2019/12/11 グラスルイスが2020年版ガイドライン公表、ISSが見送った政策保有株式のポリシー導入(会員限定)

(2019年)12月9日、議決権行使助言会社大手のグラスルイスが2020年版の日本企業向けガイドラインを公表した。現在のところ同社のウェブサイトに掲載されているのは英語版のみとなっており、日本語版は依然として2019年版が掲載されている。例年通りであれば年明けの1月中旬には日本語版も公表されるものと予想される。

グラスルイスは2019年より「ジェンダー・ダイバーシティ」に関する方針を導入、TOPIX100採用銘柄で女性役員が1人もいない企業については、責任を問うべき取締役の選任議案に反対行使を助言するとしている。2020年版のガイドラインでは、この方針の適用範囲を東証1部および東証2部上場企業にも拡大する。この適用範囲拡大は既に2019年版ガイドラインで予告されていたため“サプライズ”はないが、未だ女性役員を選任していない東証1・2部企業は相当数に上るとみられるだけに、決して影響は小さくないだろう。

なお、上記方針における「女性役員」には、取締役、監査役のほか、指名委員会等設置会社の執行役が該当する(会社法上の役員ではない執行役員は該当しない)。また、反対助言の対象となる取締役とは、監査役会設置会社と監査等委員会設置会社では会長(会長がいなければ社長)、指名委員会等設置会社では指名委員会の委員長となる。ただし、女性役員がいない場合でも「明確な方針や取組みに関する十分な説明」があれば、例外的に反対助言を行わないこともあるとしている。

また、2020年版ガイドラインでは「1年間」の猶予期間を置いた上で、2021年から「過剰な政策保有(excessive strategic shareholding)」に関する新基準を導入する。ここでいう「過剰」とは「純資産の10%超(exceeds 10% or more of company’s net assets)」と定義されており、前年度の有価証券報告書において開示された金額で判断することになる。「10%超」であった場合に反対助言を受けるのは、ジェンダー・ダイバーシティ方針と同様、取締役会会長(いなければ社長)である。

一方、2019年10月15日のニュース『ISS、上場子会社に社外取締役比率「3分の1」基準導入へ』(最終段落参照)でお伝えしたとおり、ISSは株式持ち合いに関するポリシー(株主資本に対する持ち合い株式の割合が一定割合を超えた場合、経営トップの選任議案に反対する)の導入を見送っている。ISSが見送ったポリシーをグラスルイスは導入したという点、注目される。

ただし、グラスルイスはこの「過剰な政策保有」方針についても、例外的に反対助言をしないケースがある可能性に触れている。具体的には、(1)政策保有株式を削減する明確な計画(clear plan to reduce the size of its strategic shareholdings)を開示している場合、(2)政策保有の株式数を削減した実績(a track record of reducing such shares)がある場合――の2つのケースを挙げている。(1)については、「明確な計画」と言っている以上、数値目標を伴うことが想定されるが、具体的にどの程度の削減幅であれば「反対助言をしない」ケースに該当するのかは現時点では明らかになっていない。(2)についても詳細は明らかになっていないが、上場企業としては、どの程度の削減実績が必要なのか、また何年間の実績で判断されるのかといった点、気になるところだろう。

上述の不明点については今後(日本語版のリリース時など)、グラスルイスから何らかの基準が示される可能性はある。しかしその一方で、グラスルイスの立場としては、どの程度の削減が望ましいのかは企業自身に考えて欲しいとして、あえて基準を明らかにしないことも十分に考えられる。機関投資家の感覚からすれば、毎年二桁ペースで削減する計画もしくは実績でなければ満足しないであろう。単年度ではなく少なくとも3年間程度の継続的な取り組みが期待されることも予想される。相当に具体的かつ大胆な削減計画または実績でなければ、「例外」として認められないと考えておいた方が無難と言えそうだ。

2019/12/10 【2019年11月の課題】改正民法への対応(会員限定)

はじめに

2017年5月26日、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)が成立し、改正された規定の大半は2020年4月1日に施行されます。今回の民法改正(以下「本改正」といいます。)は、主に債権関係の規定を中心とするものとなっていますが、明治29年(1896年)に民法が制定されて以来約120年ぶりの大改正であり、本改正による企業実務への影響も相当程度見込まれます。

本稿では、企業実務への影響が生じる改正のうち主なものを取り上げて解説します。

債務不履行に基づく損害賠償請求等で問題に

(1)消滅時効の見直し
<改正のポイント>

本改正前は、債権は、権利を行使することができる時から10年間行使しないときは、時効により消滅し(改正前民法166条1項、167条1項)、商行為によって生じた債権は、原則として5年間行使しないときは、時効によって消滅するとされていました(改正前商法522条:商事消滅時効)。本改正後は、債権が商行為によって生じたか否かを問わず、①債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年間行使しないとき、又は②権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年間行使しないときは、時効により消滅するとされました(改正後民法166条1項)。

<企業への影響>
消滅時効に関する改正は業界を問わず企業実務への影響があり得ますが、商行為によって生じる代金債権などを想定すると、売主などの債権者は弁済期の到来を認識できることが通常ですので、①の主観的起算点と②の客観的起算点は一致することが多いと思われます。そのため、一般的には、本改正の前後で商事消滅時効に大きな変化はないと考えることも可能です。

しかし、例えば債務不履行に基づく損害賠償請求権については、債権者が当該請求権を行使できることを認識するのが債務不履行の時点よりも後になることも多く、その場合は①の主観的起算点が②の客観的起算点よりも遅くなるため、従前よりも、時効消滅の時期が後ろ倒しされるという影響が生じます。

法定利率の引き下げで損害保険料が高額化する可能性も

(2)法定利率の見直し
<改正のポイント>

本改正前は、債務に関する法定利率は年5パーセントの固定利率とされ、また、商行為によって生じた債務に関する商事法定利率は年6パーセントの固定利率とされていました(改正前民法404条・改正前商法514条)。本改正後は、商事法定利率が廃止されて法定利率が一本化されるとともに、法定利率の固定制も廃止され、変動制が採用されることになります。具体的には、当初の法定利率は年3パーセントとなりますが(改正後民法404条2項)、その後、3年毎に1パーセント単位で見直しが行われます(改正後民法404条3項・4項)。

<企業への影響>
法定利率に関する改正も、業界を問わず企業実務への影響があり得ますが、従前同様、当事者が利息を生ずべき債権について別段の意思表示をしていればそれに従うことになりますので(改正後民法404条1項)、実際に法定利率が適用されるのは、債務不履行に基づく損害賠償請求権や不当利得返還請求権、不法行為に基づく損害賠償請求権、契約解除に伴う金銭返還請求権の遅延損害金などに限られることが多いと思われます。

