2019/04/02 ACGAが指摘する「Japan – Keeping it complicated」の意味(会員限定)

昨年(2018年)末に公表されたACGA(アジア・コーポレート・ガバナンス協会)CG Watch 2018におけるMarket rankingで、日本が2016年の4位から7位に後退したことは、我が国の資本市場関係者から失望と批判をもって受け止められていることは既報のとおりだ(2018年12月13日のニュース「ACGAが付けた日本のCGランキングに機関投資家から批判の声」参照。一方、ランキングは妥当とする意見については2018年12月20日のニュース「ACGAのCGランキングと海外から見た日本企業の現状」参照)。とはいえ、ACGAがグローバル投資家の声を代表していることは間違いないため、6月の株主総会シーズンを控えた今、CG Watch2018が訴える日本のコーポレート・ガバナンスの論点を確認しておくことは有益だろう。


ACGA(アジア・コーポレート・ガバナンス協会) : Asia Corporate Governance Associationの略で、アジアに投資するグローバルな機関投資家の団体。

CG Watch2018における日本のセクションは30ページ超に及んでおり、要約(Introduction)から始まって、7つのカテゴリーごとの説明と、各種コラム(日産自動車、スルガ銀行に関するものなど)で構成されているが、冒頭に掲げられた下記のキー・センテンスにこそ、日本のコーポレート・ガバナンスに対するグローバル投資家の見方が集約されている。

Japan – Keeping it complicated

要するに「いつまでたっても複雑なまま」ということだろう。その最たるものとしてACGAが槍玉に挙げているのが「three choices of broad system」、すなわち、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社、監査役設置会社という3つの機関設計の選択制だ。アジア国家の大部分は1種類のガバナンス体制しか認めておらず、2種類ある韓国と台湾でも大企業については事実上1つに限られるという。ACGAは日本企業側が求める「選択の自由」を否定したうえで、このような選択制は不透明さと混乱をもたらすと批判している。

さらにACGAは、複雑さの原因として、指名・報酬に関する任意の諮問(advisory)委員会における責任の所在の不明確さ、4種類という会計基準の多さ(明示はされていないがJ-GAAP(日本基準)、US-GAAP(米国基準)、IFRS(国際会計基準)、J-IFRS(修正国際基準(Japan’s Modified International Standards、通称JMIS))を指すと考えられる)、3つの法令等(会社法、金融商品取引法、証券取引所の有価証券上場規程)に基づく情報開示の多様さを指摘している。これらの状況をACGAは「maze(迷路)」と例えており、現代の資本市場において好ましくないと断じている。

以上の論点は専ら法規制の問題であり、政策当局が解決すべきとの声は当然あろう。とはいえ、少なくとも個別企業においても、なぜ現在のガバナンス体制や会計基準を採用しているのか、任意の諮問委員会の権限、各種の開示書類の整合性などについて、明確な理由とともに説明できるようにしておくべきだ。単に「選択制だから」「任意だから」「法律が異なるから」といった説明では通用しないことを十分に認識したうえで、投資家との対話に臨むことが求められる。

2019/04/01 会長とCEOの兼任

カルロスゴーン会長の逮捕(住宅の無償供与や家族旅行の経費負担等の「財産上の利益」を開示していなかったことによる金融商品取引法違反(同法違反の詳細は2018年11月21日のニュース『「従業員によるガバナンス」の有効性を示した日産事件』参照)および自身や第三者の利益を図って日産に損害を与えたことによる会社法違反(特別背任)容疑)に揺れる日産自動車は(2019年)03月27日、昨年12月に設置した「ガバナンス改善特別委員会」からガバナンスの改善策等に関する提言をまとめた報告書を受領した旨のリリースを出した。報告書の中で注目される提言の一つが、「会長職」の廃止だ。報告書では、会長が「業務執行の監督」のみならず「業務執行そのもの」を担う日産の会長職はゴーン氏による権限集中の象徴としての印象が強いとし、ゴーン氏による権限集中のイメージを払拭するためにも、会長職を廃止すべきである旨を提言している。

CEOと会長の兼任による権限集中については、日産自動車のみならず、・・・

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2019/04/01 会長とCEOの兼任(会員限定)

