金融庁が進めるスチュワードシップ・コード(以下、SSコード)の改訂では、2025年4月20日にパブコメの募集が終了したところだが、近く公表される見込みの確定版、確定版と同時に公表される「スチュワードシップ・コードの第三次改訂に当たって」、パブコメに寄せれた主な意見とそれに対する金融庁の回答が当フォーラムの取材により判明した。
今回の改訂のポイントは①実質株主の透明化、②協働エンゲージメントの推進、③SSコードのスリム化、④議決権行使助言会社の体制の4点だが(2025年2月18日付のニュース「速報 スチュワードシップ・コードの改訂内容が判明」参照)、パブコメに付された改訂案と確定版を比較すると、変更点はない。ただ、SSコード改訂前の「スチュワードシップ・コードに関する有識者会議」(以下、有識者会議)の最終会合からパブコメまでに書き振りが変更になった部分がある。主なパブコメの内容とそれに対する金融庁の回答および「スチュワードシップ・コードの第三次改訂に当たって」で示された対応とともにお伝えする。
実質株主 : 議決権行使を指図しているが株主名簿には記載されない者
① 実質株主の透明化
実質株主の透明化については、法務省の法制審議会で会社法上の「実質株主確認制度」の創設に関する議論が行われる前に、まずはソフトローであるSSコードに新たな指針として下記の4-2が追加されている。
| 指針4-2 投資先企業との間で建設的に対話を行うために、投資先企業からの求めに応じて、自らがどの程度投資先企業の株式を保有しているかについて企業に対して説明すべきであり、投資先企業から求めがあった場合の対応方針についてあらかじめ公表すべきである。 |
パブコメでは、法制上の手当てがない中でSSコードに指針を新設することへの違和感から、「照会者の真正性はどのように担保するのか」との意見が寄せられたが、金融庁の回答は「通常の実務慣行に照らし適切な方法」で担保するといった漠然としたものにとどまっている。
企業から機関投資家に対して照会があった場合の回答の基準時点については、「『投資先企業との建設的な対話』に資するという趣旨に合致する限りにおいて、各機関投資家の判断に委ねられる」とされた。また、上記SSコードの太字部分「投資先企業から求めがあった場合の対応方針」の内容について金融庁は、「各機関投資家の置かれた状況に応じて検討いただくことが望ましいものと考えられますが、例えば、以下の項目について公表することが考えられます」と述べ、下記の項目を例示している。
| ・回答の基準時点 ・回答可能な頻度 ・回答までに要する期間 ・照会者の真正性に関する確認方法 ・その他、照会に当たっての留意事項等 ※上記に限るものではなく、また、運用を通じて公表すべき内容を適宜アップデートされることが望ましいことに留意する必要があります。 |
② 協働エンゲージメント
元々、協働エンゲージメントに関する議論はこれをポジティブに捉え、SSコードに盛り込むべく始まったものだが、内外からネガティブな意見が多数表明され、今回の改訂では、協働エンゲージメントについて現行SSコードでは「有益な場合もあり得る」とされていたところ、これが「重要な選択肢である」という表現に変更されるにとどまっている(下記の太字部分)。
| 指針4-6 機関投資家が投資先企業との間で対話を行うに当たっては、単独でこうした対話を行うほか、他の機関投資家と協働して対話を行うこと(協働エンゲージメント)も重要な選択肢である。対話のあり方を検討する際には、投資先企業の持続的成長に資する建設的な対話となるかを念頭に置くべきである。 |
金融庁が改訂SSコードの確定版と同時に公表する「スチュワードシップ・コードの第三次改訂に当たって」には、パブコメを踏まえた対応として、以下の内容が盛り込まれる。協働エンゲージメントに対するネガティブな意見に配慮したものと言える。
| 「機関投資家が協働エンゲージメントを行うに当たって留意すべき点」については、以下を含めた複数の意見を頂いた。 ・ 機関投資家が協働エンゲージメントを行うに当たっては、参加自体を目的とするのではなく、機関投資家及び投資先企業の双方にとって合理的なものとなるよう留意すべき ・ 機関投資家は、協働エンゲージメントを行う複数の機関投資家が保有する株式の合計数を背景として、その要求を通そうとする高圧的な対話を行うべきではなく、特に短期的な利益を得るための手段としてこれを行うべきではない ・ 投資家の課題認識の考え方、背景や理由が記述された文書であるエンゲージメントレターを投資先企業に送付することが有意義な場合もある ・ 協働エンゲージメントを実施する運用機関の取り組みに対して、インベストメント・チェーンの参加者全体が、適切に評価し支援することが重要 ・ 協働エンゲージメントに参加する投資家は、事前に対話内容についてよく認識合わせをし、取締役・経営陣と時間をかけて双方向の対話を行うべき 今後、上記の意見も踏まえながら、実務における事例の収集・共有をはかることが考えられる。 |
③ SSコードのスリム化
SSコードのスリム化については、上記「スチュワードシップ・コードの第三次改訂に当たって」に「削除・統合・簡略化された箇所についてその趣旨の重要性が否定されるものではないことに留意が必要」との一文が盛り込まれ、負担軽減等の観点から削除等が行われたものではないことが強調されている。
④議決権行使助言会社の体制
SSコード改訂前の有識者会議の最終会合で示された文案がパブコメに付すまでに変更されたのが指針8-2だ。最終会合では以下の改訂を行うことが提案されていた(赤字が改訂箇所)。
| 8-2 議決権行使助言会社は、運用機関に対し、個々の企業に関する正確な情報に基づく助言を行うため、企業を含む関係者と意思疎通を行うのに十分な人員を備えた拠点を日本に設置することを含め十分かつ適切な人的・組織的体制を整備すべきであり、透明性を図るため、それを含む助言策定プロセスを具体的に公表すべきである。 |
最終的な表現は下記のとおり。
| 8-2 議決権行使助言会社は、運用機関に対し、個々の企業に関する正確な情報に基づく助言を行うため、日本に拠点を設置することにより、企業を含む関係者との意思疎通を実効的に行うのに十分かつ適切な人的・組織的体制を整備すべきであり、透明性を図るため、それを含む助言策定プロセスを具体的に公表すべきである。 |
一見すると、赤字部分と太字部分は似通っているが、前者が「十分な人員を備えた拠点」を日本に設置することを求めているのに対し、後者では従来通り単に「日本に拠点を設置することにより」という表現となっており、日本の拠点に十分な人員を置くべきというニュアンスは薄れることになった。
以上からは今回の改訂で機関投資家側と企業側の意見がぶつかった形跡が見て取れ、その結果、両者の意見を折衷したような書き振りとなっているところもある。こうした中、実効性ある対話の実現に向けた改訂SSコードの運用面が注目されるところだ。
