2019/02/18 インパクト投資とESG投資の違い(会員限定)

貧困の撲滅など、世界が抱える様々な社会的問題解決のための投資、すなわち「(社会的)インパクト投資」が欧米を中心に急速に広がっている。インパクト投資は、これまでは「融資」が中心だったが、最近は官民連携の「ソーシャル・インパクト・ボンド」といった形で、債券投資の分野にも登場している。さらに、株式投資の分野でも活発化しており、その対象もベンチャー企業から上場企業まで幅広い。こうした中、上場企業からしばしば聞かれる疑問が、「インパクト投資とESG投資はどう違うのか」というものだ。

ESG投資 : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資すること。

両者の最大の違いと言えるのが、投資対象の範囲である。ESG投資の場合、あらゆる産業の中から環境・社会・コーポレートガバナンスに優れた企業に投資を行う。これに対しインパクト投資は、その本業が「社会的問題の解決」に関連している企業のみを投資対象とする。例えば「健康・医療産業」に属する企業にのみ投資を行い、その他の産業の企業には投資を行わないということもある。このため、ポートフォリオの分散効果という観点から見ると、インパクト投資はESG投資よりも分散効果が小さく、投資家にとってはリスクが高いと言える。

もう一つの違いが、ESG投資では、ESGを考慮しながらも最終的な目的は「長期の財務リターン」であるのに対し、インパクト投資では「財務的なリターン」のみならず、「社会的なリターン」も追及するという点だ。したがって、インパクト投資の方が、社会的課題に対して直接的な影響を及ぼしやすいということになる(ただし、インパクト投資における「社会的リターン」をどのように数値化するかについては、現時点ではコンセンサスに至っていない)。

ESG投資は既に年金や生命保険会社をはじめとする多くの長期投資家に浸透している。インパクト投資はまだESG投資の域には達していないものの、社会的課題に取り組む財団や、社会的課題に敏感な新しい世代、いわゆる「ミレニアル世代」の関心は高く(ミレニアル世代については、2019年1月23日のニュース『大手運用機関が企業経営者に「社会貢献」を求める背景』参照)、ESG投資に続き、今後拡大していくことが見込まれる。健康・医療をはじめとする社会的な課題とつながりが深い企業は、今後投資家との対話で「社会的な課題」への取り組みを問われる場面も出て来る可能性がありそうだ。

2019/02/15 社外役員、報酬、政策保有等今3月期から必要な開示への金融庁の考え方

既報のとおり、金融庁は先月(2019年1月)末、役員報酬をはじめとするコーポレートガバナンス関連の開示の大幅な充実を求める「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、改正開示府令)を公布・施行している(改正開示府令の具体的な内容は下記の<関連記事>参照)。改正開示府令の中には、今3月決算(2019年3月末決算)の有価証券報告書(以下、有報)から開示が求められるものと、2020年3月決算の有報から開示が求められるものがあるが、今3月決算の有報から開示が求められるものの中には投資家の関心の高い項目が目白押しとなっている。

本稿では、株主総利回り(TSR)、社外取締役・社外監査役、役員報酬、政策保有株式関連の項目の開示について、改正開示府令と同時に公表された「金融庁の考え方」を紹介しつつ、開示の際の留意点をまとめてみた。

<関連記事>
2018年11月5日のニュース『速報 「コーポレート・ガバナンスの状況等」の記載内容が大幅改正へ
【2018年11月の課題】新たな有報における「役員報酬」と「政策保有株式」の記載事項
2019年2月8日のニュース『EUでは「10年」が上限の継続監査期間、監査法人変更でも合算のケースも
2019年1月31日の【役員会 Good&Bad発言集】継続監査期間・・・

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2019/02/15 社外役員、報酬、政策保有等今3月期から必要な開示への金融庁の考え方(会員限定)

