2016/07/31 【2016年7月の課題】目指すべきB/Sのイメージ

2016年7月の課題

東証一部に上場するA社は豊富な手元資金を有していますが、ROEは低迷を続けています。そのA社は、最近開催された機関投資家とのミーティングで、「貴社が目指すB/Sのイメージは?」との質問を受けました。A社としては、設備投資等の資金ニーズに対して、その都度対応してきた結果が現在のB/Sであり、投資家の質問の意図さえよく分かりません。

現在のA社の経営陣においてはどのような考え方が不足し、今後どのようなことを意識して経営に取り組むべきでしょうか。貴方の考えを述べてください。

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2016/07/31 【役員会 Good&Bad発言集】資金繰りの改善

製造業の甲社では、売上高が年々伸びているものの資金繰りは、年を追うごとに厳しくなるばかりです。取締役会では資金繰りを改善するために考えられる手立てが話題に上がりました。4人の取締役の発言のうち、誰の発言が、資金繰り改善の策としてgood発言でしょうか?

購買担当取締役A:「棚卸資産の残高を減らさなければなりません。長期間滞留している不動在庫の評価損を計上してはいかがでしょうか。」

製造担当取締役B:「過剰設備の圧縮に取り組むべきです。減価償却資産の耐用年数を見直して、減価償却費を増加させる案は検討の価値大と考えます。」

販売担当取締役C:「下請けへの支払いサイトを伸ばす案も有効です。さっそく先月末に締めた分から支払いサイトの延長に取り組ませます。」

財務担当取締役D:「営業マンの人事評価項目に「売掛金の回収状況」を加えてはいかがでしょうか。」

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2016/07/31 【役員会 Good&Bad発言集】資金繰りの改善(会員限定)

<解説>
P/L面とB/S面の双方から模索すべき資金繰り改善

資金繰りを改善するためには、損益計算書(P/L)の観点から「コストを圧縮する」「売上を増やす」とともに、貸借対照表(B/S)の観点から「資産を減らす」「負債を増やす」「資本を増やす」といった方策が考えられます。一つひとつ見ていきましょう。

・コストを圧縮する
無駄なコストを負担していないか見直しを図り、現金の流出を抑えれば資金繰りは改善します。製商品の取扱点数の削減、共同仕入れや共同配送、部品の共通化や仕入れ先の変更などによる製造関係のコスト圧縮、受付の廃止、オフィスの集約化、電力会社の変更、照明のLED化、空調温度の管理の厳格化などの設備関係のコスト圧縮、賞与や交際費・福利厚生費の削減、各種手当の廃止、残業許可制度の導入、テレビ会議の導入に伴う出張旅費の削減などの人件費関係のコスト圧縮などが考えられます。人件費関係のコスト圧縮は、従業員の満足度を確実に低下させてしまうので、役員報酬の削減、役員の個室や専用車の廃止、顧問の廃止等経営陣が身銭を切る努力が不可欠です。また、残業代の圧縮に先立ち、会議回数の削減や煩瑣な報告書の廃止など従業員の「実質的な稼働時間」を増やす策も検討すべきです。なお、ここでいう「コスト」は「現金支払いを伴う費用」を指しており、減価償却費や減損損失のような「現金支払いを伴わない費用」は含まれないことには注意が必要です。減価償却費の計上により資産の額は減りますが、いくら減価償却を計上したところで資金繰りは改善することはありません。

・売上を増やす

売上を増やせば、現金の流入が増え、資金繰りは改善するのが通常です。ただし、前金を受領するビジネスでない限り、販売に先立ち仕入れのための資金負担が必要となり、「仕入れ代金の支払日」と「販売代金の入金日」の間の日数が長期間になるほど資金負担額は増えることになります。

・資産を減らす
売掛金を回収して現金化したり、有価証券や固定資産を売却したりして現金化すれば、資金繰りが改善します。また、製造工程におけるボトルネックを解消し製造リードタイムを短縮することができれば製造工程に滞留する棚卸資産を減らすことができ、その分だけ棚卸資産に眠る資金を減らして資金繰りを改善できます、なお、有価証券や固定資産といったばらばらの資産ではなく、事業そのものを売却すれば売却代金次第で資金繰りが大きく改善することになりますが、将来の“金の生る木“を手放すことにもなるので、慎重な検討が必要となります。

