2017/12/04 主要国内機関投資家による議決権行使結果 第五弾(会員限定)

当フォーラムでは、一橋大学の円谷准教授の協力を得て、有力企業の株主総会上程議案に対する主要国内機関投資家による個別の議決権行使結果(賛否状況)を分析しているが、5回目となる今回はキーエンスと東京放送ホールディングス(以下TBS)の剰余金処分議案を取り上げる。

主要国内機関投資家による議決権行使結果 第一弾(2017年11月6日掲載)はこちら
主要国内機関投資家による議決権行使結果 第二弾(2017年11月13日掲載)はこちら
主要国内機関投資家による議決権行使結果 第三弾(2017年11月22日掲載)はこちら
主要国内機関投資家による議決権行使結果 第四弾(2017年11月30日)はこちら

2017年6月の株主総会において、キーエンスは75円、TBSは17円の期末配当を諮る議案を上程した。なおTBSは中間配当を実施しており、通期ベースでは28円となる。結果はいずれの議案も過半数の賛成を得て可決された。下表はそれぞれの議案と賛成率である。なお、キーエンスの外国人株主比率は48.46%(2017年3月20日現在)、TBSは11.39%(2017年3月31日現在)となっている。

キーエンスの賛成率は、同種の議案の中では目立って低い水準にとどまった。これと比較してTBSの賛成率は数字的には高いが、両社における外国人株主比率の格差を考え併せると、反対票を投じた機関投資家株主の割合はむしろTBSの方が大きいものと推定される。

まず、剰余金処分案を判断する際にポイントとなる各種指標を確認しておこう。連結配当性向はキーエンスが32.3%、TBSが30.3%で大きな差はない。ROEについてはキーエンスの9.9%に対して、TBSは3.4%と見劣りする水準にある。連結自己資本比率はキーエンスが94.7%と圧倒的に高い水準にあるが、TBSも71.1%と財務安定性は相当に高くなっている。

社 名 議 案 賛成率
キーエンス 期末配当及びその他剰余金の処分の件 64.24%
東京放送ホールディングス 剰余金処分の件 84.17%

ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)

キーエンスの剰余金処分議案に反対した国内機関投資家としては、MU投資顧問、大和住銀投信投資顧問、東京海上アセットマネジメントがあった。MU投資顧問は「議決権行使の基本方針」で「役員報酬額、配当金、内部留保のバランス等を考慮」するとしており(3.議案判定基準の基本的な考え方(1)剰余金処分議案 参照)、自己資本比率に対して配当性向が低いと判断したものと考えられる。ちなみに、自己資本比率が87.1%で配当性向が60.0%に達するファナックの同議案に対しては、主だった国内機関投資家は軒並み賛成している(賛成率100.0%)。

TBSの同議案に対しては、三菱UFJ信託銀行、りそな銀行、りそなアセットマネジメント、日生アセットマネジメント、野村アセットマネジメントが反対票を投じた。野村アセットマネジメントの「日本企業に対する議決権行使基準」では、剰余金処分議案について「直近2期のいずれかにおいてROEが10%未満であった会社については、株主還元率が50%未満の場合には、原則として反対する」としている(8.剰余金処分について(1)参照)。十分な株主資本の成長性で株主に報いることができないならば、大幅な株主還元(配当+自社株買い)で株主を満足させるべきとの考え方によるものと推察される。

株主還元率 : (配当+自社株買い)/当期純利益

なお東京海上アセットマネジメントの「日本株式株主議決権行使ガイドライン」は、「自己資本比率が70%以上で、配当性向が15%以下に止まる場合」に(剰余金処分議案に)反対する可能性があるとしている((1)剰余金の処分 参照)。これによれば、両社とも自己資本比率は本ガイドラインの基準に該当するものの、配当性向により「問題なし」とされるはずである。しかし実際のところ、キーエンスには反対、TBSには賛成と結果が別れた。同ガイドラインではその趣旨として「過度の内部留保」に反対する旨を挙げており、キーエンスの自己資本比率90%超という数字については、たとえ配当性向が30%あっても「過度」と判断せざるを得なかったということだろう。このように必ずしもガイドラインの数値基準には該当しなくても反対されるケースがある点に、上場企業の経営陣は留意する必要がある。

2017/12/03 【WEBセミナー】M&Aの適正価格とインセンティブプランとしての資本政策

概略

【セミナー開催日】2017年11月24日(金)