既報のとおり、金融庁は先月(2019年1月)末、役員報酬をはじめとするコーポレートガバナンス関連の開示の大幅な充実を求める「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、改正開示府令)を公布・施行している(改正開示府令の具体的な内容は下記の<関連記事>参照)。改正開示府令の中には、今3月決算(2019年3月末決算)の有価証券報告書(以下、有報)から開示が求められるものと、2020年3月決算の有報から開示が求められるものがあるが、今3月決算の有報から開示が求められるものの中には投資家の関心の高い項目が目白押しとなっている。

本稿では、株主総利回り(TSR)、社外取締役・社外監査役、役員報酬、政策保有株式関連の項目の開示について、改正開示府令と同時に公表された「金融庁の考え方」を紹介しつつ、開示の際の留意点をまとめてみた。

<関連記事>
2018年11月5日のニュース『速報 「コーポレート・ガバナンスの状況等」の記載内容が大幅改正へ
【2018年11月の課題】新たな有報における「役員報酬」と「政策保有株式」の記載事項
2019年2月8日のニュース『EUでは「10年」が上限の継続監査期間、監査法人変更でも合算のケースも
2019年1月31日の【役員会 Good&Bad発言集】継続監査期間

2019年3月期決算の有報から適用される主な開示項目に対する金融庁の考え方と留意点
様式上の項目 改正項目 金融庁の考え方 留意点
【主要な経営指標等の推移】 最近5年間の株主総利回りを、提出会社が選択する株価指数の最近5年間の総利回りと比較して記載 No.94
5年分の「株主総利回り」に5年分の「株価指数」の数値を併記すればよい。この数値記載に加えて、グラフや説明による記載を追加して分かりやすく工夫することも可能。

No.92
「提出会社が選択する株価指数」は、具体的にはTOPIX(東証株価指数)、日経225(日経平均株価)、JPX日経インデックス、TOPIX業種別指数、同業他社平均等を想定している。
当該指標は毎年の有報において継続して用いることが適切。
もっとも、例えば、上場市場が変わった等の理由で他の最適な指標に変更することに合理的理由があれば、その旨を記載して、変更することも可能。

No.90
「最近5年間の株主総利回り」は、配当込みの数値であるが、それと対比される株価指数には、TOPIX(配当込み)の他、TOPIX(配当なし)のように必ずしも配当込みでない指標がある。有報提出会社が自社の株主総利回りは配当込みでない指標と比較することが適切であると判断したのであれば、配当込みでない指標と比較することも可能。

投資家は、株価指数の総利回りよりも株主総利回りの方が低い上場会社に対して、株価向上策の実施を強く求めてくる可能性がある。場合によっては、役員報酬の妥当性に疑義を投げかけたり、役員選任議案に反対票を投じたりすることも考えられる。
【コーポレート・ガバナンスの概要】 設置する機関の名称、目的、権限および構成員の氏名の記載に当たり、当該機関の長に該当する者については役職名の記載、提出会社の社外取締役または社外監査役に該当する者についてはその旨を記載 任意で設置する委員会について、「権限」や「構成員全員の氏名」を記載しなければならなくなった(構成員の経歴や選任理由までは記載不要だが、任意で記載することは可)。コーポレートガバナンス・コード補充原則4-10①「取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の指名委員会・報酬委員会など、独立した諮問委員会を設置する」をコンプライした上場会社は、構成員の氏名の開示を通じて、諮問委員会に独立性があるとの主張に相違がないことを問われることになる。
(2)【役員の状況】 当該社外取締役・・・による監督・・・と・・・監査役監査・・・との相互連携・・・について、具体的に、かつ、分かりやすく記載 No.29
「相互連携を行っていない旨」を記載することも認められる。
監査役設置会社における監査役と社外取締役は、それぞれ監査をする立場と監査を受ける立場とも考えられることから、「相互連携」をしていない、あるいは、相互連携すべきではないと考えている上場会社は、「相互連携を行っていない旨」を記載することが考えられる。
(4)【役員の報酬等】 ・提出会社の役員の報酬等に、業績連動報酬が含まれる場合は以下を記載。
業績連動報酬と業績連動報酬以外の報酬等の支給割合の決定に関する方針を定めているときは、当該方針の内容
➣当該業績連動報酬に係る指標、当該指標を選択した理由及び当該業績連動報酬の額の決定方法