・負債を増やす
買掛金のサイトを長くしたり、取引時に保証金を預かったり、社債を発行したり、銀行からの借り入れを増やしたりすることにより、資金繰りは改善します。下請法の適用関係にある下請先に対する買掛金のサイトを長くすることは、親事業者の禁止行為である下請代金の支払遅延(下請代金を受領後60日以内に定められた支払期日までに支払わないこと)に該当してしまう恐れがあり注意が必要です。同じ「負債の増加」であれば、下請け先に”泣いてもらう”方法ではなく、借入金を増やす方法により資金繰りの改善を図る方が、はるかに健全な方法であり、かつ、現在のように低金利で借り入れできる環境下では合理的な選択肢と言えます。

・資本を増やす
「負債を増やす」で上述した「社債を発行する」や「借入金を増やす」方法は現時点の資金繰りを改善する効果はあっても、将来の社債償還や借入金返済の時点における資金繰りは確実に悪化します。また、必ずしも借り換えが確実にできるとも限りません。そこで検討したいのが増資による資本の増強です。株式は、借入金と異なり、出資者に返済義務を負いません。ただし、増資の形態が第三者割当であれば既存の株主の持ち分の希薄化が生じる点には注意が必要です。

さて、以上の解説をご覧いただければ、どれがGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。

<正解>
GOOD発言はこちら

財務担当取締役D:「営業マンの人事評価項目に「売掛金の回収状況」を加えてはいかがでしょうか。」
コメント:「営業マンの人事評価に際して“売上額”を重視している企業は、売掛金の回収がおざなりになる傾向にあります。回収できない売掛金が増えると、資金繰りが悪化する可能性があります。実際に甲社のように売上高が年々伸びているにもかかわらず資金繰りが厳しい企業では、滞留売掛金が増加しているケースがよく見受けられます。営業行為は売掛金を全額回収して初めて完結するということを営業マンに理解させるとともに、滞留売掛金の有無を営業マンの人事評価基準に組み入れるべきです。財務担当取締役Dの発言は、営業マンの行動に影響を与えることで資金繰りの改善を促すGOODな発言です。

BAD発言はこちら
購買担当取締役A:「棚卸資産の残高を減らさなければなりません。長期間滞留している不動在庫の評価損を計上してはいかがでしょうか。」
コメント:棚卸資産にはキャッシュが眠っていることから、棚卸資産を減らすことは資金繰りの改善につながります。ただし、「棚卸資産を減らす」と言っても、棚卸資産の評価減を計上する方法では資金繰りの改善にはつながりません。棚卸資産の評価損は「現金支払いを伴わない費用」だからです。棚卸資産の購入を控え、資金流出を防ぐことで初めて資金繰りの改善につながります。資金繰りの策として「長期間滞留している不動在庫の評価損の計上」を提案する購買担当取締役Aの発言は、「現金支払いを伴う費用」と「現金支払いを伴わない費用」の違いが区別できていないBAD発言です。
製造担当取締役B:「過剰設備の圧縮に取り組むべきです。減価償却資産の耐用年数を見直して、減価償却費を増加させる案は検討の価値大と考えます。」
コメント:過剰設備を保有していれば減価償却費や固定資産税、賃料等の保有コストの負担も過剰になってしまうという問題があります。そこで将来の需給動向を勘案してもなお“過剰”な設備があるのであれば、設備の売却(換金)を試みるべきです。ただ、過剰設備を減損したり、耐用年数を短縮して減価償却費を増加させたりしても、「現金を伴わない費用」が増えるだけであり、資金繰りが改善するわけではないので、Bの発言はBAD発言です。
販売担当取締役C:「下請けへの支払いサイトを伸ばす案も有効です。さっそく先月末に締めた分から支払いサイトの延長に取り組ませます。」
コメント:もし、Cが下請法の適用関係にある下請先に対する買掛金のサイトを長くすることを提案しているのであれば、親事業者の禁止行為である下請代金の支払遅延(下請代金を受領後60日以内に定められた支払期日までに支払わないこと)として下請法違反になってしまいます。仮に下請法の適用がない仕入先に対する買掛金であっても「先月末に締めた分」を対象にするのは契約違反であり「下請けいじめ」そのものです。上場会社の取締役の発言としては不適切であり、BAD発言です。

2016/07/31 【2016年6月の課題】株主に占める個人投資家・機関投資家の比率:解答(会員限定)