カルロスゴーン会長の逮捕(住宅の無償供与や家族旅行の経費負担等の「財産上の利益」を開示していなかったことによる金融商品取引法違反(同法違反の詳細は2018年11月21日のニュース『「従業員によるガバナンス」の有効性を示した日産事件』参照)および自身や第三者の利益を図って日産に損害を与えたことによる会社法違反(特別背任)容疑)に揺れる日産自動車は(2019年)03月27日、昨年12月に設置した「ガバナンス改善特別委員会」からガバナンスの改善策等に関する提言をまとめた報告書を受領した旨のリリースを出した。報告書の中で注目される提言の一つが、「会長職」の廃止だ。報告書では、会長が「業務執行の監督」のみならず「業務執行そのもの」を担う日産の会長職はゴーン氏による権限集中の象徴としての印象が強いとし、ゴーン氏による権限集中のイメージを払拭するためにも、会長職を廃止すべきである旨を提言している。

CEOと会長の兼任による権限集中については、日産自動車のみならず、他にも投資家の批判を受けている企業がある。日産自動車の大株主ルノーと同じくフランス企業である大手再保険会社スコール社の株主総会では、同社の取締役会会長兼CEOのケスレール氏が「会長」職を続けることの是非が諮られることになりそうだ。

同社の株式の0.94%を保有するフランスの機関投資家でアクティビティスト(モノ言う投資家)としても知られる「CIAM」は3月25日、ケスレール氏が取締役会長とCEOを兼任することにより同氏一人に権限が集中している現在の状態はガバナンス上問題があると指摘する文書を公表。4月26日に開催される同社の株主総会に同氏を取締役職から解任することを求める株主総会議案を上程することとし、他の株主に同議案への賛成を呼び掛けている。

仮にケスレール氏を取締役から解任する議案が可決されれば、現在「取締役会長」兼CEOであるケスレール氏は「取締役」ではなくなるため、自動的に会長の地位も失うことになる。すなわち、CIAMの狙いは、ケスレール氏から会長職をはく奪することにある。一方、別のCEOを任命することは求めていないことから、ケスレール氏がCEO職にとどまることまでは否定していない。CIAMは、スコール社がフランスの相互保険会社コベアから買収提案を受けた際に、ケスレール氏が独立の取締役で構成される特別委員会を設置して提案内容を検討するといった適切な対応を取らなかったことや、ケスレール氏の報酬がスコール社の業績や同業他社の報酬額を考慮すると高すぎることなどを問題視しており、その原因は「取締役会長とCEOを兼任することによる権限の一極集中」にあると考えていると言える。なお、CIAMはケスレール氏の報酬議案に対しても反対票を投じるよう訴えている。

スコール社は、CIAMが自社との対話を経ることなく上記の主張を文書で公表したことに対して遺憾の意を表明しており、現時点では両者の妥協点は見えない。日産自動車のガバナンス改善特別委員会による会長職廃止という提言に加え、仮にスコール社の株主総会でケスレール氏が会長職を解かれる結果となった場合、「会長」と「CEO」の兼務が日本でも新たなガバナンスのテーマとして急浮上する可能性もありそうだ。

2019/03/31 【2019年3月の課題】補充原則4-10①をエクスプレインした企業における報酬委員会に関する開示

2019年3月の課題

東証が2019年1月28日に公表した「改訂コーポレートガバナンス・コード(2018年12月末日時点)」によると、報酬や指名などに関する独立した諮問委員会の設置を求める補充原則4-10①のコンプライ率は前回調査時より27.2ポイントも減少し、本則市場(東証一部、二部)上場企業の52.1%にとどまっています。
これには、補充原則4-10①の改訂により、従来は取締役の報酬等に関する取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化する仕組みとして”例示“されていたにすぎなかった報酬委員会を実際に作らなければならなくなったことが影響しているものと考えられます。さらに、2019年3月決算企業の有価証券報告書から適用される改正開示府令は報酬委員会のメンバーや活動内容まで開示するよう求めており、上場企業は報酬委員会を“実務レベル”で運営することを迫られています。有価証券報告書の開示が約3か月後に迫る中(3月決算企業の場合)、補充原則4-10①をエクスプレインするなど、現段階では報酬委員会が実質的に機能しているとは言えない企業はどのような開示を行えばよいでしょうか。

