2018/11/05 速報 「コーポレート・ガバナンスの状況等」の記載内容が大幅改正へ

2018年6月28日に金融庁が公表した「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告-資本市場における好循環の実現に向けて-」(以下、DWG報告)では、「財務情報及び記述情報の充実」「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」「情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組」に向けて適切な制度整備を行うべきとの提言がなされたところだが(2018年6月27日のニュース「経営戦略や政策保有株式等、更なる拡充が求められる有報開示」参照)、当該提言を踏まえ、金融庁は11月2日、有価証券報告書等の記載事項についての改正案を公表した。記載内容の追加だけではなく、記載項目・内容の移動や整理も行われている。改正内容によって、「2019年3月期」の有価証券報告書等から適用されるものと「2020年3月期」の有価証券報告書等の記載から適用されるものに分かれるため注意が必要だ。改正案の概要は、DWG報告の提言ごとにそれぞれ以下のとおりとなっている。・・・

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2018/11/05 速報 「コーポレート・ガバナンスの状況等」の記載内容が大幅改正へ(会員限定)

2018年6月28日に金融庁が公表した「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告-資本市場における好循環の実現に向けて-」(以下、DWG報告)では、「財務情報及び記述情報の充実」「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」「情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組」に向けて適切な制度整備を行うべきとの提言がなされたところだが(2018年6月27日のニュース「経営戦略や政策保有株式等、更なる拡充が求められる有報開示」参照)、当該提言を踏まえ、金融庁は11月2日、有価証券報告書等の記載事項についての改正案を公表した。記載内容の追加だけではなく、記載項目・内容の移動や整理も行われている。改正内容によって、「2019年3月期」の有価証券報告書等から適用されるものと「2020年3月期」の有価証券報告書等の記載から適用されるものに分かれるため注意が必要だ。改正案の概要は、DWG報告の提言ごとにそれぞれ以下のとおりとなっている。

1.財務情報及び記述情報の充実

(a)【主要な経営指標等の推移】(ハイライト情報)において「株主総利回り」といった新たな経営指標が追加されたほか、株価の推移を記載することが求められる。
(b)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】における、経営方針・経営戦略等について、市場の状況、競争優位性、主要製品・サービス、顧客基盤等に関する経営者の認識の説明が求められる。
(c)【事業等のリスク】について、顕在化する可能性の程度や時期、リスクの事業へ与える影響の内容、リスクへの対応策の説明が求められる。
(d)【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】において、会計上の見積りや見積りに用いた仮定について、不確実性の内容やその変動により経営成績に生じる影響等に関する経営者の認識の記載が求められる。

下表に示したとおり、記載項目によっては他の記載項目と関連付けて記載することが求められる部分がある。

なお、上記(a)の内容は、2019年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用される。(b)から(d)の内容は、2020年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用されるが、早期適用が可能となっている。

<財務情報及び記述情報の充実の改正ポイント>
(注1)株主総利回り:株式投資により得られた収益を投資額(株価)で割った比率をいう。具体的には、下記⒜及び⒝に掲げる値を合計したものを提出会社の6事業年度前の事業年度の末日における株価(当該株価がない場合には当該事業年度の末日前直近の日における株価)でそれぞれ除した割合又はこれに類する他の方法により算定した割合をいう。
⒜ 提出会社の最近5事業年度の各事業年度の末日における株価(当該株価がない場合には当該事業年度の末日前直近の日における株価)
⒝ 提出会社の5事業年度前の事業年度から⒜の各事業年度の末日に係る事業年度までの1株あたり配当額の累計額
(注2)金融商品取引所に上場されている株券の価格に基づいて算出した数値(多数の銘柄の価格の水準を総合的に表すものに限る)又はこれに類する数値をいう。
(注3) 2019年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用。
(注4) 2020年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用。早期適用が可能。
様式上の項目 記載内容 主な改正内容(案) 他の記載項目との関連性等
【主要な経営指標等の推移】(注3) 株主総利回り及び株価の推移 ・最近5年間の株主総利回り(注1)を、提出会社が選択する株価指数(注2)の最近5年間の総利回りと比較して記載。
・最近5年間の事業年度別最高・最低株価を記載(【株価の推移】から移動)。
【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】(注4) 経営方針、経営環境等 ・企業構造、事業を行う市場の状況、競合他社との競争優位性、主要製品・サービスの内容、顧客基盤、販売網等についての経営者の認識の説明を含める。 【事業の内容】と関連付けて記載。
対処すべき課題 ・優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題について、その内容、対処方針等を経営方針・経営戦略等と関連付けて記載。 「経営方針・経営戦略等」と関連付けて記載。
【事業等のリスク】(注4) 主要なリスク ・当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期、当該リスクが顕在化した場合に連結会社の経営成績等の状況に与える影響の内容、当該リスクへの対応策を記載。 リスクの重要性や「経営方針・経営戦略等」との関連性の程度を考慮して記載。
【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】(注4) 事業全体及びセグメント情報に記載された区分ごとの経営者の視点による認識及び分析・検討内容 ・キャッシュ・フローの状況の記載にあたっては、内部留保資金の状況を含めて記載。
・資本の財源及び資金の流動性に係る情報の記載にあたっては、資金調達の方法及び状況並びに資金の主要な使途を含む資金需要の動向についての経営者の認識を含めて記載。
「経営方針・経営戦略等」の内容のほか、他の記載項目の内容と関連付けて記載。
・キャッシュ・フローの状況の記載にあたっては、内部留保資金の状況を含めて記載。
・資本の財源及び資金の流動性に係る情報の記載にあたっては、資金調達の方法及び状況並びに資金の主要な使途を含む資金需要の動向についての経営者の認識を含めて記載。
「経営方針・経営戦略等」の内容のほか、他の記載項目の内容と関連付けて記載。