不当利得返還請求権 : 法律上の正当な理由なく、他者の損失によって財産的利益を得た者に対し、自己の損失を限度として、その利得返還を請求できる権利のこと。例えば購入した商品に不備があり、販売者の指示どおり返品したにもかかわらず、販売者から返金や交換といった対応がなされなかった場合などにおいては、購入者は販売者に対し不当利得返還請求権を有することになる。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

こうした請求権について法定利率が適用されることを回避するためには、契約書等に遅延損害金等に関する規定を漏れなく定めることが重要になります。

また、交通事故等の不法行為等に基づく損害賠償額の算定にあたっては、将来の逸失利益の現在価値を算出する際に法定利率を用いて中間利息分を控除しますが、法定利率が3パーセントに下がることにより控除対象となる中間利息が減るため、損害賠償額が高額化することが予想されており、これに伴い、損害保険料が高まるといわれています。

グループ企業や取引先等に融資を行う企業に影響も

(3)保証制度の見直し
<改正のポイント>
ア 情報提供義務

改正後民法では、債権者及び主債務者に対し、保証人への情報提供義務が新設されます。具体的には、債権者は、①保証の委託を受けた保証人(法人と個人の別を問わない。)の請求を受けた場合には、主債務の元本及び従たる債務(利息、違約金、損害賠償等)の全てについて、不履行の有無、残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を保証人に提供する義務を負い(改正後民法458条の2)、また、②保証人が個人である場合には、委託の有無にかかわらず、主債務者が期限の利益を喪失したことを債権者が知った時から2か月以内に、その旨を保証人に通知する義務を負うこととされました(改正後民法458条の3第1項、第3項)。

期限の利益 : 期限があることによって債務者が受ける利益のこと。金銭消費貸借契約の場合、債務者は、契約で定められたそれぞれの弁済期限までは、借入金の弁済をしなくてよいが、これが期限の利益である。例えば債務者が倒産手続に入った場合などには、期限の利益を喪失することになる。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

更に、主債務者は、保証人が個人(ただし、主債務者に債務保証の委託を受けた者に限る。)であり、かつ当該債務保証が事業のために負担するものである場合には、保証契約締結時に、①主債務者の財産及び収支の状況、②主債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況、③主債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容に関する情報を保証人に提供する義務を負うこととされました(改正後民法465条の10第1項、第3項)。主債務者が当該義務に違反し、それによって保証人が保証契約締結時の主債務者の財産状況等について誤認をし、保証契約が締結されたときは、保証人は、債権者が義務違反について悪意又は有過失である場合に限り、当該保証契約を取り消すことができます(同第2項)。

<企業への影響>
これらの情報提供義務は、債権者の立場で保証人を設定することがある企業であれば、多かれ少なかれ影響を受ける可能性があります。前述のとおり、委託の有無、保証人の属性(個人か法人か)又は負担する債務の目的(事業のためか否か)により、義務を負う主体(債権者か債務者か)や義務の内容が異なるので、特に債権者の立場からすると、対応漏れ等により、保証契約が無効になるという不利益を受けるおそれがあります。そこで、情報提供義務を履行するための実務フローやマニュアルなどを整備しておくほか、、これらの情報提供義務に関するひな形規定等を準備して画一的な取扱いを導入し、対応漏れ等を防ぐことが考えられます。

自社が債権者の立場である場合の情報提供義務としては、①保証人からの情報提供請求に対して主債務者の履行状況等を提供することがあることや、②主債務者が期限の利益を喪失した場合にその旨の情報を保証人に提供することがあることについて、主債務者の同意を得ておくことが考えられます。また、債権者として保証契約が取り消される事態を回避するためには、主債務者による情報提供義務が履行されたことについて、主債務者及び保証人の双方に表明保証を求めることが考えられます。これらに伴い、債権者の立場から、保証人や債務者に対する説明体制の構築が求められると考えられます。

表明保証 : 契約時等の一定の時点において、契約内容等が真実かつ正確である旨を、契約等の相手方に表明し、保証すること。売買契約であれば、売主が買主に対して行うことが多い。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

イ 事業性融資における個人保証の制限
<改正のポイント>

改正後民法では、個人による保証のうち、「事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約」又は「主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約」等について、保証人になろうとする者が、その締結前1か月以内に公正証書でその旨の意思を表示しなければ、契約の効力を生じないとする新たな規律が整備されました(改正後民法465条の6第1項、3項)。

ただし、この規律は、保証人が主たる債務者たる法人の取締役等や議決権の過半数を有する者などである場合や、保証人が主たる債務者たる個人と共同して事業を行う場合、保証人が主たる債務者たる個人が行う事業に現に従事している配偶者である場合には適用が除外され、保証人になろうとする個人は、公正証書を作成することなく事業用融資の保証をすることができます(改正後民法465条の9)。

<企業への影響>
本改正は事業性融資における個人保証に関する改正であり、金融機関や貸金業者などの融資業務を行う企業のほか、グループ企業、取引先、従業員などへの融資を行っている企業が個人保証を求める場合には、本改正の影響が及ぶことがあり得ます。

実務上は、公正証書を作成すべきものなのかどうかを慎重に見極めることが必要となります。そして、仮に作成すべきこととなれば、有効に保証契約を締結するためには締結前1か月以内に公正証書により保証意思を確認する必要があり、そのための説明体制の構築が求められると考えられます。また、前述の適用除外規定(保証人が主たる債務者たる法人の取締役等などである場合)に該当するとして公正証書を作成しない場合であっても、契約書上、その根拠となる事実を表明保証の対象とするとともに、当該事実を証する書類の提出を貸付実行の前提条件とするといった手当てを行うべきと考えられます。

ウ 個人根保証の制限
<改正のポイント>

改正前民法は、個人根保証のうち、貸金等根保証(主債務に貸金等債務が含まれるもの)について、①極度額(保証の上限額)を定めなければ無効とするとともに(改正前民法465条の2第2項)、②所定の元本確定期日を定めて保証期間を制限した上で(改正前民法465条の3)、③元本確定期日の到来前であっても、所定の元本確定事由が発生した場合には元本が確定することとして(改正前民法465条の4)、包括根保証を禁止しています。

