2019/10/31 2019年10月度チェックテスト

解答をご覧になるには会員登録(※有料)が必要です。会員登録はこちら

【問題1】

有価証券報告書には、政策保有株式の個別銘柄の保有の適否に関する取締役会等における検証の内容を記載しなければならない。


正しい
間違い
【問題2】

国内機関投資家の多くは、社外取締役の選任議案への賛否の決定に際して、社外取締役の取締役会への出席率が「75%(3/4)」以上であるかどうかを基準の一つとしている。


正しい
間違い
【問題3】

SAR(Stock Appreciation Rightの略:直訳すれば「株式評価益権」)は株式に関係する報酬であるため、インサイダー規制の対象とされている。


正しい
間違い
【問題4】

株主に子会社株式を現物配当する場合、株主にとってはなんら配当しないよりも有利であるため、株主総会の決議は必要とされていない。


正しい
間違い
【問題5】

ISSの新ポリシー案は、上場子会社に対して、ISSの独立性基準を満たす2名の社外取締役を選任することを求めている。


正しい
間違い
【問題6】

OECD(経済協力開発機構)が検討中の「デジタル課税」案は適用対象企業が限定されているため、IT企業でなければ心配するには及ばない。


正しい
間違い
【問題7】

金融庁に設置された金融審議会「市場構造専門グループ」の第3回の会合では、地方企業や新興企業から、市場改革により実質的には「東証二部」への“格下げ”となる東証一部上場企業が出てくることを忌む声が寄せられた。


正しい
間違い
【問題8】

株主への情報開示を考えると、取締役会評価は株主総会の開催後ではなく開催前に開示するのが望ましい。


正しい
間違い
【問題9】

子会社であれば、たとえ上場していても、親会社の企業価値を最大化すべく行動することを求められる。


正しい
間違い
【問題10】

働き方改革を徹底すると、そのしわ寄せが下請け先に行く可能性がある。


正しい
間違い

2019/10/31 2019年10月度チェックテスト第1問解答画面(不正解)

不正解です。
開示府令の改正により、2019年3月期の有価証券報告書から、有価証券報告書の【株式の保有状況】の状況において「政策保有株式の個別銘柄の保有の適否に関する取締役会等における検証の内容」を記載しなければならなくなりました(問題文は正しいです)。もっとも、開示が十分でない企業も少なくないようなので注意が必要です。

こちらの記事で再確認!
2019年10月1日 政策保有株式保有の合理性に関する開示が不十分な事例(会員限定)

2019/10/30 【失敗学第65回】パートナーエージェントの事例(会員限定)

概要

結婚相談所や婚活パーティーを営むパートナーエージェント(東京証券取引所マザーズ)で、経理財務部門の従業員2人が不正に16百万円超の現金を引き出すとともに経費を架空計上していた。さらに、それが発覚した後も同社の一部取締役らが取締役会・監査役会に適切な報告を怠っていた。

経緯

パートナーエージェントが2019年10月15日に社内調査委員会の調査報告書を公表するまでの経緯は次のとおり。

2016年
4月1日:経理財務部門の2人(X氏とY氏)が現金の着服をはじめる。2人の間に通謀関係はなかった(と2人は主張)。

2019年
4月19日:元従業員G氏が在職中に独自に行った調査により不正が発覚し、Y氏を問いただしたところ、Y氏が自供。
4月22日:G氏はB取締役およびE取締役に報告を行ったところ、B氏は内部監査担当者に事実関係の調査を指示。
4月23日:内部監査担当者はG氏の報告が事実であったと報告。しかし、B取締役は内部監査担当者およびE取締役に「一旦自身に取り扱いを預からせて欲しい」旨メールで送信するとともに、直ちに取締役会に報告することを怠り、また、E取締役はB取締役に対応を委ねたままとし、本件の事実を認識しながら取締役会に直ちに報告しなかった。
5月20日:B取締役が「一旦自身に取り扱いを預からせて欲しい」と求めたのは、決算手続きを円滑に進めるためであった。その後、相当期間が経過してしまったことから、取締役会への報告遅滞の責任が内部監査担当者やE取締役に及ばないよう、関連するメールのやり取りを削除するよう提案。
6月20日:取締役に就任予定であった候補者(のちの本内部調査委員会の委員長)が取締役に就任するにあたって、業務の把握等の目的で行った経理財務部員の面談に際して、本件の不正行為の疑いやB取締役の報告遅滞の事実が発覚。
7月16日:本内部調査委員会の委員長が取締役会に報告を行う。
7月22日:同社の取締役会は社内調査委員会の設置を決定。
7月29日:パートナーエージェントで社内調査委員会が設置され、調査が開始される。