上場企業の約8割が、市場開拓や成長戦略を加速させるためにM&Aを実行または検討していると言われています。
本セミナーでは、数多くのM&A案件の企業価値評価に関与してきたプルータスコンサルティングの山田 昌史 様をお招きし、M&Aにおけるバイサイド側のプロセスを紐解いていただくとともに、買収金額の考え方について解説していただきます。
また、M&Aは、M&Aの意思決定時のプランどおりに企業を成長させられなければ、「成功」とは言えません。企業を成長させるために必須となるのが、優秀な人材の獲保です。特に中核となる幹部社員をいかに引き留める、あるいは採用できるかが鍵であり、そのために幹部社員に継続的なインセンティブを与えることは、M&A後における極めて重要な経営課題となります。本セミナーでは、優秀な人材の確保と効率的資本政策を同時に実現するインセンティブ制度として、ストック・オプション、有償ストック・オプション、時価発行新株予約権信託についても解説していただきます。

【講師】プルータスコンサルティング 山田 昌史(やまだ まさし) 様

セミナー資料 M&Aにおける買収金額の考え方と戦略.pdf(2.03MB)
M&A、IPO後の幹部人材登用、継続的なインセンティブと効率的な資本政策~様々な新株予約権の活用方法~.pdf(793KB)

上記の資料をクリックすると会員限定コンテンツがご覧になれます。
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちら

セミナー動画
(1)会社紹介、M&Aマーケットについて

31883a

(2)買収金額の考え方
31883b

(3)M&A戦略について

31883c

(4)会社のインセンティブ・プランとは

31883d

(5)有償ストック・オプション最新実務

31883e

本Webセミナーを閲覧して感じたことや気付いた点(学んだ点、疑問点、自社の課題など)を下の右側の「感想の登録」ボタンを押してください。マイ研修レポートの所感等記入欄の書き直しもこちらからどうぞ。

感想の登録

2017/12/03 【WEBセミナー】M&Aの適正価格とインセンティブプランとしての資本政策(会員限定)

概略

【セミナー開催日】2017年11月24日(金)

上場企業の約8割が、市場開拓や成長戦略を加速させるためにM&Aを実行または検討していると言われています。
本セミナーでは、数多くのM&A案件の企業価値評価に関与してきたプルータスコンサルティングの山田 昌史 様をお招きし、M&Aにおけるバイサイド側のプロセスを紐解いていただくとともに、買収金額の考え方について解説していただきます。
また、M&Aは、M&Aの意思決定時のプランどおりに企業を成長させられなければ、「成功」とは言えません。企業を成長させるために必須となるのが、優秀な人材の獲保です。特に中核となる幹部社員をいかに引き留める、あるいは採用できるかが鍵であり、そのために幹部社員に継続的なインセンティブを与えることは、M&A後における極めて重要な経営課題となります。本セミナーでは、優秀な人材の確保と効率的資本政策を同時に実現するインセンティブ制度として、ストック・オプション、有償ストック・オプション、時価発行新株予約権信託についても解説していただきます。

【講師】プルータスコンサルティング 山田 昌史(やまだ まさし) 様

セミナー資料 M&Aにおける買収金額の考え方と戦略.pdf(2.03MB)
M&A、IPO後の幹部人材登用、継続的なインセンティブと効率的な資本政策~様々な新株予約権の活用方法~.pdf(793KB)
セミナー動画
(1)会社紹介、M&Aマーケットについて

(2)買収金額の考え方

(3)M&A戦略について

(4)会社のインセンティブ・プランとは

(5)有償ストック・オプション最新実務
本Webセミナーを閲覧して感じたことや気付いた点(学んだ点、疑問点、自社の課題など)を下の右側の「感想の登録」ボタンを押してください。マイ研修レポートの所感等記入欄の書き直しもこちらからどうぞ。

感想の登録

2017/12/03 【WEBセミナー】海外子会社の内部統制

概略

【セミナー開催日】2017年11月24日(金)

