2018年6月14日のニュース『社長含む「社内取締役」の能力を開示する企業が出現』では、2018年6月総会の招集通知では、少なくとも武蔵精密工業とイビデンの2社が「社内取締役」を含む全取締役のスキル・能力を開示した旨をお伝えしたところだが、その後、一橋大学商学部・大学院商学研究科の円谷昭一 准教授の調査により、他にも招集通知で全取締役について同様の開示した上場企業が・・・
このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。
2018年6月14日のニュース『社長含む「社内取締役」の能力を開示する企業が出現』では、2018年6月総会の招集通知では、少なくとも武蔵精密工業とイビデンの2社が「社内取締役」を含む全取締役のスキル・能力を開示した旨をお伝えしたところだが、その後、一橋大学商学部・大学院商学研究科の円谷昭一 准教授の調査により、他にも招集通知で全取締役について同様の開示した上場企業が・・・
このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。
2018年6月14日のニュース『社長含む「社内取締役」の能力を開示する企業が出現』では、2018年6月総会の招集通知では、少なくとも武蔵精密工業とイビデンの2社が「社内取締役」を含む全取締役のスキル・能力を開示した旨をお伝えしたところだが、その後、一橋大学商学部・大学院商学研究科の円谷昭一 准教授の調査により、他にも招集通知で全取締役について同様の開示した上場企業が3社あることが確認された。
この取締役のスキル・能力開示は、縦軸に各取締役の氏名、横軸にスキル・能力を分野別に並べ、各取締役がスキル・能力を有する分野に丸印をつけるといった形式をとることが多いため、「スキル・マトリクス」と呼ばれる。例えば米国ではダウ平均に採用されている30社はもちろん、多くの上場企業がスキル・マトリクスを開示しているが、日本企業では、社外取締役に限定したスキル・マトリクスの開示が2017年から見られたものの、全取締役(社内および社外)を対象としたスキル・マトリクスを開示する上場企業が出現したのは2018年からとなっている。その意味で2018年は‟スキル・マトリックス元年”と言える。
ダウ平均 : 「ダウ工業株30種」「ニューヨーク・ダウ」などとも呼ばれる米国を代表する株価指数。「30種」という名称が示すように、米国経済を代表する30銘柄で構成されている。
新たに招集通知でのスキル・マトリクスの開示が確認されたのは、ミツウロコグループホールディングス、アネスト岩田、ヤマハ発動機の3社である。
ミツウロコグループホールディングスは、「当社が取締役候補者に対して特に期待する分野」として「企業経営 経営戦略」「財務・会計 資本政策」「人事・人材開発」「法務 リスク管理」「監査」「内部統制・ガバナンス」「社会」「環境」の8つの分野を挙げ、このうち「企業経営 経営戦略」「法務 リスク管理」「内部統制・ガバナンス」「社会」の4分野については、取締役候補者全員に対し「特に期待する分野」として「●」印を入れている(同社の2018年3月期定時株主総会招集通知の39ページ参照。39ページには各取締役候補者の氏名が入っていないが、38ページに記載された取締役候補の並び順になっている)。
アネスト岩田では、株主総会招集通知の冒頭近くに「議決権行使にあたってのポイント説明」というコーナーを設け、「第3号議案 取締役(監査等委員である取締役を除く)6名選任の件」「第4号議案 監査等委員である取締役4名選任の件」のポイントとして、スキル・マトリクスを開示している。監査等委員会設置会社である同社は、スキル・マトリクスの縦軸を「取締役」と「監査等委員である取締役」に分け、横軸に「経営全般」として「企業経営」「海外企業経営」「会計監査」「監査役等」、「専門性」として「技術 製造」「販売 物流」「財務」「金融法務」を置いている。横軸に全て「〇」が入った取締役候補者はいないが、各取締役の得意分野を合わせれば横軸全てが埋まる形となっている(同社の2018年3月期定時株主総会招集通知の5ページ参照)。そもそも取締役に求められるスキルは各取締役のバックグラウンドによって異なるため、一人が“スーパーマン”である必要はなく、取締役会全体で必要なスキル・能力がパッケージとしてあればよい。この点は米国企業などでも同じであり、そこにスキル・マトリックスを開示する意義があると言えよう。
