2016/12/14 在任時支給の信託型株式報酬が損金に、利益連動型のRSは損金算入不可(会員限定)

来年の株主総会でも役員報酬改革は大きなテーマの一つとなることが予想されるが、リストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式報酬)、信託型株式報酬、ストック・オプションなど複数の選択肢がある中で考慮に入れる必要があるのが税負担だ。実際、役員報酬に占めるインセンティブ報酬の割合が高い欧米企業では、「損金性」は役員報酬に関する方針を決定する上で重要な要素となっており、損金算入できない(=株主利益の棄損につながる)役員報酬制度を採用することの合理性を株主に対して説明すること困難となっている。

リストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式報酬) : Restricted Stock:一定期間の譲渡制限が付された株式報酬
損金 : 法人税計算の基礎となる法人所得を減らす性質の支出等のこと。損金は企業会計上の費用とおおむね一致するが、役員賞与や固定資産の減損損失など「損金には該当しない費用」もある。

こうした中、12月8日に公表された平成29年度税制改正大綱には、役員報酬に関する法人税の扱いを大幅に見直す内容が盛り込まれている(67ページ~参照)。

税制改正大綱の内容は経理・税務等の担当役員以外には分かりにくい極めて専門的なものとなっているが、ポイントは3つに集約される。

まず、これまでは損金不算入とされてきた役員の在任時に支給する信託型株式報酬が損金算入できることとされたという点だ(退任時に支給する信託型株式報酬はこれまでも損金算入が可能)。法人税法上、役員報酬を損金算入するためには、役員報酬が「定期同額給与」「事前確定届出給与」「利益連動給与」のいずれかに該当する必要があるが(法人税法34条)、信託型株式報酬はこのいずれにも該当しないため、損金算入ができなかった。こうした中、平成29年度税制改正では、役員在任時に支給する信託型株式報酬を「事前確定届出給与」あるいは「利益連動給与」として損金算入する道を開いている。

具体的には、信託型株式報酬が事前確定届出給与あるいは利益連動給与に該当するよう、(1)新たに「所定の時期に確定した数の株式を交付する給与」も事前確定届出給与に該当することとし、また、(2)利益連動給与の算定指標に「株価」や「売上高」(ただし、「売上高」のみを指標とした場合には損金算入不可。損金算入するためには、利益や株価と併用する必要あり)、さらに複数年度を対象とする指標を加える(現行の利益連動給与の指標は単年度のものを前提にしている)。下表のとおり、上場企業の採用が増えている信託型株式報酬だが、損金算入が認められることで、さらに採用企業数がさらに伸びる可能性もある。

定期同額給与 : 役員給与の支給時期が1か月以下の一定の期間ごとで、かつ、当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの
事前確定届出給与 : いつ、いくら(確定額)を支給する」旨を“事前に”確定した上で税務署に届け出をし、それに基づいて支給するもの
利益連動給与 : その事業年度の利益に関する指標に基づく「あらかじめ定められた方法」により決定されるもの

<2008~2016 年における信託型株式報酬プランの概況>
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※ウイリス・タワーズワトソン、三菱UFJ信託銀行による調査

2つ目のポイントが、ストック・オプション(新株予約権)が、「事前確定届出給与」又は「利益連動給与」の損金算入要件を満たさない限り、全額損金不算入とされることになったという点だ。ストック・オプションはこれまで税制非適格(⇔税制適格ストック・オプション)であれば損金算入可とされてきたが、事前確定届出給与か利益連動給与に該当しない限り、損金算入は認められないことになる。株式報酬ストック・オプション含め、ストック・オプションの付与を検討する企業にとっては要注意だろう。

税制適格ストック・オプション : 税法が求める要件を満たすことで、権利行使によって株式を取得した時点で生じている含み益(権利行使時の株式の時価-株式の取得価格)への課税が、実際に株式を売却する時点まで繰り延べられる(=株式を購入しただけで課税されるという状況を避けられる)ストック・オプションのこと。具体的な要件としては、無償発行、権利行使期間が「株主総会での発行決議の2年後~10年後までの最大8年間」、行使価格が発行時の時価以上、権利行使金額が「年間1,200万円まで」などがある。

