2018/04/06 ガバナンス優良企業で、取締役報酬額改定議案に低賛成率(会員限定)

資生堂の第118回(2017年12月期)株主総会が3月27日に開催され、その議決権行使結果に関わる臨時報告書が翌28日に開示されている。同社はコーポレートガバナンス優良企業としてのレピュテーションが高いことで知られるが、今回の臨時報告書において目を引くのが、第4号議案「取締役の報酬額改定の件」の低賛成率である。事前行使における賛成率は他議案が96~99%のところ当該議案は82.8%、議決権行使トータルでは他議案が90~94%で当該議案は77.9%にとどまった。

資生堂の2017年12月末時点における株主構成を確認すると、外国人株主が41.35%、大株主のうち信託口が合計して17.6%あることから、機関投資家株主の割合は少なくとも50%に達しているとみられる。約50%に対しての反対率20%強というのは、機関投資家がこぞって反対したとは言えない反面、ISSなど議決権行使助言会社による反対推奨も想定される水準である。なお、少なくとも過去5期間にわたって、資生堂の株主総会において反対率が90%を割った議案は他に存在しないようだ。

問題の第4号議案「取締役の報酬額改定の件」の概要は以下となっている。
■取締役の報酬限度額を月額3,000万円以内から年額20億円に改定する
■当該報酬限度額の範囲内で基本報酬に加えて賞与も支給できるようにする
■社外取締役については基本報酬のみを支給する
■上記報酬限度額は従来の支給実績、他社水準、取締役の員数(社内3名、社外4名)、取締役の多様性向上に対する同社方針などを総合的に勘案したものである
■役員報酬諮問委員会および評価部会による経常的な経営評価を踏まえ、取締役会が具体的な賞与支給額を最終決定する

では、当議案の何が問題なのだろうか。以下に想定される論点を考察してみる。

① 報酬限度額の増加幅が大き過ぎる
月額3,000万円を年額にすると3億6,000万円であり、今回報酬限度額は5倍以上に増加することになる。また従来の報酬限度額は1989年に承認されたものであり、当時の取締役人数は現在(7人、うち社内3人)と比べて格段に多かったと思われるため、1人あたりの金額を考えるとさらに増加する印象が強いだろう。もっとも、上記の3億6,000万円という数字は賞与を計算に入れておらず、既に前期の取締役報酬実績は5億8,500万円とこれを超えている。また、魚谷社長の個人報酬は3億7,700万円であり、仮に今後、報酬5億円の社内取締役が4人になれば総額20億円に達する。これが過大かどうかはグローバルな経営者報酬水準も加味して議論されるべきだろう。

② 報酬決定するプロセスに透明性が不足している
資生堂の役員報酬制度に関する開示は、株主総会招集通知の7頁にわたる詳細なものであり、国内上場企業の中でもトップクラスのクオリティと評価できる。問題があるとすれば、決定プロセスにおいて重要な役割を果たしている役員報酬諮問委員会の構成かもしれない。本株主総会前の時点で同委員会は5名のうち4名が独立した社外取締役で、うち1名が委員長を務めていることから、相当に高い独立性を担保しているとは言える。しかし残り1名の委員が魚谷社長で、利益相反の可能性を指摘する投資家はいるかもしれない。

③ 賞与議案が今後、諮られることがなくなる
これまで資生堂は毎年、株主総会において「取締役賞与支給の件」という議案を諮ってきた。しかし、「取締役の報酬額改定の件」が上程された今年から「取締役賞与支給の件」は諮られなくなり、来年以降の報酬関連議案はストック・オプションの付与に関するものだけとなる。このことを以って、従来株主に与えられてきた「権利」剥奪するものである、と考える投資家は決して少なくないかもしれない。グローバルでは株主総会は取締役を選任する場と捉えられており、多くの権限が取締役会に移譲されて然るべきではある。しかし、資生堂の社外取締役は総会前こそ取締役会の過半数(7人中の4人)を占めていたが、総会後は1名減少して半数(6人中の3人)にとどまった。取締役会が株主利益を十分に反映しない構造とみなされた可能性もありそうだ。

