<解説>
資産の使用に応じて資産除去コストを費用配分
例えば建物を建てるために土地を賃借した場合、土地の賃貸借契約終了時には建物を壊して更地にして返還(原状回復)するよう取決めされているのが通常です。また、賃借したオフィスに仕切り壁を設けて会議室を作った場合も、オフィスの賃貸借契約終了時には仕切り壁等を取り払う等原状回復をしたうえでオフィスを返還する必要があります。このような「建物や造作を壊して元通りに戻す際に生じるであろうコスト」を支払いを行う事業年度にだけ負担させるのは不合理であり、発生主義の観点からは資産の使用に応じて各事業年度に負担させる(費用配分する)べきです。それを実現するのが「資産除去債務」に関する会計処理です。
「資産除去債務」とは、「有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるもの」を言います(企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」3項)。この場合の「法律上の義務及びそれに準ずるもの」には、次のような義務が含まれます。
・有形固定資産を除去する義務
・有形固定資産の除去そのものは義務でなくとも、有形固定資産を除去する際に当該有形固定資産に使用されている有害物質等を法律等の要求による特別の方法で除去するという義務
ここで、気になるのは有形固定資産の「除去」が何を指すのかです。資産除去債務に関する会計基準では、「有形固定資産を用役提供から除外すること」を言うとされています。具体的には、有形固定資産を売却、廃棄、リサイクルその他の方法により処分等することを指します。なお、次の場合は「除去」には含まれません。
・一時的な除外
・転用
・用途変更
・単なる遊休状態になること
資産除去債務はその名前のとおり「債務」なので、貸借対照表上は「負債」に計上します。これにより投資家は「将来どの程度の資産除去債務が発生するのか」が一目瞭然となります。資産除去債務を計上するのは、有形固定資産の取得、建設、開発または通常の使用によって発生した時です。
資産除去債務の金額は次のステップで算定します。
(1)有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローを見積もる。
(2)割引前の見積り将来キャッシュ・フローを現在価値に割り引く。
以下、順に解説します。
(1)割引前の将来キャッシュ・フローの見積り
割引前の将来キャッシュ・フローは、合理的で説明可能な仮定および予測に基づく自己の支出見積りによらなければなりません。また、将来キャッシュ・フローは、「生起する可能性の最も高い単一の金額又は生起し得る複数の将来キャッシュ・フローをそれぞれの発生確率で加重平均した金額」を見積もる必要があります。将来キャッシュ・フローには、有形固定資産の除去に係る作業のために直接要する支出のほか、処分に至るまでの支出(例えば、保管や管理のための支出)も含めます。
(2)見積り将来キャッシュ・フローの現在価値への割引計算
現在の100円と将来の100円は同じ100円であってもその実質的な意味合いは異なってきます。現在の100円は国債等の安全資産で運用すれば将来は101円(1%で1年間運用)になっているからです。つまり、利率が1%とすると、今の100円と将来の101円(100円×1.01)が同じと言えます。逆に言えば、利率1%として、将来の100円を現在の価値に割引計算すれば、およそ99円(100円÷1.01)に相当します。
(1)で見積った割引前の将来キャッシュ・フローは、1年後の100円も5年後の100円も「今支出したとしたら」という過程で積み上げていく、いわば「時間価値を無視した将来キャッシュ・フロー」です。これを現在価値に割引計算することで、時間価値を反映させたキャッシュ・フローとして資産除去債務を見積ることが可能になります。ちなみに、割引率は貨幣の時間価値を反映した無リスクの税引前の利率を用います。
資産除去債務は「債務」なので、これに対応する「費用」も計上しなければなりません。資産除去債務に対応する除去費用は、資産除去債務を負債として計上した時に、当該負債の計上額と同額を、関連する有形固定資産の帳簿価額に加えることで計上されます。つまり、除去費用は資産除去債務を負債として計上した期に一括で費用化されるのではなく、関連する有形固定資産の減価償却を通じて、当該有形固定資産の残存耐用年数にわたり、各期に費用配分されることになります。
例えば、5年後に資産除去を予定しており、その際には100円の支出が必要になると見積もったとします。5年後の100円を割引率1%で現在価値に引き直すと、おおよそ95円になります。この95円を資産除去債務として負債に計上します。それだけでは貸借対照表の貸借がバランスしないことから、関連する有形固定資産の帳簿価額にも95円を加えてバランスを取ります。減価償却方法が定額法で残存耐用年数が5年とすると、この95円を5年かけて償却します。すなわち、毎年19円(=95円÷5年)だけ減価償却費が増えることになります。一方、時の経過に応じて資産除去債務を増額させてあげなければなりません。これらの動きをまとめたのが下記の表です。減価償却(すなわち資産除去費用の期間配分)が進みつつ、じわりじわりと資産除去債務が増額されていることが確認できます。
