2016年3月決算会社の株主総会が6月29日にピークを迎える(3月決算の東証全上場会社のうち32.2%に相当する759社がこの日に開催)。例年どおり、今年の株主総会でも多くの会社で新旧役員の交代が行われることになる。
会社法等の規定上、役員の任期は通常「株主総会が終了するとき」をもって終わるとされているため、新旧役員の任期が重複することはない。各社の慣例でも、旧役員は株主総会の日をもって“お役御免”となり、同日に送別会などが開かれて翌日からは出社しないというケースがよく見られる。そこで問題になるのが、「役員業務の引継ぎ」だ。
特に社外から新しい役員を迎える場合には引継ぎが必須となる。このため、旧役員の任期終了前の数日~1か月程度の間、新役員候補者に(会社との間で)「業務委託契約」や「顧問契約」等と締結した上で出社してもらい、引継ぎ業務を行っているという会社が少なくない。ただしこの場合、会社法や証券取引所の有価証券上場規程に規定される「社外要件」に抵触する恐れがあるので注意する必要がある。
会社法や有価証券上場規程では、(独立)社外役員(社外取締役、社外監査役等)とは「過去10年間、その会社及び子会社等の役員等及び使用人でなかった者」とされている。これは、過去に取締役の管理下であった者は、社外役員として求められる客観的で独立した判断を行えなくなる可能性があるためだ。すなわち、役員就任以前に「取締役の指揮下」にいた者は社外性を失うと解釈されている。「指揮下にいた」かどうかの判定上、日数は関係ない。たとえ1日でもそのような状況にあれば、社外性を失うことになる。契約形態も問われない。名目・実質のいずれかにおいて指揮下に入っていれば、社外性を失うと考えられている。
会社法上、新役員候補者が社外役員候補者である場合には株主総会参考書類にその旨を記載しなければならない(会社法施行規則74条4項、同76条4項)。そして、監査役は株主総会議案について調査し、法令定款違反や著しく不当な事項を認めた場合には、その結果を株主総会に報告しなければならない(会社法384条)。ここでいう法令違反には、社外性がないのに「ある」と記載している場合も含まれると考えられる。そこで、新役員候補者が社外性を失っているにもかかわらず、“社外”役員候補者として株主総会参考書類に記載されていた場合、監査役は株主総会参考書類に虚偽記載があることを株主総会で報告しなければならないことになる。これは法令で定められた事項である以上、もし怠れば監査役は任務懈怠責任を問われかねない。
また、新役員の就任前に引継ぎを行う場合、「守秘義務」の問題も生じる。役員は業務上知り得た事項について守秘義務があるが、新役員候補者はあくまで「候補者」、言い換えれば「一般の人」にすぎず、守秘事項に該当する事項を(役員就任前に)知る権利を有していない。こうした中での引継ぎは、旧役員が自らの責任で守秘義務を順守しつつ行う必要があるが、現実には容易ではないだろうし、引継ぎが中途半端なものになる恐れもある 。
このような事態を避けるためには、役員の引継ぎは、新役員の就任後に旧役員が数日出社して行うのが最も安全であると考えられる。どうしても就任前の引継ぎが必要な場合には、名目・実質のいずれかにおいても「取締役の指揮下」に入っていないと言えるかどうか、また、守秘義務に抵触しいないかどうか、弁護士等に相談しておく必要があろう。