2017/11/02 「伊藤レポート2.0」の提言が上場企業に与える影響

「上場企業が目標とすべきROE=8%」を“スタンダード”化したほか、スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードの創設を後押しするなど、上場企業のガバナンス改革に大きな役割を果たした伊藤レポートの続編にあたる「伊藤レポート2.0」が(2017年)10月26日、経済産業省に設置されている「持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会」から公表されている。前回同様、この「伊藤レポート2.0」も上場企業の行動に一定の影響を与えることになりそうだ。

「伊藤レポート2.0」では、以下の三点が主なテーマとして挙げられている。・・・

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2017/11/02 「伊藤レポート2.0」の提言が上場企業に与える影響(会員限定)

「上場企業が目標とすべきROE=8%」を“スタンダード”化したほか、スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードの創設を後押しするなど、上場企業のガバナンス改革に大きな役割を果たした伊藤レポートの続編にあたる「伊藤レポート2.0」が(2017年)10月26日、経済産業省に設置されている「持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会」から公表されている。前回同様、この「伊藤レポート2.0」も上場企業の行動に一定の影響を与えることになりそうだ。

「伊藤レポート2.0」では、以下の三点が主なテーマとして挙げられている。

(1) 日本企業による無形資産への投資
(2) ESG は投資リターンの向上につながるのか否か
(3) PBR(株価純資産倍率)の国際比較

PBR(株価純資産倍率) : Price Book-value Ratio。PBR は、株価(Price)と純資産(Book-Value)の比率であり、さらに、PBRはROE(自己資本利益率)とPER(株価収益率)に分解できる。

それぞれについて順に見ていこう。

(1)は、日本企業は欧米企業と比べ、経営人材を含む人的資本、技術や知的財産等の知的資本、さらに情報やブランドといった「無形資産」への投資が不十分であることを指摘するもの。伊藤レポート2.0では、日本企業が競争力を確保するためには、施設や設備等の有形資産の量を増やすことよりも「無形資産」への投資を行うべきであるとしている。ここでいう無形資産は、貸借対照表に記載されている固定資産の一つである無形固定資産だけに限定されないことに注意が必要だ(例えば人的資本への支出は資産ではなく「費用」に計上され、また、知的資本への支出のうち特許権や商標権などの償却資産に該当しないものも、やはり資産ではなく「費用」に計上される)。上場企業の経営陣としては、貸借対照表に計上された無形資産だけでなく、「人的資本」や「知的資本」への投資が十分かどうか、点検しておきたい。

(2)はESGが投資リターンの向上につながるのか否かをテーマとするものだが、伊藤レポート2.0では、ESG が投資パフォーマンスにどう影響するのか、また、果たして投資リターンの向上につながるのかについては「見解に違いがある」として、断定的な結論を避けている(28ページ下部 「3.3. ESG が投資パフォーマンスに与える影響」参照)。また、ESGは成長に資するものでありESGを超過収益の源泉(ESGへの取り組みが十分であれば企業価値増加につながる)ととらえる投資家・アナリストもいるものの、多くの投資家・アナリストは中長期的なリスク要因・制約条件(ESGへの取り組みが不十分であれば企業価値減少をもたらすリスクになる)と認識している旨指摘している。上場企業としては、ESGに対する投資家・アナリストのとらえ方によって、プレゼンテーションの内容・やり方も変えるべきかもしれない(例えばESGを中長期的なリスク要因・制約条件と考える投資家やアナリストに対してESGによる企業価値増加を説いても響きにくいと考えられるため)。少なくとも、対話する投資家・アナリストがESGについてどのようにとらえているのかは確認しておく必要があろう。

(3)は日本企業のPBR(株価純資産倍率)の低さを指摘するものである(低いPBRについては2015年4月14日 のニュース 『「PBR1未満」に高まるプレッシャー』も参照)。

日本企業のPBRは長年にわたり1倍(1倍のPBRは、時価総額が会社の純資産価値(解散価値)に等しいことを示す)前後水準で推移しており、これは欧米と比較しても極めて低い水準にあることを伊藤レポート2.0では指摘している(32ページ右側から35ページにかけての「2.時価総額とPBR」を参照)。