根保証 : 一定の範囲に属する不特定の債務について保証する契約のこと。保証人となる時点では現実にどれだけの債務が発生するのかがはっきりしないなど、どれだけの金額の債務を保証するのかが分からないという点に特徴がある。例えば会社の社長が,会社の取引先との間で,その会社が取引先に対して負担する全ての債務をまとめて保証するケースなどが該当する。根保証契約を締結して保証人となった場合、主債務の金額が分からないだけに、将来、保証人が想定外の債務を負うことになりかねない。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
包括根保証 : 債務者が現在保有する債務、また将来保有する債務のすべてについて、限度額と期間を定めないで保証する約束。保証人の負担が大きく、経営者の新たな事業展開や再起を阻害するとの指摘がされていたため、2005年4月1日からこの制度が廃止された。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

改正後民法は、貸金等根保証以外の根保証についても保証人の予測可能性を担保し、根保証の要否等について慎重な検討を求めるため、前述①③の対象を個人根保証一般に拡大しました(改正後民法465条の2、改正後民法465条の4)。ただし、個人根保証の中には、法で区切られた特定の年限に限って根保証の効力を認めることが実情に合わないものもあることから(建物賃貸借の家賃債務保証等)、前述②については、引き続き貸金等根保証のみに適用されることとしています。

<企業への影響>
本改正は、貸金等根保証以外の個人根保証を制限する改正であり、取引先への債権について個人根保証を求める企業の実務に大きな影響を与えます。例えば、取引基本契約の相手方(法人)の代表者を保証人とする場合、賃貸借契約のテナント(法人)の代表者を保証人とする場合、従業員に対し自社への損害賠償債務を保証させる身元保証を求める場合などです。

企業としては、そもそもこれらのケースが根保証に該当するかどうかを見極めた上で、仮に該当するとすれば極度額をどのように設定するかを検討することが必要になります。そして、これらに関して、債権者の立場から、保証人に対する説明体制の構築も求められると考えられます。

金融機関等への譲渡や担保提供を例外として許容するという判断も

(4)債権譲渡に関する見直し
<改正のポイント>

当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の特約(以下「譲渡制限特約」といいます。)を付した債権(以下「譲渡制限特約付債権」といいます。)が譲渡された場合、改正前民法においては、原則として当該譲渡は無効であると解されていましたが、改正後民法においては、その譲渡を有効としています(改正後民法466条2項)。

もっとも、債務者は、譲渡制限特約について悪意又は善意重過失のある譲受人その他の第三者に対しては、譲渡制限特約の効果として、①その履行請求を拒絶でき、②譲渡人に対する弁済等の債務消滅事由に対抗することができるとされています(改正後民法466条3項)。また、改正後民法では新たな弁済供託の原因を設けており、譲渡制限特約が付された金銭債権が譲渡されたときは、債務者は、その債権の全額に相当する金銭を供託することができるとしています(改正後民法466条の2第1項)。

弁済供託 : 金銭その他の財産の給付を目的とする債務を負担している債務者は、その債務を履行しようとしても、債権者が受領を拒んだり、あるいは債権者が死亡し、その相続人が不明である等の債務者の過失によらないで債権者を確知することができない等の理由により、その債務の履行ができない場合には、債務の目的物を供託所(法務局)に供託することによって、債務を免れることができる。例えば、地代(家賃)を払おうとしたところ、地主(家主)から「値上げ後の家賃でないと受け取らない」として、その受け取りを拒否された場合には、借主は、賃料を供託することによって、支払債務を免れることができる。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

<企業への影響>
譲渡制限特約に関する改正であり、業界を問わず企業実務への影響があり得ます。例えば、債権者が譲渡制限特約に反して債権を譲渡したものの、債務者として譲受人への弁済に抵抗がある場合(例えば、譲受人が反社会的勢力である疑いが払しょくできない場合など)で、かつ譲受人の主観(悪意又は善意重過失)が明らかでないときは、債務者は、改正後民法466条の2に基づき供託を行わざるを得ず、一定の時間とコストを強いられることとなります。

そこで、(1)契約の相手方に対し、譲渡制限特約付債権の譲受人その他の第三者に譲渡制限特約の存在及び内容を事前に通知し、当該通知によって譲受人その他の第三者に当該特約の存在を事前に知らしめた場合には、譲渡制限特約違反による責任が免責される旨を規定する方法(更に、この通知がされたことを示す証拠を提出することを免責要件に加えることも考えられる。)や、(2)(特に、譲渡制限特約に反して債権譲渡がされた場合に生じ得る不利益が無視できないものであるケースにおいては)譲渡制限特約に違反した譲渡等がされた場合には無催告で解除することができる旨や、無条件で取引を中断することができる旨、違反者が違約金を支払わなければならない旨を規定する方法が考えられます。

もっとも、特に(2)にあるような解除権や取引中断権、違約金条項を認めてしまうと、譲渡制限特約付債権の譲渡を有効とし、資金調達を円滑化しようとする改正民法の意義が大きく減殺されてしまうとの指摘や、そもそも改正後民法上、譲渡制限特約付債権の譲渡は契約違反にならないとの指摘、解除等が権利濫用になるとの指摘、債務者が新たな契約の締結・契約の更新に応じないことが信義則違反と評価される可能性があるとの指摘も存在する点には十分に注意する必要があります。

最終的には、契約の性質や文言、譲渡制限特約付債権の譲渡先や譲渡原因、当該譲渡によって債務者に生じた具体的な不利益などを総合的に考慮して個別に判断せざるを得ないと考えられますが、事実上のリスクを可及的に排除すべく、あえて前述のような規定とともに、金融機関等への譲渡や担保提供を例外として許容する規定を設けるという判断もあり得ます。

変更の合理性を対外的に説明できるようにしておく必要

(5)定型約款に関する規定の新設
<改正のポイント>

改正後民法においては、「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」を「定型取引」と定義し、その「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者が準備した条項の総体」を「定型約款」と定義しています(改正後民法548条の2)。

その上で、定型取引を行うことの合意(以下「定型取引合意」といいます。)をした者は、①定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき、又は②定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」といいます。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき(以下①又は②の要件を「組入れ要件」といいます。)には、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなすとしています(改正後民法548条の2第1項)。

もっとも、定型約款の個別の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして民法1条2項に規定する基本原則(信義誠実の原則)に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの(いわゆる不当条項、不意打条項)については、合意をしなかったものとみなされます(改正後民法548条の2第2項)。

また、改正後民法は、定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者に対して相手方から請求があった場合における定型約款の表示義務について定めているほか(改正後民法548条の3第2項)、定型約款の変更が下表の①又は②の要件を満たす場合には、定型約款準備者は、定型約款の変更をすることにより、個別に相手方と合意することなく、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなすことができるとしています(改正後民法548条の4第1項)、これらの要件とともに、定型約款の変更をする際の手続要件も設けています(改正後民法548条の4第3項)。