増やすべき個人投資家は「ファン株主」

スチュワードシップ・コードの導入(2014年2月~)以降、機関投資家が企業に対してエンゲージメント(建設的な対話)を求めるとともに、厳密な議決権行使方針を定め、これに基づき株主総会で反対票を投じることも珍しくなくなってきました。

他方では、コーポレートガバナンス・コードの導入(2015年6月~)を受け、株式持ち合いの解消が強く求められており、これまで議決権行使の場面を”無風化”してきた安定株主の受け皿探しが企業にとって重要な課題となっています。

こうした中、持合株式の受け皿として、議案毎に是々非々でシビアに賛否を表明する機関投資家よりも、個人投資家を増やしたいと考えている上場企業もあります。ただ、一口に個人株主と言っても、自社の”ファン株主”として、短期的な経営状態や業績の良し悪しだけに一喜一憂して株式を売買することはしない安定保有株主と、短期的な業績動向やテクニカル(株価の動き)などにより株式の売買を頻繁に繰り返す株主に大別されます。また、安定保有株主の中には、配当や株主優待に着目して株式を保有している株主もいます。

このように個人投資家の株式保有理由は様々ですが、企業が意識して保有比率を高めることができるのは、株主優待に魅力を感じて安定的に株式を保有してくれる株主です。このような株主は優待でもらえる企業の商品自体に魅力を感じていることも多く、“真のファン株主”と言えます。彼らは議決権もしっかり行使し、賛成票を投じてくれる傾向があります。自社のファンとして安定的に株式を保有してくれる株主は企業にとって大変ありがたい存在であり、是非とも増やしていきたいところです。

これに対し、短期で頻繁に売買を繰り返す個人株主は、企業のファンとは言えません。一般的には議決権行使に興味がなく、実際行使もしないことが多いと考えられます。これは、機関投資家や議決権行使助言会社が議案に反対する局面でも同様です。ただし、基準日後に株式を売却してから増配の株主提案が出された場合などは、自らのメリット(基準日後に株式を売却した株主は、たとえ企業が極端な高配当行ってその株価が下落したとしても、自らはその損失を受けることなく高配当だけを確保することができる)のために提案に賛成することもあります。このように、短期で頻繁に売買を繰り返す個人株主は企業価値向上に反する行動をとる場合があり、企業にとってありがたい株主とは言えないでしょう。

基準日 : その日において株主名簿に名前が載っていれば、株主総会での議決権行使や配当を受ける権利を享受できる日のこと。基準日における株主(基準日株主)による権利行使は「基準日から三箇月以内」に限定されている(会社法124条2項)。毎事業年度末から3か月以内に株主総会を開催しているのはこのためである。

減少する”もの言わぬ”機関投資家

機関投資家は、生・損保などこれまで”物言わぬ株主”と言われてきた投資家と、年金や投資信託など企業と積極的な対話を行い、自ら定める議決権行使方針に沿って議決権行使も行う投資家に大別されます。

前者の”物言わぬ株主”は、機関投資家に「顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図る責任」を求めるスチュワードシップ・コード(スチュワードシップ・コードの冒頭参照)を受け入れており、会社議案に反対するケースも増加していることから、今や必ずしも「物言わぬ」とは言えなくなりつつあります。なお、銀行も取引先との関係維持のためにその株式を保有してきましたが、コーポレートガバナンス・コードの導入により政策保有株式保有解消のプレッシャーが強まる中、銀行による政策保有は減少傾向にあります。この流れを企業努力で変えることは難しいと言えます。また、そのようなスタンスはコーポレートガバナンス・コードの精神にも反するものであり、避けるべきでしょう。

一方、年金や投資信託など企業と積極的な対話を行い、自ら定める議決権行使方針に沿って議決権行使も行う機関投資家は、企業から見るとうるさいと感じるかもしれませんが、こうした投資家に株式を保有されているということは”優良企業の証”でもあります。また、彼らはファイナンス理論や独自の投資哲学に沿って、企業価値向上に向けた対話を行いますので、その考え方を理解することは極めて重要です。なぜなら、彼らとの対話の中身を理解し、企業価値向上に向けた取組みを着実に行っていれば、株価が不当に低位に放置されることもなく、アクティビストなどが入ってくる余地もなくなると考えられるからです。持ち合い解消により株式の流動化が進んだ現在、彼らは企業にとって最も大切にしておくべきパートナーと言えるでしょう。ただし、彼らは比較的保有期間が短く、担当者も通常2~3年ごとに変わるため、付き合いづらい部分もあるかもしれません。安定的に株式を保有してもらうためには、できるだけ運用哲学がしっかりした優良な運用会社と付き合うことが重要です。

個人投資家と機関投資家の最適比率は?

