2018/12/11 2019年度税制改正、有利子負債の多い企業の懸念が消滅

多額の内部留保を抱える企業に対し投資家から株主還元(配当や自社株買い)を求めるプレッシャーが高まる一方、借入れにより財務レバレッジの効いた事業を展開する企業もある。後者のような企業では、有利子負債の増加により財務リスクを抱える恐れもあるが、見方を変えれば、・・・

財務レバレッジ : 株主資本(自己資本)を1とした場合、その何倍の総資本を有しているかを示す数値。「総資産/株主資本」によって計算される。財務レバレッジ(=テコ)が大きい会社とは、借入金の大きい会社である。財務レバレッジが高ければ、株主資本よりも大きな取引を行うことができる。ただし、その反面、有利子負債が増加して、金利負担、返済負担が増加し、会社の収益性が下がったり、財務リスクを抱えたりする可能性がある。

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2018/12/11 2019年度税制改正、有利子負債の多い企業の懸念が消滅(会員限定)

多額の内部留保を抱える企業に対し投資家から株主還元(配当や自社株買い)を求めるプレッシャーが高まる一方、借入れにより財務レバレッジの効いた事業を展開する企業もある。後者のような企業では、有利子負債の増加により財務リスクを抱える恐れもあるが、見方を変えれば、支払い利子は法人税の計算上は損金となるため、借入れには“節税効果”があるとも言える。

財務レバレッジ : 株主資本(自己資本)を1とした場合、その何倍の総資本を有しているかを示す数値。「総資産/株主資本」によって計算される。財務レバレッジ(=テコ)が大きい会社とは、借入金の大きい会社である。財務レバレッジが高ければ、株主資本よりも大きな取引を行うことができる。ただし、その反面、有利子負債が増加して、金利負担、返済負担が増加し、会社の収益性が下がったり、財務リスクを抱えたりする可能性がある。
損金 : 法人税計算の基礎となる法人所得を減らす性質の支出等のこと。損金は企業会計上の費用とおおむね一致するが、役員賞与や固定資産の減損損失など「損金には該当しない費用」もある。

実は国際社会では、こうした借入れの節税効果を悪用した租税回避行為がかねてから問題視されてきた。例えば、税率の低い国にある企業(親会社)が日本に子会社を設立、当該子会社の事業が順調に成長し、X期において10億円の所得が発生したとしよう。そして、X期において、親会社が子会社に1,000億円を貸し付け、子会社はその利子として10億円を親会社に支払ったとする。この場合、支払利子10億円が全額損金となり子会社の所得10億円と相殺されるとすると、子会社の法人税はゼロとなる。一方、親会社には受取利子10億円が所得として計上されるが、親会社は税率の低い国にあるため、税負担を大幅に抑えることができる。

こうした租税回避行為に対し、先進諸国を中心に構成されるOECD(経済協力開発機構)は2015年10月5日に公表したBEPS行動計画()の最終報告書の中で、所得金額に比べて過大な利子の損金算入を制限するルールの導入を日本を含む加盟国に勧告したところだ。具体的には、「純支払利子(支払利子-受取利子)」が「EBITDA(課税所得+純支払利子+減価償却費)×一定比率」を超える場合には、その超える金額の損金算入を認めないというもので、ここでいう一定比率は各国が「10~30%」の範囲で定めることとされている。

EBITDA : Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortizationの略で、「エビーダ」「イービッダー」と呼ばれることが多い。直訳すれば「利子・税金・減価償却費計上前の利益」ということになるが、要するに「税引前当期純利益+減価償却費+支払利息」によって計算される。減価償却費というキャッシュアウトのない、いわば“現金ベース”の利益概念と言えよう。

 BEPSとは「Base Erosion and Profit Shifting」の略で、「税源侵食と利益移転」と訳される。欧米の多国籍企業のアグレッシブな租税回避行動(国際的な税制の隙間を利用した二重”非”課税や、税率の低い国に利益を移転させること等により納税額を最小化する行動)を指す。これに対処するため、OECD加盟国+OECD非加盟のG20メンバー8か国によりBEPSプロジェクトが立ち上げられ、その成果物がBEPS行動計画である。

こうした中、政府は今週中にも公表する予定の2019年度税制改正大綱に、上述したBEPS行動計画の最終報告書利子に沿った形で損金算入を制限する内容を盛り込む。

税制改正大綱 : 税制改正は毎年1回行われるのが通常だが、翌年度の税制改正の内容を大まかにとりまとめたものが税制改正大綱であり、毎年12月中旬頃に政府(与党)が公表する。

企業の間で注目を集めているのが、国内への支払利子が損金算入制限の対象になるのか否かという点だ。上述したOECDの勧告では、国内or国外への支払利子であるかどうか、また、関連会社or非関連会社への支払利子であるかどうかを問わず、全ての利子を損金算入制限の対象とするよう求めている。仮に国内/国外、関連会社/非関連会社を問わず全ての利子の損金算入が制限されることになれば、BEPSとは無縁のドメスティックな企業、例えば不動産会社や鉄道会社などが、国内における借入れが多いというだけで、支払利子の損金算入を制限されることになる。また、上述のとおりOECDは、「純支払利子」が「EBITDA×10~30%」を超える場合には、その超える金額の損金算入を認めないとしていることから、EBITDAが低い企業、すなわち業績が芳しくない企業も、軒並み支払利子の損金算入制限を受けることになりかねない。これにより企業が金融機関からの借入れを控えるようなことになれば、金融機関にも大きな影響が及ぶことが予想される。