12月決算であるヤマハ発動機は、各議案の説明の後に、「(ご参考)」として、各取締役の社内・社外の区分および社内取締役については管掌分野を示したうえで、「企業経営・専門的知見」「製造・技術・研究開発」「営業・マーケティング」「財務・ファイナンス・M&A・IT」「ガバナンス・リスクマネジメント・人事」「グローバル経験」のどの分野において各取締役が強みを有しているのかを明示している(監査役については記載なし)。このうち「グローバル経験」には全ての取締役に「●」がついており、同社がグローバル経験を重視していることがうかがえる(同社の2017年12月期定時株主総会招集通知の20ページ参照)。
なお、社外取締役に限定してスキル・マトリクスを招集通知で開示している上場企業としては、荏原製作所、三菱UFJフィナンシャル・グループ、日本取引所グループがある。
また、統合報告書でスキル・マトリクスを開示している企業もある。新生銀行は統合報告書の「新生銀行グループの基盤」の中に「役員一覧」という項目を設け、同社の取締役、監査役を紹介するとともに、社内・社外の取締役・監査役ごとにスキル・マトリクスを開示している(同社の統合報告書の50ページ、51ページ参照)。ダイフクも統合報告書の中で社内・社外取締役のスキル・マトリクスを開示しているが(監査役については記載なし)、同社の場合、「コーポレートガバナンス」という項目の中で「取締役の多様性マトリクス」というタイトルを付けている点に特徴がある。周知のとおり、コーポレートガバナンス・コード【原則4-11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】では、取締役会が「その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、ジェンダーや国際性の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成される」ことを求めている。同原則の存在を踏まえれば、スキル・マトリックスを「コーポレートガバナンス」という項目の中に入れることにも合理性があろう。
スキル・マトリクスを招集通知に記載したくても、同通知は法定開示資料であるがゆえ、社内方針等によりそれができないという上場企業も少なくないと思われる。こうした企業は、新生銀行やダイフクのように統合報告書で開示することも一考だろう。
あるオーナー系の上場企業のIR担当者は、「ウチではスキル・マトリクスは絶対に開示できない」と打ち明ける。社長の丸印の数が他の取締役に比べて見劣りするような事態を恐れているのだという。とはいえ、上述のとおり米国企業ではダウ平均に採用されている30社はもちろん、多くの上場企業がスキル・マトリクスを開示しており、もはやスキルマトリクスの開示はグローバルな潮流となっている。スキル・マトリクスの開示には、項目の選択を含めそれなりの社内調整が必要になると思われるが、グローバルな開示に目が慣れている外国人投資家対策という意味でも、日本企業においても開示が広がることを期待したい。
不祥事を起こした会社では、不祥事の原因を調査するための第三者委員会を設置するケースが少なくないが、第三者委員会から必ずと言っていいほど指摘されるのが「内部通報制度の機能不全」だ。裏を返せば、そこには「内部通報制度が正しく機能していれば不祥事を未然に防げた(あるいは早期に発見できた)はず」という問題意識がある。
コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)原則2-5は上場会社に対し「内部通報に係る適切な体制整備を行うべき」としており、さらに補充原則2-5①はより具体的に「経営陣から独立した窓口の設置」「情報提供者の秘匿と不利益取扱の禁止に関する規律の整備」を求めている。
| 【原則2-5.内部通報】 上場会社は、その従業員等が、不利益を被る危険を懸念することなく、違法または不適切な行為・情報開示に関する情報や真摯な疑念を伝えることができるよう、また、伝えられた情報や疑念が客観的に検証され適切に活用されるよう、内部通報に係る適切な体制整備を行うべきである。取締役会は、こうした体制整備を実現する責務を負うとともに、その運用状況を監督すべきである。 補充原則2-5① |
原則2-5のコンプライ率は99%、補充原則2-5①のコンプライ率は97%といずれも高率となっているが(東京証券取引所がまとめた「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況の集計結果」(2017年7月14日時点)の3ページを参照)、この数字は単なる「内部通報制度を整備済みの上場会社」の割合に過ぎない。仮に上述のとおり第三者委員会が指摘するような「内部通報制度が機能不全を起こしていない上場会社」の割合を調査したとすれば、大幅にダウンするのは間違いない。ほとんどの上場会社でひとまず内部通報制度の導入が済んだ今、次の課題はいかにして「内部通報制度を機能させるか」ということになる。
