2017/01/26 IFRS導入議論において役員が持つべき視点(会員限定)

自社の成長にM&Aを活用しようという企業では、のれんが非償却となるIFRS(2016年7月26日のニュース「のれんを償却すれば赤字に転落する企業も」参照)を導入するか否かが役員会等で話題に上ることもあろう。

その判断において役員が持つべき視点は、一言で言えば「IFRS導入によるコストを上回るベネフィットがあるか」ということに尽きる。冒頭で述べたとおり、M&Aに積極的な経営陣の下では、IFRSの導入は大きなメリットとなるであろう。一方、コスト面では、IFRS導入に伴うコンサルティング会社や監査法人への報酬、連結パッケージの見直しなどのシステムコストなどが増加する。また、IFRSの導入作業は、従来からの日本基準による決算業務と並行して進めることになる。役員としては、従業員の負担増加も忘れてはならない。

連結パッケージ : 連結財務諸表の作成に備えて、親会社が連結子会社等に提供を求める一連の財務等の報告データの総称

IFRS導入後も負担は続く。一つは「日本基準から離れられない」ということである。有価証券報告書の「業績等の概要」では、日本基準の連結財務諸表との主な相違点を開示する“並行開示”を行わなければならない。このため、IFRSを導入した場合には、導入後も日本基準とIFRSの連結財務諸表との間の主要な相違を定量的に把握し続ける必要がある。

もう一つは単体財務諸表である。IFRSは連結財務諸表に適用されるが、金融商品取引法は、IFRSに基づき連結財務諸表を作成している会社に対しても、日本基準に基づく単体財務諸表の作成を求めている。これは、仮にIFRSに基づいて単体財務諸表作成することが許されるとなると、配当等に関する会社法上の財源規制や課税上の取扱いなど、他の制度を大きく改正しなければならなくなるからだ。つまり、IFRSを導入している会社は、IFRSに基づく単体財務諸表から直接的にIFRS連結財務諸表を作成しているのではなく、まずは日本基準に基づく単体財務諸表を作成し、それに調整を加えたうえでIFRS連結財務諸表を作成しているわけであり、その事務負担は大きい。これは、連結財務諸表を作成していない単体決算の会社がIFRSを導入するケースを考えるとより分かりやすい。財務諸表等規則129条では、単体決算の会社は「日本基準の財務諸表のほか、IFRSによって財務諸表を作成することができる」とされている。すなわち、単体決算の会社がIFRSを導入する場合、日本基準の財務諸表とIFRSの財務諸表の両方を作らなければならないということだ。このため、単体決算の会社がIFRSを導入することはないと言われてきたが、昨年(2016年)には、㈱ベイカレント・コンサルティングが上場時にIFRSに基づく単体財務諸表を開示している(2016年7月28日提出の有価証券届出書)。日本基準の財務諸表40ページに加えて、IFRSの財務諸表も40ページに及ぶ。同社は事務負担をはじめとする大きなコストを負ったものと思われるが、同社の財政状態計算書を見ると、総資産の75%を占める191億円(日本基準による年間償却額は約10億円)ののれんが計上されている。同社の場合、のれんを償却しなくてよいというIFRSのベネフィットが導入に伴うコストを超えたということだろう。

もっとも、㈱ベイカレント・コンサルティングのケースは特殊であり、「IFRS導入によるコストを上回るベネフィットがある」と言い切れる企業はそれほど多くないのが現実だろう。それは、現時点でのIFRS導入企業数に表れている。日本でIFRSに基づいて連結財務諸表を作成することができるようになったのは平成22年3月期からだが、平成28年12月24日時点でIFRSを導入、あるいは導入予定の上場会社は126社にとどまっている(東証「IFRS適用済・適用決定会社一覧」参照)。平成25年6月には、自民党の金融調査会・企業会計小委員会が、平成28年末までに約300社がIFRSを採用するよう金融庁、経済界に要請したとされるが、この目標の半分にも満たない。