定型約款の変更の内容に関する要件(①、②のいずれか)
相手方の一般の利益に適合するとき
契約をした目的に反せず、かつ、次の事情に照らして合理的であるとき
 (1) 変更の必要性
 (2) 変更後の内容の相当性
 (3) 改正後民法の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容
 (4) その他の変更に係る事情

<企業への影響>
実務上は、多くの取引先に画一的に適用される約款等を用いる企業はもちろん、それ以外の企業であっても、自社で用いる条項が定型約款に該当するかどうかを検証することが必要となります。その意味では、業界を問わず企業実務への影響があり得ます。

定型約款に該当する場合には、(a)組入れ要件を満たすための実務フロー、(b)不当条項、不意打ち条項が存在していないかどうか、(c)相手方から請求があった際に定型約款の表示を行うための実務フローの確認が求められます。また、その定型約款の変更が(契約の相手方にとって)利益変更に該当しないときは、特に上記②の要件を満たすために、自社に有利な事情を積み重ねることによって変更が合理的であることを対外的に説明できるようにしておくとともに、変更の際の手続要件をしっかりと満たすことが重要となります。

不意打ち条項 : 相手方が知らないうちに、一方的に利益を害する条項。こうした条項はユーザーの権利を制限し、又はユーザーの義務を加重する条項であり、民法上の信義則に反することになる。例えば、月払いのレンタルサーバの契約において、「契約期間を10年」とし、中途解約する場合は高額の違約金を課すこととする条項などが該当する。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

賃貸借、請負、委任等の契約にも影響

(6)契約不適合の担保責任
<改正のポイント>

改正前民法においては、瑕疵担保責任(現行民法570条)の法的性質について、いわゆる法定責任と解するのか、債務不履行責任と解するのかなどについて、見解が分かれていましたが、改正後民法は、「債務不履行責任」説によることを明確化し、その法的効果として、損害賠償請求権及び解除権だけでなく(改正後民法564条)、追完請求権や代金減額請求権が規定されることとなりました(改正後民法562条、563条)。また、従来は瑕疵担保責任は「瑕疵」の存在が要件とされていましたが、改正後民法では「種類、品質及び数量に関して契約の内容に適合」するか否かを要件とされています。なお、公平性の観点から、「種類、品質及び数量に関して契約の内容に適合」しない目的物が引き渡された場合であっても、その不適合が買主の責めに帰すべき事由による場合には、追完請求権や代金減額請求権、損害賠償請求権、解除権を行使することは認められません(改正後民法562条2項、563条3項、564条、543条、415条1項)。

法定責任 : 売買の目的物となった「特定物」は世界に1つしかない以上、たとえ欠陥があったとしても、あるがままの状態で引き渡せば、売主は契約上の債務履行義務を果たしたことになるとの考えを前提にしつつも、欠陥がないことを前提に代金を支払った買主に配慮し、瑕疵担保責任は債務不履行責任とは別に、民法が定めた責任であるとする考え方。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
債務不履行責任 : 売主は瑕疵のない目的物を引き渡す義務を負っているため、売買の目的物に瑕疵がある場合には債務不履行となるとの前提の下、民法上の瑕疵担保責任を売買における債務不履行の特則と捉える考え方。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
追完請求権 : 引き渡された目的物が種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し、または不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができるという権利(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

<企業への影響>
この担保責任は、売買に関する規定ではありますが、その他の有償契約にも準用されており、例えば、賃貸借、請負、委任等の契約にも及ぶことになります。その意味では、業界を問わず企業実務への影響があり得ます。

具体的な対応としては、瑕疵担保責任に関する契約文言があればそれを修正するほか、契約書において、種類、品質及び数量を可能な限り具体的に特定できているかどうかを確認することが重要となります。また、各社においては、改正後民法の担保責任ルールについて特約を設ける必要がないかを慎重に検討すべきですが、たとえば、買主からすれば、担保責任の効果として認められる法的手段が契約書においても明記されている方が実際の交渉がスムーズに進められる点で望ましいといえる一方で、売主からすれば、担保責任の追及ができるだけ難しくなるように契約文言を調整することが望ましいといえます。

また、請負契約については、従前、担保責任を追及できる期間は「引き渡した時から1年以内」とされていましたが、改正後民法ではこれが「注文者がその不適合を知った時から1年以内」へと変更されているため(改正後民法637条1項)、請負人の立場からすれば、契約書において特約を設けてルールを変更することを検討すべきものと思われます。

「自動更新」や施行日前締結の「定型約款」にも改正後民法が適用

(7)経過措置(適用関係)
本改正は原則として2020年4月1日に施行され、基本的には、その施行日後に締結された契約や施行日後に発生した債権について適用されることになります(改正法附則2条、3条、5条等)。もっとも、経過措置に関しては、実務上、例えば次の点に留意すべきと考えられます。
ア 契約の更新(自動更新)
施行日前に締結された契約について施行日後に更新(自動更新を含みます。)がされた場合には、更新後の契約には改正後民法が適用されるものとされています。そのため、例えば、一つの契約書に賃貸借と保証の両方の内容が含まれ、その契約全体が施行日後に自動更新条項によって更新された場合など、施行日後に保証契約が当事者の合意により更新されたと評価できるときは、保証契約はその時点をもって改正後民法の適用対象となる点に留意が必要です。

イ 基本契約と個別契約
例えば、施行日前に取引基本契約が締結され、それに基づく個別契約が施行日後に締結された場合には、取引基本契約そのものについては改正後民法の適用対象とはなりませんが、個別契約及びその個別契約に係る取引について適用される取引基本契約の条項については改正後民法の適用対象となると考えられる点に留意が必要です。

ウ 定型約款
改正後民法で新設された定型約款に関する規定は、原則として、施行日前に締結された定型取引に係る契約にも適用されることとされており(改正法附則33条1項)、前述した「施行日後に締結された契約や施行日後に発生した債権について適用される」という経過措置に関する基本的な考え方とは反対の整理がされている点に十分な留意が必要です。

エ 譲渡制限特約
施行日前に生じた債権であっても、施行日後に債権譲渡の原因となる法律行為が行われた場合には、上記(4)で言及した改正後民法466条から469条までの規定が適用される点に十分な留意が必要です。

2019/12/10 CVCを後押し 「オープンイノベーション促進税制」の全容判明

2019年10月8日のニュース「政府が検討するCVCを促す措置の内容」でお伝えしたとおり、政府は、ファンドを介在させない企業からの直接投資について、投資額の一定額を税額控除(法人税額から直接一定金額を控除する減税制度)する措置を検討してきたが、その詳細が・・・