不祥事を起こした各社の第三者委員会の調査報告書の多くで「内部通報制度が機能不全を起こした理由」として指摘されているのが、・・・
このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。
不祥事を起こした会社では、不祥事の原因を調査するための第三者委員会を設置するケースが少なくないが、第三者委員会から必ずと言っていいほど指摘されるのが「内部通報制度の機能不全」だ。裏を返せば、そこには「内部通報制度が正しく機能していれば不祥事を未然に防げた(あるいは早期に発見できた)はず」という問題意識がある。
コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)原則2-5は上場会社に対し「内部通報に係る適切な体制整備を行うべき」としており、さらに補充原則2-5①はより具体的に「経営陣から独立した窓口の設置」「情報提供者の秘匿と不利益取扱の禁止に関する規律の整備」を求めている。
| 【原則2-5.内部通報】 上場会社は、その従業員等が、不利益を被る危険を懸念することなく、違法または不適切な行為・情報開示に関する情報や真摯な疑念を伝えることができるよう、また、伝えられた情報や疑念が客観的に検証され適切に活用されるよう、内部通報に係る適切な体制整備を行うべきである。取締役会は、こうした体制整備を実現する責務を負うとともに、その運用状況を監督すべきである。 補充原則2-5① |
原則2-5のコンプライ率は99%、補充原則2-5①のコンプライ率は97%といずれも高率となっているが(東京証券取引所がまとめた「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況の集計結果」(2017年7月14日時点)の3ページを参照)、この数字は単なる「内部通報制度を整備済みの上場会社」の割合に過ぎない。仮に上述のとおり第三者委員会が指摘するような「内部通報制度が機能不全を起こしていない上場会社」の割合を調査したとすれば、大幅にダウンするのは間違いない。ほとんどの上場会社でひとまず内部通報制度の導入が済んだ今、次の課題はいかにして「内部通報制度を機能させるか」ということになる。
不祥事を起こした各社の第三者委員会の調査報告書の多くで「内部通報制度が機能不全を起こした理由」として指摘されているのが、「内部通報制度が周知されていない」という点だ。どんなに立派な制度を作ったところで、その存在を知る従業員が少なければ意味がない。組織の末端にまで、制度の存在はもちろん、内部通報のやり方、通報者を保護する仕組みなど制度の内容まで周知させてこそ、はじめて制度の存在意義が生まれる。そのためにはまず、制度の告知に知恵を絞る必要がある。社内報で告知する程度では不十分であり、社長メッセージ、社内研修、一斉メール、社内ポスターの掲示など様々な告知方法を実行したい。さらに、定期的にアンケートを実施して、告知効果を測定することも欠かせない。
なかには、内部通報制度が実際に機能しているかどうかを確認するため、“抜き打ちテスト”を実施している上場会社もある。具体的には、氏名はもちろん、所属部署や役職を隠して通報窓口に“架空の不正”を通報し、内部通報制度が設計通りに機能するかどうかを確認する。通報窓口や制度運営の責任者にもテストであることは知らせず、完全に抜き打ちで行うのがポイントだ。社内リソースが十分でない場合には、通報内容の事実確認の調査に入る前に調査担当者にテストであることを伝えるのも一案だが、「事実でなかった」という調査結果が報告されるまで種明かしをしない方が予行演習としての効果は高い。
また、取締役会や監査役会は、内部通報制度の利用状況について、担当者による定期的な報告の機会を設けるべきだ。ここでのポイントは「通報件数がゼロ件でも報告させること」である。上述のアンケート結果と併せて報告することで「制度が知られていないからゼロ件なのか」あるいは「制度は知られているがゼロ件なのか」を特定できる。経営陣や監査役は「制度は知られているがゼロ件」であっとしても安心してはならない。単に従業員が「通報者の保護が十分でない」と感じて通報に踏み切れていないだけかもしれないからだ。内部通報制度の件数やアンケート結果の分析結果が取締役会に報告されることにより、取締役会で社内リニエンシー制度を導入すべきかどうかなど内部通報制度の実効性を高めるための方策について議論が深まることが期待される。