巨額の損害賠償や当局からの罰金、業務停止、グローバルでのブランド失墜など、ひとたび海外子会社で不祥事が発生すれば企業に大きなダメージをもたらす恐れがあります。それだけに、海外子会社の内部統制は経営陣にとって喫緊に取り組むべき課題となっていますが、文化的な背景や言語、法制度の違いなどから、多くの企業が対応に頭を悩ませているのではないでしょうか。そこで本セミナーでは、海外当局にも対応した経験のあるTMI総合法律事務所の戸田 謙太郎 弁護士をお招きし、不祥事を防止するための海外子会社の内部統制についてお話しいただきます。具体的には、海外で起こりやすい不祥事や法律問題、さらには最新の不祥事事例も紹介していただいたうえで、最近注目を集めるグローバル内部通報制度を含む「不祥事を防ぐための仕組み作り」について解説していただきます。

【講師】TMI総合法律事務所 弁護士 戸田 謙太郎

セミナー資料 海外子会社の内部統制.pdf(1.39MB)

上記の資料をクリックすると会員限定コンテンツがご覧になれます。
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちら

セミナー動画
(1)海外子会社不祥事の最新事例の紹介

31869a

(2)海外子会社不祥事の最新事例の紹介 続き(文書の破棄・隠匿~)

31869b

(3)海外子会社不祥事の最新事例の紹介 続き(ビジネスと人権~)

31869c

(4)不祥事を防止するための効果的な海外子会社の内部統制

31869d

(5)不祥事を防止するための効果的な海外子会社の内部統制 続き(コンプライアンス研修の実施~)

31869e

本Webセミナーを閲覧して感じたことや気付いた点(学んだ点、疑問点、自社の課題など)を下の右側の「感想の登録」ボタンを押してください。マイ研修レポートの所感等記入欄の書き直しもこちらからどうぞ。

感想の登録

2017/12/03 【WEBセミナー】海外子会社の内部統制(会員限定)

概略

【セミナー開催日】2017年11月24日(金)

巨額の損害賠償や当局からの罰金、業務停止、グローバルでのブランド失墜など、ひとたび海外子会社で不祥事が発生すれば企業に大きなダメージをもたらす恐れがあります。それだけに、海外子会社の内部統制は経営陣にとって喫緊に取り組むべき課題となっていますが、文化的な背景や言語、法制度の違いなどから、多くの企業が対応に頭を悩ませているのではないでしょうか。そこで本セミナーでは、海外当局にも対応した経験のあるTMI総合法律事務所の戸田 謙太郎 弁護士をお招きし、不祥事を防止するための海外子会社の内部統制についてお話しいただきます。具体的には、海外で起こりやすい不祥事や法律問題、さらには最新の不祥事事例も紹介していただいたうえで、最近注目を集めるグローバル内部通報制度を含む「不祥事を防ぐための仕組み作り」について解説していただきます。

【講師】TMI総合法律事務所 弁護士 戸田 謙太郎

セミナー資料 海外子会社の内部統制.pdf(1.39MB)
セミナー動画
(1)海外子会社不祥事の最新事例の紹介

(2)海外子会社不祥事の最新事例の紹介 続き(文書の破棄・隠匿~)

(3)海外子会社不祥事の最新事例の紹介 続き(ビジネスと人権~)

(4)不祥事を防止するための効果的な海外子会社の内部統制

(5)不祥事を防止するための効果的な海外子会社の内部統制 続き(コンプライアンス研修の実施~)
本Webセミナーを閲覧して感じたことや気付いた点(学んだ点、疑問点、自社の課題など)を下の右側の「感想の登録」ボタンを押してください。マイ研修レポートの所感等記入欄の書き直しもこちらからどうぞ。

感想の登録

2017/12/01 有償支給が支給先からの融資に? 収益認識基準で製造業に広範な影響も

企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した企業の売上の計上ルールを変える新たな会計基準である「収益認識に関する会計基準(案)」に対して、企業や公認会計士などの実務家から多数のコメントが寄せられている(収益認識に関する会計基準の詳細は、2017年5月30日掲載の【役員会 Good&Bad発言集】「収益認識」、2017年9月11日掲載の「役員も押さえておきたい 収益認識会計基準導入で企業に求められる対応」参照)。その中でも特に目に付くのが、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2017/12/01 有償支給が支給先からの融資に? 収益認識基準で製造業に広範な影響も(会員限定)

企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した企業の売上の計上ルールを変える新たな会計基準である「収益認識に関する会計基準(案)」に対して、企業や公認会計士などの実務家から多数のコメントが寄せられている(収益認識に関する会計基準の詳細は、2017年5月30日掲載の【役員会 Good&Bad発言集】「収益認識」、2017年9月11日掲載の「役員も押さえておきたい 収益認識会計基準導入で企業に求められる対応」参照)。その中でも特に目に付くのが、「有償支給取引の会計処理」に対する反対意見だ。

