周知のとおり、法務省の法制審議会・会社法制(企業統治等関係)部会が現在検討中の「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案」(下記に抜粋)のとおり会社法が改正されると、上場会社(大会社に限る。以下同じ)における社外取締役の設置は会社法上の義務とされることになる(2018年10月24日に開催された第17回の同部会会議の部会資料26「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案(仮案)」の15ページ参照)。
大会社 : 負債200億円以上または資本金5億円以上の株式会社
金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないもの : 上場会社だけでなく、非上場会社でも過去に1億円以上の募集や売出しをして財務局に有価証券届出書を届け出たことがある会社も該当する。
このように社外取締役の設置が上場会社に義務付けられた場合、新たな問題が浮上する。それは、「社外取締役が不在のまま開催された取締役会の決議の効力」だ。
社外取締役不在の理由としては、「欠員」と「単なる欠席」が想定される。「欠員」の場合、会社法上設置が必要な社外取締役が存在しないということになるため、その状態で取締役会を開催して何かを決議しても、「取締役会が会社法の求める要件を満たしていなかった」として当該取締役会で行われた決議自体に瑕疵があるということになりかねない。このような事態を回避するために、後任の社外取締役を選任するべく臨時株主総会を開催しようにも、そもそも取締役会が会社法が求める要件を満たしていなければ、臨時株主総会の基準日や議案を決議するために必要な取締役会すら開催できない。
瑕疵 : 欠陥のこと
基準日 : その日において株主名簿に登載されている株主であれば株主総会に出席できる日のこと。臨時株主総会の基準日は任意に定めることができる。
もちろん、補欠の社外取締役がいれば、単に会社から就任を依頼して本人の承諾を得ることだけで欠員は解消されるが(補欠役員の就任にあたっては取締役会の決議は不要。詳細はケーススタディ【議案】「役員辞任により役員に欠員が出てしまった」の「正式な役員に就任するための方法と任期」を参照)、実は補欠の社外取締役がいる上場会社は少ない(平成29年度全株懇調査報告書によると1,655社中154社に過ぎない)。補欠の社外取締役がいない場合、まずは後任の社外取締役を選任するための取締役会を開催するために、裁判所に申し立てをして仮取締役を選任するといった大掛かりな話にも発展しかねない。
仮取締役 : 取締役が欠けた場合に、裁判所が利害関係人の申立てにより選任する「一時取締役の職務を行うべき者」(会社法346条2項等)。「仮取締役」として登記される。
また、社外取締役が取締役会にとって不可欠の存在であれば、取締役会を単に「欠席」しただけであっても同様の問題が生じ得る。取締役会にとって不可欠な社外取締役が取締役会を欠席して議論や決議に加わらないという点では、社外取締役が欠員となっている状態と何ら変わりがないからだ。
社外取締役の設置義務化は上記のような問題を生じさせ得ることから、会社法制(企業統治等関係)部会でも「単に1条その条文を加えるだけではなくて、いろいろと検討しなければいけない課題がある」ということが指摘されていた(2018年8月1日開催の法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会会議での加藤幹事の発言)。
同部会では最終的にはこの点について「会社法において社外取締役を置くことが義務付けられた場合であっても、社外取締役に欠員が生じたことが、直ちに取締役会決議の効力に影響すると考える必要はないと考えられる。当部会においても、仮に、上場会社等について社外取締役を置くことを義務付けたとしても、社外取締役は取締役会の構成員の一人であって、これを特別扱いして、社外取締役を欠くときに有効に取締役会の決議をすることができないとまで考える必要はない」と結論付けているものの、「直ちに」(ここでは「直接に」という意味と思われる)としているのは気になるところ。取締役会決議の効力への影響がゼロとまでは言い切れず、最終的には裁判所の判断に左右されねないからだ。
また、社外取締役に欠員が生じている状況は、アクティビストにとってみれば絶好のチャンスと言えるかもしれない。取締役会での議論に社外取締役が加わっていないことを問題視して、会社に揺さぶりをかけやすくなるからだ。現状、上場会社(大会社に限る)の約17%では社外取締役が一人しかいない(法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会第15回会議の参考資料48「東証上場会社における社外取締役の選任状況及び「社外取締役を置くことが相当でない理由」の傾向について」の5ページを参照)。社外取締役が一人しかいなければ、社外取締役の死亡、病気や突然の事故による辞任、さらには誤って会社の業務を執行したとして社外性を失うといった理由により社外取締役がゼロとなるということもあり得ない話ではない。社外取締役が一人しかいない上場会社はこうした事態に備え、社外取締役を複数名選任しておく、あるいは補欠社外取締役を選任しておくといった対策が必須となろう。