2017/06/30 【2017年5月の課題】退任した役員が就任した相談役や顧問の適正報酬:解答(会員限定)

ウイリス・タワーズワトソン
コーポレートガバナンス・アドバイザリーグループ
コンサルタント 伊藤 竜広
03-3581-6530
tatsuhiro.ito@willistowerswatson.com

相談役・顧問を置くことにも一定の合理性

「相談役に何を相談するのか?」という皮肉めいた冗談を耳にすることがありますが、それだけ相談役の役割が曖昧だということでしょう。これは顧問も同様です。

一般的には、相談役・顧問は役員経験者であり、このうち相談役には社長経験者が就いていることが多いようです()。いずれにせよ、相談役も顧問も会社法等で法的に担保されている身分ではないため、その位置付けや役割は会社によって異なります。設置の根拠も様々で、定款で「相談役(または顧問)を置くことができる」という定めを設けている会社もあれば、社内規程のみに基づき設置している会社もあります。

 相談役が取締役を兼任している事例もごく稀に見受けられますが、あくまでレアケースであることから、本稿では役員退任後に相談役・顧問に就くケースを前提にすることとします。

相談役・顧問の主な役割として、(1)社内的には、それまで培ってきた知見や経験を活かし、現経営陣に対して経営全般に関する助言を行う、(2)対外的には、役員時代に培った取引先との関係や人脈をベースとして、顧客との関係維持を目的とした対外的な活動を行う(例:財界、業界/関連団体における活動、取引先等への挨拶)ことなどが期待されています。とすると、企業が相談役や顧問を置く意義は、一言で言えば「役員経験者が培ってきた財産の有効活用」ということに尽きると考えられます。

日本企業では、役員が従業員の延長線上に位置付けられており、人材の健全な新陳代謝を促す観点から従業員同様役員にも定年(または最長在任年数)が設定されているケースが多くなっています。しかしながら、役員は優秀である(正確には、「優秀であると会社に認められた」)ケースが多く、退任後も引続き何らかの形で会社に貢献して欲しいと期待されたとしても、さほど不自然なことではありません。実際に高い実績を残してきた役員であれば、なおさらでしょう。年齢という外形基準で一律に会社との関係を断つのではなく、高度な判断能力を有し、かつ健康である限り、その知見を有効に活用することはむしろ会社の利益に資するという考え方には、一定の合理性があります。

一方、会社によってはこうした役割を積極的に期待するのではなく、むしろそれまでの役員の功労に報いる意味で、退任後の“名誉職”として相談役・顧問を置いているケースも少なくないようです。役割や位置付けが明確化され、社内においてその運用体制がしっかりと確立されている限り、相談役・顧問制度は有効に機能するものと考えられますが、実態は必ずしもそうではありません。例えば、相談役・顧問による経営への不当な介入、逆に現経営陣が相談役・顧問の意向を“忖度”することによる会社の意思決定への悪影響などが問題視されています。

また、相談役・顧問制度そのものの不透明さも指摘されています。冒頭で述べたように、相談役・顧問は取締役/執行役、監査役といった会社法上の機関ではないことが、不透明さに拍車をかけています。相談役・顧問制度の有無のみならず、在任者の有無すら外部からは非常に判り難く、社内においてさえその存在がきちんと把握されていないケースもあります。ましてや海外では相談役・顧問を置く慣行が存在しないこともあり、海外の株主・機関投資家にとっては一層判り難くくなっています。

2割強の企業が相談役・顧問制度の見直しを検討

現在、相談役・顧問制度は、コーポレートガバナンス改革議論におけるホットトピックの一つとなっています。議決権行使助言会社最大手のISSが2017年の議決権行使ポリシーにおいて、相談役制度(顧問、名誉会長、ファウンダーと言った活動の実態が見えにくい名誉職的ポストを含む)の新設を含む定款変更議案に対して反対を推奨する立場を表明したのは記憶に新しいところです(2017年版 日本向け議決権行使助言基準 13ページの一番下参照)。

経済産業省が東証一部および二部上場企業を対象に実施したコーポレートガバナンスに関するアンケート調査(2017年3月10日公表)によると、約8割の企業で相談役・顧問制度が存在し、現に相談役・顧問が在任中である企業は全体の約6割を占めます(回答企業数871社)。また、相談役・顧問の役割として最も多かった回答は「役員経験者の立場からの現経営陣への指示・指導」(36%:回答企業数665社)でした。