有償支給取引とは、ある製品の製造を外注する場合、その製造に必要な部品や素材を発注元が外注先に一定の価格で売却すること。外注先では入手困難な部品・素材や発注元が調達した方が低価格となる部品・素材が対象となることが多い。ただ、この場合、発注元では部品・素材を提供した時点では外注先に代金を請求せず、発注元が外注先に完成品の代金を支払う際に両者を相殺する形がとられることが少なくない(例えば、発注元が80の部品・素材を外注先に提供し、完成品に対して発注元が外注先に100支払う場合、発注元が外注先に20(100-80)支払うことで済ませる)。有償支給取引は、メーカーとその外注先企業の間ではよく見られる。

この有償支給取引について、「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」には次のように記されている。要するに、収益認識会計基準では(売主から買主への)「支配の移転」の時に収益を認識することになっているところ、これまでは部品・素材の支給時点で支給元(例えば完成品メーカー)は収益を認識しない(将来、当該支給品が含まれる部品を買い戻す以上、売上のダブルカウントを防ぐ必要があるため)ものの、少なくとも「支配の移転」はあったとして在庫の金額を減らしていた有償支給取引について、「支給時点では支配が移転していないため、在庫を減らしてはならない」とし、その代わりに「金融取引」として取り扱うとしているわけだ。

売上のダブルカウント : 仮に有償支給時に支給元で収益(売上)を認識する(これを1つ目の売上とする)と、当該有償支給品が加工されて支給元に戻ってきた後に最終製品として販売するときにも収益を認識する(2つ目の売上)以上、同一の部品・材料を起因として収益(売上)を2回計上することになる。もちろん売上原価も2回計上するので利益の額がかさ上げされることはないとしても、投資家等の財務諸表の読者がダブルカウントで膨らんだ売上を見て企業の取引規模を実態以上に大きいものであると誤解する可能性がある。そこで、売上のダブルカウントを防ぐために、従来から1つ目の売上は認識しない(2つ目の売上だけを認識する)といった会計実務が行われている。

69項
企業が商品又は製品を買い戻す義務(先渡取引)あるいは企業が商品又は製品を買い戻す権利(コール・オプション)を有している場合には、顧客は当該商品又は製品に対する支配を獲得していない
(中略)
当該商品又は製品を当初の販売価格以上の金額で買い戻す契約は、金融取引として処理する。(後略)

70項
買戻契約を金融取引として処理する場合には、商品又は製品を引き続き認識するとともに、顧客から受け取った対価について金融負債を認識する。(後略)

先渡取引 : 将来、事前に定めておいた価格で、商品または製品を売買することを定めた取り決め。先渡取引は相対で行われる取引であり、市場で行われる同様の取引である「先物取引」とは区別される。
コール・オプション : 買い戻す(呼び寄せるという意味で「コール」と言われる)ことができる権利。あくまでも権利なので、権利の保有者は買い戻しをしなくてもよい。反対に、売り渡すことができる権利はプット(押し付けるという意味で用いられる)・オプションと言われる。

具体例で説明しよう。上記69項を具体的設例にしたのが、有償支給取引を扱う[設例32]である(例えば、「支給元」は完成品メーカー、「支給先」はその完成品メーカーに組み込まれる部品を製造する下請会社が該当する)。

[設例32]
A 社(支給元)は、B 社(支給先)と製品 X の購入契約を締結している。A 社は、当該契約に基づき、A 社が製造した部品 Y(A 社における帳簿価額は 900 千円)を B 社に 1,000千円で有償支給し、加工後の製品 X を 1,200 千円で B 社から購入した。

この[設例32]が示している会計処理(下表中央の列)に対して、自動車関連各社(トヨタ自動車、日産自動車、ダイハツ工業、アイシン精機、豊田自動織機、デンソー、日野自動車株式会社、スズキ株式会社)が現行の会計実務に影響を与えかねないとして反対意見を寄せている。

