出席し、取締役の業務執行について厳正な監査を行っております」と記載していたが、常勤監査役は、これらの会議に出席してはいるものの、取締役の業務執行に関して何ら監査していないなど、当社の監査役は厳正な監査を行っていなかった
「③コーポレート・ガバナンスに関する施策の実施状況」・「ii内部統制システムの整備状況」・「Ⅳ 使用人の職務の執行が法令・定款に適合することを確保するための体制/取締役の職務の執行が法令・定款に適合することを確保するための体制」の記載 当社が実施している内部統制システムの内容について「コンプライアンス担当取締役を任命し、監査室を設け全社のコンプライアンスの取組みを横断的に統括することとし、同部を中心に役職員教育を行う。監査室は、コンプライアンスの状況を監査する。これらの活動は定期的に取締役会及び監査役に報告されるものとする。」と記載していたが、当社は、コンプライアンス担当取締役を任命したことはなく、また、監査室も業務分掌規程で規定したのみで実体がなかった
「③コーポレート・ガバナンスに関する施策の実施状況」・「ii内部統制システムの整備状況」・「Ⅷ その他監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制」の記載 当社が実施している内部統制システムの内容について「監査役は、代表取締役社長、監査法人とそれぞれ定期的に意見交換会を開催するものとする。」と記載していたが、当社監査役は、会計監査人との間で意見交換を行ったことがなかった
「③コーポレート・ガバナンスに関する施策の実施状況」・「ii内部統制システムの整備状況」・「Ⅸ 株式会社並びにその親会社及び子会社からなる集団における業務の適正を確保するための体制」の記載 当社が実施している内部統制システムの内容について「当社は、子会社の内部統制を担当する部署を総務部とし、他の事業部と連携し子会社における内部統制の実効性を高める施策を実施するとともに、必要な子会社への指導・支援を実施する。」と記載していたが、当社は、これらの施策や指導・支援を行っておらず、また、「総務部は子会社の内部統制の状況について、年2回及び必要と判断する都度、当社取締役会に報告する。」と記載していたが、当社は、内部統制の状況について取締役会に報告していなかった
「④内部監査及び監査役監査、会計監査の状況」・「i内部監査及び監査役監査の状況」の記載 当社監査役は、「監査人との連携を図るために、決算期並びに必要な都度ミーティングを行い、現状の監査状況及び業務執行に対して意見交換を行っております。」と記載していたが、当社監査役は、会計監査人との間で意見交換を行ったことがなかった

「任命する」「開催する」「報告する」「監査をする」「意見交換を行う」といった記述は具体的な“アクション”を伴うことが前提となっている以上、実際にそのアクションをしていなければ「嘘」であり、その記述は虚偽記載に他ならない。上述のとおり、このような【コーポレート・ガバナンスの状況等】の記述の虚偽をもって課徴金が課せられたのは今回が初のケースとなる。改正開示府令の全面適用を前にした日本フォームサービスへの課徴金納付命令は、記述情報だけを読むとガバナンスが効いているしっかりした企業であるかのように見えても「実質」を伴っていない企業が少なくないという現状を踏まえた、いわば“見せしめ”であった可能性もある。

一方、日本フォームサービスの会計監査人にも“鞭”が振るわれる見込みだ。同社の会計監査人(同社の有報が問題となった事業年度の当時の会計監査人)は監査法人大手門会計事務所()。日本フォームサービスに対する監視委の検査と軌を一にして実施された公認会計士・監査審査会による監査法人大手門会計事務所に対する検査の結果、公認会計士・監査審査会は「同監査法人の運営が著しく不当」として金融庁長官に行政処分を講ずるよう勧告している。行政処分に先立ち、同監査法人は丸山製作所(東証一部)およびジー・スリーホールディングス(東証二部)の定時株主総会で会計監査人を退任することを余儀なくされ、両社では他の監査法人が後任に選任されている。

 日本フォームサービスの粉飾発覚を機に監査契約を解除している(監査契約解除については日本フォームサービスのリリースはこちら

本来、会計監査人が監査意見を述べる対象は有報の中でも【経理の状況】に限定されており、非財務情報は監査対象とはされていないはずだ。それにもかかわらず、国際監査基準の改訂を契機として会計監査人の記述情報への関与強化策が進められていることに釈然としない気持ちを抱いている公認会計士も少なくない(2019年11月18日のニュース『有報「その他の記載内容」への監査人の関与強化策導入の影響』参照)。記述情報の開示の充実と会計監査人による記述情報への関与強化の推進は結果的に連動した施策になっているだけに、公認会計士・監査審査会による監査法人大手門会計事務所への処分勧告もまた、公認会計士にとっては“見せしめ”のように映ると言っても過言ではない。

今回の事例を教訓として上場会社の経営陣がまず実施すべきなのは、前期の有報の記述情報の文章の中に「やっていないこと」が含まれていないかどうか、早急に点検することだ。点検の結果、万が一「やっていないこと」をさもやっているかのように書いてある箇所が見つかれば、その重要度次第で訂正報告書を提出すべきである。記述情報の開示の充実はその後のステップであり、まずは「やっていないことは書かない」という基本原則が守られているのか、二重三重のチェックが必要になろう。

2020/02/04 経産省、CGSガイドライン等と“並列”の「事業再編に関する実務指針」取りまとめへ

「ノンコア事業」の切り離し圧力が強まることになりそうだ。

経済産業省は・・・

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2020/02/04 経産省、CGSガイドライン等と“並列”の「事業再編に関する実務指針」取りまとめへ(会員限定)

