<解説>
外国公務員贈賄規制の運用強化は世界の潮流
近年、世界各国で外国公務員に対する贈賄防止規制の運用が強化されています。現在のところ、最も積極的に公務員贈賄・腐敗行為を摘発しているのが米国であり、罰金も巨額化しています。
米国FCPA (Foreign Corrupt Practices Act:海外腐敗行為防止法)の執行状況は
こちら
米国の動きは他国にも波及し、贈賄行為に厳しい姿勢を示す国が増えています。日本企業が海外での事業において贈賄に関与した場合に、法令違反として摘発・処罰されるリスクは急速に高まっていると言えるでしょう。
日本企業に影響が大きい主要な外国公務員贈賄規制
【米国のFCPA】
米国は、ロッキード事件を契機に行われた米国証券取引委員会の調査で判明した多数の米国企業による外国の公務員、政治家、政党への贈賄に歯止めをかけ、米国企業の誠実性に対する公衆の信頼を回復するため、1997年に外国(米国外)公務員に対する商業目的での贈賄行為を違法とするFCPA(Foreign Corrupt Practices Act:海外腐敗行為防止法)を制定しました。その一方で、米国企業が海外市場で不利にならないよう、他国の企業に対しても贈賄防止措置が必要であると主張し、国連やOECDの場で各国に取組みを要請しました。
FCPAには、同法に違反した企業に200万米ドル以下の罰金、個人には5年以下の禁固刑もしくは25万米ドル以下の罰金またはその両方を科す罰則規定が置かれています。また、これらの罰金に代えて、違法行為で得た利益または被害者が被った損失の2倍までの罰金を科すこともあります。
適用対象は、米国上場企業、米国企業および米国人、外国企業および外国人(米国内で贈賄行為の一部が行われた場合)で、対象地域は米国内外となります。したがって、日本企業であっても、次のような場合にはFCPAに基づき摘発を受ける可能性があります。
・ニューヨーク証券取引所やNASDAQに上場している日本企業やその子会社が外国公務員に贈賄した場合
・日本企業の米国現地法人が外国公務員に贈賄した場合
・外国公務員への賄賂の送金が米国の銀行を通じて行なわれたり、米国への出張者が米国内で郵便・電話・インターネット等で賄賂の決済を行なったりした場合
【経済協力開発機構(OECD)の外国公務員贈賄防止条約】
締約国において外国公務員贈賄罪の導入を求める「国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約(OECD Convention on Combating Bribery of Foreign Public Officials in International Business Transactions)が1999年2月に発効しています。
締約国 : 条約や議定書に批准した国のこと
【国連の腐敗防止条約】
2003年10月に国連腐敗防止条約(United Nations Convention against Corruption)が成立しています。この条約は、締約国に対し、①腐敗行為、特に犯罪収益のマネーロンダリング防止措置、②外国公務員に対する贈賄罪の導入、③腐敗に対する捜査・訴追の国際協力、④没収財産の返還を求める内容となっています。
【日本の不正競争防止法】
日本においても、上記のOECD条約の国内担保措置として、1998年の不正競争防止法改正(1999年2月施行)により外国公務員贈賄罪(*)が導入されました。違反者は「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金」、またはこれが併科され、法人も「3億円以下の罰金」に処せられます。
* 不正競争防止法では、「何人も、外国公務員等に対し、国際的な商取引に関して営業上の不正の利益を得るために、その外国公務員等に、その職務に関する行為をさせ若しくはさせないこと、又はその地位を利用して他の外国公務員等にその職務に関する行為をさせ若しくはさせないようにあっせんをさせることを目的として、金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をしてはならない。」(第18条第1項)と規定されています。
日本の外国公務員贈賄罪は、上述した米国のFCPAの贈賄禁止条項に類似していますが、摘発の事例は多くありません。
【英国のUKBA】
