2017/08/27 【役員会 Good&Bad発言集】企業買収時の判断(のれん)(会員限定)

<解説>
“のれん”の正体は?

企業を買収すると“のれん”または“負ののれん”のどちらかが生じるのが通常です。“のれん”や“負ののれん”がどのような仕組みで生じるのか、具体例を用いて見てみましょう。

資産100億円、負債20億円(すなわち純資産80億円)の企業を買収して子会社にしたとします。買収価額が90億円だとすると、純資産80億円の企業を90億円で買収したことになり、10億円(90億円マイナス80億円)の“のれん”が発生します。この10億円の“のれん”は、被買収企業の株式を純資産価値にプレミアムを乗せて取得した場合のプレミアム部分を意味します。「ブランド力」「ノウハウ」「熟練工の存在」のような帳簿に乗らない無形の超過収益力を評価した結果、10億円というプレミアムを乗せて買収したわけです。一方、この企業を70億円で買収できれば、先ほどの例とは逆に10億円(70億円マイナス80億円)の“負ののれん”が発生します。この10億円の“負ののれん”は、被買収企業の株式を純資産価値よりディスカウントして取得した場合のディスカウント部分を意味します。「レピュテーションリスク」のような帳簿に乗らない無形のマイナス価値を評価し、売却元もそれに合意した結果、買収にあたり10億円というディスカウントが実現できた(割安で買えた)わけです。いわば「アウトレット品」や「わけあり品」と同じです。

このように「のれん」の正体はプレミアム分なので、「のれん」が生じる企業買収を行う際にはそのプレミアムが本当に支払う価値のあるものなのか、買収前に精査する必要があります。例えば骨とう品を購入する場合、それにどれほどの価値があるのか、購入する側の目利き力が問われますが、企業買収時も同じという訳です。企業買収では、骨董品における鑑定書に相当するのが、第三者機関の発行する株価算定書になります。もっとも、骨董品の鑑定書には真作かどうかについての鑑定結果が記載されているだけ(価格の鑑定ではない)ですが、株価算定は事業計画や現在の純資産価値等をベースにした株価の理論的な価格が記載されているという点が違います。その結果、骨董品の鑑定書は鑑定士の目利き力(あるいは鑑定書自体が偽物ではないこと)を信用するかどうかという使い方しかできません(鑑定プロセスの再検証が困難)が、株価算定は計算ロジック(事業計画や現在の純資産価値、将来のキャッシュフロー予測や割引率等)が明示されていることから、算定プロセスの再検証が可能となっています。逆に言えば、買収する側としては株価算定を入手したら、計算ロジックを検証しなければなりません。また、株価算定に先立ち、買収対象企業に対するビジネスDD(デュー・デリジェンス)、財務DD、法務DD等の詳細調査が不可欠となりますが、経営陣は買収意思決定に先立ち、それらのレポート(社内の担当者だけで調査を実施する場合もありますが、価格の妥当性の確保のため専門的能力を有する第三者機関に詳細調査を依頼するのが通常です)を詳細に読み込んでおかなければなりません。DDレポートや株価算定書が、いくら信用力の高い第三者機関により作成されたものだからといって、それらを無条件に信頼するのでは、経営責任を果たしたとは言えないでしょう。

企業買収に限ったことではありませんが、一度「買いたい」気持ちになると、そこから先は無意識のうちに良い情報だけが目に入り、悪い情報には目をつぶりがちです。一部の経営陣だけで話を進めるのではなく、早い段階で社外役員にもDDレポートや株価算定書をじっくりと見てもらい、冷静な目で判断してもらうようにすべきです。

また、営業担当取締役や製造担当取締役などは、経営企画担当取締役や財務担当取締役などと異なり、DDレポートや株価算定書が示す内容を正しく理解できない可能性もあります。そのようなDDレポートや株価算定書になじみがない取締役であっても、「自分は企業買収の担当取締役ではないのでお任せします」という姿勢ではなく、取締役会に先立って企業買収の担当者に「ここがわからないので教えて欲しい」と積極的に学ぶ姿勢が必要です。

