2019/12/23 HOYAの「対抗TOB」の行方

新聞等でも報道されているとおり、精密機器大手のHOYAは12月13日、JASDAQ上場の半導体製造装置メーカーであるニューフレアテクノロジーに対して株式公開買付け(TOB)を実施するとのリリースを出している。買付け価格は1株当たり12,900円で、発行済株式総数の66.7%を下限として全株式の取得を目指す。TOB成立後、ニューフレアは必要な手続(HOYAのリリースの「(4)本公開買付け後の組織再編等の方針(いわゆる二段階買収に関する事項)」参照)を経てHOYAの完全子会社となり、上場は廃止される。HOYAとニューフレアはともに半導体および半導体製造装置業界を顧客としており、両社が有する知見を組み合わせることで顧客各社の製品ロードマップへの対応力を強化するなど、双方の企業価値向上に資するシナジーを発現できるという。

ただし、本TOBには前提条件が付されている。・・・

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2019/12/23 HOYAの「対抗TOB」の行方(会員限定)

新聞等でも報道されているとおり、精密機器大手のHOYAは12月13日、JASDAQ上場の半導体製造装置メーカーであるニューフレアテクノロジーに対して株式公開買付け(TOB)を実施するとのリリースを出している。買付け価格は1株当たり12,900円で、発行済株式総数の66.7%を下限として全株式の取得を目指す。TOB成立後、ニューフレアは必要な手続(HOYAのリリースの「(4)本公開買付け後の組織再編等の方針(いわゆる二段階買収に関する事項)」参照)を経てHOYAの完全子会社となり、上場は廃止される。HOYAとニューフレアはともに半導体および半導体製造装置業界を顧客としており、両社が有する知見を組み合わせることで顧客各社の製品ロードマップへの対応力を強化するなど、双方の企業価値向上に資するシナジーを発現できるという。

ただし、本TOBには前提条件が付されている。ニューフレアに対しては総合電機大手の東芝が連結子会社の東芝デバイス&ストレージを通じてTOBを実施中で、このTOBが成立した場合、HOYAによるTOBは撤回される。東芝デバイス&ストレージはニューフレアの株式の52.4%を保有する同社の親会社であり、買付け期間は12月25日まで、買付け価格は1株当たり11,900円、14.3%を下限とした合計66.7%以上の取得による完全子会社化を目指している。上述のとおりHOYAが提示している買付け価格は1株当たり12,900円となっている。すなわち、HOYAは東芝デバイス&ストレージによるTOBが不成立となった後、同社が保有するニューフレア株式を取得することを狙って、さらなる好条件(高価格)によるTOBを提案したということになる。

このようなHOYAの買収戦略は、米国判例法として確立している「レブロン基準」に則ったものだと言える(レブロン基準については2016年2月5日のニュース「シャープ買収に見るM&Aにおける社外取締役の役割」参照)。同基準によると、会社がTOB期間中などの売却状態にある場合、その取締役会は株主利益を最大化するよう最善を尽くす義務がある。ここで問われている「株主利益の最大化」とは専ら高価格による売却を意味しており、HOYAの買付け価格は東芝デバイス&ストレージを上回ることから、ニューフレアの取締役会がHOYAの提案を無視あるいは軽視して反対した場合、取締役の善管注意義務違反に問われる可能性は小さくない。

もっとも、HOYAとしても、ニューフレアの取締役との法廷闘争など同社と全面的な敵対関係に至ってまで買収にこだわるとは考えにくい。そのような文字通りの敵対的買収が成功したところで、ニューフレアの役職員との感情的なしこりは修復が難しいまでに広がり、PMI(Post Merger lntegration、買収後の経営統合)の不調から統合効果が得られない事態に陥ることも予想される。むしろHOYAとしては、ニューフレアの大株主に働きかけることで、友好裏にTOBを進めようという意図があるものと推測される。その根拠として、以下のような本事案の“特殊な背景”が挙げられる。

(1)東芝機械の株主
東芝デバイス&ストレージによるTOBでは、ニューフレアの第2位株主(保有割合15.1%)である東芝機械が買付けに応じることが確実視されていたが、仮に東芝機械が翻意した場合、少数株主の応募状況次第とはいえ、TOBの成否は相当に不透明になる。東芝機械は社名に「東芝」を冠しているとはいえ、東芝は保有割合2.8%の第6位株主にとどまる。さらに6.4%の筆頭株主であるオフィスサポートは共同保有大量保有報告書を提出しており(9.2%)、共同名義の野村絢氏は村上世彰氏の実娘であることから、旧村上ファンド系のアクティビストと見て間違いない。このような状況でHOYAが魅力的な「対抗TOB」を提案したことで、東芝機械の取締役会は難しい判断を迫られているものと推測される。