3つ目のポイントが、リストリクテッド・ストック(譲渡制限付株式報酬)に対する損金算入制限だ。リストリクテッド・ストックは、業績の達成度合い等に応じて株式の譲渡制限を解除する(=譲渡制限が解除されなかった株式は会社により没収される)という仕組みをとっている。平成28年度税制ではリストリクテッド・ストックを「事前確定届出給与」として損金算入できることが明確化されたところだが(2016年3月2日のニュース「パフォーマンス・シェアの性格を持つ株式報酬も損金算入される方向」参照)、平成29年度税制改正では、業績により“段階的に”株式の没収数が変化するものは事前に報酬額が確定していることを前提とする「事前確定届出給与」とは言えないことから、事前確定届出給与には該当しないものとする。ただし、業績が未達の場合に「全部」の株式報酬が没収される場合には、引き続き「事前確定届出給与」に該当することとする。

また、平成29年度税制改正では、リストリクテッド・ストックは「利益連動給与」にも該当しないことが明確にされる。すなわち、リストリクテッド・ストックを損金算入するためには、「事前確定届出給与」の損金算入要件を満たすしかないということだ。

法人税法関係の改正の大部分は平成29年4月1日から適用されるが、上記のとおり、退職給与、ストック・オプション、リストリクテッド・ストックに関する改正は企業にとっては不利となるものであることに配慮し、平成29年10月1日以後の(役員報酬の)付与決議等から適用されることになる。つまり、3月決算法人であれば、平成30年の株主総会から本改正が適用されることになる。一方、利益連動給与の指標拡大など課税緩和となる事項については、平成29年4月1日以後の付与決議等から適用される。

2016/12/13 会計監査人と適切なコミュニケーションを図るため監査役がすべきこと

公認会計士 大杉 泉
(株式会社イグニス 取締役監査等委員長
日本公認会計士協会 組織内会計士協議会 委員)

「会計不正」は、経営陣が主導した場合はもちろんのこと、たとえ経営陣が関与していなくても、それを防ぐことができなかったという点で経営陣の責任は免れないが、最近は会計監査人(監査法人)や監査役の責任も追及する声が以前より高まっている。

こうしたなか重要性が高まっているのが、監査役と会計監査人のコミュニケーションだ。会社法は、会計監査人に対し取締役の不正行為や法令違反を監査役に報告することを求めるとともに、監査役には会計監査人に対し監査に関する報告を求める権限を認めている(会社法397条)。また、日本公認会計士協会、日本監査役協会も、両者がどのようなコミュニケーションや連携を図るべきかなどについてそれぞれ指針を公表している(日本公認会計士協会の基準はこちら、日本監査役協会の基準はこちら)。

実際、両者が適切なコミュニケーションを図っていれば防げた、あるいは早期に発見できたという会計不正は少なくないと思われる。そもそも会計監査人を設置する理由は、監査役が負うべき監査の責任のうち「会計部分」を、その専門性を踏まえ、会計専門家(=会計監査人)に委嘱・分離するということにあるため、本来であれば両者は緊密に連携して監査を実施すべきである。しかし現実には、ごく形式的なコミュニケーション(例えば定例の報告会等で、監査法人が用意したアジェンダを読み進めて終わり――etc.)に留まっているケースが多いのではないだろうか。

監査役と会計監査人が適切なコミュニケーションを図るべき理由としてまず挙げられるのが、一般的に、会計監査人は書類上からは見えない「社内情勢」や「社内力学」などについては疎い場合が多いということだ。逆に、監査役は会計監査上発見されたエラーについては、重要性が高いとして報告があったもの以外知らない場合がほとんどである。つまり、両者にはそれぞれ“情報格差”が存在していることになる。この情報格差を埋めることで、両者ともより深い監査を実施することが可能になる。

また、監査の状況や入手した情報を共有することで、お互いの監査の効率化を図ることもできる。監査役が行う会計監査は「企業人」の視点から総括的・重点的な監査を行うものとされているが(日本監査役協会発行 監査役監査実施要領平成28年5月20日版、第5章1項Ⅰ-2)、実際に実施している監査の中には、会計監査人が既に行っている監査と類似した内容のものがあることも珍しくなく、また、監査役と会計監査人が同一の担当者に同じことをヒアリングしている場合もある。両者があえて別々に同じことを繰り返すことも監査上有効となり得る場合もあるが、こうした意図がない場合には単に非効率でしかない。そのような非効率が解消すれば、監査法人の工数削減に繋がり、監査報酬を削減しつつ、より深度のある監査が可能になるほか、例えば、削減された時間を利用した(独立性を阻害しない範囲での)コンサルティングなど、会社にとってプラスとなるサービス提供を受けられることもある。

