2018/03/07 多くの上場企業が誤解するSDGsへの対応

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が委託運用機関に対し「SDGs」をESG投資の一要素として考慮するよう求めていることもあり、SDGsに対する上場企業の関心は着実に高まっているが(上場企業におけるSDGsへの取り組み状況については2017年8月21日のニュース「上場企業の間で徐々に対応が進むSDGs」参照)、残念ながら多くの上場企業がその対応について決定的な誤解をしている。

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人) : 「Government Pension Investment Fund」の略で、厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行う厚生労働省所管の独立行政法人。運用資産の規模が100兆円を優に超える世界最大の機関投資家である。
SDGs : 「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、「エスディージーズ」と読む。「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる世界共通の目標であり、下図の17の目標と169のターゲットからなる。2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択され、2016年から2030年までの15年間での達成を目指している。
ESG投資 : ESGに優れた企業に投資すること

<SDGsが掲げる17の目標の一覧図>
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上図のとおり、SDGsには下記に掲げる17の目標がある。
目標1:あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ
目標2:飢餓に終止符を打ち、食料の安定確保と栄養状態の改善を達成するとともに、持続可能な農業を推進する
目標3:あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する
目標4:すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
目標5:ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る
目標6:すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する
目標7:すべての人々に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する
目標8:すべての人々のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワークを推進する
目標9:レジリエントなインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る
目標10:国内および国家間の不平等を是正する
目標11:都市と人間の居住地を包摂的、安全、レジリエントかつ持続可能にする
目標12:持続可能な消費と生産のパターンを確保する
目標13:気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る
目標14:海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する
目標15:陸上生態系の保護、回復および持続可能な利用の推進、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、土地劣化の阻止および逆転、ならびに生物多様性損失の阻止を図る
目標16:持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する
目標17:持続可能な開発に向けて実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する

上記の17の目標はいずれも「やって当然の目標」に見えるかもしれない。それゆえ、上記の中に実践している目標があっても、そのことを特段開示してないという企業が少なくない。その背景には、「やって当然のことをやっただけで、それを殊更アピールするのはいかがなものか」といった日本人的な価値観があるのかもしれないが、自社の株価への影響という観点からは、それは大きな間違いであることを経営陣は認識する必要がある。・・・

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2018/03/07 多くの上場企業が誤解するSDGsへの対応(会員限定)

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が委託運用機関に対し「SDGs」をESG投資の一要素として考慮するよう求めていることもあり、SDGsに対する上場企業の関心は着実に高まっているが(上場企業におけるSDGsへの取り組み状況については2017年8月21日のニュース「上場企業の間で徐々に対応が進むSDGs」参照)、残念ながら多くの上場企業がその対応について決定的な誤解をしている。

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人) : 「Government Pension Investment Fund」の略で、厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行う厚生労働省所管の独立行政法人。運用資産の規模が100兆円を優に超える世界最大の機関投資家である。
SDGs : 「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、「エスディージーズ」と読む。「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる世界共通の目標であり、下図の17の目標と169のターゲットからなる。2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択され、2016年から2030年までの15年間での達成を目指している。
ESG投資 : ESGに優れた企業に投資すること

<SDGsが掲げる17の目標の一覧図>
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上図のとおり、SDGsには下記に掲げる17の目標がある。
目標1:あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ
目標2:飢餓に終止符を打ち、食料の安定確保と栄養状態の改善を達成するとともに、持続可能な農業を推進する
目標3:あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する
目標4:すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
目標5:ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る
目標6:すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する
目標7:すべての人々に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する
目標8:すべての人々のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワークを推進する
目標9:レジリエントなインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る
目標10:国内および国家間の不平等を是正する
目標11:都市と人間の居住地を包摂的、安全、レジリエントかつ持続可能にする
目標12:持続可能な消費と生産のパターンを確保する
目標13:気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る
目標14:海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する
目標15:陸上生態系の保護、回復および持続可能な利用の推進、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、土地劣化の阻止および逆転、ならびに生物多様性損失の阻止を図る
目標16:持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する
目標17:持続可能な開発に向けて実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する

上記の17の目標はいずれも「やって当然の目標」に見えるかもしれない。それゆえ、上記の中に実践している目標があっても、そのことを特段開示してないという企業が少なくない。その背景には、「やって当然のことをやっただけで、それを殊更アピールするのはいかがなものか」といった日本人的な価値観があるのかもしれないが、自社の株価への影響という観点からは、それは大きな間違いであることを経営陣は認識する必要がある。