共同保有 : 大量保有報告制度上、たとえ単独での保有割合が5%以下でも、「保有者との間で、共同して株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している者」がいる場合には当該「共同保有者」の保有割合も合算する必要がある。
大量保有報告書 : 市場の透明性・公正性を高め、投資者保護を図ることを目的として、金融商品取引法上、株券等の大量保有者に対し提出が義務付けられている書類。具体的には、①保有割合が5%超となった場合、②その後、保有割合が1%以上増減するなど重要な変更があった場合、それぞれ提出事由が生じた日から5営業日以内に「大量保有報告書(or変更報告書)」の提出が求められる(②の場合に提出するのは「変更報告書」)。

(2)東芝の株主および取締役会
東芝機械が東芝デバイス&ストレージの買付けに応じないなどにより東芝デバイス&ストレージのTOBが不成立に終わった場合、東芝の取締役会はHOYAによるTOBに応じるかどうかの判断を迫られることになる。仮に応じれば、東芝には800億円近いキャッシュが流入するため、自社株主の利益を尊重する立場からは、「応じる」という選択肢も決して簡単には排除できないだろう。同社大株主にはエフィッシモ・キャピタル・マネージメントやキング・ストリート・キャピタル・マネージメントなど、著名なアクティビストやヘッジファンドが名を連ねている。さらに同社取締役会は12人中の10人が社外取締役で占められ、うち4人が投資ファンド出身者などの外国人となっている。極端にグローバル視点に偏った株主および取締役会構成の下で、HOYAのTOB提案が前向きに検討される可能性は決して低くないと言えそうだ。

(3)東芝の経営トップ
現在の東芝で経営の舵取りを担っている代表執行役会長CEOの車谷暢昭氏は、三井住友フィナンシャルグループの副社長から転出、英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズ日本法人で会長兼共同代表を務めた人物である。東芝にとっては故土光敏夫氏以来53年ぶりの外部招聘による経営トップであり、自社の論理や社風にとらわれず経営を再建し、企業価値を向上させることが強く期待されている。このような立場である車谷氏としては、少なくとも公正な検討プロセスを経た上で、HOYAの提案を取締役会に諮ることは間違いないだろう。提案者であるHOYAとしても、内部生え抜きの経営トップより、車谷氏のようなプロ経営者の方が交渉相手として折衝しやすいとも考えられる。

以上を考え合わせると、HOYAの「対抗TOB」は相当に考え尽くされた戦略と言えそうだ。まずは東芝デバイス&ストレージによるTOBが成立するのか、12月25日の買付け期日終了後における東芝とニューフレアによるリリースが注目される。

2019/12/22 セミナー「ISS、グラスルイスの2020年版議決権助言方針」および「パワハラ防止法 企業に求められる取り組みと経営陣のリスク」を2020年1月28日(火)に開催しました。

本セミナーはすでに開催済みですが、会員の方向けにWEBセミナーを配信中です。
WEBセミナー:ISS、グラスルイスの2020年版議決権助言方針
WEBセミナー:パワハラ防止法企業に求められる取り組みと経営陣のリスク

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上場会社役員ガバナンスフォーラムでは、2020年1月28日(火)の14時30分~17時20分に下記のセミナーを開催します。
詳細はこちらもご覧ください。

時 間 テーマ 講 師
第一部
14:30

15:50
~ISSとグラスルイスで方針に差異も~
ISS、グラスルイスの2020年版議決権助言方針
日本シェアホルダーサービス株式会社
研究開発/コンサルティング部
チーフコンサルタント
藤島 裕三 様
第二部
16:00

