2019/12/17 気候変動関連の株主提案に反対するClimate Action 100+やTCFDのメンバー運用会社に批判の声(会員限定)

2019年11月20日のニュース「気候変動関連の株主議案への賛成率、日本の運用会社トップは?」でお伝えした英国のNGO「ShareAction(シェアアクション)」のレポート「Voting Matters: Are asset managers using their proxy votes for climate action?(運用会社は気候変動の株主提案に賛成しているのか?)」が波紋を呼んでいる。パリ協定の実現を目指すグローバルな機関投資家の団体である「Climate Action 100+」に参加するメンバーや、金融安定理事会(FSB)が設置した気候変動リスクの情報開示を進めるTCFD(The FSB Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)に賛同するサポーターであるにもかかわらず、気候変動に関する株主提案への賛成率が極めて低い運用会社が少なからず含まれているからだ。

パリ協定 : 2015年末にパリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択された2020年以降の温暖化対策の国際的枠組み。パリ協定では、18世紀後半に起きた産業革命前と比較し、気温の上昇を「2℃以内」にとどめることを目標としており、各国に対し、温室効果ガスの排出削減目標を設定のうえ、5年ごとに進捗報告およびより厳しい目標への更新を行うことを義務付けている。
Climate Action 100+ : 機関投資家が、温室効果ガスを排出する世界最大級の企業と協力し、こうした企業が気候変動に関するガバナンスを改善するとともに、排出量を抑制し、気候関連の財務情報の開示を促進するために設立された団体。
金融安定理事会(FSB) : 主要国の金融当局で構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織。中央銀行、金融監督当局、財務省、IMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)なども参加している。

同レポートは欧米をはじめとする世界各国の大手資産運用会社57社を対象に、気候変動に関する65の株主提案に対する賛否を確認したものであり、上記「気候変動関連の株主議案への賛成率、日本の運用会社トップは?」では賛成率が高かった運用会社トップ10を紹介したが、ワースト10は下表のとおり。同レポートで取り上げられた株主提案の例としては、「パリ協定の目標を達成するための方法を定めて開示する」(シェブロン(石油))、「温暖化ガス削減に反するロビー活動を公表する」(フォード)、「気候変動問題に対応する取締役会委員会を設置する」(エクソンモービル)などがある。

順位 投資家 賛成率
1 Capital Group US 4.9
2 T.Rowe Price US 5.3
3 Blackrock US 6.7
J.P.Morgan US
4 Vanguard Asset Management US 8.3
5 Fidelity Management and Research Co US 9.3
6 Wellington Management International US 9.8
7 Franklin Templeton US 18.0
8 Northern Trust US 21.3
9 State Street Global Advisors US 26.2
10 MetLife Investment Management US 31.6

ワースト10のうちNorthern Trust はClimate Action 100+のメンバーであり、矛盾した議決権行使について厳しい指摘を受けている。また、Blackrock、J.P.Morgan、Vanguard Asset Management、Fidelity Management and Research Co、State Street Global Advisorsの5社はTCFDサポーターとなっている。

もっとも、本レポートをきっかけに、この流れも変わるかもしれない。

本レポートを作成したNGOのシェアアクションは2005年、責任投資を推進する目的で設立されたが、そのルーツは1990年代に遡る。当時、大学生のネットワーク「ピープル&プラネット」が大学教職員の退職年金基金(USS)に対して、社会的責任を重視したサステナブルな投資方針を採択するよう求める「USSの倫理(Ethics for USS)」キャンペーンを展開した結果、USSは責任投資をサポートする最初の年金基金となった。このキャンペーンが母体となって活動を開始したのがシェアアクションだ。インドにおけるジェネリック薬品の開発中止を求めるノバルティスの法廷闘争に反対した「特許対患者(Patents vs Patients)」キャンペーン、BPとシェルに対してカナダのシェールオイル事業に関するリスクの開示を求める株主提案などを実施してきた。これらの実績を見ても、シェアアクションは資本市場に対して一定の影響力を有していると思われ、本レポートが米国の投資家コミュニティに意識変革をもたらすきっかけになる可能性は否定できないだろう。

シェールオイル : 地下深くの頁岩(けつがん)層と呼ばれる硬い地層に含まれる原油

現状、日本企業に対して気候変動関連の株主提案が提起された事例は確認できていない。しかし、気候変動問題がグローバルな関心事であることは間違いないだけに、今後アクティビストなどが「行動」を起こさないとも限らない。前述のように米国の運用会社の多くは気候変動関連の株主提案議案に賛成しておらず、特にビッグ3と言われるBlackrock、Vanguard Asset Management、State Street Global Advisorsが積極的でないことから、今のところ影響は限定的なものにとどまっているものの、本レポートなどのオピニオンが投資家の危機意識を高め、資本市場からのプレッシャーを無視できなくなる局面が訪れるのもそれほど先のことではないだろう。

2019/12/16 インパクト投資の最新事情

ESG投資とともに存在感を増しつつある「(社会的)インパクト投資」だが(両者の違いについては2019年2月18日のニュース「インパクト投資とESG投資の違い」参照)、年金や保険会社といった機関投資家は世界的に拡大するESG投資では中心的な存在となっている一方、インパクト投資を実行する機関投資家はいまだ少ないのが現状となっている。

ESG投資 : ESGとは、「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。ESG投資とは文字通り「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資することをいう。

というのも、ESG投資は長期的には収益に結びつくと考えられているため、長期投資家には不可欠なものとなっているのに対し、インパクト投資は長期的な収益も求めつつ、投資を通じた社会的なインパクトも考慮しているからだ。すなわち、ESG投資では、環境・社会・ガバナンス問題の解決が最終的には「リターン」という形で投資家にもたらされると考えられているのに対し、インパクト投資は、直接的に環境・社会問題を解決することを意図していると捉えられている。インパクト投資においても、問題解決に伴うリターンの計測方法について様々な取り組みがなされているものの、いまだコンセンサスには至っていない。そのため、最終顧客である年金受益者に対するフィデューシャリー・デューティー(受託者責任)の観点から、年金等の機関投資家が、インパクト投資を実行することは困難となっている。

