2018/12/18 2018年3月末決算企業 主要国内機関投資家による議決権行使結果 第四弾(会員限定)

これまで3回にわたりお伝えしてきた「2018年3月末決算企業 主要国内機関投資家による議決権行使結果」の第四弾では、カルロス・ゴーン会長の逮捕で世間の注目を集めている日産自動車を取り上げる(日産自動車の問題については、2018年11月21日のニュース『「従業員によるガバナンス」の有効性を示した日産事件』、2018年11月27日のニュース「取締役を対象にした訴訟、「和解」には監査役等の同意必要に」参照)。今回も、一橋大学・商学研究科の円谷昭一先生がまとめた「3月末日決算の全上場企業」に対する国内全機関投資家の「議決権行使結果の個別開示」結果のデータに基づき、株主総会上程議案に対する各運用機関の賛否状況を分析している。

2018年3月末決算企業 主要国内機関投資家による議決権行使結果 第一弾
2018年3月末決算企業 主要国内機関投資家による議決権行使結果 第二弾
2018年3月末決算企業 主要国内機関投資家による議決権行使結果 第三弾

下表のとおり、同社は2018年6月の定時株主総会で、剰余金処分案および2人の取締役と3名の監査役(敬称略)の選任議案を上程した。全議案の平均賛成率は94.7%で、最も低かったのは監査役2名の選任議案の86.5%だった。

議案 内容(候補者など) 賛成率
剰余金処分 期末26.5円(年間53円) 99.9%
取締役選任 井原慶子 99.4%
取締役選任 豊田正和 99.5%
監査役の選任 今津英敏 86.5%
監査役の選任 永井素夫 86.5%
監査役の選任 池田鉄伸 96.3%

監査役の今津氏は同社の元副社長(社内取締役)であり、4年前に監査役に新任された際には95.9%と高い賛成率を獲得していた。今回一定の反対票を集めた要因として、独立性を伴った社外監査役が不足していると判断した場合、社内監査役の候補者に反対票を投じるというスタンスの投資家が増えたことが考えられる。下表のとおり、独立性のある社外監査役について、大和住銀投信投資顧問は「人数が十分でない場合」、アムンディジャパンは「50%未満となる場合」には、監査役の選任に反対する可能性がある旨を議決権行使基準の中に定めている。同社の監査役は4人おり、そのうち3人が社外監査役ではあるが、永井氏はみずほコーポレート銀行の元常務、安藤氏(今回は改選期に該当せず)は三和銀行の元専務と、それぞれ主要借入先(現在のみずほ銀行と三菱UFJ銀行)の出身であることから、これらの議決権行使基準に該当したものと考えられる。

大和住銀投信投資顧問
監査役の選任/解任に関する議案
下記のいずれかに該当する場合には原則反対とします。
・独立性を満たす社外監査役の人数が十分ではないと判断される場合
以下略
アムンディジャパン
2.判定に当たり判定者が配慮すべき視点
(2-1-3)
B)取締役および監査役の選任
イ)構成
原則ネガティブ評価とするが、総合的判定の中で賛成に回ることも有り得る案件は次の通り
①~④ 省略
⑤監査役設置会社において監査役総数に占める独立性の十分な社外監査役数の比率が50%未満となる場合

その他の理由としては、2017年に発覚した無資格検査問題について、監査役としての責任が問われた可能性もある。ニッセイアセットマネジメントは「社会的な影響が大きいと判断できる場合の当該責任を負うべき監査役」の選任には反対するとしており、事件の影響を重大と認識した可能性がある。なお、今津氏は「元副社長」として経営の中枢にいたことから、監督サイドの人選として不適切と捉えられることもあり得る。三井住友アセットマネジメントの議決権行使基準では、「代表権のある取締役経験者または代表執行役経験者」の監査役選任に反対するとしており、同氏は厳密にはこの基準には抵触しないが、副社長は代表権のある取締役経験者等に準じるものとして反対推奨の対象になった可能性は捨てきれない。

ニッセイアセットマネジメント
3. 監査役・監査等委員の選任
以下の基準に該当しない場合、原則、賛成します。
(1)重大な反社会的行為の有無
重大な反社会的行為(違法行為、不祥事等)が発生し、その影響が企業の利益に重大な影響(※)を及ぼす場合、または、社会的な影響が大きいと判断できる場合の当該責任を負うべき監査役の選任の場合
※経常利益の30%以上が目安
以下略
三井住友アセットマネジメント
2. 監査役選任
代表権のある取締役経験者または代表執行役経験者の監査役選任に原則反対する。