17:20
~企業、役員の法的リスクを分析~
パワハラ防止法 企業に求められる取り組みと経営陣のリスク
TMI総合法律事務所
パートナー 弁護士
近藤 圭介 様

■第一部の詳細

セミナー
の内容
議決権行使会社大手のISSおよびグラスルイスの両社より2020年版の日本企業向け議決権行使ポリシーが公表されました。ともに機関投資家の議決権行使に大きな影響力を持っていますが、両社のポリシーには政策保有株式、ジェンダー・ダイバーシティ、取締役会に占める独立取締役の割合などに関して、少なからず差異があります。
本セミナーでは、コーポレートガバナンス研究の第一人者である日本シェアホルダーサービスの 藤島 裕三 様をお招きして、両社の最新ポリシーについて概略をご説明いただいたうえで、表面的な文言だけでは読み切れないポリシーを策定した「趣旨」や、数値基準といった具体的な指針が示されていない「適用除外措置」の考え方など、踏み込んで解説していただきます。その際、両社のポリシーひいては考え方の違い、機関投資家の議決権行使行動に与える影響度、また現時点ではポリシーに盛り込まれていないものの、今後はポリシー見直しの対象となりそうなテーマなどにも言及していただきます。
このほか、米国証券取引委員会(SEC)が現在検討しているレビュー&フィードバック制度(投資家に対する助言内容に事実誤認が含まれていないか、上場会社サイドが確認できるよう議決権行使助言会社からレビュー及びフィードバックを受ける機会を一定期間設ける制度)など、日本企業にも波及する可能性のあるトピックスについても解説していただきます。
講師の
ご紹介
藤島 裕三(ふじしま ゆうぞう)様
日本シェアホルダーサービス株式会社 研究開発/コンサルティング部 チーフコンサルタント。慶應義塾大学大学院法学研究科修了後、1994年に株式会社大和総研入社。企業調査部 アナリスト、同社経営戦略研究所経営戦略研究部 主任研究員 、企業経営コンサルティング部 副部長・シニアコンサルタントを経て2014年、EY総合研究所に入社、未来経営研究部 部長 主席研究員に就任。2017年9月より現職。コーポレートガバナンスを中心とした資本市場と企業の関係構築を専門分野とする。
日本コーポレートガバナンス研究所(JCGR)理事。慶應義塾大学非常勤講師(2003-2005年)、京都大学大学院非常勤講師(2006―2008年)、財務省 財政投融資ガバナンス委員会 委員(2005ー2006年)、経済産業省 コーポレート・ガバナンスの対話の在り方分科会 委員(2013年-)。日本証券アナリスト協会検定会員。
『コーポレートガバナンス・マニュアル 21世紀日本企業の条件』(中央経済社、第1版2005年1月、第2版2008年1月):共著、『現代の財務経営1 コーポレートファイナンス』(中央経済社、2009年3月):共著、『ガイダンス コーポレートガバナンス』(中央経済社、2009年10月):共著、『Q&A コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コード』(第一法規、2015年10月):共著など著書・論文多数。

■第二部の詳細

セミナー
の内容
2020年6月1日からのいわゆるパワハラ防止法の施行に先立ち、厚生労働省の労働政策審議会は11月20日、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(案)」(以下、指針)を了承しました。本指針(案)はパブリックコメントを経て年明け早々には確定する予定となっています。
指針ではパワハラに該当する事例、企業(事業主)が講ずるべき措置などが挙げられており、その内容については一応産業界との調整を経ているものの、当然ながらパワハラに該当する可能性のある個別具体的な事例等を全て網羅できているわけではありません。また、指針が企業に明確化を求めている「パワハラを行ってはならいない旨の方針」の内容も基本的には各企業に任されています。
本セミナーでは、労働法に詳しいTMI総合法律事務所の 近藤 圭介 弁護士をお招きし、パワハラ防止法や指針のポイントを概観していただきつつ、特に法的に議論になりそうな部分を掘り下げて解説していただきます。
企業の経営陣にとって、パワハラ防止対策を講じることは義務であるとともに、指揮命令系統の最上位にいる自分自身がパワハラの当事者(加害者)となるリスクも十分にあります。近藤弁護士には、企業として果たすべきパワハラ防止に向けた取り組みとともに、経営陣自身がパワハラの当事者とならないための留意点についても解説していただきます。
講師の
ご紹介
近藤 圭介(こんどう けいすけ)様
TMI総合法律事務所 パートナー弁護士。
2007年弁護士登録。労働法務を主要な取扱分野とし、人事制度の構築・運用から、労働審判・訴訟、労働組合対応、労働基準監督署対応、M&A・IPOにおける労務デュー・ディリジェンスまで幅広く取り扱う。特にハラスメント問題については、多くの企業の内部通報窓口を務め、企業内でのハラスメント対応に精通している。近時は、働き方改革や同一労働同一賃金に関するセミナー・アドバイスも提供。
「同一労働同一賃金 対応の手引き」(労務行政 共著)、「M&Aにおける労働法務DDのポイント」(商事法務 共著)、「業種別法務デューディリジェンス実務ハンドブック」(中央経済社 共著)、連載「職場のAIと法律問題」(労務事情)、連載「法務担当者のための『働き方改革』の解説」(商事法務ポータル)、「Q&A合同労組に関する法的留意点」(労務事情 共著)、「新労働事件実務マニュアル(第4版)」(ぎょうせい 共著)など

なお、セミナー参加費につきましては、上場会社役員ガバナンスフォーラム、IPO実務検定、財務報告実務検定の会員のみ無料、それ以外の方は33,000円(税込 ※)となっております。
※セミナーお申込み前に会員登録いただくと、セミナー参加費は無料となります。

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非会員で視聴をご希望の方はjimukyoku@govforum.jpまでご連絡いただければメールにてお申し込み方法をお知らせいたします(有料(33,000円)となります)。

その他、ご不明な点等がございましたら、ご遠慮なく jimukyoku@govforum.jp までお問い合わせください。

<セミナー概要>

  • 第一部 ISS、グラスルイスの2020年版議決権助言方針
  • 第二部 パワハラ防止法 企業に求められる取り組みと経営陣のリスク
  • 【日時】2020年1月28日(火)14時30分~17時20分
  • 【会場】六本木ヒルズ森タワー23階 TMI総合法律事務所セミナールーム
  • 【受付】六本木ヒルズ森タワーLL階ロビー 14時00分より
  • 【講師】第一部 日本シェアホルダーサービス株式会社 研究開発/コンサルティング部 藤島 裕三 様
        第二部 TMI総合法律事務所 パートナー 弁護士 近藤 圭介 様
  • 【セミナー参加費】当フォーラム会員、IPO実務検定会員、財務報告実務検定会員は無料、それ以外の方は33,000円(税込)