「『日本再興戦略』改訂2015」にも「IFRSの任意適用企業の更なる拡大促進」が盛り込まれたことからも分かるように、政府は引き続きIFRS導入会社の拡大を目指している。政府(金融庁)がIFRS採用会社を拡大したい理由は、現在、金融庁から議長を出しているIFRS財団モニタリング・ボードのメンバーの議席を維持したいという思惑があると言われている。これは、ボードメンバーの要件の1つに、「実際にIFRSが顕著に適用される状態になっていること、もしくは、妥当な期間でそのような状況へ移行することをすでに決定していること」というものがあるためだ。

理由はどうあれ、IFRS導入会社を増やすためには、会社の負担が減るような制度改正が必要だ。平成28年4月に金融審議会が公表した「ディスクロージャーワーキング・グループ報告-建設的な対話の促進に向けて-」においても「単体財務諸表におけるIFRSの任意適用」が盛り込まれたように(14ページ参照)、単体財務諸表へのIFRS適用がその手段の一つであるのは間違いない。それまではIFRS導入を決断できない企業も多そうだ。

2017/01/25 非財務情報の信憑性を高める方法

RIDEAL株式会社 代表取締役 三代 まり子

財務情報だけでなく、ビジョンや戦略といった企業価値創造につながる非財務情報も合わせて提供する統合報告書を作成する企業が増えている。しかし、単にこれらの情報を網羅的にカバーして開示しただけのものを「統合報告書」と称しているケースも見受けられる。統合報告書では、各情報のピースが「どのようにつながっているか」が理解できることが求められる。そのためには、例えば売上や利益といった財務情報と、それをもたらすこととなった「戦略」「ビジネスモデル」「強み」といった非財務情報の間にある“因果関係”を明らかにすることが望ましい。

このような特性を持つ統合報告書では、必然的に非財務情報の割合が従来型の(統合報告書でない)年次報告書に比べて大きくなる。特に将来の戦略やビジネスモデルのような非財務情報は、数値よりも言葉による説明が多くならざるをえない。そして、言葉での説明が多くなればなるほど、どうしてもその内容の信憑性が問われることになる。非財務情報の信憑性の確保は、統合報告書を作成する企業にとって悩ましい問題であり、同時に、企業と投資家の対話においても重要な課題となる。

非財務情報の信憑性を高めるために役立つのが、・・・

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2017/01/25 非財務情報の信憑性を高める方法(会員限定)

RIDEAL株式会社 代表取締役 三代 まり子

財務情報だけでなく、ビジョンや戦略といった企業価値創造につながる非財務情報も合わせて提供する統合報告書を作成する企業が増えている。しかし、単にこれらの情報を網羅的にカバーして開示しただけのものを「統合報告書」と称しているケースも見受けられる。統合報告書では、各情報のピースが「どのようにつながっているか」が理解できることが求められる。そのためには、例えば売上や利益といった財務情報と、それをもたらすこととなった「戦略」「ビジネスモデル」「強み」といった非財務情報の間にある“因果関係”を明らかにすることが望ましい。

このような特性を持つ統合報告書では、必然的に非財務情報の割合が従来型の(統合報告書でない)年次報告書に比べて大きくなる。特に将来の戦略やビジネスモデルのような非財務情報は、数値よりも言葉による説明が多くならざるをえない。そして、言葉での説明が多くなればなるほど、どうしてもその内容の信憑性が問われることになる。非財務情報の信憑性の確保は、統合報告書を作成する企業にとって悩ましい問題であり、同時に、企業と投資家の対話においても重要な課題となる。

非財務情報の信憑性を高めるために役立つのが、「定量化」された情報だ。一般的には、例えば「顧客満足度」といった非財務のKPI(Key Performance Indicators=主要業績評価指標)が用いられることになる。もっとも、ただ定量化されていればいいというわけではない。非財務情報の信憑性を高めるためには、それが「戦略に紐づいた意味のある非財務KPI」であることが必須である。