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2019/03/29 【2019年2月の課題】経営陣による自社株保有(会員限定)

大和総研 主任研究員 鈴木裕

機関投資家が求める株主と経営者の利益共有

2015年6月1日に導入されたコーポレートガバナンス・コードでは、経営者報酬は、「持続的な成長に向けた健全なインセンティブ」となるように設計すべきであるとされています(補充原則4-2①)。昨年(2018年6月1日)に行われた改訂では、経営者報酬の決定手続きについて「客観性・透明性ある手続に従い、報酬制度を設計し、具体的な報酬額を決定すべきである。」との記述が付け加えられましたが、「持続的な成長に向けた健全なインセンティブ」という経営者報酬の理念については改訂の前後で変更はありません。

コーポレートガバナンス・コードの改訂と同時期の2018年6月1日に金融庁から公表された「投資家と企業の対話ガイドライン」は、機関投資家と企業の対話において重点的に議論することが期待される事項が取りまとめられたものですが、その中にも「経営陣の報酬制度を、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けた健全なインセンティブとして機能するよう設計し、適切に具体的な報酬額を決定するための客観性・透明性ある手続が確立されているか。」(3-5)とあります。ここでは、企業と機関投資家が、経営者報酬の在り方について対話することが期待されています。

「持続的な成長に向けた健全なインセンティブ」には株式報酬も含まれるものと考えられます。コーポレートガバナンス・コードでは「現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべき」とされていますし、経済産業省の「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGS ガイドライン)」(平成29年3月31日策定、平成30年9月28日改訂)では明確に、「経営陣の報酬体系を設計する際に、業績連動報酬や自社株報酬の導入について、検討すべきである。」と指摘しています(4.2. 経営陣の報酬の在り方)。さらに、「自社株を保有することにより、経営陣と株主の価値共有に資するというメリットもある。」とも記されています。要するに、株主と経営者が株価変動に伴う損得を共有することが期待されていると言えるでしょう。自社株を十分に保有していないため、株価が上がろうが下がろうが自分の損得とは関係がないように見える経営者に対し株主が不信感を覚えたとしても不思議ではありません。

こうした中で機関投資家と上場会社が対話を行えば、経営者への株式報酬や経営者の自社株保有の状況が話題に上るのはごく自然ではないでしょうか。機関投資家の間では、経営者が自社株をどの程度保有しているか、保有に関する基準を設けているかなどを問う動きがあるようです。

経営者の自社株保有に期待される効果

経営者が自社株を保有していれば、株価を引き上げる経営を実現することが経営者自身にとっても利益になります。そこで、株主である機関投資家等は、経営者の自社株保有を促そうとしているわけですが、経営者による自社株保有と企業価値の関係については、すでに実証的な調査研究が数多く行われています。Morck, Shleifer, and Vishny ()をはじめとするこれまでの研究は、比較的規模の大きい企業を対象として行われてきました。

これらの研究によれば、一定の水準までは経営者が自社株を多く持てば持つほど企業価値は高く評価されるとのことです。ただ、Morckらは、経営者の自社株保有が増えるにつれて「トービンのQ」(企業の市場価値/資本の再取得価格 ※詳細は図表1参照)も上がるものの、保有量がある程度の水準になるとQは頭打ちになり、それ以上自社株保有が増えると逆にQが低下すると主張しています。企業価値増大の程度や速度、また経営者の保有比率がどれほどになった時に企業価値増大が止まるのかは研究によって差異がありますが、大まかな傾向を示せば図表1のような関係になることが想定されています。

なお、経営者の自社株保有比率がある程度の水準を超えるとQが低下する理由は、経営者の自社株保有が相当な量になると、経営者が他の株主の圧力に抵抗することができるようになり、その結果企業価値を高めるよりも私的な利益を追求するようになるからではないか(エントレンチメント効果)と説明されています。

このような仮説に依拠するならば、経営者の自社株保有が不十分だと思われる場合、経営者にある程度の自社株保有を促すことによって、企業価値が高く評価されるようになることが期待できます。機関投資家が経営者の自社株保有の状況や方針に関心を持つのはこうした考え方によるものだと思われます。

