これまで3回にわたりお伝えしてきた「2018年3月末決算企業 主要国内機関投資家による議決権行使結果」の第四弾では、カルロス・ゴーン会長の逮捕で世間の注目を集めている日産自動車を取り上げる(日産自動車の問題については、2018年11月21日のニュース『「従業員によるガバナンス」の有効性を示した日産事件』、2018年11月27日のニュース「取締役を対象にした訴訟、「和解」には監査役等の同意必要に」参照)。今回も、一橋大学・商学研究科の円谷昭一先生がまとめた「3月末日決算の全上場企業」に対する国内全機関投資家の「議決権行使結果の個別開示」結果のデータに基づき、株主総会上程議案に対する各運用機関の賛否状況を分析している。
・2018年3月末決算企業 主要国内機関投資家による議決権行使結果 第一弾
・2018年3月末決算企業 主要国内機関投資家による議決権行使結果 第二弾
・2018年3月末決算企業 主要国内機関投資家による議決権行使結果 第三弾
下表のとおり、同社は2018年6月の定時株主総会で、剰余金処分案および2人の取締役と3名の監査役(敬称略)の選任議案を上程した。全議案の平均賛成率は94.7%で、最も低かったのは監査役2名の選任議案の86.5%だった。
| 議案 | 内容(候補者など) | 賛成率 |
| 剰余金処分 | 期末26.5円(年間53円) | 99.9% |
| 取締役選任 | 井原慶子 | 99.4% |
| 取締役選任 | 豊田正和 | 99.5% |
| 監査役の選任 | 今津英敏 | 86.5% |
| 監査役の選任 | 永井素夫 | 86.5% |
| 監査役の選任 | 池田鉄伸 | 96.3% |
監査役の今津氏は同社の元副社長(社内取締役)であり、4年前に監査役に新任された際には95.9%と高い賛成率を獲得していた。今回一定の反対票を集めた要因として、独立性を伴った社外監査役が不足していると判断した場合、社内監査役の候補者に反対票を投じるというスタンスの投資家が増えたことが考えられる。下表のとおり、独立性のある社外監査役について、大和住銀投信投資顧問は「人数が十分でない場合」、アムンディジャパンは「50%未満となる場合」には、監査役の選任に反対する可能性がある旨を議決権行使基準の中に定めている。同社の監査役は4人おり、そのうち3人が社外監査役ではあるが、永井氏はみずほコーポレート銀行の元常務、安藤氏(今回は改選期に該当せず)は三和銀行の元専務と、それぞれ主要借入先(現在のみずほ銀行と三菱UFJ銀行)の出身であることから、これらの議決権行使基準に該当したものと考えられる。
| 大和住銀投信投資顧問 監査役の選任/解任に関する議案 |
下記のいずれかに該当する場合には原則反対とします。 ・独立性を満たす社外監査役の人数が十分ではないと判断される場合 以下略 |
| アムンディジャパン 2.判定に当たり判定者が配慮すべき視点 (2-1-3) B)取締役および監査役の選任 イ)構成 |
原則ネガティブ評価とするが、総合的判定の中で賛成に回ることも有り得る案件は次の通り ①~④ 省略 ⑤監査役設置会社において監査役総数に占める独立性の十分な社外監査役数の比率が50%未満となる場合 |
その他の理由としては、2017年に発覚した無資格検査問題について、監査役としての責任が問われた可能性もある。ニッセイアセットマネジメントは「社会的な影響が大きいと判断できる場合の当該責任を負うべき監査役」の選任には反対するとしており、事件の影響を重大と認識した可能性がある。なお、今津氏は「元副社長」として経営の中枢にいたことから、監督サイドの人選として不適切と捉えられることもあり得る。三井住友アセットマネジメントの議決権行使基準では、「代表権のある取締役経験者または代表執行役経験者」の監査役選任に反対するとしており、同氏は厳密にはこの基準には抵触しないが、副社長は代表権のある取締役経験者等に準じるものとして反対推奨の対象になった可能性は捨てきれない。
| ニッセイアセットマネジメント 3. 監査役・監査等委員の選任 |