2018/04/05 任意の諮問委員会、設置しなければ「エクスプレイン」必要に

(2018年)6月からの施行に向け現在パブリックコメントに付されているコーポレートガバナンス・コードの改訂案(以下、改訂CGコード案)の中で(改訂CGコードの提出期限等については2018年4月3日のニュース「東証、改訂CGコードに対応したCG報告書の年内提出求める」参照)、改訂案を提言した「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、フォローアップ会議)で厳格化を求める声が強かったのが、任意の指名委員会・報酬委員会について規定する補充原則4-10①だ。同原則については、下記の見直しが提案されている(赤字が見直し部分)。

上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、例えば、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の指名委員会・報酬委員会など、独立した諮問委員会を設置することなどにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである。

追加された「指名委員会・報酬委員会など、独立した」という文言は、従来からある「指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため」「取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする」という部分と類似しているなど、一見すると本改訂はそれほど重大なものには見えないかもしれないが、実はそうではない。この改訂のポイントとなるのは、・・・

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2018/04/05 任意の諮問委員会、設置しなければ「エクスプレイン」必要に(会員限定)

(2018年)6月からの施行に向け現在パブリックコメントに付されているコーポレートガバナンス・コードの改訂案(以下、改訂CGコード案)の中で(改訂CGコードの提出期限等については2018年4月3日のニュース「東証、改訂CGコードに対応したCG報告書の年内提出求める」参照)、改訂案を提言した「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、フォローアップ会議)で厳格化を求める声が強かったのが、任意の指名委員会・報酬委員会について規定する補充原則4-10①だ。同原則については、下記の見直しが提案されている(赤字が見直し部分)。

上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、例えば、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の指名委員会・報酬委員会など、独立した諮問委員会を設置することなどにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである。

追加された「指名委員会・報酬委員会など、独立した」という文言は、従来からある「指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため」「取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする」という部分と類似しているなど、一見すると本改訂はそれほど重大なものには見えないかもしれないが、実はそうではない。この改訂のポイントとなるのは、「例えば」と「など」という記述が削除されたという点にある。

「例えば」という文言は、任意の諮問委員を単なる「例示」にとどめておく効果があり、「など」という言葉は「設立すること」を複数の選択肢の一つにとどめておく効果がある。つまり、「例えば任意の諮問委員会」と言えば、任意の諮問委員会以外にも選択肢があることが示唆され、「設立することなど」と言えば、必ずしも設立することは求められておらず、他の選択肢も取り得る(例えば任意の諮問委員会は設立せず、社外取締役に意見を聞くのみにとどめるなど)ことになる。

今回、改訂案どおりに「例えば」と「など」が削除された場合、「取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の指名委員会・報酬委員会など、独立した諮問委員会を設置することにより、・・・」という文章になり、「任意の指名委員会・報酬委員会など、独立した諮問委員会を設置」の設置が事実上求められることになる。逆に言うと、仮にこれを設置しない企業は、設置しない理由を「エクスプレイン」しなければならないということだ。その意味で、本改訂のインパクトは非常に大きいと言える。

本改訂の背景の一つには、品質偽装問題が発生した企業で、任意の委員会を置かず、「必要に応じて社外取締役に意見を聴取」するというスタイルがとられていたということもあるようだ。また、任意の委員会を設置している企業でも、その運用は極めて形式的なところが多く、また、“任意”ゆえに「都合の良いことだけ諮問する」といったスタイルがまかり通っているといったことに対する投資家側の不満もある。さらに、フォローアップ会議でも繰り返し言及されてきた、経営を揺るがすようなガバナンス上の問題を抱えていた会社において、指名委員会が事実上機能しなかったという反省もあったようだ。本来であれば、委員会に諮問する事項の範囲はあらかじめ委員会内規等で定めておく必要があるが、都合の良いことだけが諮問されているという実態は、内規さえ存在しない企業が少なくないことの証左とも言える。現行補充原則4-10①の「諮問委員会」という文言の前に「独立した」という限定句が置かれたのも、委員会の運営を改善して欲しいという思いの表れだろう。

フォローアップ会議では、「独立した」の内容をより厳格に定め、委員会の構成(例えば過半数を独立社外取締役とする、委員長を独立社外取締役とするなど)についても原則に明記すべきとの意見も聞かれたほど、補充原則4-10①の改訂は今回の改訂全体の中でも重要視されている。いまだ「任意の指名委員会・報酬委員会など、独立した諮問委員会」を設置していない企業は、早々に設置に向け動き始めるか、改訂CGコードに対応したコーポレートガバナンス報告書での「エクスプレイン」の内容を検討する必要があろう。

2018/04/04 政策保有株式開示、何を書く?