こうした中、財務省・経済産業省・金融庁はどのような制度設計にするかを議論してきたが、当フォーラムの取材により、国内への支払利子は損金算入制限の対象外とすることで決着したことが確認されている。EBITDAに乗じる率は「20%」に決まった。米国やEUではこの率を「30%」と日本より高く設定している(すなわち、この点については日本より緩い制度設計となっている)が、その代わり全ての利子を制限対象としている。総合的に見れば、国内への支払利子を損金算入制限の対象外とした日本の方が緩い制度になっている。この結果、損金算入制限を受ける日本企業はかなり限定されることになりそうだ。借入金の多い日本企業にとっては一安心と言えよう。

2018/12/10 受取配当の益金不算入制度から見た政策株保有のデメリット

2018年6月に実施されたコーポレートガバナンス・コードの改訂により、本則市場(東証一部、二部)に上場する企業は、政策保有株式を保有する場合、毎年下記の対応が求められることとなったのは周知のとおり(改訂後のコーポレートガバナンス・コード原則1-4)。
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ここで改めて考えてみたいのが「保有に伴う便益」だ。「保有に伴う便益」として真っ先に思いつくのは・・・

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2018/12/10 受取配当の益金不算入制度から見た政策株保有のデメリット(会員限定)

2018年6月に実施されたコーポレートガバナンス・コードの改訂により、本則市場(東証一部、二部)に上場する企業は、政策保有株式を保有する場合、毎年下記の対応が求められることとなったのは周知のとおり(改訂後のコーポレートガバナンス・コード原則1-4)。
40809a

ここで改めて考えてみたいのが「保有に伴う便益」だ。「保有に伴う便益」として真っ先に思いつくのは配当だが、配当額の全額が「保有に伴う便益」とは言えないケースもある。これは、配当に対しては法人税等(法人税、法人住民税、事業税)が課されるケースもあるため。したがって、配当について「保有に伴う便益」を検討する場合には、法人税等を加味した額を前提にする必要がある。

下表(下表は簡素化したものであり、正確な益金不算入割合はこちらを参照)のとおり、配当に対する法人税の額は、配当を受け取る法人が配当を支払う法人の株式をどの程度保有しているかによって異なり、3分の1超の株式を保有している場合には、法人税が全くかからない。いずれにせよ、最低でも配当の20%には法人税がかからないことになる。これは「受取配当益金不算入制度」と呼ばれる仕組みであり、二重課税の防止を目的としている。配当は法人税等が課税された後の「当期純利益」の中から支払われるため、配当を受け取る側で当該配当額に対して法人税等が課税されるとすると、同一の利益について「配当を支払う法人」と「配当を受け取る法人」で二重に課税が行われることになる。そこで、配当を受け取る側が当該配当を法人税の計算上益金に入れなくてもよい(すなわち税金がかからない)こととしている。

持株比率 益金不算入割合
3分の1超 100%
3分の1以下 50%
5%以下 20%

上の表のとおり、持株比率が5%以下であれば益金不算入割合は20%となり、配当額のうち80%は課税されることになり、持株比率が「5%超3分の1以下」である場合には、同様にして50%が課税されることになる。これは、政策保有株式を保有する企業から配当があった場合、税金も考慮すると投資家への実質的な配当額は目減りすることを意味する。具体例でみてみよう。上場企業A社の配当が、A社の発行済株式の5%未満を政策保有する上場企業B社を経由して投資家に支払われた場合、A社が直接投資家に配当を支払った場合と比較してどの程度配当が目減りするかを示したのが下図だ(「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(第16回)の資料3参考資料の18ページを参考に作成)。

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A社から投資家に直接配当が支払われる場合(上図左側)には、投資家は70の配当を受け取ることができるが、B社が間に入る場合(上図右側)では、投資家への配当は53.2に減少する。すなわち、右側のケースではB社がA社と投資家との間に割り込んだ結果、余計な法人税等(16.8)が掛かり、投資家への配当が目減りしているということになる。

B社がA社の株式を保有することで、投資家(ここでいう投資家は機関投資家など特定の投資家ではなく、投資家全体を指す)がA社から受け取る配当が目減りするとなれば、投資家としてはB社に対して「余計なこと(A社の株式の保有)はしてくれるな」と言いたくもなる。これが、投資先が政策保有株式を保有することに機関投資家が反対する理由の一つになっている。

「保有に伴う便益」について検討する際には、こうした投資家の立場も考慮に入れると、投資家との対話における両者の認識のズレの解消にも役立つはずだ。

2018/12/07 【特集】MD&Aにおける「資本の財源及び資金の流動性」の開示事例(3・会員限定)