ちなみに、DWG報告では、【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【事業等のリスク】【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】等の開示内容について、「ベストプラクティス等から導き出される望ましい開示の考え方・内容・取り組み方をまとめたプリンシプルベースのガイダンスを策定すべき」とされていたが、今回の改正案ではそのようなものは示されておらず、今後何らかの対応がなされるとみられる。

プリンシプルベース : 大まかな原理・原則だけを定め、細かな運用は現場の判断に任せるという規制方法のこと。プリンシプルベース(原則主義)の反意語は「ルールベース(細則主義)」である。

2.建設的な対話の促進に向けた情報の提供、情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組

(a)【コーポレート・ガバナンスの状況等】は【コーポレート・ガバナンスの概要】【役員の状況】【監査の状況】【役員の報酬等】【株式の保有状況】の5区分に。【役員の状況】は、【コーポレート・ガバナンスの状況等】の内訳項目となった。
(b)役員の報酬について、報酬プログラムの説明(業績連動報酬に関する情報や役職ごとの方針等)、プログラムに基づく報酬実績等の記載が求められる。
(c)政策保有株式について、保有の合理性の検証方法等について開示を求めるとともに、個別開示の対象となる銘柄数を現状の30銘柄から60銘柄に拡大。
(d)監査役会等の活動状況、監査法人による継続監査期間、ネットワークファームに対する監査報酬等の開示が求められる。

上記のうち企業の負担増は必須と思われるのが(b)と(c)だ。

(b)の報酬プログラムの開示については、経営陣の報酬内容・報酬体系と経営戦略や中長期的な企業価値向上との結び付きを検証できるようにするための開示が追加されている。実際の報酬が報酬プログラムに沿ったものになっているか、経営陣のインセンティブとして実際に機能しているかを確認できるようにするため「業績連動報酬に係る指標の目標及び実績」の開示も求める内容となっている。なお、連結報酬総額1億円以上の役員に関する報酬総額等の個別開示を求める現行制度については、DWG報告において「報酬水準を基準に区切るのではなく、CEOや代表取締役などの一定の役割を果たす者や、報酬額上位から一定数の者について開示を求めることが、報酬の適切性を検証する上で必要」との意見があったが、現行制度の1億円基準が維持されている。

(c)については、保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式(いわゆる政策保有株式)について、提出会社の保有方針及び保有の合理性を検証する方法、個別銘柄の保有の適否に関する取締役会等における検証の内容を記載が求める内容となっている。政策保有株式は、中長期的な企業価値向上につながる可能性が必ずしも高くない一方で、少数株主軽視や資本コストに対する意識の低さにつながるリスクが高いことから、保有の目的、効果、合理性等について詳細な開示を求める投資家の意見を踏まえた改正だ。

上記のうち(a)~(c)の内容は、2019年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用される。(d)については、2020年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用されるものがある。より具体的な改正内容は以下表のとおり。

<【コーポレート・ガバナンスの状況等】の改正ポイント>
(注1)監査役会:監査等委員会設置会社にあっては提出会社の監査等委員会、指名委員会等設置会社にあっては提出会社の監査委員会をいう。
(注2)業績連動報酬:利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標その他の提出会社又は当該提出会社の関連会社の業績を示す指標を基礎として算定される報酬等。短期の業績連動報酬としては、賞与、中長期の業績連動報酬としてはストックオプション等が考えられる。
(注3)特定投資株式:保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式で非上場株式を除いた投資株式(いわゆる政策保有株式)。
(注4) 2020年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用。早期適用は可能。
様式上の項目 記載内容 主な改正内容(案)
(1)【コーポレート・ガバナンスの概要】 企業統治の体制の概要 ・コーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方を記載。
・設置する機関の名称、目的、権限及び構成員の氏名の記載に当たり、当該機関の長に該当する者については役職名の記載、提出会社の社外取締役又は社外監査役に該当する者についてはその旨を記載。
・財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針を定めている場合には記載(【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】から移動。)(注4)。
(2)【役員の状況】 役員の状況、社外監査役及び社外監査役に関する事項 ・これまでの【役員の状況】の記載内容が移動。
・【役員の状況】において現行のコーポレート・ガバナンスの状況等で記載している社外監査役及び社外監査役に関する事項(社外取締役又は社外監査役の員数及び提出会社との人的関係、 資本的関係又は取引関係その他の利害関係等)を記載。
(3)【監査の状況】 監査役監査の状況 ・提出会社の監査役及び監査役会(注1)の活動状況(開催頻度、主な検討事項、個々の監査役の出席状況及び常勤の監査役の活動等)を記載。(注4)
内部監査の状況 ・内部統制部門との関係について記載。
会計監査の状況 ・監査法人の継続監査期間を記載(注4)
・監査公認会計士等を選定した理由(選定方針、業務停止処分の状況を含む。)を記載。
・監査公認会計士等の異動に関する事項を記載(【経理の状況】の冒頭記載から移動)。
・【監査報酬の内容等】の記載内容が会計監査の状況に移動。
・会計監査人の報酬等について、監査役会が同意した理由を記載。
・提出会社及び提出会社の連結子会社がそれぞれ監査法人と同一のネットワークに属するファーム(たとえば4大監査法人と同一の世界的なネットワークに属する海外の会計事務所)に対する報酬を記載(重要性が乏しい報酬は除く)。
(4)【役員の報酬等】 役員報酬等の算定方法の決定に関する方針の内容及び決定方法 ・提出会社の役員の報酬等に、業績連動報酬(注2)が含まれる場合は以下を記載。
➣業績連動報酬と業績連動報酬以外の報酬等の支給割合の決定に関する方針を定めているときは、当該方針の内容
➣当該業績連動報酬に係る指標、当該指標を選択した理由及び当該業績連動報酬の額の決定方法
・提出会社の役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する役職ごとの方針を定めている場合、当該方針の内容を記載。
・提出会社の役員の報酬等に関する株主総会の決議があるときは、当該株主総会の決議年月日を記載。ないときは、定款に定めている事項の内容を記載。
・提出会社の役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針の決定権限を有する者の氏名又は名称、その権限の内容及び裁量の範囲を記載。
・提出会社の役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針の決定に関与する委員会が存在する場合、その手続の概要を記載。
・提出会社の役員の報酬等の額の決定過程における、提出会社の取締役会及び委員会等の活動内容を記載。
報酬総額 ・固定報酬、業績連動報酬(注2)及び退職慰労金等の区分別に報酬の総額及び対象となる役員の員数を記載。
・提出会社の役員の報酬等に業績連動報酬が含まれる場合、当該業績連動報酬に係る指標の目標及び実績を記載
(5)【株式の保有状況】 保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式 ・保有目的が純投資目的である投資株式と純投資目的以外の目的である投資株式の区分の基準や考え方を記載。
・保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式について、提出会社の保有方針及び保有の合理性を検証する方法、個別銘柄の保有の適否に関する取締役会等における検証の内容を記載。
・保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式最近事業年度における株式数がその前事業年度における株式数から変動した銘柄について非上場株式とそれ以外の株式に区分し以下を記載。
➣株式数が増加した銘柄数、株式数の増加に係る取得価額の合計額及び増加の理由
➣株式数が減少した銘柄数及び株式数の減少に係る売却価額の合計額
・特定投資株式(注3)の個別開示の対象となる銘柄数を60銘柄とする。
・特定投資株式について以下を記載。
➣提出会社の経営方針・経営戦略等、事業の内容及びセグメント情報と関連付けた定量的な保有効果(定量的な保有効果の記載が困難な場合は、その旨)
➣株式数が増加した理由(増加した銘柄に限る)
➣当該株式の発行者による提出会社の株式の保有に関する情報