エントレンチメント : エントレンチメント(entrenchment)には元々「塹壕で固めた陣地」といった意味があり、ここでは「外部からの規律づけに対する経営者の防御」といった意味で使われている。
文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム

図表1 経営陣の自社株保有と企業価値の関連(イメージ)

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しかし、最近の研究()には、経営者の自社株保有はむしろ企業価値を減じるのではないかと指摘するものもあります。会社の規模がある程度大きな場合には、過去の研究結果通り経営陣の自社株保有と企業価値評価に比例的な関係が認められますが、調査の対象を中堅上場会社にまで広げると、逆の結果になります。

このことからは、同じように経営者の自社株保有量が多くても、各社の上場前後の環境によって、その意味合いに相当な違いがあるということが推察されます。経営者の自社株保有量が多くてもQが小さい企業は、上場前後の評価が低く、創業者グループ(多くの場合、株式を保有する経営陣でもある)が株式を売却する機会を逃したからではないかと思われます。評価が十分に高ければ、株式を売却して、経営者の自社株保有量は少なくなるはずだからです。このように、経営者の自社株保有の状況は過去の経緯に相当影響を受けるため、自社株の保有量を増やせば企業価値が高まるとする単線的な推論には慎重になるべきでしょう。

欧米における経営者株式保有ガイドライン

英国、米国、フランス、日本の会社法における取締役の自社株保有義務についての規定の変遷に関しては出口哲也氏()が詳しく論じていますが、わが国に限らず諸外国においても、古い時代の会社法では、「取締役は株主でなければならない」と規定されていることが珍しくありませんでした。

 出口哲也「取締役資格と株式保有要件」(『法と政治』59 巻1 号、関西学院大学法制学会(2008年4月)、pp.59-183)

しかし、現在はそのような規定を有する国は少なくなっています。フランスは現在も会社法で保有義務を定めていますが、米英独ではそのような規定は撤廃されています。日本では、昭和13年の商法改正で取締役の自社株保有義務規定を撤廃し、25年改正でそのような規定を定款に設けることを禁止しました。現行会社法は、これらの規定を引き継いでいるのですが、会社が自発的に定款で自社株保有義務を定めることをも禁じている点(会社法第331条第2項)は特徴的と言えるでしょう。

<取締役を株主に限定することを禁止するわが国の会社法の規定>
(出所)Meridian Compensation Partners, LLC “2018 Corporate Governance & Incentive Design Survey (Fall 2018) 、The Deloitte Academy: Promoting excellence in the boardroom “Your guide | Directors’ remuneration in FTSE 250 companies” (October 2018) 、DirectorInsight“CEO SHAREHOLDING GUIDELINES How Europe is catching up”(September, 2017)をもとに大和総研作成
第331条 第2項
株式会社は、取締役が株主でなければならない旨を定款で定めることができない。ただし、公開会社でない株式会社においては、この限りでない。

このように、主要な先進国ではフランスを除き、法律で取締役に自社株保有を義務付けていませんが、米英では、上場会社が自ら「株式保有ガイドライン」を定め、取締役に自社株保有を義務付けることはよくあります。欧米企業における経営者の自社株保有状況は図表2のとおりです。

図表2 欧米企業における経営者の自社株保有状況
米国 米国の大手上場会社200社を対象にした調査(2017年時点)では、99%が経営者株式保有ガイドラインを策定している。要求する株式保有量は、株数ではなく、年間基本報酬の倍率で示されるのが通常。3倍程度~10倍程度までの間で定められることが多く、現在では6倍が標準的とされている。
英国 FTSE250を対象とした調査(2017年時点)によると、経営者に株式保有を義務付けている上場会社は約90%。義務付けられる株式保有量は、年間報酬の倍率で示されるのが通常で、CEOは2倍~3倍、他の役員(CFOやCOO)は2倍が下限とされることが多い。
ドイツ 取締役の株式保有義務を定める上場会社は少ない。2016年時点で株価指数のDAX30構成銘柄の中ではわずか4社が、基本報酬の倍率で示す方法により、義務付けられる株式保有数量を定めているにすぎない。
フランス フランス会社法は、取締役は会社が定める数量の株式を保有すべきと規定している。株価指数のCAC40の構成銘柄(2016年時点)では、保有数量の定め方として、基本報酬の倍率によって株式保有量を定めたのが8社で、具体的な株数を示したのが27社であった。
日本における取締役の自社株保有