こうした中、現状、世界的にインパクト投資を拡大しているのが・・・

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2019/12/16 インパクト投資の最新事情(会員限定)

ESG投資とともに存在感を増しつつある「(社会的)インパクト投資」だが(両者の違いについては2019年2月18日のニュース「インパクト投資とESG投資の違い」参照)、年金や保険会社といった機関投資家は世界的に拡大するESG投資では中心的な存在となっている一方、インパクト投資を実行する機関投資家はいまだ少ないのが現状となっている。

ESG投資 : ESGとは、「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。ESG投資とは文字通り「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資することをいう。

というのも、ESG投資は長期的には収益に結びつくと考えられているため、長期投資家には不可欠なものとなっているのに対し、インパクト投資は長期的な収益も求めつつ、投資を通じた社会的なインパクトも考慮しているからだ。すなわち、ESG投資では、環境・社会・ガバナンス問題の解決が最終的には「リターン」という形で投資家にもたらされると考えられているのに対し、インパクト投資は、直接的に環境・社会問題を解決することを意図していると捉えられている。インパクト投資においても、問題解決に伴うリターンの計測方法について様々な取り組みがなされているものの、いまだコンセンサスには至っていない。そのため、最終顧客である年金受益者に対するフィデューシャリー・デューティー(受託者責任)の観点から、年金等の機関投資家が、インパクト投資を実行することは困難となっている。

こうした中、現状、世界的にインパクト投資を拡大しているのが財団や「ファミリーオフィス」であり、その中心にいるのが、ファミリーオフィスにおけるミレニアル世代だ。ファミリーオフィスとは直訳すれば「家族の事務所」だが、明確な基準はないものの、一般の富裕層とは“レベルが違う富裕層”、具体的には通常は1000億円(ビリオネア)以上の資産を有する富裕層が家族の資産を管理して後の世代に継承し、家系が永続的に繁栄することを目的として、家族の資産管理などのために設立するプライベートな組織を指す。ファミリーオフィスは日本ではまだ数は多くないが、欧米では相当数存在している。代表的なところでは、例えばロックフェラー一族やビル・ゲイツ一族がファミリーオフィスを保有していることが知られている。

ミレニアル世代 : 2000年代に成人・社会人になった世代(すなわち、1980年代~2000年代初頭生まれ)を指す。インターネットが普及した環境で育った最初の世代で、情報リテラシーに優れているのが特徴。ミレニアル(millennial)とは「千年紀の」という意味。

ファミリーオフィスにおけるミレニアル世代は、自らの意思でインパクト投資を実行し、極端な場合は、投資パフォーマンスよりも社会的なインパクトを優先することもある。ミレニアル世代は史上初の‟デジタル・ネイティブ“世代であるとともに、これまでの世代とは価値観が大きく異なっており、特に生まれ育った社会情勢(アメリカ同時多発テロ事件や阪神淡路大震災・東日本大震災など)の影響から、環境や社会への関心が高い。ミレニアル世代は、欧米のみならず、日本を含む全世界的な広がりを見せている。

ミレニアル世代によるインパクト投資で注目されるのは、現時点ではそのほとんどが未上場株式への投資となっている点だ。これは、財団やファミリーオフィスは、年金や保険会社といった機関投資家と比べ規模が小さいため、巨大な上場企業ではなく、影響力を発揮できる未上場企業への投資を選択するからである。

ただ、今後、ミレニアル世代が社会の中核を担い、その金融資産が拡大するにつれて、リテール市場(投資信託)の需要が拡大していくことが予想される。リテール市場は極めて大きいため、インパクト投資の対象として、未上場株だけではポートフォリオが組めず、上場企業が投資の中心となっていくと考えられる。ミレニアル世代が株価を左右する時代がそう遠くない将来訪れる可能性があることを、上場企業の経営陣は今のうちから意識しておくべきだろう。

2019/12/13 IFRS採用会社増加につながるか 「差異」開示が初年度限定に

2019年6月末に198社だったIFRS適用済会社はついに200社を突破(2019年11月現在、IFRS適用済会社は204社。東京証券取引所のIFRS適用済・適用決定会社一覧はこちら)、IFRS適用決定会社12社も含めると216社にのぼっている(IFRS適用済会社数については2019年8月9日のニュース「IFRS採用会社の時価総額が3割越えも、残された課題」を参照)。こうした中、金融庁は・・・

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2019/12/13 IFRS採用会社増加につながるか 「差異」開示が初年度限定に(会員限定)

2019年6月末に198社だったIFRS適用済会社はついに200社を突破(2019年11月現在、IFRS適用済会社は204社。東京証券取引所のIFRS適用済・適用決定会社一覧はこちら)、IFRS適用決定会社12社も含めると216社にのぼっている(IFRS適用済会社数については2019年8月9日のニュース「IFRS採用会社の時価総額が3割越えも、残された課題」を参照)。こうした中、金融庁は2019年12月12日、IFRS適用会社の開示負担の軽減を図るべく、日本基準からIFRSに移行した会社の提出書類を見直す企業内容等の開示に関する内閣府令(以下、開示府令)の改正案を公表した。

IFRS適用会社は、IFRSに移行した年度(以下、「移行年度」)の翌年度以降も毎期、有価証券報告書の【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】における「経営成績等の状況の概要に係る主要な項目における差異に関する情報」に、IFRSにより作成した連結財務諸表における主要な項目(収益に関する項目等)と日本基準により作成した連結財務諸表におけるこれらに相当する項目との「差異」の概算額等を記載する必要がある(以下、「本開示」。開示府令第二号様式記載上の注意(32)d)。本開示は、移行年度だけでなく、移行年度後もIFRS適用をしなくなるまで毎期継続して必要になる。