このように、持ち合い解消の受け皿になる安定株主を増やすためには、ファン株主である個人投資家と、年金や投資信託などの機関投資家の保有比率を高める必要があります。

では、個人投資家と機関投資家の割合はどれくらいが適切でしょうか。

実は、最適な比率は企業ごとに異なります。例えば消費財を扱う企業では自社製品のファンである個人がそのままファン株主になるケースも多く、その場合、非常に強力な企業の理解者になってもらえる可能性があります。ただし、個人投資家の保有比率が高すぎると、議決権行使の場面で反対票が入るリスクは低くなるものの、そもそも議決権行使比率も低いことから、表決数確保のために議決権行使を促進する取り組みが必要になるなどのデメリットがあります。

表決数 : 株主総会が成立するために最低限必要な議決権数のこと

逆に、消費者との接点がない企業は機関投資家の比率を高めておきたいところです。また、外国人投資家は海外で名前が知られている企業を投資対象にする傾向があるため、海外売上高比率が高い企業であれば外国人投資家の支持を受けていることも必要でしょう。ただし、機関投資家の保有比率が高いと、経営上の課題や議決権行使の考え方などを高質な対話の中から知ることができるという、あたかも無料のコンサルタントを雇うようなメリットはあるものの、機関投資家は厳格な議決権行使基準に基づいて行動するため、対話が不足していると思わぬ反対票が入るというリスクがあります。

このように最適な株主構成比はビジネスモデルや事業展開によっても変わるため、同業他社の株主構成は参考になります。自社の株主構成が同業他社から外れたものとなっていないか、意識しておくことが重要です。

自社が望むタイプの株主を増やす方策

では、企業が望むタイプの株主を増やすためには、具体的にどうすればよいのでしょうか。企業のファン株主を中心とする安定保有の個人投資家と、年金や投資信託などの機関投資家に分けて解説します。

まず、企業のファン株主である安定保有の個人投資家を集める方策としては、株主優待を含む株主還元を実施することはもちろん、個人投資家向け説明会や株主通信などを通じて、事業内容を分かり易く解説することが有効です。特にファン株主は文字通り自社の商品の”ファン”であることが多いため、自社商品・サービスを活用した株主優待はファン株主の維持・増加に有効です。ただし、実質的に国内の個人投資家だけがメリットを受ける株主優待は、あまり過剰になると「株主平等の原則」に反する恐れもあります。したがって、株主優待ばかりに依存せず、安定的に配当を引き上げていく努力も必要です。

株主平等の原則 : 株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならないとする原則(会社法109条1項)

IR活動に熱心な企業は既に個人投資家向け説明会を開催し、個人投資家の声を掴もうと努力しています。ただ、個人投資家は数が多いことから、当然ながら個人投資家向け説明会だけで全ての個人投資家の声を拾うことはできませんが、少なくともそこで得た声や情報を基に、株主通信やウェブサイト(特にIRコーナー、事業・商品紹介ページなど)などを改善させることが重要です。ファンとして株式を保有する個人株主は企業のことを非常によく研究しているため、株主通信やウェブサイトのちょっとした改善にも気付くことが少なくありません。このような会社の地道な努力・姿勢がファン株主による長期安定保有につながるのです。

一方、年金や投資信託などの機関投資家の保有割合を高める方法ですが、実際のところ、時価総額の大きくない企業にとってそれは容易ではありません。多くの機関投資家は、時価総額上位銘柄のみを投資対象としているからです。とはいえ、これまで機関投資家の投資対象となっておらず、株価が割安に放置されている企業は、「危険」な状況にあることを認識するべきです。株価が安く放置されれば、突然アクティビストが現れ、厳しい要求(例えば経営者の交代、事業売却、大幅増配など)を受ける可能性もあるからです。

これまで機関投資家向けのIRを行っていない企業は、まずは「始めてみる」ことが大切です。たとえそれによってすぐに機関投資家の保有割合が増えなかったとしても、IR活動を通じて機関投資家の考え方を知ることができます。短期的に株式を保有してもらおうとするのでなければ極端なアピールをする必要もなく、腰を据えて企業価値の考え方や資本政策についての考え方を聞くことが可能です。逆に言うと、それらについて明快に説明できる能力を持った優良な投資家を対話の相手とすることが重要です。彼らの考え方を理解しておくことは企業を守ることにつながります。「アクティビスト」と言っても、基本的には一般的な機関投資家の問題意識を強硬に主張しているだけなので、事前に機関投資家の考え方を理解していれば、アクティビストや外国人株主が大株主として登場してきた場合にも適切な対応ができるはずです。