業績連動報酬 : 利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標その他の提出会社または当該提出会社の関係会社の業績を示す指標を基礎として算定される報酬等。短期の業績連動報酬としては賞与、中長期の業績連動報酬としてはストックオプションや譲渡制限付株式報酬(リストリクテッド・ストック)等が考えられる。

No.51
「賞与額の算定の際、業績評価のほかに定性評価も行っている場合」や「株式報酬制度で支給する株式の数が、業績・株価に応じて変動せずに役位に応じて決定する設計の場合」が業績連動報酬への該当可能性を尋ねるコメントに対しては、金融庁は「役員の報酬等の設計は、企業により様々であると考えられるため、その報酬等が上記の「業績連動報酬」に該当するかどうかについても、各企業において、適切に判断する必要がある」と明言を避けた。
改正開示府令では業績連動報酬について「利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標その他の提出会社又は当該提出会社の関係会社の業績を示す指標を基礎として算定される報酬等」と定義されている。自社の報酬設計がこの定義を満たすかどうかは、各社において、慎重に判断する必要がある。
No.51
業績評価のほかに定性評価を行っていても「業績連動報酬」に該当すると考える場合であって、当該定性評価に係る明確な指標がないときは、「定性評価を行う項目名等を記載する」ことが考えられる。
「定性評価に係る明確な指標はない」旨を記載するだけでは不十分。
➣提出会社の役員の報酬等に業績連動報酬が含まれる場合、当該業績連動報酬に係る指標の目標および実績を記載 No.57
「他社との実績比較」のように、実績値が確定した段階においては業績連動報酬の要素となっているものの、目標の設定段階では存在しないものについては、存在しないから記載しないのではなく、存在しない旨およびその理由を説明しなければならない。
No.57
業績連動報酬の要素として大小さまざまなものを設定している会社においては、主要な要素のみ開示することで業績連動報酬の決定方法を十分に説明できるようであれば、すべての要素を網羅的に開示する必要がない。
➣提出会社の役員の報酬等に業績連動報酬が含まれる場合、当該業績連動報酬に係る指標の目標および実績を記載 No.58
業績連動報酬に係る指標が、対外的に公表していないP/L上の財務指標や、従業員満足度・環境対策への取組み等の非財務指標を複数組み合わせて設計されている場合であっても、「目標設定の考え方や達成率」の記載だけでは足りず、当該「複数の目標」をすべて記載すべき。
業績連動報酬の「要素」が複数ある場合、すべてを網羅的に開示する必要はない(上記のNo.57参照)が、「目標」が複数ある場合はそのすべてを記載する必要がある。
なお、「複数の目標」を単に羅列するだけの開示では、投資家からすると重点の置きどころが分からないので、「目標設定の考え方や達成率」もあわせて記載することが望ましい。
提出会社の役員の報酬等の額またはその算定方法の決定に関する方針の決定権限を有する者の氏名または名称、その権限の内容および裁量の範囲を記載 No.61
取締役会の決議によって決定の全部または一部を取締役に再一任している場合には、その旨を記載する。
取締役会の「再一任」という姿勢自体が“ガバナンス不在”として問題視される可能性がある。
提出会社の役員の報酬等の額の決定過程における、提出会社の取締役会および委員会等の活動内容を記載 No.65
活動内容として、各会議の毎回の議論の詳細を開示することまでは求められておらず、報酬額の決定の過程が開示されていれば十分
決定過程を省略しすぎると、投資家から不信感を持たれる可能性がある。
(5)【株式の保有状況】 保有目的が純投資目的である投資株式と純投資目的以外の目的である投資株式の区分の基準や考え方を記載。 No.69
「純投資目的以外の目的である投資株式しか保有していない場合においては記載の省略は可能か」とのコメントに対して、金融庁は「純投資目的の投資有価証券を保有していなくても純投資目的以外の目的である投資株式を保有しているのであれば、何らかの基準に基づき区分していると考えられるので、区分の基準や考え方を記載する必要がある」と回答している。
保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式について、提出会社の保有方針および保有の合理性を検証する方法を記載
保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式について、個別銘柄の保有の適否に関する取締役会等における検証の内容を記載
No.71
「検証の内容」は、コーポレートガバナンス・コードの原則1-4で開示すべき事項と同様の事項を開示すればよい。
コーポレート・ガバナンス報告書における開示と重複するが、コーポレートガバナンスに関する情報の有報における総覧性を高めるために、導入された。
No.72
「個別銘柄毎にその検証の内容を記載しなければならないものではない」が、単に、「検証の結果、全ての銘柄の保有が適当と認められた」といった、一般的・抽象的な記載ではNG。金融庁では、「例えば、
・ 保有の適否を検証する上で、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているかを含め、どのような点に着眼し、どのような基準を設定したか
・ 設定した基準を踏まえ、どのような内容の議論を経て個別銘柄の保有の適否を検証したか
・ 議論の結果、保有の適否について、どのような結論が得られたか
等について、具体的な記載が行われることが望ましい」との考え方を示している。
保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式について、提出会社の経営方針・経営戦略等、事業の内容およびセグメント情報と関連付けた定量的な保有効果(定量的な保有効果の記載が困難な場合には、その旨および保有の合理性を検証した方法) No.80
「定量的な保有効果」には取引金額や取引内容等守秘義務や競合他社への不要な情報提供となることから開示が困難な場合もあるが、その場合であっても「秘密保持の観点から記載不能である」旨を記載するのではなく、「保有の合理性を検証した方法」を記載することが求められる。
当初案では「(定量的な保有効果の記載が困難な場合は、その旨)」とされていたが、パブコメの結果、「(定量的な保有効果の記載が困難な場合には、その旨および保有の合理性を検証した方法)」に修正された。