GPIFは昨年(2017年)7月に選定した3つのESG指数に基づき、国内株式への投資額の3%(約1兆円)をESG投資に回しているが(詳細は2017年7月6日のニュース「GPIFの新しいESG指数に約360社が選定」参照)、いずれの指数も「公開情報に基づくポジティブ評価を基本」としている。逆に言えば、「公開されていない情報」は評価の対象にならないということだ。

ESGとの関連性が高いSDGsが掲げる目標を実践していれば本来であれば、ESG指数への採用に向け大きなアピールとなるはずだが、上述のとおりESG指数は「公開されていない情報」は評価の対象にしないため、たとえ実践していても統合報告書等で開示していなければまったく評価されない。また、せっかく開示してもSDGsとの関連性を示せていなければ、ESG指数の調査担当者が見落とすリスクもある。

また、統合報告書等でSDGsについて開示する場合には上記17の目標“すべて”について何らかの開示をする必要があると考えている企業が多いが、これも大いなる誤解である。SDGsが掲げる目標の中には、自社のビジネスとはまったく関係のないものもある。例えば、水産資源を扱う食品業や飲食業以外のビジネスを営む企業のほとんどは、「海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する」という目標15とは無縁であろう。ESG指数対策という意味では、17の目標のうち自社のビジネスと関わりが深い目標だけを選んで、その取り組み状況を開示すればよく、自社のビジネスと関係のない目標に無理に取り組む必要はない。17の目標すべてを実践することはできないという理由で、“入り口”のところで開示を断念している企業があるのは実にもったいない。

さらに言うと、GPIFが署名しているPRI(国連責任投資原則)では「ESGの課題について適切な開示」を求めているにすぎず、その課題を達成できたかどうかを開示することまでは求めていない。ましてや具体的な数値目標を掲げることも求めていない。現実的に考えても、例えば「貧困に終止符を打つ(目標1)」「国内および国家間の不平等を是正(目標10)」といった目標を一企業だけで達成できるわけがない。重要なのは目標達成に向け取り組む姿勢であるため、「●●の目標達成に向け、今後は▲▲に取り組みます」(現時点では特に何もしていないが将来には取り組む)といった内容の開示であっても、「将来に向け取り組む姿勢」がポジティブに評価される。一橋大学・商学研究科の円谷昭一准教授は「SDGsが掲げるすべての目標に対応する必要はなく、また取り組みの途中であっても開示すれば評価されるということを知らずに、様子見に留まっている上場企業が多いのは残念」と話す。

PRI(国連責任投資原則) : (国連)PRIとは「(United Nations) Principles for Responsible Investment」の略で、機関投資家に対し、投資判断プロセスにESGを反映することや、投資対象企業にESGに関する情報開示を求めることなどを提唱するもの。これに署名した機関投資家は、国連に投資の状況を報告する義務が生じるため、ESGを重視した投資を実践せざるを得ない。

SDGsの17の目標すべてに取り組まなければならないというわけではないことは、ESG指数で高い評価を得ている企業の開示例を見れば分かる。

まず、GPIF が採用したESG指数の一つであるMSCI ジャパン ESG セレクト・リーダーズ指数で「トリプルA」という最高のESG格付けを獲得しているオムロンの事例を見てみよう(同指数に採用された各社の2017年12月現在のESG格付けはこちら)。同社では、同社が取り組むべき課題を「事業を通じて解決する社会的課題」と「ステークホルダーの期待に応える課題」に分けて整理したうえで、SDGsとの対応関係を示している(2018年3月現在)。このうち「事業を通じて解決する社会的課題」については、事業ドメインごとの対応関係を示しているのも特徴的だ。

課題 取り組み 事業ドメイン SDGsとの対応関係
事業を通じて解決する社会的課題 ソーシャルニーズへの対応 FA 9
ヘルスケア 3
モビリティ 11,7,3
エネルギーマネジメント 7
パートナーとの協創 17
ステークホルダーの期待に応える課題 人材マネジメント 5,8
ものづくり 12,13
リスクマネジメント 16

次に、同じくGPIF が採用しているESG指数の一つであるFTSE Blossom Japan IndexのOverall ESG Score(ESGの総合評点)が「4.5」と現時点(2017年12月現在)で最も高い花王の例も見てみよう(同指数に採用された各社のOverall ESG Scoreはこちら)。同社がウェブサイトで開示しているサステナビリティのための3つの重点領域(それぞれがさらに3つの重点取り組みテーマを有する)とSDGsとの対応関係は次のとおり(2018年3月現在)。

サステナビリティのための3つの重点領域 SDGsとの対応関係
エコロジー 12,13,14,15,17
コミュニティ 3,5,6,17
コーポレート・カルチャー 5,8,16,17