(2018年)3月30日に東証がパブリックコメントに付した「コーポレートガバナンス・コード改訂案」(以下、CGコードあるいは改訂CGコード)について大幅な見直しが実施されているが、なかでも「政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための基準」として何を書くべきか頭を悩ませる企業は多い。下記の通り、現行のCGコードでは単に「基準」となっていたところ、改訂CGコードではこれが「具体的な基準」とされたからだ。ちなみに、・・・

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2018/04/04 政策保有株式開示、何を書く?(会員限定)

(2018年)3月30日に東証がパブリックコメントに付した「コーポレートガバナンス・コード改訂案」(以下、CGコードあるいは改訂CGコード)について大幅な見直しが実施されているが、なかでも「政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための基準」として何を書くべきか頭を悩ませる企業は多い。下記の通り、現行のCGコードでは単に「基準」となっていたところ、改訂CGコードではこれが「具体的な基準」とされたからだ。ちなみに、改訂CGコードと併せてパブリックコメントに付されている「投資家と企業の対話ガイドライン案」では、「適切な基準が策定され、分かりやすく開示されているか」との記述にとどまっており(4ページ参照)、参考とはなり難い。

※赤字が改訂部分
上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準を策定・開示し、その基準に沿った対応を行うべきである。

現状の各社の開示例を見ると、いわゆるコーポレートガバナンス優良企業においても、通常は以下のような抽象的な基準(「企業価値に資する」「株主価値の毀損につながる」など)にとどまっている。

<エーザイ>
政策保有株式に係る議決権行使にあたっては、当社の保有する株式の価値向上に資すると判断する議案であれば賛成し、価値を毀損すると判断するものに対しては反対票を投じます。
<資生堂>
当社は、政策保有株式の議決権行使にあたっては、提案されている議案について、株主価値の毀損につながるものでないかを確認します。そして、投資先企業の状況等を勘案した上で、賛否を判断し議決権を行使します。

一方、一部の金融機関は「純投資」と同様の方針で対応するとして、詳細な議決権行使基準を開示している。もっとも、これは機関投資家である金融機関であるが故の対応であり、通常の「政策投資」を実施している一般企業が真似できるものではないだろう。

<第一生命ホールディングス>
政策保有株式に係る議決権行使は、政策保有株式以外の株式と同一であり、別に定める議決権行使基準に則り、適切に対応する。
※第一生命保険の議決権行使基準はこちら

一般企業にも参考になりそうな事例として挙げられるのが、下記の「りそなホールディングス」の事例だ。こちらも金融機関の開示事例ではあるが、一般企業でも使えそうな汎用的な内容となっている。

<りそなホールディングス>
当社は当グループが保有する政策保有株式に関して「政策保有株式に関する方針」を定めるとともに、当グループが保有する政策保有株式に係る「議決権行使基準」を定めており、その内容を以下の通り公表しております。
<議決権行使基準の概要>
政策保有する株式の議決権行使は、以下の方針に則り、実施してまいります。
・お客さまとの取引上の利益に囚われることなく、持続的な企業価値向上の観点から、個別に賛否を判断するよう努めます。
・特定の政治的・社会的問題を解決する手段として議決権行使はいたしません。
・企業もしくは企業経営者等による不祥事及び反社会的行為が発生した場合には、コーポレートガバナンスの改善に資する内容で議決権を行使します。

いすれにせよ、今回の改訂は、これまで上場企業がコーポレートガバナンス報告書(以下、CG報告書)で開示してきた「基準」に対し、「具体性が欠けるので再考して改めて開示せよ」と言っているに等しい。パブリックコメントを経て書き振りが緩和される余地は若干残るものの、上場企業各社においては、定時株主総会後の(改訂CGコードに対応した)CG報告書提出に向け(提出期限については、2018年4月3日のニュース「東証、改訂CGコードに対応したCG報告書の年内提出求める」参照)、「具体的な基準」とは何かについて早々に検討する必要がある。

2018/04/03 東証、改訂CGコードに対応したCG報告書の年内提出求める

「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」が提言したコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の改訂案を受け、・・・