同じく監査役の永井氏については、前述のとおり、主要借入先であるみずほ銀行の出身であることが独立性を毀損するとの判断につながったものとみられる。明治安田アセットマネジメントは独立性基準として「取引銀行」を挙げており(下表「c」の赤字参照.)、同氏に対する反対票につながったものと考えられる。なお、明治安田アセットマネジメントは主要借入先(招集通知の記載による)ではない横浜銀行出身の池田氏の監査役就任議案にも反対票を投じており、「取引銀行」の範囲を主要借入先にとどまらず広く設定していることがうかがわれる。

明治安田アセットマネジメント
3. 監査役の選任(補欠監査役の選任を含む)
3. 社外監査役基準
監査役の選任に関しては基本的に賛成するが、以下のいずれかの基準に該当する場合には監査役の選任に原則反対する
(1)社外監査役の独立性が保たれていない場合(個々に判断し、個々に反対する)
社外監査役の独立性が保たれていない場合(個々に判断し、個々に反対する)
※独立性については以下のいずれかの基準で判断する
a. 過去10年内に当該会社、子会社、親会社、兄弟会社の業務執行者でないこと
b. 過去1年内に当該会社の主要取引先(売上、もしくは利益で3%以上)、当該会社を主要取引先とする会社等の業務執行者でないこと。なお、商社等広範な取引先を有する場合、売上、もしくは利益で5%程度まで許容し、かつ会社独自の独立性基準を設け、それに合致していること
c. 過去1年内に当該会社の取引銀行、幹事証券、監査法人、金銭その他の財産を得ている弁護士事務所、コンサルタント会社等に所属していないこと
d. 過去1年内に当該会社の主要業務を規制する立場の官庁等の公務員でないこと
e. 主要株主(持ち株比率10%以上)または上位10位内株主でないこと。会社等ならばその業務執行者でないこと
f. a~cまでの近親者(2親等以内)でないこと
g. a~fに該当せず、当該会社が社外取締役を、東証に独立社外役員として届け出、もしくは選任後届け出る場合は、独立性があるとみなす
三井住友アセットマネジメント
2. 監査役選任
代表権のある取締役経験者または代表執行役経験者の監査役選任に原則反対する。

なお、日産自動車は取締役の任期を2年としており、今年の株主総会で選任の対象となったのは新任の社外取締役2名のみ(元レーシングドライバーの井原氏、元経産省官僚の豊田氏)で、いずれも高い賛成率を確保している。昨年まで同社の社外取締役はルノーのシニア・バイス・プレジデントであるジャン・バプティステ・ドゥザン氏のみだったが、独立性への疑義から昨年の賛成率は86.2%にとどまっていた(任期2年のため今年の株主総会では選任議案の上程なし)。日産は多くの日本の上場企業同様監査役会設置会社だが、議決権行使助言会社最大手のISSでは、親会社や支配株主を持つ会社において、株主総会後の取締役会にISSの独立性基準を満たす2名の社外取締役がいない場合、経営トップである取締役の選任議案に反対するとしており(ISSの2018年版 日本向け議決権行使助言基準5ページ 3. 取締役選任(経営権の争いがない場合)の「監査役設置会社」参照)、昨年の株主総会では、社外取締役がドゥザン氏1名のみである同社の経営トップ(ゴーン会長、西川社長)の選任議案に反対推奨した可能性が高い。ISSは、ルノーに43%以上の株式を保有される日産自動車には独立した社外取締役がいないと判断した可能性もある。実際、昨年株主総会では、ゴーン会長と西川社長の賛成率はともに70%台だった(任期2年のため、今年の株主総会では選任議案の上程なし)。ゴーン会長の金商法違反による逮捕に揺れる同社だが、来年の株主総会では、今年選任した2名の独立性のある社外取締役が辞任などしない限り、少なくとも社外取締役の数およびその独立性の観点から経営トップの選任議案に反対推奨がされることはなさそうだ。

2018/12/17 グラスルイス、日本向け2019年版ガイドラインで剰余金処分案に新方針

議決権行使助言会社大手・グラスルイスの「日本向け2019年版ガイドライン」が同社のウェブサイトで公開されている。今のところ英語版のみが公表されており、日本語版の公表は来年1月下旬になる見通しだ。