“のれん”の扱いを巡る会計基準の違い

企業を買収して子会社化した場合に“のれん”や“負ののれん”が生じても、個別貸借対照表に「のれん」または「負ののれん」が表示されるわけではありません()。それでは、「のれん」または「負ののれん」はどこに表示されるのでしょうか。答えは、「のれん」は連結貸借対照表、「負ののれん」は連結損益計算書(特別利益)です。

 買収の場合、個別貸借対照表には単に買収に要した価額(上述の例だと90億円)で子会社株式として表示されるに過ぎません。なお、合併の場合は個別財務諸表に“のれん”(貸借対照表の無形固定資産)や“負ののれん”(損益計算書の特別利益)が計上されます。

すなわち、日本の会計基準では、のれんはいったん連結財務諸表の無形固定資産に計上し、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却し(ただし、のれんの金額に重要性が乏しい場合には、当該のれんが生じた事業年度の費用として処理することができます)、「負ののれん」は発生年度に特別利益として計上します(「のれん」のように複数年にわたり償却をすることはしません)。

一方、IFRS(国際財務報告基準)では、のれんは規則的な償却をせず、一定の価値の下落があれば減損をすることになります。すなわち、IFRSを採用した企業の連結決算で発生したのれんは、いったんそのままの額で据え置かれるものの、毎期減損の兆候の有無を検討し、減損の要件を満たせば、将来キャッシュフローを期待できる水準まで費用化されることになります。

のれんを償却するか、償却せずに必要に応じて減損するかで、各期の利益に与える影響が異なるため、多額ののれんが生じるM&Aに先立ち、自社の会計基準を日本基準からIFRSに変更する企業もあります(のれんを償却しないことによる影響については2016年7月26日のニュース「のれんを償却すれば赤字に転落する企業も」を参照)。

なお、IFRSを採用したとしても、株主に対してのれんの価値の妥当性を説明する責任が免除されるわけではないことには注意が必要です。

さて、以上の解説をご覧いただければ、どれがGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。

<正解>
GOOD発言はこちら

監査役A:「皆さんはこの株価算定書を“正”としてS社買収の可否を議論していますが、株価算定書が株価の算定にあたり前提にしている事業計画、割引率などについても議論の対象にすべきではないでしょうか。」
コメント:企業買収の案件は、取締役会に議題として上がってくる時点で、経営企画室による検討など社内でのフィルターを経ており、ある程度外堀が埋まった状況となっています。議題の提案者は当然ながら買収に積極的な姿勢であり、買収により連結売上高の増加(増収)は確実となります。そのような状況下では、経営陣(とくに社内取締役)としてもつい「買収することを前提とした議論」に陥りがちです。Aの発言は、監査役として、買収の判断の前提となる数値からしっかりと検証し、思い込みを排除して冷静な議論をすることを取締役に促すものであり、GOODです。

BAD発言はこちら
取締役B:「我々は企業評価のプロではないからこそ、プロの第三者機関に株価を算定してもらい、買収の是非を判断しているのです。プロが算定した株価の妥当性について、素人の我々が検証する必要はないでしょう。」
コメント:「自分たちは企業評価のプロではないので株価算定の妥当性は検証不要」といった発言は、取締役としての職務を放棄しているとも言え、経営のプロとして株主から経営を委託されている者の発言とは思えないBAD発言です。確かに企業評価のプロではないかもしれませんが、なにがしかの能力や経験・知見を買われて取締役に就任している以上、その能力等を活用して独自の視点に基づいて株価算定プロセスを検証することは可能なはずです。もし、株価算定プロセスの妥当性を検証するにあたり理解できないところがあれば尋ねたり調べたりして理解するように努めて、取締役会が判断を誤らないよう自身のベストを尽くすべきです。
取締役C:「わが社の貸借対照表にこれだけ高額の『のれん』が計上されると、株主への説明に苦慮することになるのは目に見えています。これを機に、わが社が採用する会計基準をIFRSに変更してはどうでしょうか。IFRSを採用すればのれんを償却しなくて済むので、株主に対するのれんについての説明責任を回避できるからです。」
コメント:取締役Cは、企業買収の結果、個別貸借対照表に「のれん」という科目と金額が表示されるようになると理解していますが、それは誤解です。企業買収により「のれん」という科目と金額が表示されるのは、個別貸借対照表ではなく連結貸借対照表です。また、IFRSを採用することで、のれんの規則的償却を免れるとしても、のれんが発生するような企業買収をしたことについての説明責任を回避できるわけではありません。以上より、Cの発言はBAD発言です。