一方で、全体(過去も含めて相談役・顧問制度がなかった企業を除いた698社)の2割強の企業において制度の見直しが検討されています。同じく経済産業省が発表したコーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン:2017年3月31日公表)でも、相談役・顧問の在り方について言及されており、CEOのリーダーシップ強化のための環境整備の中で、相談役・顧問の役割および処遇の明確化が課題として挙げられています。現在相談役・顧問制度を持つ企業は、その在り方を見直す転機に差し掛かっていると言えます。

相談役・顧問の位置付けと報酬

こうした中で相談役・顧問制度を維持するためには、その役割・位置付けを明確に定義することが求められます。会社法上の機関ではない以上、取締役とは当然に責任の重さも異なるため、取締役とは異なり、経営の意思決定には関与しない、業務執行はしないことを明確にする必要があると考えられます。仮に相談役・顧問が取締役相当の役割を負うということであれば、ただ単に取締役の定年を延長することで事足りるはずです。また、社内の意思決定を阻害しないようなルールを設ける等、現経営陣のモチベーションを下げない仕組みも併せて構築することが重要です(例:相談役の取締役会への出席は認めない、等)。

役割や位置付けが明確に定義されれば、報酬のあり方も自ずと決まってくるものと思われます。例えば、業務執行をしないことを踏まえれば業績連動報酬はそぐわないということになり、固定報酬が中心にならざるを得ないと考えられます。

現状、相談役・顧問はその位置付けに関わらず何らかの報酬を得ているのが一般的です。これ には、(1)役割に対する対価という意味合いのほか、(2)役員退任後の報酬の激変緩和措置、(3)役員退任後の税金の工面、(4)退任後の相談役・顧問の報酬と役員であった期間の報酬を通算して、トータルで報いる――などの意味合いが含まれると考えられます。実際、上記で紹介した経済産業省のアンケートにおける「報酬の有無」を問う設問では、現在相談役・顧問が在任している企業のうち、「何らかの報酬がある」と回答した企業は80%(回答企業数663社)に上り、その報酬額は役員退任直前の報酬水準を基礎として決められるケースが多いようです(回答として最も多かったのは、「退任時の報酬ベース」で、全体の27%に上った(回答企業数262社))。確かに、例えば納税資金の工面という観点からは退任時の報酬ベースとするのは理に適っていると言えますが、それだけでなく、上記(1)の役割や勤務形態(例:常勤/非常勤の別、出勤日数)等も併せて考慮する必要があります。

先日、政府が公表した「未来投資戦略2017(案)」(2017年6月9日公表)では、コーポレートガバナンスに関する透明性向上の観点から、退任した社長・CEOが就任する相談役・顧問等について、氏名、役職、地位、業務内容等を開示する制度を東京証券取引所において本年夏頃を目途に創設し、来年初頭を目途に実施するという方針が示されました(32ページ 上から3つ目の「・」参照)。この開示制度の実施に備え、相談役・顧問の経験や知見を経営に生かしたいと考える企業にとって、その役割・処遇の明確化は喫緊の課題と言えるでしょう。

既にこの6月総会でも、相談役・顧問を置くことが出来る旨の規定を変更する(削除する)定款変更議案を上程した企業がいくつか見られました。もちろん議論の結果として制度廃止を選択したのであれば問題ありませんが、これから相談役・顧問のあり方を検討する企業は、必ずしも「制度廃止ありき」で考える必要はありません。ただし、相談役・顧問を維持する場合には、なぜ維持するのかについて十分な説明が必要になってくるでしょう。また、対外的説明の観点からは、相談役・顧問の報酬や指名を社外取締役を交えた報酬諮問委員会、および指名諮問委員会の審議事項とすることも考えられます。社外の視点を交えた議論というプロセスそのものが透明性の確保につながるため、上述した「不透明さ」の問題を解消する有効な手段となるでしょう。

