2019/05/27 「労働時間の状況」の把握とは?

労働基準法41条は、管理監督者()には労働時間等に関する規定を適用しない旨を定めている。そのため、出退勤管理にタイムカードやICカード等を導入している企業であっても、管理監督者に該当する従業員についてはこれらによる管理の対象外とする、あるいは出勤時のみ打刻する(退勤時は打刻しない)例が見受けられた。といっても、これは今年(2019年)3月までの話である。

 ここで言う「管理監督者」とは、一般的な「管理職」とは若干意味が異なり、「経営者と一体的な立場にある者」を指す(S22.9.13発基第17号)。

4月からは、働き方改革関連法の一つとして労働安全衛生法が改正され、管理監督者や裁量労働者(裁量労働の詳細は2018年3月12日のニュース『「裁量労働制」を巡る誤解』参照)を含むすべての労働者(ただし、高度プロフェッショナル制度(詳細はこちら)の適用者を除く)について、「事業者は(中略)労働時間の状況を把握しなければならない」こととされた(同法66条の8の3、H30.12.28基発1228第16号9ページ 問10参照)。具体的には、タイムカード、パソコン使用時間の記録、事業者の現認等の客観的な記録により、労働日ごとの出退勤時刻や入退室時刻の記録等を把握しなければならない(同通達8ページ 答8参照)。

労働安全衛生法 : 職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境を形成する目的で制定された法律(昭和47年10月1日施行)。労働者の安全と衛生についての基準が定められており、事業者にはこれらの基準を守ることや、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにすることなどが求められる。
裁量労働 : 業務の遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる制度であり、逆に言えば、同制度の対象となる労働者は業務遂行の手段や時間配分を自らの裁量で決められることになっている。したがって、会社(上司)は、業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、具体的な指示をしてはならない。
高度プロフェッショナル制度 : 職務の範囲が明確で一定の年収(1,075万円以上)の労働者が高度な専門的知識を必要とする業務(例えば、金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリスト業務、コンサルタント業務、研究開発業務)に従事する場合、これらの労働者を労働基準法上の労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定の適用対象外とする措置。ただし、高度プロフェッショナル制度を導入する際は、経営側と労働者側の委員で構成される労使委員会で5分の4以上の賛成多数で決議が行われ、さらに対象労働者本人の同意を得る必要がある。また、健康確保措置を講じることが要件となるほか、いったん同制度の適用を受けることに同意した後でも本人の意思で離脱することが可能。

ここで注意したいのが、「労働時間の状況」という文言だ。

そもそも・・・

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2019/05/27 「労働時間の状況」の把握とは?(会員限定)

労働基準法41条は、管理監督者()には労働時間等に関する規定を適用しない旨を定めている。そのため、出退勤管理にタイムカードやICカード等を導入している企業であっても、管理監督者に該当する従業員についてはこれらによる管理の対象外とする、あるいは出勤時のみ打刻する(退勤時は打刻しない)例が見受けられた。といっても、これは今年(2019年)3月までの話である。

 ここで言う「管理監督者」とは、一般的な「管理職」とは若干意味が異なり、「経営者と一体的な立場にある者」を指す(S22.9.13発基第17号)。

4月からは、働き方改革関連法の一つとして労働安全衛生法が改正され、管理監督者や裁量労働者(裁量労働の詳細は2018年3月12日のニュース『「裁量労働制」を巡る誤解』参照)を含むすべての労働者(ただし、高度プロフェッショナル制度(詳細はこちら)の適用者を除く)について、「事業者は(中略)労働時間の状況を把握しなければならない」こととされた(同法66条の8の3、H30.12.28基発1228第16号9ページ 問10参照)。具体的には、タイムカード、パソコン使用時間の記録、事業者の現認等の客観的な記録により、労働日ごとの出退勤時刻や入退室時刻の記録等を把握しなければならない(同通達8ページ 答8参照)。

労働安全衛生法 : 職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境を形成する目的で制定された法律(昭和47年10月1日施行)。労働者の安全と衛生についての基準が定められており、事業者にはこれらの基準を守ることや、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにすることなどが求められる。
裁量労働 : 業務の遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる制度であり、逆に言えば、同制度の対象となる労働者は業務遂行の手段や時間配分を自らの裁量で決められることになっている。したがって、会社(上司)は、業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、具体的な指示をしてはならない。
高度プロフェッショナル制度 : 職務の範囲が明確で一定の年収(1,075万円以上)の労働者が高度な専門的知識を必要とする業務(例えば、金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリスト業務、コンサルタント業務、研究開発業務)に従事する場合、これらの労働者を労働基準法上の労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定の適用対象外とする措置。ただし、高度プロフェッショナル制度を導入する際は、経営側と労働者側の委員で構成される労使委員会で5分の4以上の賛成多数で決議が行われ、さらに対象労働者本人の同意を得る必要がある。また、健康確保措置を講じることが要件となるほか、いったん同制度の適用を受けることに同意した後でも本人の意思で離脱することが可能。

ここで注意したいのが、「労働時間の状況」という文言だ。

そもそも管理監督者や裁量労働者は、始業・終業・休憩時間はもとより労働の密度でさえ自ら決定することが可能であり、そこに「労働時間」という概念は本来は存在しない。しかし、それが過重労働につながっているという現状を踏まえ、厚生労働省は「労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったか」(同通達8ページ 答8冒頭参照)を「労働時間の状況」と定義し、その把握を事業主に義務付けている。