[設例32]の数値を前提に、ASBJが提案する有償支給取引の会計処理と現行の会計実務における有償支給取引の会計処理を比較すれば下表のとおり。

時点 ASBJの提案する(A社における)有償支給取引の会計処理 現行の会計実務における(A社における)有償支給取引の会計処理
(1) A社からB社への部品Yの支給時 A社がB社より部品Yを担保に融資を受けたと擬制する。したがって、A社は在庫を減らさず、未収入金とともに、融資を受けた金額に相当する負債を認識。金額はいずれも1,000千円(=B社に有償支給した金額)。 在庫を900千円減らす。売上は認識しない。
(2) 加工後の製品XのA社への納入時 B社の加工による増価部分(200千円)を在庫として認識し、負債(1,000千円)の消滅を認識(A社がB社に対して債務を返済したと擬制する)したうえで、B社に支払う金額1,200千円につき買掛金を認識する。 在庫を1,200千円増やす。
買掛金1,200千円を認識する。

現行の会計実務(下表右側)では有償支給取引を「在庫の受け渡し」と考えて会計処理を行うのに対し、ASBJでは有償支給取引を金融取引(資金の貸し借り)とみなして会計処理を行っている。

こういった違いは、「当該支給部品Yの使用を指図する能力を有するのはどちらか」「当該支給部品Yから便益を享受するのはどちらか」について、下表のとおり、ASBJと現行の会計実務では考え方が異なることが背景にある。

判断要素 ASBJの提案する有償支給取引の会計処理の背景にある考え方 現行の会計実務における有償支給取引の会計処理の背景にある考え方
当該支給部品Yの使用を指図する能力を有するのはどちらか A社 A社・B社間で決められた条件次第。
通常はB社。
当該支給部品Yから便益を享受するのはどちらか A社 A社・B社間で決められた条件次第。
通常はB社。

自動車関連各社が最も問題視しているのは「どのような条件が実質的に買戻契約に該当するか否かの判断基準が示されていない」という点。例えば日産自動車は、判断基準が示されていないにもかかわらず本設例のみで会計処理を決めることについて、「支給品に対する支配が実質的に支給先に移転している有償支給取引、または、金融取引としての性質を有していない有償支給取引にまで、広く本設例の処理が求められる恐れがあり、適切ではない」としている。

そもそも、会計基準における金融取引という考え方は、会社が形式的には顧客との売買取引を装っていても、買戻し特約が付いており、実態は資金提供を受けている(資金の貸し手に物品を担保代わりに差し入れる)だけに過ぎない場合に、売買取引とさせない(仮にこれが売買取引となれば、売上を容易に粉飾できてしまうため)ためのロジックに過ぎない。

「有償支給取引=金融取引」というASBJの考え方に対し、トヨタ自動車は「支給時に認識する未収入金の決済サイトは加工代が含まれる総額の仕入債務の決済サイトよりも長く設定されており、かつ仕入債務の支払時に相殺される契約条件となっているため、当該未収入金が現金で決済されることはない。そのため、当社における有償支給取引は金融取引の性質を有していない」と反論している。確かに、ASBJの設例通りに会計処理をすると、トヨタ自動車が傘下の部品会社から融資を受けている格好になる。果たしてこれが取引の実態を適切に表しているのか、疑問の残るところだ。

決済サイト : 締め日から決済されるまでの期間

また、ASBJの考え方では在庫を減らさないことになっているため、有償支給の支給元が有償支給品の棚卸をしなければならなくなる点も見逃せない。自動車メーカーでは、有償支給取引先も相当数に上るため、すべての有償支給先の支給品を支給元が棚卸しなければならないとなれば、多大な手間と混乱が発生することになる。

棚卸 : 在庫の実数が帳簿上の数量とあっているかどうかを確認すること

今回のASBJのパブリックコメント募集で反対意見を出した企業は自動車業界に偏っているものの、有償支給取引は製造業で広く行われており、決して自動車業界特有のものではない。つまり、上述した有償支給取引の会計処理の問題は、製造業全体に影響を与えるものと言える。有償支給取引を行っている企業の経営陣は、ASBJにおける今後の議論の動向に注目していく必要がある。当フォーラムではこの問題に対する結論が見え次第、続報したい。

2017/11/30 【2017年11月の課題】設備投資の合理性

2017年11月の課題

東証一部に上場するA社は大規模な設備投資を計画しています。その設備投資計画について、機関投資家との対話の中で経済合理性(採算性)を問われました。機関投資家を納得させる説明としてどのようなものが考えられるか、またその際、どのような点に留意すべきか、考えてみてください。