内容・原因・改善策

パートナーエージェントが公表した社内調査委員会の調査報告書によると、同社の経理財務部門の2人が現金を着服できた原因、再発防止策は次のとおりである。

銀行のATMを利用した預金口座からの現金の不正な引出し
内容 経理財務部門の2人が、経理財務部が保管している銀行のキャッシュカードを利用して、同社名義の銀行預金口座から現金を引き出し、着服していた。金額は一人が12,530千円、もう一人が4,050千円。着服金は、私的な借入の返済、生活費、私的な交通費、遊興費等に充当されていた。また、小口現金から着服することもあった。2人の間で通謀があったという事実は認定されていない。
原因 (機会)
・経理と財務が一体化しており、経費支払い時の承認もおざなりであり、自己承認で終わることも頻発していた。
・X氏およびY氏に業務が集中し、多忙すぎて内部牽制が機能しなかった。また、業務が属人化して外部から業務の状況を把握することができなくなっていた。
・上場を機に組織として拡大し、間接部門の人員の補充等の一定の対応を講じたものの、十分な人員補充等ができなかったため、経理財務部における経理手続の形骸化が進む一方で、経理業務が属人化し、相互牽制が働かない状況となっていた。
・経理財務部を管掌する取締役に内部統制構築への職務怠慢があった。
・小口現金の現金出納帳はエクセルで管理しており、当該エクセルは管理部門の者はだれでもアクセス可能であった。そこで小口現金の担当者が退社した深夜の時間帯に現金出納帳への架空取引の記帳をし、会計システムへの経費伝票の作成および自己承認を実施することにより、帳簿残高と現金残高がずれることを防いでいた。
・経理財務部の従業員であれば、金庫に保管されるキャッシュカードの暗証番号を把握していたため、誰でも容易に現金の引出しが可能であった。
・頻繁に現金の引出しがなされ、小口現金から多額の現金が出入りする状況であったことから、小口現金でありながら100万円を超える高額な残高が存在する状態が常態化していた。
・3月末決算の同社においては、監査法人による現金実査は店舗保管分について毎年3月31日に行われ、本社保管分は毎年4月1日の「午後」に実施されていた。経理担当者は、かかる状況を利用し、2015年以降、着服により生じた小口現金の残高不足分を、毎年4月1日「午前中」に同社名義の銀行預金口座から引き出して小口現金に振り替えることにより穴埋めをし、決算日にあたかも現金出納帳上の残高通りの現金が存在するかのように見せる工作を行い、現金残高を偽装していた。引き出し額は2019年4月1日には5,500千円に膨れ上がっていた。
・内部監査室の行う現金監査は、現金実査を行った月の現金出納帳(月中のものであるため、1か月に満たない日数分のものに過ぎない)を確認するのみであり、また、経理財務部がサンプルとして抽出した経費の処理についてのみ証憑との整合性を確認するという簡易的な手法を採るに留まっていた。また、同社では本社以外の営業所が37拠点にまで大幅に増加したにもかかわらず、依然として内部監査室には1名の人員しか配備されていない状況であった。

(横領することへの心理的障壁の低下)
・同社では、上場する以前にB取締役が主導し代表取締役の了承のもと数千万円単位の現金を引き出し、帳簿外で処理していたという事実が複数回存在した。かかる事実の存在は、当該引出しの事務手続に関与したX氏にとって(さらに、その事実をX氏から耳にしたY氏にとって)、自身も同様に私的な支出のために会社財産を横領することへの心理的障壁を下げる要因となっていた。