2017/08/25 消費者契約法再改正へ 消費者団体の要望受け解釈権限付与条項を無効に

政府は消費者保護を強化する施策を相次いで打ち出しているが、新たに消費者との契約や約款の見直しを迫る法改正が実施される可能性が高まっているので、特にBtoC事業を展開する企業はチェックしておく必要がある。

政府が消費者保護に力を入れている背景には、インターネットショッピングにより消費者がトラブルに巻き込まれるケースが社会問題化していることに加え、超高齢社会の中で増加する判断力の低下した高齢者および今後予定される成年年齢の引き下げ()により新たに成年となる若年層(18歳、19歳)の消費者被害の防止・救済が必要になるということがある。最近では、定型約款の規定を新設する改正民法が6月2日に公布され(2017年6月22日のニュース「民法改正で定型約款の規定が新設、BtoC取引の約款はここに注意」を参照)、その翌日(2017年6月3日)には「不実告知」を契約の取消し原因に追加する改正消費者契約法(2016年3月30日のニュース「役員が押さえておきたい2016年度における重要法令改正」)が施行と、消費者保護を目的とした法改正が続いている。

 法務省は2016年9月に、民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げることを提案する「民法の成年年齢の引下げの施行方法に関する意見募集」を実施し、11月8日付けで結果を公表、現在は民法改正の立法化に向けて準備中である。

超高齢社会 : 65歳以上の高齢者が総人口に占める割合を高齢化率と言うが、世界保健機構(WHO)の定義によると、社会の高齢化率が7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢社会」とされる。日本では2007年より超高齢社会に突入している。

そして、2017年6月3日に改正されたばかりの消費者契約法が再び改正されようとしている。内閣府に設置された消費者委員会は8月8日、安倍首相に対し事業者と消費者間の契約締結過程および契約条項の内容に係る規律等の在り方について答申を行い、消費者契約法の追加改正の方針を示した。消費者契約法の改正法案は次の通常国会(2018年1月~)に提出される見込みだ。

主な改正点は二つある。

一つが、・・・

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2017/08/25 消費者契約法再改正へ 消費者団体の要望受け解釈権限付与条項を無効に(会員限定)

政府は消費者保護を強化する施策を相次いで打ち出しているが、新たに消費者との契約や約款の見直しを迫る法改正が実施される可能性が高まっているので、特にBtoC事業を展開する企業はチェックしておく必要がある。

政府が消費者保護に力を入れている背景には、インターネットショッピングにより消費者がトラブルに巻き込まれるケースが社会問題化していることに加え、超高齢社会の中で増加する判断力の低下した高齢者および今後予定される成年年齢の引き下げ()により新たに成年となる若年層(18歳、19歳)の消費者被害の防止・救済が必要になるということがある。最近では、定型約款の規定を新設する改正民法が6月2日に公布され(2017年6月22日のニュース「民法改正で定型約款の規定が新設、BtoC取引の約款はここに注意」を参照)、その翌日(2017年6月3日)には「不実告知」を契約の取消し原因に追加する改正消費者契約法(2016年3月30日のニュース「役員が押さえておきたい2016年度における重要法令改正」)が施行と、消費者保護を目的とした法改正が続いている。

 法務省は2016年9月に、民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げることを提案する「民法の成年年齢の引下げの施行方法に関する意見募集」を実施し、11月8日付けで結果を公表、現在は民法改正の立法化に向けて準備中である。

超高齢社会 : 65歳以上の高齢者が総人口に占める割合を高齢化率と言うが、世界保健機構(WHO)の定義によると、社会の高齢化率が7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢社会」とされる。日本では2007年より超高齢社会に突入している。