例えば、多国籍の鉱業・資源グループのリオティント社の年次報告書(2015年版)では、7つに絞ったKPIがあり、その一つとして「すべての事故発生頻度」を開示している。このKPIと戦略との関連性について、「従業員の安全性を確保することは、我々の行う事業の中核となる。我々のゴールは事故率ゼロであり、とりわけ、致死率ゼロを目指している。我々は、強い安全文化の強化と安全性のリーダーシップの改善にコミットしている。」と明記している。他のKPIについても、それぞれに「戦略との関連性」「パフォーマンス(過去5期間分)と振り返り」「KPIの計算方法」などが記載されている。また7つのKPIのうち4つは、役員報酬の長期インセンティブを決定するための指標として使われており、ドルマーク($)のアイコンを使ってその関連性を表現し、更に詳細な役員報酬ページにもリンクを貼るなど、報告書内における情報のつながりを担保するための工夫がなされている。統合報告書は情報量が多ければよいというわけではない。リオティント社のように、経営の意思決定において重要なKPIのみを厳選し、それぞれのKPIについて文章やグラフなどによるロジカルな説明がなされていると、投資家が情報間のつながりを把握しやすい。情報間のつながりを把握することで企業価値全体に対する理解が深まれば、投資家は「信頼性の高い情報を提供している」と判断する。

しかし、統合報告書を作成している企業の中でも、戦略との関係性が見えにくい非財務KPIを使っているケースが散見される。非財務KPIに正解はないし、完璧なものを設定することを目指す必要はない。ただ、あまり意味のない情報を開示するために、企業の限られた人材や時間といったリソースを割くのは無駄である。また、情報利用者にとって価値の低い情報を開示すれば、その会社へ不信感を増すという結果を招くということも念頭に置かなければならない。

いずれにせよ、統合報告書に非財務KPIを開示しておけば、投資家との対話において、当該KPIが投資家にとって納得感があるかどうかを確認することもできるだろう。もし投資家側が十分に納得しないのであればその要因を分析し、その結果を踏まえ、より妥当性の高い非財務KPIを検討・設定する必要がある。これにより統合報告書の質が向上し、対話も進化してくはずだ。

2017/01/24 従業員重視の独CGコード、 大企業の不祥事続発で「株主重視」へ改訂

ウイリス・タワーズワトソン
組織人事部門シニアコンサルタント
高岡明日香

日本のコーポレートガバナンス・コードは英国コーポレートガバナンス・コードを手本にしたことから両者には類似点が多いが、若干異なるのが、どこに軸足を置くのかという点だ。英国版コードの序文2には「取締役会がそれぞれの企業のガバナンスに責任を負う。ガバナンスにおける株主の役割は、取締役と監査役を指名し、適切なガバナンスを担保することである。(中略)取締役会の活動は、法令、規則、株主総会における株主に従うものとする」とあり、明確に株主視点のガバナンスに主軸があるのに対し、日本版コードでは、「上場会社は、株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行うとともに、株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行うべきである」(基本原則1)として英国版同様に株主を重視しつつも、「上場会社は、(中略)従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダー(中略)との適切な協働に努めるべきである」(基本原則2)とし、従業員等への配慮も求めている。

同様に、「株主」「従業員」両方を重視しているのがドイツのコーポレートガバナンス・コードだ。ドイツ版コードでは、その序文において「本コードの目的は、ドイツの上場企業の経営・監督に対する国内外の投資家、顧客、従業員、一般社会からの信頼を高めることにある。本コードは、社会的市場経済の理念に沿って企業の存続と持続的な価値創造を確保するため(企業利益)、執行役会と監査役会の義務を明確にするものである」としており、株主のみに拠らずステークホルダー(特に従業員)を重視している点と、社会的市場経済の理念に沿っている点が特徴的である。これらの点からすると、日本のコーポレートガバナンス・コードはドイツ版から一定の影響を受けたと言える。

こうした中、ドイツのコーポレートガバナンス・コードが間もなく改訂される。・・・

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2017/01/24 従業員重視の独CGコード、 大企業の不祥事続発で「株主重視」へ改訂(会員限定)

ウイリス・タワーズワトソン
組織人事部門シニアコンサルタント
高岡明日香

日本のコーポレートガバナンス・コードは英国コーポレートガバナンス・コードを手本にしたことから両者には類似点が多いが、若干異なるのが、どこに軸足を置くのかという点だ。英国版コードの序文2には「取締役会がそれぞれの企業のガバナンスに責任を負う。ガバナンスにおける株主の役割は、取締役と監査役を指名し、適切なガバナンスを担保することである。(中略)取締役会の活動は、法令、規則、株主総会における株主に従うものとする」とあり、明確に株主視点のガバナンスに主軸があるのに対し、日本版コードでは、「上場会社は、株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行うとともに、株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行うべきである」(基本原則1)として英国版同様に株主を重視しつつも、「上場会社は、(中略)従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダー(中略)との適切な協働に努めるべきである」(基本原則2)とし、従業員等への配慮も求めている。