このように、SDGsの17の目標のうち、オムロンでは1,2,4,6,10,14,15の7つの目標について、また、花王では1,2,4,7,9,10,11の7の目標について、取り組み状況を開示していない。これは、自社の事業を通じてこれらの目標(取り組み状況を開示していない目標)に与えるインパクトは小さいという判断に基づくものと言える。

GPIFがESG投資に回す資金(上述のとおり現在は1兆円程度)は今後増加していくことが予想される。資本市場で低い評価(低株価)に甘んじることのないよう、ESG投資の資金を呼び込むためには、まずは一つでも二つでも自社に関係する目標について開示を行うことが必要となってこよう。

2018/03/06 独立性に問題のある社外取締役は絶対にNGか?

12月決算会社の3月株主総会シーズンが到来した。3月株主総会で出て来る論点は3月決算会社の6月総会でも論点化する可能性が高いだけに、その内容には3月決算会社としても注目しておきたところだ。・・・

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2018/03/06 独立性に問題のある社外取締役は絶対にNGか?(会員限定)

12月決算会社の3月株主総会シーズンが到来した。3月株主総会で出て来る論点は3月決算会社の6月総会でも論点化する可能性が高いだけに、その内容には3月決算会社としても注目しておきたところだ()。

 当フォーラムでは、2017年12月決算会社の株主総会を分析するセミナーを4月に開催する予定です。会員の皆様には近くご案内させていただきます。

コーポレートガバナンス・コードの求めに応じ上場会社各社が社外取締役の増員を図る中、近年の株主総会でしばしば問題になるのが「社外取締役の独立性」だ(参考記事として2017年11月6日のニュース「主要国内機関投資家による議決権行使結果 第一弾」参照)。このため、上場会社の中には社外取締役の独立性にかなり神経を尖らせているところもあるが、この点、機関投資家との間には若干の温度差があるようだ。

もちろん、機関投資家が社外取締役の独立性を軽視しているわけではないが、ある大手機関投資家は「社外取締役の独立性と実効性のどちらが大事かと聞かれたら、実効性を選ぶ」と言い切る。機関投資家がこのように考える理由は、社外取締役に期待される役割とも関係している。

機関投資家が社外取締役に期待する役割は大きく分けて3つある。1つは、会社の事業を理解したうえで、場合によっては中期計画を叩くなどといった中長期的な経営戦略に関する議論への参加だ。その中には、例えば「サクセッション・プラン(後継者計画)」や「報酬」など、経営陣と利益相反が生じかねないテーマもあるだろう。このような利益相反に関連するテーマについて、独立した立場から客観性をもってチェックしたり意見を述べて欲しいというのが、機関投資家が社外取締役に期待する2つ目の役割だ。そして3つ目が、投資家と企業の“橋渡し役”を果たすことである。投資家は社外取締役に投資家の視点を理解し、それを経営にフィードバックする役割を期待している。

これら3つの役割のうち、利益相反のチェック等の部分では「独立性」が重要な要素となってくるが、残りの2つではまさに社外取締役という機能の「実効性」が問われることになる。最近、社外取締役と直接面談するケースを増やしているという上記とは別の機関投資家は、「社外取締役の会社を見る目線が我々と一致していると、投資先として非常に安心感がある」と話す。また、この機関投資家は「独立性」の重要性を理解しつつも、「仮に社外取締役としての独立性に若干懸念がある候補者だったとしても、直接その方とお会いして考え方がしっかりしていると感じれば、選任議案に賛成することもあり得る」という。

社外取締役の選任は、独立性の詳細なチェックから「実効性」を評価するステージに移りつつあると言えそうだ。

2018/03/05 海外企業による買収懸念が消滅

日本企業による海外企業のM&Aが活発化しているが、その逆もあり得る。すなわち、日本企業が海外企業によるM&Aの対象となるケースである。それに利用されかねないとの懸念が・・・

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2018/03/05 海外企業による買収懸念が消滅(会員限定)

日本企業による海外企業のM&Aが活発化しているが、その逆もあり得る。すなわち、日本企業が海外企業によるM&Aの対象となるケースである。それに利用されかねないとの懸念が日本企業の間で広がっていたのが、平成30年度税制改正で導入される自社株対価TOBに関する税制措置だ。自社株対価TOBに関する税制措置については、2017年12月12日のニュース「現預金不要のM&Aが容易に 賃上げ・設備投資へのプレッシャー高まる」の3段落目で詳しく説明しているが、要するに、自社株対価TOBに伴い、被TOB会社の株主に生じる株式譲渡益(*1)の渡損益を繰り延べる(*2)というもの。