本開示には一律の記載様式が定められているわけではないため、開示内容は会社の判断に委ねられており、例えばHOYAや武田薬品工業のようにのれんの償却停止だけを開示する会社もある。しかし、その場合でも定性的な開示にとどまらず、「概算額」という定量的な開示も求められることから、開示に向けての工数(集計、検算等)はかかる。IFRSと日本基準の「差異」の概算額の開示は監査法人の会計監査の対象外とはいえ、万が一当該金額に誤りがあれば投資家の判断にも影響を及ぼしかねないため、何重ものチェックを経る必要がある。

のれん : 企業を買収したり合併したりする際における「支払対価-企業の時価純資産」こと(これがプラスの場合、「正ののれん」という。以下は「正ののれん」を前提とする)。のれんは「財務諸表には表れない企業の価値」と言える。つまり、のれんは投資原価の一部を構成している。このため、そこで日本の会計基準では、のれんについては「20年以内の期間」で償却し、のれんの価値が下がった場合には「減損」を行うことになっている。一方、IFRSおよび米国会計基準では、「のれん」の定期償却は認められていない(減損処理しか認められない)。そこには、利益の平準化を好む日本型経営と、業績好調時にはできるだけ利益を出し、逆に業績悪化時にはすべて“膿”を出すという欧米型経営の発想の違いがある。

のれん以外にも、IFRSと日本の会計基準の間で差異がある開示項目を増やせば当然工数も増えることになる。例えばSBIホールディングスの「金融商品の評価に係る損益」、ファーストリテイリングの「外貨建貨幣性金融商品の換算差額に関する事項」、日本板硝子の「従業員給付(退職給付、解雇給付など)」といった項目を限定した開示にとどまらず、IFRS適用第1号会社の日本電波工業のように「営業利益」「税引前当期利益」「当期利益」まで開示するとなると、IFRSに準拠した場合の利益と日本基準に準拠した場合の利益を比較するために両者の調整内容(日本基準に準拠した利益をIFRSに準拠した利益に算出し直すために行った調整)を整理した「調整表」を作成しておかないと情報の整理が難しくなってくる。

もともと本開示はIFRS適用済会社に余計な負荷をかけるとして、産業界からは導入時より反対の声があった。IFRSの任意適用開始(2010年3月期~)に先立ち実施された有価証券報告書に本開示の記載を求めるかどうかを問うパブリックコメント(2009年)では、金融庁に「当該開示については、少なくとも2012年以降は不要としていただきたい」といった要請が寄せられていたものの、当時の金融庁は「日本基準を適用している会社の財務諸表との比較可能性等を考慮し、記載を求める」との「考え方」を示し、産業界の反対を押し切って導入が決まったという経緯がある。

それから約10年が経過する中、産業界には「投資判断における情報の有用性や活用度合いには疑問」(2019年9月3日開催の企業会計審議会総会・第6回会計部会合同会合における石原委員(日本製鉄 常務執行役員)の発言)との意見がくすぶっていた。また、投資家サイドからも、「IFRS適用企業で、適用2年目からIFRSと日本基準の差異の記載を省略することで企業の開示負担が減少するのであれば、その余力をもってグローバルピアと比較して遜色のない開示、例えば実質的な注記、有用な注記の充実などを図っていただけたら」(同じく企業会計審議会総会・第6回会計部会合同会合における水口委員(日本格付研究所 審議役兼チーフ・アナリスト)の発言)との声が上がっていた。

グローバルピア : 世界各国における競合

こうした声を受け金融庁はこのほど、IFRS任意適用促進の観点から開示府令を改正し、IFRS適用2年目からの「IFRSと日本基準の主要な差異」の開示を廃止する案を示した(廃止案はこちらを参照)。この改正が実現すると、日本基準とIFRSとの差異に関する説明はIFRS適用初年度の有価証券報告書にだけ記載すればよいことになる。

金融庁は、来年(2020年)1月14日までパブリックコメントを募集した後、公布の日(現状では未定)からの施行を予定している。本開示の廃止は、開示のための工数が減るIFRS適用済会社にとっては間違いなく朗報と言える。また、これによりIFRSを採用する会社の増加に弾みがつくか、注目されるところだ。

2019/12/12 SSコード改訂案が公表、助言会社・企業間のコミュニケーション活発化も

日本シェアホルダーサービス株式会社
シニアアナリスト 水嶋 創

 
金融庁は昨日(2019年12月11日)、スチュワードシップ・コードの改訂案を公表した。パブリックコメント等のプロセスを経て、早ければ2020年3月にも施行される見通しとなっている。

本稿では、改訂案のうち企業に影響がありそうな・・・

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2019/12/12 SSコード改訂案が公表、助言会社・企業間のコミュニケーション活発化も(会員限定)

日本シェアホルダーサービス株式会社
シニアアナリスト 水嶋 創

 
金融庁は昨日(2019年12月11日)、スチュワードシップ・コードの改訂案を公表した。パブリックコメント等のプロセスを経て、早ければ2020年3月にも施行される見通しとなっている。

本稿では、改訂案のうち企業に影響がありそうな「サステナビリティの考慮」「社外役員との対話」「(議決権行使における)賛否理由の開示」「議決権行使助言会社等の機関投資家向けサービス提供者に対する規定」の4点について解説する。

改訂案全体を見渡してまず目に付くのは「サステナビリティ」という用語の多さであろう。全部で5回登場するが、特に注目されるのが、機関投資家に対し、「サステナビリティに関する課題を考慮するか」「考慮する場合にはどのように考慮するか」について意思表明を求めている点だ。これを企業の立場から見れば、今後ESGをテーマとした機関投資家との対話が増える可能性がある。

また、改訂案において使用されている「ESG要素」という用語について「ガバナンス及び社会・環境に関する事項を指す」と注記されている点も注目される。通常の「環境・社会・ガバナンス」の順番ではなく、「ガバナンス」が先頭に来ており、さらに「ガバナンス」が社会・環境と明確に区別されている。今後も機関投資家との対話の中心はガバナンスであるということを示唆していると言えよう。

