2016/08/31 社内恋愛への対処法

SNSなどを用いた交流関係の広がりにより以前ほどではなくなったものの、かねてから日本企業では「社内結婚」が少なくない。社内結婚には会社へのロイヤリティを高めるなどの効果もあるが、その一方で、当人同士の感情が業務に持ち込まれたり、周囲が何となく気を遣ってしまったりするなど、業務に支障が出ることもある。

ただ、だからと言って例えば社内恋愛を就業規則で禁止しようとしても、現実にその規定を運用するにあたっては、そもそも「社内恋愛」を定義することからして難しく、まして、それを理由に懲戒を科すことは公序良俗違反として無効となる可能性が高い。就業規則は、その内容も含め会社が一方的に制定することができるものだが(従業員からの意見聴取の際に反対意見が出されたとしても、就業規則の成立には影響しない)、人間の自然な感情に会社が口出しするという“前近代的”な措置に対し、従業員が反感や失望を抱き、会社へのロイヤリティを失くすおそれすらある。

もちろん、実際に職場の風紀を乱したり、会社に有形無形の損害を与えたりしたのであれば、社内恋愛とは関係なく、その事実に対して責任を問うべきだろう。それが就業規則の懲戒事由に該当するなら、粛々と懲戒処分を科せばよい。

では、これがいわゆる不倫関係であった場合はどうだろうか。配偶者がありながら他の異性と交際することは、・・・

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2016/08/31 社内恋愛への対処法(会員限定)

SNSなどを用いた交流関係の広がりにより以前ほどではなくなったものの、かねてから日本企業では「社内結婚」が少なくない。社内結婚には会社へのロイヤリティを高めるなどの効果もあるが、その一方で、当人同士の感情が業務に持ち込まれたり、周囲が何となく気を遣ってしまったりするなど、業務に支障が出ることもある。

ただ、だからと言って例えば社内恋愛を就業規則で禁止しようとしても、現実にその規定を運用するにあたっては、そもそも「社内恋愛」を定義することからして難しく、まして、それを理由に懲戒を科すことは公序良俗違反として無効となる可能性が高い。就業規則は、その内容も含め会社が一方的に制定することができるものだが(従業員からの意見聴取の際に反対意見が出されたとしても、就業規則の成立には影響しない)、人間の自然な感情に会社が口出しするという“前近代的”な措置に対し、従業員が反感や失望を抱き、会社へのロイヤリティを失くすおそれすらある。

もちろん、実際に職場の風紀を乱したり、会社に有形無形の損害を与えたりしたのであれば、社内恋愛とは関係なく、その事実に対して責任を問うべきだろう。それが就業規則の懲戒事由に該当するなら、粛々と懲戒処分を科せばよい。

では、これがいわゆる不倫関係であった場合はどうだろうか。配偶者がありながら他の異性と交際することは、社会的には非難されるべき行為であるのは言うまでもないものの、あくまで「私的行為」に他ならない。そこで裁判所では、就業規則に違反しない限り、会社がこれに対して懲戒を科すことはできないとしている(旭川地判H1.12.27、類似判決として東京地判S45.4.13等)とはいえ、不倫関係に対しては社内外で悪評が立ちやすい。取引先の耳に入れば、企業イメージを損なうことにもつながりかねない。したがって、こうした場合にこそ、就業規則に則って厳正に対処すればよい。ただし、「懲戒解雇」となると、行為と処分とのバランスという観点から、裁判所でもその妥当性に関する判断はケースバイケースで分かれているので注意したい(肯定:東京高判S41.7.30、否定:岡山地判S41.9.26等)。

このように訴訟に発展した場合には必ずしも企業側にも有利な判断が下されるとは限らないことを考えれば、通常の恋愛関係であれ不倫関係であれ、目に余るような行為があれば、上司や同僚がインフォーマルに、節度を保つようたしなめるのが、最良の対処法であろう。

2016/08/31 【2016年7月の課題】目指すべきB/Sのイメージ:解答(会員限定)

なぜ「目指すB/S」を説明することが必要なのか?