したがって企業は、管理監督者や裁量労働者についても他の従業員と同様に出退勤時刻を把握しなければならないが、企業の義務はそれだけにとどまらない可能性がある。というのも、管理監督者や裁量労働適用者は社外(在宅中を含む)においても「労務を提供し得る状態」にあることが少なくないからだ。下記の通達の文面からは、こうした時間もすべて把握しなければならないように読める。

同通達9ページ 答11エ
自己申告した労働時間の状況を超えて事業場内にいる時間又は事業場外において労務を提供し得る状態であった時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。
その際に、休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間の状況ではないと報告されていても、実際には、事業者の指示により業務に従事しているなど、事業者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間の状況として扱わなければならないこと。
同通達10ページ 答12
「やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合」としては、例えば、労働者が事業場外において行う業務に直行又は直帰する場合など、事業者の現認を含め、労働時間の状況を客観的に把握する手段がない場合があり、この場合に該当するかは、当該労働者の働き方の実態や法の趣旨を踏まえ、適切な方法を個別に判断すること。
ただし、労働者が事業場外において行う業務に直行又は直帰する場合などにおいても、例えば、事業場外から社内システムにアクセスすることが可能であり、客観的な方法による労働時間の状況を把握できる場合もあるため、直行又は直帰であることのみを理由として、自己申告により労働時間の状況を把握することは、認められない。

この規定は、労働安全衛生法12章に定める罰則の対象には含まれていない。しかし、従業員や退職者(場合によってはその遺族)から例えば健康被害を受けたことについて損害賠償を求める民事訴訟を提起された場合には、法律に定める義務(「努力義務」ではなく「義務」)を果たしていない企業は、それだけで不利になる。また、そもそも従業員が心身ともに健康でいてくれることが企業価値を向上させるうえでの大前提となる。経営陣としては、労働時間の状況の把握は訴訟対策を見据えた義務等と捉えるのではなく、経営の一部との認識を持つべきだろう。

2019/05/24 取締役の解任と名誉棄損

今6月株主総会でも、社外取締役を含め多くの取締役が選任されることだろう。一方で、「解任」の憂き目に遭う取締役もいるかもしれない。昨年(2018年)6月1日に改訂されたコーポレートガバナンス・コード原則3-1(情報開示の充実)では、従来は経営陣幹部の「選任の方針と手続」や「選任についての説明」の開示を求めてきたところだが、改訂により「解任」についても同様の開示を求めることとされたのは周知のとおりだ。

改訂コーポレートガバナンス・コード3-1(抜粋:赤字が改訂部分)
(ⅳ)取締役会が経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続
(ⅴ)取締役会が上記(ⅳ)を踏まえて経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行う際の、個々の選任・指名についての説明

ただ、「解任についての説明」等を開示する場合に注意しなければならないのが、解任する取締役に対する名誉棄損だ。

2019年5月15日のニュース「経営陣幹部の解任基準の実効性」では、ある東証一部上場会社の臨時株主総会で取締役が解任され、当該解任された取締役が会社に対し損害賠償を請求した裁判を紹介したが(取締役が敗訴(ただし、取締役は控訴)。東京地裁平成30年11月29日判決)、実はこの裁判では、会社(被告)が東証の「適時開示情報システム」(以下、適時開示)および「臨時株主総会の招集通知」(以下、招集通知)に記載した解任理由が、取締役(原告)の社会的信用を著しく低下させる名誉棄損に該当するかどうかも争点となっていた。会社が適時開示および招集通知に掲載した解任理由は以下のとおり。・・・

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2019/05/24 取締役の解任と名誉棄損(会員限定)

今6月株主総会でも、社外取締役を含め多くの取締役が選任されることだろう。一方で、「解任」の憂き目に遭う取締役もいるかもしれない。昨年(2018年)6月1日に改訂されたコーポレートガバナンス・コード原則3-1(情報開示の充実)では、従来は経営陣幹部の「選任の方針と手続」や「選任についての説明」の開示を求めてきたところだが、改訂により「解任」についても同様の開示を求めることとされたのは周知のとおりだ。

改訂コーポレートガバナンス・コード3-1(抜粋:赤字が改訂部分)
(ⅳ)取締役会が経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続
(ⅴ)取締役会が上記(ⅳ)を踏まえて経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行う際の、個々の選任・指名についての説明

ただ、「解任についての説明」等を開示する場合に注意しなければならないのが、解任する取締役に対する名誉棄損だ。

2019年5月15日のニュース「経営陣幹部の解任基準の実効性」では、ある東証一部上場会社の臨時株主総会で取締役が解任され、当該解任された取締役が会社に対し損害賠償を請求した裁判を紹介したが(取締役が敗訴(ただし、取締役は控訴)。東京地裁平成30年11月29日判決)、実はこの裁判では、会社(被告)が東証の「適時開示情報システム」(以下、適時開示)および「臨時株主総会の招集通知」(以下、招集通知)に記載した解任理由が、取締役(原告)の社会的信用を著しく低下させる名誉棄損に該当するかどうかも争点となっていた。会社が適時開示および招集通知に掲載した解任理由は以下のとおり。

原告は、取締役に就任後、①被告に告知することなく、他社の代表取締役に就任していた事実の発覚(以下「本件掲載事実①」という。)、②秘密保持誓約の締結拒否(以下「本件掲載事実②」という。)、③役員責任の一部免除を求める要求(以下「本件掲載事実③」という。)、④職務発明が自己に帰属するとの主張(以下「本件掲載事実④」という。)、⑤登記等に要する必要書類提出の拒否・遅延(以下「本件掲載事実⑤」という。)など、取締役としての忠実義務及び善管注意義務に違反し、その資質に重大な疑義を生じさせる言動が相次いだ(以下「本件第1文」という。)。また、⑥原告の合弁事業計画は、達成目標やコストについての説明が二転三転し、目標売上の規模が縮小していくなど、被告の目指す合弁戦略と乖離する事態となった一方で、原告が当初、合弁事業計画案とあわせて提案していた高額報酬については、強硬に要求するなど、信頼関係を構築できない状態に至った(以下「本件第2文」という。)。

