2018/07/11 会社提案議案の“撤回事例”が大幅増加

2018年7月9日のニュース「2018年6月株主総会、会社提案議案で4件の否決事例」では、2018年6月の株主総会シーズンにおける会社提案議案の否決事例をお伝えしたところだが、会社提案議案が否決されることが議決権の事前行使等によって明らかな場合、否決という結果を待つまでもなく会社側が議案を撤回するという、いわば“実質否決”となる事例(以下、撤回事例)も少なくない。当フォーラムが議決権行使に関する臨時報告書をチェックしたところ、昨年(2018年)を大幅に上回る撤回事例が確認された・・・

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2018/07/11 会社提案議案の“撤回事例”が大幅増加(会員限定)

2018年7月9日のニュース「2018年6月株主総会、会社提案議案で4件の否決事例」では、2018年6月の株主総会シーズンにおける会社提案議案の否決事例をお伝えしたところだが、会社提案議案が否決されることが議決権の事前行使等によって明らかな場合、否決という結果を待つまでもなく会社側が議案を撤回するという、いわば“実質否決”となる事例(以下、撤回事例)も少なくない。当フォーラムが議決権行使に関する臨時報告書をチェックしたところ、昨年(2018年)を大幅に上回る撤回事例が確認された()。

 「議案(の)一部取(り)下げ」「議案(の)一部撤回」「議案の一部変更および取(り)下げ」「議案の一部上程見送り」をキーワードに、4月1日~6月末日の間に提出された適時開示書類のタイトルを調査

まず比較のために昨年6月総会の事例を振り返ると、下記の3件の撤回事例が出ている。

日本水産 補欠監査役1名選任の件
アルフレッサ ホールディングス 定款一部変更の件
テイツー ストックオプション発行を取締役会に委任する件

補欠監査役 : 通常、役員は定時株主総会で選任されることになるが、例えば定時株主総会の前に現役員が病気により辞任してしまうということがあり得る。役員辞任により役員の定員を欠く場合、臨時株主総会を開催して、辞任した役員に代わる役員を直ちに選任する必要があるが、会社からすると、手間とコストがかかる臨時株主総会の開催はできるだけ避けたいところだろう。そこで会社法では、このような場合に備えて辞任した役員の「後任候補」として“補欠の役員”を選任しておくことができるとしている(会社法329条2項)。補欠役員には、取締役の“補欠”である補欠取締役と、監査役の“補欠”である補欠監査役がある。また、補欠役員は、補欠の社外取締役や社外監査役として選任することや、常勤監査役や代表取締役といった特定の役員の補欠として選任することもできる。

日本水産は候補者が同社の顧問弁護士事務所に所属する弁護士、アルフレッサは定款の目的(事業内容)に自社の事業ドメインの決定を経営陣に白紙委任するに等しい「その他適法な一切の事業」を追加、テイツーは社外取締役もストックオプションの付与対象にするという、いずれも機関投資家が問題視する内容となっており、議決権の事前行使で十分な賛成票を得られなかったことが撤回の背景にあると推測できる。

そして今年の撤回事例は、下記のとおり昨年を大幅に上回る11件に及んでいる。

日東紡 取締役8名選任の件(第3号候補者)
ユアテック 取締役12名選任の件(第1号候補者)
じもとホールディングス 取締役12名選任の件(第12号候補者)
インフォメーション・ディベロプメント 新設分割計画承認の件、定款一部変更の件
ヤフー 定款一部変更の件
富士紡ホールディングス 監査役1名選任の件
そーせいグループ 取締役7名選任の件(第5号候補者)
ケーズホールディングス 監査役1名選任の件
日本海洋掘削 取締役7名選任の件(第6・7号候補者)
LCホールディングス 自己株式取得の件
セーレン 譲渡制限付株式の割当てのための報酬決定の件

上記のうち少なくとも4社については、独立性に問題のある社外役員候補者の選任議案を上程した事例と考えられる(じもとHD:大株主出身、富士紡HD:メインバンク出身、そーせいG:取引先出身、ケーズHD:担当監査法人出身)。またセーレンの譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)は、株式の割当て以降最初の株主総会の到来をもって譲渡制限が解除されることから、長期インセンティブとして疑問を持たれた可能性がある。

譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック) : 一定期間の譲渡制限が付された株式報酬

その他の事例については、純粋持株会社への移行手続の不備(インフォメーション・ディベロプメント)、会社更生法の申請に伴う役員候補者の辞退(日本海洋掘削)など、“特殊事例”と考えてよさそうだ。

2018/07/10 配当の支払いを7月に後ろ倒しする3月決算会社が出現

2018年6月株主総会では株主による議案の提案(以下、株主提案)が相次いだが、その一つが「剰余金処分議案」、すなわち配当議案だ。通常、株主が配当議案を提案する理由は、会社が提案した配当額に満足できないということにある。

例えば3月決算会社の・・・

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2018/07/10 配当の支払いを7月に後ろ倒しする3月決算会社が出現(会員限定)

2018年6月株主総会では株主による議案の提案(以下、株主提案)が相次いだが、その一つが「剰余金処分議案」、すなわち配当議案だ。通常、株主が配当議案を提案する理由は、会社が提案した配当額に満足できないということにある。

例えば3月決算会社の三信建設工業(証券コード:1984)の株主総会では、第1号議案として「会社提案」による剰余金処分議案、第3号議案として「株主提案」による剰余金処分議案がそれぞれ記載され、1株当たりの配当金額は会社提案の20円に対し、株主提案はその6倍以上の130円となっている。

近年、株主からの増配要求が高まる中、自社がいつ同様の提案を受けても不思議ではないだけに、上場会社の経営陣としては、株主提案が可決された場合に備えておく必要がある。具体的には、増配にも対応できる財務的な裏付けはもちろんのこと、もう一つ欠かせないが、配当金の支払いに関する手続だ。

会社法では、「配当の効力発生日」すなわち株主が配当金の支払いを請求することが可能になる日を株主総会決議で決めなければならないとしている(会社法454条1項三号)。株主が配当金の支払いを請求することが可能になるのは、配当議案が株主総会で決議された後となるため、大部分の上場会社は、株主総会が長引いたケースも想定し、株主総会の翌日を「配当の効力発生日」とし、同日中に配当金を株主の銀行口座に振り込むという実務を行ってきた。もっとも、株主総会の翌日に配当金の振込みを完了するためには、株主総会で配当議案が決議されてから支払い手続きをしていては間に合わないため、支払手続き自体は株主総会前から進めておく必要がある。そこには、「会社提案の配当議案は当然に株主総会で承認されるだろう」という“前提”がある。

株主提案による配当議案がほとんどなかった時代であればそれでもよかったかもしれないが、昨今は株主提案の配当議案が可決されてしまう、あるいは、大株主が何の予兆もなく総会当日に議場で反対票を投じ、議案が否決されてしまうといったことが十分に起こり得る。この場合、株主総会前から進めていた銀行口座への配当金の振込みをストップすることはもはや困難となる。

このように株主提案の配当議案が可決(会社提案の配当議案が否決)された事態も想定して、配当金の支払手続きを整理したのが、経団連、全国株懇連合会、証券保管振替機構の3団体が平成28年2月8日付で公表した「株主から剰余金の配当に関する提案が行われた場合の標準モデル」だ。「標準モデル」では、株主提案を受けた上場会社が配当金の支払手続きに必要な期間を確保するため、下表のとおり、配当金支払開始日を後ろ倒しすることを推奨している。

配当金支払いのタイミング 配当金支払開始日
配当金支払開始日が配当基準日から起算して3か月を超えない場合 株主総会の日の翌営業日から起算して7営業日後の日以降の日
※この場合、「配当の効力発生日=配当金支払開始日」となる。
配当金支払開始日が配当基準日から起算して3か月を超える場合 「配当の効力発生日」は「株主総会の日」とし、それとは別に、「配当金支払開始日」を株主総会後3週間以内の日に設定する。

基準日 : その日において株主名簿に名前が載っていれば、株主総会での議決権行使や配当を受ける権利を享受できる日のこと。定時株主総会の基準日を定款に記載しなければ、毎年、基準日を公告しなければならない。その手間を避けるために、定款に基準日を記載するのが通常である。

配当金支払開始日が配当基準日から起算して3か月を超えるかどうかで配当金支払開始日を分けているのは、会社法上、株主が議決権を行使することができるのは「基準日から3か月以内」とされているからだ(会社法124条2項)。