社内リニエンシー制度 : 自主的に通報を行った者に対して処分等の減免等の特典を与えること。リニエンシー(leniencyには「寛大さ、慈悲」といった意味がある。
さらに、内部通報の通報件数と調査結果・顛末について、通報者が特定されないように留意しながら、従業員に定期的に報告することも重要となる。内部通報制度が機能しているという事実が、従業員による違法行為への抑止力になるからだ。
こうした施策を実施するうえでは、2016年12月9日に消費者庁から公表されている「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」が参考になる。本ガイドラインは内部通報制度の“スタンダード”であり、自社の制度がそこからかけ離れていれば機能不全を起こすリスクは高くなる。相変らず上場会社の不祥事が後を絶たない中、経営陣は担当者任せにすることなく、自社の内部通報制度が機能しているかどうかを再点検しておきたい。
周知のとおり、(2018年)6月1日から施行されている改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、改訂CGコード)原則4-8(独立社外取締役の有効な活用)が、3分の1以上の独立社外取締役を選任することを従来より慫慂する書きぶりに変更されたが、東証は「3分の1以上の独立社外取締役を選任していないからと言ってエクスプレインを求めるものではない」旨の見解を示している(改訂CGコードに寄せられたパブコメへの回答40ページ一番下の※、41ページ一番下の※参照)。とはいえ、議決権行使助言会社最大手のISSが2019年2月から「指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社において、取締役の3分の1が社外取締役でない場合には、経営トップ(社長および会長)の選任議案に反対する」との方針を示している(2017年10月30日のニュース「ISS 2018年日本向け助言ポリシーのポイント」参照)ことや、多くのグローバル機関投資家は「3分の1以上」を当然視しており、議決権行使基準において「3分の1未満の場合には経営トップの選任議案に反対する」旨を定めるケースも増えてきていることなどから(例えば、日本で約2,000社を投資対象とする米国ステートストリート・グローバル・アドバイザーズなど)、社外取締役の増員を図る上場企業は多い。
慫慂 : 勧めること
ただ、社外取締役の増加に伴い、・・・
このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。
周知のとおり、(2018年)6月1日から施行されている改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、改訂CGコード)原則4-8(独立社外取締役の有効な活用)が、3分の1以上の独立社外取締役を選任することを従来より慫慂する書きぶりに変更されたが、東証は「3分の1以上の独立社外取締役を選任していないからと言ってエクスプレインを求めるものではない」旨の見解を示している(改訂CGコードに寄せられたパブコメへの回答40ページ一番下の※、41ページ一番下の※参照)。とはいえ、議決権行使助言会社最大手のISSが2019年2月から「指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社において、取締役の3分の1が社外取締役でない場合には、経営トップ(社長および会長)の選任議案に反対する」との方針を示している(2017年10月30日のニュース「ISS 2018年日本向け助言ポリシーのポイント」参照)ことや、多くのグローバル機関投資家は「3分の1以上」を当然視しており、議決権行使基準において「3分の1未満の場合には経営トップの選任議案に反対する」旨を定めるケースも増えてきていることなどから(例えば、日本で約2,000社を投資対象とする米国ステートストリート・グローバル・アドバイザーズなど)、社外取締役の増員を図る上場企業は多い。
慫慂 : 勧めること