これに対し取締役は下記のとおり、会社の行為は自身に対する「名誉棄損」に該当すると主張している。

ア 被告は、適時開示情報システムに掲載した文書等及び被告の株主に発送した本件臨時株主総会の招集通知に、本件解任の理由として本件掲載事項を記載したものであるところ、本件掲載事項は原告の社会的評価を低下させるものである。すなわち、被告は、あたかも原告が被告の取締役として職務を執行するに当たり、法令違反行為をしたり不当な要求をして被告の経営を妨害したりしたかのような事項を記載し、これを、一般の投資家や被告の取引先・関係先等が閲覧する場に掲載したり株主に送付したりしたことにより、上場会社の取締役を経験し、現在も他の会社の取締役等を務めている原告の経済人としての社会的信用を著しく低下させた。
このような被告の行為は、原告に対する名誉毀損行為に該当する。
イ 原告が被告の名誉毀損行為により被った精神的損害及び無形損害は、500万円を下らない。また、原告は、原告代理人らに本件訴訟の追行を委任しており、弁護士費用として同額の1割に相当する50万円の損害を被った。
ウ 本件掲載事項は、いずれも真実に反する事実であるか、又は被告が原告に対して何の指摘もせず弁明の機会も与えないまま一方的に主張している事実である。

会社の反論は下記のとおり。

ア 会社法301条1項、会社法施行規則78条2号は、株主総会における議決権行使について議決権行使書面制度を採用した会社においては、取締役の解任議案を上程するに当たり、株主総会参考書類に「解任の理由」を記載することを義務付けている。この規定の趣旨は、取締役の解任議案の賛否を株主総会に諮る際、会社が、解任対象である取締役のいかなる言動や事情により解任が必要であると判断したか、解任についてどのような正当事由があると判断したかを広く株主に周知し、議決権行使に際しての判断資料を予め提供しようとするとともに、株主総会の場において建設的な議論がされるための環境整備をしようとすることにある。
本件掲載事項は、被告が原告の取締役解任の是非を株主総会という会社の最高意思決定機関に諮るため、取締役としての原告の言動等を記載したものであり、公共の利害に関する事項である。
また、適時開示情報システム及び被告ホームページに掲載する方法で株主総会招集通知書の添付参考書類を公表することは、株主総会における議決権行使の適切な環境整備の一環であり、東京証券取引所市場第一部上場企業である被告にとっては証券取引所から要請されている周知方法である。
イ 上記被告の主張のとおり、本件掲載事項は、いずれも真実である。
ウ 以上のとおり、本件掲載事項を摘示しての名誉毀損については、その行為が公共の利害に関する事項に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったものであり、摘示された事項はいずれも真実であったのであるから、原告の主張する不法行為に基づく損害賠償請求権は成立しない。

両者の主張を踏まえ、裁判所は下記のように判断している。

名誉毀損に基づく被告の不法行為責任の有無について
(1) 名誉毀損の成否が問題となる表現における事実の摘示と意見ないし論評の表明の区別
ア 事実を摘示しての名誉毀損においては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分において真実であることの証明があったときには、その行為には違法性がなく、仮に上記証明がないときにも、行為者において上記事実を真実であると信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定されるものと解するのが相当である(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁)。他方で、ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、上記意見又は論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、上記行為は違法性を欠くものというべきであり、仮に上記証明がないときにも、行為者において上記事実の主要部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定されるものと解するのが相当である(最高裁昭和60年(オ)第1274号平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2252頁、最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁)。
ここで、問題とされている表現が、事実を摘示するものか、意見ないし論評の表明であるかを判別するに当たっては、当該表現が、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときは、当該表現は上記特定の事項についての事実を摘示するものと解するのが相当であり(上記最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決参照)、上記のような証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や論議などは、意見ないし論評の表明に属するものというべきである。
イ これを本件についてみるに、本件掲載事項中の本件第1文は、本件掲載事実①~⑤の事実を摘示しながらも、全体としては、原告が、取締役としての忠実義務及び善管注意義務に違反しており、その相次ぐ言動からすると、取締役としての資質に重大な疑義を生じさせるとの事項を主張するものであり、これは証拠等をもってその存否を決することができない事項であるから、意見ないし論評の表明に当たるというべきである。また、本件第2文は、「原告の合弁事業計画は、達成目標やコストについての説明が二転三転し、目標売上の規模が縮小していくなど、被告の目指す合弁戦略と乖離する事態となった一方で、原告が当初、合弁事業計画案とあわせて提案していた高額報酬については、強硬に要求する」といった事実を摘示しながらも、全体としては、原告が被告との間で、信頼関係を構築できない状態に至ったとの事項を主張するものであり、同じく証拠等をもってその存否を決することが困難な事項であるから、意見ないし論評の表明に当たるというべきである。
(2) 意見ないし論評の表明である本件についての名誉毀損の成否
ア 摘示事実の内容の公共性、公表目的の公益性について
株主総会における議決権行使について議決権行使書面制度を採用した会社においては、取締役の解任に関する議案を株主に上程するに当たり、株主総会参考書類に解任の理由を記載することが法令上義務付けられている(会社法301条1項、同法施行規則78条2号)。のみならず、証拠によれば、東京証券取引所市場第一部上場の株式会社は、同取引所から、適時開示情報システム及び被告のホームページにおいて株主総会参考書類を公表することが要請されていること(東京証券取引所コーポレートガバナンスコード第1章原則1-2及び補充原則1-2②)が認められるところ、上記法令の規定及び準則の趣旨は、株主が株主総会において議決権を行使するに際し、十分な判断資料の提供を受けられるようにすることにあると解されることに照らすと、被告が本件掲載事項を株主に対する招集通知、適時開示情報システム及び被告のホームページに掲載した行為は、公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと推認するのが相当である。
イ 前提となる事実の真実性について
そこで、上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったといえるかを検討するに、本件第1文については、その前提となる本件掲載事実①~⑤の事実が重要な部分について真実であるとの証明があったことは、上記2(1)、(2)アにおいて認定・説示のとおりであり、本件第2文についても、その前提となる「原告の合弁事業計画は、達成目標やコストについての説明が二転三転し、目標売上の規模が縮小していくなど、被告の目指す合弁戦略と乖離する事態となった一方で、原告が当初、合弁事業計画案とあわせて提案していた高額報酬については、強硬に要求する」という事実が重要な部分について真実であるとの証明があったことも、前記前提事実、上記において認定・説示のとおりである。
そして、上記意見ないし論評の表明は、本件掲載事項中の本件第1文においては、本件掲載事実①ないし⑤の事実を摘示しつつ、原告が、取締役としての忠実義務及び善管注意義務に違反しており、取締役としての資質に重大な疑義を生じさせるとの事項を主張するものであり、本件第2文においても、前提となる事実を摘示しつつ、原告が被告との間で信頼関係を構築できない状態に至ったとの事項を主張するものであって、その表現内容に照らしても、原告に対する人身攻撃に当たるということはできず、他に上記意見ないし論評の表明が、意見ないし論評としての域を逸脱したものであることを認めるに足りる的確な証拠はない。
ウ 以上によれば、被告が、本件掲載事項を被告の株主に対する招集通知、東京証券取引所が運営する適時開示情報システム及び被告のホームページの投資家向け情報の欄に掲載した行為は、違法性を欠くものというべきである。