2019/12/20 東証市場改革、“背伸び”を選択した企業に課される負荷

現在検討が進んでいる東京証券取引所の市場改革では、企業側からの強い要望を受け、東証一部上場企業の“格下げ感”を防ぐ仕組みが導入される可能性が高まっている。・・・

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2019/12/20 東証市場改革、“背伸び”を選択した企業に課される負荷(会員限定)

現在検討が進んでいる東京証券取引所の市場改革では、企業側からの強い要望を受け、東証一部上場企業の“格下げ感”を防ぐ仕組みが導入される可能性が高まっている。

東京証券取引所の市場構造の在り方について議論を重ねている金融庁の金融審議会「市場構造専門グループ」は2019年11月20日、第5回の会合を開催し、市場改革の方向性を検討した。現時点(2019年12月20日)では議事録は公表されていないものの、会合に提出された資料を分析すると、東証一部上場企業の“格下げ感”を防ぐ仕組みが見て取れる。まだ最終決定には至っていないが、方向性は固まりつつあると言えよう。

まず、新市場の名称(仮称)とコンセプトは下表のとおり(市場構造専門グループの第5回会合の討議資料の2ページを参照)。

<新市場のコンセプト>
名称(仮称) 特徴
プライム 多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額・流動性を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資家との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業及びその企業に投資をする機関投資家や一般投資家のための市場
スタンダード 公開された市場における投資対象として一定の時価総額・流動性を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業及びその企業に投資をする機関投資家や一般投資家のための市場
グロース 高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ、一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業及びその企業に投資をする機関投資家や一般投資家のための市場

現在の東証の各市場の上場企業が新市場ではどの区分に移行するのかを大まかに示せば下図のとおりとなる。

<現行市場と新市場との関係(案)>
47944

ここで注目されるのが、東証一部上場企業に委ねられる「選択」(上図の赤字)だ。2019年10月18日のニュース「根強い“格下げ感”への抵抗 東証市場改革の行方」でお伝えしたとおり、東証一部上場企業の中にはスタンダード市場への「格下げ」を嫌う声が根強い。市場構造専門グループがどれほど「新市場間に序列はない」(プライム市場、スタンダード市場、グロース市場に上下関係はなく、並列の関係)と力説したとしても(市場構造専門グループの第5回会合の討議資料の1ページを参照)、投資家や上場企業からは「スタンダード市場はプライム市場の格下市場」と位置付けられる可能性が高いからだ。そこで市場構造専門グループでは、東証一部上場企業がプライム市場とスタンダード市場のどちらに上場するのかを選択できるようにする案が検討されている。これには、東証一部上場企業に対し、「自社の理念、ガバナンスや株主との対話へのコミットメントなど」を踏まえ自社が適切と考える市場区分を選択させる(その結果、“格下げ感”を回避できる)という形をとることで、ガバナンス等へのコミットメントを引き出す意図がある。ただし、プライム市場での上場を維持し続けるには、下表のような流通時価総額流通株式比率、ガバナンス(ガバナンス・コードの遵守)、収益性に関する要件を満たし続けなければならない。

流通時価総額 : 流通株式数(上場株式数から「役員所有株式数」「自己株式数」「上場株式数の10%以上を所有する者が所有する株式数」を控除した数を流通株式数)に時価を乗じた額
流通株式比率 : 流通株式数を上場株式数で除した値

<各要件について現在検討されている案>
流通時価総額 今後検討
流通株式比率 いわゆる安定株主が、会社法における特別決議の可決のために必要な水準(2/3以上)を占めることのない水準
ガバナンス 今後行うコーポレートガバナンス・コードの改訂等を通じて、プライム市場の性格にふさわしい水準にガバナンスを向上させることを促進していく。例えば、社外取締役の数・割合、英文開示の実施など、一定の事項について強制適用とする。
収益性 今後検討

そうなると、“背伸び”してプライム市場を選択した企業がこれらの要件を満たせなくなった場合、スタンダード市場に移行しなければならないのかどうかが気になるところ。この点について市場構造専門グループでは、“背伸び企業”への救済措置を設ける方針。具体的には、新たな流通時価総額基準に満たない東証一部上場企業がプライム市場への上場を希望する場合、当分の間、流通株式比率向上に向けた取組み等を策定・開示することにより、プライム市場への上場を認める案が示されている。逆に言えば、流通株式比率向上への取り組みを行うことを条件に、新たな流通時価総額基準に満たない東証一部上場企業であってもプライム市場への上場を選択することが可能となる。また、直近の決算が赤字の企業(上表の「収益性の基準」を充足しない企業)でも時価総額、売上や開示などの条件を満たせば、プライム市場への上場を認める案も示されている(各条件の詳細は未決定)。