「社外役員との対話」に関する改訂としては、機関投資家の企業との対話において「ガバナンス体制や事業ポートフォリオの見直しを含む経営優先課題等について投資先企業との認識の共有を図るために、当該企業の独立社外取締役・監査役との間で対話を行うことも有益であると考えられる」との記述が追加されている。これにより、機関投資家から社外役員に対する面談要請が増えることが予想される。社外役員との対話の内容として、「ガバナンス体制」と並列して「事業ポートフォリオの見直し」が挙げられている点にも留意したい。内部統制実務などを経験しガバナンス体制には詳しい社外役員でも、ファイナンスの知識がベースとなる「事業ポートフォリオ」には必ずしも精通していない場合もあろう。本改訂に伴い、社外取締役に対する事務局のサポートの重要性がますます高まるだろう。

「(議決権行使における)賛否理由の開示」については、「外観的に利益相反があると疑われる投資先企業の議案」や「議決権行使の方針とは異なる判断を行った議案」を含む、「投資先企業との建設的な対話に資する観点から重要と判断される議案」について賛否の理由を公表すべきとの記述が追加された。本改訂により、機関投資家による議決権の個別開示(企業ごと、議案ごとの賛否の開示)における反対理由の開示が進むことが期待される。さらに、各機関投資家が独自に定める議決権行使基準に形式的に抵触したものの、対話を経て賛成となった事例などが可視化されれば、SR活動のヒントとなることもあるだろう。

SR : Shareholder Relations の略で、「株主向け広報」と訳される。株主を含む広く投資家全般に対する広報活動を「IR」 (Investor Relations) と呼ぶのに対し、SR活動とは、企業と株主との信頼関係を築くための活動を指す。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

今回の改訂で新設された原則が「議決権行使助言会社等の機関投資家向けサービス提供者に対する規定」だ(1つの原則と3つの指針)。これらの規定では、(1)議決権行使助言会社が企業に対し、助言の前提となった情報に齟齬がないか等を確認する機会を与えることや、(2)賛否助言とともに企業から出された意見も合わせて顧客である機関投資家に提供することが、正確性や透明性の確保の観点から有用である旨が明記されている。これにより、議決権行使助言会社から賛否助言が表明される前に、企業が前提情報の確認を求めるなど、議決権行使助言会社・企業間のコミュニケーションが活発になる可能性がある。また、議決権行使助言会社の賛否推奨内容に対する自社の考えを表明する重要性がますます高まることになりそうだ。

2019/12/11 グラスルイスが2020年版ガイドライン公表、ISSが見送った政策保有株式のポリシー導入

(2019年)12月9日、議決権行使助言会社大手のグラスルイスが2020年版の日本企業向けガイドラインを公表した。現在のところ同社のウェブサイトに掲載されているのは英語版のみとなっており、日本語版は依然として2019年版が掲載されている。例年通りであれば年明けの1月中旬には日本語版も公表されるものと予想される。

グラスルイスは2019年より「ジェンダー・ダイバーシティ」に関する方針を導入、TOPIX100採用銘柄で女性役員が1人もいない企業については、責任を問うべき取締役の選任議案に反対行使を助言するとしている。2020年版のガイドラインでは、この方針の適用範囲を東証1部および東証2部上場企業にも拡大する。この適用範囲拡大は既に2019年版ガイドラインで予告されていたため“サプライズ”はないが、未だ女性役員を選任していない東証1・2部企業は相当数に上るとみられるだけに、決して影響は小さくないだろう。

なお、上記方針における「女性役員」には、取締役、監査役のほか、指名委員会等設置会社の執行役が該当する(会社法上の役員ではない執行役員は該当しない)。また、反対助言の対象となる取締役とは、監査役会設置会社と監査等委員会設置会社では会長(会長がいなければ社長)、指名委員会等設置会社では指名委員会の委員長となる。ただし、女性役員がいない場合でも「明確な方針や取組みに関する十分な説明」があれば、例外的に反対助言を行わないこともあるとしている。

また、2020年版ガイドラインでは「1年間」の猶予期間を置いた上で、・・・

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2019/12/11 グラスルイスが2020年版ガイドライン公表、ISSが見送った政策保有株式のポリシー導入(会員限定)

(2019年)12月9日、議決権行使助言会社大手のグラスルイスが2020年版の日本企業向けガイドラインを公表した。現在のところ同社のウェブサイトに掲載されているのは英語版のみとなっており、日本語版は依然として2019年版が掲載されている。例年通りであれば年明けの1月中旬には日本語版も公表されるものと予想される。

グラスルイスは2019年より「ジェンダー・ダイバーシティ」に関する方針を導入、TOPIX100採用銘柄で女性役員が1人もいない企業については、責任を問うべき取締役の選任議案に反対行使を助言するとしている。2020年版のガイドラインでは、この方針の適用範囲を東証1部および東証2部上場企業にも拡大する。この適用範囲拡大は既に2019年版ガイドラインで予告されていたため“サプライズ”はないが、未だ女性役員を選任していない東証1・2部企業は相当数に上るとみられるだけに、決して影響は小さくないだろう。

なお、上記方針における「女性役員」には、取締役、監査役のほか、指名委員会等設置会社の執行役が該当する(会社法上の役員ではない執行役員は該当しない)。また、反対助言の対象となる取締役とは、監査役会設置会社と監査等委員会設置会社では会長(会長がいなければ社長)、指名委員会等設置会社では指名委員会の委員長となる。ただし、女性役員がいない場合でも「明確な方針や取組みに関する十分な説明」があれば、例外的に反対助言を行わないこともあるとしている。

また、2020年版ガイドラインでは「1年間」の猶予期間を置いた上で、2021年から「過剰な政策保有(excessive strategic shareholding)」に関する新基準を導入する。ここでいう「過剰」とは「純資産の10%超(exceeds 10% or more of company’s net assets)」と定義されており、前年度の有価証券報告書において開示された金額で判断することになる。「10%超」であった場合に反対助言を受けるのは、ジェンダー・ダイバーシティ方針と同様、取締役会会長(いなければ社長)である。