では、監査役と会計監査人は具体的にどのようにコミュニケーションを図るべきだろうか。これは「量」と「質」の両面から考える必要がある。

まず「量」の面だが、・・・

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2016/12/13 会計監査人と適切なコミュニケーションを図るため監査役がすべきこと(会員限定)

公認会計士 大杉 泉
(株式会社イグニス 取締役監査等委員長
日本公認会計士協会 組織内会計士協議会 委員)

「会計不正」は、経営陣が主導した場合はもちろんのこと、たとえ経営陣が関与していなくても、それを防ぐことができなかったという点で経営陣の責任は免れないが、最近は会計監査人(監査法人)や監査役の責任も追及する声が以前より高まっている。

こうしたなか重要性が高まっているのが、監査役と会計監査人のコミュニケーションだ。会社法は、会計監査人に対し取締役の不正行為や法令違反を監査役に報告することを求めるとともに、監査役には会計監査人に対し監査に関する報告を求める権限を認めている(会社法397条)。また、日本公認会計士協会、日本監査役協会も、両者がどのようなコミュニケーションや連携を図るべきかなどについてそれぞれ指針を公表している(日本公認会計士協会の基準はこちら、日本監査役協会の基準はこちら)。

実際、両者が適切なコミュニケーションを図っていれば防げた、あるいは早期に発見できたという会計不正は少なくないと思われる。そもそも会計監査人を設置する理由は、監査役が負うべき監査の責任のうち「会計部分」を、その専門性を踏まえ、会計専門家(=会計監査人)に委嘱・分離するということにあるため、本来であれば両者は緊密に連携して監査を実施すべきである。しかし現実には、ごく形式的なコミュニケーション(例えば定例の報告会等で、監査法人が用意したアジェンダを読み進めて終わり――etc.)に留まっているケースが多いのではないだろうか。

監査役と会計監査人が適切なコミュニケーションを図るべき理由としてまず挙げられるのが、一般的に、会計監査人は書類上からは見えない「社内情勢」や「社内力学」などについては疎い場合が多いということだ。逆に、監査役は会計監査上発見されたエラーについては、重要性が高いとして報告があったもの以外知らない場合がほとんどである。つまり、両者にはそれぞれ“情報格差”が存在していることになる。この情報格差を埋めることで、両者ともより深い監査を実施することが可能になる。

また、監査の状況や入手した情報を共有することで、お互いの監査の効率化を図ることもできる。監査役が行う会計監査は「企業人」の視点から総括的・重点的な監査を行うものとされているが(日本監査役協会発行 監査役監査実施要領平成28年5月20日版、第5章1項Ⅰ-2)、実際に実施している監査の中には、会計監査人が既に行っている監査と類似した内容のものがあることも珍しくなく、また、監査役と会計監査人が同一の担当者に同じことをヒアリングしている場合もある。両者があえて別々に同じことを繰り返すことも監査上有効となり得る場合もあるが、こうした意図がない場合には単に非効率でしかない。そのような非効率が解消すれば、監査法人の工数削減に繋がり、監査報酬を削減しつつ、より深度のある監査が可能になるほか、例えば、削減された時間を利用した(独立性を阻害しない範囲での)コンサルティングなど、会社にとってプラスとなるサービス提供を受けられることもある。

では、監査役と会計監査人は具体的にどのようにコミュニケーションを図るべきだろうか。これは「量」と「質」の両面から考える必要がある。

まず「量」の面だが、上記で紹介した日本公認会計士協会の指針では「年間8回程度」のコミュニケーションを行うことが推奨されているものの、実際のところは監査報告のタイミングである「四半期ごとに1度」会合を持つという会社がほとんどではないだろうか。こうした中、単純に両者が顔を合わせる回数を増やすだけでも、よりタイムリーな情報共有が可能になる。