31324

「伊藤レポート2.0」参考資料11ページより引用

逆にPBRが1を超えるということは企業の成長性が評価されていることを意味しており、その一つの理由として、財務諸表には表れない「無形資産」が評価されているということが挙げられる。すなわち、(1)で述べた無形資産への戦略的投資は、PBR向上につながる可能性があるというわけだ。また、伊藤レポート2.0では、ESG に対する評価(レーティング)が良い企業は、そうでない企業と比べPBRが上昇する傾向があるとの調査結果を紹介しており(28ページ下部 「3.3. ESG が投資パフォーマンスに与える影響」を参照)、ここでもPBRの上昇へと議論を結び付けている。低いPBRに悩まされている企業では、伊藤レポート2.0が無形資産への投資やESGへの取り組みを進めるきっかけになる可能性もありそうだ。

このほか伊藤レポート2.0では下記のような政策が提言されている。2014年8月に公表された伊藤レポート同様、今回も企業行動に少なからぬ影響を与える可能性があるだけに、上場企業の経営陣は一通り目を通しておく必要がある。

政策 具体的内容
企業と投資家の共通言語としての「価値協創ガイダンス」策定 価値協創ガイダンスはこちら
価値協創ガイダンスの利用法については【2017年9月の課題】非財務情報の準備 を参照
企業の統合的な情報開示と投資家との対話を促進するプラットフォームの設立 企業の情報開示・対話のベストプラクティスや投資家の評価実態等を把握・分析し、より良い開示・対話のあり方を継続的に検討する場(プラットフォーム)。「価値協創ガイダンス」に基づいて優良事例を分析・共有することを目的とする。
機関投資家の投資判断、スチュワードシップ活動における価値協創ガイダンス活用の推進 ・企業評価やESGインテグレーションにおける活用促進
・アセットオーナーと運用機関の対話における活用
開示・対話環境の整備 企業による情報開示について、投資判断に必要な情報の総合的な提供を確保するため、引き続き、関係省庁等が共同して制度・省庁横断的な検討を行い、2019年前半を目途として、国際的に見て最も効果的かつ効率的な開示の実現に向けて検討および取組を進める。
四半期開示の義務的開示の是非の検証も含む更なる検討が行われることを期待したい。
企業価値を高める無形資産(人的資本、研究開発投資、IT・ソフトウェア投資等)への投資促進のためのインセンティブ設計 企業の競争優位の源泉となる様々な無形資産への投資、例えば、人的投資や技術(知的資本)への投資、IT(IoT)・ソフトウェアへの投資といったその他の無形資産投資についても、将来に向けた企業経営者の判断を後押しするようなインセンティブ設計や関連施策が検討され、実現に向けて取り組まれることを期待する。

本提言の多くは未来投資戦略2017の内容を敷衍する提言であり、かつ、価値協創ガイダンスも既に公表済みであるため、目新しさに欠ける面もある。その中にあって、「開示・対話環境の整備」の部分にある「四半期開示の義務的開示の是非の検証も含む更なる検討が行われることを期待したい」(表中の赤字部分)との記述は注目される。仮に四半期開示の任意化につながれば上場企業はもちろん、投資家にとっても大きなインパクトがある。また、「企業価値を高める無形資産(人的資本、研究開発投資、IT・ソフトウェア投資等)への投資促進のためのインセンティブ設計」も税制面での優遇措置の創設につながる可能性があるだけに、注視しておきたい。

敷衍 : 意味のわかりにくい所を、やさしく言い替えたり詳しく述べたりして説明すること。

2017/11/01 有報のMD&Aの改正案が公表、“中長期投資家との四半期ごとの対話”促進も

2016年12月12日のニュース「MD&Aに求められる経営者の視点」では、2016年4月に金融庁の金融審議会が公表した「ディスクロージャーワーキング・グループ報告-建設的な対話の促進に向けて-」に盛り込まれた、有価証券報告書の改正予定を紹介したところだ。具体的には、下記の3点である。・・・