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2018/04/03 東証、改訂CGコードに対応したCG報告書の年内提出求める(会員限定)

「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」が提言したコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の改訂案を受け、東京証券取引所(以下、東証)は(2018年)3月30日に有価証券上場規程(以下、規程)の見直し案を公表、現在パブリック・コメントを募集している。東証が今回公表したのは規程に付属する「CGコード改訂案」と「投資家と企業の対話ガイドライン」の2つで、これらの内容は「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」が提言したものと同じである。

※CGコードの改訂内容については、下記のニュース参照
速報・CGコード改訂の3つのポイント
「投資家と企業の対話ガイドライン」はコンプライする必要があるのか
続報・CGコード改訂 企業年金への関与を求める原則に込められた“警告”
続報・CGコード改訂 「ジェンダー・ダイバーシティ」のコンプライ基準
CGコード改訂 独立社外取締役に関する記述の背景と今後
CGコード改訂で大幅見直しの政策保有株式、開示府令も見直しへ

東証は4月29日までパブリック・コメントを募集した後、既に規程に別添されているCGコードを改訂後のものに差し替えるとともに、新たに「投資家と企業の対話ガイドライン」を加えた規程を2018年6月に施行する予定。

6月には3月決算会社の定時株主総会が開催されることから、例年6月下旬から7月上旬にかけて役員改選等を反映するための「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」(以下、CG報告書)の更新が集中するが、3月決算会社はいったん現行のCGコードに対応(=現行CGコードに対するComply or Explain)したCG報告書を提出し、改訂CGコードに対応したCG報告書を「準備ができ次第速やかに、遅くとも2018年12月末日までに提出する」ことになる(もちろん、改訂CGコードに対応したCG報告書をすぐに提出できる上場会社は、施行後すぐに対応しても構わない)。一方、直近の定時株主総会がCGコード改訂前の(2018年)3月に終了した12月決算会社などは、役員の改選等記載事項の更新事由が生じるまでは当面CG報告書の提出は不要となりそうにも見えるが、3月決算会社と同様に「準備ができ次第速やかに、遅くとも2018年12月末日までに提出する」ことになる。その結果、年内には決算期にかかわらずすべての上場会社の改訂CGコードに対応したCG報告書が出そろうことになる。

原則1-4「政策保有株式」、原則5-2「経営戦略や経営計画の策定・公表」、補充原則4-2①のように今回の改訂により大幅に見直された原則・補充原則や、新設された原則2-6「企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮」について「Comply or Explain」の方針を固めるまで、上場会社の取締役会に残された時間は決して多くない。早めに改訂後のCGコードに対する「Comply or Explain」の方針について議論をスタートしておくべきだろう。

2018/04/02 “有事”における任意の委員会の影響力(会員限定)

既に多数報道されているように、積水ハウスが昨年(2017年)、いわゆる地面師詐欺に遭い、東京都内の不動産の購入代金の大半を支払ったにもかかわらず所有権移転登記を受けられないという事件に巻き込まれたことは周知のとおりだが、本件をコーポレート・ガバナンスの観点から分析してみたい。

地面師詐欺 : 印鑑証明書や身分証明書を偽造するなどして他人の所有地の所有者になりすまし、無断で当該不動産を売買してしまう詐欺を働く者のこと。

同社からは最近、「分譲マンション用地の取引事故に関する経緯概要等のご報告」と題するリリース(2018年3月6日付)が公表されている。本リリースは(2018年)1月24日付の調査報告書(同社社外役員による調査対策委員会が提出)の概要等を記載したものとのことであり、「捜査上の機密保持への配慮のため」報告書自体の開示など詳細な説明は差し控えるとしている。

本件を一言で表現すれば、「リスク情報を軽視した不動産取引の強行による詐欺被害」ということになる。被害金額は55億5千万円に上るが、そもそもなぜ複数のリスク情報が届きながらもこのような取引が実行されたのか、同社のリスク管理や内部統制の具体的にどこに問題があったのか、取引を強行する社内的なプレッシャーがあったのではないか、といった同社マネジメントに対する投資家等の疑問に対し上記リリースは十分に答えているとは言い難い。