ただ、社外取締役の増加に伴い、企業から社外取締役に対する厳しい意見を聞く機会が増えた。経済産業省に設置されたコーポレート・ガバナンス・システム研究会(以下、CGS研究会)のアンケート(平成29年度)結果では、「社外取締役は期待する役割を果たせていると思うか」との質問に対し、48%(444社)の企業が「十分に果たしている」と回答し、49%(456社)の企業が「概ね果たしている」と回答しており(「平成29年度コーポレートガバナンスに関するアンケート調査」(第2期CGS研究会の第3回会合における配布資料の「参考資料2」(回答数:941社)アンケート調査結果の7ページの27番参照)、以前はむしろ“うるさ型”の社外取締役は企業から敬遠される傾向があった。しかし、最近は逆に「取締役会での発言が少ない」「自社に関する知識がなさすぎる」「取締役会で意見を求めたところ『分からない』と言われた」といった不満が経営陣の口をつくようになっている。社外取締役に対して1千万円程度の報酬を支払っている企業も珍しくない中、「会社にとって有益な意見や、普段(社内では)聞けない外部からの意見を言ってくれないのであれば、何のためにそんな高い報酬を払っているんだ」というのが社外取締役に対して不満を述べる経営陣の偽らざる本音と言える。また、取締役会の半数以上を社外取締役が占めるある金融機関の経営トップは「ウチの社外取締役は『リスクとれ』と言うけれども、そのわりに、いざ意思決定の投票をする際には非常に保守的だ」と指摘する。
このように一部の社外取締役に対して“逆風”が吹いている理由の一つとして考えられるのが、社外取締役に就任する人材の裾野が広がったということだ。より多くの母数の中から社外取締役に就任するようになれば、人材のクオリティ(知見、コミュニケーション能力など)にも幅が出るのは致し方ないところだろう。
もう一つは、“社外取締役枠”の既得権益化だ。
上記CGS研究会のアンケート(平成29年度)結果によれば、在任期間が4年を超える社外取締役がいる上場企業は473社あり、そのうち延べ100社の社外取締役の在任期間は10年を超える(上記アンケート調査結果の7ページの25番参照)。近年は、在任期間が長すぎる社外取締役や監査役(社内・社外)は独立性が薄れるということでその選任議案に反対票が投じられるケースが増えており(2017年11月13日のニュース「主要国内機関投資家による議決権行使結果 第二弾」参照)、例えば三井住友アセットマネジメントは議決権行使指針(ガイドライン)の中で「当該企業での社外役員累積在任期間が8年以上にわたる場合」は「『独立性の有る社外者』として認定しない ※合理的に独立性が説明できる場合を除く」ことを明記している(同社の「SMAMガイドライン」[1]国内株式 社外取締役選任)⑮参照)。ちなみに、米国企業における社外取締役の平均在任期間は約8年となっている。最近の機関投資家は公表されている議決権行使指針どおりに議決権を行使するケース多く、在任期間が長くなった社外取締役の選任議案に対しては相当数の反対票が投じられることが目に見えているため、企業は当該社外取締役には退任してもらい後任を探すことになるが、上場企業にとってこの後任探しが容易ではない。上記CGS研究会のアンケート(平成29年度)結果では、「社外取締役候補者について、誰から候補者の紹介を受けているか」との質問に対し、「社長・CEO・副社長」の44%(405社)に次ぐ26%(238社)の上場企業が「社外取締役」と回答している(上記アンケート調査結果の6ページの22番参照)。つまり、退任する社外取締役が自ら後任の社外取締役を企業に紹介しているというわけだ。
そうなると起こり得るのが、上述した“社外取締役枠”の既得権益化である。社外取締役を退任する者は自分の出身組織の後輩や“一門”から社外取締役候補を推薦することも多いだろう。こうして社外取締役枠が“縦の人間関係”の中で代々引き継がれていくことになる。新たに選任された社外取締役は、先輩等が作ってくれた“枠”を守る(次につなげる)ために保守的になり、取締役会に波乱を起こしかねない大胆な発言は控えるようになる。そして、このような保守的な姿勢が、当該社外取締役への不満へとつながっていく。
こうした事態を避けるためには、独立性のある社外取締役を発掘できる場を確保したり(例えば当フォーラムの交流会や社外役員データベースもその一助になると思われる)、社外取締役の選解任のルールを定めたりすることが有益だろう。改訂CGコードでは、「CEOを解任するための客観性・適時性・透明性ある手続」の確立を求める補充原則4-3③が新設されたほか、【原則3-1.情報開示の充実】(ⅳ)では、従来から求められていた経営陣幹部の「選任」の方針と手続のみならず、「解任」の方針と手続についても、主体的な情報発信を行うよう求めているが、上場企業としては、同様に社外取締役についても選解任のルールを設けることを検討したい。実際、2018年9月28日に経済産業省が公表した改訂版「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(改訂CGSガイドライン)でも「社外取締役の再任基準」の検討が奨励されている(2018年10月5日のニュース『改訂CGSガイドラインが求める社外取締役の「再任基準」』参照)。
