資生堂の第118回(2017年12月期)株主総会が3月27日に開催され、その議決権行使結果に関わる臨時報告書が翌28日に開示されている。同社はコーポレートガバナンス優良企業としてのレピュテーションが高いことで知られるが、今回の臨時報告書において目を引くのが、第4号議案「取締役の報酬額改定の件」の低賛成率である。事前行使における賛成率は他議案が96~99%のところ当該議案は82.8%、議決権行使トータルでは他議案が90~94%で当該議案は77.9%にとどまった。
資生堂の2017年12月末時点における株主構成を確認すると、外国人株主が41.35%、大株主のうち信託口が合計して17.6%あることから、機関投資家株主の割合は少なくとも50%に達しているとみられる。約50%に対しての反対率20%強というのは、機関投資家がこぞって反対したとは言えない反面、ISSなど議決権行使助言会社による反対推奨も想定される水準である。なお、少なくとも過去5期間にわたって、資生堂の株主総会において反対率が90%を割った議案は他に存在しないようだ。
問題の第4号議案「取締役の報酬額改定の件」の概要は以下となっている。
■取締役の報酬限度額を月額3,000万円以内から年額20億円に改定する
■当該報酬限度額の範囲内で基本報酬に加えて賞与も支給できるようにする
■社外取締役については基本報酬のみを支給する
■上記報酬限度額は従来の支給実績、他社水準、取締役の員数(社内3名、社外4名)、取締役の多様性向上に対する同社方針などを総合的に勘案したものである
■役員報酬諮問委員会および評価部会による経常的な経営評価を踏まえ、取締役会が具体的な賞与支給額を最終決定する
では、当議案の何が問題なのだろうか。以下に想定される論点を考察してみる。
① 報酬限度額の増加幅が大き過ぎる
月額3,000万円を年額にすると3億6,000万円であり、今回報酬限度額は5倍以上に増加することになる。また従来の報酬限度額は1989年に承認されたものであり、当時の取締役人数は現在(7人、うち社内3人)と比べて格段に多かったと思われるため、1人あたりの金額を考えるとさらに増加する印象が強いだろう。もっとも、上記の3億6,000万円という数字は賞与を計算に入れておらず、既に前期の取締役報酬実績は5億8,500万円とこれを超えている。また、魚谷社長の個人報酬は3億7,700万円であり、仮に今後、報酬5億円の社内取締役が4人になれば総額20億円に達する。これが過大かどうかはグローバルな経営者報酬水準も加味して議論されるべきだろう。
② 報酬決定するプロセスに透明性が不足している
資生堂の役員報酬制度に関する開示は、株主総会招集通知の7頁にわたる詳細なものであり、国内上場企業の中でもトップクラスのクオリティと評価できる。問題があるとすれば、決定プロセスにおいて重要な役割を果たしている役員報酬諮問委員会の構成かもしれない。本株主総会前の時点で同委員会は5名のうち4名が独立した社外取締役で、うち1名が委員長を務めていることから、相当に高い独立性を担保しているとは言える。しかし残り1名の委員が魚谷社長で、利益相反の可能性を指摘する投資家はいるかもしれない。
③ 賞与議案が今後、諮られることがなくなる
これまで資生堂は毎年、株主総会において「取締役賞与支給の件」という議案を諮ってきた。しかし、「取締役の報酬額改定の件」が上程された今年から「取締役賞与支給の件」は諮られなくなり、来年以降の報酬関連議案はストック・オプションの付与に関するものだけとなる。このことを以って、従来株主に与えられてきた「権利」剥奪するものである、と考える投資家は決して少なくないかもしれない。グローバルでは株主総会は取締役を選任する場と捉えられており、多くの権限が取締役会に移譲されて然るべきではある。しかし、資生堂の社外取締役は総会前こそ取締役会の過半数(7人中の4人)を占めていたが、総会後は1名減少して半数(6人中の3人)にとどまった。取締役会が株主利益を十分に反映しない構造とみなされた可能性もありそうだ。
