ウイリス・タワーズワトソン
コーポレートガバナンス・アドバイザリーグループ
コンサルタント 伊藤 竜広
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相談役・顧問を置くことにも一定の合理性
「相談役に何を相談するのか?」という皮肉めいた冗談を耳にすることがありますが、それだけ相談役の役割が曖昧だということでしょう。これは顧問も同様です。
一般的には、相談役・顧問は役員経験者であり、このうち相談役には社長経験者が就いていることが多いようです(*)。いずれにせよ、相談役も顧問も会社法等で法的に担保されている身分ではないため、その位置付けや役割は会社によって異なります。設置の根拠も様々で、定款で「相談役(または顧問)を置くことができる」という定めを設けている会社もあれば、社内規程のみに基づき設置している会社もあります。
相談役・顧問の主な役割として、(1)社内的には、それまで培ってきた知見や経験を活かし、現経営陣に対して経営全般に関する助言を行う、(2)対外的には、役員時代に培った取引先との関係や人脈をベースとして、顧客との関係維持を目的とした対外的な活動を行う(例:財界、業界/関連団体における活動、取引先等への挨拶)ことなどが期待されています。とすると、企業が相談役や顧問を置く意義は、一言で言えば「役員経験者が培ってきた財産の有効活用」ということに尽きると考えられます。
日本企業では、役員が従業員の延長線上に位置付けられており、人材の健全な新陳代謝を促す観点から従業員同様役員にも定年(または最長在任年数)が設定されているケースが多くなっています。しかしながら、役員は優秀である(正確には、「優秀であると会社に認められた」)ケースが多く、退任後も引続き何らかの形で会社に貢献して欲しいと期待されたとしても、さほど不自然なことではありません。実際に高い実績を残してきた役員であれば、なおさらでしょう。年齢という外形基準で一律に会社との関係を断つのではなく、高度な判断能力を有し、かつ健康である限り、その知見を有効に活用することはむしろ会社の利益に資するという考え方には、一定の合理性があります。
一方、会社によってはこうした役割を積極的に期待するのではなく、むしろそれまでの役員の功労に報いる意味で、退任後の“名誉職”として相談役・顧問を置いているケースも少なくないようです。役割や位置付けが明確化され、社内においてその運用体制がしっかりと確立されている限り、相談役・顧問制度は有効に機能するものと考えられますが、実態は必ずしもそうではありません。例えば、相談役・顧問による経営への不当な介入、逆に現経営陣が相談役・顧問の意向を“忖度”することによる会社の意思決定への悪影響などが問題視されています。
また、相談役・顧問制度そのものの不透明さも指摘されています。冒頭で述べたように、相談役・顧問は取締役/執行役、監査役といった会社法上の機関ではないことが、不透明さに拍車をかけています。相談役・顧問制度の有無のみならず、在任者の有無すら外部からは非常に判り難く、社内においてさえその存在がきちんと把握されていないケースもあります。ましてや海外では相談役・顧問を置く慣行が存在しないこともあり、海外の株主・機関投資家にとっては一層判り難くくなっています。
2割強の企業が相談役・顧問制度の見直しを検討
現在、相談役・顧問制度は、コーポレートガバナンス改革議論におけるホットトピックの一つとなっています。議決権行使助言会社最大手のISSが2017年の議決権行使ポリシーにおいて、相談役制度(顧問、名誉会長、ファウンダーと言った活動の実態が見えにくい名誉職的ポストを含む)の新設を含む定款変更議案に対して反対を推奨する立場を表明したのは記憶に新しいところです(2017年版 日本向け議決権行使助言基準 13ページの一番下参照)。
経済産業省が東証一部および二部上場企業を対象に実施したコーポレートガバナンスに関するアンケート調査(2017年3月10日公表)によると、約8割の企業で相談役・顧問制度が存在し、現に相談役・顧問が在任中である企業は全体の約6割を占めます(回答企業数871社)。また、相談役・顧問の役割として最も多かった回答は「役員経験者の立場からの現経営陣への指示・指導」(36%:回答企業数665社)でした。