一方、「質」を高めるためには、特に監査役から会計監査人への情報提供が鍵となる。会計監査人の監査対象は業務面には踏み込まずあくまで「会計面」に限定されていることや、「重要性」というフィルターによって監査項目を絞り込んでいることから、会計監査人は発見された全てのエラー情報を、監査役を含む会社に提供しないのが通常だ。また、明らかな法令違反を除き、コンプライアンスに関連する内容について情報提供することも少ない。これに対し、監査役は重要性をフィルターにした監査方法をとることはあまりないため、監査役側が持つ情報には(守秘義務の制約はあるものの)会計監査人にとっても有用なものが多いと思われる。また、会計監査人からは見えづらい会社内部の人間関係、取引先の状況、社長の性格なども、会計監査人が不正リスクの要因を検討する上で貴重な情報となり得る。したがって、まずは監査役から会計監査人に対して積極的に情報提供を行うことが、両者のコニュニケーションの「質」を高めることにつながると考えられる。

もっとも、監査役も人であり、会計監査人もまた人の集まりである以上、両者のコミュニケーションを活性化させる上では、何よりも両者の信頼関係が前提になることは言うまでもない。信頼関係を築くためには、監査役はまずは自社に来ている監査チームと、気軽なコミュニケーションをとることが有用である。現場の監査チームは昼食を社外でとる場合が多いので、そのメンバーと一緒にランチに行くのはお勧めだ。なかでも、伝票や書類を確認する作業を担当することが多い若手の会計士は、作業中に気付いた自社の傾向や、より効率的な監査の方法などを教えてくれるかもしれない。ただし、お互いの独立性の観点から、度を超えた付き合いは慎む必要がある。監査役と会計監査人はあくまで「協働体」なのであって、立場が異なるという点には留意すべきである。

また、監査役は自社の会計監査人選・解任のポイントを明確に会計監査人に伝えることも重要だ。会社と会計監査人の間で認識の相違が生じることがあるが(つまり、会計監査人の指摘を会社側が飲めない状態)、監査役が「認識の相違であれば会計監査人を守るが、監査の怠慢であれば会計監査人を変える」というスタンスを明確にすることで、会計監査人は安心して深度のある監査を実施出来るのではないだろうか。

監査役としては、社内から会社を見る自分(監査役)と会計プロフェッショナルとして社外から会社を見る会計監査人が緊密に連携することで、コーポレートガバナンス改革を迫られる日本企業に求められている「経営陣に対する強力な牽制機能」が生まれ、結果として会社の中長期的発展、企業価値向上にもつながるということを念頭に、会計監査人と積極的にコミュニケーションを図っていきたいところだ。

2016/12/12 MD&Aに求められる経営者の視点

企業と投資家の「建設的な対話」を促進するため、金融庁の主導により企業の開示ルールの見直しが進んでいるのは周知のとおり。その一部が、最近改正案が示された決算短信の「サマリー情報」などに関する見直しだが(2016年11月25日のニュース「経営指標をサマリー情報のトップに記載することも可能に」参照)、いまだ改正案が示されるには至っていないものの、これらの改正同様、2017年3月31日以後に最初に終了する通期決算または四半期決算から適用される可能性が高いのが、有価証券報告書に関する以下の3つの事項だ・・・

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企業と投資家の「建設的な対話」を促進するため、金融庁の主導により企業の開示ルールの見直しが進んでいるのは周知のとおり。その一部が、最近改正案が示された決算短信の「サマリー情報」などに関する見直しだが(2016年11月25日のニュース「経営指標をサマリー情報のトップに記載することも可能に」参照)、いまだ改正案が示されるには至っていないものの、これらの改正同様、2017年3月31日以後に最初に終了する通期決算または四半期決算から適用される可能性が高いのが、有価証券報告書に関する以下の3つの事項だ(ただし、本稿一番下の表(3)④は上記ニュースのとおり改正案が示されている)。

(1)事業報告との共通化(大株主の状況の計算における自己株式の取扱い等)
(2)記載の重複排除のための開示内容の合理化(新株予約権等)
(3)経営方針等や経営者による経営成績等の分析等の記載を充実

これらは、平成28年4月に金融審議会が公表した「ディスクロージャーワーキング・グループ報告-建設的な対話の促進に向けて-」で示されたもので、具体的な内容はそれぞれ以下のとおりとなっている。