同様に、「株主」「従業員」両方を重視しているのがドイツのコーポレートガバナンス・コードだ。ドイツ版コードでは、その序文において「本コードの目的は、ドイツの上場企業の経営・監督に対する国内外の投資家、顧客、従業員、一般社会からの信頼を高めることにある。本コードは、社会的市場経済の理念に沿って企業の存続と持続的な価値創造を確保するため(企業利益)、執行役会と監査役会の義務を明確にするものである」としており、株主のみに拠らずステークホルダー(特に従業員)を重視している点と、社会的市場経済の理念に沿っている点が特徴的である。これらの点からすると、日本のコーポレートガバナンス・コードはドイツ版から一定の影響を受けたと言える。

こうした中、ドイツのコーポレートガバナンス・コードが間もなく改訂される。戦後一貫して社会的市場経済を標榜し、米英的な自由主義とは一線を画してきたドイツだが、ここに来て、ドイツ版コードは“米英的”な株主重視の要素を強めることになりそうだ。2016年11月から始まったドイツ版コードの改訂議論だが、特段の異議が提示されない限り、今年2017年2月には改訂版が公表される見通しとなっている。

Social Market Economy : 自由市場経済のメリットを福祉国家と結びつける思想で、「自由競争に基づいた自由な創意工夫を、経済的効率性に裏打ちされた社会福祉的進歩へつなげること」を目的としている。ドイツの国民経済学者アルフレート・ミュラー氏により提唱され、ドイツとオーストリアの経済構造を表現する際にしばしば使われる。英語ではSocial Market Economyと訳される。

改訂の背景には、ドイツの「顔」といえる大企業の相次ぐ不祥事があることは想像に難くない。具体的には、2015年に相次いで起きたフォルクスワーゲン社(以下VW社)とドイツ金融最大手ドイツ銀行である。VW社は、排ガス規制を逃れるため、ディーゼル車に排ガス試験での不正を可能にするソフトウェアを搭載するという“排ガス不正データ問題”を起こしたが、その責任をとる形で、2015年4月にはピエヒ監査役会会長が、5ヵ月後の9月にはヴィンターコーン社長が辞職した(更に2017年1月には、この問題を巡り虚偽の報告を行った詐欺の疑いで、米連邦捜査局(FBI)がVW社米法人幹部一人を逮捕)。他方、ドイツ銀行では、過去の不正行為への法的費用やリストラ費用がかさみ、また、組織ぐるみの脱税疑惑といったスキャンダルが相次いだ。加えて、金融危機の一因となった米国での住宅ローン担保証券(RMBS)の不正販売を巡り、米司法省から多額の和解金を支払うよう求められ、経営不安説が高まった。2015年の決算では過去最大の赤字を出し、共同最高経営責任者のフィッチェン氏とジェイン氏が揃って辞任した。

住宅ローン担保証券 : 住宅ローンを証券化したもの。日本では、民間の銀行等が貸し出した住宅ローン債権を住宅金融支援機構が買い取って証券化し、機関投資家向けに発行する「フラット35」が知られている。RMBSとは、「Residential Mortgage-Backed Securities」の略。

かつてない規模で相次いだドイツを代表する企業の不祥事を受け、企業のコンプライアンス強化、透明性確保に対する社会的要請が高まり、それが今回のコーポレートガバナンス・コードの改訂を後押ししたことは論を待たない。主要な改訂は下記3項目に集約される。

① 社会的市場経済の原則に倫理的に沿ったガバナンスの強化
これまでの「社会的市場経済」の考え方をベースにした改訂で、正しいコーポレートガバナンスとは、企業の持続的価値創造に寄与するのみならず、社会的市場経済の理念に倫理的に従うべきであるということを主旨とするもの。「社会的市場経済」と言っても詰まるところは市場経済であるため、企業は基本的には競争原理に基づいて事業を進めていくべきだが、一方で、社会的な公正という視点、つまり社会の秩序やバランスを重視しようという考え方である。この改訂により、企業は法的な合法性を求めるだけでなく、行動や決定の妥当性を一層問われることになる。