⑤ 信用格付け
どこの格付け機関からどのようなグレードの格付けを取得しているのかを、格付けの取得目的とあわせて記載します。

【参考事例】
三井物産 当社は、円滑な資金調達を行うため株式会社格付投資情報センター(R&I)、ムーディーズ・ジャパン株式会社(Moody‘s)、スタンダード&プアーズ・レーティング・ジャパン株式会社(S&P)の3社から格付けを取得しています。(表は省略)
三菱商事 当社ではグローバルな資金調達とビジネスを円滑に行うため、格付投資情報センター(R&I)、ムーディーズ・インベスターズ・サービス(ムーディーズ)、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)の3社から格付けを取得しています。3社の平成30年5月時点の当社に対する格付け(長期/短期)は、R&IがAA-/a-1+(見通し安定的)、ムーディーズがA2/P-1(見通しネガティブ)、S&PがA/A-1(見通し安定的)となっています。

⑥ 流動性の状況
流動性や現金同等物の内容について定義した上で、金融機関と締結している契約の内容などを示すことで、債務額と流動性のバランスが見えるように記載します。

【参考事例】
三井物産 当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、1兆1,314億円となりました。この現金及び現金同等物の半分程度は円建てであり、当連結会計年度末の短期債務(2,016億円)と1年以内に返済予定の長期債務(4,826億円)の返済に必要な流動性を十分に満たしていると認識しています。
リクルートHD 当社グループは、流動性を確保し、運転資金の効率的な調達を行うため金融機関4社と当座貸越契約を締結しています。なお、当連結会計年度末における当座貸越極度額の合計は1,130億円であり、当該契約に基づく借入実行残高はありません。
伊藤忠商事 当社グループは、調達環境の悪化等、不測の事態にも対応しうる流動性準備の確保に努めております。当連結会計年度末では、短期有利子負債と偶発負債の合計額7,011億円に対し、現金及び現金同等物、定期預金(合計4,591億円)、コミットメントライン契約の未使用枠(円貨2,000億円、外貨1,700百万米ドル)を合計した流動性準備の合計額は8,397億円となっており、十分な流動性準備を確保していると考えております。また、これに加えて、売却可能有価証券等短期間での現金化が可能な資産等を6,936億円保有しております。
ソニー ソニーは、事業活動に必要な流動性を保ちながら健全なバランスシートを維持することを財務の重要な目標と考えています。ソニーは、現金・預金及び現金同等物及びコミットメントラインの未使用額を合わせた金額を流動性として位置づけています。
流動性の保持に必要な資金は、営業活動及び投資活動よるキャッシュ・フローの合計及び現預金等でまかないますが、ソニーは必要に応じて金融・資本市場からの資金調達を行う能力も有しています。また金融・資本市場の流動性がなくなった場合でも、ソニーは現預金等及び金融機関とのコミットメントラインを使用することによって十分な流動性を維持することができると現時点では考えています

⑦ 有利子負債の状況
有利子負債の借入期間や金利、通貨の種類について、それぞれの割合を示しながら説明します。NET DER(ネット有利子負債対株主資本倍率)や借入金加重平均利率など各種比率を開示すると投資家にとって財務リスク等が分かりやすくなります。

ネット有利子負債対株主資本倍率 : 「現預金を控除した有利子負債」が「株主資本」の何倍にあたるのかを示す倍率。値が少ないほど安全となり、無借金経営の場合は0倍となる。
借入金加重平均利率 : 借入金ごとに異なる利率を借入金の残高でウェイト付けして加重平均した値

【参考事例】
伊藤忠商事 当連結会計年度末の有利子負債残高は、前連結会計年度末比1,652億円減少の2兆7,795億円となりました。現預金控除後のネット有利子負債は、前連結会計年度末比103億円減少の2兆3,204億円となりました。NET DER(ネット有利子負債対株主資本倍率)は、前連結会計年度末の0.97倍から0.87倍へ改善しました。また、有利子負債合計に占める長期有利子負債比率は、前連結会計年度末比ほぼ横ばいの81%となりました。
三菱商事 当連結会計年度末のグロス有利子負債残高は、前連結会計年度末から4,295億円減少し4兆9,544億円となり、このうち85%が長期資金となっております。有利子負債のうち、6,000億円はハイブリッドファイナンスであり、格付機関は残高の50%である3,000億円を資本と同等に扱っています。なお、当社単体のグロス有利子負債残高は3兆5,252億円であり、このうち長期資金は91%を占め、平均残存期間は約6年となっています。
オリックス 当連結会計年度末における長期借入債務は3,826,504百万円であり、借入債務の総額に占める割合(預金を除く)は前連結会計年度末の93%に対し当連結会計年度末は93%となっています。当連結会計年度末における長期借入債務の73%は金融機関からの借入となっています。
当連結会計年度末における長期借入債務の利払いのうち約48%は固定金利で、残りが主にTIBORおよびLIBORをベースとした変動金利となっています。
トヨタ自動車 当連結会計年度における借入債務合計は、1,918億円(1.0%)増加しました。トヨタの短期借入債務は、借入金加重平均利率2.14%と、加重平均利率1.65%のコマーシャル・ペーパーにより構成されています。当連結会計年度における短期借入債務は、前連結会計年度に比べて2,012億円(4.1%)増加し、5兆1,549億円となりました。トヨタの長期借入債務は、加重平均利率が0.94%から7.90%、返済期限が2018年から2046年の無担保の借入金、担保付きの借入金、ミディアム・ターム・ノート、無担保普通社債、担保付普通社債などにより構成されています。当連結会計年度の1年以内に返済予定の長期借入債務は1,041億円(2.4%)減少し、4兆1,862億円となり、返済期限が1年超の長期借入債務は947億円(1.0%)増加し、10兆63億円となりました。借入債務合計の増加は、主に融資残高の伸びに伴う資金需要の高まりによるものです。2018年3月31日現在で、長期借入債務の約48%は米ドル建て、約11%は円建て、約10%はユーロ建て、約9%は豪ドル建て、約6%は加ドル建て、約16%はその他の通貨によるものです。トヨタは、金利スワップを利用することにより固定金利のエクスポージャーをヘッジしています。トヨタの借入必要額に重要な季節的変動はありません