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2017/11/01 有報のMD&Aの改正案が公表、“中長期投資家との四半期ごとの対話”促進も(会員限定)

2016年12月12日のニュース「MD&Aに求められる経営者の視点」では、2016年4月に金融庁の金融審議会が公表した「ディスクロージャーワーキング・グループ報告-建設的な対話の促進に向けて-」に盛り込まれた、有価証券報告書の改正予定を紹介したところだ。具体的には、下記の3点である。

(1)事業報告との共通化(大株主の状況の計算における自己株式の取扱い等)
(2)記載の重複排除のための開示内容の合理化(新株予約権等)
(3)経営方針等やMD&A()等の記載を充実
 MD&Aとは「Management’s Discussion and Analysis of Financial Condition and Results of Operations」の略で、「経営陣による財政状態および経営成績の検討と分析」と訳される。有価証券報告書の【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】欄に記載する。

これらのうち、(3)の中の【対処すべき課題】を【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】とする小規模な改正のみが2017年3月期から適用されているが、金融庁は(2017年)10月24日、残された部分の改正案(「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案)を公表した(適用開始は2018年3月期~)。改正の概要は図表1のとおりとなっている。

図表1
(1)開示内容の共通化・合理化 ①有価証券報告書および事業報告における大株主の状況に係る記載の共通化 有価証券報告書等の【大株主の状況】における株式所有割合の算定の基礎となる発行済株式について、事業報告と同様に自己株式を控除する。
②新株予約権等の記載の合理化 【新株予約権等の状況】【ライツプランの内容】および【ストックオプション制度の内容】の項目を【新株予約権等の状況】に統合。
ストックオプションについては、財務諸表注記(日本基準の場合)で記載されている場合、当該記載の参照を可能とする。
③株主総会日程の柔軟化のための開示の見直し 有価証券報告書における【大株主の状況】の記載時点を、事業年度末から、原則として議決権行使基準日へ変更。
(2)非財務情報の開示充実(【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】(MD&A)に係る記載の統合と対話に資する内容の充実) 【業績等の概要】および【生産、受注及び販売の状況】を【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】に統合した上で、記載内容の整理 以下を記載。
ア)事業全体およびセグメント別の経営成績等に重要な影響を与えた要因について経営者の視点による認識および分析
イ)経営者が経営方針・経営戦略等の中長期的な目標に照らして経営成績等をどのように分析・評価しているか

図表1の(2)で示されている【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】(MD&A)の内容は、現行の開示との比較を踏まえると以下の図表2のようなイメージとなる。日本企業におけるMD&Aの開示を見ると、大部分の企業がひな形的な開示となっており、これに対し投資家からは「付加価値に乏しい」との指摘も聞かれる。具体的には、単に数値の前期比較をしているだけで、そこに「経営者の視点」が入っていないということが問題視されている。

図表2
現行の開示項目 改正後の開示項目 改正後の主な開示内容
【業績等の概要】 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】 経営成績等の状況の概要 経営成績等の状況について、前年同期と比較して記載
【生産、受注及び販売の状況】 生産、受注及び販売の実績について、前年同期と比較して記載
主要な製商品の仕入価格・販売価格に著しい変化があった場合等の記載
主要な販売先
【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ・例えば、経営成績に重要な影響を与える要因についての分析を記載
・資本の財源および資金の流動性に係る情報についても記載
経営方針・経営戦略等または経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等がある場合、当該経営方針・経営戦略等または当該指標等に照らして、経営者が経営成績等をどのように分析・検討しているかを記載
重要事象等への対応策に関する記載

改正後のMD&Aは、基本的に、現行の【業績等の概要】【生産、受注及び販売の状況】の記載内容を【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】に統合し、記載内容を「経営成績等の状況の概要」と「経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容」の二つに分けたものとなっている。

