4.「賛成率に与える影響が大きい投資家」の見極め
「3.投資家別の反対率分析(役員選任議案)」で示したとおり、各機関投資家は、議決権行使に関する方針の違いを背景に、異なる議決権行使を行っています。各機関投資家が自社の議案に対してどのように議決権行使を行っているかは、昨年のスチュワードシップ・コードの改訂以降、各機関投資家がホームページなどで開示している賛否基準や自社の議案に対する議決権行使結果により確認できるようになりました。ただし、主要な国内機関投資家が個別に開示している議決権行使結果の全てを確認することは企業にとって大きな負担となります。そこで、自社の議案に対する機関投資家の議決権行使の傾向をつかむには、「自社の議案の賛成率に与える影響が大きい投資家」を見極めた上で、これらの機関投資家を中心に議決権行使結果を分析することが合理的と言えます。
ほとんどの国内機関投資家が議決権を行使するという現状を踏まえれば、「賛成率に与える影響が大きい投資家」とは、すなわち「自社の株式を多く保有する投資家」ということになります。ただし、通常企業の株主名簿に記載されるのは株式の保管・管理などを行うカストディアンの名義であり、実質的な株主である機関投資家はその背後に存在しています。したがって企業は、いわゆる「株主判明調査」などのサービスを利用しない限り、機関投資家による自社株式の保有状況を把握することはできません。
カストディアン : 投資家に代わって株式の管理(カストディ)を行う機関のこと。上場会社の「実質株主」として存在感を増す機関投資家だが、「実質」という言葉のとおり、機関投資家は信託銀行等を通じて株式を保有するのが通常であり、多くの場合、名義上の株主は信託銀行などのカストディアンとなっている。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
その一方で、国内市場においてパッシブ運用の比重が高まっていることに伴い、「特定の大手機関投資家」が多くの企業にとって「賛成率に与える影響が大きい投資家」となってきているということも事実です。例えば、年金資金の運用については、国内最大の資金の出し手であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が国内株式運用資産残高約41兆円のうち約37兆円をパッシブ運用に振り向けており、中でもTOPIX(東証株価指数)連動型の運用資産残高は約27兆円に上っています。GPIFからTOPIX連動型運用を受託しているのは、アセットマネジメントOne、三菱UFJ信託銀行、ブラックロック・ジャパン、三井住友信託銀行(本年10月に三井住友トラスト・アセットマネジメントが三井住友信託銀行の資産運用機能を統合)の4社となっています。また、投資信託においては、日銀が金融緩和策の一環として、日経平均株価やTOPIXなどの指数連動型の上場投資信託(ETF=Exchange Traded Funds)の購入を続けていることから、ETF運用残高の大きい野村アセットマネジメント、大和証券投資信託委託、日興アセットマネジメントの3社の存在感が大きくなってきています。これらの大手機関投資家7社は、多くの企業にとって「賛成率に与える影響が大きい投資家」に当たる可能性が高く、賛否の基準や議決権行使結果を把握することが望ましい先であると言えます。
パッシブ運用 : 東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法のこと。パッシブとは「消極的な」という意味である。パッシブ運用に対し、銘柄を選別し、魅力のある銘柄を購入する一方で、見劣りする銘柄を売却するなどして利益を得ようとする投資手法がアクティブ運用である。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人) : 「Government Pension Investment Fund」の略で、厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行う厚生労働省所管の独立行政法人。運用資産の規模が100兆円を優に超える世界最大の機関投資家である。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
なお、アクティブ運用(銘柄選別投資)の場合、機関投資家による保有株式数の多寡は企業によって異なります。特にアクティブ運用による保有株式が多い場合には、個別の対応が必要になるケースもあると考えられます。
アクティブ運用(銘柄選別投資) : 銘柄を選別し、魅力のある銘柄を購入する一方で、見劣りする銘柄を売却するなどして利益を得ようとする投資手法のこと。パッシブ運用の対極の概念であり、運用担当者(ファンド・マネージャー)が、株式市場や投資銘柄などを調査し、今後の動向を予測することでポートフォリオを決定する。市場の平均的な収益率をベンチマークとし、これを上回る運用成果を上げることを目標にすることが多い。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
(図表5)「賛成率に与える影響が大きい投資家」の考え方

5.来年以降の株主総会に向けて留意すべき動き
(1)議決権行使助言会社のポリシー変更
議決権行使助言会社最大手のISSは2018年版の助言ポリシーに、(1年間の猶予期間を経て)来年(2019年)2月1日から、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社において社外取締役の構成割合が1/3未満の場合には経営トップ(社長及び会長)の選任議案に反対推奨を行うことを明記しています(2017年10月30日のニュース「ISS 2018年日本向け助言ポリシーのポイント」参照。 引用:上場会社役員ガバナンスフォーラム)。これを受け、ISSの推奨に従う海外機関投資家のみならず、国内機関投資家においても、会社の機関設計を問わず1/3の社外(独立)取締役の選任を求める動きが広がる可能性があります。