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2019/12/10 CVCを後押し 「オープンイノベーション促進税制」の全容判明(会員限定)

2019年10月8日のニュース「政府が検討するCVCを促す措置の内容」でお伝えしたとおり、政府は、ファンドを介在させない企業からの直接投資について、投資額の一定額を税額控除(法人税額から直接一定金額を控除する減税制度)する措置を検討してきたが、その詳細が当フォーラムの取材で判明した。

この措置は「オープンイノベーションを促進するための税制措置」と名付けられ(オープンイノベーションについては2018年4月12日のニュース「オープンイノベーションを阻害する要因」参照)、事業会社が「ベンチャー企業」に直接またはCVC(Corporate Venture Capital=コーポレート・ベンチャーキャピタル)を通じて出資し、当該ベンチャー企業の株式を取得した場合、「その株式の取得価額の25%相当額」を、当該事業会社の(法人税計算上の)所得から控除する。本措置は12月12日(木)に公表される予定の令和2年度(2020年度)税制改正大綱に盛り込まれる。当初検討されていた「税額控除」は、現行の法人税制上、減価償却などを伴うケースでしか認められていないため見送られた。とはいえ、「株式の取得価額の25%」もの所得控除の減税効果は決して小さくない。

オープンイノベーション : 自社だけでなく、他社や大学など社外の技術や知識、アイデアなどを組み合わせることにより、革新的な新商品やサービス、ビジネスモデルを生みだすこと。自前の技術やリソースだけで商品やサービス等を開発することを「クローズド・イノベーション」という。
CVC(Corporate Venture Capital=コーポレート・ベンチャーキャピタル) : 投資を本業としない事業会社が自己資金をベンチャー企業に投資すること(又はその組織)。CVCは社内の投資部門や子会社が運営するか、外部のVC(Venture Capital=ベンチャーキャピタル)に運営を委託することが多い。CVCもVCもベンチャー企業に投資を行うという点では同じだが、VCが投資先の将来的な上場によるキャピタルゲインを得ることを目的としているのに対し、CVCは自社とシナジーのあるベンチャー企業に投資し、協業等により本業の成長や拡大を目的としている点、大きく異なる。
税制改正大綱 : 税制改正は毎年1回行われるのが通常だが、翌年度の税制改正の内容を大まかにとりまとめたものが税制改正大綱であり、毎年12月中旬頃に政府(与党)が公表する。

また、本措置が画期的なのは、上述のとおりファンドを介在させずに企業からの直接投資を対象としていることだ。ベンチャー企業との連携を模索する上場企業が増加する中、時流に沿った政策と言えよう。

もっとも、事業会社やCVCによる出資がすべて本措置の適用対象になるわけではない。本措置の適用を受けられるのは、「オープンイノベーション性等の要件を満たすベンチャー企業に対する出資」に限られる。ここでいう「オープンイノベーション性」とは、(1)事業会社にとっての革新性、(2)ベンチャー企業の成長への貢献、(3)事業会社のビジネス変革に寄与する可能性――を指す。事業会社は、出資がオープンイノベーション性等の要件を満たしていることを示す資料を経済産業省に提出する必要があるが、注目されるのは、資料の提出はあくまで「出資後」でよいということだ。事前承認を得る必要がなければ、事業会社としてはスピード感をもった出資が可能になる。

一方、出資を受けるベンチャー企業は、(1)設立後10年未満の株式会社であること(新設会社を除く)、(2)非上場企業であること、(3)大規模企業グループに属していないこと――などが求められる。また、ベンチャー企業への出資額は最低1億円以上(海外のベンチャー企業への出資である場合は5億円以上)でなければならない(ただし、上限が設けられる)。

上記の要件を満たした出資は、株式の取得価額の25%相当額を「特別勘定」として積み立て、事業会社の法人税上の所得から控除することになるが、出資後の5年間(これを「特定期間」という)は、取得した株式の一部でも売却したり配当の支払いを受けたりした場合には、その金額分だけ特別勘定を取り崩し、益金に算入する必要がある。また、上記の「オープンイノベーション性」に適合しないと経済産業省に判断された場合や、出資先が解散した場合にも特別勘定を取り崩して益金算入しなければならない。

本措置は、2020年4月1日~2022年3月31日までの出資(株式取得)について適用される。一口に「出資」と言っても、出資候補先の選定から実際に出資を決断するに至るまでにはある程度の期間を要する。ベンチャー企業との連携によるオープンイノベーションを模索する企業は、本措置の活用を前提に、今のうちから出資先探しを始める必要がありそうだ。

2019/12/09 投資家が期待する政策保有株式の開示

周知のとおり、2019年3月期の有価証券報告書から【株式の保有状況】の状況において政策保有株式に関する開示が強化されている。有価証券報告書が求める主な開示内容は、下記のとおり概ねコーポレートガバナンス・コード【原則1-4.政策保有株式】に沿ったものとなっている。

【原則1-4.政策保有株式】 : 上場会社が政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で、個別の政策保有株式について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである。上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準を策定・開示し、その基準に沿った対応を行うべきである。

1.政策保有株式全体
①提出会社の保有方針
②保有の合理性を検証する方法
③個別銘柄の保有の適否に関する取締役会等における検証の内容
2.銘柄別開示
①保有目的
②提出会社の経営方針・経営戦略等、事業の内容及びセグメント情報と関連付けた定量的な保有効果(定量的な保有効果の記載が困難な場合には、その旨及び保有の合理性を検証した方法)

政策保有株式に関する開示の強化は、企業間で戦略的提携を進める場合等に政策保有は意義があると考える企業側と、「安定株主の存在が企業経営に対する規律の緩みを生じさせているのではないか」「保有に伴う効果が十分検証されず資本効率が低い」といった疑念を抱く投資家の間に存在するギャップを背景に実現したものだが、実際、各社の2019年3月期有価証券報告書を見ると、投資家の期待とはかけ離れた開示事例が少なからず存在するというのが現状となっている(2019年10月1日のニュース「政策保有株式保有の合理性に関する開示が不十分な事例」参照)。
 
こうした中、金融庁は・・・

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2019/12/09 投資家が期待する政策保有株式の開示(会員限定)

周知のとおり、2019年3月期の有価証券報告書から【株式の保有状況】の状況において政策保有株式に関する開示が強化されている。有価証券報告書が求める主な開示内容は、下記のとおり概ねコーポレートガバナンス・コード【原則1-4.政策保有株式】に沿ったものとなっている。

【原則1-4.政策保有株式】 : 上場会社が政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で、個別の政策保有株式について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである。上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準を策定・開示し、その基準に沿った対応を行うべきである。