⑧ キャッシュ・フローの状況
キャッシュ・フローの基本的な傾向、当期実績、そして将来の見通しについて、キャッシュ・フロー対有利子負債比率インタレスト・カバレッジ・レシオなどの指標を示しながら説明すると、投資家にとって企業のキャッシュ創出能力と負債・利息との関係が分かりやすい開示となります。

キャッシュ・フロー対有利子負債比率 : 有利子負債を営業キャッシュ・フローで除した値。現状の営業キャッシュ・フローを前提とすると、有利子負債を返済するのに何年必要かが分かる指標。
インタレスト・カバレッジ・レシオ : 営業利益を支払利息で除した値。どの程度の余裕を持って支払利息を払っているのかが分かる指標。

【参考事例】
NTTドコモ 翌連結会計年度の見通し
翌連結会計年度の資金の源泉については、当連結会計年度におけるTata Sons Limitedからの仲裁裁定金の受領が無いことに加え、法人税等の現金支払額が増加することなどから、営業活動によるキャッシュ・フローは減少する見通しです。投資活動によるキャッシュ・フローについては、設備投資等により5,700億円と予想しています。
オリックス 当社のキャッシュ・フローは、主に以下の資金流出および資金流入からもたらされます。
営業キャッシュ・フローに区分される、棚卸資産の仕入および売上や、サービス収入および費用等に伴う資金の流出入
投資キャッシュ・フローに区分される、リース資産の購入およびファイナンス・リース投資の回収や、顧客 への営業貸付金の実行および元本返済等に伴う資金の流出入
財務キャッシュ・フローに区分される、長短借入債務の調達および返済や、預金の受入等に伴う資金の流出入
日本テレビHD 主要なキャッシュ・フロー指標の推移は下記のとおりであります。
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3.まとめ

以上のように、MD&Aについての開示内容は各社によってバリエーションがあり、正解があるわけではありませんが、他社の開示事例を参考に、自社の開示のあるべき姿を模索していくことは極めて有益です。

ただし注意したいのは、他社の開示を猿真似するだけでは「経営者による」という要件を満たさない恐れがあるということです。「経営者が自分自身で判断した結果であること」という大原則から外れることなく、また「経営方針・経営戦略等の中長期的な目標と整合的である」かどうかを意識しながら、開示内容を検討するようにしましょう。

2018/12/07 【特集】MD&Aにおける「資本の財源及び資金の流動性」の開示事例(2・会員限定)

2.具体的な開示内容

① 資金調達・財務政策の基本方針
資金調達や財務政策に関する基本的な方針や、流動性マネジメントとの関連など、経営者の考え方を端的に記載している企業が多く見受けられます。

【参考事例】
三井物産 当社の経営者は、円滑な事業活動に必要なレベルの流動性の確保と財務の健全性・安定性維持を資金調達の基本方針としており、主として本邦生保、銀行等からの長期借入金や社債の発行等により10年程度の長期資金を中心とした資金調達を行っています。同時に、長期資金の年度別償還額の集中を避けることで借り換えリスクの低減を図っています。さらに、プロジェクト案件等では政府系金融機関からの借入やプロジェクトファイナンスも活用しています。
小松製作所 当社グループは、将来の事業活動に必要な資金を確保し、適切な流動性を維持することを財務の基本方針としている。
リクルートHD 当社グループは、借入による資金調達を有効に活用しつつ、国内格付機関による格付を意識した財務の健全性を維持することを財務方針としています。更に、資本効率の目安として、投資案件については厳格な基準を設けるとともに、ROEで15%の水準を目安に設定しています。
NTT NTTグループは、営業活動によって得られるキャッシュ・フロー、銀行やその他の金融機関からの借入金、あるいは、資本市場における株式や債券の発行により、将来にわたって現在予測される設備投資とその他の支出や負債の支払に必要な財源が確保できると確信しております
三菱商事 当社では事業活動を支える資金調達に際して、低コストでかつ安定的に資金が確保できることを目標として取り組んでいます。資金調達にあたっては、コマーシャル・ペーパーや社債等の直接金融と銀行借入等の間接金融とを機動的に選択・活用しており、その時々でのマーケット状況での有利手段を追求しています。当社は資本市場でのレピュテーションも高く、加えて間接金融についても、メガバンク以外に外銀・生保・地銀等の金融機関とも幅広く好関係を維持しており、調達コストは競争力のあるものとなっています。今後とも長期資金を中心とした資金調達を継続すると共に、十分な流動性の確保を行っていく方針です。