要するに、東京地裁は、会社が適時開示および招集通知に記載した事項は真実であると認定したうえで、原告に対する人身攻撃に当たるとは言えないことなどから、名誉毀損には当たらない旨の判断を示したわけだ。本判決では会社による名誉棄損は認められなかったものの、今後コーポレートガバナンス・コード原則3-1(情報開示の充実)に基づき、経営陣幹部の解任理由等を開示するケースが増えれば、名誉棄損に該当しかねない事例も出て来る可能性がある。企業にあっては、上記裁判所の判断にあるように、解任理由等の開示にあたっては、公表の真実性はもちろん、公表の公益性についても慎重な判断が求められよう。

2019/05/23 今6月株主総会に向けアクティビストからの株主提案相次ぐ

アクティビストから株主提案を受ける企業が相次いでいる(株主提案についてはケーススタディ「【株主総会の運営】株主が株主提案権を行使してきた」を参照)。最近の株主提案は、単純な増配要求にとどまらず、コーポレートガバナンス・コードを踏まえた“正論型”の提案が増えているのが特徴と言える。今6月の定時株主総会に向け2019年3月決算企業が受けた株主提案の中から特に注目されるものを、株主提案に対する取締役会の意見とともに見てみよう。・・・

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2019/05/23 今6月株主総会に向けアクティビストからの株主提案相次ぐ(会員限定)

アクティビストから株主提案を受ける企業が相次いでいる(株主提案についてはケーススタディ「【株主総会の運営】株主が株主提案権を行使してきた」を参照)。最近の株主提案は、単純な増配要求にとどまらず、コーポレートガバナンス・コードを踏まえた“正論型”の提案が増えているのが特徴と言える。今6月の定時株主総会に向け2019年3月決算企業が受けた株主提案の中から特に注目されるものを、株主提案に対する取締役会の意見とともに見てみよう。

■世紀東急工業
世紀東急工業は、村上ファンドの創業メンバーが設立したストラテジックキャピタルから「資本コストをコーポレートガバナンスに関する報告書(CG報告書)で開示する」ことを定款に新たに盛り込むよう株主提案を受けている(世紀東急工業のリリースはこちら)。これに対し同社の取締役会は、本株主提案に反対することを決議している(世紀東急工業のリリースはこちら)。