多くの国が「取締役は株主でなければならない」とする会社法の規定を廃止したのは、一般的に、公開会社の取締役としての能力・才能を持つ人材を株主以外にも広く求めるためであるとされていますが、わが国の会社法が、単に廃止するだけでなく、「取締役が株主でなければならない旨を定款で定めることができない」とまでしていることについて疑問を呈する学説もあります。しかし、それが現行法の規定である以上、従わなければなりません。

もっとも、会社法は「定款で定めることができない」と規定しているのであって、各社が株式ガイドラインを策定し、取締役に自社株の保有を求めることまで禁止するものではないと考えられます。日本取締役協会が発行する経営者報酬に関するガイドライン「2016年度 経営者報酬ガイドライン(第四版)」では、「役員の自社株保有を強制する株式保有ガイドラインを設定し、『CEOで基本報酬(年額)の 3 倍以上の自社株式の保有』を目標とする。」といった事例が紹介されるとともに、「また欧米と比較して著しく低い役員の自社株保有も早急に見直されるべきである。役員が一定数の株式を保有し、常に株主とアップサイドポテンシャルとダウンサイドリスクを共有することは極めて有効である。」との解説も付けられています。

わが国の上場会社の中にも、取締役の自社株保有ガイドラインを策定しているところがないわけではありませんが(例えばコニカミノルタTDK)、米英に比べればその数は圧倒的に少なくなっています。ただ、取締役(候補者)や監査役(候補者)の自社株保有状況は、株主総会の招集通知に「候補者の有する当該株式会社の株式の数」として記載しなければなりません。同様の情報は有価証券報告書にも記載されますし、アニュアルレポートなどその他の任意の開示資料の中に記載されている場合もあります。株主はこれらを見て、取締役や監査役が株価の変動に対して十分な関心を抱く動機を持っているかどうかを推し量ります。経営者が自社株を保有していない場合や保有量が少ない場合には、株価の行方に弱気であることのシグナルとなりますし、株価を引き上げる努力を払うのか疑問視されることにもなりかねません。

機関投資家との対話の中で、経営者の自社株保有が問われた時に、取締役が株主でなければならない旨を定款で定めることを禁止する会社法の規定を盾に自社株保有の義務付けに消極的な姿勢をとっていると言っても一応の説明にはなりますが、納得を得ることは難しいでしょう。機関投資家を納得させるためには、経営者の自社株保有を促す方針を盛り込んだ自社株保有ガイドラインを示すか、説明する必要があるでしょう。経営者による自社株保有の状況はもちろんのこと、自社株保有を促す方針の有無は、上場会社と対話を試みる機関投資家の関心事の一つになっているということを、経営者は理解する必要があります。

2019/03/29 【役員会 Good&Bad発言集】子会社と利益相反(1)(会員限定)

<解説>
100%子会社以外のグループ会社が抱える利益相反という問題

証券取引所や卸売市場での取引のように自由競争で価格付けが行われる取引と異なり、企業間の相対取引では保有する情報や交渉力の違いにより、どちらかの企業に有利(反対側の企業にとっては不利)な取引となるケースが少なくありません。とくに、親会社と子会社間の取引であれば、なおさらです。株式を握っている側の親会社が、価格や条件面で有利になるのは十分にあり得る話です。