資本コスト : 株主など資本提供者の期待利回りのこと。ここで「株主など」としたのは、負債にも資本コストはあるためである。

上記の開示内容はいずれも投資家との対話でテーマとなり得る。上場会社としては、投資家との対話を想定しながら開示内容を検討する必要がありそうだ。

2019/02/14 投資家との対話において企業が持つべき視点

日本シェアホルダーサービス株式会社
シニアアナリスト 水嶋 創

3月決算企業をはじめ上場企業各社においては、2019年の株主総会に向け、機関投資家との対話が本格化しつつある。当初は企業側から「形式的な質問が多い」といった批判が聞かれた両者の対話(2018年7月5日のニュース「投資家との実りある対話のために企業ができること」参照 引用:上場会社役員ガバナンスフォーラム)も、年を追うごとにテーマの選定、議論の内容ともにより深く、突っ込んだものになりつつある。最近企業側から「なぜこの投資家は我々に対してそのようなことを要求してくるのか理解できない」といった声が散発的に聞かれるのも、その証左と言えるかもしれない。

企業が対話の相手である投資家を理解するうえで有用なのが、・・・

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2019/02/14 投資家との対話において企業が持つべき視点(会員限定)

日本シェアホルダーサービス株式会社
シニアアナリスト 水嶋 創

3月決算企業をはじめ上場企業各社においては、2019年の株主総会に向け、機関投資家との対話が本格化しつつある。当初は企業側から「形式的な質問が多い」といった批判が聞かれた両者の対話(2018年7月5日のニュース「投資家との実りある対話のために企業ができること」参照 引用:上場会社役員ガバナンスフォーラム)も、年を追うごとにテーマの選定、議論の内容ともにより深く、突っ込んだものになりつつある。最近企業側から「なぜこの投資家は我々に対してそのようなことを要求してくるのか理解できない」といった声が散発的に聞かれるのも、その証左と言えるかもしれない。