新市場では、上場後の企業価値向上の動機付けのため、二部市場およびマザーズ市場の退出基準(現在、二部市場の上場廃止基準は時価総額10億円、マザーズ市場の上場廃止基準は時価総額5億円)を引き上げる予定。退出基準を厳格化すれば投資家の換金機会が減ることになるため、「受け皿市場」の整備も今後の検討課題となってくる。

現在、マザーズ市場を経由した一部市場への上場基準は、一部市場に直接上場する際の時価総額よりも緩和された基準(一部市場に上場するためには原則として「250億円」の時価総額が必要だが、マザーズ市場から一部市場に上がる場合、時価総額は「40億円」で足りる)となっているが(2019年3月5日のニュース「東証の市場改革、まず最初に実施されることは?」を参照)、所要の経過措置を設けたうえで、これを高い方の基準(一部市場に直接上場する際の基準)に一本化する方針。この見直しが実施されれば、経過措置期間内で一部市場に駆け込み上場するマザーズ上場企業が増えそうだ。

東京証券取引所では、市場改革に合わせて、TOPIX(東証株価指数)も作り変える方針(以下、作り変えた後のTOPIXを「新TOPIX」という)。新TOPIXを構成する企業には、プライム市場の上場企業を中心に、スタンダード市場の上場企業からも一部選定される見込み。プライム市場上場企業であっても新TOPIXに選定されない可能性もある点が、東証一部に上場していれば自動的に組み込まれる現行TOPIXとは異なる。プライム市場に上場していても新TOPIXの銘柄に選定されなければ、インデックス投資の対象にはなりにくいはずだ。新TOPIXに選定される見込みがない企業にとってはプライム市場の魅力は半減しかねないだけに、コーポレートガバナンス・コードの強制適用や流通株式数増加への取り組みといった負荷を課されてまでプライム市場への上場を選択するのか、実質的にはスタンダード市場レベルにありながらもプライム市場への上場を望む企業は、新TOPIXの仕組みも詳細に分析する必要がありそうだ。

インデックス投資 : 株価指数(インデックス)を構成する銘柄を一定の条件でポートフォリオに組み入れるなどして、対象となる株価指数と同じ値動きを目指す運用方法のこと。運用会社があまり裁量を加えない運用方法である「パッシブ(消極的な)運用)の一つである。ファンドマネジャーが独自に銘柄を選択して運用する「アクティブ(積極的な)運用」とパッシブ運用は対極の関係にある。

 

 

 

 

2019/12/19 「原則主義」的な開示が急増、日本企業の対応策は?

我が国の会計基準は「細則主義」に基づいていると言われてきたが、最近公表された会計基準の中には、開示の面で「原則主義」の考え方が取り入れられているものがある。

<会計・開示における「原則主義」「細則主義」の一般的な概念>
原則主義・・・原則のみが示されているため柔軟な運用を可能にする一方、企業は自ら会計処理・開示を考えなければならない。
細則主義・・・具体的な会計処理・開示が細かく規定されているため、企業はそのルールに従って会計処理・開示をすればよい。

原則主義に基づく会計基準の代表が国際財務報告基準(IFRS)だ。2019年11月現在、204社の日本企業がIFRSを採用している(2019年12月13日のニュース『IFRS採用会社増加につながるか 「差異」開示の開示が初年度限定に』参照)。自ら選択としたとはいえ、IFRSの適用にあたっては、その準備に多くのコスト(時間、費用)がかかるのが一般的であり、IFRSの適用に踏み切った企業の多くが原則主義への対応に苦慮しているものと思われる。

原則主義的な開示の考え方が取り入られている日本の会計基準のうち最近公表されたもの(公開草案を含む)の概要は下表のとおり。・・・

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2019/12/19 「原則主義」的な開示が急増、日本企業の対応策は?(会員限定)

我が国の会計基準は「細則主義」に基づいていると言われてきたが、最近公表された会計基準の中には、開示の面で「原則主義」の考え方が取り入れられているものがある。

<会計・開示における「原則主義」「細則主義」の一般的な概念>
原則主義・・・原則のみが示されているため柔軟な運用を可能にする一方、企業は自ら会計処理・開示を考えなければならない。
細則主義・・・具体的な会計処理・開示が細かく規定されているため、企業はそのルールに従って会計処理・開示をすればよい。

原則主義に基づく会計基準の代表が国際財務報告基準(IFRS)だ。2019年11月現在、204社の日本企業がIFRSを採用している(2019年12月13日のニュース『IFRS採用会社増加につながるか 「差異」開示の開示が初年度限定に』参照)。自ら選択としたとはいえ、IFRSの適用にあたっては、その準備に多くのコスト(時間、費用)がかかるのが一般的であり、IFRSの適用に踏み切った企業の多くが原則主義への対応に苦慮しているものと思われる。