そして、2017年6月3日に改正されたばかりの消費者契約法が再び改正されようとしている。内閣府に設置された消費者委員会は8月8日、安倍首相に対し事業者と消費者間の契約締結過程および契約条項の内容に係る規律等の在り方について答申を行い、消費者契約法の追加改正の方針を示した。消費者契約法の改正法案は次の通常国会(2018年1月~)に提出される見込みだ。

主な改正点は二つある。

一つが、(事業者により)高齢者・若年成人・障害者などの知識・経験・判断力の不足を不当に利用し過大な不利益を得る契約の勧誘(いわゆる「つけ込み型」の勧誘)が行われた場合における消費者による契約の取消権の新設だ。これに関連し、事業者が消費者への配慮義務を果たすうえで考慮すべき個別の消費者の事情には、「当該消費者契約の目的となるものについての知識及び経験」のほか、「当該消費者の年齢」等が含まれることも明示される見込み。

もう一つが一定の「解釈権限付与条項」を無効にする法改正だ。解釈権限付与条項とは、消費者との契約において一定事項の“解釈権限”を事業者だけに与える内容の条項のこと。例えば「事業者は、事業者が自らに過失があると認めた場合に限り損害賠償責任を負う」といった条項が該当する。

消費者契約では消費者にとって不当な契約条項を規制する規定(消費者契約法8条1項1号(下記参照))を設けている。

消費者契約法
8条1項  次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
1号 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項

上記の消費者契約法8条1項1号では「損害賠償責任を免除する条項」が違法とされていることから、「(事業者が自らに過失があると認めた場合に限り)損害賠償責任を負う」という条項であれば同条に抵触しない(あくまで「損害賠償責任を負う」と言っており、「免除する」とは言っていない)と解釈されているが、これに対し消費者団体などからは、「『事業者が自らに過失があると認めた場合に限り』との条件は、実質的には事業者の損害賠償責任の免除を可能とするものであり、結果として同条を潜脱している」として、規制強化を求める声が高まっていた。同様に、「事業者が●●を決定した場合に限り損害賠償責任を負う」といった「決定権限付与条項」も同法の潜脱になっている点は解釈権限付与条項と何ら変わりはない。

こうした中、今回の消費者委員会の答申のベースとなった「消費者契約法専門調査会」の報告書では、下記のとおり、不当条項規制の潜脱を可能とするような解釈権限や決定権限を事業者に付与する条項を不当として無効にする規定を消費者契約法に新設する必要があるとしている(同報告書の12ページの「不当条項の類型の追加」を参照)。

消費者契約法に不当条項の類型として下記を追加
次に掲げる消費者契約の条項は無効とする。
ア 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の要件に該当するか否かを決定する権限を事業者に付与する条項
イ 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされる当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の要件に該当するか否かを決定する権限を事業者に付与する条項
ウ 事業者に債務不履行がある場合に消費者の契約を解除する権利の要件に該当するか否かを決定する権限を事業者に付与する条項

消費者との契約や約款に解釈権限付与条項や決定権限付与条項を設けている企業は、それらの条項が上記のア~ウに該当しないかを確認しておく必要がある。

なお、多くの企業が導入している暴力団排除条項(下記参照)も解釈権限付与条項に該当することとされ、無効と扱われるようになるのではないかとの疑問の声がある。

次のいずれかに該当したときは、この約款による契約はすべて解約されます。
・お客様またはお客様の代理人が反社会的勢力に該当すると相当の事由をもって当社が判断し、当社が解約を申し出たとき

しかし、こうした暴排条項において、事業者は「損害を賠償する責任の要件に該当するか否かを決定する権限」を有しているのではなく、「反社会的勢力に該当するか否かの判断を行う権限」のみを有しているに過ぎない。また、暴排条項は事業者の債務不履行に関連付けられたものでもない。したがって、暴排条項は改正消費者契約法で新設予定の不当類型には該当しないことになるので、安心してよい。