1.政策保有株式全体
①提出会社の保有方針
②保有の合理性を検証する方法
③個別銘柄の保有の適否に関する取締役会等における検証の内容
2.銘柄別開示
①保有目的
②提出会社の経営方針・経営戦略等、事業の内容及びセグメント情報と関連付けた定量的な保有効果(定量的な保有効果の記載が困難な場合には、その旨及び保有の合理性を検証した方法)

政策保有株式に関する開示の強化は、企業間で戦略的提携を進める場合等に政策保有は意義があると考える企業側と、「安定株主の存在が企業経営に対する規律の緩みを生じさせているのではないか」「保有に伴う効果が十分検証されず資本効率が低い」といった疑念を抱く投資家の間に存在するギャップを背景に実現したものだが、実際、各社の2019年3月期有価証券報告書を見ると、投資家の期待とはかけ離れた開示事例が少なからず存在するというのが現状となっている(2019年10月1日のニュース「政策保有株式保有の合理性に関する開示が不十分な事例」参照)。
 
こうした中、金融庁は11月29日、投資家が政策保有株式についてどのような開示を期待しているのかをまとめた「政策保有株式:投資家が期待する好開示のポイント(例)」を公表している。金融庁は本資料について、「政策保有株式の開示については、投資家が好開示と考える開示と現状の開示の乖離が大きいとの意見が聞かれるため、好事例集の公表に代えて、投資家が期待する好開示のポイントを例示として公表することとした」と説明している。政策保有株式に関する開示を巡っては、投資家の期待値に企業側が追い付いていない現状を示していると言えるだろう。主な内容は下表のとおり。

1.政策保有株式全体
①提出会社の保有方針

記載にあたってのポイント ・保有先企業のノウハウ・ライセンスの利用等、経営戦略上どのように活用するかについて具体的に記載
・保有の上限を設定し記載する事例があるが、株主資本をどのように活用できているかという観点が重要であり、保有残高の規模は総資産ではなく株主資本に対する割合で検証することが望ましい
・売却の方針等がある場合は当該方針を記載
・売却の判断に関する指標があれば当該指標を記載
好事例
好事例(抜粋) 好事例に選ばれた理由
<コムシード株式会社 有価証券報告書(2019年3月期)>
当社としましては、ユーザー嗜好により急変するゲーム市場のトレンドに合わせたゲームコンテンツを獲得することが当社の事業拡大につながるものと考えており、アプリ事業に未参入企業や特定ユーザー向けコンテンツに強みをもつ企業との業務提携を行うことで、新しいビジネス領域を開拓し、業務提携先の強みを生かした市場での独占が図れる事業モデルが創出できると考えております。このため、新しいジャンルのサービスに特化した企業と業務提携することで、新サービスを育成するための開発費用の削減や許諾契約までの期間短縮の効果も見込まれることから業務提携を前提とした投資株式については保有していく方針です。
政策保有株式の保有の必要性について経営戦略上、どのように活用するかを記載
<株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書(2019年3月期)>
株式保有リスクの抑制や資本の効率性、国際金融規制への対応等の観点から、取引先企業との十分な対話を経た上で、政策投資を目的として保有する投資株式の残高削減を基本方針とします。
残高削減の方針を明確に記載
<株式会社小松製作所 有価証券報告書(2019年3月期)>
当社は、株価変動によるリスク回避及び資産効率の向上の観点から、投資先との事業上の関係や当社との協業に必要がある場合を除き、これを保有しない。
政策保有株式の保有方針について明確に記載
悪い事例
悪い事例(抜粋) 悪い事例に選ばれた理由
<M社>
当社は、取引関係の維持強化を目的に、政策保有株式として取引先の株式を保有しておりますが、当社の事業戦略及び取引上の関係などを総合的に勘案し、その投資価値を判断することを基本方針としております。
「事業戦略等を総合的に勘案し保有効果を検討している」という記載では不十分
<A社>
なお、政策保有株式の総額は、連結貸借対照表計上額の総資産の5%以下を維持する範囲内での保有を基本とし、超えた場合は、速やかに売却等の検討を行うことを基本的な方針としております。
保有残高の規模は総資産ではなく株主資本に対する割合で検証することが望ましい

②保有の合理性を検証する方法

記載にあたってのポイント 時価(含み益)や配当金による検証だけではなく、事業投資と同様、事業の収益獲得への貢献度合いについて具体的に記載する
(例)・営業取引規模が過去〇年平均と比較し〇%以上増加等
   ・ROERORA等が〇%増加等
(※)時価(含み益)や配当金による検証だけでは純投資の評価と同じであり、政策保有株式の評価としては別途の検証が求められる点に留意が必要

ROE : Return On Equity=株主資本利益率(利益/株主資本)
RORA : Return on Risk-Weighted Assetsの略で、金融機関が取っているリスクに対して収益をどれだけ上げているのかを示す指標。三菱UFJフィナンシャル・グループは、当期純利益をリスクアセットで割った数値を内部管理に使用しているという。

好事例
好事例(抜粋) 好事例に選ばれた理由
<株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書(2019年3月期)>
(保有の合理性を検証する方法)    
政策投資を目的として保有する全ての投資株式について、個社別に中長期的な視点から成長性、収益性、取引関係強化等の保有意義及び経済合理性(リスク・リターン)を確認しています。
なお、経済合理性の検証は、MUFGの株主資本利益率(ROE)目標を基準とした総合取引RORAを目標値として実施します。
政策保有株式の保有の合理性に関する当期の検証結果について具体的に記載し、基準値を下回った場合の対応策について記載
悪い事例
悪い事例(抜粋) 悪い事例に選ばれた理由
<M社>
イ.保有方針及び保有の合理性を検証する方法並びに個別銘柄の保有の適否に関する取締役会等における検証の内容
当社は、保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式について、毎年、取締役会において一定の基準により見直しをおこなう。また、意義の乏しい銘柄については、株価の動向等を勘案し縮減する。
保有の合理性を検証する方法が具体的に記載されていない