(1)事業報告との共通化

事業報告と有価証券報告書との間には、同種の記載事項について記載内容に差異が生じている部分がありこれを共通化しようとするもの。具体的には下表に示した項目の差異を共通化しようとしている。

また、より簡易な手法として、「事業報告・計算書類の内容を参照して有価証券報告書を記載する」あるいは「有価証券報告書の内容を参照して事業報告・計算書類に記載する」というように、有価証券報告書と事業報告・計算書類を“実質的に一体化”することも検討されている。

事業報告 有価証券報告書 主要な差異
重要な親会社及び子会社の状況 関係会社の状況 有価証券報告書では議決権の保有割合を記載。
事業報告では出資比率を記載。
当該事業年度の末日における
使用人の状況
従業員の状況 有価証券報告書では年間平均給与等を記載。
事業報告は従業員数の前期末比増減等を記載。
上位10名の株主の状況 大株主の状況 所有割合の算定の基礎となる発行済株式について、事業報告では自己株式を控除しているのに対し、有価証券報告書では自己株式を控除していない。

(2)記載の重複排除のための開示内容の合理化

有価証券報告書の記載項目である「新株予約権等の状況」「ライツプランの内容」「ストックオプション制度の内容」においては内容が重複している部分があるため、共通化を図ろうというもの。このうち「ストックオプション」については、有価証券報告書の「経理の状況」における「ストックオプション注記」でも類似の記載が求められているため、こちらの共通化も図られる可能性がある。

ライツプランの内容 : 買収防衛策の1つで、敵対的買収者が被買収企業の株式(議決権)の一定割合を取得した場合、一定条件の下で、既存の株主が時価より安い価格で新株を購入できる権利を、あらかじめ既存の株主に与えておく、もしくは与えることを定めておく手法。敵対的買収者の持株比率を低下させるとともに、(株数を増やすことで)買収者が保有する株式1株当たりの価値を低下させる、すなわち買収コストを引き上げることを狙いとする。

また、現行の開示府令では、下表のとおり、ストックオプションに関する各項目の「記載時点」に差異が生じているため、こちらも見直されることかもしれない。

  【新株予約権等の状況】 【ストックオプション制度の内容】 【経理の状況】
(ストックオプション注記)
記載時点 期末日現在及び提出日の前月末 提出日現在が適当 期末日現在

(3)経営方針等や経営者による経営成績等の分析等の記載の充実

投資家との対話を促進するため、以下の問題点について改善を図るもの。

項目 現在の問題点 見直し後(①~③は予定)
①業績等の概要 ②の内容が含まれており重複している。 「MD&A」に①〜③の項目を統合し、「MD&A」に、以下を記載
・ 経営成績等の状況(生産、受注及び販売の状況を含む)の概要
・ 経営成績等の状況の分析・検討内容
また、中長期的な目標に対して経営成績等に対する経営者の分析評価を記載できるようにする。
②生産、受注及び販売の状況 ①の内容が含まれており重複している。
③財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析
④対処すべき課題 速報性が求められている決算単信に記載がある経営方針は、本来は有価証券報告書で記載されるべきものである。 「対処すべき課題及び経営方針等」として有価証券報告書に記載し、投資判断に有益な経営方針を記載する。

 
 
このうち(1)(2)は技術的な話であり、基本的には開示担当者に任せておけばよいが、今後経営陣が検討を迫られることになりそうなのが(3)だ。

(3)のうち④の見直しについては既に開示府令の改正案が示されており、有価証券報告書の【対処すべき課題】という項目が【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】されたことからも分かるように、「経営環境」の記載も求められるようなったことは2016年11月25日のニュース「経営指標をサマリー情報のトップに記載することも可能に」でお伝えしたとおりだが、①~③の「MD&A」に関する開示の見直しは、経営陣にとってさらにインパクトがありそうだ。

MD&A とは「Management’s Discussion and Analysis of Financial Condition and Results of Operations」の略で、「経営陣による財政状態及び経営成績の検討と分析」と訳される。日本企業におけるMD&Aの開示を見ると、大部分の企業がひな形的な開示となっており、これに対し投資家からは「付加価値に乏しい」との指摘も聞かれる。具体的には、単に数値の前期比較をしているだけで、そこに「経営者の視点」が入っていないということが問題視されている。