今回発表された助言方針における変更点は、・・・

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2018/12/17 グラスルイス、日本向け2019年版ガイドラインで剰余金処分案に新方針(会員限定)

議決権行使助言会社大手・グラスルイスの「日本向け2019年版ガイドライン」が同社のウェブサイトで公開されている。今のところ英語版のみが公表されており、日本語版の公表は来年1月下旬になる見通しだ。

今回発表された助言方針における変更点は、①BOARD GENDER DIVERSITY(取締役会の性別の多様性)と、②ALLOCATION OF PROFITS AND DIVIDENDS(剰余金処分)に関するものとなっている。以下、それぞれについて説明しよう。

① BOARD GENDER DIVERSITY
昨年既に公表されていたとおり、2019年からTOPIX100採用企業を対象として、女性役員が全くいない場合、責任を負うべきと考える取締役の選任議案に反対を助言する(2017年12月21日のニュース「グラスルイスが日本向け2018年版ガイドラインを公表」参照)。女性役員の範囲としては、取締役のみならず監査役、および指名委員会等設置会社の執行役が含まれる。これに対し、会社法上の役員ではない執行役員は該当しない。選任議案への反対を助言する対象となる取締役は、監査役会設置会社および監査等委員会設置会社では会長(会長がいない場合には、社長など最も上位の執行者)、指名委員会等設置会社では指名委員会の委員長となる。

あわせてグラスルイスは、反対助言に該当するケースでも、企業による開示によっては賛成に転じる可能性を示している。具体的には、女性役員が現在いないことについて、または多様性を高める今後の計画について、企業の情報開示において十分な説明があると判断した場合には、反対助言を控えるかもしれない(may refrain)という。ただし、反対助言を控えるかどうかについては、相当に厳しい視点で判断が行われることが予想される。例えば単に「検討しております」や「育成しております」といった記載では、反対助言を覆すことは難しいものと考えられる。

当該方針は2020年以降、東証1・2部に上場する全ての企業を適用対象にされる。現状、女性役員を選任していない東証1・2部上場企業は、1年間の猶予期間を活用して、新たに女性役員を選任するか、開示を充実させるか、いずれかの対策を検討する必要があるだろう。

② ALLOCATION OF PROFITS AND DIVIDENDS
当該方針は、グラスルイスが今回新たに打ち出したものであり、具体的には、剰余金処分案による株主還元が合理的なものかを判断する際に、現金保有の水準、株主資本の割合、資本生産性の実績、株主総利回り(≒TSR ※ガイドラインの中では「shareholder returns」と表現)などを勘案するというもの。同社は従来、剰余金処分案にはほぼ全面的に賛成助言してきたとみられるだけに、今回の方針変更はこれまでのスタンスを転換するものにも見える。しかし、グラスルイスは当該方針の説明において「基本的なスタンスは変えない(our general approach has not changed)」ともしており、実際に反対助言を受けるケースは例外にとどまることが予想される。

株主資本 : 純資産の部のうち資本金と剰余金を足して自己株式を控除した額。純資産の部のうち、その他の包括利益累計額・新株予約権・非支配株主持分(連結財務諸表の場合)は株主資本には含まれない。

今回の方針変更の背景として、近年における株主提案の増加があるものと考えられる。株主提案による剰余金処分案は数字(配当性向や総還元性向)だけ見れば株主にとって極めて魅力的であり、グラスルイスとしても賛成助言をせざるを得ないケースもあろう。その際、単純に数字だけで判断するのではなく、企業のROE(自己資本利益率)TSR(株主総利回り)などパフォーマンスを加味することで、短絡的な判断を防ごうというのが新たな方針の趣旨と考えられる。

総還元性向 : 企業が利益をどの程度株主に還元しているかを示す指標。「総配分性向」「株主還元性向」とも言われる。「(配当金+自社株買いの金額)÷当期純利益」によって計算される。ちなみに、「配当性向」は当期純利益に占める「配当金」のみの割合を示す。自社株買いも株主還元の1つであるため、最近は配当性向とともに、総還元性向を開示する企業が多い。
ROE(自己資本利益率) : Return On Equity(自己資本利益率)=当期純利益÷自己資本