このうち「経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容」には、現行と比較すると新たに追加された開示内容がある。一つは、現行のMD&Aにおいては例として示されているに過ぎない「資本の財源及び資金の流動性に係る情報」の記載が必須とされること。もう一つは、経営方針・経営戦略等または経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等がある場合、当該経営方針・経営戦略等または当該指標等に照らして、経営者が経営成績等をどのように分析・検討しているかを記載するということだ(2017年3月8日のニュース「有価証券報告書に移行の「経営方針」には何を書く?」参照)。これには、例えば、経営者による経営戦略の進捗状況の説明、経営上の目標数値と実績値の比較・分析に関する記載が求められると考えられる。有価証券報告書に記載される経営方針・経営戦略等または経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標は、短期のものではなく「中長期」のものが記載されていることに鑑みると、MD&Aの記載のうち、「経営成績等の状況の概要」は過去実績および短期の視点に立った記載、「経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容」は現在から将来および中長期の視点に立った記載が求められると考えられる。

また、四半期報告書のMD&Aについても改正案が示された。具体的には、「(前略)提出会社が経営方針・経営戦略等を定めている場合で、経営者において、当該経営方針・経営戦略等との比較が、前年同四半期連結累計期間との比較よりも投資者の理解を深めると判断したときは、前年同四半期連結累計期間との比較・分析に代えて、当該経営方針・経営戦略等と比較・分析して記載することができる。」とされている。四半期報告は、短期的な投資を助長し、中長期の成長を重視する観点からは不要との意見もあるが(2017年6月21日のニュース「「働き方改革」としての四半期開示のあり方」参照)、この改正(案)により、四半期報告においても、経営方針・経営戦略等との比較・分析、すなわち、中長期の視点による比較・分析を開示することが可能となれば、“中長期の投資を重視する投資家との四半期ごとの対話”が促進されることが期待されよう。

2017/10/31 【役員会 Good&Bad発言集】預金残高の水準(会員限定)

<解説>
あるべき資金水準について企業と投資家の認識にズレ

「黒字倒産」という言葉もあるとおり、資金繰りに失敗するとどれほど黒字を出している企業でも倒産してしまいます。預金残高の水準が高ければ高いほど、資金繰りに苦労しないことから、財務担当者は預金残高の水準を高めに維持しておきたいと考えるのが通常です。また、資金繰りには困らない水準の預金残高を維持できていても、リーマンショックのように短期間で資金環境が悪化する状況を経験すると、財務担当者は手元資金をさらに厚めに持っておいた方が良いとの考えに傾きがちです。

その結果、キャッシュフローが黒字の会社では年々ネットキャッシュ(現金および現金等価物(預金、短期の有価証券)から有利子負債(借入金・社債)を控除して求める)の残高が積み上がっていき、いわゆる“キャッシュリッチ”と言われるようになります。

短期の有価証券 : 「流動資産」の部に計上される有価証券。売買目的の有価証券や1年内に償還される債券などが該当する。
有利子負債(借入金・社債) : 返済までに利子の負担が必要となる負債。買掛金、支払手形、未払金は利息の負担が必要ないことから、有利子負債に含まれない。

次のグラフは平成28年度生命保険協会調査「株式価値向上に向けた取り組みについて」(一部筆者が加工)で明らかになった、企業と投資家の手元資金の水準についての認識の違いが分かる調査結果です。

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平成28年度 生命保険協会調査「株式価値向上に向けた取り組みについて」図表32

この資料からは、企業が手元資金の水準はおおむね適正水準と捉えているのに対し、投資家は「余裕のある水準」(手元資金が厚すぎる)であると考えていることが分かります。投資家は、適正水準を超えて保有している手元資金を「企業価値を高めるための投資に使って欲しい。投資先がないのであれば、配当や自己株式取得で株主に還元して欲しい」と考えているのですが、企業は「現在の手元資金の水準は、まだ適正水準を上回ってはいない」と判断しているため、企業と投資家の対話はかみ合わないことになります。

それでは手元資金の適正水準とは、どうやって決まるのでしょうか。次のグラフは、企業に対して手元資金の適切な水準を決定する際に重視しているものを質問した結果をまとめたものです。

31263_2

平成28年度 生命保険協会調査「株式価値向上に向けた取り組みについて」図表31

このグラフからも分かるように、手元資金の適正水準についての考え方はさまざまであり正解はありません。そうは言っても、手元資金の水準につき何ら基準を持たないのは、キャッシュフロー経営ができていないことを意味します。上場企業は、自社の手元資金の水準につき基準を設けたうえで、投資家に対して「当社としては、手元資金の適正水準はこのように考える」と説明を尽くす必要があります。