機関投資家の保有比率を上げるにはある程度の時価総額と成長ストーリーが求められるため、それが一朝一夕に実現するものではありませんが、このような対話の姿勢は機関投資家からの信頼にもつながり、長期的には徐々に保有比率が上昇していくことが期待できます。

なお、既に投資対象となっている企業は機関投資家と十分な対話を行うことで自社のことを理解してもらうとともに機関投資家の考え方を理解し、改善すべき点は改善してくことが長期保有につながります。

2016/07/29 海外M&Aのリスクとなり得る長期インセンティブ報酬

英国のEU離脱をきっかけに円高が進んでいる。円高の進行は、日本企業による海外企業のM&Aを増加させる要因になる可能性もあろう。

M&Aにおいては、被買収企業の企業価値を十分に検討する必要があるのは言うまでもないが、特に海外企業のM&Aでは、それとともに必ず確認しておく必要があるのが、・・・

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2016/07/29 海外M&Aのリスクとなり得る長期インセンティブ報酬(会員限定)

英国のEU離脱をきっかけに円高が進んでいる。円高の進行は、日本企業による海外企業のM&Aを増加させる要因になる可能性もあろう。

M&Aにおいては、被買収企業の企業価値を十分に検討する必要があるのは言うまでもないが、特に海外企業のM&Aでは、それとともに必ず確認しておく必要があるのが、マネジメント層に対する長期インセンティブ報酬の付与契約の内容だ。

M&Aは会社という“箱”ではなく、「人」と「時間」を買うものと言われる。それだけに、会社を買った途端にマネジメント層が次々と会社を辞めてしまったらそもそもM&Aをした意味自体がなくなりかねない。そこで、M&Aを検討している段階から、「残って欲しいマネジメント人材」を選定しておくとともに、その人材に対する長期インセンティブ報酬の付与契約の内容をチェックすることが欠かせない。

被買収企業が海外の上場企業である場合、マネジメント層に対しては、ストックオプションやリストリクテッド・ストック、パフォーマンス・シェアなど様々な長期インセンティブ報酬が付与されているのが通常。M&Aの際にこうした長期インセンティブ報酬の付与契約の内容を全役員分チェックすることも多いというウイリス・タワーズワトソン 経営者報酬部門 コンサルタントの小川直人氏によると、「長期インセンティブの契約書には、『チェンジ・イン・コントロール(Change In Control(CIC)=経営権の移行)に起因して長期インセンティブの権利が確定する』という内容が盛り込まれていることが多い」という。長期インセンティブ報酬の権利が確定する条件は会社によって様々だが、なかには「CICが起きた場合には長期インセンティブ報酬の権利がすべて一括で確定」し、去年付与されたばかりの権利(本来なら3年くらい先まで確定しないはずの権利)まですべて確定すること(Accelerated vesting =権利確定の早期化)になっているものもある(小川氏)。すなわち、M&Aが成立した瞬間、長期インセンティブ報酬満額が本人の権利として確定するということだ。海外企業の場合、その金額が巨額に上ることも珍しくない。その結果、権利の確定によって経済的に満たされたマネジメント人材が退職してしまうということは十分に起こり得る。

こうした事態を防ぐためには、M&Aの打診をした時点で長期インセンティブの“乗り換えプラン”(長期インセンティブの代替プランやリテンション・ボーナス)を「残ってもらいたい」マネジメント人材に提示し、デューデリジェンスが終わるまでに、雇用契約(いわゆるemployment agreement)のサインを終わらせておきたい。“乗り換えプラン”は、日本企業による海外への株式報酬付与のハードルの高さから、基本的には「キャッシュによる代替プラン」であることが多い(小川氏)。M&Aにより上場企業でなくなれば市場株価もなくなるため、M&Aの時点で一旦、長期インセンティブを“精算”し、買収後の子会社業績に基づくキャッシュプランを新規に付与するわけだ。付与されるキャッシュプランの水準・制度概要は、マーケット水準を検証しながら、インセンティブの観点、ガバナンスの観点、そしてリテンションの観点を踏まえて決定する。もちろん、長期インセンティブ報酬には「業績条件」が付いているため、買収後の業績が悪い場合には、業績評価期間後に払い出されるキャッシュも減らすことになる。

