法務省は会社法の見直しの一環で上場会社における株主総会資料の電子提供制度を導入する方向で検討を進めているが(見直しの全体像は2017年4月27日のニュース「法務省、ガバナンスに関する会社法の見直しに着手」参照)、このほどその具体的な内容が判明した。
まず注目されるのが、電子提供(ウェブサイトに掲載)の対象範囲だ。本件は一般に「“株主総会招集通知”の電子化」を図るものと理解されてきたが、株主に紙ベースのものを一切送付しなくてもよくなるわけではないことが分かった。電子提供の対象とされるのは以下の書類となる(法務省・法制審議会会社法制(企業等統治関係)部会の資料「株主総会資料の電子提供制度に関する論点の検討」1ページ冒頭および(注)参照)。
・株主総会参考書類
・議決権行使書面
・計算書類および事業報告(監査役等の監査報告および会計監査人の会計監査報告を含む)、連結計算書類
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紙ベースでの作成が求められる「株主総会の招集の通知」には、上記書類を掲載するウェブサイトのアドレスなど以下の事項を記載することになる(「株主総会資料の電子提供制度に関する論点の検討」4ページ参照)。
ア 株主総会の日時および場所
イ 株主総会の目的である事項があるときは、当該事項
ウ ウェブ掲載事項に係る情報を掲載するウェブサイトのアドレス
エ 株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使できることを定めたときは、その旨および書面による議決権の行使の期限
オ 株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使できることを定めたときは、その旨および電磁的方法による議決権の行使の期限
カ 株主総会の招集の決定において以下の事項を定めたとき(定款に当該事項についての定めがあるときを除く)は、その決定の内容
(ア) 代理人による議決権の行使に関する事項
(イ) 議決権の不統一行使の理由を通知する方法
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上記記載事項のとおり、「株主総会の招集の通知」への記載事項は最低限のものにとどまっており、現行会社法で株主総会招集通知に記載しなければならないとされているもののほとんどはウェブサイトに掲載するだけでよい(*)ことになる。「株主総会の招集の通知」のページ数が大幅に削減されるため、上場会社にとって印刷・郵送コストが低下するのは間違いないが、ゼロになるわけではない。
* ウェブサイトに掲載するだけで株主に伝わったとみなされることになる。なお、現在でも上場会社の大半が招集通知の早期Web開示を行っている(招集通知の早期Web開示への取り組みは「
総会集中率の3割切り、招集通知早期Web開示の9割越えが目前に」を参照)が、これは「株主に伝わったとみなす」ために行っているのではなく、少しでも早期に議案等の情報を機関投資家に伝達することを目的として行われている任意の取り組みに過ぎず、株主総会資料の電子提供制度とは異なる。
高齢者などインターネットの利用が困難な株主に配慮し、株主が請求すれば紙ベースの株主総会資料を提供する必要があるものの、この電子提供制度は利用が「強制」されるという点にも注意が必要だ。つまり、同制度の導入以降、企業は株主総会資料を(株主の請求があった場合を除き)紙ベースで提供することはできなくなる。これは、企業によって株主総会資料の提供方法が紙だったりウェブだったりすると、株主(特に複数の銘柄を保有する株主)がどちらの提供方法なのかをいちいち確認しなければならないことなどを考慮したもの。
「株主総会の招集の通知」はeメールで行うことも認められるが、この場合、現行会社法の下で株主総会招集通知および関連書類を電子提供する場合と同様に、「株主の個別の承諾」が必要となる。現在株主総会招集通知の電子提供が進まない理由はこの「個別承諾」にあるだけに、「株主総会の招集の通知」を含む“完全電子化”のハードルは高いと言えそうだ。
「株主総会の招集の通知」の発送期限は株主総会の日の「3週間前または4週間前まで」とすることが検討されている。現行の「2週間前まで」よりも1週間または2週間前倒しされることになる。株主が議決権行使に必要な検討時間を確保するのが主な狙い。そして、株主総会資料のウェブ掲載は「株主総会の招集の通知の発送時」から「株主総会の日以後3か月を経過する日」までの間行うことが提案されている。ウェブ掲載の開始時点を「株主総会の招集の通知の発送時」としたのは、株主が「株主総会の招集の通知」を受領して直ちにウェブサイトにアクセスしても株主総会関係書類を閲覧できるようにするため。一方、ウェブ掲載の終了時点を「株主総会の日以後3か月を経過する日まで」としたのは、株主総会資料が株主総会の決議の取消しを求める訴訟において証拠として使用される可能性があることを踏まえ、その出訴期限(株主総会等の決議の日から3か月以内(会社法第831条1項))と平仄をとったもの。
このように、株主総会資料は最大4か月程度ウェブサイトに掲載されることになるが、ウェブサイトゆえの問題が生じることも予想される。まず、ウェブサイトでは修正が容易だということだ。企業がこっそりと資料の一部を修正することもできてしまうかもしれない。そこで改正会社法では、修正した旨と修正事項をウェブサイトに掲載することを求める。監査役等の監査報告および会計監査人の会計監査報告についても修正を容認する方針だ。ただし、無制限に修正が認められるわけではない。修正が認められるかどうかは、修正する事項や修正の内容の重要性等により判断する。
また、サーバーのダウンにより掲載が中断されたり、サイバー攻撃を受け改ざんされたりすることもあり得る。しかし、このような場合に「常に適法な株主総会資料の提供がなかった」とするのは企業にとって酷であるうえ、株主も混乱させてしまうため、現行会社法上の電子公告制度(会社法940条3項)の救済規定と同様の規定を設ける方向。とはいえ、頻繁にサーバーがダウンする場合はもちろん、サイバー攻撃による改ざん被害を繰り返し受けるようだと、「この会社のセキュリティ対策はどうなっているのか?」との疑念を持たれることになりかねない。株主総会資料のウェブ掲載に向け、経営陣はサーバーおよび回線の増強やセキュリティ対策の強化も検討しておく必要がありそうだ。
現行会社法上の電子公告制度(会社法940条3項)の救済規定 : 電子公告期間中に公告の中断が生じた場合において、「公告の中断が生ずることにつき会社が善意でかつ重大な過失がない、または会社に正当な事由がある」「公告の中断が生じた時間の合計が公告期間の10分の1を超えない」「会社が公告の中断が生じたことを知った後速やかにその旨、公告の中断が生じた時間および公告の中断の内容を当該公告に付して公告した」のいずれにも該当するときは、その公告の中断は、当該公告の効力に影響を及ぼさないとする救済規定。