デザインを「重要な経営資源」として企業経営に活用すること。
特許庁は(2018年)6月28日、特許権等の知的財産の出願・登録状況といった知的財産の動向や知的財産に関する特許庁の国内外の取組みなどを毎年報告する「特許行政年次報告書」の2018年度版を公表したが、今年度の報告書の中で目に付くのがこの「デザイン経営」という言葉だ。
「デザイン経営」の具体的な中身は、元々は経済産業省・特許庁がデザインによる日本企業の競争力強化に向けた課題の整理とその対応策を検討するため昨年(2017年)7月に立ち上げた有識者会議「産業競争力とデザインを考える研究会」が今年5月にとりまとめた報告書『「デザイン経営」宣言』の中で示されていた。同宣言によると、「デザイン経営」とは、文字通りデザインを通じて企業のブランド価値とイノベーションの双方を向上させる経営のことを指す(デザイン経営の先行事例は【役員会 Good&Bad発言集】デザイン経営を参照)。
近年は日本企業の間でもデザインの重要性に注目が集まり、実際、マツダのようにデザインに定評のある企業もあるものの、有識者によれば、「デザイン経営」という観点からすると、日本企業は欧米企業にまだまだ及ばないというのが実情だという。例えばアップルのiPhoneやダイソンの掃除機は、機能だけでなく、その洗練されたデザインも人気の重要な要因となっている。つまり、デザインには、製品に対する顧客のロイヤリティの向上を通じて企業そのもののブランド価値向上に寄与する効果がある。また、発明により画期的な製品を開発し市場に投入した場合においても、訴求力の高いデザインがその製品の普及を促進し、さらに製品が普及することで結果的に製品自体のイノベーションも促進されることが期待できる。
このように、デザイン力の強化を通じて日本企業の差別化を図り、国際競争力の強化につなげたいというのが『「デザイン経営」宣言』の背景にある経済産業省の狙いだが、特許庁はこれとは別の思惑を持つ。具体的には、意匠法の改正だ。意匠法改正は現特許庁長官の“肝入り”と言われており、特許庁は2019年度の法案提出を目指している。同宣言の別紙「産業競争力の強化に資する今後の意匠制度の在り方」には今後の意匠法改正に向けた政策提言が列挙されているが、その中でも企業への影響が大きいのが、意匠権による保護の対象範囲の拡大だ。
意匠法は「製品」のデザインを保護することを目的としているため、例えば建築物の内外装といった‟空間デザイン”は一般的には「不動産」として整理され、保護の対象となって来なかった(欧米では保護対象となる)。また、スマホ等にインストールされたアプリの画像デザインは「特定用途の機器」に記録されるものとして現行意匠権の保護の対象となっているものの、インターネットにアクセスして表示される画像デザインのように、「特定の機器」に紐づいていない画像デザインは現行意匠法の保護対象となっていない。意匠法が改正されれば、今後はこれらのようなデザインも新たに保護の対象となる可能性がある。さらに、iPhoneのような一貫したコンセプトに基づく製品群のデザインについても、これまでは先行モデルを意匠登録すると、デザインが類似した後続モデルは「新規性がない」としての意匠登録が受けられなかったが、今回の意匠法改正では、この規制を緩和することも視野に入れているようだ。
このように特許庁が意匠法の大幅改定に動く背景には、近年の意匠登録件数の伸び悩みがある。そこで意匠法の保護対象を拡大して登録件数を増やしたい、というのが特許庁の本音と言える。もっとも、企業からすれば、単純に意匠法による保護の対象が増えたからといって手放しで喜べるわけではない。特に建築物の内外装のデザインが保護の対象となった場合、建築物を作る際には他の物件のデザインを侵害していないか事前の調査が必要となるといった手間が増えることになる。特に大規模物件ともなれば関係者も多く、そこでデザイン侵害となれば、デザインを変更したり、場合によっては構築を中止せざるを得なくなるなど、その後の影響は計り知れない。
具体的な改正案はまだ出ていないが、上記で紹介した別紙「産業競争⼒の強化に資する今後の意匠制度の在り⽅」を手掛かりに、意匠法の改正が自社に与える影響を予めシミュレーションしておく必要はあろう。