このほか、不利益事実の不告知(消費者契約法4条2項)の主観的要件に「重大な過失」を追加する改正も行われる見通し。現在は消費者が不利益事実の不告知について事業者に「故意」があることを立証しなければならないが、改正されると消費者は事業者に「重大な過失」があったことのみを立証すればよいことになる。消費者にとっては不利益事実の不告知の主観的要件を立証しやすくなる半面、企業にとっては不利な改正となる。消費者への告知においてコンプライアンス違反が起こらないよう、今のうちから改正内容について従業員への周知徹底が必要になろう。

不利益事実の不告知 : 事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、重要事項について消費者の不利益となる事実を故意に告げないこと。不利益事実の不告知があれば、消費者は消費者契約法に基づきあとから契約を取り消すことができる。

2017/08/24 代表取締役社長が相談役・顧問等に就任でも開示対象外となるケース

周知のとおり、東証は8月2日に相談役・顧問等の開示に関する「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の記載要領を改訂し、上場会社各社に通知したところだ(改正内容の詳細は2017年8月2日のニュース「CG報告書での相談役・顧問の実態開示、報酬は総額開示でOK」参照)。来年(2018年)1月1日以後に提出するコーポレート・ガバナンス報告書からは、退任した代表取締役等が相談役や顧問等に就任する場合、氏名、役職・地位、業務内容、勤務形態・条件(常勤・非常勤、報酬の有無等)、社長等の退任日、任期などの記載が求められることになる。

この開示は「強制」・・・

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2017/08/24 代表取締役社長が相談役・顧問等に就任でも開示対象外となるケース(会員限定)

周知のとおり、東証は8月2日に相談役・顧問等の開示に関する「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の記載要領を改訂し、上場会社各社に通知したところだ(改正内容の詳細は2017年8月2日のニュース「CG報告書での相談役・顧問の実態開示、報酬は総額開示でOK」参照)。来年(2018年)1月1日以後に提出するコーポレート・ガバナンス報告書からは、退任した代表取締役等が相談役や顧問等に就任する場合、氏名、役職・地位、業務内容、勤務形態・条件(常勤・非常勤、報酬の有無等)、社長等の退任日、任期などの記載が求められることになる。

この開示は「強制」ではなく、開示しなかった場合の罰則等もないが、東芝で相談役制度が経営を歪めていたことが明るみになって以降、相談役・顧問制度への風当たりが強まる中、大部分の上場会社が開示に踏み切るものとみられる。こうした中、開示を検討する上場会社から少なからず疑問の声が聞かれるのが、開示対象となる「元代表取締役社長等」の定義だ。「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の記載要領では「元代表取締役社長の他、元CEO(最高経営責任者)や元代表執行役社長を含む」と説明されているが、例えば持株会社の主要な子会社の代表取締役社長が退任して持株会社の相談役・顧問に就任した場合は開示対象となるのかなどは必ずしも明確ではなかった。

この点、当フォーラムの取材によると、開示対象となるのはあくまで「上場会社の経営トップであった者」に限定される。したがって、持株会社の主要な子会社の代表取締役社長であった者が退任して持株会社の相談役・顧問等に就任したとしても、当該者は「上場会社の経営トップであった者」ではないことから、開示対象とならない。

また、代表権がある取締役であっても、例えば代表取締役副社長などは「上場会社の経営トップであった者」ではないため、退任後に相談役・顧問等に就任したとしてもやはり開示対象とはならない。さらに言えば、たとえ「代表取締役社長」であったとしても、その上に「経営トップ」として代表取締役会長がいれば、代表取締役社長が退任して相談役・顧問等に就任したとしても、開示の対象外となる。

もっとも、たとえ開示対象外となる場合であっても、会社側の判断で開示することは可能。各社の任意の開示内容が注目される。

2017/08/23 「マタハラ」トラブルが後を絶たない理由

働く女性が妊娠や出産、育児をきっかけに人事や給与面などで不利益を被るマタニティハラスメント、いわゆる「マタハラ」によるトラブルが後を絶たない。その理由の一つとして、どこからが「マタハラ」になるのか、そのボーダーラインが理解されていないことが挙げられる。