2017/06/30 【2017年6月の課題】サイバーセキュリティの確保

2017年6月の課題

テクノロジーの進化とともに、ITの利便性を容易に享受できるようになりましたが、その一方で、サイバーリスクの脅威は年々高まっています。例えば、企業のサイトやシステムにセキュリティホールがあったことが原因で個人情報や機密情報が流出すれば、企業価値は大きく損なわれてしまいます。また、従業員のPCがランサムウェア(データを“人質”に身代金を要求するコンピュータウィルス)に感染すれば、業務の停滞は必至となります。こうした中、上場企業にとってサイバーセキュリティの確保は死活問題となっています。自社のサイバーセキュリティの確保のために今何をすべきか、考えてみてください。

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2017/06/30 【役員会 Good&Bad発言集】中期経営計画の目標未達時の対応

東証一部に上場している小売業の甲社(A事業とB事業を営んでいる)では、A事業は好調であるものの、B事業の売上が年々落ち込んでいる。このままでは2年前に定めた中期経営計画における目標利益の達成や配当方針の維持が困難であることから、B事業の売上回復に向け、さまざまな策を検討しているところである。そのような中、甲社の経営会議においてB事業の営業部長が「B事業の営業マンだけでなく、全従業員にそれぞれの売上目標を定めさせ、各従業員が持つ人的ネットワークをフル活用してB事業の売上に貢献することを求める」案を提案した。この施策は売上目標に実効性を持たせるため、「イントラネットで目標額と達成額を一覧にした表を掲示する」「達成額は人事考課に反映させる」といった方向性で検討が進んでいる。それを耳にした監査役が、甲社の定例取締役会で話題に取り上げ危惧を述べたところ、取締役A・B・Cが下記の発言をしました。誰の発言がGood発言でしょうか?

取締役A:「売上目標は“ノルマ”ではなく、あくまで各人の“目標”に過ぎないので、問題は生じないのではないでしょうか。このまま手をこまねいていては、A事業で稼いだ利益がすべてB事業の損失と相殺されてしまい、投資家に配当できなくなってしまいます。我々は、株主に対して株価向上と配当で報いるという上場企業の責務を果たさなければなりません。」

社外取締役B:「私は、この施策が全従業員に適用されるという点を評価しています。このような施策はとかく営業マンにだけ適用されがちですが、全従業員が売上に貢献することで会社としての一体感が醸成されると考えます。」

社外取締役C:「“売上目標”か “ノルマ”かは単なる言い回しの問題に過ぎません。従業員が“売上目標”を達成するよう強いプレッシャーにさらされ、目標未達の場合に人事考課が下がる可能性があるのであれば、それは“ノルマ”に他なりません。まして営業マン以外の従業員にも売上目標を課すのは不適切であり、自爆営業を招きかねません。このような施策にすがるようでは、B事業もそろそろ限界にきているのではないでしょうか?従業員に無理をさせてまで配当をひねり出す必要はありません。今こそ、B事業から撤退し、A事業に経営資源を集中するよう舵を切るべきです。」

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2017/06/30 【役員会 Good&Bad発言集】中期経営計画の目標未達時の対応(会員限定)

<解説>
中期経営計画未達の責任を負うのは誰か

最近ではほとんどの上場企業が中期経営計画等の経営計画を投資家に公表するようになりました。コーポレートガバナンス・コード原則5-2に基づき「経営戦略や経営計画の策定・公表」を行う上場企業は、東京証券取引所の市場第一部・第二部上場企業のうち9割(89.84%)に達しています(東京証券取引所の「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況の集計結果(2016年12月末時点)」より)。

【原則5-2.経営戦略や経営計画の策定・公表】
経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、 経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである。

この中期経営計画は、経営陣が株主に対してコミットするものです(コードの補充原則4-1②)。その結果、目標を達成できない経営陣(業務執行取締役)は、株主総会で退任を迫られる可能性があります。また、目標を達成できない上場企業の株価は下落し、公募によるファイナンスが困難となり、買収可能性も高まるでしょう。そのため、経営陣には中期経営計画の達成に向けての相当なプレッシャーがかかることになります。

売上目標の功罪

中期経営計画の達成責任を負う経営陣は、計画達成に向けて、事業領域の選択と集中、具体的な販売戦略の策定、事業提携、適切な人材配置・人員採用、販売促進策への予算配分等の経営判断を行います。そして、従業員は経営陣が構築した仕組みを前提として自身に割り当てられた職務につきベストを尽くすことを求められます。換言すれば、中期経営計画未達の責任は、計画を達成できる仕組みを構築できなかった経営陣が負うべきものと言え、従業員が負うべきものではありません。

