ある日本の中堅企業では、いわゆる“モノ言う株主”に突如5%を超える株式を保有されるとともに、潤沢なキャッシュの有効活用について経営陣の考え方を問われたという。結局その企業は増配を決めたが、以前であれば“ハゲタカ”などと批判を浴びかねなかったこうした投資家に対しては、現在ではむしろ経営陣に圧力をかけることで企業を良い方向に導く役割さえ期待されている。
物言う株主の一つとして世界的に著名なのが、アクティビスト投資家エドワード・ブランソン氏率いる米投資会社シェルボーン・インベスターズだ。ブランソン氏は相当数の株式を取得後、取締役を送り込んで経営陣を退陣に追い込み、コスト削減の断行、株主への増配等を要求することで知られる。例えば、ロンドンに本社を置くF&C アセットマネジメント(現在はカナダのモントリオール銀行の100%子会社)に対しては、かつて約20%の株式を取得後、取締役会議長を退陣に追い込み、コスト削減と投資戦略の刷新を行った。また、ロンドン証券取引所に上場する投資信託であるエレクトラ・プライベート・エクイティに対しても約30%の株式を取得後、フランンソン氏が推薦した人物を取締役会に送り込むとともに、自らCEOに就任し、コスト削減策を断行した実績がある。
そのシェルボーン・インベスターズがこのほど、英国の大手銀行バークレイズの株式を5.16%取得したことが明らかになっている。取引額は5億8,000万ポンド(日本円で約887億)に上るが、同行の時価総額は340億ポンドと巨大であり、シェルボーン・インベスターズがこれまでのように取締役を送り込み戦略変更を迫るのには5%余りの議決権では困難であり、同行の他の有力株主であるフィデリティ、インベスコなどの支持を取り付ける必要がある。ちなみに、シェルボーン・インベスターズを率いるブランソン氏はこれまで、政治や規制動向に敏感な銀行業界への投資経験はない。それだけに、今回の投資は同氏にとっても大きなチャレンジと言える。
とはいえ、バークレイズ銀行は2015年に現在のジェス・ステイリーCEOが就任して以来、アフリカ事業や欧州でのリール銀行事業の売却、支店閉鎖を通じたコスト削減策を推進するとともに、投資銀行部門の業績回復に取り組み、さらに2月の決算発表の場では増配を打ち出したものの、昨期は19億ポンドの純損失を出し、株価もストックス欧州600指数に採用されている銀行株が7.5%上昇する中で12%以上下落しており、投資家の不満は大きい。投資家の間では、市場のボラティリティ低下や金融危機後の規制強化により低迷が続く投資銀行部門を縮小し、より収益性の高いリテール銀行事業やクレジットカード事業に資本を集中すべきとの声も根強い。ブランソン氏は他の物言う株主と異なり、メディアの力を利用せず、手の内を明かさないことでも有名だが、同氏も同様の戦略を持っているとみられる。
ストックス欧州600指数 : イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スイスなどヨーロッパ17か国における証券取引所上場の上位600銘柄により構成される株価指数
ボラティリティ : 変動率。「株価のボラティリティが高い」とは、株価が乱高下することを意味する。
わずか5%の議決権を保有したアクティビスト投資家が他の既存株主も巻き込み巨大銀行の経営方針の大転換を実現することになるのか、日本の資本市場および日本企業の近未来を占う意味でも、その動向が注目される。