*1 自社株対価TOBが行われる場合、被TOB会社の株主は被TOB株式をTOBを行う会社に引き渡す代わりにいTOBを行う会社の株式を入手することになるが、この場合、被TOB会社の株主に課税が生じる可能性がある(「入手したTOB会社の株式の時価>引き渡した被TOB会社の株式の時価」の場合)。
*2 自社株対価TOBが行われた時点では(被TOB会社の株主に生じる譲渡益に対し)課税せず、将来、TOB会社の株式(自社株TOBを通じ、被TOB会社の株主が、被TOB会社株式と引き換えに取得したもの)を売却した際まで“先送り”する。

この税制措置の適用を受けるためには、自社株対価TOBを行う会社は、2018年2月9日に国会に提出された改正産業競争力強化法に基づき、「特別事業再編計画」と呼ばれる自社株対価TOBを活用した事象再編の計画を作成し、当該計画について所管の主務大臣の認定を受け(改正産業競争力強化法25条1項)、「認定特別事業再編事業者」(同法26条1項)とならなければならないが(租税特別措置法66条の2の2第1項、68条の86第1項、この「認定特別事業再編事業者」となれるのは日本法人のみであることが当フォーラムの取材により確認された。

改正産業競争力強化法 : 日本経済の3つの歪みとされる「過剰規制」「過小投資」「過当競争」を是正するため、収益力の飛躍的な向上に向けた事業再編などの企業の取り組みを後押しする法律。

自社株対価TOBに関する税制措置の導入に対しては、日本企業の間で「外国企業による日本企業の買収に利用されるのではないか」との懸念が広がっていたが、そもそも外国企業は本税制措置を利用するための前提となる「認定特別事業再編事業者」になれないことから、本税制措置が外国企業による日本企業の買収に使われる恐れはなくなったことになる。

なかには、外国企業が日本に子会社としてペーパーカンパニーを設立し、当該子会社の株式を対価として日本企業に自社株対価TOBを仕掛けてくることを心配する声も聞かれたが、「事業再編の円滑化」を主な目的とする改正産業競争力強化法上、こうした実態のないペーパーカンパニーは「認定特別事業再編事業者」として認定を得られない可能性が高いうえ、仮に認定を得られたとしても、流動性の低いペーパーカンパニーの株式は自社株対価M&Aの対価としては機能しないだろう。

日本企業同士の再編を促したい日本政府が創った措置が外国企業による日本企業の買収を容易にするという皮肉な結果となることは回避できそうだ。

2018/03/02 ガバナンス関連の会社法改正「中間試案」公表、株式交付制度創設へ

一昨日(2018年2月28日)、法務省に設置された会社法制(企業統治等関係)部会における約10か月間の議論を経てようやく「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案」(以下、中間試案)が公表された。今後法務省は中間試案をパブリック・コメントに付したうえで、会社法の改正(時期は未定)を目指す。

中間試案に盛り込まれた項目の多くは既に2017年4月27日のニュース「法務省、ガバナンスに関する会社法の見直しに着手」で紹介しているが、同部会が始まった時点ではテーマとして挙がっておらず、途中から議論に加えられた(株式交付制度の詳細については2018年3月26日のニュース『会社法改正中間試案、「無対価」の株式交付は認めず』を参照)も中間試案に盛り込まれている。

本稿では、中間試案の内容を当フォーラムによる解説とともに一覧表でお伝えする。・・・

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2018/03/02 ガバナンス関連の会社法改正「中間試案」公表、株式交付制度創設へ(会員限定)

一昨日(2018年2月28日)、法務省に設置された会社法制(企業統治等関係)部会における約10か月間の議論を経てようやく「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案」(以下、中間試案)が公表された。今後法務省は中間試案をパブリック・コメントに付したうえで、会社法の改正(時期は未定)を目指す。

中間試案に盛り込まれた項目の多くは既に2017年4月27日のニュース「法務省、ガバナンスに関する会社法の見直しに着手」で紹介しているが、同部会が始まった時点ではテーマとして挙がっておらず、途中から議論に加えられた「株式交付制度」(株式交付制度の詳細については2018年3月26日のニュース『会社法改正中間試案、「無対価」の株式交付は認めず』を参照)も中間試案に盛り込まれている。