企業が対話の相手である投資家を理解するうえで有用なのが、彼らのさらに裏にいる資金拠出者を意識するということだ。最近多くの企業の対話の場面でテーマに挙げられる「ESG」を例に考えてみよう。

ESG : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。 文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム

数字が裏付けるとおり、ESG投資は既に運用の世界のメインストリーム(主流)になったと言えるが(2019年1月21日のニュース「ESG関連ファンド、投資信託全体の2割に迫る」参照 引用:上場会社役員ガバナンスフォーラム)、その一方で、いまだにESGが企業価値向上につながるということに対し懐疑的な経営者も少なからずいる。こうしたギャップが上述した「なぜこの投資家は我々に対してそのようなことを要求してくるのか理解できない」といった声につながっているものと推測される。

ESG投資 : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資すること。 文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム

投資家がESGに積極的に取り組む理由は、一般的にはESGには「リスクとオポチュニティ」があるためだとされている。経済産業省が2017年5月に公表した価値協創ガイダンスには、「ESGの概念・範囲には様々な考え方があり、これらを超過収益の源泉ととらえる投資家もいるが、多くの投資家は少なくとも中長期的なリスク要因として認識している。」との記述がある(13ページ「「3.1. ESG に対する認識 08」参照)。確かに、例えば人材育成への取組みが不十分な企業であれば、将来退職者が増加し、事業に支障をきたす恐れがあり(S)、ガバナンスが不十分な企業では、将来重大な不祥事が起こる可能性がある(G)など、ESGの要素を「リスク要因」として捉えることには合理性がある。また、例えば環境負荷の小さいプラスチックを製造する技術を有する企業では、今後売上の伸長が期待できる(E)など、(業種によっては)ESGをオポチュニティ(機会)と捉えることもできるだろう。

さらに、より端的に言えば、投資家がESG投資に取り組むのは、「顧客に求められているから」である。投資家にとっての顧客とは、運用資金を預け、手数料を支払ってくれる資金拠出者に他ならない。なかでも日本最大の資金拠出者(=最重要顧客)であるGPIFは2015年にPRI(国連責任投資原則)に署名して以来、ESGに関する活動を積極的に進めており、運用委託先に対してもESGに取り組むことを強く求めている。したがって、GPIFからESGへの取り組みが不十分であると見なされた投資家は、運用委託資金を減らされ、その結果手数料収入が落ち込む可能性がある。要するに、投資家にとってESGに取り組むということは「顧客のニーズに応える」という“本業”そのものだということだ。

GPIF : 年金積立金管理運用独立行政法人(Government Pension Investment Fund)。厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行う厚生労働省所管の独立行政法人。運用資産の規模が100兆円を優に超える世界最大の機関投資家である。
PRI(国連責任投資原則) : (国連)PRIとは「(United Nations) Principles for Responsible Investment」の略で、機関投資家に対し、投資判断プロセスにESGを反映することや、投資対象企業にESGに関する情報開示を求めることなどを提唱するもの。これに署名した機関投資家は、国連に投資の状況を報告する義務が生じるため、ESGを重視した投資を実践せざるを得ない。 文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム

投資家と対話に臨む経営陣は、投資家がなぜそのような要求をするのか腑に落ちないと感じた場合には、「投資家自身ではなく、資金拠出者の意向なのではないか」という視点を持ってみるとよいだろう。ESGについて言えば、GPIFにはESG投資に取り組まなければならない構造的な理由がある(この点については、近日中に別稿でお伝えしたい)。GPIFが巨額の資金を投じるパッシブ運用の対象となっている限り(2019年2月7日のニュース「“パッシブ化”の進行と東証の市場構造の見直しが与える株価への影響」参照)、企業が「ESG」から逃れることはもはや困難だと言えよう。