それにもかかわらず、経営陣が、従業員にノルマや売上目標を課すことにより中期経営計画(あるいはそれを各年度に展開した予算)の必達を迫るケースがよく見受けられます。これは経営陣が自身にかかったプレッシャーを従業員に転嫁しているだけと言えます。

確かに、ノルマや売上目標には、インセンティブ型の報酬と連動させることで従業員にとってエンジンとして機能するという側面があることは否定できませんが、目標をクリアするためのハードルが高すぎると、それを課せられた従業員を精神的に追い詰めてしまいかねず、離職率が高まる原因にもなります。また、ノルマをこなすために残業時間数が増え、従業員満足度が低下していくことにも注意が必要です。

ノルマの弊害はそれだけではありません。ノルマの弊害の最たるものが、いわゆる“自爆営業”です。これはノルマを課せられた従業員が、自ら(実需に基づかずに)自社製品等を購入して販売実績を水増しする行為を言います。コンビニエンスストアにおけるクリスマスケーキや恵方巻、日本郵便における年賀はがき等、いわゆる“自爆営業”の噂は枚挙にいとまがありません。ノルマ未達時のペナルティが重いほど、自爆営業が起きやすい傾向にあります。“自爆営業”が問題になった企業では、経営陣が「一部の管理職が従業員に対し独断で自爆営業を強要したかもしれないが、会社として組織的に行ったわけではない」と言い逃れするケースもあるようです。仮にそれが事実だとしても、経営陣は当該一部の管理職をコントロールできていなかった(内部統制の構築が不十分であった)点で職責を全うできておらず、責めを負うべきです。

人的資源のサスティナブルな活用

昨今、上場企業のビジネスモデルは持続可能(サスティナブル)なものであることが求められています。“サスティナブル”というと、「自然破壊にストップをかけ、限りある天然資源を有効に活用する」といったように、「天然資源」が念頭に置かれることが多いのですが、より身近な経営資源である「従業員」という人的資源も当然ながらサスティナブルである必要があります。売上目標やノルマの設定で従業員のメンタルを害したり退職率が高くなったりするようでは、人材を使い捨てしているに過ぎず、サスティナブルな人的資源の活用とは到底言えません。経営陣には従業員満足度を高めながら中期経営計画を実現するという難しいかじ取りが求められています。

さて、以上の解説をご覧いただければ、どれがGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。

<正解>
GOOD発言はこちら

社外取締役C:「“売上目標”か “ノルマ”かは単なる言い回しの問題に過ぎません。従業員が“売上目標”を達成するよう強いプレッシャーにさらされ、目標未達の場合に人事考課が下がる可能性があるのであれば、それは“ノルマ”に他なりません。まして営業マン以外の従業員にも売上目標を課すのは不適切であり、自爆営業を招きかねません。このような施策にすがるようでは、B事業もそろそろ限界にきているのではないでしょうか?従業員に無理をさせてまで配当をひねり出す必要はありません。今こそ、B事業から撤退し、A事業に経営資源を集中するよう舵を切るべきです。」
コメント:不採算の事業を廃止し、より成長機会の高い事業に経営資源を集中させるのは、経営陣の役目に他なりません。自爆営業の可能性からB事業の限界を感じ取るのは、ビジネスで必要な“嗅覚”と言えます。Cの発言は、サスティナブルな人的資源の活用に意識を払っていることが分かる発言でもあり、GOODです。

BAD発言はこちら
取締役A:「売上目標は“ノルマ”ではなく、あくまで各人の“目標”に過ぎないので、問題は生じないのではないでしょうか。このまま手をこまねいていては、A事業で稼いだ利益がすべてB事業の損失と相殺されてしまい、投資家に配当できなくなってしまいます。我々は、株主に対して株価向上と配当で報いるという上場企業の責務を果たさなければなりません。」
コメント:“ノルマ”を“売上目標”と言い換えたところで、実質的にノルマとして機能するのであれば問題が生じる点は、社外取締役Cの発言のとおりです。また、Aの発言は、従業員に負担をかけてまで配当をひねり出そうという考えに基づくものと言え、ステークホルダー間の利害調整のバランスを失していると言わざるを得ないBAD発言です。
社外取締役B:「私は、この施策が全従業員に適用されるという点を評価しています。このような施策はとかく営業マンにだけ適用されがちですが、全従業員が売上に貢献することで会社としての一体感が醸成されると考えます。」
コメント:全従業員に無理を強いる施策を「一体感が醸成」と発言するくだりは、あまりに現場の感覚から乖離した発言と言わざるを得ません。従業員はこのような経営陣との感覚のずれを感じ取ると、会社への忠誠心を無くすものです。「一体感の醸成」はこのような従業員の効用をマイナスにする施策ではなく、社内コミュニケーションの活性化など従業員の効用をプラスにする施策で実現すべきです。以上より、Bの発言はBAD発言です。