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

模範解答を見る
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2017/11/30 【2017年10月の課題】政策保有株式が抱える問題点と対応策:解答(会員限定)

さまざまな問題点をはらむ政策株式の保有

下のグラフは東京証券取引所に上場している企業の株式を誰が保有しているかについて時系列で比較したグラフです。2000年以降、信託銀行、生・損保等金融機関の株式保有比率は減少する傾向にあると言えますが、一方事業法人等が有する比率は20%超を推移しており、大きな変動はありません。

事業法人等 : 「事業法人等」には非上場企業も含まれることから、値には純投資も含まれることから、この値がそのまま上場企業の政策株式保有の状況を示しているわけではない。

主要投資部門別株式保有比率の推移
31762

2016年度株式分布状況調査の調査結果について

企業が取引関係の維持や資本提携などを目的として保有している他の企業の株式を政策保有株式と言います。政策保有株式に関して、コーポレートガバナンス・コードは原則1-4において次のように定めています。

【原則1-4.いわゆる政策保有株式】
上場会社がいわゆる政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で主要な政策保有についてそのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行うべきである。上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための基準を策定・開示すべきである。

このようにコーポレートガバナンス・コードが上場会社の政策株式保有に厳しいスタンスを持つのは、政策株式の保有は、リターンが十分でないにもかかわらず資金が眠ってしまい、本業に投資すべき資金が少なくなり、企業価値が失われる可能性があるからです。すなわち、株価の値上がりや配当に期待して株式投資する場合(これを“純投資”と言います)、株価の動向に敏感になり、議決権行使を通じて、投資先価値の極大化を図るのが通常です。しかし、上場会社が取引関係の維持を目的として他社の株式を保有する場合、株主から預かった大切な資金を眠らせてしまうことになり、その資金を使って本業の設備投資をすればより企業価値を高めることができたにもかかわらず、それができなくなります。投資家から見れば、その会社の本業が産み出す事業価値に投資したのであり、せっかく投資した資金が政策保有株式に化して眠ってしまうことは言語道断というわけです。

政策保有株式は、「利回りの低さ」も問題視されています。もともと上場株式の配当利回りは平均で1~2%程度に過ぎません。一方、伊藤レポートでは「最低限 8%を上回るROEを達成することに各企業はコミットすべき」とされています。しかし、専門のトレーダーがいるわけでもなく、当面は売却益も期待できない中で、政策保有株式に投下した資金だけでみると「最低限8%を上回るROE」を達成できる訳がありません。政策保有株式の利回りの低さが、会社全体のROEを確実に引き下げる結果、「最低限8%を上回るROE」の達成は困難となります。また、政策保有株式は通常は売却を想定していないため、キャピタルゲインも期待できません。

ROE : Return On Equity=株主資本利益率

仮に政策保有株式の時価が上昇して含み益が増えれば、保有会社にとってメリットになるように見えますが、必ずしもそうとは言えません。政策保有株式が上場株式であれば貸借対照表上は時価評価されるため、含み益が増えるほど総資産が増えて、ROAが低下する結果になるからです。一方、含み損が広がると評価損の計上を余儀なくされ、その結果ROEが低下することになります。いずれにしろ、「株価」と言う「コントロールできない要素」に企業の業績やKPIが振り回されることになるのは大問題です。

ROA : Return On Assets =総資産利益率

また、もし「保有していることで取引条件を有利にしてもらっている」のであれば、それは相手会社の一般株主の犠牲のもと自社が特別な便益を受けていることになりかねない(「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」における投資家フォーラムの提出資料の11ページを参照)という点もひそかな問題点と言えます。なぜなら、「取引条件を有利にする」ことは「その分だけ売上が減る(あるいはコストが増える)」ことを意味し、それは相手会社の一般株主が損を被ることになるからです。

政策株式を保有することは、政策株式を発行する側にもマイナスの影響を与えます。すなわち、当該取引先の意向を“忖度”して議決権を行使することで投資先の放漫経営を許してしまいかねず、別の投資家が議案の提案を通じて投資先の改革を試みても、保有側が安定与党株主として議決権を行使することで、せっかくの改革の芽を摘んでしまう可能性があるからです。それはひいては、政策保有株式の価値の毀損となって保有側にもマイナスの影響を与えることになります。