また、トップマネジメントの責任についても、「社長には業務執行責任者として、取引の全体像を把握せず、重大なリスクを認識できなかったことは、経営上、重い責任がある」「会長も、このような事態が発生したことに責任がある」とする一方で、「人事及び制度の責任者として、速やかにリーダーシップを持って、再発を防止するために、人事及び制度の運用について、不完全な部分を是正する責務がある」と続投を前提とする表現も盛り込まれている。同社の個人株主からは、阿部社長に善管注意義務・忠実義務違反があるとして同社が受けた損害と同額の損害賠償(および遅延損害金)の支払いを求める提訴請求もなされる中(2018年3月6日付「株主からの提訴請求について」参照)、投資家等にとっては調査報告書の開示が待たれるところだ。

提訴請求 : 会社に対し、取締役に損害賠償請求をするよう求めること (会社法847条1項)。提訴請求の日から60日以内に、株式会社側が何の対応もしない場合には、提訴請求をした株主は株主代表訴訟を提起することができる(会社法847条3項)。提訴請求の相手は、監査役会設置会社においては監査役(会社法386条2項1号)、監査等委員会設置会社においては監査等委員(会社法399条の7第5項1号、指名委員会等設置会社においては監査委員(会社法408条5項1号)である。

同社が設置している「人事・報酬諮問委員会」の存在もガバナンス上の論点の一つと言える。同じく3月6日付のリリース「当社取締役会の議事に関する報道について」によると、調査対策委員会の報告書が提出されたという1月24日の取締役会において、概ね以下のような事象が発生した説明されている。

① 阿部社長の代表取締役および社長職の解任の動議(本件事故の責任明確化)
→採決の結果、否決
② 議長が和田会長から稲垣取締役に交代
→2件の取締役会規則改定の動議が可決(内容は不明)
③ 和田会長の代表取締役および会長職の解任の動議(ガバナンス体制の刷新)
→各取締役が意見表明後、和田会長が辞任の意思を表明(採決に至らず)

単純に考察すれば、本件の調査報告を受けて阿部社長の責任が問われ、和田会長の議事進行で解任動議が諮られたものの賛成が過半数に至らず否決(①)、その直後に議長役を和田会長から剥奪する動議が賛成過半数で可決(②)、そして本件事故とは直接的には関係なく和田会長の解任動議が提起され、賛成過半数の見込みとなったことから同氏は辞任に追い込まれたということになろう(③)。

同社の有価証券報告書によると、同社が設置している人事・報酬諮問委員会は「取締役・執行役員の人事や報酬に関し取締役会に意見」するものであり、また、コーポレート・ガバナンス報告書によると、委員8名のうち2名を社外取締役、3名をその他(社外監査役とみられる)が占めている。もっとも、同社の人事・報酬諮問委員会の委員長は社内取締役とされており、それが和田会長であることは容易に想像がつく。

一般に、委員会に諮問することの要否自体については取締役会では決議せず、あらかじめ委員会内規等で諮問事項の範囲を定めておくことが多い。コーポレートガバナンス・コード補充原則4-10①が役員の指名・報酬について「任意の諮問委員会」の設置を勧めていることを受け、委員会を設置する上場企業が急増しているものの、投資家サイドからは、委員会の運用が極めて形式的な会社が少なくないうえ、上述した諮問事項の範囲を定めた内規さえ存在せず、都合の良いことだけ諮問しているような会社もあるといった批判が聞かれる。こうした中、本件における同社の諮問委員会の立ち位置や同委員会が果たした役割(あるいは、緊急の有事ということもあり何もしなかったのか)について4月下旬に予定される定時株主総会で何らかの言及があるのか、注目される。また、定時株主総会では、本件の調査対策委員会が独立性を伴ったものであったかどうかも問われる可能性がありそうだ。

2018/03/30 【2018年3月の課題】取締役会改革に向けた取り組み

2018年3月の課題

監査役会設置会社である上場企業A社の取締役会は基本的に内部昇格した同年代の男性で構成され、社長(代表取締役)が取締役会議長を務めています。
コーポレートガバナンス・コードの導入を受け、一応取締役会評価は実施していますが、各取締役にアンケートを取るだけの簡易なものにとどまっています。
昨今高まりを見せている「取締役会の実効性向上」を求める長期投資家の声を受け、取締役会改革に踏み出そうとしているA社ですが、具体的にどのようなことに取り組むべきでしょうか。

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