アクティビストから株主提案を受ける企業が相次いでいる(株主提案についてはケーススタディ「【株主総会の運営】株主が株主提案権を行使してきた」を参照)。最近の株主提案は、単純な増配要求にとどまらず、コーポレートガバナンス・コードを踏まえた“正論型”の提案が増えているのが特徴と言える。今6月の定時株主総会に向け2019年3月決算企業が受けた株主提案の中から特に注目されるものを、株主提案に対する取締役会の意見とともに見てみよう。
■世紀東急工業
世紀東急工業は、村上ファンドの創業メンバーが設立したストラテジックキャピタルから「資本コストをコーポレートガバナンスに関する報告書(CG報告書)で開示する」ことを定款に新たに盛り込むよう株主提案を受けている(世紀東急工業のリリースはこちら)。これに対し同社の取締役会は、本株主提案に反対することを決議している(世紀東急工業のリリースはこちら)。
<世紀東急工業に対する株主提案とそれに対する取締役会の意見>
| ストラテジックキャピタル等の株主提案 |
本株主提案に対する世紀東急工業の取締役会の意見 |
| 内 容 |
理 由 |
資本コストの開示に係る定款変更の件
現行の定款に以下の章及び条文を新設する。
第7章 資本コスト
第42条 当会社は、当会社が金融商品取引所に提出するコーポレートガバナンスに関する報告書(以下「CG報告書」という。)において、CG報告書提出日から遡る1か月以内において当会社が把握する加重平均資本コストを、その算定根拠とともに開示するものとする。
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当社の株価は、解散価値を下回る水準まで下落した。これは、業績動向が不安視されていることに加え、低い配当性向を継続して自己資本をさらに積み増す当社の資本政策により、将来の自己資本利益率(以下「ROE」という。)の低下が見込まれること、及び、公正取引委員会から独占禁止法に違反する行為があるとの指摘を複数回受けた結果、投資家が当社の株式保有にはリスクを伴うとの認識を抱くこととなり、そのような認識の反映として、投資家の求めるリターンの水準(株主資本コスト)がROEを超える水準にまで高まっていることなどが主因だと考えられる。
東京証券取引所の有価証券上場規程別添の「コーポレートガバナンス・コード」(以下「コード」という。)において、「経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人材投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである」として、経営陣が自社の資本コストを的確に把握することを求めている(コードの「原則5-2.経営戦略や経営計画の策定・公表」)。当社経営陣においても、当社の株主資本コストを踏まえた加重平均資本コストを的確に把握したうえで事業計画や資本政策等を立案・検証することが求められているというべきである。また、加重平均資本コストが開示されることにより、当社経営陣と株主を含む投資家との間で、共通の尺度に基づく対話も可能となる。このように資本コストを開示することによって、当社株式の市場における低い評価の改善を目指すことができると考える。
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反対
(理由)
当社は、当社の企業理念である『豊かな地域社会づくりに貢献する生活基盤創造企業』として、健全な存続と持続的成長を実現し、中長期的な企業価値の向上を図ることを目指しており、資本収益性に関しても、短期的に高い数値を追求するのではなく、継続的な投資と財務の健全性をバランスよく両立させ、中長期的に安定的に資本コストを上回る経済的価値を生み出すことが重要であると考えております。
当社では、2013年度までの約20年間、財務改善に徹底して取り組んできました。
この結果、優先株式の処理を含め、一定の財務体質改善は進んだと考えております。
一方、投資を抑制した結果、既存事業資産の競争力は徐々に低下しつつあり、製品の品質改善、製造効率の向上、環境負荷低減等に向けた設備投資の推進が喫緊の課題となっております。
現行の「中期経営計画(2018-2020年度)」では、持続的成長に向け、2018年度からの3ヶ年累計で 100億円超の投資を計画しています。中心は、アスファルト合材工場の更新など、本業を支える資産の質的向上が対象となりますが、海外進出やM&Aなど、将来の成長を見据えた分野にも 30%程度を振り向ける計画です。