上述のとおり、グラスルイスは従来、剰余金処分案にはほぼ賛成助言してきたとみられ、基本的に株主提案には賛成するケースは例外にとどまるものとみられるが、会社提案の剰余金処分案の内容があまりに株主への配慮を欠いたものである場合において、魅力的な剰余金処分の株主提案が出てくれば、新方針に基づき株主提案に賛成を推奨することもあり得る。この結果、機関投資家が賛成に回れば、株主提案が可決される可能性はかなり高まることになる。企業としては、来年以降、剰余金処分案の内容にはこれまで以上に注意を払う必要がありそうだ。

2018/12/14 業績連動報酬、報酬委員会の過半数が独立役員なら損金に

機関投資家が日本企業の経営者報酬制度を従来の固定報酬偏重型から「業績連動報酬」「⻑期インセンティブ報酬」を加えた“3階建て”に組み替えるよう求める中(2018年5月11日のニュース『投資家目線の「望ましい経営者報酬」』参照)、利益や売上、株価等に連動して金額が変動する役員報酬は「業績連動報酬」としてうってつけに見える。しかし、その導入にあたっては、・・・

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2018/12/14 業績連動報酬、報酬委員会の過半数が独立役員なら損金に(会員限定)

機関投資家が日本企業の経営者報酬制度を従来の固定報酬偏重型から「業績連動報酬」「⻑期インセンティブ報酬」を加えた“3階建て”に組み替えるよう求める中(2018年5月11日のニュース『投資家目線の「望ましい経営者報酬」』参照)、利益や売上、株価等に連動して金額が変動する役員報酬は「業績連動報酬」としてうってつけに見える。しかし、その導入にあたっては、法人税法が求める報酬委員会(任意の報酬委員会を含む。以下、両者を合わせて「報酬委員会等」という)の厳しい構成要件がボトルネックとなっているということは既報のとおりだ(2018年8月8日のニュース「企業が頭を悩ます報酬委員会のメンバー構成」参照)。具体的には、法人税の計算上、業績連動報酬(法人税法上の正式名称は「業績連動給与」だが、本稿では説明の便宜上「業績連動報酬」という場合がある)を損金算入するための要件の一つとして、メンバー“全員”が社外取締役などの「非業務執行役員」である報酬委員会等により業績連動報酬が決定されることが求められる。

業績連動給与 : その事業年度の利益や株価、売上等に関する指標に基づく「あらかじめ定められた方法」により決定されるもの。複数年度にわたる指標(例えば3年間の平均利益)を採用することも認められる。
損金 : 法人税計算の基礎となる法人所得を減らす性質の支出等のこと。損金は企業会計上の費用とおおむね一致するが、役員賞与や固定資産の減損損失など「損金には該当しない費用」もある。

任意の諮問委員会について規定するコーポレートガバナンス・コード補充原則4-10①には今年(2018年)6月1日に行われた改訂で「諮問委員会」の前に「独立した」という文言が追加されたが、「過半数が独立社外取締役、委員長も独立社外取締役」の諮問委員会であれば、堂々と補充原則4-10①を「コンプライ」していると言うことができるとされる(2018年5月29日のニュース『改訂CGコードが意図する「独立した」委員会』参照)。こうした中、企業側からは、法人税法が求める「メンバー全員が非業務執行役員」という要件はあまりに厳しすぎるとの声が上がっていた。

そこでこのボトルネックを解消すべく、政府は法人税法の改正を検討していたが(2018年9月11日のニュース「業績連動報酬の導入に拍車も」参照)、当フォーラムの予想どおり当該要件が緩和されることが決まった。政府・与党は本日(2018年12月14日)、2019年度税制改正大綱を公表したが、下表のとおり、その82ページの(6)に当該要件を緩和する旨が明記されている(赤字部分)。

税制改正大綱 : 税制改正は毎年1回行われるのが通常だが、翌年度の税制改正の内容を大まかにとりまとめたものが税制改正大綱であり、毎年12月中旬頃に政府(与党)が公表する。