③個別銘柄の保有の適否に関する取締役会等における検証の内容

記載にあたってのポイント ・保有方針に沿った検証結果の内容を具体的に記載
→「保有目的に照らして取締役会において保有の適否を検証」という記載では具体性に欠ける
・取締役会での議論を記載するにあたり、具体的な開催日時や議題等を記載
好事例
好事例(抜粋) 好事例に選ばれた理由
<株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書(2019年3月期)>
(2018年3月末基準の個別銘柄の保有の適否に関する取締役会等における検証の内容)
保有意義については、検証対象の大半が、発行会社グループの中長期的な経済的利益を増大する目的で保有しており、その妥当性を確認しました。経済合理性については、検証対象全体を合計した総合取引RORAが目標値を上回っており、個社別には約8割の取引先企業が目標値を上回っております。目標値を下回る約2割については採算改善を目指しますが、一定期間内に改善されない場合には売却を検討します。
なお、採算については、「取引先企業グループベースで目標値を上回っているか否か」で判定を行なっております。
政策保有株式の保有の合理性に関する当期の検証結果について具体的に記載し、基準値を下回った場合の対応策について記載
悪い事例
悪い事例(抜粋) 悪い事例に選ばれた理由
<M社>
当社は、取引関係の維持・強化等総合的な観点から、当社グループの持続的な成長および中長期的な企業価値向上に資すると判断した会社の株式を純投資目的以外の目的である投資株式としており、毎年、取締役会において一定の基準により見直しをおこなっている。精査の結果、すべての株式について保有の妥当性があることを確認している。
個別銘柄の保有の適否に関する取締役会等における検証の内容が不明
<M社>
保有の合理性については、取締役会において当社の事業戦略及び取引上の関係などを総合的に勘案し、その投資価値を検証しております。

 
2.銘柄別開示
①保有目的

記載にあたってのポイント ・保有方針に沿って、経営戦略上、どのように活用するかを関連する事業や取引と関連付けて具体的に記載
→単なる財務報告のセグメント単位や、「事業取引」・「金融取引」といった大括りでの説明、「企業間取引の維持・強化のため」・「地域発展への貢献」という記載は抽象的で不十分
・株式を相互持合いしている場合、その理由を具体的に記載
好事例
掲載なし
悪い事例
悪い事例(抜粋) 悪い事例に選ばれた理由
<A社>
円滑な金融取引の維持のため保有しております。
「金融取引」といった大括りでの説明で不十分

 
②提出会社の経営方針・経営戦略等、事業の内容及びセグメント情報と関連付けた定量的な保有効果(定量的な保有効果の記載が困難な場合には、その旨及び保有の合理性を検証した方法)

記載にあたってのポイント ・「政策保有株式全体」の「保有の合理性の検証方法」で定めた指標に対する実績値とその評価について記載
(※)時価(含み益)や配当金による検証だけでは純投資の評価と同じであり、政策保有株式の評価としては別途の検証が求められる点に留意が必要
(定量的な保有効果の記載が困難な場合)
→どのような点で定量的な測定が困難だったかを具体的に記載
→経営戦略上、どのように活用するかを具体的に記載
(※)仮に営業機密について言及する場合でも、どのような点が営業機密となるか等について記載
好事例
掲載なし
悪い事例
悪い事例(抜粋) 悪い事例に選ばれた理由
<M社>
定量的な保有効果は秘密保持の観点から記載が困難なため、記載しておりません。保有の合理性については、取締役会において当社の事業戦略及び取引上の関係などを総合的に勘案し、その投資価値を検証しております。
・仮に営業機密について言及する場合でも、どのような点が営業機密となるか等について記載が望ましい
・保有の合理性を検証した具体的な開示がない

「2.銘柄別開示」には好事例が掲載されておらず、金融庁や投資家が満足できるレベルの開示はなかったと推定できる。当フォーラムの調査によると、「悪い事例」に該当する会社は多数存在した。

「政策保有株式:投資家が期待する好開示のポイント(例)」は、あくまで開示の考え方、望ましい開示の内容や取り組み方を示すものであり、新たな開示事項を義務付けるものではないことが確認されているが、2020年度の有価証券報告書では自社が“好事例”となることを目指したいところだ。

2019/12/06 東証、上場子会社のガバナンス強化の姿勢鮮明

上場子会社のガバナンスに関するルールの整備が着々と進行している。

2019年6月21日に政府が公表した成長戦略実行計画には、上場会社のコーポレート・ガバナンスの向上策の一つとして、まず上場子会社の利益相反構造に関する実務指針である「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」を策定するとともに、同指針に基づいて2019年度秋から同年度末にかけて「東京証券取引所のガイドラインにおける独立役員の要件の見直しなど、上場子会社等の支配株主からの独立性を高めるための更なる措置」を整備するとのタイムスケジュールが明記されていた。

独立役員 : 一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役または社外監査役

そして、このスケジュールどおり、成長戦略実行計画の1週間後(2019年6月28日)には「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」が公表(経済産業省のリリースはこちらを参照)され、先月(2019年11月)29日には・・・

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2019/12/06 東証、上場子会社のガバナンス強化の姿勢鮮明(会員限定)

上場子会社のガバナンスに関するルールの整備が着々と進行している。

2019年6月21日に政府が公表した成長戦略実行計画には、上場会社のコーポレート・ガバナンスの向上策の一つとして、まず上場子会社の利益相反構造に関する実務指針である「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」を策定するとともに、同指針に基づいて2019年度秋から同年度末にかけて「東京証券取引所のガイドラインにおける独立役員の要件の見直しなど、上場子会社等の支配株主からの独立性を高めるための更なる措置」を整備するとのタイムスケジュールが明記されていた。

独立役員 : 一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役または社外監査役

そして、このスケジュールどおり、成長戦略実行計画の1週間後(2019年6月28日)には「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」が公表(経済産業省のリリースはこちらを参照)され、先月(2019年11月)29日には東証が上場子会社のガバナンス向上のための上場制度改正案を公表(東証のリリースはこちらを参照)、来年(2020年)1月10日までパブリックコメントを募集している。

東証が公表した上場制度改正案によると、まず独立役員の「独立性」の判断基準に、「過去10年以内に親会社又は兄弟会社に所属していた者でない」旨が追加されている。この改正の趣旨は、上場子会社の独立役員について、上場子会社を有する上場会社(以下、上場親会社)およびそのグループ会社からの独立性を求めることにある。適用は2020年3月31日以後に終了する事業年度に係る定時株主総会(3月決算会社であれば、2020年6月総会)の日の翌日からの予定。上場会社は独立役員を最低でも1名は選任しなければならない(東証有価証券上場規程436条の2)ため、万が一自社の独立役員全員が新たに追加された上記の要件に抵触する場合は、「独立役員ゼロ」という事態を回避するため、社外役員の改選または追加選任の必要が出てくる。