2017/06/30 “株主総会後”の企業の悩み

2017年6月株主総会シーズンが終了した。これから各議案に対する賛否の分析作業などが残されているとはいえ企業としては一息つきたいところだろうが、総会後、毎年のように一部の上場企業を悩ませている問題がある。それが・・・

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2017/06/30 “株主総会後”の企業の悩み(会員限定)

2017年6月株主総会シーズンが終了した。これから各議案に対する賛否の分析作業などが残されているとはいえ企業としては一息つきたいところだろうが、総会後、毎年のように一部の上場企業を悩ませている問題がある。それが議決権行使書面の“濫用的”な閲覧等だ。

議決権行使書面とは、文字どおり株主が「議決権」を行使するために使用する書面であり、これを使えば、株主は総会に出席することなく、議決権を行使することができる。株主が1,000名以上の企業では、企業が委任状の勧誘を行う場合を除き、書面による議決権行使が義務付けられている(会社法298条2項)。

委任状の勧誘 : ある株主が他の株主に対して「議決権を代理で行使させて欲しい」と勧誘する行為。委任状勧誘は、(1)会社提案の議案を否決するため、または(2)株主自らが提案(株主提案)する議案を可決するために行われる。自社が敵対的買収のターゲットとなった場合には、会社と買収者がともに委任状勧誘を行う “委任状争奪合戦(プロクシー・ファイト=proxy fight)”へと発展することが多い。

<議決権行使書面のサンプル>
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そして会社法では、株主総会後に、各議案の賛否が記入された議決権行使書面の閲覧・謄写(書き写すなど)を企業に請求する権利を株主に認めている(会社法311条4項)。要するに、株主であれば、誰がどの議案に賛成or反対したかを株主総会後に見ることができるわけだ。期間は「株主総会の日から3か月間」とされる。これは、株主総会の決議の日から3か月以内であれば株主総会決議取消訴訟が提起できることに平仄を合わせたもの。その間、企業は本店に議決権行使書面を置いておかなければならない。

「株主総会手続きの適法性の確保」という観点から認められている議決権行使書面の閲覧・謄写請求権だが、近年はこの権利が“濫用”されるケースが目に付く。株主が議決権行使書面を閲覧する目的の一つが、同書面に記載された「住所」(上記サンプルの「東京都●●区・・・」部分)の閲覧だ。例えば敵対的買収者が株主に対し委任状の勧誘を行おうという場合、住所は欠かせない情報となる。このような目的での請求にはまだ合理性があるが、特に目的もなく、“嫌がらせ”に近いような形で毎年同じ株主が閲覧・謄写請求をしてくるケースもあるようだ。閲覧・謄写請求を受けた企業は、閲覧用の部屋を用意し、社員も立ち会わせなければならない。大企業となれば議決権行使書面は数十万通にも及ぶ。このような企業では閲覧に1週間程度を要することもあるという。もしこれが“嫌がらせ”への対応だとすれば、企業としてはたまったものではないだろう。

2017年4月27日のニュース「法務省、ガバナンスに関する会社法の見直しに着手」でもお伝えしたとおり、法務省の法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会は現在、会社法の見直しを検討しているが、経済界からは、議決権行使書面の閲覧・謄写請求権の濫用的な行使の制限を求める声が上がっている。法務省サイドからは「住所を閲覧するのが主な目的なのであれば、住所を外せばよいのでは」との指摘もあるが、上記のとおり“嫌がらせ”に近い形での閲覧・謄写請求もあるため、企業側には「濫用防止規定を設けるべき」との声が強い。具体的には、「株主名簿」の閲覧・謄写請求権について設けられている濫用防止規定と同様の規定を設けることである(下記参照)。