② 株主によるガバナンスの評価における透明性の強化
昨今グローバル市場においては、ガバナンス領域における機関投資家の果たす役割がますます強調されている。そこで、ドイツのコーポレートガバナンス・コードにおいても、企業の持続的価値創造に向け、一貫性かつ透明性のあるフレームワークを作るために、機関投資家が所有権を行使し、より積極的に貢献すべきであるとする。

一方、企業に対しても、透明性の強化が良いガバナンスの要諦であるとの考え方から、「各企業が自社のコンプライアンス管理システムを透明化すべきである」とし(セクション4.1.3)、その一環として、従業員と第三者機関は匿名で内部告発できるパスを与えられるべきとする。

③ 監査役会議長と投資家とのコミュニケーション強化の推進
ドイツでは、実態として多くの企業において、監査役会議長と株主間のディスカッションが頻繁に行われており、それはガバナンスの成功例として認識されている。これを受け本改訂では、監査役会議長は、適切な議案について、投資家との議論を用意すべきであるとする。対象議案の内容は、監査役会のみが責任を負い決定する。これは、議案の内容に対する執行役の影響を排除するためである。ただし、監査役会と執行役会が共同で決定する類の議案については、株主との議論は執行役会のみ、或いは執行役会と監査役会議長が共同で行うべきであるとする(セクション5.2.(2))。

上述のように、ドイツのコーポレートガバナンス・コードは、株主を主体にする米英のそれとは一線を画してきたが、世界的潮流としての機関投資家の役割強化や、特に足元の独企業の不祥事に端を発した透明性確保への社会的要請の高まりを受け、ここにきて「株主重視」に踏み込んだ改訂が行われようとしている。上記①のとおり、大命題としての「社会的市場経済の原則に従う」という理念は改訂の冒頭で再確認しつつも、持続的企業価値創造のために、これまでのステークホルダー重視の立場に加えて、株主と投資家の視点も包含する方向へと舵を切った改訂と言えるだろう。日本のコーポレートガバナンス・コードも、金融庁で開催されている「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」などにおける議論を踏まえ、近い将来改訂が行われることが予想されるが、ドイツが「株主重視」に舵を切ったことがどのような影響を及ぼすのか、注目される。

2017/01/23 「同一労働同一賃金ガイドライン案」の正しい読み方

昨年(2016)末、政府の「働き方改革実現会議」において「同一労働同一賃金に関するガイドライン」の政府案が提示されたが、経営者としてはこれをどう読んだらよいのだろうか。

今般のガイドライン案は「正規と非正規との格差是正」を中心に置いたものであり、正規労働者(正社員)と非正規労働者(パートタイマー、有期労働者、派遣労働者等)との間に格差がある事例を具体的に挙げ、「問題とならない例(その格差に合理性があるケース)」と「問題となる例(その格差が不合理であるケース)」とに分類して示していることが特徴となっている。

基本的な方向性としては、“同じ企業”において「非正規労働者であることを理由として差別待遇をしてはならない」という一点に集約できる。当初、一部の経営者からは・・・

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2017/01/23 「同一労働同一賃金ガイドライン案」の正しい読み方(会員限定)

昨年(2016)末、政府の「働き方改革実現会議」において「同一労働同一賃金に関するガイドライン」の政府案が提示されたが、経営者としてはこれをどう読んだらよいのだろうか。

今般のガイドライン案は「正規と非正規との格差是正」を中心に置いたものであり、正規労働者(正社員)と非正規労働者(パートタイマー、有期労働者、派遣労働者等)との間に格差がある事例を具体的に挙げ、「問題とならない例(その格差に合理性があるケース)」と「問題となる例(その格差が不合理であるケース)」とに分類して示していることが特徴となっている。

