2019年5月14日のニュース「個人情報保護法改正 課徴金導入・罰金引上げ&漏えい報告義務化の行方」では、来年2020年に実施されることになっている個人情報保護法の改正により、欧州の「一般データ保護規則(General Data Protection Regulation =GDPR)」並みの「課徴金導入・罰金引上げ」および「漏えい報告の義務化」が行われることになるのかどうかについてお伝えしたが、これらと同様に、仮にGDPRの規制が導入された場合、企業にとって大きな負担となる可能性があるのが「データポータビリティ権」と「利用停止権・消去権(忘れられる権利)」だ。それぞれ具体的に見てみよう。
■データポータビリティ権
日本の個人情報保護法では、個人情報取扱事業者は、本人からの請求があれば、本人が識別される個人データを、「書面」により本人に開示しなければならないことになっている(この権利を「開示請求権」という)。
一方、GDPRにおける開示請求権は日本の個人情報保護法よりも進んでおり、「データポータビリティ権」として以下の権利が認められている。
①自らの個人データを、機械可読性のある形式で取り戻す権利
②技術的に可能な場合には、自らの個人データを、ある管理者から別の管理者に直接的に移行させる権利
機械可読性:コンピューターにより文書構造が認識できること。機械可読性に配慮した文書(例えばXML(Extensible Markup Language=拡張可能なマークアップ言語)により作成された文書)はインターネットで検索されやすく、それゆえ流通しやすい。文書流通がインターネットを中心とするようになり、機械可読性を高めた文書の重要性が増してきている。
①で、事業者に対し電磁的形式(=機械可読性のある形式)により本人に個人データを提供することが求められているのは、本人が取り戻した個人データを他の用途で利用できるようにするためであり、この点、「書面」による個人データの提供が求められる日本の個人情報保護法上の開示請求権とは大きく異なっている。②は、「技術的に可能な場合」という条件付きで、事業者間での個人データの直接移行(例えば、携帯電話会社をA社からB社に乗り換える場合に、A社からB社に個人データを直接移行する)を求めるものである。
上記①②に関し、「個人情報保護委員会」 が(2019年)4月25日に公表した「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しに係る検討の中間整理」(以下、中間整理)では、「個人情報保護法における開示の際の電磁的形式による提供の明確化についても、今後、利用者の利便性も考慮しつつ、検討していく必要がある」との考えが示されていることから(中間整理17ページ下部参照)、①については何らかの法改正が行われる可能性が高い。電磁的形式による個人データの提供が原則とされた場合、企業には、法改正を踏まえた社内規定、個人へのデータ提供プロセスやこれに関連する内部統制の整備が求められることになるだろう。
個人情報保護委員会:内閣府の外局として、内閣総理大臣が所轄する行政委員会。個人情報保護委員会には調査、監督権限が認められており、同委員会の命令違反には罰則が科される。個人情報保護法に基づき、2016年1月1日に設置された。
■利用停止権・消去権(忘れられる権利)
日本の個人情報保護法では、事業者が本人から個人データの利用停止・消去の請求を受けた場合には、事業者はそれらの請求に対応しなければならないことになっている。ただし、同法上、事業者に対応が義務付けられているのは、例えば事業者が本人の同意なく保有個人データを目的外利用している場合等、法律に違反している場合に限られている。
一方で、GDPRでは、本人の請求に基づき事業者に個人データを消去させる権利(GDPRでは「忘れられる権利」と称される)をより幅広く認めている点に大きな特徴がある。例えば、個人データを保有する必要性がなくなった場合や、個人データを利用することについて本人が同意を撤回した場合等においては、事業者は当該個人データを消去する義務を負うことが明確化されている。これに対し日本の個人情報保護法では、利用する必要がなくなった個人データを遅滞なく消去するよう“努力”しなければならないこととされているものの、法律上の義務とはなっていない。
こうしたなか中間整理では、個人データの利用停止権・消去権について、「消費者側からの根強い要望に対して、個人の権利を保護していく観点からどのようにすれば一定の対応が可能か、企業側の実態も踏まえつつ具体的に検討していく必要がある」との考えが示されている(中間報告19ページ冒頭参照)。慎重な書きぶりとはいえ、何らかの形で個人の権利を拡充する方向で法改正が行われる可能性が高い。
個人データの利用停止権・消去権のうち、企業にとって特に影響が大きいのは消去権の方だろう。消去権が行使された場合、多大な努力によって獲得したノウハウ(例えば特定の属性の個人の購買行動パターンなど)が、企業から不可逆的に流出することとなる。また、企業内に点在する個人データを集約して消去するためには相当の工数を要し、実務上の負担も大きい。このため企業側からは、消去権がGDPR並みに拡充されることに対し強い懸念が示されている。企業にとっては、注意を要する改正事項と言えよう。