パッシブ運用 : パッシブ(「消極的」なという意味)運用とは、東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法であり、ファンドマネジャーが独自に銘柄を選択して運用する「アクティブ運用」とは対極の関係にある。 文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム

 

 

 

 

 

2019/02/13 “悪ふざけ動画”をSNSに公開した従業員への懲戒処分の可否

牛丼チェーンや回転寿司チェーンのアルバイト従業員がSNSに投稿した“悪ふざけ動画”が拡散し、世間を騒がせているが、結局、両社とも「当該従業員を退職処分にした」旨を公表することで事態の収拾を図っている。

両社のリリースではいずれも「退職処分」という表現が使われており、「懲戒解雇」とは明言していないことから、実際の処分は「諭旨解雇」もしくは「退職勧奨」、あるいは有期雇用であれば「出勤停止および契約更新拒否の組み合わせ」であったと推測される。

諭旨解雇 : 労働者が懲戒解雇に相当する重大な規則違反を犯した場合に、懲戒解雇よりも温情的な措置として行われる退職手続きのこと。
退職勧奨 : 会社が従業員を退職させるために退職を勧めること。最終的に会社を退職するかどうかの判断は、労働者が判断するため、「解雇」とは異なる。

いずれにせよ、これほど企業イメージを損ねた場合には「懲戒やむなし」と思えるが、過去の類似ケースを見ると、従業員を懲戒することが、労働契約法(第15条)が懲戒の要件として求める「合理性」と「相当性」をクリアできるかというと、必ずしもそうとは限らない。

懲戒 : 不正・不当な行為に対して、戒めの制裁を加えること。

労働契約法15条(懲戒)
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

具体的には、次のような場合には懲戒が無効とされる可能性がある。・・・

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2019/02/13 “悪ふざけ動画”をSNSに公開した従業員への懲戒処分の可否(会員限定)

牛丼チェーンや回転寿司チェーンのアルバイト従業員がSNSに投稿した“悪ふざけ動画”が拡散し、世間を騒がせているが、結局、両社とも「当該従業員を退職処分にした」旨を公表することで事態の収拾を図っている。

両社のリリースではいずれも「退職処分」という表現が使われており、「懲戒解雇」とは明言していないことから、実際の処分は「諭旨解雇」もしくは「退職勧奨」、あるいは有期雇用であれば「出勤停止および契約更新拒否の組み合わせ」であったと推測される。

諭旨解雇 : 労働者が懲戒解雇に相当する重大な規則違反を犯した場合に、懲戒解雇よりも温情的な措置として行われる退職手続きのこと。
退職勧奨 : 会社が従業員を退職させるために退職を勧めること。最終的に会社を退職するかどうかの判断は、労働者が判断するため、「解雇」とは異なる。

いずれにせよ、これほど企業イメージを損ねた場合には「懲戒やむなし」と思えるが、過去の類似ケースを見ると、従業員を懲戒することが、労働契約法(第15条)が懲戒の要件として求める「合理性」と「相当性」をクリアできるかというと、必ずしもそうとは限らない。

懲戒 : 不正・不当な行為に対して、戒めの制裁を加えること。

労働契約法15条(懲戒)
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

具体的には、次のような場合には懲戒が無効とされる可能性がある。

1.就業規則に懲戒の規定が無い。またはその内容を従業員に周知していない
特にアルバイト従業員に対しては、就業規則の内容を説明していないケースが多々見受けられる。周知されていないルールは、ルールとして存在しないのと同義と言える。

2.懲戒処分を科すための手続き(特に「弁明の機会」の付与)を適切に踏んでいない
事実や背景を正しく把握しなければ適切な処分は下せないはずである。また、真相究明と再発防止のためにも、本人の弁明を聴いておくべきと言える。実際、多くの裁判所が「弁明の機会が与えられない懲戒処分は懲戒権の濫用として無効」(福島地会津支判S52.9.14、東京地判H8.7.26等)との立場を取っている。