当社では資本コストを把握した上で中期経営計画を策定しており、かかる考え方については、業務執行における重要な投資判断等においても活用しております。
本計画最終年度のROEについては、11.7%(中期経営計画の修正(2019年5月9日)後)を目標としており、本計画策定時に外部機関の助言も得ながら試算した当社の資本コストを上回る水準と想定しております。
当社としては、コーポレートガバナンスと資本コストの関係においては、資本コストの数値そのものを開示することよりも、資本コストを経営陣が意識し、その考え方を経営に反映させていくことが重要であると認識しております。コーポレートガバナンス・コードにおいても、自社の資本コストを的確に把握した上で方針を示すべきとされており、こうした観点からも、資本コストの開示に関しては定款で一律に定めるのではなく、株主様や投資家との対話の内容なども踏まえつつ、公表の是非、時期、方法等を含め、取締役会において慎重に検討したうえで、決定すべきであると考えております。
したがいまして、定款に本議案のような規定を設けることは適切ではないと判断いたします。
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■安藤・間
2018年7月にビル建設現場で死亡事故を起こした安藤・間は、定款に「安全衛生管理の徹底」を盛り込むよう株主提案を受けている(リリースはこちら)。
<安藤・間に対する株主提案とそれに対する取締役会の意見>
| OASIS INVESTMENTS Ⅱ MASTER FUND LTD.の株主提案 |
本株主提案に対する安藤・間の取締役会の意見 |
| 内 容 |
理 由 |
| 現行の定款に以下の条文を新設
(安全衛生管理の徹底)
第 3 条 当会社においては、「安全はすべてに優先する」ことを当会社の安全衛生の基本方針として、役職員一人一人が、火災・事故等の、安全衛生に関する事故を決して発生させることのないよう、安全衛生管理を徹底する。
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当社においては、近年、当社が施工する工事現場において安全衛生に関する重大事故が繰り返し発生し、工事に従事されていた方の尊い命が失われる事態となっています。
当社が公表している CSR 報告書及びサステナビリティレポートによれば、当社は毎年、安全衛生推進施策の一つとして、「繰り返し型災害の低減」を挙げています。しかしながら、近年の重大事故に鑑みれば、当社は明らかに、役職員に対し、安全衛生管理を徹底させることを怠ったといわざるを得ません。
当社は、近年の重大事故の発生を踏まえて、2018年 11月8日に再発防止策を公表していますが、当社の従前の取組みは当社の姿勢を根本的に変えるまでに至らなかったことから、再発防止策において述べている役職員による安全衛生管理の徹底について、当会社の根本原則である定款に定めることで、役職員による再発防止策の確実な履行と安全意識の向上、安全管理の徹底をより一層図るべきと考えます。
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反対
(理由)
当社は、安全衛生基本方針に「安全はすべてに優先する」を掲げ、労働安全衛生マネジメントシステムを構築、運用し、協力会社を含む全工事従事者に対し安全衛生管理の徹底を図っております。
加えて、昨年7月の火災事故を受け、外部識者の提言を踏まえて、火気使用ルールの改定等の再発防止策を策定・履行するとともに、以下に掲げる対応等によって役職員による安全管理のなお一層の徹底を図っております。
・経営トップによる重大災害を繰り返さない強い決意表明および再発防止策の確実な履行・安全意識向上・安全管理徹底の全職員に対する指示
・再発防止策の適切な履行や安全ルールの確実な定着を図るため、本社・支店の関与を強化した上での役割・責任の明確化
・安全文化浸透のため、安全管理の全てのルールを一冊に取り纏めたマニュアルの新たな作成および安全教育への活用
定款は会社の組織等に関する基本的な事項を定めるものであり、業務執行に関する行動規範、方針等を規定することは、定款の性質に馴染まないと考えます。
さらに、本議案は、他にも存在する業務執行に関する行動規範、方針等のうち一部のみを定款に規定することを内容とするものであり、その観点からも適当ではないと考えます。
一方、安全衛生管理につきましては、上記のとおり、定款変更以外の方法により、既にその徹底を図っております。
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■共同印刷