<「株主名簿」の閲覧・謄写請求権の濫用防止規定>
下記の場合、企業は株主名簿の閲覧・謄写請求を拒否することができる(会社法125条3項)。
(1)請求を行う株主または債権者がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき
(2)請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、または株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき
(3)請求者が株主名簿の閲覧または謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき

同様の仕組みが議決権行使書面の閲覧・謄写請求権にも導入されれば、企業の負担は大幅に軽減されることになろう。法務省・法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会における議論の行方が注目される。

2017/06/29 黒田電気で株主提案の社外取が選任されるも委員会には属さず

本日(2017年6月29日)開催された黒田電気の定時株主総会で、大株主である株式会社レノ・・・

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2017/06/29 黒田電気で株主提案の社外取が選任されるも委員会には属さず(会員限定)

本日(2017年6月29日)開催された黒田電気の定時株主総会で、大株主である株式会社レノ(いわゆる“村上ファンド”系とされる)が提案した社外取締役1名の選任議案が可決された(黒田電気の株主総会決議通知はこちら)。2017年6月2日のニュース「株主提案に反対する黒田電気経営陣が抱える2つの不安要素」でお伝えしたとおり、2年前は村上ファンド側から提案された社外取締役選任議案を否決に持ち込んだ黒田電気だが、今回の株主総会では村上ファンド側の35.09%という圧倒的な持株数に加え、低迷するROEに足を引っ張られる形で、一転「可決」という結果となった。

総会後の同社の取締役会構成員は次の通り(敬称略。青字が会社提案で選任された取締役、赤字が村上ファンド側の株主提案で選任された社外取締役)。

取締役:細川浩一(再任)
取締役:森安伸(新任)
社外取締役:常山邦雄(再任)
社外取締役:岡田重俊(再任)
社外取締役:山下淳(再任)
社外取締役:篠秀一(再任)

社外取締役:安延申(新任)

注目すべきは、黒田電気が本日公表した取締役会における各委員会(同社は指名委員会等設置会社)の構成だ。

(指名委員会)
委員長:山下淳(社外取締役)
委員:細川浩一
委員:常山邦雄(社外取締役)
委員:岡田重俊(社外取締役)

(報酬委員会)
委員長:岡田重俊(社外取締役)
委員:森安伸
委員:常山邦雄(社外取締役)
委員:山下淳(社外取締役)

(監査委員会)
委員長:篠秀一(社外取締役)
委員:常山邦雄(社外取締役)
委員:岡田重俊(社外取締役)
委員:山下淳(社外取締役)

この構成は、定時株主総会後に開催された臨時取締役会で決まったものだが、村上ファンド側の株主提案で選任された安延社外取締役は、いずれの委員会にも属していない。指名委員会等設置会社で設置が義務付けられる指名・報酬・監査の各委員会は3名以上の取締役で構成され、そのうち過半数は社外取締役でなければならないことから、社外取締役はいずれかの委員会に所属するのが通常だ。もちろん、社外取締役であれば必ず委員会に属さなければならないというわけではないが、どの委員会にも所属しないということの法的意味合いは決して小さくない。というのも、各委員会は次のような権限を持っているからだ。

指名委員会 株主総会に提出する取締役の選任および解任に関する議案の内容を決定
監査委員会 1 執行役および取締役の職務の執行の監査および監査報告の作成
2 株主総会に提出する会計監査人の選解任および会計監査人を再任しないことに関する議案の内容の決定
報酬委員会 執行役および取締役の個人別の報酬等の内容を決定

各委員会の決定は法的拘束力がある。裏を返せば、委員会に属さない取締役は、上に記した権限を持たないに等しい。

黒田電気が機関設計として指名委員会等設置会社を採用していたことで、株主提案の社外取締役の権限が縮小されることになったわけだが、指名委員会等設置会社は元々そのような仕組みとなっている以上、なんら会社法に反するものではない。委員会にどの取締役が所属するかを決めるのは株主総会ではなく取締役会であり(会社法400条2項)、村上ファンド側も1名しか社外取締役を送り込まなかった時点で、“数の論理”から委員会に所属できないことは織り込み済みと言える。