2018/11/02 情報漏洩企業も対象に “気候変動以外”の投資撤退要因

このほどGPIFパッシブ運用に新たに採用したESG指数「S&P/JPX カーボン・エフィシェント指数」は運用資産額約1.2兆円、投資対象は1,694銘柄(東証1部上場企業の約8割)にのぼる(2018年10月9日のニュース「東証1部上場企業の8割がESG投資の対象に」参照)。また、欧州トップの資産運用会社アムンディ・アセットマネジメントが運用するファンドのすべての構成銘柄についてESG 実績を考慮して議決権を行使する方針を打ち出すなど、ESGに対する機関投資家の関心は高まる一方となっている(2018年10月11日のニュース「アムンディ、全投資先の議決権行使でESG実績を考慮」参照)。ESGの中でも最近グローバル機関投資家の関心が特に高まっているのが「E」の一分野である気候変動問題だが(2018年3月9日のニュース「グローバル機関投資家の新たな関心事」参照)、ESG投資を行う機関投資家の間では、気候変動関連以外の要因でも投資から撤退(以下、ダイベストメント)する動きがある。

GPIF : 年金積立金管理運用独立行政法人(Government Pension Investment Fund)。厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行う厚生労働省所管の独立行政法人。運用資産の規模が100兆円を優に超える世界最大の機関投資家である。
パッシブ運用 : パッシブ(「消極的」なという意味)運用とは、東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法であり、ファンドマネジャーが独自に銘柄を選択して運用する「アクティブ運用」とは対極の関係にある。
ESG : ESGとは、「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。
ESG投資 : ESGに優れた企業に投資すること

化石燃料関連企業など気候変動への影響が大きい企業を除くと、ESG絡みのダイベストメントの先駆けとしては、カルフォルニア州教職員退職年金基金(CalSTRS=カルスターズ)が2013年から銃器メーカーに対して実施したもの挙げられるが、今年(2018年)4月には預り資産残高世界トップの資産運用会社である米国のブラックロックが銃器を販売する小売大手ウォルマートやスーパーマーケット大手クローガーなどをESGファンドからダイベストメントしている。相次ぐ銃乱射事件などをきっかけに銃規制の機運が高まる中、本件はダイベストメントの対象を銃器販売を専門としているわけではない一般小売業にまで広げた点で、ESG投資におけるダイベストメント対象拡大の動きとして注目を集めたところだ。

もっとも、銃問題は米国社会特有の問題であり、日本企業にとってはあまりピンと来ないかもしれない。このほか、タバコ、原子力、核兵器、毛皮関連企業などもダイベストメントの対象とされてきたが、これも一部の業界の話であり、多くの日本企業の経営陣は「ウチには関係ない」と考えているのではないだろうか。

しかし、ESG投資におけるダイベストメントの対象はより幅広い業界にも広がりつつある。例えば・・・

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2018/11/02 情報漏洩企業も対象に “気候変動以外”の投資撤退要因(会員限定)

このほどGPIFパッシブ運用に新たに採用したESG指数「S&P/JPX カーボン・エフィシェント指数」は運用資産額約1.2兆円、投資対象は1,694銘柄(東証1部上場企業の約8割)にのぼる(2018年10月9日のニュース「東証1部上場企業の8割がESG投資の対象に」参照)。また、欧州トップの資産運用会社アムンディ・アセットマネジメントが運用するファンドのすべての構成銘柄についてESG 実績を考慮して議決権を行使する方針を打ち出すなど、ESGに対する機関投資家の関心は高まる一方となっている(2018年10月11日のニュース「アムンディ、全投資先の議決権行使でESG実績を考慮」参照)。ESGの中でも最近グローバル機関投資家の関心が特に高まっているのが「E」の一分野である気候変動問題だが(2018年3月9日のニュース「グローバル機関投資家の新たな関心事」参照)、ESG投資を行う機関投資家の間では、気候変動関連以外の要因でも投資から撤退(以下、ダイベストメント)する動きがある。

