多くの日本企業が、伊藤レポートの求める「8%」のROE達成に四苦八苦する中、アジアに目を向けると、驚くほど高いROEの企業が少なくない。例えば、シンガポールの通信大手 スターハブのROEは何と200%超にも及ぶ。このほか、韓国SKグループの持ち株会社であるSKは約70%、中国のインターネット検索エンジン市場で8割のシェアを誇る百度(バイドゥ)や台湾の大立光電(ラーガン・プレシジョン)も40%超となっている。
ROE : Return On Equity(自己資本利益率)=当期純利益÷自己資本
もっとも、投資家にとっては必ずしも「ROEが高い=企業価値が高い」ということにはならない。有利子負債(銀行借り入れや社債)により調達した資金で自己株式を取得(株主還元)すれば(=レバレッジを高めれば)自己資本は減少し、ROEは上昇するものの(自己資本の減少によりROEの計算式(当期純利益/自己資本(株主資本))中の分母が小さくなるため。詳細はROIC参照)、投資家にとっての企業価値とはあくまで「将来キャッシュフローの現在価値」であり、将来キャッシュフローが変化しない限り、企業価値も変化しないからだ。したがって、レバレッジを高めてROEを上げても、投資家が企業価値を高く評価することはない。
レバレッジ : 社債や借入金など負債による資金調達を増やして、純資産と負債のバランスを変え、株主に帰属する利益を増やすこと。負債により調達した資金を設備や子会社などへ投資に回すことによって、負債コストの増加分以上に利益が増えれば、株主の取り分を増やすことができる。自己株式取得により純資産を減らすことでも、純資産と負債のバランスが変わるため同じ効果が得られる。
そもそも、キャッシュフローが不安定な企業はレバレッジを効かせること自体避けるべきだろう。有利子負債の返済に窮し、倒産するリスクが高まるからだ。スターハブは単体で利益の大半を稼ぐ一方、連結では利益の伴わないグループ会社を抱えていることから(ROEの分母となる)自己資本が小さく見えるとともに、連結でのレバレッジも高くなっており、これが200%という驚異的なROEにつながっているものと考えられるが、高収益の通信事業を営む同社のキャッシュフローは安定しているだけにリスクは低い。
海外では“高すぎるROE”に対し、投資家が「レバレッジを高めすぎていないか」「そのROEの水準は持続可能なのか」といった観点からチェックを行う。一方、日本では、“低すぎるROE”に対し、投資家は「株主資本コストを意識しているのか」、言い換えれば「株主を無視したモラルハザードが発生していないか」という観点からをチェックを行っている。また、海外企業の経営者は自社のROEの高さをアピールする一方で、日本企業の経営者は「ROEを高め過ぎることの弊害」を説明している。このように、ROEに対する投資家と経営者のスタンスは日本と海外で真逆となっている。投資家が、海外での使われ方の方が健全と考えているのは言うまでもない。