一方、2019年10月15日のニュース『ISS、上場子会社に社外取締役比率「3分の1」基準導入へ』(最終段落参照)でお伝えしたとおり、ISSは株式持ち合いに関するポリシー(株主資本に対する持ち合い株式の割合が一定割合を超えた場合、経営トップの選任議案に反対する)の導入を見送っている。ISSが見送ったポリシーをグラスルイスは導入したという点、注目される。

ただし、グラスルイスはこの「過剰な政策保有」方針についても、例外的に反対助言をしないケースがある可能性に触れている。具体的には、(1)政策保有株式を削減する明確な計画(clear plan to reduce the size of its strategic shareholdings)を開示している場合、(2)政策保有の株式数を削減した実績(a track record of reducing such shares)がある場合――の2つのケースを挙げている。(1)については、「明確な計画」と言っている以上、数値目標を伴うことが想定されるが、具体的にどの程度の削減幅であれば「反対助言をしない」ケースに該当するのかは現時点では明らかになっていない。(2)についても詳細は明らかになっていないが、上場企業としては、どの程度の削減実績が必要なのか、また何年間の実績で判断されるのかといった点、気になるところだろう。

上述の不明点については今後(日本語版のリリース時など)、グラスルイスから何らかの基準が示される可能性はある。しかしその一方で、グラスルイスの立場としては、どの程度の削減が望ましいのかは企業自身に考えて欲しいとして、あえて基準を明らかにしないことも十分に考えられる。機関投資家の感覚からすれば、毎年二桁ペースで削減する計画もしくは実績でなければ満足しないであろう。単年度ではなく少なくとも3年間程度の継続的な取り組みが期待されることも予想される。相当に具体的かつ大胆な削減計画または実績でなければ、「例外」として認められないと考えておいた方が無難と言えそうだ。

2019/12/10 【2019年11月の課題】改正民法への対応(会員限定)

はじめに

2017年5月26日、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)が成立し、改正された規定の大半は2020年4月1日に施行されます。今回の民法改正(以下「本改正」といいます。)は、主に債権関係の規定を中心とするものとなっていますが、明治29年(1896年)に民法が制定されて以来約120年ぶりの大改正であり、本改正による企業実務への影響も相当程度見込まれます。

本稿では、企業実務への影響が生じる改正のうち主なものを取り上げて解説します。

債務不履行に基づく損害賠償請求等で問題に

(1)消滅時効の見直し
<改正のポイント>

本改正前は、債権は、権利を行使することができる時から10年間行使しないときは、時効により消滅し(改正前民法166条1項、167条1項)、商行為によって生じた債権は、原則として5年間行使しないときは、時効によって消滅するとされていました(改正前商法522条:商事消滅時効)。本改正後は、債権が商行為によって生じたか否かを問わず、①債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年間行使しないとき、又は②権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年間行使しないときは、時効により消滅するとされました(改正後民法166条1項)。

<企業への影響>
消滅時効に関する改正は業界を問わず企業実務への影響があり得ますが、商行為によって生じる代金債権などを想定すると、売主などの債権者は弁済期の到来を認識できることが通常ですので、①の主観的起算点と②の客観的起算点は一致することが多いと思われます。そのため、一般的には、本改正の前後で商事消滅時効に大きな変化はないと考えることも可能です。

しかし、例えば債務不履行に基づく損害賠償請求権については、債権者が当該請求権を行使できることを認識するのが債務不履行の時点よりも後になることも多く、その場合は①の主観的起算点が②の客観的起算点よりも遅くなるため、従前よりも、時効消滅の時期が後ろ倒しされるという影響が生じます。

法定利率の引き下げで損害保険料が高額化する可能性も

(2)法定利率の見直し
<改正のポイント>

本改正前は、債務に関する法定利率は年5パーセントの固定利率とされ、また、商行為によって生じた債務に関する商事法定利率は年6パーセントの固定利率とされていました(改正前民法404条・改正前商法514条)。本改正後は、商事法定利率が廃止されて法定利率が一本化されるとともに、法定利率の固定制も廃止され、変動制が採用されることになります。具体的には、当初の法定利率は年3パーセントとなりますが(改正後民法404条2項)、その後、3年毎に1パーセント単位で見直しが行われます(改正後民法404条3項・4項)。

<企業への影響>
法定利率に関する改正も、業界を問わず企業実務への影響があり得ますが、従前同様、当事者が利息を生ずべき債権について別段の意思表示をしていればそれに従うことになりますので(改正後民法404条1項)、実際に法定利率が適用されるのは、債務不履行に基づく損害賠償請求権や不当利得返還請求権、不法行為に基づく損害賠償請求権、契約解除に伴う金銭返還請求権の遅延損害金などに限られることが多いと思われます。

不当利得返還請求権 : 法律上の正当な理由なく、他者の損失によって財産的利益を得た者に対し、自己の損失を限度として、その利得返還を請求できる権利のこと。例えば購入した商品に不備があり、販売者の指示どおり返品したにもかかわらず、販売者から返金や交換といった対応がなされなかった場合などにおいては、購入者は販売者に対し不当利得返還請求権を有することになる。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

こうした請求権について法定利率が適用されることを回避するためには、契約書等に遅延損害金等に関する規定を漏れなく定めることが重要になります。

また、交通事故等の不法行為等に基づく損害賠償額の算定にあたっては、将来の逸失利益の現在価値を算出する際に法定利率を用いて中間利息分を控除しますが、法定利率が3パーセントに下がることにより控除対象となる中間利息が減るため、損害賠償額が高額化することが予想されており、これに伴い、損害保険料が高まるといわれています。

グループ企業や取引先等に融資を行う企業に影響も

(3)保証制度の見直し
<改正のポイント>
ア 情報提供義務

改正後民法では、債権者及び主債務者に対し、保証人への情報提供義務が新設されます。具体的には、債権者は、①保証の委託を受けた保証人(法人と個人の別を問わない。)の請求を受けた場合には、主債務の元本及び従たる債務(利息、違約金、損害賠償等)の全てについて、不履行の有無、残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を保証人に提供する義務を負い(改正後民法458条の2)、また、②保証人が個人である場合には、委託の有無にかかわらず、主債務者が期限の利益を喪失したことを債権者が知った時から2か月以内に、その旨を保証人に通知する義務を負うこととされました(改正後民法458条の3第1項、第3項)。