<世紀東急工業に対する株主提案とそれに対する取締役会の意見>
ストラテジックキャピタル等の株主提案 本株主提案に対する世紀東急工業の取締役会の意見
内 容 理 由
資本コストの開示に係る定款変更の件
現行の定款に以下の章及び条文を新設する。
第7章 資本コスト
第42条 当会社は、当会社が金融商品取引所に提出するコーポレートガバナンスに関する報告書(以下「CG報告書」という。)において、CG報告書提出日から遡る1か月以内において当会社が把握する加重平均資本コストを、その算定根拠とともに開示するものとする。
当社の株価は、解散価値を下回る水準まで下落した。これは、業績動向が不安視されていることに加え、低い配当性向を継続して自己資本をさらに積み増す当社の資本政策により、将来の自己資本利益率(以下「ROE」という。)の低下が見込まれること、及び、公正取引委員会から独占禁止法に違反する行為があるとの指摘を複数回受けた結果、投資家が当社の株式保有にはリスクを伴うとの認識を抱くこととなり、そのような認識の反映として、投資家の求めるリターンの水準(株主資本コスト)がROEを超える水準にまで高まっていることなどが主因だと考えられる。
東京証券取引所の有価証券上場規程別添の「コーポレートガバナンス・コード」(以下「コード」という。)において、「経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人材投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである」として、経営陣が自社の資本コストを的確に把握することを求めている(コードの「原則5-2.経営戦略や経営計画の策定・公表」)。当社経営陣においても、当社の株主資本コストを踏まえた加重平均資本コストを的確に把握したうえで事業計画や資本政策等を立案・検証することが求められているというべきである。また、加重平均資本コストが開示されることにより、当社経営陣と株主を含む投資家との間で、共通の尺度に基づく対話も可能となる。このように資本コストを開示することによって、当社株式の市場における低い評価の改善を目指すことができると考える。
反対
(理由)
当社は、当社の企業理念である『豊かな地域社会づくりに貢献する生活基盤創造企業』として、健全な存続と持続的成長を実現し、中長期的な企業価値の向上を図ることを目指しており、資本収益性に関しても、短期的に高い数値を追求するのではなく、継続的な投資と財務の健全性をバランスよく両立させ、中長期的に安定的に資本コストを上回る経済的価値を生み出すことが重要であると考えております。
当社では、2013年度までの約20年間、財務改善に徹底して取り組んできました。
この結果、優先株式の処理を含め、一定の財務体質改善は進んだと考えております。
一方、投資を抑制した結果、既存事業資産の競争力は徐々に低下しつつあり、製品の品質改善、製造効率の向上、環境負荷低減等に向けた設備投資の推進が喫緊の課題となっております。
現行の「中期経営計画(2018-2020年度)」では、持続的成長に向け、2018年度からの3ヶ年累計で 100億円超の投資を計画しています。中心は、アスファルト合材工場の更新など、本業を支える資産の質的向上が対象となりますが、海外進出やM&Aなど、将来の成長を見据えた分野にも 30%程度を振り向ける計画です。
当社では資本コストを把握した上で中期経営計画を策定しており、かかる考え方については、業務執行における重要な投資判断等においても活用しております。
本計画最終年度のROEについては、11.7%(中期経営計画の修正(2019年5月9日)後)を目標としており、本計画策定時に外部機関の助言も得ながら試算した当社の資本コストを上回る水準と想定しております。
当社としては、コーポレートガバナンスと資本コストの関係においては、資本コストの数値そのものを開示することよりも、資本コストを経営陣が意識し、その考え方を経営に反映させていくことが重要であると認識しております。コーポレートガバナンス・コードにおいても、自社の資本コストを的確に把握した上で方針を示すべきとされており、こうした観点からも、資本コストの開示に関しては定款で一律に定めるのではなく、株主様や投資家との対話の内容なども踏まえつつ、公表の是非、時期、方法等を含め、取締役会において慎重に検討したうえで、決定すべきであると考えております。
したがいまして、定款に本議案のような規定を設けることは適切ではないと判断いたします。

■安藤・間
2018年7月にビル建設現場で死亡事故を起こした安藤・間は、定款に「安全衛生管理の徹底」を盛り込むよう株主提案を受けている(リリースはこちら)。

<安藤・間に対する株主提案とそれに対する取締役会の意見>
OASIS INVESTMENTS Ⅱ MASTER FUND LTD.の株主提案 本株主提案に対する安藤・間の取締役会の意見
内 容 理 由
現行の定款に以下の条文を新設

(安全衛生管理の徹底)
第 3 条 当会社においては、「安全はすべてに優先する」ことを当会社の安全衛生の基本方針として、役職員一人一人が、火災・事故等の、安全衛生に関する事故を決して発生させることのないよう、安全衛生管理を徹底する。

当社においては、近年、当社が施工する工事現場において安全衛生に関する重大事故が繰り返し発生し、工事に従事されていた方の尊い命が失われる事態となっています。
当社が公表している CSR 報告書及びサステナビリティレポートによれば、当社は毎年、安全衛生推進施策の一つとして、「繰り返し型災害の低減」を挙げています。しかしながら、近年の重大事故に鑑みれば、当社は明らかに、役職員に対し、安全衛生管理を徹底させることを怠ったといわざるを得ません。
当社は、近年の重大事故の発生を踏まえて、2018年 11月8日に再発防止策を公表していますが、当社の従前の取組みは当社の姿勢を根本的に変えるまでに至らなかったことから、再発防止策において述べている役職員による安全衛生管理の徹底について、当会社の根本原則である定款に定めることで、役職員による再発防止策の確実な履行と安全意識の向上、安全管理の徹底をより一層図るべきと考えます。
反対
(理由)
当社は、安全衛生基本方針に「安全はすべてに優先する」を掲げ、労働安全衛生マネジメントシステムを構築、運用し、協力会社を含む全工事従事者に対し安全衛生管理の徹底を図っております。
加えて、昨年7月の火災事故を受け、外部識者の提言を踏まえて、火気使用ルールの改定等の再発防止策を策定・履行するとともに、以下に掲げる対応等によって役職員による安全管理のなお一層の徹底を図っております。
・経営トップによる重大災害を繰り返さない強い決意表明および再発防止策の確実な履行・安全意識向上・安全管理徹底の全職員に対する指示
・再発防止策の適切な履行や安全ルールの確実な定着を図るため、本社・支店の関与を強化した上での役割・責任の明確化
・安全文化浸透のため、安全管理の全てのルールを一冊に取り纏めたマニュアルの新たな作成および安全教育への活用

定款は会社の組織等に関する基本的な事項を定めるものであり、業務執行に関する行動規範、方針等を規定することは、定款の性質に馴染まないと考えます。
さらに、本議案は、他にも存在する業務執行に関する行動規範、方針等のうち一部のみを定款に規定することを内容とするものであり、その観点からも適当ではないと考えます。
一方、安全衛生管理につきましては、上記のとおり、定款変更以外の方法により、既にその徹底を図っております。