それでは投資家は企業の手元資金の水準の妥当性に関する説明が十分であると考えているのでしょうか。下のグラフは投資家に対して企業の手元資金の水準の妥当性に関する説明が十分であるかどうかについて尋ねた結果を取りまとめたものです。

31263_3

平成28年度 生命保険協会調査「株式価値向上に向けた取り組みについて」図表32

「あまり説明されていない」が58.1%、「ほとんど説明されていない」が8.6%であり、投資家は企業の手元資金の水準の妥当性についての説明に満足していないように見受けられます。企業は、手元資金の水準の妥当性について、投資家の検証に応えられるだけのロジックを準備しておき、それを投資家に丁寧に説明して、納得してもらえるよう努力すべきです。企業としても、投資家との対話を通じて、手元資金の水準の妥当性について投資家からヒントを得るかもしれません。

さて、以上の解説をご覧いただければ、どれがGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。

<正解>
GOOD発言はこちら

社外取締役C:「資金を預金口座に入れたままではROEやROAを向上させることができません。まずは預金残高としてどの程度の額が適切かどうかの基準を作り、余剰資金は従業員への還元、既存の事業のテコ入れ、新規の事業投資に振り分け、それでもなお余剰があれば、自己株式の取得で株主に返還すべきです。」
コメント:昨今のような低金利が続く状況下では安全を見越して保有しておくべき運転資金以上の額の資金を預金口座に預けたままにしておくという行為は、なんら合理的な企業行動とは言えません。社外取締役Cの発言のように、企業は①預金残高としてどの程度の額が適切かどうかの基準を作る、②余剰資金は従業員への還元、既存の事業のテコ入れ、新規の事業投資に振り分ける、③それでもなお生じた余剰は配当や自己株式の取得で株主に返還するといった資金の活用策を検討すべきです。

BAD発言はこちら
財務担当取締役A:「わが社は今でこそ資金繰りを気にする必要はなくなりましたが、上場する前は資金繰りに窮して日次の資金繰り表で資金残高を管理していたこともあります。あの頃のような自転車操業的な資金繰りに戻りたいとは思いません。預金残高の水準と倒産可能性は反比例の関係にあるので、預金残高は多ければ多い方が良いに決まっています。」
コメント:「預金残高の水準と倒産可能性が反比例の関係にある」のは事実ですが、倒産可能性がほとんどないにもかかわらず、預金残高を積み上げることにまい進するのは適切とは言えません。Aの発言は「預金残高は多ければ多い方が良いに決まっています」という点がBADです。
専務取締役B:「わが社が金融機関から絶大な信用を得られているのも、この預金残高の高さにあるのではないだろうか。預金残高を減らしてしまうと、金融機関からの信頼が失われてしまう。」
コメント:企業の倒産可能性が高まるにつれ、金融機関は徐々にデフォルトを恐れるようになります。その結果、企業は金利の上昇や新規貸し付けの停止といった不利な状況に陥ることになります。もっとも、預金残高が問題視されるほど積み上がっている中で、預金残高を適切な水準にまで下げても、金融機関からの信頼を失うことにはなりません。そもそも、そのような預金残高の状態で金融機関とのおつきあいのために借り入れをする必要はありません。金融機関に対して過度に委縮して、不必要なまでに高い水準の預金残高にこだわるBの発言はBADです。

2017/10/31 【役員会 Good&Bad発言集】預金残高の水準

東証一部に上場しているIT業のA社では、数年前の自社開発アプリの大ヒットや事業譲渡により多額の資金を得たおかげで、銀行口座には運転式をはるかに超える水準の預金が眠ったままとなっています。取締役会で配られた月次決算書を目にした社外取締役が「前から気になってはいたのだが、預金残高の水準が多いのではないか」と口にしたことから、あるべき預金残高の水準を巡り、役員A・B・Cが下記の発言をしました。誰の発言がGood発言でしょうか?