② グループファイナンスに係る方針
連結会社グループが参加するキャッシュマネジメントシステムの存在や海外子会社に対する支援内容など、グループ内の資金調達・供給・管理方法について記載することが考えられます。

【参考事例】
小松製作所 当社グループの資金の効率性を高めるため、海外子会社を含めたグループ間のキャッシュマネジメントシステム(グローバル・キャッシュ・プーリング、以下、「GCP」)特定の金融機関と構築しており、特定の金融機関に対する預入総額を上限にGCP参加会社は借入を行っている。当GCPにおいては、預入金及び借入金の残高を相殺できる条項が含まれており、当連結会計年度末現在の相殺金額は244,289百万円となっている。
日本テレビHD 当社グループは、CMS(キャッシュマネージメントサービス)を導入し、グループ内資金を一元的に管理しております。
オリックス オリックスグループ全体の資金調達においては、当社が主導的な役割を担い、子会社への資金配分を管理しています。主な国内子会社(略)へは、キャッシュマネジメントシステムを活用し、資金の供給および吸収を行い、効率的な資金管理を行っています。
海外子会社は主に金融機関からの借入や社債発行などの現地での調達を推進する一方、親子ローンも活用しています。また、当社は、海外子会社が単独で利用可能なコミットメントライン枠の設定や、当社のコミットメントライン枠を海外子会社にも利用可能にすることで、海外子会社の資金調達を支援しています。
三菱商事 連結ベースでの資金管理体制については、当社を中心に国内外の金融子会社、海外現地法人等において集中して資金調達を行い、子会社へ資金供給するというグループファイナンス方針を原則としています。
伊藤忠商事 国内子会社の資金調達については原則として親会社及び国内グループ金融統括会社からのグループファイナンスに一元化するとともに、海外子会社の資金調達についてもシンガポール、英国及び米国の海外グループ金融統括会社を拠点にグループファイナンスを行っております。

③ 資金需要
資金需要については、「営業活動」と「投資活動」に分けて説明します。金額を記載すると、投資家は資金需要の度合いについてより具体的にイメージしやすくなります。また、事業計画と整合しているかどうかも確認しておく必要があります。さらに、契約上履行義務のある債務についても記載することが望ましいと言えます。

【参考事例】
三菱重工 当社グループの資金需要は、営業活動については、生産活動に必要な運転資金、(略)が主な内容である。投資活動については、事業伸長・生産性向上及び新規事業立上げを目的とした設備投資並びに事業遂行に関連した投資有価証券の取得が主な内容である。
今後、成長分野に対しては必要な設備投資や研究開発投資、投資有価証券の取得等を継続していく予定である。全体的には、将来見込まれる成長分野での資金需要も見据え、最新の市場環境や受注動向も勘案し、資産の圧縮及び投資案件の選別を行っていく予定である。
NTT 翌連結会計年度は、地域通信事業において設備整備の効率化により投資が減少することに加え、移動通信事業において基地局構築の効率化により投資が減少する一方で、長距離・国際通信事業においてデータセンター構築及び海外子会社の連結拡大により投資が増加すること等により、発生主義に基づく設備投資額を1兆7,000億円と見込んでおります。その内訳は、地域通信事業が5,450億円、移動通信事業5,700億円等となっております。
契約上の債務
下記の表は、2018年3月31日現在におけるNTTグループの契約上の債務をまとめたものであります。
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NTTドコモ 翌連結会計年度の資金需要として、端末機器販売にかかわる販売代理店への立替払い、ネットワークの拡充資金及びその他新たな設備への投資資金、有利子負債及びその他の契約債務に対する支払のための資金、新規事業や企業買収、合弁事業などの事業機会に必要な資金が挙げられます。
任天堂 当社グループの運転資金需要のうち主なものは、製造のための材料及び部品の購入費、広告宣伝費や研究開発費のほか、配当金や法人税等の支払いです。このほか、会社の成長に必要な設備投資等を含め、全てを自己資金でまかなうことを原則としています。

④ 資金の源泉・資金調達手段
資金の源泉としては、営業キャッシュ・フローはもちろんのこと、下表の参考事例にあるように、期間やコスト、機動性といった観点を踏まえた直接金融・間接金融の選択方針などを記載します。既調達額や目標調達額も明示しておくと、投資家は資金調達の規模感と調達手段の適正性について検証しやすくなります。