リテンション・ボーナス : 引き続き勤務してくれた場合に支払われるボーナスのこと
リテンション : 優秀な人材を辞めさせないようにすること。

もっとも、権利確定の早期化によって多額の長期インセンティブが権利確定した場合、それに満足し、退職してしまう人が出てくることを100%防ぐのは困難であり、また、仮に会社に残ってくれたとしても、既にモチベーションが下がっているということもある。被買収企業の主要な経営陣には次のリーダーシップが落ち着くまで少なくとも2~3年は会社に残ってもらいたいところではあるが、いなくなることも想定した人事プランを早目に練っておく必要があろう。

<取材にご協力いただいたウイリス・タワーズワトソン 小川直人氏の連絡先>
ウイリス・タワーズワトソン
経営者報酬部門 コンサルタント 小川 直人
03-3581-6786
naoto.ogawa@willistowerswatson.com

2016/07/28 (新用語・難解用語)パテント・トロール

「特許の怪物」と訳されるパテント・トロール(patent troll)とは、自らは研究開発や製品の製造・販売を行わない一方で、第三者から特許を買い集め、その特許権を行使(具体的には、「(特許権の)侵害差止め」と「損害賠償請求」)して、事業会社から高額な和解金等を得ることを目的とする個人や団体を指す“蔑称”である。

特許の出願件数は世界的に増加の一途を辿っている。2000年と比較すれば、現在は約2倍の水準にある。また、自国だけではなく、複数の国に出願する「国際出願」も急激な伸びを見せている。特に顕著なのは中国で、その質はさておき、2005年には3000件弱だった特許出願件数は2012年には約9700件に増えている。米国でも2005年の約2700件に対し、2012年は5000件超と約2倍近く伸びている。

特許出願件数の伸びとともに、特許等の知的財産権を巡る訴訟も増えている。これもまた、中国での伸びが著しい。これは、日本企業が訴訟に巻き込まれるリスクも高まっているということを意味している。そして、これらの訴訟の中にはパテント・トロールが引き起こしているものも少なくない。

冒頭で述べたとおり、パテント・トロールは、研究開発に投資をするようなことはせず、訴訟に勝訴して得た金銭はさらに特許を買う資金源とするだけだ。このような行為は、本来「発明の奨励と産業の発達」を促進するために生み出された特許という制度を濫用するものだが、パテント・トロールと言えども「権利者」でることには違いない。こうした中、パテント・トロールが社会問題化している米国においても様々な対策が打ち出されているものの、いずれも決定打とはなっていない。中国でも数多く生まれたパテント・トロールが今後は世界中に活動を広げていくことは確実であり、既に日本にも入り込んできているとの情報もある。

このように日本企業にはパテント・トロールの脅威が迫っているにもかかわらず、知的財産に対する経営陣の危機意識は必ずしも高いとは言えない。日本企業には従来から・・・

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2016/07/28 (新用語・難解用語)パテント・トロール(会員限定)

「特許の怪物」と訳されるパテント・トロール(patent troll)とは、自らは研究開発や製品の製造・販売を行わない一方で、第三者から特許を買い集め、その特許権を行使(具体的には、「(特許権の)侵害差止め」と「損害賠償請求」)して、事業会社から高額な和解金等を得ることを目的とする個人や団体を指す“蔑称”である。

特許の出願件数は世界的に増加の一途を辿っている。2000年と比較すれば、現在は約2倍の水準にある。また、自国だけではなく、複数の国に出願する「国際出願」も急激な伸びを見せている。特に顕著なのは中国で、その質はさておき、2005年には3000件弱だった特許出願件数は2012年には約9700件に増えている。米国でも2005年の約2700件に対し、2012年は5000件超と約2倍近く伸びている。

特許出願件数の伸びとともに、特許等の知的財産権を巡る訴訟も増えている。これもまた、中国での伸びが著しい。これは、日本企業が訴訟に巻き込まれるリスクも高まっているということを意味している。そして、これらの訴訟の中にはパテント・トロールが引き起こしているものも少なくない。