高度経済成長期には多くの日本企業が資金不足に苦しみ、運転資金や設備投資のための資金を調達するため、経営者や財務担当者が銀行を駆け回っていました。高度経済成長期の終焉後はバブル経済に突入し、それが崩壊すると今度はバブル経済期に積み上がった負債の返済に追われます。この時代の日本企業のコーポレートファイナンスは運転資金・設備投資・負債の返済といった資金ニーズが発生すると、その都度、資金調達に奔走するという極めて受動的なものでした。そして、負債や資本の状況など企業の財政状態を示すバランスシート(B/S)についても、このような受動的な活動の結果として生じたものに過ぎないとの認識が一般的で、自らの意思で「目指すB/S」を実現しようという発想は経営陣にもほとんどありませんでした。しかし、今日では企業を取り巻く環境が大きく変化し、それでは通用しなくなりつつあります。具体的には、以下の3つの変化が起きています。

まずは「資金ニーズの変化」です。経済の成熟や少子高齢化に加えてバブル経済期の負債の返済が一巡した現在、企業の資金ニーズは大きく減退し、B/S上に手元資金が積み上がる傾向にあります。また、かつての多角化経営の名残りや生産拠点の海外移転により、B/Sの相当部分を「非中核事業の資産」や「遊休不動産」が占めているケースも散見されます。非中核事業や遊休不動産の売却や株主還元は企業の意思で行うことができます。資金調達に奔走していた時代とは異なり、現在はB/Sを自らの意思でコントロールしやすい環境になっていると言えるでしょう。

2つ目は「株主構成の変化」です。近年、金融機関を中心に持ち合い解消が進む一方で外国人株主が増加する傾向が続いており、日本企業の株主構成における主役は持ち合いを中心とする「安定株主」から「機関投資家」に移っています。機関投資家は投資先企業に対し、自らが株主として投じた資金が効率的に活用されることを望んでおり、それが必要以上の手元資金や遊休不動産として滞留したり、漫然と非中核事業を継続するために使われたりすることは望んでいません。

3つ目が「政策の変化」です。安倍政権が進める日本再興戦略は、機関投資家を中心とする株主の力を活用する姿勢を強調しており、政策の成果を図る指標として日本企業の自己資本利益率(ROE)の向上を掲げています。また、その流れの中で導入されたコーポレートガバナンス・コードは、「資本政策の基本的な方針」「収益力・資本効率等の目標」「経営資源の配分等」を株主の言葉・論理で説明することを要求しています(原則5-2)。

ROE : Return On Equity(自己資本利益率)=当期純利益÷自己資本

このように、手元資金等が積み上がり易い環境の中での株主構成及び政策の変化により、企業がその効率的な活用について説明責任を果たす必要性が急速に高まっています。そして、(手元資金等を含む)資産や負債の状況といった企業の財政状態を示すB/Sは、この説明責任を果たす上で中核的な役割を担うことになります。経営陣にとって、自社が目指すB/Sのイメージを持っておくことは必須と言えるでしょう。

A社経営陣の考え方には何が不足しているのか?

豊富な手元資金を抱えながらもROEの低迷に対して有効な対応策をとらないA社の経営陣には、「資本コスト」という考え方が不足していると言えます。

企業は株式や有利子負債によって資金(資本)を調達したうえで、その資金で生産設備や販売拠点等の様々な資産を取得・保有し、事業活動を行っています。企業に対する投融資には一定のリスクが伴うため、株主や債権者はそれに見合うリターン(収益率)を要求します。この要求リターンを上回る利益に貢献するストーリーを描けない(=説明責任を果たせない)資産を取得・保有するということは、コストを回収できない値段で商品を売るのと同じことですから、この要求リターンは企業にとってはコスト(資本コスト)に相当します。

より具体的に言うと、債権者が要求するリターンが「元利払い」であり、これが期日通りに支払われない場合には債務不履行として、債権者は法的な権限を行使することができます。一方、株主が要求するリターンは分かりにくいのですが、伊藤レポートは、国内外の投資家が株式投資において期待するリターンを基にROEについて「8%」という水準を示していますから、これが目安になるでしょう。この水準を達成できない場合には株主が要求するリターンが達成されていないことになり、株主は株主還元を要求する、あるいは株主総会で経営者の選任議案に反対票を投じる、といった手段に出ることがあります。また、当然ながら株式を売却することもあります。この場合、株価が下落し、被買収リスクが高まることになります。

A社が保有する豊富な手元資金について、資本コストを賄う(=資本コストを上回るROEの達成に貢献する)ような使途を見出すことができないのであれば、保有を継続するよりも株主還元を検討するべきでしょう。株主は還元された資金を他の企業に再投資します。A社の手元で滞留していた資金が他の企業に投じられ、効率的に活用されるようになれば、株主だけでなく、経済全体の活性化にもつながります。

A社の経営陣が意識すべきは「リスクとリターン」を踏まえた資金の配分

資本コストの考え方を経営に取り入れるためには、「コストのかかる資本(資金)を効率的に配分する」という意識が求められます。では、「資金の配分」は具体的にどのように行えばよいのでしょうか。