さらにISSは、いわゆる政策保有先出身の社外役員候補者の独立性を否認する旨のポリシーの導入を検討していることを明らかにしています(適用は2020年2月1日からとなる見込み。2018年10月23日のニュース「ISSが2019年版ポリシー案公表、時価総額上位10社で3人が新独立性基準に抵触」参照。 引用:上場会社役員ガバナンスフォーラム)。本ポリシー導入を受けて、国内投資家も同様の議決権行使ガイドライン変更を行うなど、影響が拡大する可能性があります。
また、議決権行使助言会社大手のグラスルイスは、来年から女性役員が不在の企業の会長または社長の選任に対し反対推奨を行うとしています(初年度はTOPIX100採用企業が対象。2017年12月21日のニュース「グラスルイスが日本向け2018年版ガイドラインを公表」参照。 引用:上場会社役員ガバナンスフォーラム)。このように取締役会にジェンダーを含むダイバシティーが求められる中、機関投資家の議決権行使に際してもこの点を考慮する動きが広がるのか、注目されます。
(2)反対票が多かった原因の分析を求める集団的エンゲージメント
集団的エンゲージメントとは、複数の投資家が連携して企業とのエンゲージメント(対話)を実施することです。昨年(2017年)行われたスチュワードシップ・コードの改訂では、「機関投資家が投資先企業との間で対話を行うに当たっては、単独でこうした対話を行うほか、必要に応じ、他の機関投資家と共同して対話を行うこと(集団的エンゲージメント)が有益な場合もあり得る。」との規定(指針4-4)が新設されました。
株主総会の議案の賛否に関する集団的エンゲージメントとして注目されるのが、企業年金連合会、三井住友アセットマネジメント、三井住友信託銀行(本年10月に三井住友トラスト・アセットマネジメントが三井住友信託銀行の資産運用機能を統合)、三菱UFJ信託銀行、りそな銀行が参加する「機関投資家協働対話フォーラム」(*)の活動です。
* 投資先企業との対話強化のために企業年金連合会と大手金融機関が連携して昨年(2017年)10月に設立された、信託銀行等のパッシブ運用を行う運用機関による集団的エンゲージメントを行うためのプラットフォーム。機関投資家協働対話フォーラムの詳細は2017年11月8日のニュース『
集団的エンゲージメントを支援する「機関投資家協働対話プログラム」が始動』参照(文責・引用:上場会社役員ガバナンスフォーラム)。
同フォーラムは、経営トップの選任議案に相当数の反対票が投じられた企業に対し、①相当数の反対票が投じられた原因に関する取締役会での議論の内容、②社外役員の意見、③取締役会での議論を踏まえた課題認識と今後の対応の3点について説明を求めるエンゲージメント・レターを送付しました(2018年10月4日のニュース「協働対話フォーラム、トップ選任議案に20%以上の反対票企業にレター」参照。 引用:上場会社役員ガバナンスフォーラム)。
英国では、本年公表された改訂コーポレートガバナンス・コード(来年1月適用予定)により、会社提案の議案に対する反対率が20%を上回った場合には、株主に対してその理由や背景を説明することなどが求められることとなりました。日本のコーポレートガバンス・コード補充原則1-1①では、反対の理由・原因の分析が求められる「相当数の反対」について具体的な基準は示されていませんが、(企業の株主構成によって異なるものの)概ねの目安として、賛成率が80%を下回るよう場合には、特に賛成率が低位にとどまった原因の分析を行い、それによって把握された経営課題と対応方針を整理した上で投資家との対話に臨むことが求められるのではないでしょうか。
6.おわりに
「2.議決権行使結果から見る議案別傾向 (1)役員選任議案」で述べたとおり、本年6月総会では、特に経営トップの選任議案に対する賛成率の低下が確認されました。これは、会長や社長個人の資質を問うというよりは、会社の資本効率性(ROEなど)やガバナンス体制(取締役会の構成など)に対する株主の不満が経営トップの選任議案に向かったケースが多かったためと考えられます。また、機関投資家協働対話フォーラムが集団的エンゲージメントにおいて経営トップの選任議案への反対理由の分析を求めているのは、経営トップの選任議案への反対の背景には何らかの経営課題が存在すると考えているためであると推測されます。企業が株主との対話を進めていく上で、「反対の理由・原因の分析」への取り組みの重要性が増してきていると言えます。
また「2.投資家別の反対率分析(役員選任議案)」では、取締役選任議案について、ISSの反対推奨率よりも国内機関投資家の反対率の方が高い傾向が見られる点を確認しました。これは、議案によっては、海外機関投資家よりも国内機関投資家の方が、厳しい議決権行使を行う場合もあることを示しています。もっとも、国内機関投資家の賛成率は投資家毎に大きく異なっています。株主総会に上程する議案について、多くの株主から賛同を得て、高い賛成率で可決させるためには、「自社にとって賛成率に与える影響が大きい投資家」を中心に、賛否の判断基準やその背景にある考え方を理解することが必要です。
コーポレートガバナンス改革の動きはますます加速し、足元では資本コストや政策保有株式を巡る議論も活発になっています。こうした状況を受け、機関投資家も毎年のように議決権行使ガイドラインを見直しています。上場企業の経営陣には、IR/SR担当者とも連携しながら、機関投資家を含む株主との対話を通じて資本市場の変化を的確にとらえ、自社の取り組みに反映していくことが求められていると言えるでしょう。
SR : Shareholder Relations の略で、「株主向け広報」と訳される。株主を含む広く投資家全般に対する広報活動を「IR」 (Investor Relations) と呼ぶのに対し、SR活動とは、企業と株主との信頼関係を築くための活動を指す。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)