3月決算会社の場合、毎年3月31日を配当基準日とすることを定款に規定しているのが通常であり、6月中に定時株主総会を開催しているのも、株主に「基準日から3か月以内」に議決権を行使させるために他ならない。配当議案が株主総会で決議された後は配当の効力が発生する(すなわち、株主は配当金の支払いを請求することが可能となる)が、配当金支払開始日が配当基準日から起算して3か月を超えないのであれば、上述のとおり株主総会の翌日を「配当の効力発生日=配当金支払開始日」とする現状の実務に近い実務を維持することができる。

一方、株主総会が6月末に近い場合、配当金の支払いが7月以降にずれ込む(すなわち、配当基準日から起算して3か月を超える)こともあろう。そこでこのような場合には、「配当の効力発生日」を株主総会の日に設定し、それとは別に、「株主総会後3週間以内の日」に「配当金支払開始日」を設定(=配当議案に盛り込み株主総会で決議)しておくべきとしている(「3週間以内の日」とされているのは、配当にかかる源泉所得税の法定調書の提出期限が「配当の効力発生日」から1か月以内とされていることを踏まえ、源泉徴収事務に要する時間を最低1週間確保するため)。「配当の効力発生日」を株主総会の日とするのは、株主総会で配当議案が可決されれば、配当の効力は発生せざるを得ないため。しかし、それと同時に配当を支払うことが実務上できないのであれば、配当の効力発生日より後ろに別に「配当金支払開始日」を設定すればよいということだ。会社法が、株主が議決権を行使することができるのは「基準日から3か月以内」としている以上、「配当の効力発生日」は基準日から3か月以内に設定する必要があるが、「配当金支払開始日」は基準日から3か月を超えてしまっても、配当の効力発生日とは別に同日を株主総会で決議しておけば、株主への遅延損害金の支払義務は発生しないと標準モデルには明記されている。

この標準モデルに沿って、配当の効力発生日とは別に配当支払開始日を設定した“初”の事例が、冒頭で紹介した三信建設工業だ。同社の「第63期定時株主総会招集ご通知」によると、会社提案、株主提案いずれの配当議案とも、配当の効力発生日は「平成30年6月28日」とされているが、両議案ともに配当の効力発生日とは別に、「平成30年7月19日」に配当金支払開始日が設定されている。

同社の株主提案は、定時株主総会の直前の6月25日に提案株主から「当該提案を撤回する」旨の書面が提出され、撤回されることとなったが(詳細は「株主提案の撤回に関する書面の受領に関するお知らせ」参照)、今後同種の株主提案は増えることが予想される。「配当の効力発生日」と「配当金支払開始日」を分離する実務が一般化する可能性もありそうだ。

2018/07/09 2018年6月株主総会、会社提案議案で4件の否決事例

昨年(2017年)6月の株主総会シーズンでは、会社提案議案の否決事例が2件出たところだ(2017年7月14日のニュース「譲渡制限付株式報酬への賛成率が低かった2つのパターン」参照)。具体的には、T&K TOKAとイリソ電子工業の退職慰労金贈呈議案であり、いずれも監査役を対象としていた。報酬の後払いによって取締役会に対する監査役の牽制機能が低下するのではないかという機関投資家の懸念が反対票となって否決に結び付いたものと言える。

では、今年6月の株主総会シーズンはどうだっただろうか。当フォーラムが議決権行使に関する臨時報告書をチェックしたところ、少なくとも以下の4件の会社提案議案が否決されたことが確認されている。具体的には下表のとおり。・・・

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2018/07/09 2018年6月株主総会、会社提案議案で4件の否決事例(会員限定)

昨年(2017年)6月の株主総会シーズンでは、会社提案議案の否決事例が2件出たところだ(2017年7月14日のニュース「譲渡制限付株式報酬への賛成率が低かった2つのパターン」参照)。具体的には、T&K TOKAとイリソ電子工業の退職慰労金贈呈議案であり、いずれも監査役を対象としていた。報酬の後払いによって取締役会に対する監査役の牽制機能が低下するのではないかという機関投資家の懸念が反対票となって否決に結び付いたものと言える。