基本的な方向性としては、“同じ企業”において「非正規労働者であることを理由として差別待遇をしてはならない」という一点に集約できる。当初、一部の経営者からは「同一労働同一賃金」を字句どおりにとらえて「企業が異なっても、同じ仕事なら同じ賃金を払わなければならなくなるのではないか」「年功型賃金も否定されるのでないか」との懸念の声も聞かれたが、それは一応回避された格好になった。ガイドライン案では、各企業において「職業経験・能力」「業績・成果」や「勤続年数」によって賃金に格差を設けることを是認したうえで、正規労働者と非正規労働者を同一に扱うべきこととしているからだ。しかし、これは年功制そのものは否定していなくても、非正規労働者も正規労働者と同じ賃金テーブルで(逆に言えば、正規労働者も非正規労働者と同じ賃金テーブルで)賃金を支給し、同じ基準で昇給させなければならないことを意味する。例えば、「正社員には定期的に職務内容や勤務地変更がある」等の合理的な理由があれば賃金等の待遇に差を設けても問題にならないとされているが、そういった理由が明確に説明できない限りは、差別してはならないことになる。

これまで多くの日本企業では、非正規労働者に対しては「賞与を支給しない」「昇給がない」「研修を実施しない」「福利厚生制度を利用できない」といった対応をとってきたが、今後は、こうした格差を設ける理由が合理的に説明できない場合には、その格差は解消しなければならないことになる。また、正社員間においても、上に挙げた「職業経験・能力」や「業績・成果」「勤続年数」による賃金格差について合理的な理由が説明できなければ格差を設けることは許されないため、雇用形態の違いによってのみ賃金体系等を分けてきた会社においては、賃金体系等を大幅に見直さなければならなくなる。

もっとも、今般のガイドライン案は、いわば、会社側が「適切な格差である」とエクスキューズできる例を具体的に用意してくれたと読むこともできるため、企業としてはこれを活用しない手はないだろう。ガイドライン案は、これから議論される労働契約法やパートタイム労働法、労働者派遣法の改正法の施行と同時に効力を持つことになるが、今回のことをきっかけとして、自社の正規労働者と非正規労働者との間に不合理な格差がないかを自主的に点検するとともに、自社の社員に対して待遇に関する理解促進に努め、納得感を高めていくことが望まれる。

2017/01/20 企業年金に適したスチュワードシップ・コードのあり方とは?

野村総合研究所
上級研究員  三井千絵

機関投資家に投資先企業に対するモニタリングや建設的な対話(エンゲージメント)を求めるスチュワードシップ・コードの導入(2014年2月~)から間もなく3年が経過するが、今やほとんどの運用機関がその受入れを表明している(2016年12月27日現在で受入れを表明している機関投資家のリストはこちら)。一方で、同コードの導入時から、「企業にESGへの対応を促すのもエンゲージメントを求めるのも、アセットオーナー(年金基金など)の理解がなければ実現は難しい」との指摘も聞かれる。実際、たとえアセットマネージャー(運用会社)がスチュワードシップ・コードを受け入れても、アセットマネージャーの一存で運用方針を変えたり、企業とガバナンスの改善に関する対話を増やしたりといったことは本来はできない。アセットマネージャーに資金の運用を委託しているのはアセットオーナーであり、その意向を踏まえる必要があるからだ。

こうした中、ここ最近、・・・

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2017/01/20 企業年金に適したスチュワードシップ・コードのあり方とは?(会員限定)

野村総合研究所
上級研究員  三井千絵

機関投資家に投資先企業に対するモニタリングや建設的な対話(エンゲージメント)を求めるスチュワードシップ・コードの導入(2014年2月~)から間もなく3年が経過するが、今やほとんどの運用機関がその受入れを表明している(2016年12月27日現在で受入れを表明している機関投資家のリストはこちら)。一方で、同コードの導入時から、「企業にESGへの対応を促すのもエンゲージメントを求めるのも、アセットオーナー(年金基金など)の理解がなければ実現は難しい」との指摘も聞かれる。実際、たとえアセットマネージャー(運用会社)がスチュワードシップ・コードを受け入れても、アセットマネージャーの一存で運用方針を変えたり、企業とガバナンスの改善に関する対話を増やしたりといったことは本来はできない。アセットマネージャーに資金の運用を委託しているのはアセットオーナーであり、その意向を踏まえる必要があるからだ。

