4月1日、2日が土日だったことから、実質的に本日(2017年4月3日)から新年度がスタートした。新年度を迎え、3月末決算企業においては決算作業をスタートさせたところも多いと思われる。決算作業において重要になるのが、会計基準の改正内容の把握だ。会計基準というと、非経理系の役員はつい「経理部門や経理担当役員任せ」としがちだが、会計基準の改正は予算数値や財務諸表の数値に影響を及ぼす可能性がある。非経理系の役員は、経理は専門外と言えども、経営陣の一角を担う以上、“過去の数値”である今決算のB/SやP/Lに影響を及ぼすこととなる「今決算において新たに適用される会計基準」はもちろん、“将来の数値”である予算に影響を与えかねない「現在開発中の会計基準」の大まかな内容くらいは知っておく必要がある。本稿では、それぞれについて整理しておこう。
まず、2017年3月期に新たに適用される会計基準等は下表のとおり(⑥は早期適用)。年度末ギリギリの(2017年)3月29日になって、企業会計基準委員会(ASBJ)が会計基準を1つ(④)、会計基準に準ずる実務対応報告を2つ(⑤⑥。⑤は新規、⑥は改正)公表しているので注意が必要だ。
なお、3月末までに公表予定であった公共施設等運営権の会計処理に関する指針は公表が先送りされている。
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名称等 |
改正された内容等 |
適用日等 |
| ① |
繰延税金資産の回収可能性
に関する適用指針
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従来は回収不能とされていた一時差異等について、回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合には、繰延税金資産の計上が認められることとなった(2016年9月29日のニュース 新基準の適用で繰延税金資産増加企業は88社、最大152億円 参照。繰延税金資産の詳しい解説は2014年6月12日【新用語・難解用語辞典】資産負債法 参照)。 |
2017年3月期の
期首から適用済み |
| ② |
2016年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い
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2016年度税制改正に係る減価償却方法の変更の変更は、「会計基準等の改正に伴う会計方針の変更」と取り扱われる(2016年6月2日【新用語・難解用語辞典】逆基準性 参照)。 |
| ③ |
リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い
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リスク分担型企業年金は、会計上、原則として確定拠出年金として取り扱われる(2016年11月1日のニュース リスク分担型企業年金 労使合意の仕組み作りが決算に影響も 参照)。 |
2017年1月1日
から適用 |
| ④ |
法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準 |
法人税、住民税及び事業税等の会計処理やP/Lにおける表示区分を定めるもの。これまで日本公認会計士協会(JICPA)の所管だった、監査・保証実務委員会実務指針第63号「諸税金に関する会計処理及び表示に係る監査上の取扱い」を引き継いだもので、実質的な変更はない。 |
2017年3月16日
から適用 |
| ⑤ |
債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い
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退職給付債務等の計算における割引率について、ゼロを下限とする方法、マイナス金利をそのまま使う方法のどちらも認めるもの。もっとも、マイナス金利の取扱いについて2016年3月期の取扱いを明確化したものであり、実質的な変更はない(2016年4月13日のニュース マイナス金利で退職給付債務の現在価値と将来価値に“逆転現象” 参照)。 |
2017年3月 31日に終了する事業年度から2018年3月30日に終了する事業年度まで適用 |
| ⑥ |
連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い |
国内子会社、国内関連会社がIFRSに準拠している場合、日本基準を採用している親会社は、連結財務諸表を作成するうえで当該IFRS財務諸表を原則として修正することなく使用できる。2017年3月期から早期適用が可能だが、国内子会社、国内関連会社がIFRSに準拠している場合が前提となるため、適用対象となる会社は限定的とみられる(2017年1月6日のニュース IFRS適用会社を買収でも、親会社は日本基準のままでOKに 参照)。 |
2017年4月1日開始事業年度から適用(早期適用可能) |
次に、現在開発中の会計基準(開発が未着手のものは除く)は下表のとおりとなっている。
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名称等 |