■共同印刷
共同印刷は、決算説明会を開催していないことについて批判を受け、四半期毎に決算説明会を開催する旨を定款に盛り込むよう株主提案を受けている(リリースはこちら)。

<共同印刷に対する株主提案とそれに対する取締役会の意見>
株主(氏名は非開示)の株主提案 本株主提案に対する共同印刷の取締役会の意見
内 容 理 由
定款一部変更の件(決算説明会の開催等)
定款に以下の条文を新設する。
(決算説明会の開催等)
当会社は、四半期毎に決算説明会を開催するとともに、決算説明会の説明資料を公表する。なお、決算説明会及び説明資料の内容は下記事項を含むものとする。
・業績(セグメント毎)、財務状況企業価値向上の方針及び施策
・中期経営計画及びその進捗状況
・設備投資等の具体的な内容(目的、金額、ROI等)
・株主還元の方針
・政策保有株式の売却方針及び進捗状況
コーポレートガバナンス・コードの基本原則5は、株主総会以外の場においても株主との間で建設的な対話を行うべきである旨規定し、原則5−1において「株主との建設的な対話に関する方針」が、原則5−2において「経営戦略や経営計画の策定・公表」が、それぞれ定められているところ、当社においては株主との建設的な対話に最も有効かつ簡便な方法である決算説明会が開催されていない上、決算に関する説明資料の公表もされていないため、上記基本原則に則った運営を求めるものです。 反対
(理由)
当社は、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために、株主や投資家との建設的な対話が重要であると認識しております。
2018年5月には、10年後のありたい姿を示した新しい経営ビジョンおよび 2018~2020年度中期経営計画を開示いたしました。これに基づき投資家向け業績説明会も開催することとしております。株主に向けても、より充実した説明資料の提供や説明会をはじめとするコミュニケーションの場を増やすことは必要と考えており、各種施策の実施に着手しております。
これらの施策については、取締役会の考え方を基本に戦略的かつ機動的に実施することが重要であると考えており、定款に本議案のような規定を定める必要はないと考えます。

共同印刷が2019年5月15日に開示した決算短信を見ると、第3四半期決算短信までは「無」となっていたサマリー情報の決算説明会開催の有無欄が「有(機関投資家・アナリスト向け)」に変わっていることが確認できる。株主提案をきっかけに会社が決算説明会の開催に向けて重い腰を上げたようにも見受けられる。いずれにせよ、投資家にとっては歓迎すべき流れと言えそうだ。
 
 
 
ここまで紹介した株主提案事例では、いずれも取締役会が反対意見を表明しており、当該反対意見の論拠にも一理あることから、否決される可能性は高いが、株主にとっては、10%以上の賛成票を取り込めるのかどうか()が気になるところだ。

 株主は、株主総会で総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった議案を、賛成を得られなかった日から3年経過する日までは再提出できない(会社法304条。ケーススタディ「【株主総会の運営】株主が株主提案権を行使してきた」の「株主提案への対応方法」を参照)。

■横浜丸魚
これらの企業と比べると、やや旗色が悪いのがJASDAQに上場している横浜丸魚だ。同社の有価証券報告書(2018年3月期)によると、連結貸借対照表上の総資産総約200億円に対し、投資有価証券が約94億円もある(ちなみに同社の純資産は2018年3月期で約136億円)。そのうち大半を占めるのがコンコルディア・フィナンシャルグループの株式だ(2018年3月期で約65億円)。コンコルディア・フィナンシャルグループは横浜銀行と東日本銀行の持株会社である。横浜丸魚にとって横浜銀行はメインバンクであり、同行出身者を役員として受け入れるほど密接な関係にある地元の銀行である。また、横浜銀行や同行グループの浜銀ファイナンスは横浜丸魚の大株主でもある。

横浜丸魚の時価総額は2018年3月期の終値(930円)ベースで約67億円となっている。つまり、同社の時価総額は、同社が総資産の約3分の1かつ純資産の約半分を投じて保有しているコンコルディア・フィナンシャルグループの株式の時価総額とほぼ同じという奇妙な状況にある。

この状況に異を唱えたのが同社の株主の合同会社M&S(現在はUnearth International Limitedが承継)で、政策保有株式を3年以内に売却することを定款に織り込むよう提案している(横浜丸魚のリリースはこちら)。この株主提案に反対する取締役会が挙げた「設備投資を阻害する」という理由は、政策株式の売却によりコンコルディア・フィナンシャルグループ傘下の銀行からの資金調達が難しくなることを意味しているものと思われるが、そもそも低金利下にある現状では説得的な理由とは言い難い。政策株式の売却により得た資金で資本コストを上回る投資が可能であれば設備投資をすべきであり、それができないのであれば自己株式や配当で株主に還元すべきであると機関投資家の指摘を受ける可能性は決して低くない。今定時株主総会において注目を集める企業の一つと言えよう。