冒頭で述べたとおり、パテント・トロールは、研究開発に投資をするようなことはせず、訴訟に勝訴して得た金銭はさらに特許を買う資金源とするだけだ。このような行為は、本来「発明の奨励と産業の発達」を促進するために生み出された特許という制度を濫用するものだが、パテント・トロールと言えども「権利者」であることには違いない。こうした中、パテント・トロールが社会問題化している米国においても様々な対策が打ち出されているものの、いずれも決定打とはなっていない。中国でも数多く生まれたパテント・トロールが今後は世界中に活動を広げていくことは確実であり、既に日本にも入り込んできているとの情報もある。

このように日本企業にはパテント・トロールの脅威が迫っているにもかかわらず、知的財産に対する経営陣の危機意識は必ずしも高いとは言えない。日本企業には従来から「知財は知財の専門家に任せる」という風潮がある。実際、知的財産部門は他部門との間での人事異動がほぼなく、どちらかといえば「研究所」に近い立場に置かれているという日本企業は多い。社内で生まれた発明をどのように権利化あるいは秘匿化して活用していくのかが「経営判断」の1つとして受け止められるようになったのはごく最近であり、そのような認識を持つ企業はまだ一部に限られているのが現状だろう。

権利化あるいは秘匿化 : 特許権を取得すること(権利化)をオープン戦略と呼ぶのに対し、特許権を取得せずに自社の技術を「営業秘密」として自社内で秘匿化することをクローズ戦略という。

しかしながら、パテント・トロールの活動が活発化する中、企業の命運を握る知的財産を一部門に任せ切りにしておいてよい状況ではなくなってきていることを、経営陣は認識する必要がある。確かに知的財産は権利化にも保持にも金銭的負担が生じる。訴訟となれば億単位のコストがかかる(特に米国など訴訟費用が高い国での訴訟)ことも稀ではない。しかし、たとえ高額のコストを払うことになったとしても、自社の技術、研究者の雇用、ひいては自社のビジネスそのものを守るために、断固戦わなくてはならない時もある。その場合にカギとなるのが経営陣の理解だ。

ある日本企業の知的財産担当者から、経営陣に争う意義を理解してもらえず、「そんなにお金がかかるならばやめておけ」と言われた、という話を聞いた。しかし、裁判費用という目先の出費を回避するため、本来得られるはずの利益を手放し、払う必要のない金銭を払うという安易な和解に応じるような企業はパテント・トロールの格好の標的となり、次々に別の特許侵害訴訟を提起されることにもなりかねない。最終的には和解に持ち込むとしても、粘り強い交渉と、引くべきではないところでは断固とした姿勢を貫くことが重要になる。

具体的な交渉については弁護士の手腕によるところもあるが、それも企業の知財部門・訴訟担当部門と弁護士の連携が上手く行ってこそだ。これらの部門の背中を力強く押してくれるのは経営陣の理解に他ならない。法務系や技術系以外の役員にとってはややとっつきにくい知的財産の世界だが、今こそ、会社の将来を左右する重要な問題として高い関心を持つべきだろう。

2016/07/27 新規事業開始時の法務リスク解消のために

企業が持続的な成長を続けるためには、新規事業に取り組むことも必要になる。ただ、それがこれまでにない斬新なビジネスモデルである場合などにおいて、事業推進のボトルネックになりかねないのが法規制だ。特にそれが “国内初”の事業ともなればなおさらだろう。「現行の法規制の適用対象外」と判断して新規事業をスタートさせた後に、実は法規制を受けることが判明した場合には、ビジネスモデルの変更を余儀なくされ、最悪のケースでは事業から撤退をせざるを得ない事態となることもあり得る。

特に近年は企業を取り巻く経済環境や企業のビジネスモデルの変化のスピードが速く、法規制がこれに追い付いていない事例が増えており、そもそも新規事業が(既存のビジネスや仕組みを前提にして設けられた)法規制の対象となるのか否か、判断に迷うケースが少なくない。

新規事業に進出する前にはこうした“リスクの芽”は徹底的に排除しておきたいところだが、そのために活用したいのが・・・

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2016/07/27 新規事業開始時の法務リスク解消のために(会員限定)

企業が持続的な成長を続けるためには、新規事業に取り組むことも必要になる。ただ、それがこれまでにない斬新なビジネスモデルである場合などにおいて、事業推進のボトルネックになりかねないのが法規制だ。特にそれが “国内初”の事業ともなればなおさらだろう。「現行の法規制の適用対象外」と判断して新規事業をスタートさせた後に、実は法規制を受けることが判明した場合には、ビジネスモデルの変更を余儀なくされ、最悪のケースでは事業から撤退をせざるを得ない事態となることもあり得る。

