先日ある上場企業の役員から、「同一労働同一賃金が実施されたら、契約社員や派遣社員の待遇のあり方などを本格的に検討しなければならない」という話を聞いた。しかし、この発言には大きな誤解がある。
確かに、2018年6月29日に国会で成立した「働き方改革関連法」の柱の一つである同一労働同一賃金が大企業に適用されるのは「2020年4月1日~」からであり、まだ時間的猶予があるように見える。
しかし、実は「同一労働同一賃金」は現行の法令にも規定されている。現行法令上、「同一労働同一賃金」が規定されているのは、下記の「労働契約法20条」と「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下、パートタイム労働法)8条」だ。
| 第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止) 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。 |
| 第8条(短時間労働者の待遇の原則) 事業主が、その雇用する短時間労働者の待遇を、当該事業所に雇用される通常の労働者の待遇と相違するものとする場合においては、当該待遇の相違は、当該短時間労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。 |
2018年6月29日に成立した働き方改革関連法では、「労働契約法第20条」が削除され、下記の改正条文のとおり「パートタイム労働法第8条」に“統合”されている(下線が改正部分)。上記の現行パートタイム労働法第8条では「短時間労働者」についてしか規定されていないが、下記の改正パートタイム労働法第8条では新たに「有期雇用労働者」が加えられている。
| 第八条(不合理な待遇の禁止) 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。 |
そして、新旧各条文の赤字の部分を比較すれば分かるとおり、同一労働同一賃金に反するかどうかの“判断基準”は変わってない。すなわち、現在でも、正社員等と短時間労働者・有期雇用労働者の間では法律上「同一労働同一賃金」が求められているということであり、「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」や「当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情」を考慮して、不合理な待遇の格差が存在していれば、事業主である企業はコンプライアンス違反を犯した状態となっているということだ。
ただそうなると、なぜ既に法律上の規定がある短時間労働者・有期雇用労働者に関する同一賃金同一労働を「働き方改革関連法」の中で新たに立法化する必要があったのかという疑問が生じる。この点、当フォーラムが厚生労働省に取材したところ、これまで「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」や「当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情」の詳細は裁判例等に委ねられており、明確な基準がなかったためだという。厚生労働省は2016年12月に、同一労働同一賃金に反する事例・反しない事例などをまとめた「同一労働同一賃金ガイドライン案」を公表しているが、本ガイドラインは公表から2年近く経った現在も「案」が付いたままとなっている。厚生労働省はこのガイドラインの根拠となる規定を「働き方改革関連法」の中で整備するほか(*)、条文中の「その他の事情」の詳細も現在検討中の省令等の中で示す方向だ。
いずれにせよ、現行の法律でも、正社員等と短時間労働者・有期雇用労働者の間では「同一労働同一賃金」が求められている以上、企業は「2020年4月1日~」の働き方改革関連法の適用開始を待たず、その実現に努めるべきだろう。