企業は株主や債権者から調達した資金を自社あるいはグループ内の様々な現場に配分し、現場はその資金を利用して事業を行います。このように、企業には資金を「配分する機能」と「利用する機能」がありますが、“現場主義”の傾向が強い日本企業では資金の利用に対する意識が高い一方で、資金の配分に対する意識は低い傾向があるようです。日本企業が総じて株主還元に消極的なのも、資金の配分に対する意識の弱さを示していると言えます。

資金の配分においてポイントとなるのがリスクとリターンです。リスクが高い割にリターンの低い案件に資金を配分しないようにするだけでなく、事業のリスクに合わせた資金調達を行うことも重要です。具体的には、事業が高リスクであれば資金調達は株式を中心とし、手元資金も多めに確保する必要があります。その結果、ROEの分母(自己資本)は大きくなりますが、高リスクに見合う高リターンが得られるのであれば分子(当期純利益)も大きくなるため、資本コストを上回るROEを達成できるでしょう。逆に、事業が低リスクであれば資金調達は有利子負債中心とし、手元資金や株式による調達は最小限とすることで、低リターンであっても資本コストを上回るROEを達成できます。資金の配分に対する意識は、事業リスクの精査を通じて事業・財務戦略の精緻化につながり、企業価値向上につながると考えられます。

今後、A社の経営陣には上記のような意識を高めていくことが求められます。そうすれば、事業のリスク・リターンを反映させた自己資本(株式)と有利子負債のバランスや手元資金の水準、すなわち「目指すB/S」が自ずと明らかになり、株主に対する説明責任を果たすことができるでしょう。さらにこの意識を社内・グループ内に浸透させ、具体的な取り組みにつなげていくことができれば、資金(カネ)のみならず、ヒト・モノ・情報といった経営資源全体の効率的な配分にもつながることも期待されます。

2016/08/31 【2016年8月の課題】ESGへの対応

2016年8月の課題

今年(2016年)7月にはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がESG株価指数の公募を実施し、8月には経済産業省が長期投資(ESG・無形資産)研究会を立ち上げるなど、日本ではESG投資への注目度がこれまでになく高まっています。
今後はGPIFおよびその他年金基金等(アセットオーナー)が、ESG投資に関し委託先運用会社へのプレッシャーを強めることが予想され、その影響は企業にも及ぶことになります。
上場企業の経営陣としては、ESGへの対応にあたり、どのような点に留意しながら、どのような準備をするべきでしょうか。貴方の考えを述べてください。

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2016/08/30 【役員会 Good&Bad発言集】決済条件の変更

甲社の経営会議では、購買担当の取締役が先月分の購買関係の月次報告をしています。

財務担当取締役A「この報告事項の『仕入先乙社現金決済化』ですが、経緯をもう少し詳しく教えてください。」
購買担当取締役B「これは、先月末に乙社の営業担当者から依頼され、従来の振込支払いから現金支払いに変更したというものです。締め日や支払日についての変更はございません。当社のルールでは月間20万円未満の支払いであれば現金支払いが認められており、甲社との取引実績から見てもその水準を超えたことはないので、変更に問題はないと考えます。」
これについての下記の発言のうち、どの役員の発言がGoodでしょうか?

販売担当取締役C:「当社のルール上認められた決済条件への変更であり、かつ、締め日や支払日は、従来どおり『月末締め翌月末支払い』のままであり、当社の支払いが早まったわけではないことから、特に問題はないと考えます。」

財務担当取締役A:「なぜ先方の営業担当者が、振込支払いを現金支払いに変更することを望んだのでしょうか?現金支払いは不正の余地があることから、今回の決済条件の変更依頼に不正を行う意図があるのではないかが気になります。」

購買担当取締役B:「先方の意図まではわかりませんが、当社としては乙社から必ず領収書をもらうようにしておくので問題は生じないと考えています。」

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2016/08/30 【役員会 Good&Bad発言集】決済条件の変更(会員限定)

<解説>

キャッシュリッチな企業でない限り、資金繰りは重要な経営課題となります。その資金繰りに大きな影響を与えるのが、販売と購買の決済条件です。決済条件には、仕入代金がどのタイミングで決済され、販売代金がどのタイミングで入金されるのかといった決済時期に関する条件と、現金払いや銀行振込や小切手・手形といった決済手段に関する条件があります。いずれも会社の運転資金として必要となる資金額に直接影響を与える重要な条件です。それだけに、より有利な決済条件を求めて取引先と交渉するのは、経営陣の務めと言えます。