期限の利益 : 期限があることによって債務者が受ける利益のこと。金銭消費貸借契約の場合、債務者は、契約で定められたそれぞれの弁済期限までは、借入金の弁済をしなくてよいが、これが期限の利益である。例えば債務者が倒産手続に入った場合などには、期限の利益を喪失することになる。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

更に、主債務者は、保証人が個人(ただし、主債務者に債務保証の委託を受けた者に限る。)であり、かつ当該債務保証が事業のために負担するものである場合には、保証契約締結時に、①主債務者の財産及び収支の状況、②主債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況、③主債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容に関する情報を保証人に提供する義務を負うこととされました(改正後民法465条の10第1項、第3項)。主債務者が当該義務に違反し、それによって保証人が保証契約締結時の主債務者の財産状況等について誤認をし、保証契約が締結されたときは、保証人は、債権者が義務違反について悪意又は有過失である場合に限り、当該保証契約を取り消すことができます(同第2項)。

<企業への影響>
これらの情報提供義務は、債権者の立場で保証人を設定することがある企業であれば、多かれ少なかれ影響を受ける可能性があります。前述のとおり、委託の有無、保証人の属性(個人か法人か)又は負担する債務の目的(事業のためか否か)により、義務を負う主体(債権者か債務者か)や義務の内容が異なるので、特に債権者の立場からすると、対応漏れ等により、保証契約が無効になるという不利益を受けるおそれがあります。そこで、情報提供義務を履行するための実務フローやマニュアルなどを整備しておくほか、、これらの情報提供義務に関するひな形規定等を準備して画一的な取扱いを導入し、対応漏れ等を防ぐことが考えられます。

自社が債権者の立場である場合の情報提供義務としては、①保証人からの情報提供請求に対して主債務者の履行状況等を提供することがあることや、②主債務者が期限の利益を喪失した場合にその旨の情報を保証人に提供することがあることについて、主債務者の同意を得ておくことが考えられます。また、債権者として保証契約が取り消される事態を回避するためには、主債務者による情報提供義務が履行されたことについて、主債務者及び保証人の双方に表明保証を求めることが考えられます。これらに伴い、債権者の立場から、保証人や債務者に対する説明体制の構築が求められると考えられます。

表明保証 : 契約時等の一定の時点において、契約内容等が真実かつ正確である旨を、契約等の相手方に表明し、保証すること。売買契約であれば、売主が買主に対して行うことが多い。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

イ 事業性融資における個人保証の制限
<改正のポイント>

改正後民法では、個人による保証のうち、「事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約」又は「主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約」等について、保証人になろうとする者が、その締結前1か月以内に公正証書でその旨の意思を表示しなければ、契約の効力を生じないとする新たな規律が整備されました(改正後民法465条の6第1項、3項)。

ただし、この規律は、保証人が主たる債務者たる法人の取締役等や議決権の過半数を有する者などである場合や、保証人が主たる債務者たる個人と共同して事業を行う場合、保証人が主たる債務者たる個人が行う事業に現に従事している配偶者である場合には適用が除外され、保証人になろうとする個人は、公正証書を作成することなく事業用融資の保証をすることができます(改正後民法465条の9)。

<企業への影響>
本改正は事業性融資における個人保証に関する改正であり、金融機関や貸金業者などの融資業務を行う企業のほか、グループ企業、取引先、従業員などへの融資を行っている企業が個人保証を求める場合には、本改正の影響が及ぶことがあり得ます。

実務上は、公正証書を作成すべきものなのかどうかを慎重に見極めることが必要となります。そして、仮に作成すべきこととなれば、有効に保証契約を締結するためには締結前1か月以内に公正証書により保証意思を確認する必要があり、そのための説明体制の構築が求められると考えられます。また、前述の適用除外規定(保証人が主たる債務者たる法人の取締役等などである場合)に該当するとして公正証書を作成しない場合であっても、契約書上、その根拠となる事実を表明保証の対象とするとともに、当該事実を証する書類の提出を貸付実行の前提条件とするといった手当てを行うべきと考えられます。

ウ 個人根保証の制限
<改正のポイント>

改正前民法は、個人根保証のうち、貸金等根保証(主債務に貸金等債務が含まれるもの)について、①極度額(保証の上限額)を定めなければ無効とするとともに(改正前民法465条の2第2項)、②所定の元本確定期日を定めて保証期間を制限した上で(改正前民法465条の3)、③元本確定期日の到来前であっても、所定の元本確定事由が発生した場合には元本が確定することとして(改正前民法465条の4)、包括根保証を禁止しています。

根保証 : 一定の範囲に属する不特定の債務について保証する契約のこと。保証人となる時点では現実にどれだけの債務が発生するのかがはっきりしないなど、どれだけの金額の債務を保証するのかが分からないという点に特徴がある。例えば会社の社長が,会社の取引先との間で,その会社が取引先に対して負担する全ての債務をまとめて保証するケースなどが該当する。根保証契約を締結して保証人となった場合、主債務の金額が分からないだけに、将来、保証人が想定外の債務を負うことになりかねない。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
包括根保証 : 債務者が現在保有する債務、また将来保有する債務のすべてについて、限度額と期間を定めないで保証する約束。保証人の負担が大きく、経営者の新たな事業展開や再起を阻害するとの指摘がされていたため、2005年4月1日からこの制度が廃止された。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

改正後民法は、貸金等根保証以外の根保証についても保証人の予測可能性を担保し、根保証の要否等について慎重な検討を求めるため、前述①③の対象を個人根保証一般に拡大しました(改正後民法465条の2、改正後民法465条の4)。ただし、個人根保証の中には、法で区切られた特定の年限に限って根保証の効力を認めることが実情に合わないものもあることから(建物賃貸借の家賃債務保証等)、前述②については、引き続き貸金等根保証のみに適用されることとしています。