GPIF : 年金積立金管理運用独立行政法人(Government Pension Investment Fund)。厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行う厚生労働省所管の独立行政法人。運用資産の規模が100兆円を優に超える世界最大の機関投資家である。
パッシブ運用 : パッシブ(「消極的」なという意味)運用とは、東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法であり、ファンドマネジャーが独自に銘柄を選択して運用する「アクティブ運用」とは対極の関係にある。
ESG : ESGとは、「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。
ESG投資 : ESGに優れた企業に投資すること

化石燃料関連企業など気候変動への影響が大きい企業を除くと、ESG絡みのダイベストメントの先駆けとしては、カルフォルニア州教職員退職年金基金(CalSTRS=カルスターズ)が2013年から銃器メーカーに対して実施したもの挙げられるが、今年(2018年)4月には預り資産残高世界トップの資産運用会社である米国のブラックロックが銃器を販売する小売大手ウォルマートやスーパーマーケット大手クローガーなどをESGファンドからダイベストメントしている。相次ぐ銃乱射事件などをきっかけに銃規制の機運が高まる中、本件はダイベストメントの対象を銃器販売を専門としているわけではない一般小売業にまで広げた点で、ESG投資におけるダイベストメント対象拡大の動きとして注目を集めたところだ。

もっとも、銃問題は米国社会特有の問題であり、日本企業にとってはあまりピンと来ないかもしれない。このほか、タバコ、原子力、核兵器、毛皮関連企業などもダイベストメントの対象とされてきたが、これも一部の業界の話であり、多くの日本企業の経営陣は「ウチには関係ない」と考えているのではないだろうか。

しかし、ESG投資におけるダイベストメントの対象はより幅広い業界にも広がりつつある。例えばスウェーデンのノルデア銀行グループは今年6月、個人情報流出問題をきっかけに、フェイスブックを投資対象から除外すると表明している。個人情報流出問題以来下降傾向にあるとはいえ依然として高い株価水準にある同社をダイベストメントすることについて同銀行グループの運用担当者は「短期的に投資リターンに影響をネガティブな与える可能性はある」としつつも、同社との何度も対話を重ねたにもかかわらず改善が見られなかったことを理由に、他のESGファンド等に対しても「同社株式を投資対象から除外すべき」との見解を示している。

また、海外では肥満等の健康被害を引き起こす要因として清涼飲料水に課税する動きがあり(例えば、英国では一定量以上の砂糖を含む飲料に課税する「砂糖税」、米国でもペンシルバニア州フィラデルフィア市等の一部の地域で「ソーダ税」が導入されている)、「健康被害」も将来的にはダイベストメントの要因になり得ると予想するESGの専門家もいる(ただし、飲料メーカーはシュガーレス飲料の生産を拡大してきたこともあり、現時点では運用会社が飲料メーカーをダイベストメントの対象とする動きはない)。

最近は、生態系への影響が問題視される海洋プラスチックゴミを削減するため、ストローや綿棒等プラスチック製品の使用が問題視されている。日本でも大戸屋やすかいらーく、デニーズなどの大手外食チェーンがプラスチックストローの使用を減らしていく方針を明らかにしたが、欧米諸国の動きはより性急だ。英国では、プラスチック製造会社に対し、医療用ストローを除く全てのプラスチック製品について代替製品の研究開発を促し、2042年までに不要なプラスチックごみゼロを目指すという。また、研究開発を促すための財源として新たな税を導入する方針も示している。米国では、ワシントン州シアトル市などでストロー廃止措置が相次いで導入・検討されていることを受け、スターバックスやウォルト・ディズニー、アメリカン航空、ハイアット・ホテルズなどがプラスチック製品の使用を減らす方針を打ち出している。実はプラスチックごみの削減は、2015年に国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標) の一つである「海の豊かさを守ろう」に対応したものであり(SDGsの詳細は2017年8月21日のニュース「上場企業の間で徐々に対応が進むSDGs」参照)、ESG投資を進める機関投資家の関心事でもある。例えば英国の大手運用会社アビバでは英国内にあるオフィスでの使い捨てプラスチック製品の使用を禁止し2018年までに社内での不要なプラスチックごみゼロを目指すことに加え、社内外のイベントでのペットボトル使用を今後廃止する方針等を発表している。また、同じく英国の大手運用会社LGIM(Legal & General Investment Management)では、投資先企業へのプラスチックごみ削減に向けた取組状況の情報開示を求めるエンゲージメントやプラスチック製造企業が与える海洋汚染リスクの分析を今後強化する方針等を発表している。このような動きを見ると、将来、プラスチック製造企業がダイベストメントの対象にもなりかねない。

SDGs(持続可能な開発目標) : 「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、「エスディージーズ」と読む。「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる世界共通の目標であり、17の目標と169のターゲットからなる。2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択され、2016年から2030年までの15年間での達成を目指している。
LGIM : 欧州でも有数の規模を誇る英国の大手保険グループ Legal & General Groupの一員であるグローバル機関投資家

ダイベストメントの対象は気候変動の分野にとどまらず、対象領域を多様化しつつ徐々に広がっていく可能性が高そうだ。

2018/11/01 【特集】2018年6月総会・機関投資家の議決権行使結果分析(3・会員限定)