決済条件は、取引の当事者間で締結される取引基本契約等の契約により定められます。いったん契約に至れば、その後に決済条件の変更を望んでも、当事者間での交渉ごとになるため、こちらの思い通りに事が運ぶとは限りません。そのため決済条件は契約前に慎重に決する必要があります。もし、首尾よく決済条件を変更できれば、社外的には契約書等の差し替えが必要になり、社内的には通常は新規仕入先の口座開設時に必要な承認と同レベルの承認が必要になります(例えば、新規仕入先の口座開設時に経理部長の承認を求めていたら、決済条件の変更も経理部長の承認を求めるのが通常です)。

決済時期次第で資金繰りが大きく変わる

現金商売であれば物やサービスの提供と同時に現金のやり取りが行われるため、決済時期について何ら考慮する必要はありませんが、信用取引(掛取引)であれば取引を締めるタイミングと決済するタイミング(決済時期)を定めておく必要があります。そして、上で述べた通り、信用取引の決済時期をいつに設定するのかにより、資金の負担具合が変化します。すなわち、決済時期が早いと、買い手にとっては資金を早めに工面しなければいけなくなり、資金繰りに悪影響が生じます。逆に、決済時期が遅いと、買い手にとっては資金繰りが楽になります。通常は、業界ごとに標準的な決済時期がおおむね定まっていますが、最終的には当事者間での力関係や取引量も加味して決済時期が定まることになります。ちなみに、売り手の力が強い業界では、買い手は前払いを求められるケースもあります。

取引時から決済時期までの期間が長期になってしまうと、売り手側はその間に買い手が倒産して貸し倒れが生じてしまうリスクを負わなければなりません。決済条件は契約で合意する事項なので、信用取引の買い手の信用力が落ちたからと言って、売り手から決済時期を早めるための交渉を持ち掛けても、資金に窮した買い手が決済時期の早期化に合意するのは考えにくいのが実情です。そこで、売り手としてはあらかじめ与信限度枠を設定しておき、売り手が負担するリスクに上限を設けてリスクをコントロールしておくことは欠かせません(与信限度枠の設定方法については、ケーススタディ「【事業管理】新規得意先を開拓したい」の「与信限度枠の設定ミスで多額の貸倒れや取込み詐欺も」を参照)。

下請法が適用される下請先からの仕入代金の決済時期については、決済時期が長期にならないよう留意しなければなりません。親事業者は、仕入れた物を検査するかどうかを問わず、発注した物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で、下請代金の支払期日を定めなくてはならないという定めがあるからです。

下請法が適用される下請先 : 下請法の対象となる取引は事業者の資本金規模と取引の内容で定義されている。例えば、物品の製造業の場合、親事業者の資本金が3億円超で下請事業者資本金が3億円以下であれば下請法が適用される。

現金決済への変更は横領リスクを疑え

決済手段は、現金、小切手、手形、銀行振込等様々です。ファクタリングを利用する場合もあります。また、現金以外の決済手段を選んだ場合、最終的に現金化されるまでの期間も考慮しなくてはなりません。決済手段はそれぞれのメリット・デメリットを考慮して選択する必要があります。

手形は持ち運びに便利なのですが、その一方で紛失・盗難リスクがあります。また、手形振出時に印紙税も必要となります。さらに、6か月以内に2度の不渡り手形を出してしまうと、銀行における当座預金口座の取引停止と銀行からの新規借入が停止してしまうだけでなく、上場会社であれば上場廃止になってしまうリスクもあります(手形のデメリットは、ケーススタディ「【経理・財務】手形・小切手の管理を適正に行いたい」の「手形・小切手は便利な反面、特有の危険も」を参照)。そういったデメリットがあることから、手形は最近では減少傾向にあり(下のグラフを参照)、かわりに「電子記録債権」による決済が増えています。

不渡り手形 : 当座預金の残高が不足して決済できなかった手形

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全国銀行協会の資料(平成27年版 決済統計年報)を基に当フォーラムが作成