<横浜丸魚に対する株主提案とそれに対する取締役会の意見>
合同会社M&Sの株主提案 本株主提案に対する横浜丸魚の取締役会の意見
内 容 理 由
政策保有株式の売却に係る定款変更の件
現行の定款に以下の章及び条文を新設する。
第8章 政策保有株式
(政策保有株式の売却)
第47条 当会社が、本条を追加する定款変更の効力発生日現在、純投資目的以外の目的で保有している上場株式は、第84期から第86期までの3期中に、速やかに売却するものとする。
横浜丸魚が、純投資目的以外の目的で保有している政策保有株式は、平成30年3月期末時点で27銘柄あり、投資有価証券の計上額は約93億円と横浜丸魚の時価総額と比較すると莫大な金額を保有しております。
特に、株式会社コンコルディア・フィナンシャルグループの株式保有額は約65億円と突出して多く、横浜丸魚の時価総額を超えており、その歪な経営状況は長年続いています。
この状況が今後も続くのであれば、横浜丸魚の従業員様が利益向上の為に日々どれだけ努力や工夫を重ねたところで、不明瞭なマーケットに晒された保有株式の乱高下で、その取り組みを台無しにする可能性が大きくあります。
また、横浜丸魚の有価証券報告書における「事業等のリスク(2)配当金収入」においても、過大な有価証
券を保有することにより、配当金収入が損益に与える影響が多大となり、当社にとって大きなリスクであることを記載しております。そのリスクを排除せず、時価総額以上の過大な他社株式を保有し続けることは、株主として到底納得できるものではございません。過大な有価証券が当社に与えるリスクを経営陣自身が認識されている状況下で、何故改善に向けた行動をとらないのでしょうか。
一方、保有株式を売却することで、今後の株価上昇による含み益の機会損失が生じる可能性があるという主
張もありますが、一株主としては結果論としての是非を問題としているのではなく、本業以外の保有株式の評価損益で事業が左右されるような現状を即座に改善すべきと考えています。
コーポレートガバナンス・コード「原則1-4」では、「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、 政策保有に関する方針を開示すべきである。」と記載されており、本提案は、この新たな改訂版のコードに対応すべく、定款で3年以内に政策保有株式の縮減をする方針を定めるものです。横浜丸魚が過大に保有する政策保有株式を早期に売却し、その売却代金を株主価値向上のために使っていただきたいと考えます。
反対
(理由)
当社は、現在保有する政策保有株式につきましては、現時点において、安定的・長期的な取引関係の構築、卸売市場法改正への対応、中期経営計画の経営課題にあります新規関連事業への取り組み、グループを含めた 設備投資への対応、将来に向けての経営発展のための基盤強化の観点から、当社グループの中長期的な企業価値の向上に資するものと判断しております。また、定款に純投資目的以外の目的で保有している上場株式を速やかに売却するものとする等の条項があることは、今後の保有株式全般も制約しかねず、柔軟な事業提携や設備投資を阻害するものであります。
従いまして、本議案に反対いたします。

なお、政策保有株式の保有につきましては、当社取締役会において保有継続の是非を検証し、保有目的を期待できない株式については売却する方針としています。政策保有株式の議決権につきましては、発行会社の適切なコーポレートガバナンス体制の整備や、中長期的な企業価値の向上に資する提案であるかどうか、また当社グループへの影響等を総合的に判断して行使をいたしております。今後も、連結ベースで保有する「一般投資株式」のうち、上場株式銘柄・非上場株式銘柄において、個別銘柄毎に経済合理性、保有意義の観点から保有方針を見直した結果について取締役会で検証し、上記方針にもとづき、保有または売却を進めてまいります。

2019/05/22 業績連動給与を損金算入したい企業におすすめの開示上の工夫

既報のとおり、2019年3月決算の有価証券報告書から適用される改正開示府令は、役員報酬に関する開示の大幅な充実を求めており、その対応に苦慮する上場企業が少なくない(【2019年3月の課題】補充原則4-10①をエクスプレインした企業における報酬委員会に関する開示、2019年5月16日のニュース「明確な算定式がない役員報酬の開示と今後の方向性」参照)。

ただ、ここで誤解しないようにしたいのは、「開示の大幅な充実」とは必ずしも・・・

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2019/05/22 業績連動給与を損金算入したい企業におすすめの開示上の工夫(会員限定)

既報のとおり、2019年3月決算の有価証券報告書から適用される改正開示府令は、役員報酬に関する開示の大幅な充実を求めており、その対応に苦慮する上場企業が少なくない(【2019年3月の課題】補充原則4-10①をエクスプレインした企業における報酬委員会に関する開示、2019年5月16日のニュース「明確な算定式がない役員報酬の開示と今後の方向性」参照)。

ただ、ここで誤解しないようにしたいのは、「開示の大幅な充実」とは必ずしも過度に詳細かつ複雑な開示を求めるものではないということだ。改正開示府令が求めているのは、あくまで投資家との建設的な対話が促進されることであり、それを実現するには「複雑さ」よりも「分かりやすさ」が重視されるべきであろう。実際、容易には理解できないほど複雑な仕組み(あるいは「開示」の問題とも言える)の役員報酬制度は、役員の頑張りと報酬額の相関関係が見えにくくなるため、投資家の評判も芳しくない。したがって企業としては、今回の開示府令改正に対応した役員報酬開示でも「分かりやすさ」を心掛けたいところだが、その際にボトルネックとなりかねないのが、法人税法が求める開示だ。

業績連動報酬(法人税法上は「業績連動給与」と呼ばれる)を、法人税の計算上、損金にしたいと考える企業も少なくないだろう。しかし、業績連動給与を損金算入するためには、業務執行役員ごとに「業績連動給与の算定の基礎となる業績連動指標」「限度としている確定した額又は確定した数」「客観的な算定方法の内容」等を網羅的に有価証券報告書において開示しなければならない(法人税基本通達9-2-19(算定方法の内容の開示)参照)。

業績連動給与 : その事業年度の利益や株価、売上等に関する指標に基づく「あらかじめ定められた方法」により決定されるもの。複数年度にわたる指標(例えば3年間の平均利益)を採用することも認められる。
損金 : 法人税計算の基礎となる法人所得を減らす性質の支出等のこと。損金は企業会計上の費用とおおむね一致するが、役員賞与や固定資産の減損損失など「損金には該当しない費用」もある。