こうした中、ここ最近、特に企業年金のスチュワードシップ・コードへの対応が問われている。少子高齢化の時代、企業年金には長期の確実なリターンが必要なはずであり、スチュワードシップ・コードも本来そういった目的に向けた行動規範となることを目指しているはずだが、大型の公的年金はともかく、企業年金がスチュワードシップ・コードを理解し、受け入れている事例は、国内はもちろんのこと海外でも多くない。アセットオーナーの理解をどのように広げていくかは、国内外を問わず共通の課題となっている。昨年(2016年)6月に閣議決定された「日本再興戦略2016-第4次産業革命に向けて-」に、「年金基金等において、スチュワードシップ・コードの受入れ促進などの取組みを通じて、老後所得の充実を図る」という提言が盛り込まれたのにはこうした背景がある。

ただ、企業年金がスチュワードシップ・コードを受け入れるうえでは課題も多い。企業年金連合会は、日本再興戦略2016の提言を受け、厚生労働省と共同で昨年9月に「スチュワードシップ検討会」を設置、厚生労働省、企業年金連合会のほか、企業年金関係者、学識経験者、機関投資家をメンバー、金融庁をオブザーバーとして「なぜ企業年金がアセットオーナーとしてスチュワードシップ・コードを受け入れたほうが良いのか」「それによってどういうメリットがあるのか」といった点について議論を重ねてきた。

第一回・二回会合では、GPIFや第一生命がスチュワードシップ・コードをどのようにとらえ、どのような活動を行っているかが報告され、そこでは両者から「スチュワードシップ・コードにのっとり運用会社が企業のガバナンスを向上させ、それによって企業の成長力に良い影響をあたえ、運用パフォーマンスも向上する」「こういったインベストメントチェーンの大元になっているのはアセットオーナーである」といった主張が展開されたが(GPIFの報告資料はこちら、第一生命の報告資料はこちら)、これに対し第三回検討会では、年金シニアプラン総合研究機構から、企業年金がスチュワードシップ・コードを受け入れる場合の課題が指摘されている。具体的には、「多くの年金基金にとって、コードを受け入れればそれに携わる人的コストなどの負担が伴うのではないか」「議決権行使に関与することに伴う母体企業との利益相反の問題をどうクリアするのか」「実態として、各基金が持つ議決権の割合が小さい」といったものである。また、「ファンド選択の自由を拘束する恐れ」という課題も指摘されている。これは、ファンドの中には、運用手法として短期志向や対話を重視しないものもあるため。同機構はそのようなファンドへの投資が制限されないよう配慮する必要性を訴えているわけだ。

GPIF : 年金積立金管理運用独立行政法人(Government Pension Investment Fund)。厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行う厚生労働省所管の独立行政法人。運用資産の規模が100兆円を優に超える世界最大の機関投資家である。
インベストメントチェーン : 顧客・受益者から投資先企業へと向かう投資資金の流れ

こうした議論を経て、企業年金連合会は昨年12月14日、これまでの議論の「論点整理」を公表し、それに対するパブリックコメントを募集した(1月16日まで)。論点整理では、スチュワードシップ・コードが目指すものを年金の投資リターンにつなげていくための基金の役割などを整理し説明するとともに、コード受入れの課題や留意点として、受託者責任(フィデューシャリー・デューティー)とスチュワードシップ責任の関係、利益相反、議決権行使、コードを受け入れるための体制やコストについてまとめている。さらに12月20日にはこれを企業年金基金に解説するためのセミナーまで開催する念の入れようだったが、アンケート調査によると、現時点でまだ7割の基金はコード受入れのメリットを感じていない。

この意見募集に対し幾つかの団体が意見を寄せたようだが、その一つが資産運用会社の実務者等が会員となっているスチュワードシップ研究会だ。スチュワードシップ研究会はその意見をHPに掲載している。スチュワードシップ研究会は、企業年金がアセットオーナーとしてスチュワードシップ責任を果たすこと自体は歓迎すべきことだとする一方で、年金基金および受託運用機関(アセットマネージャー)双方の体制が十分整わないところで形だけの“受入れ”をするとかえって事務負担やコストが増えるだけで、実効的なスチュワードシップ活動が妨げられる恐れもある、と問題提起している。また、実際に多くの企業年金ではそれに従事する人員も少なく、余分なコストをかけられない実情に触れ、海外の企業年金でも見られるように、コンサルタントなどが間に入るという選択肢があってもよいのではないかと述べている。同研究会は、年金基金が運用会社をモニタリングすることは望ましいが、それは年金基金にとってかなりの負担になり、もし形式だけの報告や評価になってしまうと、スチュワードシップ活動を通じて年金基金の運用成績を向上させるという本来の目的が損なわれる恐れもある、と指摘し、企業年金にとってスチュワードシップ・コードを実効性のあるものにするためには、“実務的に可能な方法”を実際に実務を担う運用機関と年金基金でもっと検討を行ってから先に進むべき、と結んでいる。