【参考事例】
三井物産 当社は、(略) 、直接金融または間接金融の多様な手段の中から、その時々の市場環境も考慮したうえで当社にとって有利な手段機動的に選択し、資金調達を行っています。
当社は、内外金融機関との間で長期間に亘って築き上げてきた幅広く良好な関係に基づき、長期借入を中心に必要資金を調達しています。
NTTドコモ 当社グループは、現時点で見込んでいる設備投資や債務返済負担などの必要額を営業活動によるキャッシュ・フロー、銀行等金融機関からの借入、債券や株式の発行による資本市場からの資金調達により確保できると考えています。当社グループは、安定的な業績強固な財務体質により高い信用力を維持し、十分な調達能力を確保しているものと考えています。
リクルートHD 当社グループの運転資金及び投資資金については、まず営業活動によるキャッシュ・フローで獲得した資金を充当することを基本としていますが、資金需要及び金利動向等の調達環境並びに既存の有利子負債の返済及び償還時期等を考慮の上、調達規模及び調達手段を適宜判断して外部資金調達を実施する場合があります。外部資金調達について、原則として短期の運転資金については、金融機関からの借入、コマーシャル・ペーパー又はその組み合わせ、中長期の運転資金については、金融機関からの借入、社債又はその組み合わせにより調達することとしています。なお、当社は、機動的な資金調達を可能とするため、2,000億円(当連結会計年度末における未使用枠1,500億円)を上限とする社債の発行登録を行っています。
伊藤忠商事 当社グループにおける資金の源泉に対する基本的な考え方は、新規投資の資金を、営業取引収入、資産の売却・回収、及び財務健全性を維持しながら借入金や社債等により調達することで賄うというものです。
なお、当社グループは、中期経営計画「Brand-new Deal 2017」期間においては、CITIC Limitedに対する大型戦略投資の実行を踏まえ、それ以外の新規投資については実質営業キャッシュ・フローEXITによるキャッシュインの範囲内で実行する方針としておりました。

⑤ 信用格付け(会員限定)

2018/12/07 【特集】MD&Aにおける「資本の財源及び資金の流動性」の開示事例

広野総合会計事務所 代表
公認会計士 広野 清志

1.改正の内容と趣旨

① 改正の内容

周知のとおり、2018年1月に施行された「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」(以下、開示府令)により、有価証券報告書における MD&A(Management’s Discussion and Analysis of Financial Condition and Results of Operations)の開示の充実が図られています。具体的には 2018年3月決算より従来の【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】に代わり、新たに【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】の開示が求められることとなったところです。項目名だけ見ると、従来の有価証券報告書の【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】の冒頭に「経営者による」という文言が追加されただけのように見えますが、その記載内容は従来とは大きく異なっています。

MD&A : 「経営陣による財政状態および経営成績の検討と分析」と訳される。日本の新しい有価証券報告書では【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】欄に記載する。

まず、従来は【業績等の概要】【生産、受注及び販売の状況】【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】として別々に開示されていた情報を一つに統合して記載することとされました。その上で、経営成績等の状況を分析・検討した結果の記載を充実させる観点から、「事業全体」及び「セグメント別」の経営成績等に重要な影響を与えた要因等について、“経営者の視点”による認識と分析などの開示が求められています(MD&Aに関する記載事項の改正の詳細や「経営者の視点」の意味するところは、2018年4月23日のニュース『具体例で見る「MD&Aに書くべきこと」』を参照)。

また、従来は“例示扱い”だった「資本の財源及び資金の流動性」が、本改正により、“要記載事項”に格上げされました。「資本の財源及び資金の流動性」に関する改正前後の開示府令は下表のとおりです。

【「資本の財源及び資金の流動性」に関する内閣府令の改正箇所】※赤字部分が改正箇所
改正後 改正前
経営成績等の状況に関して、事業全体及びセグメント情報に記載された区分ごとに、経営者の視点による認識及び分析・検討内容(例えば、経営成績に重要な影響を与える要因についての分析)を記載すること。また、資本の財源及び資金の流動性に係る情報についても記載すること。なお、経営方針・経営戦略等又は経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等がある場合には、当該経営方針・経営戦略等又は当該指標等に照らして、経営者が経営成績等をどのように分析・検討しているかを記載するなど、具体的に、かつ、分かりやすく記載すること。 届出書に記載した事業の状況、経理の状況等に関して投資者が適正な判断を行うことができるよう、提出会社の代表者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する分析・検討内容(例えば、経営成績に重要な影響を与える要因についての分析、資本の財源及び資金の流動性に係る情報)を具体的に、かつ、分かりやすく記載すること。

② 改正の趣旨

従来、キャッシュ・フローの状況に関する分析・検討内容については、単にキャッシュ・フロー計算書を要約して文章化する企業がほとんどで、投資家からは「キャッシュ・フロー計算書を要約して文章にしたところで情報としての価値はない」といった厳しい意見も聞かれたところです。こうした意見を踏まえ規制当局である金融庁は、「資本の財源及び資金の流動性に係る情報」の記載に際しては「単にキャッシュ・フロー計算書の要約を文章化するのではなく、経営内容に即した具体的な記載が要求されている」との考え方を示しています。

【パブリックコメントに対する金融庁の考え方】
「資本の財源及び資金の流動性に係る情報」の開示は、投資者が投資判断を行う上で重要な情報であることから、これまでも、分析・検討内容の例として示しておりましたが、現在の開示の状況については、単にキャッシュ・フロー計算書の要約を文章化したものの記載がなされるにとどまり、本来求められる開示が行われていない例が多いとの指摘があります。このため、「MD&A」で本来求められる開示内容をより充実させる観点から、「資本の財源及び資金の流動性に係る情報」について、記載を求めることとしたものです。
改正の趣旨を踏まえ、記載に当たっては、単にキャッシュ・フロー計算書の要約を文章化したものを記載するだけではなく、企業の経営内容に即して、例えば、重要な資本的支出の予定及びその資金の調達源は何であるかなどについて、具体的に記載することが期待されます。