「ノンコア事業」の切り離し圧力が強まることになりそうだ。

経済産業省は(2019年)1月29日、「事業再編研究会」の立ち上げを公表、同31日には早速1回目の会合が開催されている。事業再編研究会が目指しているのは、「ノンコア事業」の切り出しの促進だ。経済産業省の説明によると、ノンコア事業とは「必ずしも事業そのものの収益力や成長性が低いというわけではないが、自社グループにとって競争優位性を有する分野でない等の理由で、自社グループ内にあっては十分なリソースが投入されにくいために、相対的に成長可能性が低くなっている事業」を指す。投資家もノンコア事業の存在が日本企業の低収益性やコングロマリット・ディスカウントの主な要因であると考えているが、現状ではその切り離し(事業売却やスピンオフ)はあまり進んでいない。

スピンオフ : 既存の子会社の株式又は切り出した事業を承継させた子会社の株式を、株主に対して、その保有株式数に応じて交付することにより、当該子会社または事業を切り離し、経営を独立させる仕組みをいう。

第1回会合に提出された事務局の資料(現時点では未公表)でも、国内上場企業によるM&A(合併、買収、事業取得)は近年増加傾向(2016年634件、2017年718件、2019年747件)にある一方で、事業の切出し(事業売却、子会社の売却)は2008年の420件をピークに減少し、ここ数年は250件前後で推移しており、「買い」と「売り」がアンバランスな状態にあることや、上場企業1社あたりの事業切出し件数(2018年)が、米国の0.18件、欧州(英、独、仏)の0.16件に対し、日本では0.06件にとどまっていることなどが紹介されている。本研究会では今後その原因や解決策について議論を重ね、本年6月末を目途に「事業再編に関する実務指針(仮称)」を公表することを目指す。

上場企業にとって気になるのは、「事業再編に関する実務指針」(以下、本指針)の位置付け、言い換えれば “影響力”だろう。経済産業省は、本指針を「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(同指針に関する記事として、例えば2018年10月5日のニュース『改訂CGSガイドラインが求める社外取締役の「再任基準」』参照)、「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」(同指針の体系的な解説は【WEBセミナー】グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針への企業の対応 参照)と“並列”の関係に位置付けるとの方針を示している。先行して出された2つの指針が既に上場企業のガバナンスのあり方に相当程度影響を及ぼしていることを考えると、本指針も同等の影響力を持つことが予想される。もっとも、同省は本指針を「上場企業の中でも多様な事業分野への展開を進め、多数の子会社を保有してグループ経営を行う大規模・多角化企業」、特に「市場(競争範囲)や資金調達の面でグローバル化を図り、成長志向の強い企業」を主なターゲットにすることを想定しているとのことであり、全上場企業を対象とするCGSガイドラインよりも対象範囲は狭くなる。

経済産業省は事業再編研究会の立ち上げのリリースの中で、「本研究会の取組」の一つとして、「ノンコア事業の切出しが進みにくい背景・要因」を明らかにするとしているが、この点について第1回会合の事務局資料でも多くのページが割かれているのが「経営者の意識」だ。事務局による機関投資家やコンサル、経営者などを対象にしたヒヤリング結果では、あるコンサルから「日本企業では、キャッシュを生んでいる事業は、もったいなくて売れないという面がある。日本企業には、成長しておらずスケールも取れていない事業がたくさんあって、本当は売却していくことが必要だと思うが、経営者としては事業が悪化した際のバッファーを持っておくことも考えてしまっている。「経営者は、少なくとも次の事業についてめどがたっていないと売ろうとはしない。」との指摘があったのに対し、企業側からは「投資家の目線もあり、選択と集中については気を使っている。目に見える形では、ある業務の収益性が高く、他は少ないというのはあるが、だから他の事業部を切り捨てたほうがグループとして効率性が高いのかというとそうではない。なかなか数値になりにくいシナジー効果はある。数値の世界と、目に見えない部分を考えながら最適化を考えている。」「企業を永続させるにはリスクヘッジのためにポートフォリオをある程度多様にする必要がある。今は調子がいい事業も一時期業績が悪かった。このとき、その他の事業を持っていなかったら企業としては終わっていた可能性がある。」との声も聞かれる。企業側の主張にも一理あるように見えるが、本指針の“最終ゴール”がノンコア事業の切り出しの促進である以上、低収益セグメントを抱え込む上場企業への風当たりは今後強まることが予想される。

本研究会の第2回会合(2月14日開催)では、 ①経営陣のインセンティブ(例えば中長期インセンティブ報酬の指標として日本企業の間で最も多く採用されている指標は営業利益だが、欧米企業ではTSRが圧倒的に多くなっている)、②取締役会(特に社外取締役)の役割と責任(事業ポートフォリオ戦略に関する議論の在り方、事業評価等の仕組みに関する監督の在り方)、③投資家とのエンゲージメント(投資家側の対応の在り方、スチュワードシップ・コードを踏まえた中長期視点でのエンゲージメントの在り方、企業側の対応の在り方(平時と有事(株主提案を受けた場合等))、第3回(3月4日開催)では、①事業再編促進のための環境整備(社内における事業評価の仕組みの構築、事業セグメント開示の在り方(ベストプラクティスの例示等)、必要な制度整備の在り方(税制措置等))が議論され、4月中下旬には報告書(実務指針案+制度整備に関する提言)の骨子案、5月下旬には報告書案の取りまとめを経て、上述のとおり6月末を目途に「事業再編に関する実務指針」の公表が予定されている。

売上高や営業利益等の増加など企業規模の拡大を経営目標にしてきた日本企業にとって、企業規模を縮小することにつながる「事業の切出し」を積極的に行うことは大きなパラダイムシフトと言える。本指針が旧来型の日本企業にとって説得力のあるものとなるのか、その内容が注目される。

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