(6)法人の支給する役員給与における業績連動給与の手続に係る要件について、次の見直しを行う。
① 報酬委員会及び報酬諮問委員会(以下、「報酬委員会等」という。)における決定等の手続きについて、次の見直しを行う。
報酬委員会等を設置する法人の業務執行役員が報酬委員会等の委員でないこととの要件を除外するとともに、業務執行役員が自己の業績連動給与の決定等に係る決議に参加していないこととの要件を加える。
ロ 報酬委員会等の委員の過半数が独立社外役員であること及び委員である独立社外役員の全てが業績連動給与の決定に賛成していることとの要件を加える。
② 監査役会設置会社における監査役の過半数が適正書面を提出した場合の取締役会の決定及び監査等委員会設置会社における監査等委員の過半数が賛成している場合の取締役会の決定の手続を除外する。
(注)上記の改正は、平成31年4月1日以後に支給に係る決議をする給与について適用する。なお、同日から平成32年3月31日までの間に支給に係る決議をする給与については、現行の手続による業績連動給与の損金算入を認める経過措置を講ずる。

ただし、「メンバー全員が非業務執行役員」との要件をなくす一方で、(1)業務執行役員が自己の業績連動給与の決定等に係る決議に参加していない(イの後半部分)、(2)報酬委員会等の委員の過半数が「独立社外役員」である(ロの前半部分)、(3)委員である独立社外役員の全てが業績連動給与の決定に賛成している(ロの後半部分)――という3つの要件を追加する。

ここで気になるのは、(2)の「独立役員」との文言だ。東証は独立役員を「一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役又は社外監査役」と定義している(独立役員の確保に係る実務上の留意事項(2015 年 6 月改訂版)「1.制度の趣旨・独立役員とは」参照)ことから、社外取締役のみならず「社外監査役」も加えた数が委員会の過半数を占めていれば、(2)の要件を満たせることになると思われる。

また、現行法人税法では、業績連動給与を損金算入するための要件として、上述したように報酬委員会等が決定をしていることに代え、(4)監査役会設置会社については「監査役の過半数が業績連動報酬の算定方法が適正であると認めた旨を記載した書面を会社に提出した上での取締役会の決議」、(5)監査等委員会設置会社については「監査等委員である取締役の過半数が賛成した取締役会の決議」があればよいこととしているが(法人税法施行令69条15項四号、五号)、今回の改正でこれらの要件がなくなる(上表の②)。つまり、これまでは、報酬委員会等の決定がなくても、監査役過半数が業績連動報酬を適正と認める、あるいは監査等委員の過半数が業績連動報酬に賛成していれば、当該業績連動報酬を損金算入することができたが、今後は報酬委員会等の決定がなければ損金算入は認められないということになる。これは、2018年6月1日から施行されたコーポレートガバナンス・コードの補充原則4-10①で、報酬諮問委員会(任意の報酬委員)の設置が従来より強く求められるようになったことを受けたもの(2018年4月5日のニュース『任意の諮問委員会、設置しなければ「エクスプレイン」必要に』参照)。今後は、法人税の計算上、業績連動報酬を損金算入にするためには、任意の報酬委員会の設置は必須となる。

この改正は「平成31年4月1日以後に支給に係る決議をする給与について適用する」とされていることから(上表の(注)参照)、3月決算企業であれば、2019年6月の株主総会で支給決議をする業績連動報酬から、報酬委員会等の要件が緩和されることになる。来年の株主総会で法人税法上の損金算入要件を満たす業績連動報酬を導入する企業がどれくらい増えるのか、注目される。

なお、上述のとおり、今回の改正では逆に要件が厳しくなる部分も含まれていることから(上記(1)~(5))、1年間の適用猶予期間が設けられている(上表の(注)の「なお」以降)。特に任意の報酬委員会をいまだ設置していない上場企業は少なくないことから(東証が(2018年)7月31日付けで公表した「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況、委員会の設置状況及び相談役・顧問等の開示状況」(9ページ参照)によると、任意の報酬委員会を設置している上場企業は、東証一部上場会社全体の34.9%(前年31.7%)、JPX日経400銘柄に限定すると54.9%)、任意の報酬委員会を設置するための準備期間(それまでは、監査役過半数が業績連動報酬を適正と認める、あるいは監査等委員の過半数が業績連動報酬に賛成していれば、当該業績連動報酬を損金算入することを認める)という意味合いが大きいと言えそうだ。

2018/12/13 ACGAが付けた日本のCGランキングに機関投資家から批判の声

2014年に導入されたスチュワードシップ・コード、2015年に導入されたコーポレートガバナンス・コードについて早くも最初の改訂(それぞれ2017年、2018年)が行われるなどコーポレートガバナンス改革を進める日本だが、その日本が、ACGAが12月5日にリリースした最新コーポレートガバナンス・ランキングで「7位」とされたことに対し、国内機関投資家などから批判の声が上がっている。