こうした中、今後公表されるとみられる開示府令の改正案には、「経営成績等の状況の分析・検討の記載に当たっては、経営者の視点から企業情報を具体的に、かつ、分かりやすく開示するという MD&A の目的に沿ったものとなるよう、事業全体及びセグメント別の経営成績等に重要な影響を与えた要因について経営者の視点による認識と分析などを記載する。また、その際、中長期的な視点からの投資を促す観点から、経営者が、経営方針・経営戦略等の中長期的な目標に照らして、経営成績等をどのように分析・評価しているかを記載できることを明確にする 」(ディスクロージャーワーキング・グループ報告より抜粋)旨の規定が盛り込まれることになる。

経営陣としては、投資家やアナリストに「MD&Aに関する記載内容が乏しい」と言われることがないよう、何を書くか早い段階から検討しておく必要があろう。

2016/12/09 英国、報酬委員会に「従業員代表」を加える構想

我が国は今まさにコーポレートガバナンス改革真っ只中にあるが、各企業においてはどのように対応を図っていくべきか、まだまだ“暗中模索”の段階にあるというのが実際のところだろう。日本版コーポレートガバナンス・コードが英国版をベースとしたように、日本がコーポレートガバナンス改革の手本の一つとされているのが英国だが、その英国がさらなるコーポレートガバナンス改革に踏み出した。

英国のメイ首相は11月末に・・・

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2016/12/09 英国、報酬委員会に「従業員代表」を加える構想(会員限定)

我が国は今まさにコーポレートガバナンス改革真っ只中にあるが、各企業においてはどのように対応を図っていくべきか、まだまだ“暗中模索”の段階にあるというのが実際のところだろう。日本版コーポレートガバナンス・コードが英国版をベースとしたように、日本がコーポレートガバナンス改革の手本の一つとされているのが英国だが、その英国がさらなるコーポレートガバナンス改革に踏み出した。

英国のメイ首相は11月末にコーポレート・ガバナンス改革案「グリーン・ペーパー」を打ち出したが(来年2017年2月17日までパブリックコメントを募集中)、同ペーパーでは経営陣の報酬水準が槍玉に挙がっている。

FTSE100の構成企業を例にとると、CEOの平均報酬額は、1998年の100万ポンドから2015年には430万ポンド(約6億円)へと大幅に増加しており、その結果、従業員の平均給与との格差は1998年の「47:1」から2015年には実に「128:1」へと拡大している。英国では、役員報酬の決め方や水準について株主が株主総会で投票することができる「セイ・オン・ペイ」制度があるものの、投票に法的拘束力はない。こうした中、英国のメイ首相は、この投票結果に法的拘束力を持たせる案を提示している。

FTSE100 : ロンドン証券取引所に上場する銘柄のうち時価総額上位100銘柄による時価総額加重平均型の株価指数。

さらに注目されるのが、取締役の報酬を決定する報酬委員会に「従業員代表」や「消費者代表」を加えるとの案だ。日本の会社法では、報酬委員会は3名以上の取締役で構成され、そのうち過半数が社外取締役である必要があるとされている。一方、英国の報酬委員会は、3名以上の独立社外取締役のみから構成されることが求められているが、経営陣の高い報酬が問題視される中、従業員等からの代表を加えることで、さらなる経営への牽制を図る意図がある。英国政府は今後、従業員等からの代表の具体的役割について幅広く意見を募集する。

高所得者層の支持者が多い英国の与党・保守党は「財界寄り」と言われており、今回のコーポレートガバナンス改革にはこうした批判をかわす狙いもあるものと見られる。コーポレートガバナンス・コードの導入においては英国を手本にした日本だが、ガバナンス先進企業と言われるある日本企業の幹部からは、「日本企業ではそこまでの対応は難しい」との声も上がっている。

2016/12/08 フェア・ディスクロ・ルール、行政処分の前に情報公表を“促す”案に

上場会社による情報開示がすべての投資家に対し公平に行われることを目的とするフェア・ディスクロージャー・ルールについて検討している金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」が昨日(2016年12月7日)第11回の会合を開催、同グループに設置されたフェア・ディスクロージャー・ルール・タスクフォースがフェア・ディスクロ・ルールに関する報告書を公表した。金融庁はこれを踏まえ、来年の通常国会に金融商品取引法の改正案を提出する方針。2018年にもフェア・ディスクロージャー・ルールの導入が見込まれる。