本稿では、中間試案の内容を当フォーラムによる解説とともに一覧表でお伝えする。

項目 主な内容 中間試案における具体的な提案
※当フォーラムによる解説を含む。
株主総会関連 株主総会資料の電子提供制度の創設(中間試案3ページ 株主総会資料の株主への提供をウェブサイトで行う制度。会社は株主に対して当該ウェブサイトのアドレスを書面により通知するだけでよく(株主総会資料のすべてを全株主に郵送する必要がなくなる)、電子提供を行うことについて株主一人ひとりの承諾も不要。ただし、株主の希望により、ウェブサイトに掲載された株主総会資料を書面で交付することを会社に対して請求できるようにする(仮にインターネットのみでしか株主総会資料を閲覧できないとなると、インターネットにアクセスできない株主にとっては著しく不公平な法改正となるため)。上場会社には電子提供制度の利用が義務付けられる。すなわち、株主総会資料の電子提供を行わないこと(全株主に対し一律に書面で株主総会資料を提供すること)はできなくなる。電子提供制度の利用義務付けについては全株懇からも提言されていた(2017年8月29日のニュース「全株懇、株主総会資料の電子提供義務付けを提言」参照)。なお、非上場会社も、定款変更により電子提供制度を利用できるようになる。上場会社の子会社の非上場会社でも電子提供制度を利用するところが出てきそうだ。
株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置(中間試案6ページ 株主が提案することができる議案の数に上限を設ける。上限数としては一人の株主当たり10または5を想定。また、専ら人を侮辱したり困惑させたりするといった目的で行う不適切な内容の議案については株主提案をできないようにする(詳細は2018年1月19日のニュース『株主提案議案数を制限する会社法改正案 「数」と「数え方」が焦点に』参照)。
議決権行使書面の閲覧謄写請求の拒絶事由に関する規定の新設(中間試案21ページ 議決権行使書面には、株主の氏名および議決権数に加えて、株主の住所も記載されているのが通常である。そこで、株主名簿の閲覧謄写請求を拒絶された株主が、株主の住所等の情報を取得するため、議決権行使書面の閲覧謄写請求(会社法311条4項)をするケースがある(議決権行使書面の閲覧謄写請求については2017年6月30日のニュース「“株主総会後”の企業の悩み」参照)。そこで中間試案では、議決権行使書面の閲覧謄写請求時に、請求の「理由」を明らかにしなければならないとする改正案が示されている(現行法上、理由の開示は不要)。株主による議決権行使書面の閲覧謄写請求のハードルを上げることで、安易な議決権行使書面の閲覧謄写請求を減らすのが改正の目的である。

株主名簿の閲覧謄写請求を拒絶 : 下記の場合、企業は株主名簿の閲覧・謄写請求を拒否することができる(会社法125条3項)。(1)請求を行う株主または債権者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき、(2)請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、または株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき、(3)請求者が株主名簿の閲覧または謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき
株主の住所等の情報を取得 : 株主情報の取得目的は様々であるが、過去には、自らが提案した議案に賛成した株主を探して株主提案の共同提案者となることや経済的な支援を依頼することを目的とした事例のほか、単に会社の手間を増やすこと(嫌がらせ)を目的とした事例などが見受けられる。

取締役関連 業務執行の社外取締役への委託(中間試案12ページ 本来、社外取締役には「会社と業務執行取締役との間の利益相反を監督」したり「業務執行者の業務執行自体を監督」したりすることが期待されており、業務執行をすることができないが(会社法2条15号イ)、例外的に社外取締役が業務執行をした方が取引の公正さを保てるような場合(例えば、MBO(マネジメント・バイ・アウト)は、取引の構造上、株主と買収者である取締役との間に利益相反関係(経営陣はできるだけ安く株式を買おうとし、株主はできるだけ高く売ろうとする)が認められるため、取引の公正さを担保する措置として、社外取締役が独立委員会の委員となり、買収者である経営陣と買収価格の交渉を行う場合等)には、取締役会の決議があれば、社外取締役であっても業務執行をすることができるものとする。

MBO(マネジメント・バイ・アウト) : 経営陣による買収のこと。上場企業の非上場化策の一つである。

監査役設置会社の取締役会による重要な業務執行の決定の委任(中間試案13ページ 監査役設置会社の取締役会は、一定の要件()を満たす場合には、取締役会決議により「重要な業務執行の決定」を取締役に委任できるようにする(いちいち取締役会決議を経なくてもよくなる)。
 以下のすべてを満たす必要あり。
①取締役の過半数が社外取締役
②会計監査人設置会社
③取締役会が経営の基本方針について決定していること。
④取締役会が内部統制システム(会社法362条4項6号に規定する体制の整備)について決定していること。
⑤ 取締役の任期が1年であること。

独立取締役だけで取締役の過半数を超える上場会社は2017年8月時点で全上場会社の4.4%に過ぎない(日本取締役協会の調査の4ページを参照)ことから、今後独立社外取締役の選任数が急速に増加しない限り、仮にこの法改正が実現したとしても、①の要件がネックとなり、その恩恵にあずかる上場会社はごく少数にとどまるものと思われる。