<企業への影響>
本改正は、貸金等根保証以外の個人根保証を制限する改正であり、取引先への債権について個人根保証を求める企業の実務に大きな影響を与えます。例えば、取引基本契約の相手方(法人)の代表者を保証人とする場合、賃貸借契約のテナント(法人)の代表者を保証人とする場合、従業員に対し自社への損害賠償債務を保証させる身元保証を求める場合などです。

企業としては、そもそもこれらのケースが根保証に該当するかどうかを見極めた上で、仮に該当するとすれば極度額をどのように設定するかを検討することが必要になります。そして、これらに関して、債権者の立場から、保証人に対する説明体制の構築も求められると考えられます。

金融機関等への譲渡や担保提供を例外として許容するという判断も

(4)債権譲渡に関する見直し
<改正のポイント>

当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の特約(以下「譲渡制限特約」といいます。)を付した債権(以下「譲渡制限特約付債権」といいます。)が譲渡された場合、改正前民法においては、原則として当該譲渡は無効であると解されていましたが、改正後民法においては、その譲渡を有効としています(改正後民法466条2項)。

もっとも、債務者は、譲渡制限特約について悪意又は善意重過失のある譲受人その他の第三者に対しては、譲渡制限特約の効果として、①その履行請求を拒絶でき、②譲渡人に対する弁済等の債務消滅事由に対抗することができるとされています(改正後民法466条3項)。また、改正後民法では新たな弁済供託の原因を設けており、譲渡制限特約が付された金銭債権が譲渡されたときは、債務者は、その債権の全額に相当する金銭を供託することができるとしています(改正後民法466条の2第1項)。

弁済供託 : 金銭その他の財産の給付を目的とする債務を負担している債務者は、その債務を履行しようとしても、債権者が受領を拒んだり、あるいは債権者が死亡し、その相続人が不明である等の債務者の過失によらないで債権者を確知することができない等の理由により、その債務の履行ができない場合には、債務の目的物を供託所(法務局)に供託することによって、債務を免れることができる。例えば、地代(家賃)を払おうとしたところ、地主(家主)から「値上げ後の家賃でないと受け取らない」として、その受け取りを拒否された場合には、借主は、賃料を供託することによって、支払債務を免れることができる。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

<企業への影響>
譲渡制限特約に関する改正であり、業界を問わず企業実務への影響があり得ます。例えば、債権者が譲渡制限特約に反して債権を譲渡したものの、債務者として譲受人への弁済に抵抗がある場合(例えば、譲受人が反社会的勢力である疑いが払しょくできない場合など)で、かつ譲受人の主観(悪意又は善意重過失)が明らかでないときは、債務者は、改正後民法466条の2に基づき供託を行わざるを得ず、一定の時間とコストを強いられることとなります。

そこで、(1)契約の相手方に対し、譲渡制限特約付債権の譲受人その他の第三者に譲渡制限特約の存在及び内容を事前に通知し、当該通知によって譲受人その他の第三者に当該特約の存在を事前に知らしめた場合には、譲渡制限特約違反による責任が免責される旨を規定する方法(更に、この通知がされたことを示す証拠を提出することを免責要件に加えることも考えられる。)や、(2)(特に、譲渡制限特約に反して債権譲渡がされた場合に生じ得る不利益が無視できないものであるケースにおいては)譲渡制限特約に違反した譲渡等がされた場合には無催告で解除することができる旨や、無条件で取引を中断することができる旨、違反者が違約金を支払わなければならない旨を規定する方法が考えられます。

もっとも、特に(2)にあるような解除権や取引中断権、違約金条項を認めてしまうと、譲渡制限特約付債権の譲渡を有効とし、資金調達を円滑化しようとする改正民法の意義が大きく減殺されてしまうとの指摘や、そもそも改正後民法上、譲渡制限特約付債権の譲渡は契約違反にならないとの指摘、解除等が権利濫用になるとの指摘、債務者が新たな契約の締結・契約の更新に応じないことが信義則違反と評価される可能性があるとの指摘も存在する点には十分に注意する必要があります。

最終的には、契約の性質や文言、譲渡制限特約付債権の譲渡先や譲渡原因、当該譲渡によって債務者に生じた具体的な不利益などを総合的に考慮して個別に判断せざるを得ないと考えられますが、事実上のリスクを可及的に排除すべく、あえて前述のような規定とともに、金融機関等への譲渡や担保提供を例外として許容する規定を設けるという判断もあり得ます。

変更の合理性を対外的に説明できるようにしておく必要

(5)定型約款に関する規定の新設
<改正のポイント>

改正後民法においては、「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」を「定型取引」と定義し、その「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者が準備した条項の総体」を「定型約款」と定義しています(改正後民法548条の2)。

その上で、定型取引を行うことの合意(以下「定型取引合意」といいます。)をした者は、①定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき、又は②定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」といいます。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき(以下①又は②の要件を「組入れ要件」といいます。)には、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなすとしています(改正後民法548条の2第1項)。

もっとも、定型約款の個別の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして民法1条2項に規定する基本原則(信義誠実の原則)に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの(いわゆる不当条項、不意打条項)については、合意をしなかったものとみなされます(改正後民法548条の2第2項)。

また、改正後民法は、定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者に対して相手方から請求があった場合における定型約款の表示義務について定めているほか(改正後民法548条の3第2項)、定型約款の変更が下表の①又は②の要件を満たす場合には、定型約款準備者は、定型約款の変更をすることにより、個別に相手方と合意することなく、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなすことができるとしています(改正後民法548条の4第1項)、これらの要件とともに、定型約款の変更をする際の手続要件も設けています(改正後民法548条の4第3項)。

定型約款の変更の内容に関する要件(①、②のいずれか)
相手方の一般の利益に適合するとき
契約をした目的に反せず、かつ、次の事情に照らして合理的であるとき
 (1) 変更の必要性
 (2) 変更後の内容の相当性
 (3) 改正後民法の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容
 (4) その他の変更に係る事情