共同印刷は、決算説明会を開催していないことについて批判を受け、四半期毎に決算説明会を開催する旨を定款に盛り込むよう株主提案を受けている(リリースはこちら)。
<共同印刷に対する株主提案とそれに対する取締役会の意見>
| 株主(氏名は非開示)の株主提案 |
本株主提案に対する共同印刷の取締役会の意見 |
| 内 容 |
理 由 |
定款一部変更の件(決算説明会の開催等)
定款に以下の条文を新設する。
(決算説明会の開催等)
当会社は、四半期毎に決算説明会を開催するとともに、決算説明会の説明資料を公表する。なお、決算説明会及び説明資料の内容は下記事項を含むものとする。
・業績(セグメント毎)、財務状況企業価値向上の方針及び施策
・中期経営計画及びその進捗状況
・設備投資等の具体的な内容(目的、金額、ROI等)
・株主還元の方針
・政策保有株式の売却方針及び進捗状況 |
コーポレートガバナンス・コードの基本原則5は、株主総会以外の場においても株主との間で建設的な対話を行うべきである旨規定し、原則5−1において「株主との建設的な対話に関する方針」が、原則5−2において「経営戦略や経営計画の策定・公表」が、それぞれ定められているところ、当社においては株主との建設的な対話に最も有効かつ簡便な方法である決算説明会が開催されていない上、決算に関する説明資料の公表もされていないため、上記基本原則に則った運営を求めるものです。 |
反対
(理由)
当社は、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために、株主や投資家との建設的な対話が重要であると認識しております。
2018年5月には、10年後のありたい姿を示した新しい経営ビジョンおよび 2018~2020年度中期経営計画を開示いたしました。これに基づき投資家向け業績説明会も開催することとしております。株主に向けても、より充実した説明資料の提供や説明会をはじめとするコミュニケーションの場を増やすことは必要と考えており、各種施策の実施に着手しております。
これらの施策については、取締役会の考え方を基本に戦略的かつ機動的に実施することが重要であると考えており、定款に本議案のような規定を定める必要はないと考えます。
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共同印刷が2019年5月15日に開示した決算短信を見ると、第3四半期決算短信までは「無」となっていたサマリー情報の決算説明会開催の有無欄が「有(機関投資家・アナリスト向け)」に変わっていることが確認できる。株主提案をきっかけに会社が決算説明会の開催に向けて重い腰を上げたようにも見受けられる。いずれにせよ、投資家にとっては歓迎すべき流れと言えそうだ。
ここまで紹介した株主提案事例では、いずれも取締役会が反対意見を表明しており、当該反対意見の論拠にも一理あることから、否決される可能性は高いが、株主にとっては、10%以上の賛成票を取り込めるのかどうか(*)が気になるところだ。
■横浜丸魚
これらの企業と比べると、やや旗色が悪いのがJASDAQに上場している横浜丸魚だ。同社の有価証券報告書(2018年3月期)によると、連結貸借対照表上の総資産総約200億円に対し、投資有価証券が約94億円もある(ちなみに同社の純資産は2018年3月期で約136億円)。そのうち大半を占めるのがコンコルディア・フィナンシャルグループの株式だ(2018年3月期で約65億円)。コンコルディア・フィナンシャルグループは横浜銀行と東日本銀行の持株会社である。横浜丸魚にとって横浜銀行はメインバンクであり、同行出身者を役員として受け入れるほど密接な関係にある地元の銀行である。また、横浜銀行や同行グループの浜銀ファイナンスは横浜丸魚の大株主でもある。
横浜丸魚の時価総額は2018年3月期の終値(930円)ベースで約67億円となっている。つまり、同社の時価総額は、同社が総資産の約3分の1かつ純資産の約半分を投じて保有しているコンコルディア・フィナンシャルグループの株式の時価総額とほぼ同じという奇妙な状況にある。
この状況に異を唱えたのが同社の株主の合同会社M&S(現在はUnearth International Limitedが承継)で、政策保有株式を3年以内に売却することを定款に織り込むよう提案している(横浜丸魚のリリースはこちら)。この株主提案に反対する取締役会が挙げた「設備投資を阻害する」という理由は、政策株式の売却によりコンコルディア・フィナンシャルグループ傘下の銀行からの資金調達が難しくなることを意味しているものと思われるが、そもそも低金利下にある現状では説得的な理由とは言い難い。政策株式の売却により得た資金で資本コストを上回る投資が可能であれば設備投資をすべきであり、それができないのであれば自己株式や配当で株主に還元すべきであると機関投資家の指摘を受ける可能性は決して低くない。今定時株主総会において注目を集める企業の一つと言えよう。