たとえば親会社が80%の株式を握っている子会社に対して1000円のものを900円で売るよう指示したとします(下図参照)。親会社はそれを外部に1000円で売れば、100円の利益(売却益)を得ることができます。子会社は1000円のものを900円で販売したため100円の損失(売却損)が生じます。子会社には20%の株式を握っているその他の株主がいるのですが、その他の株主は100円の損失のうち20%に相当する20円を間接的に負担せざるを得ません(間接的とは当該会社の評価を通じて持分が低下するという意味です)。なお、連結グループとして考えれば1000円のものを1000円で売っただけですので、損益へのインパクトはゼロになります(親子会社間の取引は相殺されます)。
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上図では商品の売買を例にしましたが、金銭の貸し付けや寄託でも同様の問題が生じえます。すなわち、グループ内の資金余剰会社から資金を集め、資金不足会社に融通するCMS(キャッシュ・マネジメント・システム)といった仕組みを採用している企業は少なくありませんが、子会社が資金余剰会社として資金を吸い取られると(通常は寄託方式)、対価が十分でなければ当該子会社に機会損失(現金を有効活用する機会が損なわれたという損失)が発生します。また、CMSを経由せずに、グループ内の資金余剰会社から資金不足会社に貸し付けをしても、CMSのときと同様に対価が十分でなければ資金を貸し付けた側の子会社に機会損失が生じます。

子会社が100%子会社であれば、連結グループとしての経営判断という説明も可能ですが、子会社に親会社以外の株主がいれば、親会社と子会社間(あるいは子会社と別の子会社間)で商品の売買、金銭の貸し付けや委託が行われると、対価の設定次第で、親会社以外の株主は損を被ることになります。これは、100%子会社以外の子会社においては、支配株主である親会社と子会社の少数株主の間に利益相反リスクが存在していると言い換えることもできます。

「親会社と子会社の少数株主の間に利益相反リスク」は、子会社が上場していようと、非上場であろうと関係なく存在します。もっとも、当該子会社が上場していれば、株主が多数になることから、利益相反リスクが顕在した場合の証券市場への影響が大きいと言えます。とくに日本では諸外国に比べて上場子会社の数が多い(親子上場となっている上場子会社は全上場会社の6%を占める。ちなみに、フランス・ドイツは2%台、米国は1%未満、英国は0%。未来投資会議24回会合の資料3の3ページ参照)ことから、海外の投資家にとっては日本市場自体の不透明さの原因の一つとして指摘されています。そこで、経済産業省のCGS研究会(コーポレート・ガバナンス・システム研究会)第2期では検討中の「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」で、上場子会社の利益相反構造について実務指針を定める予定です(仮案はこちら。公表は2019年6月を予定)。

さて、以上の解説をご覧いただければ、どれがGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。

<正解>
GOOD発言はこちら
取締役B:「S社は上場しているので、S社の他の株主への配慮も必要になるのではないでしょうか。」
コメント:上場会社の取締役の中には自部門やせいぜい親会社の視点でしか発言できない方も少なくありません。もう少し俯瞰的にものごとを見ることができる取締役でも連結グループという視点での発言に留まる者が多く、連結グループ内の子会社の少数株主の利害にも目配りした発言ができるレベルの取締役は少数派と言わざるを得ません。S社の他の株主への配慮が必要になることを指摘したBの発言はGoodです。S社における資本コストの切り口(S社の資本コストと貸付利率の比較)から指摘できればなおGoodでした。
BAD発言はこちら
取締役A:「連結子会社のS社は借入金がないだけでなく、潤沢な預金をただ銀行に預けているだけです。一方、当社は銀行借入が多く、格付けも高くないので金利負担が経常利益を圧迫している状況です。そうであればS社の余剰資金を当社が借り入れて、当社が銀行借入金を返済してはどうでしょうか。もちろん、S社には銀行預金の金利より0.5%ほど上乗せした利率で金利を支払います。これで、当社の金利負担が減り、S社の金利収入も増え、ひいてはグループ全体の利益の最大化を図ることができます。」
コメント:「S社が100%子会社であれば、その理屈も通るのでしょうが、S社が上場子会社である以上、S社の少数株主にとってみれば、「その資金で資本コストを上回る収益機会を探してほしい」というのが本音であり、ごくわずかの金利収入により貴重な預金が吸い取られてしまうのは納得がいかないはずです。
取締役C:「いや、S社も上場しているとはいえ当社連結グループの一員なので、S社の他の株主がグループ全体の利益向上に反対するわけがありません。」
コメント:確かにS社はP社を親会社とする連結グループの一員ですが、S社の少数株主は連結グループの一員ではありません。「P社」と「S社の少数株主」はまさに「同床異夢」の状況にあると言え、利益が相反している点に配慮しなければなりません。

2019/03/29 【役員会 Good&Bad発言集】子会社と利益相反(1)

製造業のP社(東証一部上場)には、子会社が20社ありますが、そのうちS社だけ上場(マザーズ)しています。その他の19社は100%子会社です。P社の取締役会ではP社とS社との関係が話題になりました。取締役会における取締役A・B・Cの次の発言のうち、誰の発言がGood発言でしょうか?