現金決済は現金の紛失・盗難リスクがあることから、B to Bのビジネスではあまり用いられていません。また、現金決済は銀行振込時の通帳のような決済結果の記録が残らないことから、現金支払い時に相手から領収書を入手する必要があります。それだけに、決済条件を銀行振込から現金決済に変更するケースでは、不正の可能性がないか(決済結果の記録を残さないようにすることで横領を隠ぺいしようとしていないか)を検討しておく必要があります。ここでいう不正は、売り手側の不正と買い手側の不正の双方が考えられます。売り手側の不正とは、営業担当者が販売額を会社に過少申告し、差額を自分のポケットに入れるような不正です。また、買い手側の不正とは、買い手側の購買担当者が購入額を会社に過大申告し、差額を自分のポケットに入れるような不正です。実際にサンリン(長野県に本社があるJASDAQ上場のエネルギー商社)の事例では、同社(買い手側)の購買担当者が「下請業者に対して事前に請求書を甲支店のX宛に送付するよう依頼しておき、Xが自ら開封して真正の請求書にある実際の取引とあわせて架空仕入を追加し、実在仕入と架空仕入の混在した偽造請求書を自らパソコンで作成してX支店出納担当者へ提出し、現金で支払うので支払日までに現金を用意しておくよう指示をしていた。その後、会社金庫より預かった現金の一部(架空仕入分)を着服し、X支店出納担当者には偽造領収証を提出していた」という不正がありました(サンリンにおける不正の詳細については【失敗学第17回】サンリンの事例を参照)。もし、自社の購買担当者に不正があれば、サンリンのケースのように偽造領収書が使用されることになるので、現金決済時に領収書の真贋を確認する必要もあります。

さて、以上の解説をご覧いただければ、どれがGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。

<正解>
GOOD発言はこちら

財務担当取締役A:「なぜ先方の営業担当者が、振込支払いを現金支払いに変更することを望んだのでしょうか?現金支払いは不正の余地があることから、今回の決済条件の変更依頼に不正を行う意図があるのではないかが気になります。」
コメント:「現金支払いは不正の余地がある」という発言は、リスクが高いところに着目して不正の芽を摘もうとする姿勢がGOODです。また、「不正を行う意図がないかが気になる」という発言には、「決済条件の変更」といういわば”表面“だけではなく、その裏側にある意図を探ろうとする姿勢が表れており、GOODな発言です。

BAD発言はこちら
販売担当取締役C:「当社のルール上認められた決済条件への変更であり、かつ、締め日や支払日は、従来どおり『月末締め翌月末支払い』のままであり、当社の支払いが早まったわけではないことから、特に問題はないと考えます。」
コメント:いくらルール上認められた決済条件の変更であるとしても、不正が潜んでいる可能性があるのであれば「問題はない」とは言い切れません。現金決済への変更という事態を前に、不正の有無について検討しないまま「問題なし」と言い切るCの発言は、不正についての感度が低過ぎるBAD発言です。
購買担当取締役B:「先方の意図まではわかりませんが、当社としては乙社から必ず領収書をもらうようにしておくので問題は生じないと考えています。」
コメント:上場会社である以上、自社が不正の当事者になることを防ぐのは当然のこととして、他社の不正に巻き込まれることも防がなければなりません。購買担当取締役としては、「先方の意図」がどこにあるのか、不正に利用されるのではないかといった意識を常に持つようにしておきたいところです。「他社の不正に巻き込まれることを回避する」という姿勢が欠けている点で、Bの発言はBAD発言です。

2016/08/30 有償ストックオプション、駆け込み導入が相次ぐ可能性も

ストックオプションというと、「無償で付与されるもの(=無償ストックオプション)」が一般的だが、その一方で、ストックオプションを取得する際に取得者(役員等)が時価相当額を会社に払い込む「有償ストックオプション」を導入する上場企業が少なくとも300社程度はあるとされており、その数は年々増加傾向にある。

企業が有償ストックオプションを導入してきた理由の1つが、会計上の取り扱いだ。会計上、無償ストックオプションは役職員等への(労務提供の対価としての)「報酬」とされており、費用計上する必要があるが、有償ストックオプションは会社にとって「現金を対価として株式を発行する取引」であることから(すなわち労務提供の対価ではない)、費用に計上していない企業が多い。

ただ、有償ストックオプションは会社法の施行(平成18年5月1日~)により付与が可能となった比較的新しい制度であるだけに、「費用計上しない」という現在広まっている会計上の取扱いは公式なものではない。有償ストックオプションを費用計上(企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」を適用)している企業も一部にはあるものの、大部分の企業が費用計上をせず、企業会計基準適用指針第17号「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」を適用することで、発行時の払込金額を「新株予約権」として計上し、権利行使時において「行使された新株予約権の金額」および「権利行使に伴う払込金額」の合計額を資本金または資本剰余金に計上している()。この会計処理であれば費用計上を要しないため、企業の損益への影響はない。

 17号の会計処理は、会社に入金された額にだけ着目して行う処理である。すなわち、「行使された新株予約権の金額」とは、有償ストックオプション(新株予約権)の対価として会社に入金された額のうち行使された分を指す。また、「権利行使に伴う払込金額」とは、有償ストックオプション(新株予約権)の行使により会社に入金された額を指す。どちらも資本取引として会社に入金された額なので、権利行使に伴い資本金または資本剰余金に計上することになる。