特に近年は企業を取り巻く経済環境や企業のビジネスモデルの変化のスピードが速く、法規制がこれに追い付いていない事例が増えており、そもそも新規事業が(既存のビジネスや仕組みを前提にして設けられた)法規制の対象となるのか否か、判断に迷うケースが少なくない。

新規事業に進出する前にはこうした“リスクの芽”は徹底的に排除しておきたいところだが、そのために活用したいのが「グレーゾーン解消制度」だ。

グレーゾーン解消制度とは、新商品・新サービス・新生産方法など新たな事業活動(以下「新事業活動」)をスタートする際に、現行の規制の適用範囲が不明確な場合、事業者が規制所管官庁に規制の適用の有無を事前に確認できる制度。事業開始後に規制所管官庁または利害関係者との間でトラブルが生じるのを未然に防止し、事業者が安心して新事業活動を実施できるよう後押しすることを目的としている。産業競争力強化法に基づき2014年1月に導入され、法施行後累計で78件の利用があった(2016年7月22日現在。利用件数については経済産業省のリリースを参照)。例えば、タクシーの補助席前に設置されているタクシーメーター()の代わりとなる「スマートメーター(スマートフォン・通信タブレットなどを活用し、通信機能を実装させたタクシーメーター)」を開発した事業者が、グレーゾーン解消制度を利用して経済産業省に対し計量法に関する照会をかけ、その事業者がスマートメーターに施した電子的封印措置は運賃の改ざん防止等のために計量法で求められている「機械的封印」と同等の保護措置である旨の回答を得て、新ビジネスへの進出が可能になった事例などがある。

 計量法に基づき定期的に検定を受ける必要があり、検定の都度封印されている。

グレーゾーン解消制度の利用方法は次のとおり。

まず、事業者が「新事業活動によって達成しようとする目標」「生産性の向上または新たな需要の獲得が見込まれる理由」「規制の根拠となっていると考えられる法令等(規制に関連する告示・通達等を含む)の名称、関係する条項」などを記載した「照会書」を規制所管官庁に提出する。「照会書」を受け取った監督官庁は、当該新事業活動が規制の対象になるかどうかを検討したうえで、事業者に回答することになる。規制所管省庁から明確かつ分かりやすい回答を得るためには、下記のように「照会書」に確認したい点をできる限り具体的に記載する必要がある(経済産業省の手引き23ページより抜粋)。
×:「○○規制が支障となっているのではないか」
○:「○○法に基づき○○が規制の対象となっているかどうかが明らかでないため、○○法に基づく許可を受けなくても、新事業活動において、○○を行うことができるのか確認したい」

規制所管官庁は、規制の適用の有無の照会を受けてから原則として1か月で回答を通知することになっており、新規事業の開始時期を逸しないよう配慮されている(例外的に1か月以内に通知できない場合には、規制所管官庁がその理由について1か月ごとに通知する旨定められている)。また、規制所管官庁が個別の回答結果をそのまま外部に公表することはないので、回答結果が公表されて同業他社に新規事業を模倣されてしまうリスクもない。

規制所管官庁から無事「規制の適用がない」旨の回答があれば、安心して事業を開始できるが、仮に「規制の適用がある」旨の回答があったからといって、新ビジネスへの進出をあきらめるのはまだ早い。次に検討すべきなのが「企業実証特例制度」の利用だ。これは、事業者が規制の特例措置を提案し、規制所管官庁が事業者の提案する安全性確保措置等を検討したうえで、実証する価値があると認めた事業者にだけ規制の特例を認めるという制度。グレーゾーン解消制度と同じく産業競争力強化法に基づき2014年1月に導入された制度である。法施行後累計で11件の利用があった(2016年7月22日現在)。セグウェイの走行実証実験として、道路交通法における道路使用許可および道路運送車両法における車体保安基準に関する特例措置が創設された実例などがある。

新規事業に乗り出す際には、グレーゾーン解消制度と企業実証特例制度の利用が可能かどうか、検討してみるとよいだろう。ただし、グレーゾーン解消制度は、あくまで規制の解釈のグレーゾーンを“ピンポイント”で解消するための制度であり、新事業活動自体の全般的な法務リスクをチェックしてくれる制度ではないという点には注意したい。グレーゾーン解消制度を利用する場合であっても、適宜外部の法律事務所を活用しながら、新事業活動に潜む法務リスクを洗い出しておく必要がある。