原則主義的な開示の考え方が取り入られている日本の会計基準のうち最近公表されたもの(公開草案を含む)の概要は下表のとおり。

公表日 会計基準等の名称
(強制適用時期(予定含む))
原則主義的な規則の例
2018年2月16日 企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」
(2019年3月期から)
税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を計上している場合、財務諸表利用者による不確実性の評価に資するよう、税務上の繰越欠損金に関する定性的な情報として、税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を「回収可能」と判断した主な理由を記載する。
⇒税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を回収可能と判断した理由について、経営者の考えを開示する。
2019年7月4日 企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」
(2021年4月1日以後開始会計年度)
IFRS第13号「公正価値測定」の考え方をそのまま取り入れている(2019年7月5日のニュース『金融商品の時価の「レベル別開示」義務化で上場会社への影響は?』参照)。
⇒時価のレベル、例えば、「レベル2」の時価なのか「レベル3」の時価なのかは経営者自ら判断で決定し、開示する。
2019年10月30日 企業会計基準公開草案第69号(企業会計基準第24号の改正案)「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(案)」
(2021年3月期末)
会計基準等の定めが明らかでない場合、採用した会計処理の原則及び手続を重要な会計方針として開示する。
⇒会計基準等の定めが明らかでない場合、採用した会計処理の原則及び手続を経営者自ら説明しなければならない。
2019年10月30日 企業会計基準公開草案第68号「会計上の見積りの開示に関する会計基準(案)」
(2021年3月期末)
IAS第1号「財務諸表の表示」の「見積りの不確実性の発生要因」の開示と同様に、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い見積り項目を開示する(2019年11月13日のニュース「重要会計基準改正解説第一弾 見積会計基準案が公表、MD&A、KAMへの影響」参照)。
⇒開示する具体的な項目及びその記載内容を経営者が判断する。
2019年10月30日 企業会計基準公開草案第66号(企業会計基準第29号の改正案)「収益認識に関する会計基準(案)」等
(2021年4月1日以後開始会計年度)
開示を含めIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の考え方を基本的にそのまま取り入れる(2019年12月3日のニュース「重要会計基準改正解説第二弾 収益認識注記の要否は企業の判断次第」参照)。
⇒自社の実態に応じ、経営者には収益認識に関する注記事項の内容を決定することが求められる。記載内容の構成も、経営者が適切であると考えるものとすることが可能。

IAS : 国際会計基準。IFRSの前身。

例えば上表の上から3つ目「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(案)」では、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続を重要な会計方針として開示することが求められているが、これは、会計基準等の定めが存在しない業界固有の会計処理や、会計基準等の開発時に想定していなかった新たな取引や経済事象が出現した場合の会計処理の原則及び手続を開示することを目的としてる。

一例として、対価を得て発行した仮想通貨について、(対価の返還義務を負うと考え)負債を計上するのか、あるいは(仮想通貨を売却したものと考え)利益を計上するのか、さらには自己に割り当てた仮想通貨を会計処理の対象とするのか(無価値との考え方もあり得る)、などが挙げられる。仮想通貨の会計処理については、実務対応報告第38号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」は存在するものの、これらは実務対応報告の範囲から除外されており(同実務対応報告第26項)、関連する会計基準等は存在しない。このような事象が生じ、それが重要な場合、今後経営者は自ら会計処理方法を定め、その開示する内容、程度を判断しなければならなくなるということだ。

このように原則主義的な開示が増えているのは、会計処理だけではなく開示についても国際的に整合性のとれたものとすることや、ボイラープレート的な開示ではなく、企業固有の情報を求める投資家のニーズへの対応の一環と考えられる。2018年1月26日のニュース『新しい有報では「経営者の視点」への注目必至』でもお伝えしたとおり、「記述情報」(MD&Aや事業のリスク等)をはじめ、有価証券報告書全体において経営者目線の情報開示が求められる流れとなっている。

MD&A : 「Management’s Discussion and Analysis of Financial Condition and Results of Operations」の略で、「経営陣による財政状態および経営成績の検討と分析」と訳される。有価証券報告書では【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】欄に記載する。

「原則主義的な開示」には開示の自由度が増えるという面もあることから前向きにとらえるべきとも言えるが、問題となるのは実務負担だ。原則主義的な開示ではいわゆる記載例(ひな形)がなく、経営者が開示内容を自ら考えなければならないため、作成する側においても、またこれをチェックする監査法人側においても時間がかかるという悪循環に陥る怖れがある。

そこで参考にしたいのがIFRS採用会社の開示例だ。上述のとおりIFRSでは原則主義の立場をとっているが、我が国における最近の開示関係の改正のほとんどは、“幸いにも”IFRSの開示をそのまま取り入れている。仮想通貨の例では、IFRSを採用している(株)メタップスが下記の開示を行っている。