こうした中、会計基準を開発している企業会計基準委員会(ASBJ)は、有償新株予約権の会計処理の明確化の検討に着手、新たな会計基準等を導入し、有償ストックオプションも「ストック・オプション会計基準」の適用範囲に含め、付与日以降の将来の労働サービスの提供に対する対価として費用計上することを求める方針だ。これにより、「費用計上しない」というこれまでの実務は、一転して認められないことになる。

しかし、・・・

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2016/08/30 有償ストックオプション、駆け込み導入が相次ぐ可能性も(会員限定)

ストックオプションというと、「無償で付与されるもの(=無償ストックオプション)」が一般的だが、その一方で、ストックオプションを取得する際に取得者(役員等)が時価相当額を会社に払い込む「有償ストックオプション」を導入する上場企業が少なくとも300社程度はあるとされており、その数は年々増加傾向にある。

企業が有償ストックオプションを導入してきた理由の1つが、会計上の取り扱いだ。会計上、無償ストックオプションは役職員等への(労務提供の対価としての)「報酬」とされており、費用計上する必要があるが、有償ストックオプションは会社にとって「現金を対価として株式を発行する取引」であることから(すなわち労務提供の対価ではない)、費用に計上していない企業が多い。

ただ、有償ストックオプションは会社法の施行(平成18年5月1日~)により付与が可能となった比較的新しい制度であるだけに、「費用計上しない」という現在広まっている会計上の取扱いは公式なものではない。有償ストックオプションを費用計上(企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」を適用)している企業も一部にはあるものの、大部分の企業が費用計上をせず、企業会計基準適用指針第17号「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」を適用することで、発行時の払込金額を「新株予約権」として計上し、権利行使時において「行使された新株予約権の金額」および「権利行使に伴う払込金額」の合計額を資本金または資本剰余金に計上している()。この会計処理であれば費用計上を要しないため、企業の損益への影響はない。

 17号の会計処理は、会社に入金された額にだけ着目して行う処理である。すなわち、「行使された新株予約権の金額」とは、有償ストックオプション(新株予約権)の対価として会社に入金された額のうち行使された分を指す。また、「権利行使に伴う払込金額」とは、有償ストックオプション(新株予約権)の行使により会社に入金された額を指す。どちらも資本取引として会社に入金された額なので、権利行使に伴い資本金または資本剰余金に計上することになる。

こうした中、会計基準を開発している企業会計基準委員会(ASBJ)は、有償ストックオプションの会計処理の明確化の検討に着手、新たな会計基準等を導入し、有償ストックオプションも「ストック・オプション会計基準」の適用範囲に含め、付与日以降の将来の労働サービスの提供に対する対価として費用計上することを求める方針だ。これにより、「費用計上しない」というこれまでの実務は、一転して認められないことになる。

しかし、現在多くの企業が有償ストックオプションを費用計上していないことを考えると、新たな会計基準等は企業の実務のみならず損益にも大きな影響を与える改正になる。そこでASBJでは、「経過的な取扱い」を設けるとしている。具体的には、注記を行うことを条件として、新会計基準等の「適用日以降」に発行した有償ストックオプションから新会計基準を適用することとし、その前に有償ストックオプションを発行している場合にはこれまで通りの会計処理を認める。

会計基準の変更によりASBJが懸念するのが、“駆け込み”での有償ストックオプション導入が相次ぐことだ。こうした事態を避けるため、上記経過的な取扱いの対象を、経過措置の「適用日以降」に発行したものではなく、「公表日以降」に発行したものとする可能性もある。有償ストックオプションの導入を検討している企業は早めの決断が必要となろう。

2016/08/29 【失敗学第27回】前田道路の事例(会員限定)

概要

前田道路(東証一部)は、東日本高速道路東北支社(以下、「NEXCO東日本」という)が2011年に発注した東日本大震災に係る東北自動車道等の舗装災害復旧工事(以下、「本件工事」という)で入札談合を行ったとして、公正取引委員会による立入検査を受け、その後、東京地検より起訴された。

入札談合 : 国、地方自治体、特殊法人が行う公共事業の入札において、事前に受注予定事業者を決定しておき、当該受注予定事業者が受注できるような価格でその他の応札者が入札を行うこと。談合は自由競争を阻害するものであり、談合が行われると応札価格が高止まりする結果、税金の無駄遣いが生じるという問題がある。そのため、談合は独占禁止法2条6号の「不当な取引制限」に該当する行為として禁じられている。