再発防止策 ・内部管理体制が重視されない企業風土の是正
・特定人に業務が集中する状況の改善
・経理財務部における業務体制の再整備
・現金類の管理の適正化(小口現金の残高及び現金支出の機会を必要最小限に留めること、小口現金及び銀行預金口座の管理者と現金支出の承認権限者を別途に定めること、それ以外の者については小口現金や銀行預金口座を取り扱うことができないものとすること、金種表等の作成を日々行い、就業時間後、現金出納担当者が必ず実残高の確認を行い、さらに、別の従業員も確認し、現金出納帳が適切に記録保存されている旨、確認・承認する)
・レポーティング・ラインに従った適切な報告体制の整備
・内部通報制度の利用促進
・コンプライアンス研修の実施
・内部監査の実効性の強化
<この失敗から学ぶべきこと>

パートナーエージェントの経理財務部では、偶然にも2人の従業員が着服をしていました。同じ部門に属する2人(しかも上司と部下の関係にありました)が共謀することなく(共謀はなかったと2人は主張)同時進行で着服をしていたのはとても珍しいケースと言えます。まさに内部統制の緩さが犯罪を生んでしまったといっても過言ではありません。

同社では、取締役らが取締役会・監査役会に適切な報告を怠っていたことも批判されています。役員が不正を知った場合、すぐに取締役会・監査役会に報告しなければ、後日報告遅滞を責められることになります。役員はそのことを念頭に置いて行動すべきです。

同社における不正の手口で注目すべきは、監査法人の現金実査時につじつま合わせのために現金の不足分を銀行から引き出していたという点です。同社では本社の現金実査は決算日の翌日午後に実施していたので、預金を引き出して小口現金の不足分を補うには半日の余裕がありました(決算日の残高は監査法人からの確認書に回答されることから、引き出しは決算日の翌日午前に行う必要があります)。決算日の翌日に現金実査をする会社は、この手口に備えて早い時間に実査を行ったり、実査日当日の預金口座の動きを事後的に検証する等の備えが必要と言えます。

2019/10/29 経営権争奪戦に揺れたLIXILの総会で、全取締役に反対票投じた投資家も

時価総額上位企業の2019年6月株主総会において反対行使(株主提案議案については賛成行使)が目に付いた議案分析の第十弾では、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2019/10/29 経営権争奪戦に揺れたLIXILの総会で、全取締役に反対票投じた投資家も(会員限定)

時価総額上位企業の2019年6月株主総会において反対行使(株主提案議案については賛成行使)が目に付いた議案分析の第十弾では、LIXILグループをとり上げる。同社の時価総額(2019年8月末現在)は200位前後だが、同社の株主総会は2019年6月株主総会シーズンで最大の話題になったと言っても過言ではない(2019年7月16日のニュース「2019年6月株主総会 賛成率40%超の株主提案が15議案」、2019年7月8日のニュース「速報・2019年6月株主総会 取締役選任議案が2件否決」参照)

第一弾 2019年9月5日『独立性の説明なければ「独立性なし」と“推定”される恐れ
第二弾 2019年9月9日『「独立役員届出書」の内容も議決権行使の判断材料に
第三弾 2019年9月10日「賛成率2%台の株主提案議案に機関投資家が賛成票
第四弾 2019年9月12日「親会社出身の社外監査役選任に賛成した機関投資家も
第五弾 2019年9月19日「役員報酬制度の設計が賛成率を左右する傾向顕著に
第六弾 2019年9月25日「低い配当性向、無借金経営に機関投資家の厳しい目
第七弾 2019年10月2日「機関投資家、社外取締役の出席率を厳格にチェック
第八弾 2019年10月7日「取締役の数が基準オーバーで代表取締役CEOの選任議案に反対票
第九弾 2019年10月21日「社外取締役選任議案への賛否が運用機関により分かれた背景
【番外編】2019年10月24日「監査法人変更が押し上げた社外監査役選任議案への賛成率