株主提案の理由によると、安延氏は「経営統合の推進」「コーポレートガバナンスの改善」「株主還元の向上」という施策に取り組む予定とのことであり、その場は3委員会以外の通常の取締役会ということになる。これが“蟻の一穴”になるのか、同社の今後の動向が注目される。

2017/06/29 【失敗学第37回】ながの東急百貨店の事例(会員限定)

概要

株式会社ながの東急百貨店(東証JASDAQ上場。東急百貨店の上場子会社)で、従業員が高級腕時計を顧客へ販売したと虚偽の社内伝票を作成し、実際は転売して資金を得ていた。

経緯

ながの東急百貨店が、2017年6月に「第三者委員会の調査報告」を公表するまでの経緯を時系列で示すと、次のとおり。

<2009年~2017年>
ながの東急百貨店のカスタマーセンターのマネジャー(以下、元従業員)が、同百貨店が毎年実施しているワールドジュエリー&ウォッチフェアにおいて、高級腕時計を顧客に販売したことにして外部に持ち出し、転売することで一時的に資金を得る不正行為をしていた。

<2017年>
4月下旬:元従業員の不正が発覚した。
5月22日:同社は、不正が発覚したため5月30日に予定していた2018年1月期第1四半期の決算発表を延期することを公表。
6月13日:同社は「第三者委員会の調査報告」を公表し、2016年2月以降の売上を累計で65百万円取り消した。また、同日をもって元従業員を懲戒解雇。

内容・原因・改善策

ながの東急百貨店が、2017年6月に公表した「第三者委員会の調査報告」によると、本件の問題点の主な内容とその原因、再発防止策は次のとおりである。

高級腕時計の不正転売と架空売上計上

内容 ながの東急百貨店のカスタマーセンターのマネジャー(以下、元従業員)、同百貨店が毎年実施しているワールドジュエリー&ウォッチフェアで、高級腕時計を顧客に販売したことにして外部に持ち出し、転売することで一時的に資金を得ていた。この不正による売上計上額は、2016年2月~2017年4月の1年3か月の間だけで65百万円に上っていた。
原因 (動機)
元従業員は子供の学費(大学)や住宅ローンの支払いのために資金が必要であった。また、業務上やむを得ず顧客の取引代金の穴埋めを行わざるを得なくなったというトラブルもあり、資金を欲していた。

(商品の店舗外への持ち出しが認められていた)
同百貨店では店舗内での販売が原則である(商品の持出しは認められていない)ところ、ワールドジュエリー&ウォッチフェアの際には特別に商品を店舗から持出して客先で商談を行うことが推奨されていた。元従業員は伝票に架空の情報を記載することで、商品を自由に店舗外に持ち出すことができた。

(商品の特性)
元従業員が持ち出したのは中古市場において高値で売却できる高級腕時計であり、元従業員はそれらを容易に換金できた。

(取引の実在性を問わないチェック体制)
ワールドジュエリー&ウォッチフェアでは、現金やクレジットカード以外にも信用販売(掛け売り)が認められていた。もっとも、何ら面識がない「飛び込み営業」は想定されておらず、担当者の知人・親族など人間関係をもとにした掛け売りであった。そのため掛け売りに際して上司の承認は不要とされ、与信限度額も設定されていなかった。また、会社が得意先の実在性を確認する手続きは行われておらず、入金遅延にならない限り、会社が得意先の実在性を調べることもなかった。そのため、元従業員が伝票に販売先として無断で知人の名前を記載したり架空の得意先を記載したりしても、入金遅延にならない限り発覚することはなかった。

(売掛金の決済までのタイムラグの存在)
ワールドジュエリー&ウォッチフェアでは与信の条件が緩和されており、8~10月に実施するフェアの売掛金の支払期限は12月末日でよいこととされていた。そのため、元従業員は高級腕時計を持ち出した後すぐに転売すれば、その後の数か月は資金を生活費等に充当できた。

(報奨金)
同百貨店では、ワールドジュエリー&ウォッチフェアで売り上げた担当者に報奨金として売上高の3%が支払われていた。そのことは架空売上を計上するインセンティブにもなった。

(売掛金が確実に入金されていたことによる不正発覚の遅れ)
元従業員は2015年度までは売掛金の入金締め日までに確実に会社に入金をしていた。そのため、会社が架空売上であることに気付く機会がなかった。