今回の報告書では、2016年11月28日のニュース「フェア・ディスクロ・ルールとインサイダー規制、対象情報の違いは?」でお伝えした時点の原案から主に2点の修正が加えられている。

一点目が、・・・

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2016/12/08 フェア・ディスクロ・ルール、行政処分の前に情報公表を“促す”案に(会員限定)

上場会社による情報開示がすべての投資家に対し公平に行われることを目的とするフェア・ディスクロージャー・ルールについて検討している金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」が昨日(2016年12月7日)第11回の会合を開催、同グループに設置されたフェア・ディスクロージャー・ルール・タスクフォースがフェア・ディスクロージャー・ルールに関する報告書を公表した。金融庁はこれを踏まえ、来年の通常国会に金融商品取引法の改正案を提出する方針。2018年にもフェア・ディスクロージャー・ルールの導入が見込まれる。

今回の報告書では、2016年11月28日のニュース「フェア・ディスクロ・ルールとインサイダー規制、対象情報の違いは?」でお伝えした時点の原案から主に2点の修正が加えられている。

一点目が、「モザイク情報」をフェア・ディスクロージャー・ルールの対象外とすることが示されたという点だ。モザイク情報とは、「工場見学や事業別説明会で提供されるような情報など、他の情報と組み合わさることによって投資判断に影響を及ぼし得るものの、その情報のみでは、直ちに投資判断に影響を及ぼすとはいえない情報」をいう。上場会社に「その情報のみでは、直ちに投資判断に影響を及ぼすとはいえない情報」まで管理を要求するのは酷と言える。そこで、上場会社側の情報管理負担を減らすべく、モザイク情報をフェア・ディスクロージャー・ルールの対象外とした。

二点目が、当初案では「本ルールの違反への対応についても、例えば、情報の速やかな公表についての指示・命令といった行政的な対応によって、本ルールの実効性を確保することを基本とすることが適当」とされていた箇所が、「本ルールに抵触した場合の対応についても、発行者にまずは情報の速やかな公表を促し、これに適切な対応がとられなければ、行政的に指示・命令を行うことによって、本ルールの実効性を確保することが適当」へと加筆修正されたという点だ。行政が指示・命令の前に「情報の速やかな公表を促す」ことが必要になり、“ワンクッション”置かれる格好になった。上場会社からすれば、行政処分に対する予見可能性が確実になったという点、評価できる。

また、報告書の4ページの(4)にある「上記(3)に掲げる者()への情報提供を行った際にはこの情報受領者が守秘義務を負うことから公表を行わなかったが、その後、この情報受領者が守秘義務に違反して、上記(3)に掲げる者に該当する守秘義務等を負わない他者に情報を伝達したことを発行者が把握した場合には、本ルールに基づき発行者に情報の公表を求めることが考えられる」との記述の中の「発行者が把握」という部分も気になるところだ。なぜなら、仮にこの記述が発行者に調査義務を負わせることを想定しているとすれば、上場会社にとっては“情報受領者への調査”という新たな負担が増えることになるからだ。しかし当フォーラムの取材によると、これは上場会社(発行者)も含めていかなる者にも調査義務を負わせるものではないことが確認されている。

 「上記(3)に掲げる者」は具体的には次の者を指す。
・証券会社、投資運用業者、投資顧問業者、投資法人、信用格付業者などの有価証券に係る売買や財務内容等の分析結果を第三者へ提供することを業として行う者、その役員や従業員
・発行者から得られる情報に基づいて発行者の有価証券を売買することが想定される者

なお、フェア・ディスクロージャー・ルールにより規制される情報とインサイダー情報の範囲は基本的に同一であるという点は、2016年11月28日のニュース「フェア・ディスクロ・ルールとインサイダー規制、対象情報の違いは?」でお伝えしたとおり(最後の2つの段落を参照)。

2016/12/07 100%子会社化にハードル

会社法上、議決権の保有比率が「50%超」の株主は、株主総会の普通決議を単独で成立させることが可能とされている。このため、子会社の持分比率は50%超あれば十分にも見えるが、一方で、少数株主への配慮を不要とするため、100%子会社化にこだわる上場会社も少なくない。

こうした中、100%子会社化のハードルを上げかねない制度改正が・・・

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