議案 内容 賛成率
第1号議案 取締役8名選任 【社外】内堀民雄 57.89%
【社外】河原春郎 51.50%
【社外】カート・キャンベル 53.13%
【社外】竹内洋 44.39%
【社外】福原賢一 44.92%
【社外】松崎正年 52.46%
【社外】三浦善司 51.30%
【COO】大坪一彦 51.28%
第2号議案 取締役2名選任 【社外】鬼丸かおる 94.45%
【社外】鈴木輝夫 94.43%
第3号議案 取締役6名選任
(株主提案)
【社外】西浦裕二 51.95%
【社外】浜口大輔 64.55%
伊奈啓一郎 58.74%
【元副社長】川本隆一 50.81%
【専務】吉田聡 51.41%
【元社長兼CEO】瀬戸欣哉 53.71%

第1号議案の8名が会社提案、第2・3号議案の8名が株主提案の候補者だが、第2号議案の2名を除き(ちなみに、第2号議案の2名については、一時、会社側と株主側の“共通候補”となってた経緯から(その後、両名とも会社側の候補者を辞退)、多くの賛成票を集めたものと思われる)、賛成率はいずれも70%に達していない。なかでも、会社提案の候補者である元日本政策投資銀行の竹内氏と元野村證券の福原氏2名の選任議案は、議決権行使助言会社最大手のISSが独立性の観点から反対を推奨したことで、否決されている。その結果、株主提案の取締役が取締役会の過半数を占めるに至ったが、「会社VS株主」という構図においては、いかに投資家の判断が割れていたかがうかがわれる。

そこで当フォーラムでは、主な国内機関投資家が会社提案と株主提案に対してどのような議決権行使行動をとったかを調査した。まずは分かりやすいケースとして、会社提案の候補者に全員賛成かつ株主提案の候補者に全員反対した機関投資家、および会社提案の候補者に全員反対かつ株主提案の候補者に全員賛成した機関投資家を列挙する。

【会社提案の候補者に全員賛成かつ株主提案の候補者に全員反対】
企業年金連合会、大和証券投資信託委託、三菱UFJ国際投信、T&Dアセットマネジメント、しんきんアセットマネジメント投信

【会社提案の候補者に全員反対かつ株主提案の候補者に全員賛成】
野村アセットマネジメント、日興アセットマネジメント、三菱UFJ信託銀行、三井住友トラスト・アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメント、アセットマネジメントOne、りそな銀行、東京海上アセットマネジメント、MU投資顧問、JPモルガン・アセット・マネジメント

上記調査結果を見る限り、国内機関投資家の多くは株主提案の候補者を支持したと言えそうだ。会社提案の候補者を支持した機関投資家は元CEOに対して前期における営業赤字など業績不振を問題視する一方、、株主提案の候補者を支持した投資家は元会長に対して不透明なトップ交代プロセスを問題視して賛否を判断したものと推測される。すなわち、国内機関投資家の大勢は、目先の業績不振よりも「ガバナンス上の欠陥」に重きを置いたとの見方ができるだろう。

もっとも、国内機関投資家の中には、基本的には会社提案の候補者か株主提案の候補者一方を支持しつつ、一部の候補者については異なった判断をした事例も散見される。アムンディジャパンは、会社提案の候補者については松崎氏以外の全員に賛成、株主提案の候補者には全員反対だった。同社の議決権行使基準では、上場企業の兼務先数が4社以上となる場合は「その職務を誠実に遂行するための十分な時間の確保が懸念されるため」反対行使するとしており、松崎氏がコニカミノルタの取締役会議長、日本板硝子・野村総合研究所・いちごの社外取締役であることを問題視したものと考えられる。

このほか、会社側、株主側のどちらにも肩入れしなかった機関投資家として、候補者全員の選任議案に賛成した日本生命保険、逆に候補全員の選任議案に反対した明治安田アセットマネジメントの議決権行使行動も注目される。日本生命は経営権争奪戦には関与しない立場をとった一方、明治安田アセットマネジメントは“喧嘩両成敗”との判断を下したものと考えられる。