また、このように企業年金によるスチュワードシップ・コードの受入れが進まないもう一つの理由として、そもそも現在のスチュワードシップ・コードがリターンに貢献するのか、という点で本来企業年金が背負っている責任に必ずしもフィットしているのかどうかわからない、ということが考えられる。

2013年からスタートした「日本再興戦略」で繰り返し求められている“企業の活性化”に向けて、年金基金には重要な役割がある。それは、従業員のケアだ。そもそも日本企業が戦後長きにわたり我が国の経済成長を支えることができたのは、従業員が長期的に一つの会社に留まり、技術の改革、世界中に販売できる製品開発に励んできたことが大きい。それを支えたのは、少なくとも一つの会社で定年まで働けば老後の豊かな暮らしが保証されていると信じていたからではないだろうか。しかし現在は、その仕組みが企業によっては失われたり、将来生活できるだけの年金が受け取れないのではないかという不安を抱かせる状況になっている。企業がどのような戦略をとっても最終的にそれを実現するのはそこで働く従業員である。また、企業が真に長期的な収益を見据え、かつESGを考慮した事業に取り組むことができるとすれば、それは全ての従業員が定年後の生活まで考えてその企業で長期的に働くことができる時だろう。

これを実現するうえでは、スチュワードシップ・コードが運用機関のモニタリングだけでなく、企業年金自らのスチュワードシップ活動、具体的には「年金受益者=従業員に対し誠実に行動すること」を求めるものであれば、非常に有益だと言える。例えば母体企業に何らかの短期的な問題が生じた場合、企業年金は従業員の将来の年金にとって良いことだけを考え、母体企業株式の売却あいは母体企業の将来の価値向上に資する議決権行使をいかなる制約もなく行うこと、また、それらを決断した企業年金の担当者が何の不利益も被らないことを保証する、といった役割をスチュワードシップ・コードが果たすことが考えられる。

今後、“強い年金基金”を持つ企業の従業員の勤務へのモチベーションが向上し、それが新たな企業価値の一つになる可能性もある。そのような状況を実現するためにも、“企業年金に適したスチュワードシップ・コード”はぜひ前向きに検討されるべきであるし、拙速な検討により形式的なものを作り出さないよう、しっかりとした議論が必要と言える。

2017/01/20 【特集】2017年度税制改正を踏まえたインセンティブ報酬設計のポイント

ウイリス・タワーズワトソン
経営者報酬部門 コンサルタント 小川 直人
03-3581-6786
naoto.ogawa@willistowerswatson.com

はじめに

2017年度税制改正大綱が与党より昨年(2016年)12月8日公表され、同月22日に閣議決定された。役員報酬については、コーポレートガバナンス強化が謳われる中で二年連続の税制改正となった。各企業からは「6月総会への付議を目指して制度改革を進めてきたが、制度設計の前提としてきた部分に変更があるのか」「自社の役員報酬の仕組みは税制が狙いとするところや方向性と足並みが揃っているのか、精査したい」といった声が聞こえてくる。

そこで本稿では、コーポレートガバナンスの文脈において検討されることになる「中長期のインセンティブ報酬」に焦点を当て、2017年度税制改正大綱の内容を踏まえた役員報酬制度の設計のポイントを整理したい。具体的には、まず中長期のインセンティブ報酬制度の類型を整理し、次にそれらの仕組みが2017年度税制改正大綱を受け、損金性という観点からどのような取扱いとなるのかを整理したい。その上で、あらためてインセンティブ報酬の制度設計において「損金性」というテーマがどのような優先順位を以て取り扱われるべきか、基本的な考え方を整理したい。

※なお、本稿は役員報酬の制度設計という観点から情報提供や考察を行うものであるため、個別具体的な税務上の助言は必ず税務の専門家に依頼されたい。

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