まず基本的な法令事項から整理しておこう。労働基準法上、妊産婦は重量物を取り扱う業務や有害ガスを発散する場所での業務等(女性労働基準規則2条に列挙される24業務)に就かせてはならないことになっている(労働基準法64条の3)。したがって、これらの業務に就いている女性従業員が妊娠した場合には、担当業務を変更する必要がある。

また、それ以外にも、妊娠した従業員本人から請求があった場合に、会社が対処しなければならない事項がある。具体的には、妊産婦が軽易な業務への転換(労働基準法65条3項)、変形労働時間制の適用除外(同法66条1項)、法定時間外労働・法定休日労働・深夜労働の免除(同条2項・3項)を請求した場合には、会社は認めなければならない。さらに、三歳未満の子を養育する者による所定外労働の免除(育児介護休業法16条の8)、就学前の子を養育する者による法定時間外労働の制限および深夜労働の免除(同法17条・19条)についても、「事業の正常な運営を妨げる場合を除く」等の例外規定(各条各項のただし書き)に該当しない限り、会社はこれを拒むことができない。

変形労働時間制 : 一定期間(1か月、1年など)における1週間当たりの平均労働時間が法定労働時間(40時間)を超えない範囲内であれば、特定の日又は週に(残業手当を支払うことなく)法定労働時間を超えて労働させることができる制度

ここまでは法令を知っておけば済む話と言えるが、よりトラブルになりやすいのが、・・・

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2017/08/23 「マタハラ」トラブルが後を絶たない理由(会員限定)

働く女性が妊娠や出産、育児をきっかけに人事や給与面などで不利益を被るマタニティハラスメント、いわゆる「マタハラ」によるトラブルが後を絶たない。その理由の一つとして、どこからが「マタハラ」になるのか、そのボーダーラインが理解されていないことが挙げられる。

まず基本的な法令事項から整理しておこう。労働基準法上、妊産婦は重量物を取り扱う業務や有害ガスを発散する場所での業務等(女性労働基準規則2条に列挙される24業務)に就かせてはならないことになっている(労働基準法64条の3)。したがって、これらの業務に就いている女性従業員が妊娠した場合には、担当業務を変更する必要がある。

また、それ以外にも、妊娠した従業員本人から請求があった場合に、会社が対処しなければならない事項がある。具体的には、妊産婦が軽易な業務への転換(労働基準法65条3項)、変形労働時間制の適用除外(同法66条1項)、法定時間外労働・法定休日労働・深夜労働の免除(同条2項・3項)を請求した場合には、会社は認めなければならない。さらに、三歳未満の子を養育する者による所定外労働の免除(育児介護休業法16条の8)、就学前の子を養育する者による法定時間外労働の制限および深夜労働の免除(同法17条・19条)についても、「事業の正常な運営を妨げる場合を除く」等の例外規定(各条各項のただし書き)に該当しない限り、会社はこれを拒むことができない。

変形労働時間制 : 一定期間(1か月、1年など)における1週間当たりの平均労働時間が法定労働時間(40時間)を超えない範囲内であれば、特定の日又は週に(残業手当を支払うことなく)法定労働時間を超えて労働させることができる制度

ここまでは法令を知っておけば済む話と言えるが、よりトラブルになりやすいのが、会社が本人の請求に基づいて担当業務を変更した後、本人が通常通り働けるようになった際の処遇だ。妊娠・出産・育児等により働き方に制限があるのであれば、それに見合った処遇(職責と賃金)を設定するべきなのは異論がないところだが、その事情がやんだ後に、元の処遇に戻すべきかどうかが問題となる。

この点については「本人が担当業務の変更を請求したのだから、元の処遇に戻す義務はない」という誤解もあるが、事業主から労働者に対し書面等により明確な説明が行われ、その内容を労働者が十分に理解したうえで同意することはもちろん、新たな処遇による有利な影響(労働者の意向に沿って業務量が軽減される等)が不利な影響(降格、減給等)を上回っているなどの事情がない限り、男女雇用機会均等法9条3項や育児・介護休業法10条などが禁止する妊娠や出産、育児を理由とした不利益取扱い(すなわちマタハラ)に該当することになる。仮に元の処遇に戻さないというのであれば、例えば本人の同意書もしくは新たな労働条件での雇用契約書等はとっておきたいところだ。