では、今年6月の株主総会シーズンはどうだっただろうか。当フォーラムが議決権行使に関する臨時報告書をチェックしたところ、少なくとも以下の4件の会社提案議案が否決されたことが確認されている。具体的には下表のとおり。

企業名 議案 賛成率
JPホールディングス 取締役選任(代表取締役社長、他5名) 36.06%
テクノメディカ 退職慰労金制度廃止に伴う打ち切り支給 39.60%
21LADY 取締役選任(代表取締役社長) 43.50%
アドバネクス 取締役選任(代表取締役会長、他3名) 49.20%

テクノメディカの退職慰労金打ち切り支給議案の対象は取締役8名で、うち3名が監査等委員であることから、昨年のT&K TOKAとイリソ電子工業と同様の理由で、機関投資家が反対票を投じたものと考えられる。テクノメディカの株主構成を見ると外国人投資家が3割を超えており、もともと可決は難しい状況だったと言えるかもしれない。

JPホールディングスと21LADYの場合、事前に取締役選任に関する株主提案が上程されていた。JPホールディングスの株主提案は、①取締役2名の選任(うち1名はJPホールディングスの筆頭株主であるマザーケアジャパン株式会社(議決権割合:27.41%)の代表取締役で、もう1名は同社の完全親会社である未来キャピタル株式会社の従業員)、②社外取締役3名の選任(うち1名はJPホールディングスの元使用人、1名はマザーケアジャパンの顧問弁護士、もう1名は弁護士)、③定款の一部変更(取締役の解任に必要な方法を、株主総会における議決権の「3分の2以上」から「過半数」に変更)――というもの(詳細は同社の株主招集通知16ページ~ 参照)。株主提案を行った株式会社ページワン(JPホールディングスの株主)は会社提案の社内取締役候補2名、社外取締役候補1名の選任にも賛成しているため、仮に本株主提案が通れば取締役会は7名で構成されることになり、そのうち4名が社外取締役ということになる。一方、21LADYの株主提案は、同社の代表取締役社長の33.40%次ぐ第2位の株主(議決権割合:16.83%)であるサイアムライジングインベストメント1号合同会社によるもので、①会社が提案している取締役4名(うち1名は、サイアムライジングインベストメント1号合同会社の代表社員でもある社外取締役)に新任の社外取締役3名(うち1名はサイアムライジングインベストメント1号合同会社の出資者)を加える(この結果、同社の取締役7名のうち4名はサイアムライジングインベストメント1号合同会社が選任を提案した社外取締役が占めることになる)、②現在3名いる社外監査役に2名の社外監査役を加える――というもの(詳細は同社の株主招集通知31ページ~参照)。

言うまでもなく、JPホールディングスにおいては筆頭株主のマザーケアジャパン、21LADYにおいては第2位株主であるサイアムライジングインベストメント1号合同会社の意向が、会社提案(経営トップ等の再任)議案の否決に大きく影響したものと見られる。

一方、アドバネクスに関しては、事前に株主提案は出ておらず、株主総会の場において実質的動議が提出された結果であり(実質的動議については【株主総会の運営】株主総会での動議提出に備えたい の『動議には「実質的動議」と「手続的動議」の2種類』を参照)、まさに「フタを開けたら」経営トップ(しかも創業家の出身者)が地位を奪われた、という形になった(詳細は同社の定時株主総会決議通知1ページ参照)。もっとも、昨年4月提出の大量保有報告書によると、第2位以下の株主5社が共同で議決権割合の17.6%を保有している。この実質的な筆頭株主が今回の否決において大きな役割を果たしたことは間違いないだろう。

以上のように、今回会社提案議案の否決を受けた4つの上場会社は、いずれも株主構成に大きな特徴があった。また、JPホールディングスと21LADYでは取締役の選任等について株主提案が行われており、大株主が株主総会でどのような行動に出るのかは予測ができた。上場会社としては、常に株主構成に目を配ったうえで経営権の安定を保つ努力が不可欠な時代になったと言えよう。

2018/07/06 役員報酬制度の高度化の先にあるもの

2018年7月3日のニュース「“日本流”の役員報酬制度を維持することの是非」では、長期間の役員在任と固定報酬を中心とした日本的報酬制度の方が自社の持続的成長に確実につながるということであればそれを変える必要はない旨お伝えしたところだが、今回はそれとは逆のシナリオをみてみよう。