(株)メタップス 有価証券報告書(2018年08月期、注記32より抜粋) 監査人の監査報告書(強調事項より抜粋)
・将来の仮想通貨取引に係る新たな会計基準の制定等による会計方針の変更の可能性

 当社グループの仮想通貨取引に係る会計方針については、連結財務諸表に注記しております。これらの会計方針は、国際会計基準審議会から公表されている国際財務報告基準に基づいて、当連結会計年度に行われた仮想通貨に関わる取引を会計処理するのに最も適切と考える方法に関する当社グループの結論を反映したものです。

 国際会計基準審議会が公表した基準は仮想通貨に関わる会計処理特有の要求事項や指針を定めていません。将来の国際会計基準審議会による会計処理に関する公式見解や指針の制定、又は将来の会計専門家による既存の指針に対する新たな解釈は、当社グループがこれらの財務諸表を作成する際に適用している会計方針や会計処理方法と異なる結論に至る可能性があります。これにより、当社グループが採用している会計方針が変更となり、当社グループの財政状態及び業績に重要な影響を及ぼす可能性があります。

4.注記32.「仮想通貨取引に係るリスク」の「将来の仮想通貨取引に係る新たな会計基準の制定等による会計方針の変更の可能性」に記載のとおり、将来の国際会計基準審議会による会計処理に関する公式見解や指針の制定、又は将来の会計専門家による既存の指針に対する新たな解釈により、会社が採用している会計方針が変更となり、会社の財政状態及び業績に重要な影響を及ぼす可能性がある。

我が国におけるIFRS採用企業の増加は「参考となる開示例の増加」という形で、原則主義的な開示への対応に要するコストの抑制に貢献することになりそうだ。

2019/12/18 休職期間満了時に病気が治癒しなかった従業員の解雇の是非

政府が推進する「働き方改革」の目的の一つには、長時間労働の抑制による健康被害の防止があるが、従業員数の多い上場企業では、どうしても一定割合は心身の不調に陥る者が出て来る。心身の不調に陥った従業員に企業がどのように向き合うのかは従業員の労働のモチベーションにも大きな影響を及ぼす。そこからは「従業員に優しい会社かどうか」という企業体質が透けて見えるからだ。近年は、伊藤忠商事のように、柔軟な勤務・休暇制度を整備することなどにより、がんと仕事の両立支援を打ち出している企業もある(伊藤忠商事の取り組みはこちら)。

とはいえ、役務を全く提供できない状態にある従業員を雇用し続けることも企業にとっては難しいという現実がある。労働契約は「労働者が労務を提供し、これに対し使用者が賃金を支払う」という“双務契約”であるため、契約当事者の一方がその債務を履行できないのであれば、他方の当事者はその契約を解除することができる(なお、現行民法543条ただし書きでは、履行不能による契約解除の要件として「債務者の責めに帰すことができない事由」がないことを求めており(=その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものである場合、債権者は契約を解除できない)、この点がしばしば紛争のきっかけとなってきたが、改正民法(2020年4月1日施行)542条第1項では、こうした事由の有無を問わずに履行不能を理由に契約解除ができる旨を明文化している)。したがって、労働者が労務を提供できない状態になった場合、使用者は労働契約を解除(=解雇)できると考えられている。

もっとも、労働者が一定期間を経過すれば再び働けるようになる可能性がある場合、その一定期間、解雇を“猶予”する「休職制度」を就業規則で設けている企業は多い(労働基準法や労働契約法には休職に関する規定は存在しないため、休職制度を設けることは法的な義務ではなく、あくまで使用者の任意)。ただし、休職制度を利用しても、所定の休職期間が満了した時点で病気等が治癒しなかった場合、その時にこそ労働契約が解除(この場合、一般的には「解雇」ではなく「自動退職」という位置付け)されることになる。そこで問題になるのが、「治癒」とは具体的にどういう状態を指すのかということだ。・・・

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2019/12/18 休職期間満了時に病気が治癒しなかった従業員の解雇の是非(会員限定)

政府が推進する「働き方改革」の目的の一つには、長時間労働の抑制による健康被害の防止があるが、従業員数の多い上場企業では、どうしても一定割合は心身の不調に陥る者が出て来る。心身の不調に陥った従業員に企業がどのように向き合うのかは従業員の労働のモチベーションにも大きな影響を及ぼす。そこからは「従業員に優しい会社かどうか」という企業体質が透けて見えるからだ。近年は、伊藤忠商事のように、柔軟な勤務・休暇制度を整備することなどにより、がんと仕事の両立支援を打ち出している企業もある(伊藤忠商事の取り組みはこちら)。

