GPIFが新たにESG指数を選定した昨年(2017年)は“ESG元年”とも言われるが(ESG指数については2017年7月6日のニュース「GPIFの新しいESG指数に約360社が選定」参照)、日本の上場企業においてはESG(環境・社会・ガバナンス)、特にE(Environment=環境)とS(Social=社会)への関心は今のところ企業間格差が大きい。また、機関投資家の多くも、現状ではEやSよりもG(ガバナンス)への関心が強いと言える(2018年2月22日「価値協創ガイダンスに見るESGに対する機関投資家の考え方」参照)。
こうした中で、グローバル機関投資家の関心がかなり高まっているのが「E」の一分野である気候変動問題だ。
例えば、ESGを考慮して(株価指数を上回る)超過収益をとりにいくアクティブ運用機関として著名で、日本の企業年金連合会が国内企業とのエンゲージメントを委託したことにより日本での認知度も高まった(「企業年金連合会のスチュワードシップ活動」6ページ参照)英国のハーミーズ(Hermes)EOS(Equity Ownership Services)の親会社である英国ハーミーズ・インベストメント・マネジメントは、機関投資家向け情報サイトのアジア・アセットマネジメントで「アジアの機関投資家にとって気候変動問題は2018年の主要関心事になる」とコメントしている。
ハーミーズ(Hermes)EOS(Equity Ownership Services) : 英国のBritish Telecom年金基金の子会社であるHermes Investment Management (HIM)の子会社。HIMの顧客のみならず、それ以外の顧客にも各種サービスを提供している。顧客には欧州大手公的年金・企業年金が数多く、約40基金。 アドバイザリー対象の資産は25兆円相当以上。うち、日本企業へ投資されている額は現状2兆5,000億円程度。会長の Colin MelvinはPRIのボードメンバーでもある(企業年金連合会資料より引用)。
また、ハーミーズEOSによると、アジアの機関投資家(後述)により構成される気候変動に関する団体である「AIGCC(Asia Investor Group on Climate Change)」や「AClimate Action 100+」が、気候変動問題に対応するための活動を積極化しているという。ハーミーズEOSは、気候変動に特に大きな影響を及ぼすコアビジネスを展開する企業(温室効果ガスを大量に排出する企業など)は、気候に関する財務情報(例えば温室効果ガスの排出量などの実績値やその削減に向けた目標値などが考えられる)について包括的な報告書の作成を期待する。
AIGCC(Asia Investor Group on Climate Change : 気候変動に関連するリスクと機会について、アジアの資産所有者と金融機関に意識を高めるために設立された団体。年金基金、政府系ファンド(ソブリン・ウェルス・ファンド)、保険会社、ファンド・マネジャーなどにより構成される。
Climate Action 100+ : 機関投資家が、温室効果ガスを排出する世界最大級の企業と協力し、こうした企業が気候変動に関するガバナンスを改善するとともに、排出量を抑制し、気候関連の財務情報の開示を促進するために設立された団体。
機関投資家はこうした情報を用いて、投資に際してネガティブスクリーニング(ESGの観点から見て何らかの問題がある企業への投資を避ける手法。ESG投資の手法については、新用語・難解用語辞典の「ESGインテグレーション投資」参照)を行ったり、またダイベストメント(投資の取り止め)を決定したりすることになる。ハーミーズの見解を踏まえると、そのような動きがアジアの資本市場で活発化する可能性があろう。
ESG投資 : ESGに優れた企業に投資すること
ここで留意したいのは、上述した「アジアの機関投資家(Asian institutional investors)」とは、文字通りアジア地域だけで活動している機関投資家ではなく、あくまでグローバル投資家を指しているという点だ。例えば上記「Climate Action 100+」の中心となっているのは、米国CalPERS(カルパース=カリフォルニア州職員退職年金基金)のほか、英国HSBC Global Asset Management、仏国Ircantec(国家資格なしの国・自治体職員向け補足年金)、豪州Australian Super(国籍等を問わずオーストラリアで雇用されているすべての人を対象にした強制加入の私的年金)などとなっている。したがって、上記ハーミーズのコメントは“グローバルな資本市場の潮流”と捉えるのが適切であり、アジア企業も例外なくその影響を受けるということを意味している。
近年、気候変動が機関投資家の主要関心事となってきたのには、トランプ政権による米国のパリ協定離脱が大きく影響していると考えられる。気候変動問題の解決に向けた政治的な進展が期待できない中で、長期投資の観点からグローバル機関投資家が抱く危機感は大きい。
パリ協定 : 昨年(2015年)末にパリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択された2020年以降の温暖化対策の国際的枠組み。パリ協定では、18世紀後半に起きた産業革命前と比較し、気温の上昇を「2℃以内」にとどめることを目標としており、各国に対し、温室効果ガスの排出削減目標を設定のうえ、5年ごとに進捗報告およびより厳しい目標への更新を行うことを義務付けている。
なお、気候変動以外に機関投資家が懸念を抱いている事柄として、ハーミーズは取締役会の多様性(board diversity)と経営者報酬(executive compensation)を挙げている。取締役会の多様性については、長期的な戦略の方向性、ビジネスモデル、従業員、顧客、サプライヤー、地域性などを考慮して追及すべきとし、また、適切な報酬政策は、経営者の利益を投資家やその他のステークホルダーの利益を調整するうえで重要な要素となり得るとする。いずれもコーポレートガバナンスの本流と言うべき論点であり、企業は引き続きこれらに取り組む必要があるが、それに加え、温室効果ガスを排出するメーカー等は気候変動問題に対するグローバル機関投資家の関心の高まりを踏まえ、その削減策などにも取り組んでおく必要があろう。