4.「賛成率に与える影響が大きい投資家」の見極め

「3.投資家別の反対率分析(役員選任議案)」で示したとおり、各機関投資家は、議決権行使に関する方針の違いを背景に、異なる議決権行使を行っています。各機関投資家が自社の議案に対してどのように議決権行使を行っているかは、昨年のスチュワードシップ・コードの改訂以降、各機関投資家がホームページなどで開示している賛否基準や自社の議案に対する議決権行使結果により確認できるようになりました。ただし、主要な国内機関投資家が個別に開示している議決権行使結果の全てを確認することは企業にとって大きな負担となります。そこで、自社の議案に対する機関投資家の議決権行使の傾向をつかむには、「自社の議案の賛成率に与える影響が大きい投資家」を見極めた上で、これらの機関投資家を中心に議決権行使結果を分析することが合理的と言えます。

ほとんどの国内機関投資家が議決権を行使するという現状を踏まえれば、「賛成率に与える影響が大きい投資家」とは、すなわち「自社の株式を多く保有する投資家」ということになります。ただし、通常企業の株主名簿に記載されるのは株式の保管・管理などを行うカストディアンの名義であり、実質的な株主である機関投資家はその背後に存在しています。したがって企業は、いわゆる「株主判明調査」などのサービスを利用しない限り、機関投資家による自社株式の保有状況を把握することはできません。

カストディアン : 投資家に代わって株式の管理(カストディ)を行う機関のこと。上場会社の「実質株主」として存在感を増す機関投資家だが、「実質」という言葉のとおり、機関投資家は信託銀行等を通じて株式を保有するのが通常であり、多くの場合、名義上の株主は信託銀行などのカストディアンとなっている。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

その一方で、国内市場においてパッシブ運用の比重が高まっていることに伴い、「特定の大手機関投資家」が多くの企業にとって「賛成率に与える影響が大きい投資家」となってきているということも事実です。例えば、年金資金の運用については、国内最大の資金の出し手であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が国内株式運用資産残高約41兆円のうち約37兆円をパッシブ運用に振り向けており、中でもTOPIX(東証株価指数)連動型の運用資産残高は約27兆円に上っています。GPIFからTOPIX連動型運用を受託しているのは、アセットマネジメントOne、三菱UFJ信託銀行、ブラックロック・ジャパン、三井住友信託銀行(本年10月に三井住友トラスト・アセットマネジメントが三井住友信託銀行の資産運用機能を統合)の4社となっています。また、投資信託においては、日銀が金融緩和策の一環として、日経平均株価やTOPIXなどの指数連動型の上場投資信託(ETF=Exchange Traded Funds)の購入を続けていることから、ETF運用残高の大きい野村アセットマネジメント、大和証券投資信託委託、日興アセットマネジメントの3社の存在感が大きくなってきています。これらの大手機関投資家7社は、多くの企業にとって「賛成率に与える影響が大きい投資家」に当たる可能性が高く、賛否の基準や議決権行使結果を把握することが望ましい先であると言えます。

パッシブ運用 : 東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法のこと。パッシブとは「消極的な」という意味である。パッシブ運用に対し、銘柄を選別し、魅力のある銘柄を購入する一方で、見劣りする銘柄を売却するなどして利益を得ようとする投資手法がアクティブ運用である。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人) : 「Government Pension Investment Fund」の略で、厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行う厚生労働省所管の独立行政法人。運用資産の規模が100兆円を優に超える世界最大の機関投資家である。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

なお、アクティブ運用(銘柄選別投資)の場合、機関投資家による保有株式数の多寡は企業によって異なります。特にアクティブ運用による保有株式が多い場合には、個別の対応が必要になるケースもあると考えられます。

アクティブ運用(銘柄選別投資) : 銘柄を選別し、魅力のある銘柄を購入する一方で、見劣りする銘柄を売却するなどして利益を得ようとする投資手法のこと。パッシブ運用の対極の概念であり、運用担当者(ファンド・マネージャー)が、株式市場や投資銘柄などを調査し、今後の動向を予測することでポートフォリオを決定する。市場の平均的な収益率をベンチマークとし、これを上回る運用成果を上げることを目標にすることが多い。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

(図表5)「賛成率に与える影響が大きい投資家」の考え方
39855

5.来年以降の株主総会に向けて留意すべき動き

(1)議決権行使助言会社のポリシー変更

議決権行使助言会社最大手のISSは2018年版の助言ポリシーに、(1年間の猶予期間を経て)来年(2019年)2月1日から、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社において社外取締役の構成割合が1/3未満の場合には経営トップ(社長及び会長)の選任議案に反対推奨を行うことを明記しています(2017年10月30日のニュース「ISS 2018年日本向け助言ポリシーのポイント」参照。 引用:上場会社役員ガバナンスフォーラム)。これを受け、ISSの推奨に従う海外機関投資家のみならず、国内機関投資家においても、会社の機関設計を問わず1/3の社外(独立)取締役の選任を求める動きが広がる可能性があります。

さらにISSは、いわゆる政策保有先出身の社外役員候補者の独立性を否認する旨のポリシーの導入を検討していることを明らかにしています(適用は2020年2月1日からとなる見込み。2018年10月23日のニュース「ISSが2019年版ポリシー案公表、時価総額上位10社で3人が新独立性基準に抵触」参照。 引用:上場会社役員ガバナンスフォーラム)。本ポリシー導入を受けて、国内投資家も同様の議決権行使ガイドライン変更を行うなど、影響が拡大する可能性があります。

また、議決権行使助言会社大手のグラスルイスは、来年から女性役員が不在の企業の会長または社長の選任に対し反対推奨を行うとしています(初年度はTOPIX100採用企業が対象。2017年12月21日のニュース「グラスルイスが日本向け2018年版ガイドラインを公表」参照。 引用:上場会社役員ガバナンスフォーラム)。このように取締役会にジェンダーを含むダイバシティーが求められる中、機関投資家の議決権行使に際してもこの点を考慮する動きが広がるのか、注目されます。