機関投資家も社外取締役の活動には目を光らせている。例えば野村アセットマネジメントは「日本企業に対する議決権行使基準」の中で「直近期において、社外取締役が期待される役割を十分に果たさなかったことが明らかである場合には、その再任に原則として反対する。社外取締役に期待される役割とは、コーポレートガバナンス・コード原則4-7に記載されている内容を指す。」(1.取締役選任 (9)参照)との方針を示している。米国企業、特にダウ平均採用銘柄のような大企業は、取締役会議事録を含め取締役の活動内容が事細かに開示しており、例えば社外取締役が取締役会でどのような発言したのかが外部から一目瞭然の状態となっている。日本の上場企業で取締役会議事録を開示しているところはほとんどないが、仮に今後開示が広がれば、取締役会で何も発言しない社外取締役は自然に排除されることになろう。
ダウ平均 : 「ダウ工業株30種」「ニューヨーク・ダウ」などとも呼ばれる米国を代表する株価指数。「30種」という名称が示すように、米国経済を代表する30銘柄で構成されている。
「パブリックカンパニー」「社会の公器」とも言われる上場企業だが、上場企業の中にはオーナー色の強いところも多い。一口に“オーナー色”といっても、既に株式をほとんど保有していない創業家出身者が象徴的な存在として経営幹部に残っている企業もあれば、実際にオーナーが相当数の株式を保有している企業もある。
そして、後者のような企業には一つの傾向がある。もちろん全てがそうであるとは言えないが、・・・
このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。
「パブリックカンパニー」「社会の公器」とも言われる上場企業だが、上場企業の中にはオーナー色の強いところも多い。一口に“オーナー色”といっても、既に株式をほとんど保有していない創業家出身者が象徴的な存在として経営幹部に残っている企業もあれば、実際にオーナーが相当数の株式を保有している企業もある。
そして、後者のような企業には一つの傾向がある。もちろん全てがそうであるとは言えないが、「ガバナンス優良企業」「IR優良企業」などと称されるところが多いということだ。
これに対し、「ガバナンスやIRに力を入れるのはオーナー色をカモフラージュするため」などと評する声も聞かれるが、実は欧米等では「ファミリー企業」と呼ばれるオーナー系企業に対する印象は決して悪いものではない。というのも、複数の調査で、ファミリー企業の方がそうでない企業よりも利益率が高いという結果が出ており、それがほぼ定説となっているからだ。利益率が高い最大の要因として、経営陣(ファミリー出身者。以下同)が自らの評価を高めるために短期的な利益を追い求める必要がなく、中長期的な経営がやりやすいということがある。場合によっては10年、20年先を見据えて今のうちから種を撒くといった“超長期的”な経営も可能だ。さらに、ファミリー企業の経営陣は当然ながら会社へのオーナーシップが強いため、“潰れない経営”をする傾向がある。それは「リスクを取らない」という意味ではなく、「社運をかけた投資」といったことをあまりやらないということである。以上をまとめれば、中長期的な経営こそがファミリー企業の真髄であり、それが利益率の高さにつながっていると言えよう。欧米の自動車業界を例にとると、巨大企業に位置付けられるフォルクスワーゲンやフォードでさえファミリー企業である。
そして、ファミリー企業(オーナー系企業)がガバナンスやIRに力を入れるのは必然と言える。オーナー色が強いからこそ、社外取締役を増やしガバナンス改革に力を入れ、いわゆる“独裁”はしていないとうことを投資家などにアピールする必要があるからだ。
「オーナー系企業」「同族会社」というと若干ネガティブな響きがあるが、上述のとおり世界的に見れば、ファミリービジネスはその利益率の高さもあり、投資家にとっても決してネガティブなものではない。ただし、ガバナンスにしっかり取り組んでいるということがその前提となる。日本では、ガバナンスやIR優良企業のランキング上位にオーナー系企業がずらりと並ぶ一方、こうしたランキングの圏外となっているオーナー系企業も多く、ガバナンスやIRへの対応は二分されている。後者に属するオーナー系企業こそ最もガバナンス改革に取り組まなければならないはずであり、さもなければ、いずれ投資家にガバナンスの弱さを突かれることになろう。
