2018年6月株主総会では株主による議案の提案(以下、株主提案)が相次いだが、その一つが「剰余金処分議案」、すなわち配当議案だ。通常、株主が配当議案を提案する理由は、会社が提案した配当額に満足できないということにある。
例えば3月決算会社の三信建設工業(証券コード:1984)の株主総会では、第1号議案として「会社提案」による剰余金処分議案、第3号議案として「株主提案」による剰余金処分議案がそれぞれ記載され、1株当たりの配当金額は会社提案の20円に対し、株主提案はその6倍以上の130円となっている。
近年、株主からの増配要求が高まる中、自社がいつ同様の提案を受けても不思議ではないだけに、上場会社の経営陣としては、株主提案が可決された場合に備えておく必要がある。具体的には、増配にも対応できる財務的な裏付けはもちろんのこと、もう一つ欠かせないが、配当金の支払いに関する手続だ。
会社法では、「配当の効力発生日」すなわち株主が配当金の支払いを請求することが可能になる日を株主総会決議で決めなければならないとしている(会社法454条1項三号)。株主が配当金の支払いを請求することが可能になるのは、配当議案が株主総会で決議された後となるため、大部分の上場会社は、株主総会が長引いたケースも想定し、株主総会の翌日を「配当の効力発生日」とし、同日中に配当金を株主の銀行口座に振り込むという実務を行ってきた。もっとも、株主総会の翌日に配当金の振込みを完了するためには、株主総会で配当議案が決議されてから支払い手続きをしていては間に合わないため、支払手続き自体は株主総会前から進めておく必要がある。そこには、「会社提案の配当議案は当然に株主総会で承認されるだろう」という“前提”がある。
株主提案による配当議案がほとんどなかった時代であればそれでもよかったかもしれないが、昨今は株主提案の配当議案が可決されてしまう、あるいは、大株主が何の予兆もなく総会当日に議場で反対票を投じ、議案が否決されてしまうといったことが十分に起こり得る。この場合、株主総会前から進めていた銀行口座への配当金の振込みをストップすることはもはや困難となる。
このように株主提案の配当議案が可決(会社提案の配当議案が否決)された事態も想定して、配当金の支払手続きを整理したのが、経団連、全国株懇連合会、証券保管振替機構の3団体が平成28年2月8日付で公表した「株主から剰余金の配当に関する提案が行われた場合の標準モデル」だ。「標準モデル」では、株主提案を受けた上場会社が配当金の支払手続きに必要な期間を確保するため、下表のとおり、配当金支払開始日を後ろ倒しすることを推奨している。
| 配当金支払いのタイミング |
配当金支払開始日 |
| 配当金支払開始日が配当基準日から起算して3か月を超えない場合 |
株主総会の日の翌営業日から起算して7営業日後の日以降の日
※この場合、「配当の効力発生日=配当金支払開始日」となる。
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| 配当金支払開始日が配当基準日から起算して3か月を超える場合 |
「配当の効力発生日」は「株主総会の日」とし、それとは別に、「配当金支払開始日」を株主総会後3週間以内の日に設定する。
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基準日 : その日において株主名簿に名前が載っていれば、株主総会での議決権行使や配当を受ける権利を享受できる日のこと。定時株主総会の基準日を定款に記載しなければ、毎年、基準日を公告しなければならない。その手間を避けるために、定款に基準日を記載するのが通常である。
配当金支払開始日が配当基準日から起算して3か月を超えるかどうかで配当金支払開始日を分けているのは、会社法上、株主が議決権を行使することができるのは「基準日から3か月以内」とされているからだ(会社法124条2項)。
3月決算会社の場合、毎年3月31日を配当基準日とすることを定款に規定しているのが通常であり、6月中に定時株主総会を開催しているのも、株主に「基準日から3か月以内」に議決権を行使させるために他ならない。配当議案が株主総会で決議された後は配当の効力が発生する(すなわち、株主は配当金の支払いを請求することが可能となる)が、配当金支払開始日が配当基準日から起算して3か月を超えないのであれば、上述のとおり株主総会の翌日を「配当の効力発生日=配当金支払開始日」とする現状の実務に近い実務を維持することができる。
一方、株主総会が6月末に近い場合、配当金の支払いが7月以降にずれ込む(すなわち、配当基準日から起算して3か月を超える)こともあろう。そこでこのような場合には、「配当の効力発生日」を株主総会の日に設定し、それとは別に、「株主総会後3週間以内の日」に「配当金支払開始日」を設定(=配当議案に盛り込み株主総会で決議)しておくべきとしている(「3週間以内の日」とされているのは、配当にかかる源泉所得税の法定調書の提出期限が「配当の効力発生日」から1か月以内とされていることを踏まえ、源泉徴収事務に要する時間を最低1週間確保するため)。「配当の効力発生日」を株主総会の日とするのは、株主総会で配当議案が可決されれば、配当の効力は発生せざるを得ないため。しかし、それと同時に配当を支払うことが実務上できないのであれば、配当の効力発生日より後ろに別に「配当金支払開始日」を設定すればよいということだ。会社法が、株主が議決権を行使することができるのは「基準日から3か月以内」としている以上、「配当の効力発生日」は基準日から3か月以内に設定する必要があるが、「配当金支払開始日」は基準日から3か月を超えてしまっても、配当の効力発生日とは別に同日を株主総会で決議しておけば、株主への遅延損害金の支払義務は発生しないと標準モデルには明記されている。
この標準モデルに沿って、配当の効力発生日とは別に配当支払開始日を設定した“初”の事例が、冒頭で紹介した三信建設工業だ。同社の「第63期定時株主総会招集ご通知」によると、会社提案、株主提案いずれの配当議案とも、配当の効力発生日は「平成30年6月28日」とされているが、両議案ともに配当の効力発生日とは別に、「平成30年7月19日」に配当金支払開始日が設定されている。
同社の株主提案は、定時株主総会の直前の6月25日に提案株主から「当該提案を撤回する」旨の書面が提出され、撤回されることとなったが(詳細は「株主提案の撤回に関する書面の受領に関するお知らせ」参照)、今後同種の株主提案は増えることが予想される。「配当の効力発生日」と「配当金支払開始日」を分離する実務が一般化する可能性もありそうだ。