経緯

前田道路が、本件工事の入札談合について、2016年6月に「社外調査委員会の調査報告書」および「談合決別宣言」を公表するまでの経緯を時系列で示すと、次のとおり。

<2011年>
7月上旬から同年9月中旬:NEXCO東日本が発注した本件工事において、前田道路の従業員が、NIPPOや日本道路などの従業員と共謀して談合行為に及んだ。NEXCO東日本は応札者に対し、本件工事について応札者に対し談合の可能性があることを指摘したものの、前田道路は何ら調査をせずに、社長名義で「談合をしていない」旨の誓約書を提出していた。

<2015年>
1月:公正取引委員会が、本件工事について談合の疑いがあるとして、前田道路などに立入り調査を行う(前田道路のリリースはこちら)。

<2016年>
1月:前田道路が、「東北道路舗装災害復旧工事に関する事実関係、発生の経緯、動機、背景及び類似案件の存否、内部統制、コンプライアンス、ガバナンス上の問題点、企業風土等の調査及び認定・評価等を行う」ことを目的として、3人の社外委員による社外調査委員会を設置する(リリースはこちら)。
2月29日:前田道路が、NIPPOや日本道路等とともに、独占禁止法違反の容疑により、公正取引委員会から刑事告発され(リリースはこちら)、東京地方検察庁から起訴される(リリースはこちら)。
3月24日:前田道路では、「経営体制を刷新し、ガバナンスの強化を図る」として、2名の代表取締役の代表権をなくす処分を実施(取締役は退任せず)。また、取締役会長の報酬月額の30%を3か月分返上する等の役員報酬返上を実施。
6月24日:前田道路は、社外調査委員会の調査報告書を公表する。
6月29日:前田道路は、取締役会で談合決別宣言を決議し、公表する。

内容・原因・改善策

前田道路が2016年6月24日に公表した「社外調査委員会の調査報告書」によると、本件の問題点の内容とその原因、再発防止策は次のとおりである。なお「内容」欄は公正取引委員会が検察に告発した際のリリースも参考にしている。

東北道路舗装災害復旧工事での談合

内容 前田道路の従業員が、NIPPOや日本道路などの従業員と共謀して、NEXCO東日本が実施した本件工事の入札で談合を行った。
原因 <同業他社が得意先を兼ねる特殊事情>
・前田道路の製造・販売事業における売上高の34%(2016年3月期の連結売上高2326億円のうち797億円)が同業他社であるグループ外の道路舗装会社に対するアスファルト合材の販売によるものである。すなわち、前田道路にとって、同業他社は競争相手であると同時に得意先でもあり、これが入札談合と決別できない一因であった。
<従業員の談合に対する認識の甘さ>
・前田道路の従業員の中には、入札談合がなぜ違法行為とされているのかについての認識が甘く、「この程度なら許される」「さして悪い行為ではない」という感覚を持っている者が少なくなかった。
・本店の幹部あるいは支店の管理職は、相応の注意を払っていれば、部下らが入札談合に関与している可能性を認識できたはずなのに、管理体制を改めることなく漫然と過ごし、入札談合を看過していた。
・発注者であるNEXCO東日本から、談合の可能性を指摘された際に、支店から本店に対して十分な説明がなされず、また、本店から支店に対しても調査ないし報告を指示することもないまま、社長名義の誓約書が提出されていた。誰一人として「実際には入札談合があったのではないか」という疑念を抱き、それを行動に移すことはなかった。
<不十分な内部管理体制>
・前田道路では、官公庁工事に関する社内ルールが徹底されておらず、かつ、応札の意思決定に本店が加わっていないため、本店の支店に対する監視・監督が十分でなかった。
・本店の総務部・内部統制部・営業本部などコンプライアンスに携わるすべての部署において、人員が総じて足りていなかった。
改善策 <すでに実施済みの改善策>
・全社員宛て社長通達の発出
・内部統制機能の強化
・入札手続の適正化のための関連社内規程の改訂
・外部専門家による、役員を含む幹部および営業担当者等に対する独占禁止法遵守研修の定期的な実施
・全役職員向けコンプライアンス教育研修の実施
・独占禁止法に関するマニュアルの改訂
・コンプライアンス意識の人事評価への反映
・同業他社との接触管理
・独占禁止法違反危機管理委員会の設置
・モニタリング機能の強化のための組織改編
・外部通報制度の創設および内部通報制度の改正