当該取引先(政策株の発行側)に自社の株式を持ってもらっている持ち合い株式(相互保有株式)の場合、相互に“忖度”して安定与党株主として機能することで、マイナスの影響が増幅することになります(ガバナンスの空洞化)。また、「現経営陣が相互に守りあう実質的な買収防衛策ではないか」との批判も受けかねません。持ち合い株式については、「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」のメンバーである冨山和彦メンバー(経営共創基盤代表取締役CEO)は「取引関係強化の美名のもと行われる無能な経営者同士の安全保障条約」(に過ぎず解消が必要)と主張しています(第3回目の同会議に提出した意見書の2ページ目を参照)。

政策保有株式の問題点をまとめると、次のとおりです。

・事業に回す資金が少なくなり、企業価値が低下する。
・会社全体のROEを引き下げてしまう
・政策保有株式が上場会社株式であれば、「株価」と言う「コントロールできない要素」に企業の業績やKPIが振り回される
・相手会社の一般株主の犠牲のもと自社が特別な便益を受けていることになりかねない(株主間の不平等)
・投資先の改革にブレーキをかけてしまう
・持ち合い株式(相互保有株式)の場合、ガバナンスの空洞化を招くだけでなく、実質的な買収防衛策となる

「保有している」のか「保有させられている」のかをはっきりさせるべき

このように政策保有株式は多くの問題をはらむため、従来から機関投資家は投資先の上場会社が政策株式を保有することに対して厳しいスタンスを持っていました。その厳しいスタンスは、冒頭で紹介したコーポレートガバナンス・コードの原則1-4にも反映されています。すなわち、政策株式を有する上場会社はコーポレートガバナンス・コードに基づき「政策保有に関する方針」「政策保有のねらい・合理性について具体的な説明」「政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するために策定した基準」を開示することが求められるようになりました。いわば開示を通じて、間接的に政策保有株式の削減を求める施策と評価できます。

このコーポレートガバナンス・コードの規定は、政策保有株式を有する上場会社にどのような影響を与えたのでしょうか。実は、平成28年度全株懇調査報告書(134ページ)によると、政策保有株式をすべて売却することを決めた(あるいは売却した)企業は2.5%に過ぎず、「一部を売却する」が15.2%、「売却について検討中である」が27.3%であり、「売却する予定はない」が過半数(54.9%)を占めています。コーポレートガバナンス・コードが導入されてもなお、政策保有株式を一切売却しない企業が過半数を超えること自体驚きですが、政策保有株式を売却する予定がない上場会社の大半は、政策保有株式を手放さずに「開示」でのコンプライを選択したことになります(なお、原則1-4のコンプライ率は東証のコーポレートガバナンス・コードへの対応状況 (2017年7月14日時点)によると96.85%。また、政策保有株式の保有を前提に保有方針を示している上場会社はそのうち9割程度(コーポレート・ガバナンス白書2017の29ページを参照)。

しかし、政策株式の保有継続を前提に開示だけを取り繕う姿勢では、この問題の本質を見失い、場当たり的な対応に留まってしまう恐れがあります。すなわち、政策株を「保有している」のか「保有させられているのか」によってこの問題への対応が変わってきます。これを明らかにしたのが、第3回「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(2015年11月24日開催)で投資家フォーラム運営委員の三瓶メンバーと大堀メンバーが提出した資料(こちらの8ページ)です。当該政策株を「保有している」のであれば、当該取引先(政策株の発行側)に対して優位な地位(議決権を持っていることをテコに有利な取引条件を引き出す)にあり、取引面での交渉力を維持するためには、売却することだけが正しい選択肢とは限りません。一方、「保有させられている」のであれば、もともと当該取引に対して不利な地位にあるのであり、当該政策株の売却により取引を解消される恐れがあります。政策保有株式を持つ上場会社では、まずその政策株を「保有している」のか「保有させられている」のかをはっきりさせておきましょう。

そのうえで「保有している」のであれば、そのことで取引面での交渉力がどれほど高まっているのかを検証すべきです。たとえば外注先の株式を政策保有している場合、その保有により調達額が一般的なレートより好条件となっていれば、それを数値化してみるもの一案です。ただ、実際にはそのような数値化は困難であるのが通常です。そうであれば、リターンを検証できないものに資金を投下することの是非を考えなければなりません。