経営の基本方針 : 取締役会が業務を決定し、または業務執行者の職務執行の監督を行う上でその基準とすべき基本的な方針のこと。業務執行者から見ると、業務の決定と執行を行う上で遵守すべき方針となる。監査等委員会設置会社(会社法399条の13第1項1号イ)や指名委員会等設置会社(会社法416条1項1号イ)では取締役会が「経営の基本方針」を定める必要があるが、監査役設置会社では「経営の基本方針」の決定は求められていない。

取締役の報酬に関する規律の見直し(中間試案7ページ ・現行法上は、取締役全員の「報酬枠」を株式会社で決議し、株主総会がその枠の範囲内での具体的配分を取締役会に一任し、さらに取締役会が代表取締役に一任(再一任)するという実務が行われている。これには、取締役の個人別の報酬額が明らかとなることを避けるなどの理由があるが、代表取締役が報酬決定権を独占する結果、取締役会の代表取締役に対する監督機能が低下する恐れがあることも指摘されている。そこで、公開会社において、取締役の個人別の報酬等の内容の決定を取締役会が代表取締役に再一任するためには、株主総会の決議を要するものとする。

・「取締役の報酬の内容に係る決定に関する方針を定めた場合」には、取締役に株主総会で「取締役報酬の決定方針」の説明()義務を課す。
 「取締役報酬の決定方針の内容の概要」および「当該議案が当該方針に沿うものであると取締役会が判断した理由」の説明
ただし中間試案では、取締役報酬の決定方針を定めることを義務化するかどうかは「なお検討する」としている。これは、株式会社の実情は様々であることから一律に義務化するのが妥当かどうかは、更なる検討が必要との判断に基づくもの。

・株式報酬に関する株主総会の決議事項について「具体的な内容」としか定めていない現行の規定(会社法361条1項3号)を見直し、決議すべき内容の詳細()を定める。
 株式報酬に関する株式・新株予約権の数の上限および当該株式の交付の条件や当該新株予約権の内容の要綱など

・事業報告における取締役報酬に関する情報()の開示を充実させる。
 役員報酬の決定方針、株主総会での決議事項、各取締役の報酬の配分について取締役会が代表取締役に再一任した場合の内容、業績連動報酬に関する事項、職務執行の対価として株式会社が交付した株式や新株予約権に関する事項、報酬等の種類ごとの総額など

公開会社: (定款で)株式に譲渡制限を付していない会社のこと(会社法2条5号)。発行する株式のうち1株でも譲渡制限を付していなければ、公開会社となる。したがって、上場会社はすべて公開会社である。

会社補償に関する規律の整備(中間試案10ページ 会社補償(役員が第三者から損害賠償責任を追及された場合に、会社が損害賠償額や争訟費用を補償すること)の範囲(下記参照)や、そのために必要な手続き(取締役会決議)を定める(現行法上規定なし)。
防御費用 : 相当と認められる範囲に限る。
②賠償金 : 会社への賠償金は除外(役員が会社に賠償金を支払った意味がなくなるため)。第三者への賠償金は役員が善意無重過失の場合に限る。

防御費用 : 役員等が第三者から責任の追及に係る請求を受けた場合に、応訴するための弁護士費用等
善意無重過失 : 当該損害の発生が故意に引き起こされたものではなく、また、重過失によって起きたものでもないという条件をともに満たすこと

D&O保険契約に関する規律の整備(中間試案11ページ D&O保険(役員等賠償責任保険)の締結にあたり取締役会の決議を得ることや、役員が加入しているD&O保険に関する情報()を開示させる(2017年8月9日のニュース「D&O保険を巡る会社法改正議論の行方」を参照)。
 公開会社は、事業報告でD&O保険の被保険者や契約の内容の概要(役員等による保険料の負担割合、塡補の対象とされる保険事故の概要およびD&O保険によって役員の職務の適正性が損なわれないようにするための措置を講じているときはその措置の内容)を開示する。
社外取締役を置くことの義務付け(中間試案13ページ 社外取締役の設置を「義務付ける案」と「義務付けない案」との両論を併記。
既に多くの上場企業が社外取締役を選任している状況となっているうえ、社外取締役を選任することがマイナスであると考えている企業にまで選任を義務付けることは難しいとの意見もある(2017年2月24日のニュース「会社法改正で社外取締役の選任は義務付けられるか?」参照)。
企業買収関連 株式交付制度の創設(中間試案17ページ 株式会社が金銭を使わずに他の株式会社(以下、対象会社)を子会社とする方法として株式交換(自社の株式を対象会社の株主に交付する方法)があるが、株式交換では対象会社の株式の「すべて」を自社株式と交換しなければならず(その結果、対象会社は必ず100%子会社となる)、必ずしも100%子会社とすることまで企図していない場合(例えば議決権の3分の2だけ取得したい場合)には株式交換は使い勝手が悪い手法でと言える。また、対象会社は(日本国内の)株式会社でなければならないことから、対象会社が外国会社の場合も株式交換を用いることができない。必ずしも完全子会社となることまでを企図していない場合や外国会社が日本の株式会社を取得する場合、現物出資の手法によることも考えられるが、この場合、検査役の選任や検査に手間がかかる。そこで、株式会社が他の株式会社(これと同種の外国会社を含む)をその子会社とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け、その譲渡人に対して自社の株式を交付する新制度として、株式交付制度を創設する案が提案されている。