もっとも、いざ「資本の財源及び資金の流動性に係る情報」を実際に書く段になると、「何を」「どのように」書けば金融庁が求める“具体的な記載”になるのか悩む向きも少なくないのではないでしょうか。そこで本稿では、「資本の財源及び資金の流動性に係る情報」について“具体的な記載”を行っていると考えられる上場企業の開示実例を紹介します。自社の開示内容と比較することで、改善すべき点や追加記載すべき点などが見つかることでしょう(「資本の財源及び資金の流動性に係る情報」の記載内容については、2018年2月5日のニュース『改正後の「資本の財源及び資金の流動性」には何を書く?』、2018年8月24日のニュース『MD&A「資本の財源および資金の流動性」開示のベストプラクティス』も参照)。

2.具体的な開示内容

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2018/12/06 ESGはなぜ企業価値を高めるのか

産業能率大学 経営学部 教授
光定 洋介

ESGに対する社会的な関心が高まる一方(例えば、2017年において日本経済新聞に掲載されたESG関連の記事は137本だったが、2018年は既に約200本に上っている)、ESGが企業価値向上につながるということに対し懐疑的な経営者も少なからずいる。そこで本稿では、ESGがいかにして企業価値向上につながるのということを「理論的」に解明してみたい。

ESG : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。

投資家が企業のESG活動に期待しているのは、・・・

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2018/12/06 ESGはなぜ企業価値を高めるのか(会員限定)

産業能率大学 経営学部 教授
光定 洋介

ESGに対する社会的な関心が高まる一方(例えば、2017年において日本経済新聞に掲載されたESG関連の記事は137本だったが、2018年は既に約200本に上っている)、ESGが企業価値向上につながるということに対し懐疑的な経営者も少なからずいる。そこで本稿では、ESGがいかにして企業価値向上につながるのということを「理論的」に解明してみたい。

ESG : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。

投資家が企業のESG活動に期待しているのは、それが最終的に中長期的な企業価値の向上(株式リターンの増大及び下振れの抑制を含む)につながることに他ならない。具体的には、(1)売上の維持・拡大による業績向上、(2)ESG指数(インデックス)に入ることによる需給改善、(3)割引率の低下、(4)経済・市場全体のリスク回避—の4つが考えられる。以下、順番に解説していく。

(1)売上の維持・拡大による業績向上
欧米ではBtoB取引において、ESGへの取り組みが不十分な供給元からの調達を減らす動きがある。特に欧州では経営上ESGを重視する企業が多く、こうした企業ほどESGを考慮した調達を行う傾向が強い。結果として、自社にESG上の問題があると欧米の企業顧客が離れ、売上の減少につながるリスクがある。実際、欧米では、環境問題への取り組みが不十分な企業の製品の購買が敬遠され、売上が低下する事例も出てきている。

またESGへの取り組みが不十分な場合、BtoC取引においても消費者からの評価低下とその結果としての売上減少、企業ブランドの棄損へとつながるリスクがある。不正なソフトウェアを使って排出ガス規制をクリアしていた自動車メーカーが、仮にESGのうち「E(環境)」にもっとしっかり取り組んでいれば、このような事件を起こさずに済んだであろう。

逆に言うと、ESGに配慮した経営を行うことで売上の下振れを抑制・回避できるのみならず、むしろ拡大できる可能性がある。

(2)ESG指数(インデックス)に入ることによる需給改善
世界のESG投資資産残高は、2016年に22兆8,900億ドルに達し、その残高は年々増加している 。こうしたESG資金の一部が、ESG指数(ESG指数については、2018年10月9日のニュース「東証1部上場企業の8割がESG投資の対象に」参照)に採用された企業の株式を購入する可能性がある。その結果、投資家からすれば、株式の需給が改善し、投資リターンの増加につながる。

ESG投資 : ESGに優れた企業に投資すること

(3)割引率の低下
ESGが改善することによって、例えば環境規制が導入され規制コストが上昇したり、これまで使っていたサプライチェーンが使えなくなったりすることなどによる企業の突然死(サドンデス)リスクを回避することができる。そうなれば、運用機関が企業価値算出に使っている割引率が低下し()、企業価値向上(=株式リターンの向上)につながる可能性がある(企業価値の評価方法については新用語・難解用語辞典「ディスカウント・キャッシュフロー(DCF)法」参照)。

 例えばコムジェスト・アセットマネジメントは雑誌のインタビューで、「ESGクオリティレベルが会社のバリュエーションモデルの割引率を決定する要素の一つになる」旨述べている。(出所:J―Money2017 Autumn「20年以上前からESG要素を取り入れクオリティグロース銘柄を選別」の2段落目参照)。