2019/10/28 働き方改革を進めることで起こり得るコンプライアンス違反

働き方改革では、本来なら「業務プロセスの見直しと効率化」(文字通り“働き方”の改革)を目指すべきだが、現状、多くの企業が時間外労働の上限規制()への対応のため、労働時間を短縮することばかりに主眼を置かれてしまっている感は否めない。さらには、働き方改革の目的が「非管理職の労働時間短縮」にまで矮小化される傾向(人事の専門家の間では“二重の矮小化”と言われる)も見受けられる。

 従来の時間外労働時間は、三六協定により、大臣告示に定められた上限時間「1か月45時間、1年360時間」の範囲で設定することを原則としつつ、特別条項により当該上限を超えて時間外労働をさせることが可能とされてきたが、働き方改革関連法では、2019年4月以降(大企業の場合。中小企業は2020年4月1以降適用。大企業の範囲は厚生労働省のパンフレット参照)、原則として「月45時間、1年360時間」、例外として「月100時間、年間720時間」を上限とすることが「労働基準法」に明記された。仮に事業主が労働者にこの上限を超えて時間外労働をさせた場合には、事業主に対し「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」という罰則が科されることになる(詳細は【2018年6月の課題】働き方改革関連法の施行に向けた準備:解答の「(2)長時間労働の是正(労働時間の上限設定)」参照)。


三六協定 : 「時間外労働・休日労働に関する労使協定」のこと。労働基準法第36条に基づく協定であるため「三六協定」とも呼ばれる。
特別条項 : 「臨時的に、限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合」に、従来の限度時間を超える一定の時間を延長時間とすることを可能とするもの。
働き方改革関連法 : 雇用対策法、労働基準法、労働時間等設定改善法、労働安全衛生法、じん肺法、パートタイム労働法(パート法)、労働契約法、労働者派遣法の労働関連8法のこと。正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」である。

何か労務上のトラブルを起こせばすぐさま“ブラック企業”との烙印を押されかねない時代、経営陣が「労働基準法に違反して罰則を科されたくない」と考えるのは当然とはいえ、自社の従業員の労働時間を短縮することばかりに注力した結果として生じかねないもう一つのコンプライアンス違反が

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2019/10/28 働き方改革を進めることで起こり得るコンプライアンス違反(会員限定)

働き方改革では、本来なら「業務プロセスの見直しと効率化」(文字通り“働き方”の改革)を目指すべきだが、現状、多くの企業が時間外労働の上限規制()への対応のため、労働時間を短縮することばかりに主眼を置かれてしまっている感は否めない。さらには、働き方改革の目的が「非管理職の労働時間短縮」にまで矮小化される傾向(人事の専門家の間では“二重の矮小化”と言われる)も見受けられる。

 従来の時間外労働時間は、三六協定により、大臣告示に定められた上限時間「1か月45時間、1年360時間」の範囲で設定することを原則としつつ、特別条項により当該上限を超えて時間外労働をさせることが可能とされてきたが、働き方改革関連法では、2019年4月以降(大企業の場合。中小企業は2020年4月1以降適用。大企業の範囲は厚生労働省のパンフレット参照)、原則として「月45時間、1年360時間」、例外として「月100時間、年間720時間」を上限とすることが「労働基準法」に明記された。仮に事業主が労働者にこの上限を超えて時間外労働をさせた場合には、事業主に対し「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」という罰則が科されることになる(詳細は【2018年6月の課題】働き方改革関連法の施行に向けた準備:解答の「(2)長時間労働の是正(労働時間の上限設定)」参照)。


三六協定 : 「時間外労働・休日労働に関する労使協定」のこと。労働基準法第36条に基づく協定であるため「三六協定」とも呼ばれる。
特別条項 : 「臨時的に、限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合」に、従来の限度時間を超える一定の時間を延長時間とすることを可能とするもの。
働き方改革関連法 : 雇用対策法、労働基準法、労働時間等設定改善法、労働安全衛生法、じん肺法、パートタイム労働法(パート法)、労働契約法、労働者派遣法の労働関連8法のこと。正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」である。