一方、「保有させられている」場合は、もともと不利な条件で取引をさせられている可能性が高いと言えます。例えば得意先の株式を政策保有している場合、その保有により仕事をもらえている可能性があります。売却の意思決定権はこちらにない以上、売却することは得意先を失う可能性があることを視野に入れざるを得ません。とりわけ「取引先持株会」に加入させられている場合は、市場での売却と異なり、持株会事務局への退会手続きが必要となり、解消へのハードルが上がります。相当のプレッシャーを受けることが想定されます。

「保有させられている」場合であっても、得意先と自社との間の規模や信用力に差があり、当該得意先と取引があることが自社にとって信用力の補完になっている状況であれば、当該政策株を持ち続けることに意義を見出せるケースと言えます。もっとも、そのようなケースは非上場会社が上場会社の株式を持つ場合ではよくある話ですが、上場会社が上場会社の株式を持つ場合では少ないものと思われます。

政策保有株によっては数十年前に取得したものもあり、「保有している」のか「保有させられている」のかが分からなくなっている銘柄もあるかもしれません。保有経緯すらわからない銘柄については、もはや当初は存在したかもしれない保有意義もしがらみもなくなったと言っても過言ではないでしょう。速やかに売却し、売却で得た資金を本来の事業への投資に回すべきです。

売却するかどうかの判断にあたり「出資額」も判断要素となります。例えば、地方の上場企業だと“つきあい出資”も少なくないようですが、“つきあい”程度の出資額であれば、金額的に重要性が低いので「売却しない」という判断をしても投資家から問題視されるリスクは低いと言えます。

「コードの遵守」を合理的な経営に脱却するきっかけに

政策保有株式につき売却が必要との判断になった場合であっても、株価への影響を考えると、株式市場で一気に売り注文を出すわけにはいきません。マーケットへのインパクトを軽減させるため、長期間にわたり少しずつ株式市場で残高を減らしていくか、ブロック取引により株式市場外で一気に残高を減らすかして、処分を進めることになります。

コーポレートガバナンス・コードの中でも開示によるコントロールが際立っている点で異質さが際立つ原則1-4ですが、上場会社としては、コード対応をきっかけとして、しがらみと忖度でがんじがらめとなった経営から合理的な経営へと脱却する良い機会としたいところです。

2017/11/30 2017年11月度チェックテスト

解答をご覧になるには会員登録(※有料)が必要です。会員登録はこちら

【問題1】

2018年3月期の有価証券報告書より「経営者が経営方針・経営戦略等の中長期的な目標に照らして経営成績等をどのように分析・評価しているか」を開示しなければならなくなる見込みである。


正しい
間違い
【問題2】

伊藤レポート2.0は、大企業(TOPIX500)に対して、2025年までにROAを欧米企業に遜色のない水準に上げることを呼び掛けている。


正しい
間違い
【問題3】

株主総会の後ろ倒し開催を実現するための定款変更に際しては、定款上の議決権基準日を決算日より後ろに変更するだけでなく、配当の基準日も後ろにずらす(議決権基準日と同じ日にする)のが望ましい。


正しい
間違い
【問題4】

フェア・ディスクロージャー・ルールを定めた金商法27条の36が適用されると、上場会社が業務に関する情報を取引関係者に伝達した際に、当該取引関係者から「その情報は重要情報に該当するのではないか」との指摘を受けるという事態も考えられるが、当該情報が重要情報に該当するとの指摘に上場会社が同意すれば、必ずその情報を速やかに公表しなければならない。


正しい
間違い
【問題5】

監査報告書の長文化(KAMの記載)により、監査コストの低減が期待される。


正しい
間違い
【問題6】

グローバル機関投資家は日本企業に3人以上の社外取締役を選任することを期待している。


正しい
間違い
【問題7】

個人株主を増やす策として「株主総会でのお土産」を実施する会社は減っているが、一方で「株主優待制度」を実施する会社は増えている。


正しい
間違い
【問題8】

原価率を下げたり設備効率を上げたりするなど事業戦略を考え、収益性を高めるといった議論をする場合には、ROEよりもROAを使う方が適切である。


正しい
間違い
【問題9】

「社外取締役・監査等委員である取締役、監査役」を付与対象にした株式報酬の議案は、機関投資家に反対される傾向にある。


正しい
間違い
【問題10】

上場会社で不正が発覚し、調査の結果、過年度の決算の見直しが生じれば、過去の有価証券報告書や四半期報告書等を過年度に遡及して訂正することがあるが、その場合に訂正後の数値に対する監査法人の会計監査は不要とされている。


正しい
間違い