少し前に“広島マタハラ訴訟”として話題となった「管理職を解かれた病院勤務女性による損害賠償請求」事件(最一判H26.10.23)の論点もここにある。本裁判で裁判所は、「当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき(中略)は、同項(雇用機会均等法第9条第3項)の禁止する取扱いに当たらない」と判示している。逆に言うと、本人が同意していないにもかかわらず会社が(恒常的に)処遇を変えるのは、「不利益取扱い」(すなわちマタハラ)に該当することになる(この判決を受け、厚生労働省は判決で示された上記のような考え方をまとめた通達「平成27年1月23日雇児発0123第1号」を出している)。

今後女性の活躍が進めば進むほど、マタハラ問題が発生する可能性は高まる。従業員の妊娠等に伴い「会社がしなければならないこと」(義務)と「本人ができること」(権利)の線引きを明確にしておくことで、マタハラのみならず、最近問題となりつつある逆マタハラも発生しにくい職場となる。役員自身含め、全社的にマタハラのボーダーラインを周知徹底しておきたいところだ。

逆マタハラ : 妊産婦等が自身に認められた労働上の権利を最大限に利用することで周囲に仕事のしわ寄せがいったり、周囲がマタハラに該当することを過度に恐れたりすることにより、精神的、体力的に疲弊すること。

2017/08/22 「経営上の目標の達成状況を判断するための指標」、他社は何を記載?

周知のとおり、2017年3月期から有価証券報告書の【対処すべき課題】の記載内容に「経営方針」が追加され、項目名が【対処すべき課題】から【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】となった(2017年3月8日のニュース「有価証券報告書に移行の「経営方針」には何を書く?」参照)。そして、ここには「経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等がある場合には、その内容について記載すること」とされた。そこで上場企業の経営陣としては、他社がここに何を記載したのか、気になるところだろう。

第二号様式(記載上の注意)
(32) 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等
a 最近日現在において連結会社(連結財務諸表を作成していない場合には提出会社)が経営方針・経営戦略等を定めている場合には、当該経営方針・経営戦略等の内容を記載すること。また、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等がある場合には、その内容について記載すること。
(以下略)

「・・・指標等がある場合」とされているとおり、形のうえでは指標等がなければ何も記載する必要はない。ただ、上場会社である以上、指標等があるのが通常のはずだ。ところが、日経225の構成銘柄のうち3月決算会社189社の2017年3月期の有価証券報告書を当フォーラムが調査したところ、・・・

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2017/08/22 「経営上の目標の達成状況を判断するための指標」、他社は何を記載?(会員限定)

周知のとおり、2017年3月期から有価証券報告書の【対処すべき課題】の記載内容に「経営方針」が追加され、項目名が【対処すべき課題】から【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】となった(2017年3月8日のニュース「有価証券報告書に移行の「経営方針」には何を書く?」参照)。そして、ここには「経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等がある場合には、その内容について記載すること」とされた。そこで上場企業の経営陣としては、他社がここに何を記載したのか、気になるところだろう。

第二号様式(記載上の注意)
(32) 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等
a 最近日現在において連結会社(連結財務諸表を作成していない場合には提出会社)が経営方針・経営戦略等を定めている場合には、当該経営方針・経営戦略等の内容を記載すること。また、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等がある場合には、その内容について記載すること。
(以下略)

「・・・指標等がある場合」とされているとおり、形のうえでは指標等がなければ何も記載する必要はない。ただ、上場会社である以上、指標等があるのが通常のはずだ。ところが、日経225の構成銘柄のうち3月決算会社189社の2017年3月期の有価証券報告書を当フォーラムが調査したところ、図表1のとおり指標等の記載を確認できない会社が21%あった。