米国カリフォルニア州は、同州に本社を置く上場企業に対し、2019年末までに女性取締役を最低1名、2021年末までに取締役会が5名以上の場合は2名以上、6名以上の場合は3名以上の選任を義務付ける法律を今年(2018年)10月に制定、女性役員の登用に力を入れ始めた日本企業にとって、米国の一州の話とはいえ、「法律」による選任義務化は大きな衝撃を与えたところだ。全米最大の人口とシリコンバレーを抱えるカリフォルニア州にはGoogle、アップル、Yahoo、Facebookなど影響力のあるIT企業も多く、同様の動きは他州、さらには国外へと広がる可能性がある。
もっとも、女性の社会進出が進んでいるイメージに反して、米国企業では経営層に占める女性の割合が高いわけではない。例えば・・・
このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。
米国カリフォルニア州は、同州に本社を置く上場企業に対し、2019年末までに女性取締役を最低1名、2021年末までに取締役会が5名以上の場合は2名以上、6名以上の場合は3名以上の選任を義務付ける法律を今年(2018年)10月に制定、女性役員の登用に力を入れ始めた日本企業にとって、米国の一州の話とはいえ、「法律」による選任義務化は大きな衝撃を与えたところだ。全米最大の人口とシリコンバレーを抱えるカリフォルニア州にはGoogle、アップル、Yahoo、Facebookなど影響力のあるIT企業も多く、同様の動きは他州、さらには国外へと広がる可能性がある。
もっとも、女性の社会進出が進んでいるイメージに反して、米国企業では経営層に占める女性の割合が高いわけではない。例えば2017年のFortune500社の取締役会における女性取締役の比率は22%と「5人に1人」程度」にとどまっており、かつ、この割合は2017年を含む過去5年間でほとんど変わっていない。つまり、近年、米国企業における女性取締役の登用には大きな進展が見られなかったということだ。
Fortune500 : 米国のビジネス雑誌Fortune(フォーチュン)が作成した「総収入」で全米上位500社の企業のリスト。年1回更新される。なお、リストには未上場企業も含まれる。
カリフォルニア州における「法律」による女性取締役の選任義務化はこのような米国企業の現状を大きく変えるきっかけになり得るが、その一方で、同法に対しては、「取締役会のメンバーは男女比率にかかわらず企業が決めるべき問題である」「男性の登用を妨げる」といった明確な反対意見のほか、「性別だけにこだわるのではなく、人種・信仰を含めたより広い意味でのダイバーシティが意識されるべきだ」といった批判的な意見も少なくない。
ただ、こうした意見があったとしても、企業にジェンダー・ダイバーシティを求める流れは益々加速するであろう。その理由としてまず挙げられるのが「世論」だ。セクハラ告発キャンペーン「#MeToo」運動が世界的な広がりを見せ、労働市場におけるジェンダー・ギャップ(男女格差)への関心は確実に高まっている。二つ目は投資家の変化だ。女性取締役の選任は、2003年に女性の取締役比率40%以上を義務付けたノルウェーに象徴されるように欧州が先行しており、これまで米国では目立った動きは見られなかった。しかし、ここ最近は上述した「#MeToo」運動やカリフォルニア州の法制化、また、昨年には米国の大手資産運用会社のステート・ストリートが女性取締役がいない投資先企業に登用を促す(2018年10月15日のニュース「女性役員(候補)いない企業の指名委員会の構成メンバー全員に反対票」を参照)など、米国でも変化が見え始めている。
そして、米企業の中にはこうした動きに先駆け、自ら積極的に女性の取締役登用を進める企業も出て来ている。大手保険会社のプリンシパルでは2018年の取締役会の女性比率が45%超(11人中5人)に達し、フォーブス誌の「女性が働きやすい会社ランキング2018」で第1位に選出されている。単に女性役員比率の高さのみならず、それを可能にする柔軟な就業時間の設定、会社敷地内に保育所を設置といった制度・インフラの整備、さらに女性社員をネットワーク化し、キャリアや職場環境などについて相談し合う場を設けるなど、ソフト面の取り組みも評価されたようだ。
一方、日本企業の現状を見ると、監査役等を含めても女性役員比率ゼロの企業がずらりと並ぶ(内閣府男女共同参画局のサイト「有価証券報告書に基づく上場企業の女性役員の状況(平成29年4月期~平成30年3月期決算)」を参照)。欧米の状況を見れば、「女性役員比率」は今後、上場企業の現経営陣が強く意識しなければならない指標になっていくのは間違いないだろう。