上記ニュースでもお伝えしたとおり、中長期インセンティブ報酬が一般的となっている欧米企業においては、「どのような人材がどのような役割を期待されてそのポジションに就き(指名)、期待される役割を実現するためにはどのような報酬パッケージが有効か」というように“個”にフォーカスして指名および報酬が検討されることになる。一方、多くの日本企業ではいまだに「役員報酬テーブル」を基準に「取締役になるといくら、常務になるといくら、社長になるといくら」など、個人よりも役職という“椅子”にフォーカスして報酬額が決定されているのが現状だ。

しかし、日本でも・・・

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2018/07/06 役員報酬制度の高度化の先にあるもの(会員限定)

2018年7月3日のニュース「“日本流”の役員報酬制度を維持することの是非」では、長期間の役員在任と固定報酬を中心とした日本的報酬制度の方が自社の持続的成長に確実につながるということであればそれを変える必要はない旨お伝えしたところだが、今回はそれとは逆のシナリオをみてみよう。

上記ニュースでもお伝えしたとおり、中長期インセンティブ報酬が一般的となっている欧米企業においては、「どのような人材がどのような役割を期待されてそのポジションに就き(指名)、期待される役割を実現するためにはどのような報酬パッケージが有効か」というように“個”にフォーカスして指名および報酬が検討されることになる。一方、多くの日本企業ではいまだに「役員報酬テーブル」を基準に「取締役になるといくら、常務になるといくら、社長になるといくら」など、個人よりも役職という“椅子”にフォーカスして報酬額が決定されているのが現状だ。

しかし、日本でも中長期インセンティブ報酬を導入する企業が増える中、役員自身による役員報酬制度の仕組みと趣旨の正しい理解が進み、文字通りそれが役員にとってのインセンティブとして機能するようになれば、次第に「椅子から個へ」の流れが加速していくことになるものと思われる。

「椅子から個へ」の流れが強まれば、上述の欧米企業のように、指名と報酬は別個の論点ではなくセットで検討されるようになる。両者には「報酬を通じた評価」と「選解任や昇降格を通じた評価」という違いこそあるものの、いずれも「経営者の評価手段」であるという点では共通しているため、別個の独立した論点として扱うより、相互に関連づけて捉えた方が論理的だからだ。例えば、投資家に対して高額報酬の合理性を、高額報酬と表裏一体となっている厳格な選解任基準で説明することも可能になる。

そうなると、役員報酬制度は、指名との連携を前提に、そのあり方の自由度が広がる(その一つの例として、高額報酬も許容されやすくなる)。そして、指名と報酬の連携による選解任の厳格化や報酬の高額化は、人材の資質や能力の客観的な評価の精度を高め、評価されている人材(≒高額報酬を得ている人材)が自社以外の企業でも活躍できるであろうというある種の“保証”を生むことになる。これは経営幹部人材の流動化と企業間の獲得競争を生み、さらなる報酬の高額化、また、それを実現する報酬制度の高度化(複雑化)を加速させることになるだろう。

日本流の役員報酬制度を維持することは必ずしも否定されない一方で、日本企業の役員報酬制度はますます欧米化が進んでいくというシナリオも十分に考えられそうだ。

2018/07/05 投資家との実りある対話のために企業ができること

コーポレートガバナンス・コードが企業に投資家との建設的な対話(基本原則3)を求めて以来、経営者を中心とした企業と機関投資家の対話の機会は増えているが、それに比例して企業から対話の内容について不満の声も高まっている。不満の多くは、「機関投資家の質問はあらかじめ用意したチェックボックスを埋めるための形式的なものばかりで、我々は機関投資家の“対話回数の実績作り”の相手をさせられているだけではないか」というものだ。

このような企業側からの批判への反省に加えて、より良い対話の実現に向けて、機関投資家の中でもアクティブファンド()の運営・投資判断を行う責任者が集い議論を重ねたうえで、2018年5月18日には「アクティブ・ファンドマネージャー宣言」が公表されている。

 機関投資家は、個別企業の株価が高いか安いかなどは考慮せずに例えば東証株価指数(TOPIX)などの指数に連動した運用成果を目指す「パッシブ投資家」と、銘柄を選別し、魅力のある銘柄を購入する一方で、成長が見込めなくなった銘柄を売却するなどして利益を得ようとする「アクティブ投資家」に大きく分かれる。企業との建設的な対話を尊重するのは「アクティブ投資家」の方である。