取締役A:「連結子会社のS社は借入金がないだけでなく、潤沢な預金をただ銀行に預けているだけです。一方、当社は銀行借入が多く、格付けも高くないので金利負担が経常利益を圧迫している状況です。そうであればS社の余剰資金を当社が借り入れて、当社が銀行借入金を返済してはどうでしょうか。もちろん、S社には銀行預金の金利より0.5%ほど上乗せした利率で金利を支払います。これで、当社の金利負担が減り、S社の金利収入も増え、ひいてはグループ全体の利益の最大化を図ることができます。」

取締役B:「S社は上場しているので、S社の他の株主への配慮も必要になるのではないでしょうか。」

取締役C:「いや、S社も上場しているとはいえ当社連結グループの一員なので、S社の他の株主がグループ全体の利益向上に反対するわけがありません。」

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2019/03/29 2019年3月度チェックテスト

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【問題1】

特定の企業、あるいは特定のセクターの銘柄のみを保有する投資家を「ユニバーサル・オーナー」と言う。


正しい
間違い
【問題2】

英国ではコーポレートガバナンス・コードが改訂され、「役員向けの年金と従業員向けの拠出率を整合的な水準にすべき」との内容が追加された。


正しい
間違い
【問題3】

CG報告書の「取締役会の活動状況(開催頻度、主な検討事項、個々の役員の出席状況等)」の記載は取締役会を開催する都度必ず更新しなければならない。


正しい
間違い
【問題4】

CG報告書の更新履歴一覧を「別紙」として掲載することは、ガバナンス改善に対する取り組みの経緯を把握するうえで非常に有効である。


正しい
間違い
【問題5】

国内機関投資家は海外機関投資家に比べると、議決権行使判断が甘く議決権行使率も低い。


正しい
間違い
【問題6】

親子上場における上場子会社では、社外取締役の数が全上場会社の平均値を下回っている。


正しい
間違い
【問題7】

有価証券報告書における政策保有株式の銘柄の開示が、今後、社外取締役の選任議案に影響を与えることもあり得る。


正しい
間違い
【問題8】

中期経営計画などで経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標(いわゆるKPI)を設定していれば、有価証券報告書でも当該KPIを開示せざるをえない。


正しい
間違い
【問題9】

D&O保険の保険金は、役員が不正を認識しながら行った行為について支払われることはない。


正しい
間違い
【問題10】

労働安全衛生法の改正に伴い、事業者は2019年4月1日から新たに“健康情報”を個人情報として保護することが求められる。


正しい
間違い

2019/03/29 2019年3月度チェックテスト第10問解答画面(不正解)

不正解です。
政府が進める働き方改革の一環で労働安全衛生法が改正され、いよいよ来月1日から、産業医の権限強化が図られるとともに、事業者には「時間外労働の上限規制の導入」「労働者の心身の状態に関する情報」(健康情報)の適正な管理」が求められるようになりました(問題文は正しいです)。

こちらの記事で再確認!
2019年3月27日 顧客情報にも匹敵する“健康情報”の適正な管理が来月1日から義務化(会員限定)

2019/03/29 2019年3月度チェックテスト第10問解答画面(正解)

正解です。
政府が進める働き方改革の一環で労働安全衛生法が改正され、いよいよ来月1日から、産業医の権限強化が図られるとともに、事業者には「時間外労働の上限規制の導入」「労働者の心身の状態に関する情報」(健康情報)の適正な管理」が求められるようになりました(問題文は正しいです)。

こちらの記事で再確認!
2019年3月27日 顧客情報にも匹敵する“健康情報”の適正な管理が来月1日から義務化(会員限定)