以下の基準に該当しない場合、原則、賛成します。 (1)重大な反社会的行為の有無 重大な反社会的行為(違法行為、不祥事等)が発生し、その影響が企業の利益に重大な影響(※)を及ぼす場合、または、社会的な影響が大きいと判断できる場合の当該責任を負うべき監査役の選任の場合 ※経常利益の30%以上が目安 以下略 |
| 三井住友アセットマネジメント 2. 監査役選任 |
代表権のある取締役経験者または代表執行役経験者の監査役選任に原則反対する。 |
同じく監査役の永井氏については、前述のとおり、主要借入先であるみずほ銀行の出身であることが独立性を毀損するとの判断につながったものとみられる。明治安田アセットマネジメントは独立性基準として「取引銀行」を挙げており(下表「c」の赤字参照.)、同氏に対する反対票につながったものと考えられる。なお、明治安田アセットマネジメントは主要借入先(招集通知の記載による)ではない横浜銀行出身の池田氏の監査役就任議案にも反対票を投じており、「取引銀行」の範囲を主要借入先にとどまらず広く設定していることがうかがわれる。
| 明治安田アセットマネジメント 3. 監査役の選任(補欠監査役の選任を含む) 3. 社外監査役基準 |
監査役の選任に関しては基本的に賛成するが、以下のいずれかの基準に該当する場合には監査役の選任に原則反対する (1)社外監査役の独立性が保たれていない場合(個々に判断し、個々に反対する) 社外監査役の独立性が保たれていない場合(個々に判断し、個々に反対する) ※独立性については以下のいずれかの基準で判断する a. 過去10年内に当該会社、子会社、親会社、兄弟会社の業務執行者でないこと b. 過去1年内に当該会社の主要取引先(売上、もしくは利益で3%以上)、当該会社を主要取引先とする会社等の業務執行者でないこと。なお、商社等広範な取引先を有する場合、売上、もしくは利益で5%程度まで許容し、かつ会社独自の独立性基準を設け、それに合致していること c. 過去1年内に当該会社の取引銀行、幹事証券、監査法人、金銭その他の財産を得ている弁護士事務所、コンサルタント会社等に所属していないこと d. 過去1年内に当該会社の主要業務を規制する立場の官庁等の公務員でないこと e. 主要株主(持ち株比率10%以上)または上位10位内株主でないこと。会社等ならばその業務執行者でないこと f. a~cまでの近親者(2親等以内)でないこと g. a~fに該当せず、当該会社が社外取締役を、東証に独立社外役員として届け出、もしくは選任後届け出る場合は、独立性があるとみなす |
| 三井住友アセットマネジメント 2. 監査役選任 |
代表権のある取締役経験者または代表執行役経験者の監査役選任に原則反対する。 |
なお、日産自動車は取締役の任期を2年としており、今年の株主総会で選任の対象となったのは新任の社外取締役2名のみ(元レーシングドライバーの井原氏、元経産省官僚の豊田氏)で、いずれも高い賛成率を確保している。昨年まで同社の社外取締役はルノーのシニア・バイス・プレジデントであるジャン・バプティステ・ドゥザン氏のみだったが、独立性への疑義から昨年の賛成率は86.2%にとどまっていた(任期2年のため今年の株主総会では選任議案の上程なし)。日産は多くの日本の上場企業同様監査役会設置会社だが、議決権行使助言会社最大手のISSでは、親会社や支配株主を持つ会社において、株主総会後の取締役会にISSの独立性基準を満たす2名の社外取締役がいない場合、経営トップである取締役の選任議案に反対するとしており(ISSの2018年版 日本向け議決権行使助言基準5ページ 3. 取締役選任(経営権の争いがない場合)の「監査役設置会社」参照)、昨年の株主総会では、社外取締役がドゥザン氏1名のみである同社の経営トップ(ゴーン会長、西川社長)の選任議案に反対推奨した可能性が高い。ISSは、ルノーに43%以上の株式を保有される日産自動車には独立した社外取締役がいないと判断した可能性もある。実際、昨年株主総会では、ゴーン会長と西川社長の賛成率はともに70%台だった(任期2年のため、今年の株主総会では選任議案の上程なし)。ゴーン会長の金商法違反による逮捕に揺れる同社だが、来年の株主総会では、今年選任した2名の独立性のある社外取締役が辞任などしない限り、少なくとも社外取締役の数およびその独立性の観点から経営トップの選任議案に反対推奨がされることはなさそうだ。