とはいえ、役務を全く提供できない状態にある従業員を雇用し続けることも企業にとっては難しいという現実がある。労働契約は「労働者が労務を提供し、これに対し使用者が賃金を支払う」という“双務契約”であるため、契約当事者の一方がその債務を履行できないのであれば、他方の当事者はその契約を解除することができる(なお、現行民法543条ただし書きでは、履行不能による契約解除の要件として「債務者の責めに帰すことができない事由」がないことを求めており(=その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものである場合、債権者は契約を解除できない)、この点がしばしば紛争のきっかけとなってきたが、改正民法(2020年4月1日施行)542条第1項では、こうした事由の有無を問わずに履行不能を理由に契約解除ができる旨を明文化している)。したがって、労働者が労務を提供できない状態になった場合、使用者は労働契約を解除(=解雇)できると考えられている。

もっとも、労働者が一定期間を経過すれば再び働けるようになる可能性がある場合、その一定期間、解雇を“猶予”する「休職制度」を就業規則で設けている企業は多い(労働基準法や労働契約法には休職に関する規定は存在しないため、休職制度を設けることは法的な義務ではなく、あくまで使用者の任意)。ただし、休職制度を利用しても、所定の休職期間が満了した時点で病気等が治癒しなかった場合、その時にこそ労働契約が解除(この場合、一般的には「解雇」ではなく「自動退職」という位置付け)されることになる。そこで問題になるのが、「治癒」とは具体的にどういう状態を指すのかということだ。

古い判例では「原則として従前の職務を通常の程度に行える健康状態に復したとき」(千葉地判S60.5.31)など、いわば“完全回復”が求められており、この判決文を踏まえて休職期間満了後の復職条件を定めている企業も少なくなかった。しかし、たとえ就業規則上はその規定がいまだ存在しているとしても、今日においてはそれを文言通りに適用するリスクは高い。というのも、平成10年に最高裁が「現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、‥他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解する」(最一判H10.4.9)と判示して以来、裁判所は、完治していなくても軽微な業務に就かせられる可能性を検討するよう、使用者に求めているからだ。この傾向は、「完治」という概念の無い精神疾患では特に顕著となっている。また、厚生労働省を中心に、近年は政府も「病気治療と仕事の両立」を推進しているという状況もある(厚生労働省は今年(2019年)3月に「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」を改訂している)。

したがって、企業としては、休職期間満了時において「従前の職務ができない」からといって安易に解雇(または退職)を迫るのではなく、上記最高裁判例にあるように「軽微な業務に就かせる」ほか、例えば「時差勤務や短時間勤務を認める」「通勤しやすい職場に配置転換させる」など、その人の健康状態に配慮した働き方をまずは考えるべきだろう。上述とおり、「休職」は「解雇の猶予」ではあるが、それゆえに「解雇回避義務も問われる」と認識しておきたい。

解雇回避義務 : 過去の判例には、私傷病により休職していた従業員が休職期間満了時に、原職に戻れる程度にまで健康状態を回復していなかった場合、会社が、そのことをもって解雇することは許されず、その者の状態に見合った業務量の軽減や配置転換等により雇用を継続するよう努めなければならないとするものがある(大阪地判H11.10.4等)がある。ただし、その従業員のためにわざわざ新たな職務を用意することまでは求められていない(東京地判16.3.26)。

2019/12/17 気候変動関連の株主提案に反対するClimate Action 100+やTCFDのメンバー運用会社に批判の声

2019年11月20日のニュース「気候変動関連の株主議案への賛成率、日本の運用会社トップは?」でお伝えした英国のNGO「ShareAction(シェアアクション)」のレポート「Voting Matters: Are asset managers using their proxy votes for climate action?(運用会社は気候変動の株主提案に賛成しているのか?)」が波紋を呼んでいる。パリ協定の実現を目指すグローバルな機関投資家の団体である「Climate Action 100+」に参加するメンバーや、金融安定理事会(FSB)が設置した気候変動リスクの情報開示を進めるTCFD(The FSB Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)に賛同するサポーターであるにもかかわらず、気候変動に関する株主提案への賛成率が極めて低い運用会社が少なからず含まれているからだ。

パリ協定 : 2015年末にパリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択された2020年以降の温暖化対策の国際的枠組み。パリ協定では、18世紀後半に起きた産業革命前と比較し、気温の上昇を「2℃以内」にとどめることを目標としており、各国に対し、温室効果ガスの排出削減目標を設定のうえ、5年ごとに進捗報告およびより厳しい目標への更新を行うことを義務付けている。
Climate Action 100+ : 機関投資家が、温室効果ガスを排出する世界最大級の企業と協力し、こうした企業が気候変動に関するガバナンスを改善するとともに、排出量を抑制し、気候関連の財務情報の開示を促進するために設立された団体。
金融安定理事会(FSB) : 主要国の金融当局で構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織。中央銀行、金融監督当局、財務省、IMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)なども参加している。

同レポートは欧米をはじめとする世界各国の大手資産運用会社57社を対象に、気候変動に関する65の株主提案に対する賛否を確認したものであり、上記「気候変動関連の株主議案への賛成率、日本の運用会社トップは?」では賛成率が高かった運用会社トップ10を紹介したが、ワースト10は下表のとおり。・・・

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