3.行為と処分とのバランスが取れていない
 特に「懲戒解雇」は雇用関係を完全に絶ってしまう最終手段であるがゆえに、より軽い処分(例えば「減給」や「出勤停止」等)で済ませられないかどうかかを検討する必要がある。そのうえで、当該従業員を排除する以外に方法が無い場合に初めて許されるのが「懲戒解雇」であると考えるべきである。

4.会社の教育が不充分であった
就業中の私的動画撮影の禁止や食材の扱い方といった就業態度や顧客情報の守秘義務などについて適切な教育を行っていたのか、会社側の従業員教育体制も問われる。

以上は、社内での懲戒処分に合理性・相当性が認められるかどうかの判断材料であって、現実に会社の被った損害額については、懲戒処分の有無にかかわらず本人に賠償を求めることができる。もっとも、損害賠償させることよりも、こうした事件が起こらないようにすることの方が企業イメージを損なわないためにも重要であることは言うまでもない。

2019/02/12 英SSコード、コンプライorエクスプレイン⇒アプライ&エクスプレインへ

日本のスチュワードシップ・コード(2014年2月~)が手本にした英国スチュワードシップ・コード(2010年~)が2012年以来7年ぶりに大幅改訂される。スチュワードシップ・コードを所管する英国の財務報告評議会(FRC= Financial Reporting Council)は(2019年)1月30日、スチュワードシップ・コードの改定案を公表した。改訂案は3月29日までパブリックコメントに付され、2019年夏に最終版が確定する予定となっている。

財務報告評議会(FRC= Financial Reporting Council) : コーポレートガバナンスに関する独立の規制機関’

“大改訂”の名のとおり、今回の改訂では、内容面(後述)もさることながら、コードの体系自体に大幅な変更が加えられている。現行のスチュワードシップ・コードは、「7つの原則」とそれぞれの原則に関する複数のガイダンスで構成されているが、改訂案では、(1)柱となる14原則、(2)具体的な内容を示した33の細則、(3)さらに詳細な説明や具体例を記した33項目に及ぶガイダンスが設けられるとともに、「アセット・オーナー(年金基金等)及びアセット・マネージャー(運用会社等)向け」と「サービス・プロバイダー(議決権行使助言会社等)向け」のコードに明確な区切りが設けられた点、注目される。

そして特筆されるのは、コードのうち「細則」についてはこれまでと同様「コンプライorエクスプレイン」(適用するか、適用しない場合にはその理由を説明する)のアプローチが取られるものの、「原則」についてはスチュワードシップ・コードに署名した全ての機関に適用(アプライ)を求めるとともに、どのように適用したかを説明させる「アプライエクスプレイン」のアプローチが取られるということだ。運用機関などがすべての原則を適用しなければならなくなれば、企業への締め付けもきつくなることが予想される。

改訂内容のポイントは以下の3つ。・・・

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日本のスチュワードシップ・コード(2014年2月~)が手本にした英国スチュワードシップ・コード(2010年~)が2012年以来7年ぶりに大幅改訂される。スチュワードシップ・コードを所管する英国の財務報告評議会(FRC= Financial Reporting Council)は(2019年)1月30日、スチュワードシップ・コードの改定案を公表した。改訂案は3月29日までパブリックコメントに付され、2019年夏に最終版が確定する予定となっている。

財務報告評議会(FRC= Financial Reporting Council) : コーポレートガバナンスに関する独立の規制機関’

“大改訂”の名のとおり、今回の改訂では、内容面(後述)もさることながら、コードの体系自体に大幅な変更が加えられている。現行のスチュワードシップ・コードは、「7つの原則」とそれぞれの原則に関する複数のガイダンスで構成されているが、改訂案では、(1)柱となる14原則、(2)具体的な内容を示した33の細則、(3)さらに詳細な説明や具体例を記した33項目に及ぶガイダンスが設けられるとともに、「アセット・オーナー(年金基金等)及びアセット・マネージャー(運用会社等)向け」と「サービス・プロバイダー(議決権行使助言会社等)向け」のコードに明確な区切りが設けられた点、注目される。