検査役の選任や検査 : 仮に現物出資財産の値付けが適正に行われていなければ、現物出資した者あるいは現物出資を受け株式を交付した会社の株主が損害を被ることになる。そこで会社法では、株式交付の対価として現物出資される財産が適正に評価されるよう、裁判所が選任した検査役により現物出資財産の価値の調査を求めている(会社法207条)。

その他 社債管理補助者制度の創設(中間試案13ページ 社債管理者の責任および資格要件が厳格であるためなり手の確保が難しいことから、社債管理者よりも裁量の余地の限定された権限のみを有する社債管理補助者(銀行や信託会社などが就任できる。「弁護士や弁護士法人」も就任できるようにすべきか検討対象となっている)に社債の管理の補助を委託することができるようにする。社債管理補助者の設置は、社債管理者を置かない(すなわち社債権者が自ら社債を管理する)ことが前提となる。

社債管理者 : 社債権者のために社債に係る債権の弁済を受けたり、社債に係る債権の回収を容易にしたりするなど社債の管理をする会社のこと(会社法702条)。銀行や信託会社などが就任する。
社債の管理の補助 : 包括的な権限を有している社債管理者と異なり、社債管理補助者は社債権者の破産債権の届出や、社債権者からの請求を受けて社債権者集会の招集をすることなどにより、社債権者による社債権者集会の決議等を通じた社債の管理が円滑に行われるように補助するのが職務となる。

株式会社の代表者の住所が記載された登記事項証明書の交付請求を制限する規定の創設(中間試案22ページ 代表取締役のプライバシー確保のため、商業登記の記載事項のうち代表取締役の住所が記載された登記事項証明書の交付を請求できる者を「利害関係を有する者」に限定する(詳細は2018年2月2日のニュース「登記簿上の代表取締役の住所が原則非公開に」参照)。

2018/03/01 海外子会社から人材を迎えた場合の対応

企業活動のグローバル化に伴い、現地マーケットに精通した海外子会社の優秀な人材を日本の親会社で勤務させるというケースも散見されるようになった。なかには、グローバル化を急速に進める日本の上場会社が、海外子会社の幹部を日本の親会社の幹部として迎え入れるケースもある。こうした場合にしばしば問題になるのが「報酬水準」だ。

原則論としては、「やっていること」と「評価方法」はリンクするべきということになる。例えばその人材が日本の親会社の仕事をやっているのであれば、そこでの役割に応じた日本の親会社の評価方法に基づくべきであるのに対し、日本の親会社に属しているのは例えば「グループ全体における主要な経営幹部として本体の経営会議に参画する」あるいは「グループ全体における主要な経営幹部としての位置付けを明確にする」等のためであって、基本的には兼務する海外子会社の業務に従事しているというのであれば、海外子会社の評価方法に基づくべきということになる。

もっとも、たとえ評価方法を日本の親会社に合わせるとしても、「報酬額」を決める際には・・・

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2018/03/01 海外子会社から人材を迎えた場合の対応(会員限定)

企業活動のグローバル化に伴い、現地マーケットに精通した海外子会社の優秀な人材を日本の親会社で勤務させるというケースも散見されるようになった。なかには、グローバル化を急速に進める日本の上場会社が、海外子会社の幹部を日本の親会社の幹部として迎え入れるケースもある。こうした場合にしばしば問題になるのが「報酬水準」だ。

原則論としては、「やっていること」と「評価方法」はリンクするべきということになる。例えばその人材が日本の親会社の仕事をやっているのであれば、そこでの役割に応じた日本の親会社の評価方法に基づくべきであるのに対し、日本の親会社に属しているのは例えば「グループ全体における主要な経営幹部として本体の経営会議に参画する」あるいは「グループ全体における主要な経営幹部としての位置付けを明確にする」等のためであって、基本的には兼務する海外子会社の業務に従事しているというのであれば、海外子会社の評価方法に基づくべきということになる。