改正される内容等(予定) |
状況 |
適用時期等(予定) |
留意点
(◎は影響大と予想
されるもの) |
| ① |
収益認識に
関する会計基準 |
収益認識に関する包括的な会計基準
※2015年3月25日のニュース 収益認識会計の導入で影響を受ける業種は? 参照 |
開発中 |
2018年1月1日以後開始する事業年度に適用が可能となることを念頭に置き、2017年6月までに公開草案の公表を目標とする。 |
◎全ての会社に影響する可能性がある。IFRSと整合的な会計基準となれば、日本基準では認められていた収益認識基準が認められなくなる可能性もあるため留意が必要。 |
| ② |
税効果会計に
関する指針 |
税効果会計に関する表示、開示等 |
開発中 |
未定 |
◎全ての会社に影響がある可能性がある。税効果会計の開示が増える予定。 |
| ③ |
一括取得型による自社株式取得取引に係る会計処理に関する指針 |
一括取得型による自社株式取得取引(ASR:Accelerated Share Repurchase)の会計処理
※2014年11月27日の【新用語・難解用語辞典】加速型自社株買い 参照
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開発中 |
未定 |
ASR取引を行う会社にのみ影響。 |
| ④ |
権利確定条件付きで従業員等に有償で発行される新株予約権の企業における会計処理に関する指針 |
権利確定条件付きで従業員等に有償で発行される新株予約権の企業における会計処理
※2017年1月18日のニュース 有償ストックオプション、費用計上が求められるのはいつから? 参照
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開発中 |
未定 |
権利確定条件付きで従業員等に有償で発行される新株予約権を発行予定の会社は注意。 |
| ⑤ |
公共施設等運営権に係る会計処理に関する指針
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プライベート・ファイナンス・イニシアティブ(PFI)事業における公共施設等運営権に係る会計処理 |
公開草案(2016年12月) |
2017年4月または5月に最終化することが目標。 |
対象会社は限られ、影響は限定的。 |
収益認識に関する包括的な会計基準 : どのような場合に収益を認識するのかなど収益認識の具体的な要件を定めた文字通り包括的な収益計上基準のこと。
一括取得型による自社株式取得 : 通常、自社株は株式市場を通じて購入するため、会社が望む株式数を取得するには数回を要する。これに対し、投資銀行等を介して大量かつ一気に自社株買いを行うのが「一括取得型による自社株式取得取引(ASR:Accelerated Share Repurchase)」である。「加速度型自社株買い」とも言われる。自社株買いの規模が大きい分、株式市場に対しては強いメッセージとなり、株価向上につながりやすい。
上の表にも示したとおり、2018年3月期以後に適用される会計基準の中で影響が大きいと予想されるのは、①の「収益認識に関する会計基準」と②の「税効果会計に関する指針」の二つだ。
①の「収益認識に関する会計基準」は、日本には収益認識に関する包括的な会計基準がないことから開発が進められている。問題は、IFRSの収益認識基準と整合した会計基準が導入される公算が大きいことだ。収益認識基準として日本基準で認められている出荷基準が、IFRSでは業種によっては認められないため、IFRS任意適用会社では納品基準または検収基準への会計方針の変更が多く行われている。また、日本基準では、代理人としての取引(仲介取引)について、P/Lで売上高と売上原価を総額表示することが実務慣行として容認されているが、IFRSでは純額表示、すなわちP/Lに売上高と売上原価の差額のみを表示する。IFRSを適用した総合商社などでは、売上と売上原価が激減した(利益には影響なし)。出荷基準を採用している企業や、代理人としての取引を総額表示している企業は今後の動向を注視する必要がある。
出荷基準 : 商品や製品を出荷した日に売上を計上する会計方針
納品基準 : 商品や製品を得意先に納品した時点で売上を計上する会計方針
検収基準 : 得意先が商品や製品を検収した時点で売上を計上する会計方針
代理人 : IFRS第15号では、「財またはサービスを顧客に移転する前に、その財またはサービスの支配を獲得していない場合」には、本人ではなく「代理人」として取扱う」こととされ、この場合、手数料部分のみしか売上に計上できない(収益の純額表示)。例えばテナントに場所を貸しているに過ぎない百貨店はこの「代理人」に該当する可能性が高く、代理人に該当すると売上には「テナントから受領する手数料相当額」しか計上できなくなる。利益という点では影響はないものの、売上高は総額表示してきた従来の売上高よりも大きく減少することになる。
②の「税効果会計に関する指針」では、税効果会計関係の注記の拡充が予定されている。開示項目が改正されれば、連結パッケージの見直しなどによるコストの発生が予想される。
連結パッケージ: 連結財務諸表の作成に備えて、親会社が連結子会社等に提供を求める一連の財務等の報告データの総称