英国では、2011年7月に贈収賄法(UKBA:Bribery Act 2010)が施行されています。FCPAと重なる部分が多くありますが、①贈賄側だけではなく収賄側も適用対象、②外国公務員だけでなく民間人への賄賂も禁止、③英国で事業展開していれば適用対象、④英国以外での贈賄行為も適用対象、⑤罰金額の上限がない、などの点において、FCPAよりも厳しい法律であるとの評価があります。その一方で、実際のUKBAの執行可能性はFCPAに比べて極めて低いのではないかとの見方もあります。
オリンパスでは700億円を超える罰金も
大手精密機器メーカーのオリンパス株式会社は2016年3月2日、同社の米国子会社が行なった米国医療事業に関して、米国子会社が「米国反キックバック法及び米国虚偽請求取締法」に基づく罰金及び制裁金として612百万米ドル(約704億円)、利子約11.2百万米ドル(約13億円)を、また、ブラジル子会社等が行なった医療事業関連活動に関して、「FCPA」に基づく罰金として22.8百万米ドル(約26億円)を、それぞれ米国政府に支払うことに同意したことを公表しました。
マスコミ報道によれば、米国と中南米での内視鏡の販売に伴い医師向けトレーニングを行なった際の旅費・食費・娯楽費の処理が賄賂として問題にされたとのことです。
外部コンサルタントを通じた間接贈賄も処分の対象に
FCPAなど各国の外国公務員贈賄防止法では、外国公務員に賄賂を直接支払う(直接贈賄)のはもちろんのこと、エージェントやコンサルタントなどの第三者を通じて間接的に支払う賄賂(間接贈賄)も禁じています。間接贈賄を行なった者は、不正の支払が行なわれた可能性を知っていたり意図的に無視したりした場合のほか、賄賂を想定させるような事情があるにもかかわらずそれを放置した場合にも賄賂禁止規定違反とされ、罪に問われることになります。
このため、海外事業を展開する企業においては、直接贈賄の防止は当然のこととして、間接の贈賄を防止するために適切な措置を講じることも求められています。賄賂の問題が頻発している国・地域でビジネスを展開する場合には特に注意が必要ですし、外国公務員から推薦されたエージェントやエージェント自身がことさら「コネ」を強調する場合なども要注意です。
ビジネスパートナーの管理としては、①取引の開始時や更新時におけるパートナーの審査・監査、②取引契約への贈賄禁止条項の挿入、③実質的な役務を伴わない斡旋・仲介・口利きなどイレギュラーな行為や内容不明の請求に対する支払いの禁止、などが考えられます。
さて、以上の解説をご覧いただければ、どれがGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。
<正解>
経理担当取締役C:「でも、契約書を見る限り、コンサルタントには病院関係者との折衝など業務を丸投げするようですね。信用できるコンサルタントとのことですが、仮に当社が支払うコンサルタント料を原資としてコンサルタントから病院関係者に賄賂が渡ってしまった場合でも、当社は贈賄の当事者ではないと言い切ることができるのでしょうか。念のため、契約書の内容やプロジェクトの推進にあたっての留意点などを法務部門や現地の弁護士事務所に確認してから判断するべきだと思います。」
(コメント:たとえ規制そのものには詳しくなくても、コンサルタントを経由して行われる間接贈賄を心配している点で、リスクを的確に捉えていると言えます。法務部門や弁護士に相談した後で判断するとした結論もGOODです。)
米国事業本部担当取締役A:「プロジェクトを成功させるために、是非このコンサルタントと契約したい。現地では初めて利用する個人のコンサルタントとのことですが、彼について調査を行った米国駐在員事務所からは、コンサルタントとしての実績も豊富で信用のおける人物であるとの報告を受けています。前払いする10万ドルは当面のコンサルティングの必要経費とのことです。」
(コメント:報告を鵜呑みにしており、リスクに対する感度が低いと言わざるを得ませんので、BAD発言です。捉えようによっては、担当部門の責任者が、贈賄が行われるリスクを意図的に隠しているとの誤解すら受けかねません。)
医療機器事業担当取締役B:「総額1000万ドルの案件で20万ドルのコンサルタント料ということはフィーは2%相当ですから、悪くない条件です。今回は国立病院との商談になるので、コンサルタントをかませることによって贈賄リスクを回避することもできます。稟議書にコンサルタント契約も添付されていますし、承認してもよいのでは?」
(コメント:コンサルタント料の妥当性を気にしているところはGOODですが、贈賄リスクを勘違いしている(間接贈賄にまで気が回っていない)ところがBADです。また、稟議の承認の可否は、契約書を細部の内容まで読み込んだうえで判断すべきでした。)