上場制度改正案では、上場親会社は、「グループ経営に関する考え方および方針を踏まえた上場子会社を有する意義」「上場子会社のガバナンス体制の実効性確保に関する方策」などを、コーポレート・ガバナンスに関する報告書(以下、CG報告書)において開示することも求められている(2020年3月31日以後に終了する事業年度に係る定時株主総会後に提出するCG報告書から適用)。上場子会社を複数有する上場親会社は「上場子会社を有する意義」を上場子会社ごとに記載しなければならない。「上場子会社を有する意義」を明確に打ち出せない上場親会社は、投資家から「上場子会社を手放す(売却する)か、100%子会社化して非上場化するのか」を迫られることも十分考えられる。また、上場制度改正案では、上場親会社が上場子会社との間で「グループ経営に関する考え方および方針として記載されるべき内容に関連した契約」を締結している場合は、その内容を併せて開示することが望まれる(開示は強制ではない)としている。ここでいう契約とは、例えばグループ内でグループ経営管理規程を共有し、上場子会社が重要な経営事項を事前に上場親会社と協議したり、事後報告をしたりする仕組みを契約上明示しているようなケースや、グループ内で業務の重複がある場合に上場子会社の業務に制限を課す契約を交わしているようなケースが想定される。上場子会社にとって不利となる契約の内容が開示されることを通じて、親子上場の意義が問われることになろう。

東証の上場子会社ガバナンス強化策はこれだけにとどまらない。東証は11月29日、新たに「従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会」を設置し、実質的な支配力を持つ株主(支配的な株主)を有する上場会社(従属上場会社)を巡る最近の事例が示唆する問題点、支配的な株主と従属上場会社の少数株主との間の利害調整の在り方、少数株主保護の枠組み等について議論するとしている。同研究会での議論の結果が、次なる上場子会社規制に反映される可能性は高い。

「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」の公表後、アスクルの株主総会(2019年8月2日開催)では、議決権行使を巡り、アスクルと同社の株式の約45%を保有する連結親会社ヤフー(2019年10月1日よりZホールディングスに社名を変更)の対立が生じる(アスクルの事例については【役員会 Good&Bad発言集】上場子会社の独立社外取締役の選任議案 を参照)など、上場子会社のガバナンスに関する問題は顕在化してきており、上場親会社も対策を迫られている。東芝が11月13日に、「東芝プラントシステム」「ニューフレアテクノロジー」「西芝電機」の上場子会社3社をTOB(株式公開買い付け)で完全子会社にすると発表すると、その翌週の11月18日には三菱ケミカルホールディングスが田辺三菱製薬を同じくTOBにより完全子会社にすると発表するなど、上場親会社は上場子会社の整理に追われている。

一方、上場子会社を維持し続けることを選択した上場親会社の中には、伊藤忠商事のように「当社が親会社である上場子会社のガバナンスに関する当社方針」を取締役会で定め、開示するところも出てきた(2019年10月25日のニュース「上場子会社のガバナンス確保に向けた方針の開示始まる」を参照)。

こういった一連の動きの背景には、従来からある「投資家からの上場子会社解消の圧力」に加えて、上場子会社の位置付けの再考を迫る政府や東証の方針があることは間違いない。次は上記「従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会」がいかなる上場子会社のガバナンス強化策を打ち出すのか、議論の行方が注目される。

2019/12/05 可決可能性を左右する「株主提案の手法」

日本シェアホルダーサービス株式会社
シニアアナリスト 水嶋 創

 

“物言う株主”として知られる英国のアセット・バリュー・インベスターズ(AVI)が投資先の複数の日本企業に対して政策保有株式の売却を求めており、株主提案の可能性も示唆していることが報じられている。少し気は早いが、来年(2020年)の株主総会においても「政策保有株式」は重要なテーマの一つとなろう。

実は「政策保有株式の売却を求める株主提案」は、・・・

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2019/12/05 可決可能性を左右する「株主提案の手法」(会員限定)

日本シェアホルダーサービス株式会社
シニアアナリスト 水嶋 創

 
“物言う株主”として知られる英国のアセット・バリュー・インベスターズ(AVI)が投資先の複数の日本企業に対して政策保有株式の売却を求めており、株主提案の可能性も示唆していることが報じられている。少し気は早いが、来年(2020年)の株主総会においても「政策保有株式」は重要なテーマの一つとなろう。

実は「政策保有株式の売却を求める株主提案」は、今年の株主総会でも確認されている。今年6月に開催された東証一部上場企業の株主総会では、3社に対して株主提案があったようだ。いずれも「定款一部変更の件」として提案されており、「3期以内」との期間を設定した上で、政策保有株式のすみやかな売却を求めるものとなっている。なお、このうち1件については、「純投資目的」で保有している株式についても同期間内の売却を要求していた()。

 提案者は「株式投資ではなく本業での利益拡大に期待して(貴社の)株式を保有している」として純投資目的で保有する株式については、より早期の売却を求めていた。

では、なぜ政策保有株式の売却を求める株主提案のタイトルが「定款一部変更の件」なのだろうか。これには会社法における株主総会の位置付けが関係している。上場企業のすべてが該当する取締役会設置会社の場合、業務執行の決定権は基本的に取締役会にあると解されており、株主総会は会社法および定款に定められた事項に限り決議できるとされる。したがって、業務執行に該当する「政策保有株式の売却」という提案は株主総会議案とはなりにくい。そこで、株主が業務執行について企業に何らかの具体的なアクションを求める場合には、「定款に○○という条項を追加すべき」といった定款変更議案になることが多い。

ところが、AVIが昨年東京放送ホールディングス(TBS)に対して提出した「政策保有株式の売却を求める株主提案」は「剰余金処分の件」であった。具体的には、TBS株式57株に対して、TBSが政策保有している東京エレクトロン株式1株を割り当てるという「現物配当」議案である。AVIの提案は世間の耳目を大いに集めたものの、当該株主提案の賛成率は11%にとどまった。株主が議案への賛否を判断するにあたり、「現物配当」という手法あるいはその実務上の負担()などを考慮した可能性もあると考えられる。

 実際、TBSも株主提案に反対する理由として、現物配当を行うためには、「証券会社等の関係者との調整」や「システム整備が必要になる」とし、その費用をTBSが負担することも想定されることを挙げていた。

とはいえ、定款変更議案の可決には2/3の賛成が必要であるのに対し、剰余金処分議案であれば過半数の賛成で足りる(2019年11月14日のニュース「株主提案議案の賛成率、3つの“防衛ライン”」参照)。すなわち、政策保有株式の売却を「剰余金処分議案」として求められた方が可決の可能性は高まる。特に機関投資家のほとんどは政策保有株式の縮減を求めていると考えられるだけに、アプローチ次第で「可決」もありうると言えるだろう。企業としては、株主提案の「手法」にも注意する必要がある。