(2)反対票が多かった原因の分析を求める集団的エンゲージメント

集団的エンゲージメントとは、複数の投資家が連携して企業とのエンゲージメント(対話)を実施することです。昨年(2017年)行われたスチュワードシップ・コードの改訂では、「機関投資家が投資先企業との間で対話を行うに当たっては、単独でこうした対話を行うほか、必要に応じ、他の機関投資家と共同して対話を行うこと(集団的エンゲージメント)が有益な場合もあり得る。」との規定(指針4-4)が新設されました。

株主総会の議案の賛否に関する集団的エンゲージメントとして注目されるのが、企業年金連合会、三井住友アセットマネジメント、三井住友信託銀行(本年10月に三井住友トラスト・アセットマネジメントが三井住友信託銀行の資産運用機能を統合)、三菱UFJ信託銀行、りそな銀行が参加する「機関投資家協働対話フォーラム」()の活動です。

 投資先企業との対話強化のために企業年金連合会と大手金融機関が連携して昨年(2017年)10月に設立された、信託銀行等のパッシブ運用を行う運用機関による集団的エンゲージメントを行うためのプラットフォーム。機関投資家協働対話フォーラムの詳細は2017年11月8日のニュース『集団的エンゲージメントを支援する「機関投資家協働対話プログラム」が始動』参照(文責・引用:上場会社役員ガバナンスフォーラム)。

同フォーラムは、経営トップの選任議案に相当数の反対票が投じられた企業に対し、①相当数の反対票が投じられた原因に関する取締役会での議論の内容、②社外役員の意見、③取締役会での議論を踏まえた課題認識と今後の対応の3点について説明を求めるエンゲージメント・レターを送付しました(2018年10月4日のニュース「協働対話フォーラム、トップ選任議案に20%以上の反対票企業にレター」参照。 引用:上場会社役員ガバナンスフォーラム)。

英国では、本年公表された改訂コーポレートガバナンス・コード(来年1月適用予定)により、会社提案の議案に対する反対率が20%を上回った場合には、株主に対してその理由や背景を説明することなどが求められることとなりました。日本のコーポレートガバンス・コード補充原則1-1①では、反対の理由・原因の分析が求められる「相当数の反対」について具体的な基準は示されていませんが、(企業の株主構成によって異なるものの)概ねの目安として、賛成率が80%を下回るよう場合には、特に賛成率が低位にとどまった原因の分析を行い、それによって把握された経営課題と対応方針を整理した上で投資家との対話に臨むことが求められるのではないでしょうか。

6.おわりに

「2.議決権行使結果から見る議案別傾向 (1)役員選任議案」で述べたとおり、本年6月総会では、特に経営トップの選任議案に対する賛成率の低下が確認されました。これは、会長や社長個人の資質を問うというよりは、会社の資本効率性(ROEなど)やガバナンス体制(取締役会の構成など)に対する株主の不満が経営トップの選任議案に向かったケースが多かったためと考えられます。また、機関投資家協働対話フォーラムが集団的エンゲージメントにおいて経営トップの選任議案への反対理由の分析を求めているのは、経営トップの選任議案への反対の背景には何らかの経営課題が存在すると考えているためであると推測されます。企業が株主との対話を進めていく上で、「反対の理由・原因の分析」への取り組みの重要性が増してきていると言えます。

また「2.投資家別の反対率分析(役員選任議案)」では、取締役選任議案について、ISSの反対推奨率よりも国内機関投資家の反対率の方が高い傾向が見られる点を確認しました。これは、議案によっては、海外機関投資家よりも国内機関投資家の方が、厳しい議決権行使を行う場合もあることを示しています。もっとも、国内機関投資家の賛成率は投資家毎に大きく異なっています。株主総会に上程する議案について、多くの株主から賛同を得て、高い賛成率で可決させるためには、「自社にとって賛成率に与える影響が大きい投資家」を中心に、賛否の判断基準やその背景にある考え方を理解することが必要です。

コーポレートガバナンス改革の動きはますます加速し、足元では資本コストや政策保有株式を巡る議論も活発になっています。こうした状況を受け、機関投資家も毎年のように議決権行使ガイドラインを見直しています。上場企業の経営陣には、IR/SR担当者とも連携しながら、機関投資家を含む株主との対話を通じて資本市場の変化を的確にとらえ、自社の取り組みに反映していくことが求められていると言えるでしょう。

SR : Shareholder Relations の略で、「株主向け広報」と訳される。株主を含む広く投資家全般に対する広報活動を「IR」 (Investor Relations) と呼ぶのに対し、SR活動とは、企業と株主との信頼関係を築くための活動を指す。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

 

 

2018/11/01 【特集】2018年6月総会・機関投資家の議決権行使結果分析(2・会員限定)

2.議決権行使結果から見る議案別の上程数・賛成率の傾向

(1)役員選任議案
弊社が、本年6月に開催された東証1部上場企業の株主総会を対象として、上程議案数と公表賛成率の平均(以下、平均公表賛成率)をまとめたものが図表1です。

取締役選任議案については、社外取締役でない取締役(以下、社内取締役)の候補者数が減少する一方、社外取締役候補者数は増加(図表1中の①)しました。すなわち、全体としては、取締役会に占める社外取締役の割合が上昇していることになります。

取締役選任議案への賛成率は対前年比で低下していますが、特に経営トップ(会長・社長)選任議案に対する賛成率の低下(②)が目に付きます。資本効率性(ROEなど)やガバナンス体制(取締役会の構成など)を理由とする反対が増加したものと考えられます。