バリュエーションモデル : 企業価値評価の方法のこと

(4)経済・市場全体のリスク回避
巨額な年金基金を運用するアセットオーナー(いわゆるユニバーサルオーナー)は、その運用資産の大きさゆえに、投資先を中長期的な視点で幅広い資産や証券に分散したポートフォリオによる投資を行わざるを得ない。そうなると、そのポートフォリオの運用成績は経済全体の動きとリンクしたものとなってくる。ユニバーサルオーナーの立場から見れば、ESG投資は経済や市場全体に与える悪影響をあらかじめ回避し、ポートフォリオ全体の利益を守るための手段ということができる。

ESGの背景にある考え方は、企業や投資家が“地球人”として地球を未来に残す、すなわち、次世代に負担を押し付けない社会的な義務を果たそうというものである。この義務を果たすことが企業のビジネスをより長期的に継続させ、結果的として将来にわたりキャッシュフローを生み出すとともに、リスクプレミアム()を減少させて企業価値を高め、投資リターンの増大へと結びついていく。このように、投資家がESG投資を強化していることには明確な理由があり、多くの人が日々感じている気候変動の顕在化などに伴い、益々加速していくことなろう。

 リスク・テイクによる超過的な期待収益率のこと。超過的な期待収益率は、TOPIXなど株式市場全体を示す指数をベースに計算される。基本的には、TOPIXなどに基づく期待収益率(Rm=required market rate of return)とリスクフリー・レート(RFR)の差が株式投資に伴うリスクに対する「超過的な期待収益率」となる。ただし、株価がTOPIXと同様の動きをする企業もあれば、TOPIXと乖離しているところもある。そこで、各企業の「超過的な期待収益率」は、当該企業の株価のTOPIXなどに対する“感応度”を考慮して調整する必要がある。この感応度のことを専門用語で「ベータ(β)」という。βは、株式市場全体の動きに対して大きく反応する場合には高く、あまり大きく反応しない場合には低くなる。これを算式で表すと以下の通りとなる。→リスク・テイクによる超過的な期待収益率=β ×(Rm-RFR)

2018/12/05 「非財務情報」はどうやって測定する?(会員限定)

非財務情報に対する投資家の関心の高まりとともに、多くの上場企業が非財務情報の開示に努めているが、企業、投資家双方にとって悩ましいのが、定量化の難しさだろう。例えば「人材が当社の強みです」と言ったところで、何をもって「強み」と言えるのか、根拠がなければ説得力に欠ける。

こうした中、欧米では、運用機関や有名企業などが参加し、企業を評価するうえで有用な非財務情報項目やその測定手法を検討する取り組みが広がっている。この取り組みは「EPICEmbankment Project for Inclusive Capitalism」と呼ばれ、ブラックロックやアムンディなどの運用機関、保険会社のアリアンツなど預り資産残高で世界トップ10に入る機関投資家やユニリーバ、ジョンソン&ジョンソンといった大手有名企業が参加している。

Embankment : 「堤防」などの意味がある
Inclusive Capitalism : 包摂的資本主義

先月(2018年11月)16日、EPICは定量化が困難とされる非財務情報の測定・開示に関する報告書を公表しているが、報告書の中で「最も重要な非財務情報」とされたのが、「人材」「イノベーション」「顧客との関係構築」「社会・環境」「ガバナンス」といった項目だ。いずれも定量化が困難な項目と言えるが、報告書ではこれらの測定方法や開示すべき事項を例示している。

項目 測定方法・開示の例
人材 ・退職者全体に占める自己都合退職者の割合
・「自身の業務の組織目標達成への貢献度は明確か」「業務パフォーマンス向上に資するフィードバックをタイムリーに受けているか」等のアンケートを実施
イノベーション ・売上高に占める研究開発費の投資割合
・売上高全体に占める新商品の予想売上高が占める割合
顧客との関係構築 自社商品・サービスが及ぼす消費者の健康への影響に関するアンケート(消費者の健康やQOL(クオリティ・オブ・ライフ)への影響等)を実施
社会・環境 国連の持続可能な開発目標(SDGs)をフレームワークとして活用し、各社の戦略との関連性や、SDGsへの貢献に向けた取り組みの詳細を開示
ガバナンス 取締役としての適格性を評価するため、
・各取締役のスキル・経験を開示
・各取締役が「過年度において、どの自社戦略を達成してきたか」等についてアンケートを実施

SDGs : 「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、「エスディージーズ」と読む。「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる世界共通の目標であり、17の目標と169のターゲットからなる。2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択され、2016年から2030年までの15年間での達成を目指している。

財務的な影響をもたらす項目に絞って「ESG情報開示基準」を策定する動きもあるが(2018年11月8日のニュース「既に投資家が活用 米国SASBが業種別ESG開示基準の正式版を公表」参照)、財務的な影響を見極めることが困難な項目については、上の表にあるように「アンケート」を活用することで、少なくとも定量化を図ることはできるうえ、それが開示内容の“根拠”となり得る。

EPICは今後、長期的価値を生み出す企業活動と資産を捕捉する手法などを検討していくとしており、未参加の投資家や企業に対しても参加を呼び掛けていく方針。非財務情報の開示に力を入れる日本企業は参加を検討してもよいだろう。