<社外調査委員会が提言した改善策>
・「談合決別宣言」を策定し、役職員に周知徹底
・本店機能の強化
・社内懲戒ルールの整備
・同業他社との接触ルールのマニュアル化(従業員が、同業他社の従業員と接触する際には承認者の承認を必要とし、同業他社から独占禁止法に違反する不当な内容の働きかけを受けた場合の報告ルール等を定める)
・独占禁止法に特化した研修・講義の継続的実施
・入札監視委員会の設置(社外監査役、弁護士、学識経験者等で構成される入札監視委員会を設置した上、 同委員会において、各支店で行われた入札案件のうち、同委員会が選別した案件について、独占禁止法等取引関係法令遵守の観点から調査・審議を行う)
・独占禁止法違反に関する情報の一元管理(独占禁止法違反に関する情報については、いかなる経路で伝達されたとしても、必ず本店の内部統制部に通報されるルートを確立)
社内リニエンシー制度の整備(入札における相互監視体制の確立)
・人事政策の見直し(営業担当者のローテーション)
・道路業界全体による「談合決別宣言」(大手の道路舗装会社が互いに独占禁止法違反行為から決別することを確認し合い、道路業界として、その内容を「談合決別宣言」として社会に表明することを検討すべき)

社内リニエンシー制度 : 社員が独占禁止法違反行為に関与した場合において、当該社員が自主的に当該事実について所要の報告等を行った場合に、最終的な懲戒の内容の軽減ないし減免について考慮する制度

<この失敗から学ぶべきこと>

日本における入札談合の歴史は古く、江戸幕府の頃から存在していたようです。2005年に大手ゼネコンが「談合決別宣言」を行い、道路舗装業界においても談合組織が解散に追い込まれた後、談合行為は一時的に鳴りを潜めていたように見えましたが、最近、景気の低迷とリニエンシー制度の導入により発覚が相次いでいます。

入札談合が発覚すると、独占禁止法上、関与した者が刑事罰に処せられるだけでなく、法人には5億円以下の罰金が科され(両罰規定)、さらに課徴金も課されます。また、独占禁止法に違反すれば、自治体などからの指名停止措置や営業停止処分が行われることになります。実際、前田道路は2016年3月期の決算において、近い将来公正取引委員会から課される可能性が高い課徴金およびその他の支出に備えるため、13億円の「独占禁止法関連損失引当金」を計上しています。さらに、指名停止処分や営業停止処分を受けた期間は、新規工事を受注できなくなってしまい、会社の信用力を落とすだけでなく、将来の利益も減らしてしまうことになります。公共工事の関係者は、「談合は得られるものより失うものの方が大きい犯罪である」ことを認識しておかなければなりません。

本報告書では、前田道路が建設事業(道路舗装工事を含む)の他にアスファルト合材の製造・販売事業も行っていることが、同社が入札談合から決別できない理由の1つとして指摘されています(アスファルト合材の製造・販売事業の得意先から談合を持ちかけられると断りにくい)。これは構造的な問題であり、真剣に解決しようとするのであれば、同社はアスファルト合材の製造・販売事業を独立(スピンアウト)させざるを得ないのではないでしょうか。

前田道路の社外調査委員は報告書で、「前田道路は、これまでに公正取引委員会の告発案件こそなかったものの、幾たびか談合行為に関わり、あるいは建設業界における「談合決別宣言」を了知して、その都度不正行為を繰り返さないと決意し、社内外に表明してきた。それにもかかわらず、今回・・・(略)・・・談合行為が行われたのである」「前田道路としては、談合から手を切るのは今回を最後の機会とすべきであり、今後再び同じ過ちを犯すことがあれば、この業界からの撤退を免れない事態になりかねないことを役職員全員が深く肝に銘じるべきである」と述べています。これを受け同社は、2016年6月29日の取締役会で談合決別宣言を決議し、ウェブサイトで公表しました。しかしそれから約1か月後の8月2日、同社は「東京国際空港に係る舗装工事について独占禁止法違反の疑いがあるとして公正取引委員会による立入り調査を受けることになった(*1)」旨のリリースを出しています。現時点(2016年8月)では、立入り調査の結果は明らかにされていませんが、もし独占禁止法違反が事実であれば、前田道路の“談合決別宣言”は宣言後さっそく反故にされた格好になります。

同社の談合体質の根深さが窺える一方、リリースを見る限り、同社は道路舗装業界の上場会社の中では比較的真摯に談合決別に向けて取り組んでいる方だと言えます。これに対し、業界1位(*2)のNIPPOや同3位(*2)の日本道路等の談合決別に向けた取組みのリリースを見ると、前田道路に比べて若干物足りなさを感じてしまいます。各社の足並みに乱れがある限り、業界全体の談合決別宣言に至るまでの道のりはまだまだ遠そうです。

*1 今回立入り調査を受けたのは、NIPPO、日本道路、前田道路など8社。
*2 2016年3月期単体売上高の順位。前田道路は業界2位。