ROE : Return On Equity=自己資本利益率(当期純利益/株主資本)(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

社外取締役や社外監査役候補者の選任議案に対する賛成率も低下(③)しました。候補者の独立性や、取締役会/監査役会への出席率の低さなどを理由とした反対が増加した可能性があります。

(2)その他の議案
前年に比べて、定款変更議案の上程が減少(④)しました。東証などが本年10月1日を期限として企業に求めていた売買単位の統一への対応(単元株式数の変更)が、昨年ピークアウトしたことが主因と考えられます

売買単位の統一への対応(単元株式数の変更) : かつて上場株式の売買単位は1株、10株、50株、100株、200株、500株、1,000株、2,000株と8種類が混在していたが、売買時のミスを誘発しているなどの指摘を受け、全国の証券取引所は2007年11月から上場株式の売買単位を100株に統一する取り組みを進めてきた。まず2014年4月1日までに100株と1000株の2種類に集約、2018年10月1日をもって100株への統一を達成した。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

また、退職慰労金支給議案の上程が減少する一方、報酬額の決定・変更に関する議案の上程は増加しました(⑤)。退職慰労金制度を廃止し、業績連動型報酬の導入含め、報酬体系の見直しを行う動きが続いていると見られます。退職慰労金支給議案については賛成率の低下(⑥)も確認されました。従来から機関投資家の反対が多い議案でしたが、特に国内機関投資家による反対が増加したことが更なる賛成率の低下につながったと考えられます。

買収防衛策の導入(継続)議案の上程は大きく減少(⑦)しました。賛成率も大幅に低下(⑧)しています。足元で国内機関投資家の議決権行使判断の厳格化が進行した結果、国内外の機関投資家のほとんどが原則反対のスタンスになったと見られます。

株主提案については、株主提案を受けた社数に大きな変化がない中で、議案数が大きく減少(⑨)しました。一部で見受けられた1社に対して多数の議案を提案する株主が減ったことが影響しています。また、国内機関投資家が株主提案に賛成するケースが増加したことなどを背景に、賛成率の上昇(⑩)も確認されています。

(図表1)本年6月に開催された東証1部上場企業の定時株主総会の状況(上程議案数・平均公表賛成率など)
39845a

3.投資家別の反対率分析(役員選任議案)

(1)社内取締役
社内取締役選任議案に対する主要国内機関投資家の反対率を分析したものが図表2です。

一昔前は、国内機関投資家よりも海外機関投資家の議決権行使判断の方が厳しいというイメージがありましたが、本年6月総会では、国内機関投資家の反対率が相当高くなっていることが分かります。ほとんどの国内大手機関投資家の反対率が議決権行使助言会社最大手のISSの反対推奨率(5.3%)を上回る状況となっています。

投資家別では、大和住銀投信投資顧問の反対率が最も高くなっています。同社は、業績基準(ROEなど)が厳しいことに加え、反対行使の対象が多数の取締役に及ぶケース(業績基準に満たないことを理由に全候補者の選任に反対するなど)が多いことなどが要因と考えられます。ただし、本年6月総会においては反対行使の対象者を限定するケース(反対の対象を、業績基準未達への責任が認められる候補者に限定するなど)も見受けられ、反対率は対前年比で低下しています。

「親会社を有する企業は取締役会の1/3以上の独立社外取締役がいなければ取締役の選任に反対する」との議決権行使基準を新設した三井住友信託銀行の反対率は前年と比較して上昇しています。同様に、三菱UFJ信託銀行は、社外取締役が不足している場合における反対行使の対象を社長から取締役全員に拡大する旨の基準の変更を行い、JPモルガン・アセット・マネジメントは、「取締役会の1/3以上の社外取締役がいない場合、社長等の代表取締役の選任に反対する」との基準を導入しました。これらの基準変更(導入)が両社の反対率を押し上げたと考えられます。

(図表2)主要国内機関投資家の反対率と議決権行使助言会社ISSの反対推奨率(社内取締役選任議案)
39845b

※ 各社が開示した個別開示データより、本年6月に開催された東証1部上場企業の定時株主総会に上程された議案のみを抽出して作成(以降の反対率に関するグラフも同様)

(2)社外取締役・監査役
社外取締役及び監査役の選任議案に対する国内機関投資家の反対率を分析したものが図表3、4です。

ISSの反対推奨率との比較では、社外取締役選任議案に対する国内機関投資家の反対率の高さが目に付く一方、監査役選任議案については、ISSの反対推奨率を上回るのは一部の機関投資家にとどまっています。ISSは、監査役設置会社の社外取締役については、候補者が独立性を欠くことを理由とした反対推奨を行わない一方、社外監査役については独立性を欠く候補者への反対推奨を行っていることが主因と考えられます。

投資家別では、社内取締役選任議案と同様に、反対行使の対象者が多数に及ぶ傾向がある大和住銀投信投資顧問の反対率が高くなっています(対前年比で反対率が低下している理由も、上述の社内取締役選任議案と同様)。

また、社外取締役及び監査役選任議案では、特にアセットマネジメントOneの反対率が上昇していることが確認されました。これは、社外役員の再任に賛成する条件の一つとなっている取締役会/監査役会への出席率基準を75%から85%に引き上げたことなどが影響したものと推測されます。

(図表3)主要国内機関投資家の反対率と議決権行使助言会社ISSの反対推奨率(社外取締役選任議案)
39845c

(図表4)主要国内機関投資家の反対率と議決権行使助言会社ISSの反対推奨率(監査役選任議案)
39845d

4.「賛成率に与える影響が大きい投資家」の見極め(会員限定)