そして特筆されるのは、コードのうち「細則」についてはこれまでと同様「コンプライorエクスプレイン」(適用するか、適用しない場合にはその理由を説明する)のアプローチが取られるものの、「原則」についてはスチュワードシップ・コードに署名した全ての機関に適用(アプライ)を求めるとともに、どのように適用したかを説明させる「アプライエクスプレイン」のアプローチが取られるということだ。運用機関などがすべての原則を適用しなければならなくなれば、企業への締め付けもきつくなることが予想される。

改訂内容のポイントは以下の3つ。
第一に、スチュワードシップ・コードに署名した機関が果たすべき役割の明確化のため、スチュワードシップ活動における「目的」「価値観」「戦略」「目標」を策定・公表することが求められる。

第二に、英国上場株式以外の資産へのスチュワードシップ・コードの適用だ。現行コードは英国上場株式に投資する投資家等を対象としているが、投資対象の拡大を受け、上場株式以外の幅広い資産への投資においてもスチュワードシップ責任を発揮するとともに、その実施状況について説明が求められることになる。また、債券投資においてもエンゲージメントを実施すべとしている。

第三に、気候変動をはじめとする重要なESG要素をどのように考慮しているか公表することを求める。具体例として、運用機関における投資部門とスチュワードシップ・ESGチームの間の情報共有や共同でのエンゲージメント実施などが挙げられている。

ESG : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。

前回日本のスチュワードシップ・コードが改訂(2017年5月)されてから既に1年半以上が経過している(改訂スチュワードシップ・コードの詳細は「議決権行使結果個別開示、“穏便な”コンプライは認められず」参照)。日本のスチュワードシップ・コードは3年ごとに見直すこととされているため(日本版スチュワード シップ・コード7ぺージ「14」参照)、次回改訂まで1年あまりしかない。次回改訂は今回の英国スチュワードシップ・コードの改訂内容の影響を受けることになりそうだ。

2019/02/12 【WEBセミナー】グラスルイス 2019年版 日本向け議決権行使助言基準改定のポイント

概略

【セミナー開催日】2019年1月31日(木)

ISSとともに機関投資家の議決権行使に強い影響力を持つグラスルイスですが、その議決権行使助言基準(以下、ポリシー)は、ISSと異なる部分が少なくありません。特にジェンダーダイバーシティについては厳しい基準を打ち出しており、2019年からは、TOPIX100採用企業を対象に、取締役会に女性役員がおらずそのことについて十分な説明が伴っていない場合、特定の取締役の選任議案への反対または棄権を推奨することとしています。さらに2020年以降は、東証1・2部に上場する全ての企業に適用範囲が拡大されます。また、2019年版ポリシーでは新たに、剰余金処分案による株主還元が合理的なものかを判断する際に、現金保有の水準、株主資本の割合、資本生産性の実績、株式の総合利回りなどを勘案する方針が打ち出されています。本セミナーでは、第一部のISS同様、2019年から適用されるポリシーの改定のポイントや改定の趣旨ほか、将来的なポリシーの見直しの可能性も含め、グラスルイスが関心を持つポリシーやテーマについても解説していただきます。

【講師】グラスルイス アジア・リサーチ シニア・ディレクター
上野 直子(うえの なおこ)様

セミナー資料 グラスルイス 2019年版 日本向け議決権行使助言基準改定のポイント.pdf(1.25MB)

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セミナー動画
1. グラス・ルイス概要
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1. グラス・ルイス概要続き GLASS LEWISの視点 議決権行使調査~
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2. 2019年 グラス・ルイス議決権行使助言方針 変更点
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3. 上場企業のみなさまへ
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3. 上場企業のみなさまへ続き 上場企業様へのお願い、質疑応答
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