<図表1>経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等を記載している会社

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「指標等の記載」にあたり経営計画等の具体的な目標数値の記載(後述の日本化薬㈱の記載例のように「●億円」「●%」といった具体的な目標数値を定量的に示す記載方法)は義務付けられておらず(2017年2月14日「「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令(案)」等に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(以下、金融庁パブコメ)のNo2参照)、定性的な記載(本ニュース末尾の三越伊勢丹ホールディングスの記載例のように、具体的な目標数値を示さない記載方法)でも構わないのだが、実際は図表2のとおり、定量的な指標等を記載している会社が多かった。

<図表2>指標等を定量的に記載したか、定性的に記載したか

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法定開示書類である有価証券報告書に、目標値とはいえ「将来の数値」を開示することで、目標値を達成できなかった場合に虚偽記載を問われるのではないか心配になった向きもあろう。この点について金融庁は、「当該目標値についての有価証券報告書提出日現在における判断が合理的であれば、目標値と実績値がかい離したことのみをもって、金商法上の虚偽記載となることは考えにくい」としている(金融庁パブコメNo3参照)。

経営上の目標として記載された主な指標等は以下のとおりだ。

<図表3>記載された指標等
指標等 会社数(189社中)
営業利益関係(売上高営業利益率含む) 80
ROE(自己資本利益率) 74
売上関係 65
当期純利益関係(親会社株主に帰属する当期純利益を含む) 31
DER(デット・エクイティ・レシオ) 21
経常利益関係 19
ROA(純資産利益率) 17
フリーCF等キャッシュ・フロー関係 14
EBITDA関係 14
自己資本比率 14
EPS(1株当たり当期純利益) 12
配当性向 12

(注)10社以上の記載が見られた主な指標等を掲載。会社数は延べ数。

上記の通り、経営上の目標の達成状況を判断するための指標等としてもっともポピュラーだったのは、営業利益、続いてROEであった。当期の営業利益の予測値は、決算短信サマリー情報の業績予測において当期売上高の予測値とともに開示されるのが一般的だが、それらはあくまで「短期の予測値」である。一方、有価証券報告書の【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】で売上高や営業利益の目標値が開示されている場合、それらは中長期的な目標値ということになる。

<定量的に複数の指標等を開示している事例(日本化薬㈱)>
(2) 目標とする経営指標
本3ヵ年中期事業計画の数値目標として、売上高1,900億円、営業利益225億円を目指します。また、中長期の数値目標として定めた、売上高2,000億円、ROE10%の早期達成に向けて挑戦してまいります。

なお、指標等は複数存在するのが一般的だが、このような場合について金融庁は「必ずしも当該指標等の全てを記載する必要はないが、投資者の投資判断に有用となる指標等を開示することが考えられる」としている(金融庁パブコメNo18)。実際、図表4のとおり、多くの会社が複数の指標等を開示しており、単一の指標の開示は30%程度にとどまっている。一つの指標のみ開示している会社は今後の参考にしたい。

<図表4>複数の指標等が記載されているか

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<単一の指標等を定性的に開示(㈱三越伊勢丹ホールディングス)>
(2)目標とする経営指標
 当社グループでは、お客さまのご満足の最大化実現及び収益安定化に向けて、再投資原資となる営業利益の向上を経営の最重要指標として位置づけ、その向上に取り組んでおります。

2017/08/21 上場企業の間で徐々に対応が進むSDGs

ESGという言葉は日本企業にもだいぶ浸透してきた感があるが、ESGに関連し、今後上場企業にとってテーマとなりそうなのが「SDGs」(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)だ。

ESG : ESGとは、「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。

SDGsとは、「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる世界共通の目標であり、下記の17の目標と169のターゲットからなる。2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択され、2016年から2030年までの15年間での達成を目指している。

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SDGsは2000年に採択されたMDGs(Millennium Development Goals、ミレニアム開発目標)の後継に位置付けられるが、MDGsが主に途上国における貧困撲滅や開発に主眼が置かれていたのに対し、SDGsは先進国も対象としている。そのため、SDGsのプレイヤーには、政府やNPO/NGOのみならず、民間セクターも想定されている点、MDGsからの大きな変化と言える。

国連で採択されたと言っても、それが一体自社にどう関係するのか、あまりイメージがわかないかもしれない。しかし、SDGsは日本では既に・・・

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