(掛け売り担当者の分散による発覚の遅れ)
ワールドジュエリー&ウォッチフェアは、ながの東急百貨店にとってもっとも重要なキャンペーンであり、従業員全員が営業部門や上長などから繰り返し本フェアに参加し販売目標を達成することを求められていた。しかも社内システムには従業員一人ひとりの売上状況が掲出されており、売上目標を達成できていない従業員にとってはそれがプレッシャーになっていた。そのような中、元従業員は、知り合いの従業員に「売上欲しくない?自分はすでに売上目標を達成しているし、売上をあげようか。」「自分は目立ちたくない、あまり売上をあげると外商に行かされてしまうので、避けたい。」「売上金は必ず自分で回収する。」(調査報告書より抜粋)と声をかけ、承諾を得た者の名義で掛け売りの伝票を作成していた(これにより声をかけられた従業員が売り上げたことになった)。元従業員が掛け売り担当者の名義を分散させたことで、元従業員は一人で多額の取引を行っている事実を会社に隠し通すことができた。

対応策 (会計処理の訂正)
・元従業員に支払う意思が認められない掛け売上については取り消す(2016年2月以降の売上を累計で65百万円)。2016年1月以前の不正については元従業員に支払う意思があり、実際に支払がされていたため、売上は取り消さない。

(役員の責任)
・代表取締役社長等の月額報酬10%の減額(1か月)
・監査等委員の月額報酬10%の減額(1か月)

(再発防止策)
・換金性の高い商品に対する持ち出しに対する管理体制の強化
・ワールドジュエリー&ウォッチフェアの運営の見直し
・外商口座運用の見直し
・全社的な業務運営ルールの徹底

<この失敗から学ぶべきこと>

不正のトライアングル理論によると、下記の3つがそろった時に不正が起きやすいと言われています。
・動機・プレッシャー
・機会
・姿勢・正当化
今回のながの東急百貨店の事件にあてはめると、次のようになります。

動機 元従業員は子供の大学進学などで資金が必要であった。
機会 ・ワールドジュエリー&ウォッチフェアでは、商品の外部持ち出しが可能であった。
・取引や得意先の実在性についての上司や他部門のチェックはなかった。
正当化 売掛金は入金締め日までに入金しており、単なる横領とは異なる。

高級腕時計のように換金性の高い商品を取り扱っている企業では、カメラの設置や台帳管理を通じて現物が持ち出されないようにするのが原則ですが、ながの東急百貨店でワールドジュエリー&ウォッチフェアを開催する際には、むしろ現物を持ち出して顧客の下で商談をすることが奨励されていました(上記の機会)。高級腕時計は転売して換金することが容易な商品です。資金繰りに窮した(上記の動機)従業員が不正に手を染めやすい環境であったと言えます。元従業員としても、売掛金の入金さえ怠らなければ、会社に迷惑を掛けてはいないという思いもあることでしょう(上記の正当化)。取引や得意先の実在性についての上司や他部門のチェックはなかった(上記の機会)ため、継続して不正が行われることになりました。

元従業員の不正は、「生活費」および「取引上のトラブルの責任をとるため自ら顧客の取引代金の穴埋めを行ったことから不足した資金」に充当するのを目的として行われたものです。顧客の取引代金の穴埋めがどのような事情のもと行われたのか、第三者委員会の調査報告では明示されていませんが、従業員による顧客の取引代金の穴埋めが労働基準法24条(賃金の全額支払い)等に反しないか気になるところです。他の上場企業では、自社で従業員が顧客の取引代金の穴埋めをすることはない旨を確認しておきましょう。また、今回の不正がギャンブルや遊興費ではなく生活費に充当することを目的としていた点も気になるところです。給与水準が低すぎると従業員満足度や企業の活力も低水準となるだけでなく、横領等の不正を惹起しかねないからです。ちなみに、小売業(上場企業)の平均年間給与は500万円(東京商工リサーチ調べ)のところ、同社の平均年間給与は平成29年1月31日現在326万円(同社の有価証券報告書より)でした。上場企業の経営陣は自社の給与水準が従業員満足度や企業の活力を維持向上させるのに十分なものかどうかに常に気を払い、投資家(配当)や役員(役員報酬)だけでなく従業員にも利益を手厚く還元することを忘れてはなりません。