何か労務上のトラブルを起こせばすぐさま“ブラック企業”との烙印を押されかねない時代、経営陣が「労働基準法に違反して罰則を科されたくない」と考えるのは当然とはいえ、自社の従業員の労働時間を短縮することばかりに注力した結果として生じかねないもう一つのコンプライアンス違反がいわゆる“下請けイジメ”だ。政府(厚生労働省・中小企業庁・公正取引委員会)はこれを「働き方改革に伴う『しわ寄せ』」と呼び、11月を「しわ寄せ防止キャンペーン月間」として、大企業や親事業者の啓発に集中して取り組む方針を打ち出している。
 
具体的に問題となるのが以下のような行為だ。これらの行為は、下請法や独占禁止法が定める禁止行為に該当する可能性があるとされる。

(1) 買いたたき
[具体例] 短納期発注により人件費等のコストが大幅に増加したにもかかわらず、発注者が通常の単価と同一の単価を一方的に定めた。
(2) 減額
 [具体例] あらかじめ “特急料金”が設定されていたにもかかわらず、発注者は「予算が足りない」等の理由により、通常の代金しか支払わなかった。
(3) 不当な給付内容の変更・やり直し
 [具体例] 毎週特定曜日に数台のトラックを待機させておく契約であったところ、当日になって「今日の配送は取りやめになった」と一方的にキャンセルし、その分の対価を支払わなかった。
(4) 受領拒否
 [具体例] 発注後、一方的に納期を短く変更し、変更後の納期に間に合わなかったことを理由に商品の受領を拒否した。
(5) 不当な経済上の利益提供要請
 [具体例] 発注者自ら行うべき発注データの自社システムへの入力業務を受注者に無償で行わせた。

独占禁止法や下請法に違反すれば、労働基準法違反よりも重い罰則を受ける可能性がある(改正独占禁止法の課徴金制度はこちら)。「働き方改革」という大義の下、労働基準法を順守するための取り組みが別のコンプライアンス違反を招いたとなればまさに本末転倒だ。上場企業の経営陣は、そもそも働き方改革は下請業者や取引先とともに考えていくテーマであることを認識すべきだろう。

2019/10/25 上場子会社のガバナンス確保に向けた方針の開示始まる

周知のとおり、アスクルの株主総会(2019年8月2日開催)で議決権行使を巡り生じたアスクルと同社の株式の約45%を保有する連結親会社ヤフー(2019年10月1日よりZホールディングスに社名を変更)の対立により、改めて上場子会社の存在の是非や上場子会社のガバナンスのあり方に焦点が当たることとなった(【役員会 Good&Bad発言集】上場子会社の独立社外取締役の選任議案、2019年8月21日のニュース「上場子会社を持つ親会社のジレンマ」参照)が、この問題に積極的に取り組む姿勢を示したのが、6社の上場子会社を持つ・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2019/10/25 上場子会社のガバナンス確保に向けた方針の開示始まる(会員限定)

周知のとおり、アスクルの株主総会(2019年8月2日開催)で議決権行使を巡り生じたアスクルと同社の株式の約45%を保有する連結親会社ヤフー(2019年10月1日よりZホールディングスに社名を変更)の対立により、改めて上場子会社の存在の是非や上場子会社のガバナンスのあり方に焦点が当たることとなった(【役員会 Good&Bad発言集】上場子会社の独立社外取締役の選任議案、2019年8月21日のニュース「上場子会社を持つ親会社のジレンマ」参照)が、この問題に積極的に取り組む姿勢を示したのが、6社の上場子会社を持つ伊藤忠商事だ。

同社の上場子会社は以下のとおり。
・伊藤忠テクノソリューションズ(東証一部)
・伊藤忠エネクス(東証一部)
・伊藤忠食品(東証一部)
・コネクシオ(東証一部)
・タキロンシーアイ(東証一部)
・ファミリーマート(東証一部・名証一部)

同社はこれらの上場子会社の存在を念頭に、2019年10月10日に開催した取締役会で「当社が親会社である上場子会社のガバナンスに関する当社方針」を定めた。同社のリリース(抜粋)は以下のとおり。