<企業への影響>
実務上は、多くの取引先に画一的に適用される約款等を用いる企業はもちろん、それ以外の企業であっても、自社で用いる条項が定型約款に該当するかどうかを検証することが必要となります。その意味では、業界を問わず企業実務への影響があり得ます。

定型約款に該当する場合には、(a)組入れ要件を満たすための実務フロー、(b)不当条項、不意打ち条項が存在していないかどうか、(c)相手方から請求があった際に定型約款の表示を行うための実務フローの確認が求められます。また、その定型約款の変更が(契約の相手方にとって)利益変更に該当しないときは、特に上記②の要件を満たすために、自社に有利な事情を積み重ねることによって変更が合理的であることを対外的に説明できるようにしておくとともに、変更の際の手続要件をしっかりと満たすことが重要となります。

不意打ち条項 : 相手方が知らないうちに、一方的に利益を害する条項。こうした条項はユーザーの権利を制限し、又はユーザーの義務を加重する条項であり、民法上の信義則に反することになる。例えば、月払いのレンタルサーバの契約において、「契約期間を10年」とし、中途解約する場合は高額の違約金を課すこととする条項などが該当する。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

賃貸借、請負、委任等の契約にも影響

(6)契約不適合の担保責任
<改正のポイント>

改正前民法においては、瑕疵担保責任(現行民法570条)の法的性質について、いわゆる法定責任と解するのか、債務不履行責任と解するのかなどについて、見解が分かれていましたが、改正後民法は、「債務不履行責任」説によることを明確化し、その法的効果として、損害賠償請求権及び解除権だけでなく(改正後民法564条)、追完請求権や代金減額請求権が規定されることとなりました(改正後民法562条、563条)。また、従来は瑕疵担保責任は「瑕疵」の存在が要件とされていましたが、改正後民法では「種類、品質及び数量に関して契約の内容に適合」するか否かを要件とされています。なお、公平性の観点から、「種類、品質及び数量に関して契約の内容に適合」しない目的物が引き渡された場合であっても、その不適合が買主の責めに帰すべき事由による場合には、追完請求権や代金減額請求権、損害賠償請求権、解除権を行使することは認められません(改正後民法562条2項、563条3項、564条、543条、415条1項)。

法定責任 : 売買の目的物となった「特定物」は世界に1つしかない以上、たとえ欠陥があったとしても、あるがままの状態で引き渡せば、売主は契約上の債務履行義務を果たしたことになるとの考えを前提にしつつも、欠陥がないことを前提に代金を支払った買主に配慮し、瑕疵担保責任は債務不履行責任とは別に、民法が定めた責任であるとする考え方。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
債務不履行責任 : 売主は瑕疵のない目的物を引き渡す義務を負っているため、売買の目的物に瑕疵がある場合には債務不履行となるとの前提の下、民法上の瑕疵担保責任を売買における債務不履行の特則と捉える考え方。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
追完請求権 : 引き渡された目的物が種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し、または不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができるという権利(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

<企業への影響>
この担保責任は、売買に関する規定ではありますが、その他の有償契約にも準用されており、例えば、賃貸借、請負、委任等の契約にも及ぶことになります。その意味では、業界を問わず企業実務への影響があり得ます。

具体的な対応としては、瑕疵担保責任に関する契約文言があればそれを修正するほか、契約書において、種類、品質及び数量を可能な限り具体的に特定できているかどうかを確認することが重要となります。また、各社においては、改正後民法の担保責任ルールについて特約を設ける必要がないかを慎重に検討すべきですが、たとえば、買主からすれば、担保責任の効果として認められる法的手段が契約書においても明記されている方が実際の交渉がスムーズに進められる点で望ましいといえる一方で、売主からすれば、担保責任の追及ができるだけ難しくなるように契約文言を調整することが望ましいといえます。

また、請負契約については、従前、担保責任を追及できる期間は「引き渡した時から1年以内」とされていましたが、改正後民法ではこれが「注文者がその不適合を知った時から1年以内」へと変更されているため(改正後民法637条1項)、請負人の立場からすれば、契約書において特約を設けてルールを変更することを検討すべきものと思われます。

「自動更新」や施行日前締結の「定型約款」にも改正後民法が適用

(7)経過措置(適用関係)
本改正は原則として2020年4月1日に施行され、基本的には、その施行日後に締結された契約や施行日後に発生した債権について適用されることになります(改正法附則2条、3条、5条等)。もっとも、経過措置に関しては、実務上、例えば次の点に留意すべきと考えられます。
ア 契約の更新(自動更新)
施行日前に締結された契約について施行日後に更新(自動更新を含みます。)がされた場合には、更新後の契約には改正後民法が適用されるものとされています。そのため、例えば、一つの契約書に賃貸借と保証の両方の内容が含まれ、その契約全体が施行日後に自動更新条項によって更新された場合など、施行日後に保証契約が当事者の合意により更新されたと評価できるときは、保証契約はその時点をもって改正後民法の適用対象となる点に留意が必要です。

イ 基本契約と個別契約
例えば、施行日前に取引基本契約が締結され、それに基づく個別契約が施行日後に締結された場合には、取引基本契約そのものについては改正後民法の適用対象とはなりませんが、個別契約及びその個別契約に係る取引について適用される取引基本契約の条項については改正後民法の適用対象となると考えられる点に留意が必要です。

ウ 定型約款
改正後民法で新設された定型約款に関する規定は、原則として、施行日前に締結された定型取引に係る契約にも適用されることとされており(改正法附則33条1項)、前述した「施行日後に締結された契約や施行日後に発生した債権について適用される」という経過措置に関する基本的な考え方とは反対の整理がされている点に十分な留意が必要です。

エ 譲渡制限特約
施行日前に生じた債権であっても、施行日後に債権譲渡の原因となる法律行為が行われた場合には、上記(4)で言及した改正後民法466条から469条までの規定が適用される点に十分な留意が必要です。