| 事業年度 | 除去費用 | 資産除去債務 |
| 0年目 | 関連する有形固定資産の帳簿価額に95円を追加する。 | 資産除去債務として95円を計上する。 |
| 1年目 | 19円を減価償却。これにより除去費用の未償却残高は76円になる。 | 1円(95円×1%)を追加。これにより資産除去債務は96円になる。 |
| 2年目 | 19円を減価償却。これにより除去費用の未償却残高は57円になる。 | 1円(96円×1%)を追加。これにより資産除去債務は97円になる。 |
| 3年目 | 19円を減価償却。これにより除去費用の未償却残高は38円になる。 | 1円(97円×1%)を追加。これにより資産除去債務は98円になる。 |
| 4年目 | 19円を減価償却。これにより除去費用の未償却残高は19円になる。 | 1円(98円×1%)を追加。これにより資産除去債務は99円になる。 |
| 5年目 | 19円を減価償却。これにより除去費用の未償却残高は0円になる。 | 1円(99円×1%)を追加。これにより資産除去債務は100円になる。 |
5年目の終わりに当初の予測通りに100円の支出で資産除去を行うとすると、資産除去債務100円を当該支払いに充てることで、資産除去時だけに100円のコスト負担が集中するのを防ぐことができます。すなわち、上表の会計処理により、資産除去債務の計上目的である「資産除去時だけに除去費用が集中するのを防ぎ、発生に応じて費用負担を行うこと」を実現できていることが分かります。
資産除去債務の開示
資産除去債務は、貸借対照表上は、貸借対照表日後1年以内にその履行が見込まれる場合を除き、固定負債の区分に資産除去債務等の科目名で表示します。貸借対照表日後1年以内に資産除去債務の履行が見込まれる場合には、固定負債の区分ではなく流動負債の区分で表示します(ワンイヤールール)。
一方、資産計上された資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額(上表では毎年19円)は、損益計算書上、当該資産除去債務に関連する有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて計上します。時の経過による資産除去債務の調整額(上表では毎年1円)は、損益計算書上、当該資産除去債務に関連する有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて計上します。
さらに、資産除去債務の会計処理に関連して、重要性が乏しい場合を除き、次の事項を注記しなければなりません。
(1) 資産除去債務の内容についての簡潔な説明
(2) 支出発生までの見込期間、適用した割引率等の前提条件
(3) 資産除去債務の総額の期中における増減内容
(4) 資産除去債務の見積りを変更したときは、その変更の概要及び影響額
(5) 資産除去債務は発生しているが、その債務を合理的に見積ることができないため、貸借対照表に資産除去債務を計上していない場合には、当該資産除去債務の概要、合理的に見積ることができない旨及びその理由
さて、以上の解説をご覧いただければ、誰の発言がGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。
<正解>
取締役C:「そのような事態を回避するために、資産除去債務を見積り計上するとともに、資産除去費用を毎期計上しているのではないでしょうか。」
(コメント:経理に明るくない役員にとって、資産除去債務に係る会計処理は、「資産除去債務を見積り計上すること」と「当該負債の計上額と同額を、関連する有形固定資産の帳簿価額に加えて、減価償却を通じて各期へ費用配分すること」がごっちゃになり分かりづらいと言えます。Cの発言は2つの話(資産除去債務の計上と毎期の費用処理)を明確に区別したうえで、資産除去債務の計上の目的(資産を除去した事業年度に一括して除去コストを負担させることの不合理さを回避)を踏まえた発言であり、Goodです。)
「近々Z工場の操業を停止する予定です。工場の遊休をきっかけとして資産除去債務を計上しなければならなくなるのではないでしょうか。」
(コメント:「遊休」は資産除去債務における「資産除去」には該当しないので、「単なる遊休状態になること」を契機として資産除去債務が増えることはありません。以上よりAの発言はBadです。)
「もしZ工場を閉鎖して工場用地を地主に返還することになると、その時点で除去費用が一括して発生します。そうなると業績にも甚大な影響を与えることになるでしょう。」
(コメント:工場を閉鎖して土地を返還する際に多額の資産除去コストがかかるからこそ、それに備えて資産除去債務を見積計上して、かつ、資産除去費用を毎事業年度に配分して計上してきているはずです。工場の取り壊しにかかるコストの見積りが適正であれば、工場の取り壊し時に追加的に資産除去費用がかかることはありません。もし資産除去コストが従来の想定よりも増額するのであれば、それが明らかになった時点で早めに資産除去債務の追加計上が必要になります。いずれにしろ、土地返還時に多額の除去費用が一括して発生するわけではありません。以上よりBの発言はBadです。)