当社は本日現在において6社の上場子会社を有しておりますが、従前より、上場会社としての独立性を尊重し、かつ、株主平等の原則から反する行為は行わないとの方針を有しておりました。しかしながら、昨今の親子上場に対する株主・機関投資家等の関心の高まり及び日本政府の方針を踏まえ、各上場子会社における一般株主の利益を適切に保護することが当該上場子会社の企業価値の向上に資するとの考え方のもと、この点に関する親会社としての当社の方針をより明確にする必要があると認識し、今般、新たな策定に至ったものです。当該方針の具体的内容は以下のとおりです。

① 当社は、当社グループに上場子会社が存在する場合において、当該上場子会社の独立性を尊重し、且つ、株主平等の原則から反するような行為は行いません。
② 特に、当社と当該上場子会社の一般株主との間に利益相反リスクがあることを踏まえ、当該上場子会社としての独立した意思決定を担保するために、当該上場子会社に対して、独立社外取締役を有効に活用した実効的なガバナンス体制の構築を促します。
③ 当社は、当社グループにおける上場子会社につき、上場子会社として維持することの合理的理由及び当該上場子会社のガバナンス体制の実効性につき説明責任を果たしていきます。

上記指針のポイントとなるのは、上場子会社の一般株主と伊藤忠と間に「利益相反」が生じ得ることを明示したうえで、当該上場子会社の独立社外取締役の尊重をうたったことだろう。

利益相反 : 上場会社とその上場子会社の間に生じがちな利益相反の一般的な例として、親会社の要請を受け、上場子会社のサービスを親会社にだけ一般価格よりも割安の価格で提供した場合、親会社はコストダウンを図ることができる一方で、子会社の収益機会はその分損なわれ、ひいては子会社の一般株主の配当減や株価下落につながることになる。

「独立社外取締役の尊重」は経済産業省が2019年6月28日に策定した「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針 (グループガイドライン)」が提案している内容と軌を一にしている(グループガイドライン130ページの「(上場子会社における適切な独立社外取締役を確保するための担保措置)」を参照)。

今後は上場子会社を持つ上場会社が同様の方針を策定する動きが相次ぐことが予想される。

ただし、単に方針を示すだけでなく、実質的にも利益相反が生じていないか、あるいは利益相反を解消できているかも、一般株主である機関投資家などから問われることになろう。利益相反取引を未然に防ぐためには、親会社と上場子会社がそれぞれ下記のような取り組みを行うことが考えられる。

親会社 ・上場子会社から不当に安く仕入れることのないよう仕入部門の担当者・管理職に定期的に研修を行う。万が一、そのような事実が発覚した場合には厳しい処分を行うことを社内制度で定める。
・上場子会社に不当に高く売りつけたり決算前などに押し込み販売をしたりすることのないよう販売部門の担当者・管理職に定期的に研修を行う。万が一、そのような事実が発覚した場合には厳しい処分を行うことを社内制度で定める。
・上場子会社への製品・サービスの購入の義務付け(独占契約)を禁止する。
・上場子会社から資金を無償または市中金利よりも低利で融資を受けることを禁止する。
・親会社の人材を上場子会社に出向・転籍させることを原則として禁止する。
・上場子会社が会社提案した役員選任議案への議決権行使にあたっては、当該上場子会社の指名委員会が出した結論を最大限に尊重するようにする。もし上場子会社が会社提案した役員選任議案に反対票を投じる場合には議決権行使に先立ち十分な対話を行うようにする。
上場子会社 ・親会社や兄弟会社との間で、一般的な粗利率を大きく下回る取引を行う場合には事前に社外取締役の承認を必要とするものとし、定期的に社外取締役へ取引内容を報告させる。
親会社と上場子会社の双方 ・上場子会社の独立取締役が利益相反リスクに留意できるよう就任時に誓約書に署名させるとともに定期的に研修を受講させる。
・親会社の社外取締役と上場子会社の社外取締役が定期的に情報交換を行うようにする。

また、伊藤忠の方針にもあるように、今後は「上場子会社として維持することの合理的理由」(親会社や兄弟会社と事業領域が異なり、かつ、当該上場子会社がグループ内に留まることでシナジーが発揮され親会社だけでなく上場子会社の企業価値の最大化を図ることができる等)を具体的に示していくことが求められそうだ。