2018/11/01 【特集】2018年6月総会・機関投資家の議決権行使結果分析

日本シェアホルダーサービス株式会社
シニアアナリスト 水嶋 創

1.はじめに

コーポレートガバナンス・コードの制定/改訂を含む一連のコーポレートガバナンス改革により、株主総会は「企業と株主の対話の場」としてますます注目を集めています。

一昔前であれば、株主総会の議案は可決されればそれで十分だったのかもしれません。しかし、開示府令の改正により、2010年以降、上場企業は株主総会後に賛成率(議案毎の賛否の個数など)を開示することが求められるようになり、株主からの反対が多かった議案に関する報道も増えてきています。また、昨年(2017年)にはスチュワードシップ・コードが改訂され、機関投資家による議決権行使結果の個別開示(企業毎、議案毎の開示)が始まりました。併せて、各機関投資家による議決権行使の方針や賛否の基準の公表も進み、それまで見えにくかった機関投資家の議決権行使行動が明らかになってきました。

本稿では、まず上場企業が開示した議決権行使結果から議案毎の賛成率をまとめた上で、役員選任議案にフォーカスし、各機関投資家の議決権行使結果の個別開示に基づき投資家毎の反対率を分析します。さらに、来年以降の株主総会に影響を与える可能性のある動きとして、議決権行使助言会社のポリシー変更と国内機関投資家による集団的エンゲージメントへの取り組みを紹介します。

2.議決権行使結果から見る議案別の上程数・賛成率の傾向

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2018/10/31 2018年10月度チェックテスト

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【問題1】

上場企業は改訂コーポレートガバナンス・コードに対応したコーポレートガバナンス報告書の「政策保有株式の縮減に関する方針」において「政策保有株式を(減らすのではなく)“増やす”方針」を開示したとしても、原則1-4の「政策保有に関する方針を開示」の部分についてはコンプライしたことになる。


正しい
間違い
【問題2】

企業結合で生じた「のれん」の償却の是非を巡り見解が対立しているが、償却しないことを支持する見解が指摘する根拠の一つに「のれんの償却期間を客観的に決定するのは困難であること」がある。


正しい
間違い
【問題3】

株主総会において「可決には至ったものの相当数の反対票が投じられた会社提案議案」があった上場会社では、取締役会において「反対の理由や反対票が多くなった原因の分析」を行うべきである。


正しい
間違い
【問題4】

CGSガイドラインが改訂され「社外取締役の再任基準を設けておくこと」の検討を奨励する一文が盛り込まれた。


正しい
間違い
【問題5】

サイバーセキュリティ対策は極めて専門的な業務であることから、上場企業はCIO(最高情報責任者)を置くだけでなく、当該CIOにサイバーセキュリティ対策を完全に委ねるべきである。


正しい
間違い
【問題6】

TPP(環太平洋経済連携協定)の発効と同時に、独占禁止法上の新たな仕組みとして導入される予定となっている「確約手続制度」では、事業者(企業)はたとえ独占禁止法違反を疑われる事態になったとしても、自主的に確約計画を作成しさえすれば課徴金納付命令や排除措置命令を受けるリスクをゼロにすることができる。


正しい
間違い
【問題7】

ニューヨークのウォール街に「恐れを知らぬ少女(Fearless Girl)」像を設置したことで知られるステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズは「ジェンダー・ダイバーシティ指針」を打ち出し、取締役会に女性役員または女性役員候補がいないTOPIX500採用企業の経営トップの再任議案に反対票を投じている。


正しい
間違い
【問題8】

台湾では、上場企業上位約300社に英文での情報開示を義務付けることを計画している。


正しい
間違い
【問題9】

議決権行使助言会社最大手のISS(Institutional Shareholder Services Inc.)が2018年10月18日に公表した2019年版の議決権行使助言方針改定案では、「自社が政策保有株式として株式を保有している企業の出身者」を「関係のある外部者」、すなわち「独立性がない」とみなす方針が追加されているが、当フォーラムが日本企業の時価総額上位10社(2018年10月23日現在)のうち新基準が適用される5社の社外取締役について確認したところ、該当する社外取締役はゼロであった。


正しい
間違い
【問題10】

改訂コーポレートガバナンス・コードの原則4-11は、取締役会の構成員にジェンダーの要素を求めている以上、女性取締役がゼロの企業は原則4-11をコンプライしえない。


正しい
間違い

2018/10/31 2018年10月度チェックテスト第10問解答画面(不正解)

不正解です。
コーポレートガバナンス・コードの原則4-11は、改訂により「取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、ジェンダーや国際性の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきである(一部抜粋)」となりました。もっとも、ジェンダーについて考慮する方針を掲げる一方で、現在は「たまたま」女性の取締役がいない、というスタンスをとり、同原則をコンプライしているとする上場会社もあることから、「女性取締役がゼロの企業はコンプライしえない」とまでは言えないと考えられます(問題文は誤りです)。

こちらの記事で再確認!
2018/10/29 女性取締役がいなければ「エクスプレイン」は必須か?(会員限定)

2018/10/31 2018年10月度チェックテスト第10問解答画面(正解)

正解です。
コーポレートガバナンス・コードの原則4-11は、改訂により「取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、ジェンダーや国際性の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきである(一部抜粋)」となりました。もっとも、ジェンダーについて考慮する方針を掲げる一方で、現在は「たまたま」女性の取締役がいない、というスタンスをとり、同原則をコンプライしているとする上場会社もあることから、「女性取締役がゼロの企業はコンプライしえない」とまでは言えないと考えられます(問題文は誤りです)。

こちらの記事で再確認!
2018/10/29 女性取締役がいなければ「エクスプレイン」は必須か?(会員限定)