ACGA : Asia Corporate Governance Association(アジア・コーポレート・ガバナンス協会)の略で、アジアに投資するグローバルな機関投資家の団体。

アジア諸国を対象としたACGAのコーポレートガバナンス・ランキングは2年おきに公表されており、下表のとおり、前回調査(2016年)で日本は4位にランキングされていた(CG WATCH 2018 14ページ参照)。政府主導でコーポレートガバナンス改革が進む中、前回より3ランクも低い7位とされたことは、政府、機関投資家、経済界でも失望感を持って受け止められている。・・・

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2018/12/13 ACGAが付けた日本のCGランキングに機関投資家から批判の声(会員限定)

2014年に導入されたスチュワードシップ・コード、2015年に導入されたコーポレートガバナンス・コードについて早くも最初の改訂(それぞれ2017年、2018年)が行われるなどコーポレートガバナンス改革を進める日本だが、その日本が、ACGAが12月5日にリリースした最新コーポレートガバナンス・ランキングで「7位」とされたことに対し、国内機関投資家などから批判の声が上がっている。

ACGA : Asia Corporate Governance Association(アジア・コーポレート・ガバナンス協会)の略で、アジアに投資するグローバルな機関投資家の団体。

アジア諸国を対象としたACGAのコーポレートガバナンス・ランキングは2年おきに公表されており、下表のとおり、前回調査(2016年)で日本は4位にランキングされていた(CG WATCH 2018 14ページ参照)。政府主導でコーポレートガバナンス改革が進む中、前回より3ランクも低い7位とされたことは、政府、機関投資家、経済界でも失望感を持って受け止められている。

2016年ランキング 2018年ランキング
1 オーストラリア 1 オーストラリア
2 シンガポール 2 香港
3 香港 3 シンガポール
4 日本 4 マレーシア
5 台湾 5 台湾
6 タイ 6 タイ
7 マレーシア 7 日本
8 インド 7 インド
9 韓国 9 韓国
10 中国 10 中国
11 フィリピン 11 フィリピン
12 インドネシア 12 インドネシア

これまでスチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コードというソフト・ローによる日本のコーポレートガバナンス改革を評価してきたACGAだが、今回突如として日本の順位を下げた理由として、「日本はコーポレートガバナンス・コードおよびスチュワードシップ・コードを改訂し、企業と投資家の対話を強化することに重点を置いてきたが、ソフト・ローにばかり焦点を当て、ハード・ロー(注:例えば会社法などの法令のこと)による規制が十分でないことにより、少数株主の権利が守られていない」旨を挙げている(CG WATCH 2018 15ページ参照)。

このようなACGAの見解に対し、国内機関投資家からは「英国など海外ではソフト・ローによるコーポレートガバナンスの推進が主流になっているのに、ハード・ローによる規制が十分でないから順位を下げるというのは明らかにおかしい」とし、「今回のランキングは誤り」と明確に指摘する声も聞かれる。日本が4位から7位に順位を落とされる一方、日本と入れ替わりで7位から4位に順位を上げたのがマレーシアだが、ACGAはその理由の一つとして「現マハティール政権がナジブ前首相らの汚職追及を強めている」ことを挙げている(CG WATCH 2018 15ページ参照)。仮にこれによりマレーシアの金融規制当局の機能が向上するとしても、現在、コーポレートガバナンス関係の会社法改正にも取り組む日本と、最近まで政府内に汚職が存在していたマレーシアの順位が入れ替わることには違和感を感じる向きも多いだろう。

コーポレートガバナンス改革に真摯に取り組む日本企業にとっても、今回のランキングはショッキングなものと言えるが、上述のとおり、有力国内機関投資家も日本の「7位」という順位が間違いであることを公言しているうえ、グローバルなガバナンスの団体であるICGNも、今回の日本の順位について「おかしい」との感想を持っている模様だ。ACGAのランキングは海外の機関投資家からの注目度も高いが、国内・国外の機関投資家ともに日本企業のコーポレートガバナンスが後退しているとは見ていないということが確認されたという点、日本企業の経営陣にとってはひと安心と言えそうだ。