同宣言では、アクティブ・ファンドマネージャーに「対話することの自己目的化や対話の形骸化」を避けることを求める一方で、企業に対しても「価値協創ガイダンス」を踏まえた情報開示を求めている(「アクティブ・ファンドマネージャー宣言」や「価値協創ガイダンス」については2018年5月18日のニュース『統合報告書の「質」向上へ 経産省が新たな取り組み』および【2018年1月の課題】投資家が評価する実効的なコーポレートガバナンスを参照)。

同宣言を取りまとめたのは経済産業省に設置された統合報告・ESG対話フォーラム内のアクティブ・ファンドマネージャー分科会だが、同分科会は2018年6月25日に新たな報告書を公表している。この報告書の注目ポイントの一つが、・・・

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2018/07/05 投資家との実りある対話のために企業ができること(会員限定)

コーポレートガバナンス・コードが企業に投資家との建設的な対話(基本原則3)を求めて以来、経営者を中心とした企業と機関投資家の対話の機会は増えているが、それに比例して企業から対話の内容について不満の声も高まっている。不満の多くは、「機関投資家の質問はあらかじめ用意したチェックボックスを埋めるための形式的なものばかりで、我々は機関投資家の“対話回数の実績作り”の相手をさせられているだけではないか」というものだ。

このような企業側からの批判への反省に加えて、より良い対話の実現に向けて、機関投資家の中でもアクティブファンド()の運営・投資判断を行う責任者が集い議論を重ねたうえで、2018年5月18日には「アクティブ・ファンドマネージャー宣言」が公表されている。

 機関投資家は、個別企業の株価が高いか安いかなどは考慮せずに例えば東証株価指数(TOPIX)などの指数に連動した運用成果を目指す「パッシブ投資家」と、銘柄を選別し、魅力のある銘柄を購入する一方で、成長が見込めなくなった銘柄を売却するなどして利益を得ようとする「アクティブ投資家」に大きく分かれる。企業との建設的な対話を尊重するのは「アクティブ投資家」の方である。

同宣言では、アクティブ・ファンドマネージャーに「対話することの自己目的化や対話の形骸化」を避けることを求める一方で、企業に対しても「価値協創ガイダンス」を踏まえた情報開示を求めている(「アクティブ・ファンドマネージャー宣言」や「価値協創ガイダンス」については2018年5月18日のニュース『統合報告書の「質」向上へ 経産省が新たな取り組み』および【2018年1月の課題】投資家が評価する実効的なコーポレートガバナンスを参照)。

同宣言を取りまとめたのは経済産業省に設置された統合報告・ESG対話フォーラム内のアクティブ・ファンドマネージャー分科会だが、同分科会は2018年6月25日に新たな報告書を公表している。この報告書の注目ポイントの一つが、アクティブ・ファンドマネージャーが価値協創ガイダンスを企業との対話に試用した際に体感した「効果」に関する記述だ。

価値協創ガイダンスが公表されて以降、いくつかの企業との対話で価値協創ガイダンスを試用してみたアクティブ・ファンドマネージャーは、「全体として企業の開示レベルが改善していても、不十分なところもある、という点を浮き彫りにするのにガイダンスは効果的」との感想を述べている。価値協創ガイダンスには、投資家が欲する情報が網羅性を持って記載されていることから、「このような“ピース”があると望ましい」ということを伝えるのに便利だという(報告書48ページの213参照)。

一方、企業側も、投資家からの情報提出要請を待つだけの受け身の姿勢では、実りある対話の実現は程遠い。価値協創ガイダンスのうち「基本的な項目を言語化し、言語化した材料をウェブサイトなりどこかに置いておいてくれれば事前に予習できるので対話の場で質問する必要がなく時間の節約になり、かつ、有益な議論ができる」という機関投資家の提案の実現は企業にとってもそれほど難しいものではない(報告書50ページの223)。企業が価値協創ガイダンスを利用して情報を整理し、その情報を自ら発信することで、対話の当事者双方がメリットを感じられる形になることが、対話を実りあるものとするコツと言えよう。