<横浜丸魚に対する株主提案とそれに対する取締役会の意見>
| 合同会社M&Sの株主提案 |
本株主提案に対する横浜丸魚の取締役会の意見 |
| 内 容 |
理 由 |
政策保有株式の売却に係る定款変更の件
現行の定款に以下の章及び条文を新設する。
第8章 政策保有株式
(政策保有株式の売却)
第47条 当会社が、本条を追加する定款変更の効力発生日現在、純投資目的以外の目的で保有している上場株式は、第84期から第86期までの3期中に、速やかに売却するものとする。
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横浜丸魚が、純投資目的以外の目的で保有している政策保有株式は、平成30年3月期末時点で27銘柄あり、投資有価証券の計上額は約93億円と横浜丸魚の時価総額と比較すると莫大な金額を保有しております。
特に、株式会社コンコルディア・フィナンシャルグループの株式保有額は約65億円と突出して多く、横浜丸魚の時価総額を超えており、その歪な経営状況は長年続いています。
この状況が今後も続くのであれば、横浜丸魚の従業員様が利益向上の為に日々どれだけ努力や工夫を重ねたところで、不明瞭なマーケットに晒された保有株式の乱高下で、その取り組みを台無しにする可能性が大きくあります。
また、横浜丸魚の有価証券報告書における「事業等のリスク(2)配当金収入」においても、過大な有価証
券を保有することにより、配当金収入が損益に与える影響が多大となり、当社にとって大きなリスクであることを記載しております。そのリスクを排除せず、時価総額以上の過大な他社株式を保有し続けることは、株主として到底納得できるものではございません。過大な有価証券が当社に与えるリスクを経営陣自身が認識されている状況下で、何故改善に向けた行動をとらないのでしょうか。
一方、保有株式を売却することで、今後の株価上昇による含み益の機会損失が生じる可能性があるという主
張もありますが、一株主としては結果論としての是非を問題としているのではなく、本業以外の保有株式の評価損益で事業が左右されるような現状を即座に改善すべきと考えています。
コーポレートガバナンス・コード「原則1-4」では、「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、 政策保有に関する方針を開示すべきである。」と記載されており、本提案は、この新たな改訂版のコードに対応すべく、定款で3年以内に政策保有株式の縮減をする方針を定めるものです。横浜丸魚が過大に保有する政策保有株式を早期に売却し、その売却代金を株主価値向上のために使っていただきたいと考えます。
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反対
(理由)
当社は、現在保有する政策保有株式につきましては、現時点において、安定的・長期的な取引関係の構築、卸売市場法改正への対応、中期経営計画の経営課題にあります新規関連事業への取り組み、グループを含めた 設備投資への対応、将来に向けての経営発展のための基盤強化の観点から、当社グループの中長期的な企業価値の向上に資するものと判断しております。また、定款に純投資目的以外の目的で保有している上場株式を速やかに売却するものとする等の条項があることは、今後の保有株式全般も制約しかねず、柔軟な事業提携や設備投資を阻害するものであります。
従いまして、本議案に反対いたします。
なお、政策保有株式の保有につきましては、当社取締役会において保有継続の是非を検証し、保有目的を期待できない株式については売却する方針としています。政策保有株式の議決権につきましては、発行会社の適切なコーポレートガバナンス体制の整備や、中長期的な企業価値の向上に資する提案であるかどうか、また当社グループへの影響等を総合的に判断して行使をいたしております。今後も、連結ベースで保有する「一般投資株式」のうち、上場株式銘柄・非上場株式銘柄において、個別銘柄毎に経済合理性、保有意義の観点から保有方針を見直した結果について取締役会で検証し、上記方針にもとづき、保有または売却を進めてまいります。
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