ICGN : The International Corporate Governance Network(国際コーポレートガバナンス・ネットワーク)の略で、コーポレートガバナンスに関する国際団体。ICGNは1995年に英米の機関投資家協会により設立され、現在はグローバルな機関投資家が40か国以上から参加している。

 

 

 

2018/12/12 今後の新卒採用面接のトレンド(会員限定)

【2018年10月の課題】就活ルール廃止による中長期的な影響と人事戦略では、日本企業の新卒一括採用(メンバーシップ型採用)が将来見直され、いずれジョブ型採用に転換していく旨お伝えしたところだ。就活ルールの廃止を決めた中西宏明・経団連会長が経営トップ(会長)を務める日立製作所では既にジョブ型採用を始めているが、日本でジョブ型採用が実現するには一つ大きな問題がある。それは学生の方が「ジョブ型」になっていないということだ。

メンバーシップ型採用 : 自社の“メンバー”としてふさわしい人材になれるかどうかという観点から人選を行う採用手法。入社後は、ジョブローテーション等によりゼネラリストへと育成する。メンバーシップ型では、終身雇用が前提となる。
ジョブ型採用 : 「特定のポスト」や「特定の職種」の専門家として人材を採用する手法であり、欧米で普及している。ジョブ型が浸透した欧米では、様々な企業の経営者を経験した人材も「プロの経営者」として流動化している。

例えば「法学部」と言えば文系の人気学部の一つだが、法学部の学生が皆法律の専門家を目指すわけではないのはもちろん、有名大学の法学部の学生でさえ、大部分は専門的なレベルの法律知識を身に付けることがないまま卒業していくというのが現実だろう。こうした学生の多くは、法律の勉強がしたいというよりも、単に「つぶしがきく」ということで法学部を選択した、あるいはたまたま法学部に合格したから入学したというだけに過ぎない。

もちろん、法学部の学生の中には高いレベルで法律を学習している学生もいるだろう。企業で法律の知識をダイレクトに活かせる職場と言えば法務部があるが、上場企業であっても法務部の採用人数は限られており、法務部の学生を多数受け入れるキャパシティーはない。すなわち、ここでは「学部」と「ジョブ」のミスマッチが生じていることになる。今後、企業がジョブ型採用、すなわち職種を細分化して採用を始めた場合、このミスマッチは益々広がっていくことが予想される。

一方、ある就活サイトの関係者は今般の就活ルールの見直しに触れ、「企業が本当に欲しいと思う学生は、どのようなルールになろうと、どの企業にも入れる」と話す。例えば大学で宇宙物理学を専攻した学生はその希少性もあり、特定のメーカー等では引っ張りだこだろう。その意味では、宇宙物理学を学習した学生は既に「ジョブ型採用」に対応していると言える。特段の専門性を身に付けることなく大学を卒業する学生(文系学生に多い傾向がある)とは対象的だ。

こうした中、経済界(企業)と大学の対話も始まっている。経済界が大学に求めているのは、要するに、仕事内容と大学での学習がリンクするよう教育の中身、カリキュラムを変えて欲しいということだ。例えば、企業側はジョブディスクリプションとそれに応じて求める人材を明確化する一方、大学にはそれに合わせた教育をするよう求めている。また、学習ポートフォリオやディプロマ・ポリシー、卒業時の成績表等で学習の到達度が分かるようにして欲しいといった要望も上がっている。

ディプロマ・ポリシー : 卒業認定・学位授与に関する方針

当面は現在の新卒一括採用(メンバーシップ型採用)が続くとしても、今後の新卒採用では、学生が募集職種に合った勉強をしてきたか、またその到達度、成績などが現在より重視されるというのがトレンドとなっていきそうだ。

メンバーシップ型採用 : 自社の“メンバー”としてふさわしい人材になれるかどうかという観点から人選を行う採用手法。入社後は、ジョブローテーション等によりゼネラリストへと育成する。メンバーシップ型では、終身雇用が前提となる。■

2018/12/12 今後の新卒採用面接のトレンド

【2018年10月の課題】就活ルール廃止による中長期的な影響と人事戦略では、日本企業の新卒一括採用(メンバーシップ型採用)が将来見直され、いずれジョブ型採用に転換していく旨お伝えしたところだ。就活ルールの廃止を決めた中西宏明・経団連会長が経営トップ(会長)を務める日立製作所では既にジョブ型採用を始めているが、日本でジョブ型採用が実現するには一つ大きな問題がある。それは・・・

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