もっとも、たとえ評価方法を日本の親会社に合わせるとしても、「報酬額」を決める際にはその人が属する(例えば出身国の)人材マーケットの水準も考慮する必要がある。例えば日本の親会社の幹部になったからといって報酬額も日本人幹部に合わせた結果、その人の報酬額が人材マーケットの水準と合わなくなるということもある。こうした事態を避けるためには、その人が属する人材マーケットの報酬水準をベンチマークにする必要がある。

実際、ポジションによっては、海外子会社の方が日本の親会社よりも報酬水準が高いということは珍しくない。特に海外子会社が大手日本企業の現地法人で、それなりの企業規模であれば、現地の経営トップの報酬水準が日本の親会社の社長の報酬水準を上回ることもあるという。規模が小さい海外子会社であれば日本の親会社の同等職位とほぼ同じ水準ということもあるが、規模が大きくなるにつれて海外子会社の方が水準が高くなり、その格差が広がっていく傾向にある。海外子会社の経営幹部を日本の親会社の役員として登用した場合に報酬水準が逆転するのは、こうしたことに起因している。

このように、海外の経営幹部を日本の親会社の役員として登用した場合、報酬水準に関しては(生え抜きの日本人役員との)ダブルスタンダードが生じてしまうのもやむを得ないと言えるが、連結企業業績に対する貢献度や影響度の大きい同じグループ経営幹部として、例えば評価方法を日本の親会社に準拠したものとしたり、株式報酬には日本の親会社の株式を用いる(ただし、ボリュームは異なる)など、全社一体的なマネジメントを行ううえで“ベクトルの共有”は図る必要がある。

グループ経営幹部 : ここでは、本体を含むグループ企業全体をひとつの企業体としてみた場合の経営幹部を指す。企業によっては、グループガバナンスの強化を目的として、主要な子会社役員を「グループ経営幹部」や「グループ執行役員」と定義し、本体役員を兼務させるケースも見られる。

また、海外から人材を招聘する場合(日本に居住して親会社役員としての職務を主とする場合)、しばしば企業から聞かれる疑問が「契約書」の要否だ。日本企業では、一般従業員との雇用契約であろうと、取締役との委任契約であろうと、文書による明示的かつ詳細な雇用/委任条件を定めた契約書は交わさないのが一般的な実務となっている。ただ、海外の人材とは言葉の問題によるお互いの理解の齟齬や、元々の考え方の違いというものもある(当然、出身国による慣行の違いもある)。ましてや、評価制度や報酬制度も異なる海外企業から人材を招聘するとなれば、事前に細かな条件について“握っておく”ということは後々のトラブル回避のためにも有益だろう。具体的には、職務内容、報酬、退職時の取扱い(自己都合による退任、会社都合による退任、不祥事による解任など、ケース別に規定する)、競業避止規定、さらには福利厚生(社会保険、住居費・教育費、一時帰国費用の負担など)についての合意事項をまとめた書面である「エンプロイメント・アグリーメント」を締結したり、その他の説明資料を通じて事前に合意形成を図るのが通常だ。特に報酬については、どのようなパフォーマンスが求められ、それに対して固定報酬はいくらなのか、業績連動報酬はどのような評価方法に基づきいくらになり得るのか(例えば財務諸表上の定性的なマイルストーンを設け、達成率に応じた金額を示すなど)といった点を事前に明確に示しておく必要があろう。

詳細な条件を定めたエンプロイメント・アグリーメントは法律的に求められているわけではなく、あくまで人事的な対応ということになるが、優秀な海外人材を役員待遇で迎え入れる場合には、円滑なコミュニケーションやトラブル回避のために整備しておくと良いだろう。また、グループ経営幹部として、例えば報酬委員会での審議の対象となったり、仮に取締役となれば、株主総会決議における役員報酬決議のほか、年間の報酬額が連結で1億円を超える場合には有価証券報告書での開示が求められたりするなど、法律事項への対応が必要になるという点、留意したい。

なお、本稿の内容はあくまでも個別的な対応方法を例示したものにすぎない。企業グループのグローバル化の進展に応じて、グローバルで統一的な対応方法を整備することも求められてくるだろう。

<取材にご協力いただいたウイリス・タワーズワトソン宮川正康氏の連絡先>
ウイリス・タワーズワトソン
コーポレートガバナンス・アドバイザリーグループ シニアコンサルタント
社会保険労務士 日本証券アナリスト協会検定会員
宮川 正康
03-3581-6575
masayasu.miyakawa@willistowerswatson.com