財務担当取締役A:「わが社は今でこそ資金繰りを気にする必要はなくなりましたが、上場する前は資金繰りに窮して日次の資金繰り表で資金残高を管理していたこともあります。あの頃のような自転車操業的な資金繰りに戻りたいとは思いません。預金残高の水準と倒産可能性は反比例の関係にあるので、預金残高は多ければ多い方が良いに決まっています。」

専務取締役B:「わが社が金融機関から絶大な信用を得られているのも、この預金残高の高さにあるのではないだろうか。預金残高を減らしてしまうと、金融機関からの信頼が失われてしまう。」

社外取締役C:「資金を預金口座に入れたままではROEやROAを向上させることができません。まずは預金残高としてどの程度の額が適切かどうかの基準を作り、余剰資金は従業員への還元、既存の事業のテコ入れ、新規の事業投資に振り分け、それでもなお余剰があれば、配当や自己株式の取得で株主に返還すべきです。」

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2017/10/31 【2017年10月の課題】政策保有株式が抱える問題点と対応策

2017年10月の課題

上場企業の持つ政策保有株式に対して、投資家からの風当たりが強まっています。投資家が政策保有株式について懸念している問題点とそれへの対応策について考えてみてください。

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2017/10/31 2017年10月度チェックテスト

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【問題1】

ウイリス・タワーズワトソンと三菱UFJ信託銀行の共同調査によると、2017年6月の株主総会で株式報酬を導入した企業83社のうち67社がパフォーマンス・シェア・ユニットを選択しており、リストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式)を選択する企業は少数派にとどまっている。


正しい
間違い
【問題2】

監査役会設置会社では、会社法の「特別取締役制度」の活用により、あらかじめ選定した1人の特別取締役だけで「重要な財産の譲受け・処分、多額の借財」を決定することができる。


正しい
間違い
【問題3】

2018年4月以降は、5年を超えて有期雇用契約を締結している労働者が無期雇用契約への転換を申し込めば、使用者はそれを承諾したものとみなされる。


正しい
間違い
【問題4】

今後、上場会社に有価証券報告書でセキュリティ対策の内容の開示を求める方向で議論が進んでいく可能性がある。


正しい
間違い
【問題5】

ESGに優れた企業に投資する「ESG投資」の存在感が増す中、ESGへの取り組みやESG情報の開示が不十分な上場企業の株価は、ESG投資家による長期的な株式の保有が期待できない分、収益力や財務内容が同程度の同業他社と比べて低い水準となる可能性がある。


正しい
間違い
【問題6】

今年(2017年)6月2日に公布された改正民法では、譲渡制限特約が付されている債権であっても譲渡の効力は妨げられない(債権の譲渡は有効)とする規定が設けられている。


正しい
間違い
【問題7】

障害者雇用促進法の改正により、来年(2018年)4月からは精神障害者の雇用が義務化される。


正しい
間違い
【問題8】

顧問制度を有する上場企業では、顧問制度について社外取締役を交えて議論したうえで、顧問制度に関する社内規程を作っておくのが望ましい。


正しい
間違い
【問題9】

上場会社が投資家からの質問に答えていく中で、つい未公表のインサイダー情報を漏らしてしまう可能性は否定できない。そこで、2017年の金融商品取引法の改正により「フェア・ディスクロージャー・ ルール」(FDルール)が新設され、そのようなインサイダー情報で株式を売買して不当な利益を得る行為を禁止している。


正しい
間違い
【問題10】

東京海上日動火災保険の調査(2016年度)によると、D&O保険に加入している従業員数3000人以上の企業等67社の年間保険料の平均額は622.6万円である。


正しい
間違い

2017/10/31 2017年10月度チェックテスト第10問解答画面(不正解)

不正解です。
東京海上日動火災保険の調査(2016年度)によると、D&O保険に加入している従業員数3000人以上の企業等67社の年間保険料の平均額は622.6万円でした(問題文は正しいです)。なお、「900万円以上1000万円未満」と回答した企業等は20.9%ありました。

こちらの記事で再確認!
2017/10/31 D&O保険の補償内容、見直しのポイント(会員限定)