一方で、全体(過去も含めて相談役・顧問制度がなかった企業を除いた698社)の2割強の企業において制度の見直しが検討されています。同じく経済産業省が発表したコーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン:2017年3月31日公表)でも、相談役・顧問の在り方について言及されており、CEOのリーダーシップ強化のための環境整備の中で、相談役・顧問の役割および処遇の明確化が課題として挙げられています。現在相談役・顧問制度を持つ企業は、その在り方を見直す転機に差し掛かっていると言えます。
相談役・顧問の位置付けと報酬
こうした中で相談役・顧問制度を維持するためには、その役割・位置付けを明確に定義することが求められます。会社法上の機関ではない以上、取締役とは当然に責任の重さも異なるため、取締役とは異なり、経営の意思決定には関与しない、業務執行はしないことを明確にする必要があると考えられます。仮に相談役・顧問が取締役相当の役割を負うということであれば、ただ単に取締役の定年を延長することで事足りるはずです。また、社内の意思決定を阻害しないようなルールを設ける等、現経営陣のモチベーションを下げない仕組みも併せて構築することが重要です(例:相談役の取締役会への出席は認めない、等)。
役割や位置付けが明確に定義されれば、報酬のあり方も自ずと決まってくるものと思われます。例えば、業務執行をしないことを踏まえれば業績連動報酬はそぐわないということになり、固定報酬が中心にならざるを得ないと考えられます。
現状、相談役・顧問はその位置付けに関わらず何らかの報酬を得ているのが一般的です。これ には、(1)役割に対する対価という意味合いのほか、(2)役員退任後の報酬の激変緩和措置、(3)役員退任後の税金の工面、(4)退任後の相談役・顧問の報酬と役員であった期間の報酬を通算して、トータルで報いる――などの意味合いが含まれると考えられます。実際、上記で紹介した経済産業省のアンケートにおける「報酬の有無」を問う設問では、現在相談役・顧問が在任している企業のうち、「何らかの報酬がある」と回答した企業は80%(回答企業数663社)に上り、その報酬額は役員退任直前の報酬水準を基礎として決められるケースが多いようです(回答として最も多かったのは、「退任時の報酬ベース」で、全体の27%に上った(回答企業数262社))。確かに、例えば納税資金の工面という観点からは退任時の報酬ベースとするのは理に適っていると言えますが、それだけでなく、上記(1)の役割や勤務形態(例:常勤/非常勤の別、出勤日数)等も併せて考慮する必要があります。
先日、政府が公表した「未来投資戦略2017(案)」(2017年6月9日公表)では、コーポレートガバナンスに関する透明性向上の観点から、退任した社長・CEOが就任する相談役・顧問等について、氏名、役職、地位、業務内容等を開示する制度を東京証券取引所において本年夏頃を目途に創設し、来年初頭を目途に実施するという方針が示されました(32ページ 上から3つ目の「・」参照)。この開示制度の実施に備え、相談役・顧問の経験や知見を経営に生かしたいと考える企業にとって、その役割・処遇の明確化は喫緊の課題と言えるでしょう。
既にこの6月総会でも、相談役・顧問を置くことが出来る旨の規定を変更する(削除する)定款変更議案を上程した企業がいくつか見られました。もちろん議論の結果として制度廃止を選択したのであれば問題ありませんが、これから相談役・顧問のあり方を検討する企業は、必ずしも「制度廃止ありき」で考える必要はありません。ただし、相談役・顧問を維持する場合には、なぜ維持するのかについて十分な説明が必要になってくるでしょう。また、対外的説明の観点からは、相談役・顧問の報酬や指名を社外取締役を交えた報酬諮問委員会、および指名諮問委員会の審議事項とすることも考えられます。社外の視点を交えた議論というプロセスそのものが透明性の確保につながるため、上述した「不透明さ」の問題を解消する有効な手段となるでしょう。