一方、改正開示府令上は、業績連動報酬の決定方法を十分に説明できる限り、業績連動報酬を「主要な要素」のみ開示すれば足り、網羅的な開示までは求められていない(「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方 No.57参照)。

このような法人税法と開示府令が求める開示の緻密さのギャップは、開示する情報量の違いとなって表れてくる。業績連動報酬を(法人税上の「業績連動給与」として)損金算入するために、有価証券報告書における業績連動報酬関係の情報を、本来改正開示府令が求める以上に詳細かつ大量に記載しなければならないということも起こりえる。この結果、業績連動報酬の内容が投資家にとって分かりにくいものとなれば、「投資家との建設的な対話を促す」という改正開示府令の趣旨にも反することになる。このような事態を避けるためには、例えば、今回の改正開示府令に対応した情報を上部に記載し、それとは切り分ける形で損金算入のための情報を下部に記載するといった工夫も必要になろう。

2019/05/21 女性役員ゼロのTOPIX100構成企業の半数が原則4-11をコンプライ

2019年5月13日のニュース『「女性役員比率」「社外取締役比率」とROEの相関性』では、東証一部上場企業(金融業を除く)における女性役員比率とROEの相関関係を検証したが、両者の相関関係がより明確に数字に映し出されるようになるには、日本企業における女性役員の数がもっと増える必要があろう。30%クラブ・ジャパンは、TOPIX100構成企業の取締役会に占める女性比率を2020年には10%、2030年には30%に引き上げるという目標を掲げているが、現状は「7.8%」にとどまっており、英国(FTSE350)の26.4%、米国(S&P100)の23.5%、香港(Hang Seng-50)の13%を大きく下回る。当フォーラムが2019年4月末時点のTOPIX100構成企業における女性役員の選任状況を調査したところ、下記のとおりの結果となっている。・・・

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2019/05/21 女性役員ゼロのTOPIX100構成企業の半数が原則4-11をコンプライ(会員限定)

2019年5月13日のニュース『「女性役員比率」「社外取締役比率」とROEの相関性』では、東証一部上場企業(金融業を除く)における女性役員比率とROEの相関関係を検証したが、両者の相関関係がより明確に数字に映し出されるようになるには、日本企業における女性役員の数がもっと増える必要があろう。30%クラブ・ジャパンは、TOPIX100構成企業の取締役会に占める女性比率を2020年には10%、2030年には30%に引き上げるという目標を掲げているが、現状は「7.8%」にとどまっており、英国(FTSE350)の26.4%、米国(S&P100)の23.5%、香港(Hang Seng-50)の13%を大きく下回る。当フォーラムが2019年4月末時点のTOPIX100構成企業における女性役員の選任状況を調査したところ、下記のとおりの結果となっている。

① 女性役員(監査役、執行役を含む)がいる企業:78社
② 女性取締役がいる企業:68社
③ 女性取締役の総数:132人(取締役総数982人に対して8.9%)
④ (女性取締役を選任している68社における)女性取締役の平均人数:1.3人
⑤ 女性社内取締役の人数:5人(選任社数は5社)

女性取締役の比率は、30%クラブジャパンが示した「7.8%」より若干上昇しているものの、依然として10%には満たない(③)。女性取締役が1人もいない企業も未だ約3分の1あり(②)、監査役や執行役を含む「女性役員」に対象を広げても未選任の企業が約4分の1ある(①)。また、女性取締役を選任している企業でも人数は「1名」のみというところが大部分であり(④)、さらに女性取締役が「社内取締役」である事例はごく少数にとどまる(⑤)。

コーポレートガバナンス・コードは、2018年6月の改訂以降、取締役会に「ジェンダーおよび国際性の面を含む多様性」を求めている(原則4-11)。原則4-11を文言通りに解釈すれば、女性取締役を1人も選任していなければ「エクスプレイン」に直結するものと考えられる。

改訂コーポレートガバナンス・コード4-11(抜粋:赤字は2018年6月1日に改訂された部分)
【原則4-11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】
取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、ジェンダーや国際性の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきである。また、監査役には、適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法務に関する知識を有する者が選任されるべきであり、特に、財務・会計に関する適切十分な知見を有している者が1名以上選任されるべきである。
取締役会は、取締役会全体としての実効性に関する分析・評価を行うことなどにより、その機能の向上を図るべきである。

そこで、女性取締役がいないTOPIX100構成企業32社(②から逆算)のコーポレートガバナンス報告書の記載を確認したところ、下記のとおり、原則4-11を「コンプライ」としている企業が半数に上っていることが分かった。

・女性取締役はいないものの女性役員(監査役等)はいる 10社: 6社がエクスプレイン
・監査役を含め、女性役員が1人もいない 22社: 10社がエクスプレイン

原則4-11はコーポレートガバナンス報告書での「開示」が求められる原則ではないため、同じく取締役会の多様性に言及しており、かつ開示が求められる下記の補充原則4-11①を「コンプライ」した企業の開示内容を確認すると、女性取締役の選任を「検討している」としているケース、「性別、国籍」にこだわらず取締役を選任するとしているケース、「多様性を確保している」との記載にとどまっているケースなど、各社各様となっている。

補充原則4-11①
取締役会は、取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方を定め、取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべきである。

投資家等からは、コーポレートガバナンス・コードのコンプライ率は現実の数字よりも高いとの指摘も聞かれる。自社の「コンプライ」が実体を伴ったものであるかどうか、再度検証する必要がありそうだ。